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初期成人期の母娘関係に関する研究 - ASKA

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初期成人期の母娘関係に関する研究 - ASKA
94 医療福祉研究 第1号 2005
初期成人期の母娘関係に関する研究
一母娘システムとしての分析一*1
永田忠夫,新美明夫n,松尾貴司*2
AStudy of Young Adult Daughter−Mother Relationships
一Analysis of Daughter−Mother Systems
Tadao Nagata, Akio Niimi and Takashi Matsuo
要旨:本研究では,初期成人期の母娘関係を母娘の2者間システムの観点からとらえ,
娘が青年期後期までに培われてきた関係をその後どのようなかたちで維持し発展さ
せてきているのかを明らかにすることを目的とした.愛知淑徳短大コミュニケーショ
ン学科卒業生(23歳∼35歳)を対象とし,育ててくれた母親が存命の867名のみにつ
いて分析した.データは,システム年齢(娘の年齢),システム構造(母・娘・関係
構造),システム機能(母と娘の絆と相互支援),コミュニケーション(交流方法)
の現況について検討した.主に初期成人期のシステム機能である「母と娘の絆」「相
互支援;生活支援資源交換」とシステム維持に関係する「コミュニケーション」につ
いて,娘の年齢段階と5居住形態(別居;未婚,核家族,夫の親と同居,同居;既婚,
未婚)を用いて分析した.また,初期成人期およびそれ以後の時期に重要な機能とな
る「生活支援資源交換」については,システムを構成している諸要素がどの程度関与
しているかを検討した.
Keywords:初期成人期,母娘関係,サポート,母娘システム
y皿ng−adult, mother−daughter relationship, support, mother−daughter system
1.問題および目的
青年期以前の母娘関係は,主に娘(子)の母への依存内容や依存から自立への変化過程に関する
研究がなされてきた.青年期については,娘が母への依存を継続的に有するが,その依存のあり方
が変化するという知見が得られている(高橋,1968;落合,1996;小高,1998).少ないながらも,
青年期以後の成人期における母娘関係の研究もなされ始めてきた(伊藤ほか,1980;川浦ほか,1996;
水野,2002).
母娘関係の維持が成人期以降においてどのような様態で維持され継続されているか,維持されて
いる意味内容は何かを検討することは,単に発達の過程を明らかにするのみでなく,現代社会がお
かれている高齢化・少子化の社会情勢のなかで重要なことと考えられる.
母娘関係を発達的視点で考えると,母娘関係は,母子共生関係のステージから始まり,母子分離
後も母親が娘に対して養育・自律・社会化・教育・精神的安定の維持のためにかかわり社会に適応
していけるように援助し,娘はその援助を得ながら社会的に一人前の女性とし成長していくという
関係のステージに移行する.援助内容や量,依存関係の強さや依存内容の種類などからさらに細分
化できるであろうが,そうした優劣のある援助関係のステージを経て,自立した母と娘が対等な関
tl本研究は,平成14年度・15年度愛知淑徳大学研究助成(共同研究)を受けた.
’2愛知淑徳大学コミュニケーション学部コミュニケーション心理学科
初期成人期の母娘関係に関する研究 95
係で相互依存的援助や相互補完的援助の関係をもつ3つめのステージにいたる.さらに日本人の家
族や親子や社会的規範などに対する価値態度の変化あるいは少子化と高齢者が増加するという時代
的変化のなかで,子が親を娘が母を援助・養護するステージが4つめのステージとして付け加えら
れる.こうしたステージを想定してみると,娘にとっての青年期はここで示した2つめのステージ
の後半であり,3つめのステージの準備状態の時期と考えられる.娘にとっての初期成人期は,3
っめのステージとなる.
母娘関係を2者の世代間関係としてとらえることも出来る.森岡・青井(1985)は,家族の世代
間関係に関する研究を概観し, 「家族の世代間連帯」の要素について6つの下位概念を紹介してい
る.それは,①情緒的連帯(愛情に関する認知・成員間の好悪の感情;信頼・公平・尊敬・理解),
②結合面から見た連帯(交流の程度;共同活動・相互交流内容と頻度など),③意見の一致面から
見た連帯(価値観・社会現象に対する意見・信念の家族成員間の一致度),④家族構造(家族成員
の数や属性,成員間の地理的な距離など),⑤機能的連帯(支援や資源の交換の量;経済的援助と
サービスの交換の程度),⑥規範的連帯(家族規範が家族成員によって維持されている程度;期待
や義務に対する規範の受容度)のディメンジョンである.母娘関係は,家族の世代間関係の1つで
ある.
母娘関係の発達的視点と関係性の視点を統合し,システム論的概念を導入して整理してみると以
下のようになる.
生体システムは, 「構造(システムの要素の組み合わせの様態)」と「機能(ある程度の規則性
をもって繰り返さされる出来事のパターン)」および「発達(システムの要素が分化・統合してい
く過程)」の3つの属性が問題となる.また,2者間のシステムの「適応過程(安定状態の維持)」
には,情報の交換すなわちコミュニケーションのやりとり(交流)の状況が問題となる(遊佐,1984).
家族を1つのシステムとしてとらえるとき,母娘システムはその下位システムである.母娘シス
テムの下位システムは,母システム(個人)と娘システム(個人)となる.母娘システムは,母と
娘の2者間システム(世代間システム)を形成していることになる.
