Comments
Description
Transcript
疥癬の診断とその対策
疥癬の診断とその対策 高松赤十字病院皮膚科 池田 政身 平成25年6月13日 疥癬虫 体長は雌0.38mm、雄0.22mm 雌は角層内にトンネルを掘って産卵する 皮膚の表面にいる虫は1分に数cm移動する 一世代10~14日:卵 幼虫 若虫 成虫 寿命は4~5週間 人の皮膚のみで生活する 疥癬虫は人から離れても適温・適湿が保たれれば 14日程度は生きている 疥癬虫は熱に弱く、50℃10分で死滅する 寄生する虫の数は数百匹程度(通常型) 疥癬虫および卵 疥癬の幼虫および若虫 疥癬ってどんな病気? 疥癬虫(ヒゼンダニ)が人皮膚の角層内に寄 生して発症し、人から人にうつる 通常疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)が ある 潜伏期間が約1ヶ月ある 激しい痒みがあるが、虫が刺してかゆいわけ ではなく、虫の糞や脱皮殻などに対するアレ ルギー反応でかゆみが生じる 通常疥癬の臨床症状 激しい痒み(特に夜間)。このかゆみはアレルギー 反応によるものなので、感染してすぐには全く症状 がないことが多い。またかゆみには個人差があり、 抵抗力の落ちた患者ではかゆみが少ない。(特に角 化型ではあまり痒くない) 皮疹は腹部、胸部、腋窩、手掌、指間に小丘疹。典 型的だと疥癬トンネル。成人では顔面、頸部に皮疹 を欠く。 男の場合、陰嚢に痒疹ができる。 赤ちゃんでは頭や顔にも皮疹が出現し、特に 足の裏に丘疹や痒疹ができる。 家族、同居人などに同症あることが多い。 湿疹と誤診されることが多い。特に老人の乾 燥性湿疹との見分けが難しい。 虫が多いのは手首、指のまた、へそなどの柔 らかくてへこんでいたり、しわの多いところ。 疥癬の診断 まず疑うこと!! 疥癬トンネルを見つける(しばしば困難) 通常型では非常にかゆみが強いわりに皮疹 はあまり激しくない 角化型ではむしろかゆみが少ない!! 皮疹のみで確定診断は不可能 虫体、虫卵、糞などを顕微鏡で検出する しかし、通常型では虫体数が数百匹なので 検出がしばしば困難 専門医でも見落とす 老人の疥癬(通常型) 疥癬の臨床症状(手) 71歳、男性 親(介護職員)からうつった小児の疥癬 足白癬と間違った疥癬(中学生) (親が看護士) 特別養護老人ホームで実習中に感染 した福祉系大学生の例ー21歳男性 角化型疥癬の臨床症状 手や体の骨ばったところや摩擦を受けやすい 場所の皮膚に、厚く増殖して灰色から黄白色 の汚い垢がカキの殻のように付着する 爪にも寄生するため、爪は白濁、肥厚し、爪 白癬のように見える。 激しいかゆみを伴うことが多いが、逆に全く かゆみがないこともある 100万~200万匹の疥癬虫が寄生する 23歳、男性:診断まで2年 23歳、男性(その2) 23歳、男性:ストロメクトール治療後 疥癬の感染経路 基本的には接触感染であり、通常疥癬では 感染力はあまり強くない 角化型疥癬は感染力が非常に強い 性的感染 家族内感染(畳、コタツ、若者同士の雑魚寝) 寝具を介した間接接触感染 疥癬虫は温かいところを好む性質がある 介護職員などはよく動くので体温が高い 疥癬の治療薬 ムトーハップ(イオウの入浴剤):効果が弱く、しばし ばかぶれを起こすので、使わない方がよい 安息香酸ベンジル(12.5~35%アルコール溶液)効果 は中程度、刺激性が強い クロタミトン(オイラックス):効果はやや弱い、 γBHC:1%白色ワセリン軟膏として使用。効果は強い が毒性も強い。過剰投与で小児の死亡や高齢者の 痙攣発作の報告もある。 イベルメクチン(ストロメクトール):効果は強いが卵には 無効。小児では安全性が確認されていない。 疥癬の治療の要点 薬剤の塗布は全身にくまなく行う(痒いところ のみや皮疹のあるところのみでは効果なし) 治療は全員一斉に行う(ピンポン感染を防ぐ ため) 皮疹のあるなしにかかわらず、感染機会の あった人すべてに予防的に治療を行う(約1ヶ 月の潜伏期間があるため) 疥癬の予防方法(通常の疥癬) ビニール手袋着用し、接触後はすぐ手洗いを 行う。一処置一手袋を励行する。標準予防策 がとられていれば、通常では感染しない! 衣類、リネンなども通常の洗濯で充分。 タオル、バスタオルなどは共用しない。 部屋の掃除は通常通りでよく、消毒の必要は ない。 風呂も通常通りでよい。 角化型疥癬の予防方法 個室隔離する。 接触時にはビニール手袋、ガウンを着用し、接触後 は手洗いを励行する。 衣類、リネンは熱湯に10分つけてから洗い、天日 干しする。乾燥機、アイロン掛けも有効 部屋は毎日掃除機で掃除し、掃除後に殺虫剤を紙 パックに噴霧する。 入浴またはシャワーは毎日行い、順番は最後とする。 風呂場は熱湯で流した後、洗剤、ブラシで洗浄。 疥癬ではガウンテクニックは必要なの? 通常の疥癬では長時間の接触が ないとうつりません。ガウンテク ニックが必要なのは角化型疥癬 の患者さんの看護の時のみです 疥癬患者は隔離する必要がありますか? 通常の疥癬の患者さんでは、隔離 する必要はありません。 角化型疥癬の患者さんで、多量の 落屑が生じている場合は隔離する 必要があります。 入所時のチェックポイント 病院、特別養護老人ホームなどの施設に入所 (ショートステイを含む)したことはないか? 前に入所していた施設で皮膚病、特に疥癬などは 流行っていなかったか? 体幹に赤く小さなかゆいぶつぶつができていない か?手や指に皮疹がないか? 大量の垢のようなものが付着しているところはない か? 爪に爪白癬のような症状はないか? 疑わしい患者は入所時に治療する