本研究は,初期成人期の母娘システムを検討対象としている.そこで,初期成人期の母娘システ
ムの現況概観を図1に示した.家族の世代間連帯の6つの下位概念とこの母娘システムとの関係を
みると,情緒的連帯はシステム機能の母と娘の絆に,結合はコミュニケーションに,家族構造は2
者間構造に,機能的連帯はシステム機能の相互支援に当てはまる.本研究では,価値観や家族規範
の一致度は,価値観や家族規範が母娘個々人の内在化した態度であるので,その一致・不一致は母
と娘の結びつき(絆)に反映されると考え,母と娘の絆の一部であるとして扱った.母娘システム
の構造は,その下位システムである母システムと娘システム(以下,母または母親,娘と表記する)
および2者間の構造(同居/別居,空間的距離など)から成り立っていると考えられる.
母娘システムの年齢(発達・歴史)は,娘の出産に始まり現在にいたるまでの時間軸(娘の年齢)
で調べられる.その流れは,母娘システムを構成する個人システム(娘システムと母システム)の
発達段階や個人ライフサイクルのステージなどで影響を受け,2者間の構造や母娘システム機能の
変化に大きな影響を与える.
2者間のシステム構造を取り上げると,青年期までは,ほとんどの母娘が同居して近接距離空間
で暮らす構造であったものが,初期成人期では,母娘が別居や遠距離での居住,あるいは結婚によ
る社会的距離の隔たりを含む構造を持つことが多くなる.
システム機能の面を取り上げると,青年期までの家族・親子システム機能は,養育・教育・社会
化・精神的安定など多様でその機能達成が社会や個人にとって重要な課題である.しかし,初期成
人期の母娘システム機能を考えると,大学在学中や大学を卒業して間もない頃の青年期後期と比べ
96 医療福祉研究 第1号 2005
ても,娘の急激な精神的自立度の高まり,経済的依存度の低下,別居生活などにより,システムが
成し遂げるべき機能は減少し,そのシステム維持の必要性は一見低下してくるように思われる.
・別居/同居
娘
・空間的距離
・未婚/既婚
・子供の有無
システム機能
・有職/無職
・生活基盤
母
・生活基盤
(金銭)
(時間)
(健康)
・母と娘の絆
(情緒・価値・規鑓
(金銭)
(時間)
・相互支援
(生活支援行動
(健康)
図1 初期成人期の母娘システムの現況(本研究の概観)
しかし,落合・佐藤(1996)が,親子関係のあり方の段階(心理的離乳の過程)を検討し,成人
期には「子は親から信頼・承認されている関係」 「親が子を頼りにする関係」+「… 」を推測
していることからも,成人期においても親子の相互支援的な機能や情緒的な絆の機能は続いていく
と考えられる.
また,伊藤ら(1980)が示しているように,既婚者(若い成人期の女性;26歳∼44歳)にとって
も,母親は依存の対象であるし,心の支えとして機能する.
成人期においても親子(母娘を含めて)関係が維持され,新しいシステム機能を持つとすれば,
依存関係から発展していく母と娘の絆(愛情交換機能)と,自立しあった個人間の相互依存・相互
補完機能と考えられる.両者間で繰り返される行為・行動・意識としては,対等な関係における生
活支援資源(物的・精神的)交換と母と娘の絆の強さに関する認知であろう.高齢化・少子化社会
においては,母娘システムの機能として,情緒的むすびつきを基とした相互サポート機能が十分発
揮される状況を検討する必要が増してくる.
初期成人期∼成人期の母娘システムで交わされる具体的なサポート内容としては,生活支援資源
すなわち物的資源,生活情報資源,労働力,金銭,心理的援助などの相互支援機能や母娘の愛情交
換が重要であると考えられる(水野,2002).
その次のステージでの重要なシステム機能は,社会体制が親子システムの維持や家族システムの
維持を強く望む状況であればあるほど,子(娘)が親(母)の介護や扶養するシステム機能(ソ・一一一E
シャルサポート)がより重要なものとなるであろう.
嶋(1991)は,青年期の大学生を対象にしたソーシャルサポート研究をおこない,母親が子ども
にサポートする量は多く,その内容の因子は心理的サポート・娯楽関連的サポート・道具的手段的
サポートで,特に道具的手段的サポートが多いとしている.和田(1992)は,両親のサポートとし
て,情緒的・気楽さ・道具的を因子として抽出して検討をしている.しかし,青年期までのサポー
トは,その時期のシステム機能である養育・教育・社会化や精神的安定を円滑に機能させるために
初期成人期の母娘関係に関する研究 97
母親が子どもに行うものである.したがって,母から子どもへの一方通行のサポート行為であるこ
とが多いといえる.
2者間のシステムの「適応過程(安定状態の維持)」について検討する際には,コミュニケーシ
ョン(交流)の状況が問題となる.青年期後期は母親と別居する娘の数は増加するが,それまでは
同居がほとんどで近距離にいつも居るのでコミュニケーション手段は対面的となることが多い.し
かし,初期成人期では,娘が職業を持ったり結婚したりして自立し,母親は自己独自の生活領域を
持つ時期になり,母娘は別々の生活空間を持つことが多くなる.その際に,システムを維持するた
めには,さまざまなコミュニケーション方法を用いて交流を継続する必要がある.
本研究では,初期成人期の母娘関係を母娘の2者間システムの観点からとらえ,娘が青年期後期
までに培われてきた関係をその後どのようなかたちで維持し発展させてきているのかを明らかにす
ることを目的とした.
ll.方法
1.調査対象および手続き
1)対象者:愛知淑徳短期大学コミュニケーション学科の全卒業生(すべて女性).1期生
(1989年3月卒業)∼13期生(2001年3月卒業)の2,054名.
2)手続き:前回の調査(新美ら,2003)で宛先不明で返送された者を除き,1917名を対象に郵送
法で実施した.調査票発送(2003年9月12日)して約1か月後,未返送者には本人宛に督促ハガキ
を送付した.回収は2004年2月下旬まで行われた.最終的な有効回収数は887票,回収率は46.3%
であった.
なお,分析対象は,育ててくれた母親が存命の867名とした.
2.調査票の構成
調査票は6部構成とした.第1部は,現在の氏名・住所・メールアドレス・職業・家族・同居形
態,第2部は,同窓会サイトの利用状況・希望,インターネット利用環境,第3部は短大時代の友
人との交流について,第4部では母娘関係(母親との同居/別居・母親との住居の距離・母親との
絆・母娘間の交流について・母娘間の資源交換状況・母娘の生活基盤)について,第5部では携帯
電話と日常生活について,第6部では有子の者に限って,子育てにおける携帯電話利用について尋
ねた.本報に直接関係する調査内容は第1部と第4部である.
3.母娘関係についての質問項目と回答法
1)娘システムにっいて
①職業:有職/無職②結婚暦:未婚/既婚(母子家庭を含む),③子ども:有/無,④生活基
盤(金銭的余裕・時間的余裕・健康度→4段階評定)
2)母システムについて
①生活基盤(金銭的余裕・時間的余裕・健康度→4段階評定);ただし,母親の生活基盤の余裕
については,娘が認知した推測の評定値を代替した.
3)母娘システムについて
(1)システムの年齢(発達・歴史)の側面;母娘システムの年齢(娘の出産に始まり,現在の娘
の年齢までの年数).母の年齢は娘の年齢に平行して加齢する.
(2)システム構造の側面(2者関係の構造);①同居/別居,②母と娘との住居距離→母親の住
んでいる家まで行くのにかかる時間で測定
(3)システム機能の側面;①母と娘の絆;小高(1998),落合ら(1996),水野ら(2002)を参考にし,
「母娘の絆」尺度項目(26項目)を作成した.→5段階評定法を用いた.②支援機能=資源の交換
98 医療福祉研究 第1号 2005
[母から娘への提供と娘から母への提供]の回数を測定した.→8件法(1.ほぼ毎日,2.3日に1回
程度,3.週に1回程度,4.月に1回程度,5.3か月に1回程度,6.半年に1回程度,7.1年に1回程度,8.
まったくなかった).時間間隔としては等間隔ではないが,資源交換の量として考え,交換量の評
定データとして扱い8段階評定として計算した.物的資源(4項目),生活情報資源(2項目),労
働力(4項目),金銭(2項目),心理的援助(4項目)
(4)システム維持の側面;適応機能(娘システムと母システム間の情報交換)=コミュニケーシ
ョン(対面交流・電話交流・電子メール交流・郵便交流)→資源の交換と同様の8件法で回答を求
めた.
娘の年齢および母娘システムの年齢は,現役で短大に入学した者の2004年3月末時点での年齢に
換算し,1群:23歳∼26歳ll群;27歳∼29歳, III群;30歳∼32歳, IV群;33歳∼35歳として分析
した.
尺度の検討は, 「母と娘の絆」, 「生活資源の交換」, 「コミュニケーション」に関する各尺度
に対して作成した尺度項目すべてを用いて因子分析(主成分解,バリマックス回転)をおこない,
固有値1以上を基準にして因子を抽出した.その因子の負荷量が.50以上の項目によって下位尺度
項目を構成し,下位尺度の内的整合性を検討するために信頼度係数(標準化された項目に基づく
Cronbachのα係数)を求めた.
下位尺度の構成後,下位尺度得点の記述統計と下位尺度得点間の相関を求めた.
皿.結果および考察
1.母娘システム構造について
母娘システム構造の要素は,個人システムである娘システムと母システムおよび2者間の構造と
し,その特徴を調べた.
1)娘システムの特徴
娘システムの特徴を明らかにするために,娘の現在の属性である未婚/既婚(子どもの有無)・
無職/有職を年齢との関連を含めてクロス集計をした(表1).23歳から35歳までの間に,年齢が
増すのにしたがって既婚者が増加し,また子どもを有する率も増加する.無職/有職については,
年齢が増すにしたがって有職者が減少していく現状が読み取れる.
表1年齢と未婚/既婚・無職/有職のクロス表 ()内は子ども有の内数
年
未 婚
婚
合計
合計
齢
30歳∼32歳
33歳∼35歳
23歳∼26歳
27歳∼29歳
157(0)
100(0)
48(0)
29(0)
334(0)
R3(11)
P24(62)
Q05(148)
P58(131)
T20(352)
190(ll)
224(62)
253(148)
187(131)
854(352)
無職
29
78
133
108
348
L職
P63
P52
P25
W0
T20
192
230
258
188
868
合計
生活基盤の余裕(4段階評定で得点が高いほうが余裕がある)について,4つの年齢群の記述統
計量を算出し(表2),群間に差があるかどうかを一元配置の分散分析によって検討した(以後す
べての分散分析後の多重比較は,TukeyのHSD法を用い,有意確率5%水準でのサブグループ化で
初期成人期の母娘関係に関する研究 99
検討した).また,生活基盤の余裕の程度に関して,結婚(未婚/既婚)と職業(無職/有職)の
2要因の各水準間に差が見られるかを二要因の分散分析を用いて検討した.
表2 娘の生活基盤
度数
平均値(SD)
歪度
尖度
自由に使えるお金の工面ができますか。
862
2.98(.813)
一.57
一.04
ゥ由に使える時間的余裕を確保できますか。
W62
Q.60(.946)
│.12
│.89
フ力や健康面で日常生活に支障がありますか。
W63
R.59(.696)
│1.63
P.83
金銭的な余裕に関しては,4つの年齢群間に有意差が見られなかった.結婚・職業の2要因の各
水準間別に見ると,未婚者は既婚者よりも(F(1)=4.822,p<.05),有職者は無職者よりも(F(1)=55.330,
p<.001)金銭的余裕があった.結婚・職業の2要因の各水準間には交互作用が見られ(F(IF15。276,
p<.001),未婚・無職者が最も金銭的余裕が無く (N=26,M=2.23(1.07)),未婚・有職者(N=305,
M=3.22(.78))が最も金銭的余裕があった.既婚者
については,無職者(N=318,M=2.76(.77)),有職
者(N=207,M=3.07(.76))であった(図2).
無職有職
時間的余裕に関しては,4つの年齢群間に有意
3.4
一一一一
差があった(F(3,858)=20.028,p<.001).多重比較
推
の結果,サブグループ化は{23歳∼26歳群=27歳
定
∼29歳群}{30歳∼32歳群=33歳∼35歳群}(p<.05)
周
ら、
一有職
32
であり,30歳を境に若い方が時間的余裕を確保し
ている.
結婚・職業の2要因の各水準間別に見ると,未
ウ職
s℃
3
辺 28
平 26
均
婚者は既婚者よりも(F(1)=72.778,p<.001)時間的
2.4
余裕があったが,有職者と無職者との間には有意
22
差は見られなかった.しかし,結婚・職業の2要
未婚
既婚
因の各水準間には交互作用が見られ(F(1)=5.076,
図2 娘の金銭的余裕
p<.05),既婚・無職者が最も時間的余裕が無く
(N=319,M=2.29(.96)),次いで既婚・有職者(N=207,
M=2.41(.88)),未婚・有職者(N=304,M=3.02(.80))
無職有職
であり,未婚・無職者(N=26,M=3.35(.80))が最
一一一・
34
も時間的余裕があった(図3).
3.2
健康面での生活支障の程度については,年齢段
階,未婚/既婚,無職/有職いずれにも有意差が
みられなかった.
推
定
周2’s
2)母システムの特徴
今回の調査では母システムの構成要素である母
辺26
親の年齢の項目が欠落していた.しかも,娘の年
平
齢を基準に母親の年齢を推定することは母親の結
均
婚年齢や子どもの数などが異なるので特定できな
ウ職
一有職
2.4
2.2
未婚
既婚
い.しかし,娘の年齢は,対象となった娘の母娘
図3 娘の時間的余裕
100医療福祉研究 第1号 2005
システム年齢となるので,母親の年齢が不明であったとしても,ほぼ母親のライフサイクルの時期
を推測することができる.したがって,娘の年齢段階によって分析した.
母親の生活基盤の余裕について,娘の4つの年齢群の記述統計量を算出し(表3),群間に差が
あるかどうかを一元配置の分散分析によって検討した.
金銭的余裕に関しては,娘の4年齢段階間に有意差があった(F(3,855)=IO.008, p<.001).多重
比較の結果は,表4のようになった.母親の生活基盤の一つである金銭的工面は,娘の年齢が進む
に従って余裕ができてくる.子どもが自立的で独立的な生活を確立するようになっていくこと,言
い換えれば子どもへの金銭的出費から解放されるようになることや収入の面でも成熟期になり夫婦
の収入が多くなり経済的豊かになっていくことが金銭的余裕を増す原因であろう.
時間的余裕に関しても,娘の4年齢群間に有意差があった(F(3,857)=7.393,p<.001).多重比較
の結果,{娘23歳∼26歳の群}{娘27歳∼29歳の群=娘30歳∼32歳の群=娘33歳∼35歳の群}(p<.05)
のようになった.娘が26,27歳ころを境に時間的余裕が変化してきている.すなわち母親に時間的
余裕が増加するのは,50歳を過ぎたころからであり,50歳頃が子ばなれと金銭的余裕を伴って,自
己の生活の豊かさを重視する生活態度へ変化させるターニングポイントとなることが推測される.
健康面での生活支障の程度については,娘の4つの年齢群間に有意差がみられなかった.
表3 母親の生活基盤の記述統計
度数
平均値(SD)
歪度
尖度
自由に使えるお金の工面ができますか。
859
2.98(.816)
一.54
一.13
ゥ由に使える時間的余裕を確保できますか。
W61
Q.82(.828)
│.32
│.42
フ力や健康面で日常生活に支障がありますか。
W63
R.09(.854)
│.51
│.67
表4 母親の金銭的余裕と年齢(多重比較)
α=.05のサブグループ
娘の年齢
度数
1
2
23歳∼26歳
191
Q7歳∼29歳
Q27
2.95
R0歳∼32歳
Q56
R.04
R3歳∼35歳
P85
L意確率
3
2.74
3.04
R.18
P,000
D674
D229
3)2者関係構造の特徴
2者関係構造として,居住状況が母娘「同居/別居」状態であるかどうか,母娘が別戸籍状況か
どうか(娘が「未婚/既婚」),母親の住んでいる家まで行くのにかかる時間(空間的距離)がど
の程度かを指標に分析した.
(1)居住形態について
居住形態については,育ててくれた母親との同居/別居,母親との戸籍状態(未婚/既婚)のデ
ータから「同居(未婚・既婚)/別居(未婚・核家族・夫の親との同居)」の5の居住形態に分類
した.娘の無職/有職別に居住形態の状況を示したのが表5である.
初期成人期の母娘関係に関する研究101
表5 居住形態と無職/有職のクロス表
別居
同居
夫の親と同
合計
未婚
新核家族
@ 居
既婚 未婚
無職
2(0.2%)
287(33.3%)
19(2.2%)
14(1.6%) 24(2.8%)
346(40.1%)
L職
R8(4.4%)
P82(21.1%)
P9(2.2%)
V(0.8%) 270(31.3%)
T16(59.9%)
40(4.6%)
469(54.4%)
38(4.4%)
21(2.4%) 294(34.1%)
862(100.0%)
合計
(2)空間的距離
母親の住んでいる家まで行くのにかかる時間は,直接分単位で回答を求めた.その結果,0分から
900分までの回答があった.度数を勘案しながら,ご近所(15分以内),ちょっと離れているがいつ
でも会いにいける範囲(∼30分),何か用事があって出かけて会いに行く範囲(∼1時間),都合を
つけて出かけ会いに行く範囲(∼3時間),会いに行けば1日以上つぶれそうな範囲(3時間を越
える)の5段階に分類した.同居者は,0分とした.別居者の分布を表6に示した.なお,調査対象
者から得た分単位のデータを基に記述統計量を算出した結果,分析対象者全員は,N=865, M;50.53
分(92.75),別居者のみは,N=546, M=80.06分(106.16)であった.
表6 母親との距離(同居者を除く)
母の家まで
度数
パーセント 累積パーセント
15分以内
146
26.7 26.7
`30分以内
P09
Q0.0 46.7
`1時間以内
P27
Q3.3 70.0
`3時間以内
X4
P7.2 87.2
R時間を越える
V0
P2.8 100.0
合計
546
100.0
2.母娘システム機能について
1)母と娘の絆
(1)「母と娘の絆尺度」の検討
娘の認知する「母と娘の絆尺度」として作成した26項目を因子分析した結果,5因子が抽出され
た(表7).第1因子は,母親に対してこれまで育てていただいた感謝の気持ちをもち,それにお
返しをしたいと思う気持ちを表明している内容であり, 「感謝の念」と名づけた.第2因子は,現
在の自分の生き方を形成するのに,母親を尊敬し,その生き方に多大な影響をうけ,人生のモデル
としての存在感を感じている内容であるので「人生モデル」とした.第3因子は愛着と依存の感情
を母親に持っているので「母への依存」,第4因子は母との関係を対等で独立した人間としてとら
えているので「対等な関係」,第5因子は母親を干渉してくる対象としているので「干渉」と名づけ
た.
信頼度係数を計算したところ.70以上であったので内的整合性は高いと考え,各下位尺度項目を
102医療福祉研究 第1号 2005
加算し,各下位尺度得点を算出した(表8).
母親に対する「感謝の念」は,分布が右肩上がりで最頻値(19.2%)が最高点の40点,平均値が
36.14であった.ほとんどの初期成人期の娘は母親に対して感謝の念を持っているといえる.
母親を「人生モデル」として感じている初期成人期の娘は,平均値が高め寄りで,最頻値(28点)
の山がやや平均値より右に寄り,低い得点のほうに緩やかな裾野を描く分布となった.全体的に娘
は母親を「人生モデル」として高い評価を示している.
関係が依存的・密着的で「母への依存」状態であると考えられる初期成人期の娘の分布は, 「感
謝の念」と「人生モデル」の中間的な分布を示した.
母親との関係を「対等な関係」としてとらえている初期成人期の娘は,最頻値を15点とする右寄
りの山で,左ゆるやか傾斜,やや尖鋭の分布を示した.
母親を自分に対して「干渉」してくる存在として認知している初期成人期の娘は,扁平な分布を
示した.また,1項目からなる尺度であるので,信頼性に疑問が残る.
母と娘の絆を構成する5つの下位尺度得点の相関を示したのが表9である.「感謝の念」「人生
のモデル」「母への依存」の3下位尺度間では,相互に高い相関を示している.「対等な関係」は,
前3下位尺度と中程度の相関関係を持っているが, 「干渉」は,他の4下位尺度とは,相関が見ら
れなかった.
本研究結果と水野の研究結果(30∼60歳のデータ;親密・対等・葛藤)と比較すると,本研究の
「感謝の念」 「人生モデル」 「母への依存」が統合されて「親密」に, 「対等な関係」が「対等」
に, 「干渉」が「葛藤」に対応すると考えられ,小高の研究(大学1回生∼4回生のデータ;親から
のポジティブな影響・親との対立・親への服従・親との情愛的絆・1人の人間として親を認知する)
と比較すると,本研究の「感謝の念」と「母への依存」が「情愛的絆」に, 「人生モデル」が「親
からの影響」にほぼ対応すると考えられる.本研究は,小高の研究対象よりも加齢者であることか
ら,質問項目の内容がより成長した対象者用に選択されたこともあるし,加齢と共に「親との対立」
「親への服従」 「1人の人間として親を認知する」が「対等な関係」や「干渉」に再構成されたと
も考えられる.
図1の母娘システムの概念図で示した「母と娘の絆」は,森岡ほかが概観した「家族の世代間連
帯」の要素のうち,①情緒的連帯(愛情に関する認知),③意見・価値観の一致,⑥規範的連帯が混
在した内容と思われる.これは,家族の場合の小集団システムと母娘関係の2者間システムという
システムの大きさの差が,構成メンバー関係の機能分化の程度や要因間の分化に影響を与えている
と考えられる.
(2)母娘システム年齢(娘の年齢)と「母と娘の絆」の関係
初期成人期の娘の年齢を4群に分け,母と娘の絆の5下位尺度得点およびそれを構成する項
目評点の平均値に統計的な差が見られるかどうか分散分析を用いて検討した.
その結果, 「感謝の念」は,4つの年齢群間に有意な差は見られなかった.項目では, 「13 最
近お母さんのありがたみを感じることがよくある」に有意差が見られ(F(3,857)=12.274,p<.05),
多重比較の結果{23歳∼26歳群=27歳∼29歳群・=30歳∼32歳群} {27歳∼29歳群二30歳∼32歳群=
33歳∼35歳群}(p<.05)の関係が見られ,初期成人期の初めの頃{23歳∼26歳}よりも33歳を過ぎ
た頃{33歳∼35歳群}のほうが母親のありがたみを強く感じていることを示している.
「母親への依存」には,4つの年齢群間に有意な差がみられ(F(3,858)=2.853,p<.05),多重比
較の結果, {23歳∼26歳群=27歳∼29歳群=30歳∼32歳群}と{27歳∼29歳群=30歳∼32歳群=33
歳∼35歳群}のグループとなり, {23歳∼26歳群}のほうが{33歳∼35歳群}より母親への依存が
強い.母への依存度は年齢を重ねるにしたがって減っていくが, {33歳∼35歳群}の娘でも,平均
初期成人期の母娘関係に関する研究103
値11.88(SD2.51)と子ども的な母への依存傾向は残っていると思われる.
初期成人期の後半では,母と娘の絆は「母への依存」から「感謝の念」に変化していくと思われ
る.
「人生のモデル」 「対等な関係」 「干渉」は,尺度得点および各項目について,いずれもシステ
ム年齢群の間に差が見られなかった.
表7 母と娘の絆 (回転後の因子行列)
肝
質問頓目
1
2
3
4
5
感謝
人生の
母への
対等な
干渉
の念
モテラレ
依存
関係
平均値SD)
麺
性
2 お母さんを大事こ思っている
476(.51)
.8勿
.1㌶
.241
.100
「(随
.722
1 お母さ々こ対して感鯛寺ちを持っている
476(.51)
.8麗
.131
.242
.(遭ε
「(鵬
.733
7 お母さ々こ対してこれか臼よ親孝行したい
468(.弱)
.731
.170
.274
.1田
「(}42
.(研
8 お母さ〃こ大潮こ思われている、と感じる
447(.74)
.6抱
.269
「115
口47
.174
.597
3 私士お母さんを尊敬している
生36(.78)
.615
.3〔叉
.301
.060
二11e
.617
13最近お母さんのありがたみを感じることがよくある
4田(.66)
.9助
.1(肖
.412
.Z∼8
二11ε
.596
19租まこのお母さんの子であってよかったと思う
438(.8D
.5陀
.3[鶏
.368
.165
「11ε
.〔B7
10私とはお母さんはお互レ帽言頼しあってし・ると思う
415(.田)
.514
.430
.(溺
.473
「071
.681
12お母さ々こよって自微働紘がった
a47(1.01)
.199
、?磐
.173
.ぴ
.(鵬
.〔運
24お母さんの影響で自分の考えがしっかりしたものとなった
348(1.00)
.130
.?田
.2〔逼
.249
.081
.6〔迫
&60(.%)
.銘5
.7加
.104
.1(刃
二(辺
,679
26お母さんは生き方の1!卵レを租こ示してくれたと思う
a77(.92)
.(η8
.6η
.1〔打
.(鴻8
「14C
.525
21お母さんの考え方や生き方を尊重している
a79(.{石)
.361
、鰯
.2臼
.178
三143
.殴
25 利の佃茸蹴士お母さんの価1直観と一致している
&13(1.(5)
.114
.5禦
.451
.255
二〇田
、576
9 お母さんノ鋤)ことを誇りに思ってしV(くれる
378(.97)
、〔斑
.541
二279
2④
.14ε
.(迎
18お母さんの唇動こよって何かをする意欲力W・てきた事がある
a48(1.00)
.2皮
.§口
.3旬
.200
.13C
.558
14お母さんに突き放されるとショックである
&85(LO9)
.216
.161
.6麗
.(尼1
.(24
.511
22重要なことを快めるときには、棺談する湘談したいと思う)
411(LOO)
.374
.271
.6麹
」㏄
.134
.(鴻5
20お母さんと一緒にいるだけでなんとなく安心できる
416(,91)
.454
.鵠8
.続
.1図
「(呪
.650
宏お互しが対等な関係であると思う
a65(.99)
.(幽
.143
.172
.7釣
.02ε
.613
5お互いこ独立した人間としてづきあっ百・る
a78(.%)
.(脳
.233
=1(E
.6勾
「251
.田8
11お互いこ自分の考えや意見をはっきり言い合える
431(.85)
.2η
.167
.1〔η
。6釣
.072
.臼4
16おた力料こ悩みごとを打ち明けられる
a肪(1.06)
.301
.鯉
.39θ
.509
.119
.6(Σ
17お母さんは何かと利の言動に口を出してくる
3田(1.13)
二〇47
「012
.084
二(迎
.90ε
.鴎2
4 私うη可かを決める際お母さんの意測ま十分参考になる
ag6(.%)
.423
.414
.474
.1〔洞
.13ε
.〔立o
15お母さんは私フ)言うことや行動を受け入れてくれる
3田(.89)
.聞9
.3αヨ
.31ε
.347
二斑
.490
5044
生5皮
28[B
26〔菟
L1〔田
193弼
3τ(21
479肥
582炬
砿719
6 お母さ〃こよって自分の人生観が深められた
固有値
医酬法:主万辮 匝胸去1バリマックス法
累積寄与率
104医療福祉研究 第1号 2005
表8 母との絆(記述統計量)
度数
最小値
最大値
平均値
歪度
尖度
α係数
感謝の念
849
1
40
36.14(4.12)
一1.85
5.28
.904
人生のモデル
857
1
40
28.53(5.72)
一.36
.39
.879
母への依存
862
1
15
12.15(2.43)
一1.00
.96
.754
対等な関係
860
1
20
15.40(2.79)
一.59
.55
.704
干渉
864
1
5
3.23(1.13)
一.01
一1.05
表9 「母との絆」下位尺度間の相関係数
感謝・信頼
Pear80nの相関係数
感謝の念
人生のモデル
N
Pear80nの相関係数
N
Pearsonの相関係数
母への依存
N
Pear80nの相関係数
対等な関係
N
Pearsonの相関係数
干 渉
**
N
1
849
.700(**)
842
.690(**)
847
.571(**)
尊重・モデル
.700(**)
愛着・依存
.690(**)
842
1
857
847
.639(**)
855
1
.639(**)
855
.617(**)
862
.478(**)
対等な関係 干渉 ・葛藤
.571(**)
一.053
845
.617(**)
849
一.005
854
.478(**)
857
.034
858
862
1
一.042
845
854
858
860
860
一.053
一.005
.034
一.042
1
849
857
862
860
864
滑ヨ係数は1%水準で有意(両側)です
(3)居住形態と母と娘の絆
同居形態を育ててくれた母親と別居(未婚,核家族,夫の親と同居),同居(既婚,未婚)の5
形態に分類し,一元配置の分散分析を用いて母と娘の絆の下位尺度得点の平均値に差があるかどう
かを検討した.
その結果,「感謝の念」については,5群の間に有意差が見られたが(F(4,839)=5.192,p<.001),
多重比較ではサブグループ化はできなかった.
「人生のモデル」は,5群の間に有意差があり(F(4,486)=6.475,p<.001),多重比較の結果は,
{未婚/同居=未婚/別居=核家族=既婚/同居} {未婚/別居=核家族=既婚/同居=夫の親と
同居}にグループ化ができた.夫の親と同居している娘は,未婚で自分の母親と暮らしている娘と
比較すれば,自分の母親の生き方を尊重し,母親を人生のモデルとして捉えている.夫の母親との
生活やそこでの嫁的存在という立場が,育ての母親の価値観や規範の一致を明確にさせ,母親の生
き方を見直す機会となっていることがうかがえる.
「母親への依存」’は,居住形態の違いで有意な差が見られなかった.
「対等な関係」は,5群の間に有意な差が見られ(F(4,849)=12561,p<.001),多重比較の結果
{未婚/同居=未婚/別居=核家族} {未婚/別居=核家族=夫の親と同居=既婚/同居}の2つ
のサブグループ化ができた.既婚でいずれかの親と同居している娘は,パラサイト的である未婚/
同居の娘より母親と独立した家族意識(自己意識)を常々持つ機会が多いので,母親と対等な関係
初期成人期の母娘関係に関する研究105
であるという思いが強いと考えられる.
「干渉」は,5群の間で有意差が見られ(F(4,853)=69.11,pく001),多重比較の結果, {核家族
=夫の親と同居=未婚/別居二未婚/同居}{既婚/同居}となった.既婚し,育ての親と同居して
いる娘にとって,母親は口うるさい存在なのであろう.
青年期後期頃までは,子どもにとって母娘システムがおかれている生活状況がほぼ同じで,同居,
慣れ親しんだ育ての親との間でシステム機能を維持すればよかった.しかし,初期成人期になれば,
母親から心理的にも物理的にも距離ができ,娘の生活状況が変化し,それに伴って母娘の絆も多様
化してくる.ほとんど青年期後期までの親子・母子関係は年齢段階を中心とした軸で捉えることが
できるかもしれないが,初期成人期以降の研究は,年齢,居住形態や家族成員とは異なる生活のあ
り方・関係の持ち方を把握して,母と娘の絆機能の意味づけや母娘システムを維持する目的を抑え
つつ分析する必要がある.
2)相互支援機能
初期成人期のシステム機能として,母から娘への一方的支援を経過し,自立しあった大人の母娘
がこれまでの親密な関係を土台にして維持しつつ相互支援をすることが重要な機能となる.その相
互支援内容は,物的資源,生活情報資源,労働力,金銭,心理的援助などの生活支援資源交換が上
げられる.
(1)母娘間の生活支援資源交換について
母娘間で交わされる生活支援資源に関する16項目を因子分析にかけた(表10).
因子分析の結果,4つの因子に分解でき,第1因子を悩み相談やつらい時のサポートを内容とする
「心理的サポート交換」,第2因子を生活情報や日用品の提供,日常的用事の援助を内容とする「日
常的サポート交換」,第3因子を病気や金銭的危機の際のサポートを内容とする「緊急時サポート
交換」,第4因子を特別な日にお祝いの品を届けるといった行為を内容とする「儀i礼的物資交換」
と名づけた.
信頼度係数を計算したところ.70以上であったので内的整合性は高いと考え,各下位尺度項目を
加算し,各下位尺度得点を算出した(表11).得点が低いほど生活資源の提供が多い.
相対的に見ると,初期成人期の女性とその母親との生活支援資源交換の量は, 「日常的サポート
交換」が最も頻繁で, 「心理的サポート交換」, 「儀礼的物資交換, 「緊急的サポート交換」の順
で減少していく.
各生活支援資源交換内容別の下位尺度得点間の相関は,表12のようであった. 「心理的サポート
交換」 「日常的サボ・一一一+ト交換」 「緊急的サポート交換」の3下位尺度間では,高い相関を示してい
る. 「儀礼的物資交換」は,前3下位尺度とやや相関関係がある程度である.
(2)母娘システム年齢(娘の年齢)と「生活支援資源交換」の関係
初期成人期の娘の年齢を4群に分け,生活支援資源交換に関する4下位尺度得点およびそれを構
成する項目評点の平均値に統計的な差が見られるか分散分析を用いて検討した.
「心理的サポート」に関しては,4つの年齢群の間に有意差が見られ(F(3,834)=9.139,p<.01),
多重比較では, {23歳∼26歳群} {27歳∼29歳群=33歳∼35歳群=30歳∼32歳群}の2つにグルー
プ化された.{23歳∼26歳群}が27歳以上の群より母娘間での心理的サポート交換がよく行われる.
項目別に見ると母13・娘13の悩みごとや相談ごとの傾聴({23歳∼26歳}{27歳∼35歳}),母12・
娘12の困った時つらい時の同席にもサブグループ化({23歳∼29歳=33歳∼35歳}{30歳∼32歳}})
があり同じような傾向が見られた.しいて言えば,心理的サポート交換は23歳∼26歳が多く,徐々
に減少していく.早期初期成人期の娘は,まだまだ母親の心理的支援が必要な時期であると思われ
る.
106医療福祉研究 第1号 2005
表10 母娘システムの機能;サポート
(回転後の因子行列)
1
2
3
4
心理的
日常的
緊急時
儀礼的
因子
質問項目
平均直SD)
共通性
母13
母に悩みごとや相談ごとを聴いてもらった(心理)
4.78(2.13)
.843
.196
.ll5
.115
,776
娘13
悩みごとや相談ごとを聴いてあげた(心理)
5,08(2.2D
.812
.205
,167
,053
,732
母12
困った時、っらい時に、一緒にいてくれた(心理)
5.41(2.26)
.735
.237
.355
.129
,739
娘12
困った時、っらい時に、一緒にいてあげた(心理)
6.00(2.10)
.706
.177
.422
㎡135
.725
母8
生活の知恵・料理・ファッションなど身近なことにつ
439(1.87)
。327
.695
.096
.084
,605
4.73(1.87)
,309
.679
.187
.084
.598
いてのアドバイスをしてくれた(情報)
生活の知恵・料理・ファッションなど身近なことにつ
娘8
いてのアドバイスした(情報)
娘6
食べ物・日用品・衣服などをあげた(物)
5.36(1.58)
.056
.679
.045
.295
,553
母6
食べ物・日用品・衣服などをくれた(物)
4.16(L67)
,079
.673
一.039
.271
.534
母9
家事・育児や家族の世話などの用事を手伝ってくれた
3.78(2.37)
.174
.599
.425
一.185
.604
4.47(2。19)
.215
.54§
.456
一.228
.604
6.75(L92)
.226
.175
。7§6
.063
.604
7.61(LO7)
.085
一.063
.666
.056
.458
6.30(2.13)
.259
.277
.647
.131
,579
6.75(1.71)
.168
.095
.588
.153
.406
(労力)
家事・育児や家族の世話などの用事を手伝った(労力)
娘9
娘10
母が病気やけがをした時、看病や生活援助をした(労
カ)
娘11
お金が必要な時、金銭的な経済援助をした(金)
母10
病気やけがをした時、看病や生活援助をしてくれた
(労力)
母11
お金が必要な時、金銭的な経済援助をしてくれた
(金)
娘7
誕生日や盆・正月などの機会に品物を送った(物)
6.13(1.34)
.131
.139
.124
,853
.780
母7
誕生日や盆・正月などの機会に品物を送ってきた(物)
6,32(L48)
.144
.180
.154
.845
.791
固定値
2,889
2,854
2,599
1,801
累積寄与率
18,058
35,894
52,437
63,692
因子抽出法:主成分解 回転法:パリマックス法
表11 システム機能:生活支援資源 (記述統計量と信頼性係数)
度数
最小値
最大値
平均値(SD)
歪度
尖度
α係数
心理的サポート
841
32
21.16(7.41)
一.38
一.61
.880
叝崧Iサポート
W46
S8
Q6.83(8.15)
@.20
│.37
D796
ル急時サポート
W44
R2
Q7.33(5.21)
│1.54
Q.45
D708
V礼的物資交換
W51
P6
P2.44(2.63)
│1.53
S.04
D831
母娘総資源交換
820
128
88.Ol(18.49)
一.573
.257
26
初期成人期の母娘関係に関する研究107
表12 システム機能:サポート因子間の相関係数
心理的サポニト
Pear80nの相関係数
心理的サポート
t+
841
831
834
834
.567(林)
1
.503(#)
.304(**)
831
846
836
840
.503(#)
1
836
844
.581(**)
N
Pearsonの相関係数
儀礼的物資交換
.567(#)
N
Pear80nの相関係数
緊急時サポート
儀礼的交換
緊急時サポート
1
N
Pear80nの相関係数
日常的サポート
目常的サボート
834
.327(**)
N
834
.304(**)
.581(**)
.296(**)
840
838
.327(**)
.296(**)
838
1
851
@相関係数は1%水準で有意(両側)です
「日常的サポート交換」は,4年齢段階群間で有意差が見られ(F(3,842)=6.245), {23歳∼26
歳群} {27歳∼29歳群=33歳∼35歳群=30歳∼32歳群}の2グループ化がある.日常的サポート交
換は早期初期成人期のグループが他のグループよりも多い.項目では,娘8生活の知恵・料理・フ
ァッションなど身近なことについてのアドバイスした({23歳∼26歳=33歳∼35歳} {27歳∼35歳
の群}),母9・娘9の家事・育児や家族の世話などの用事を手伝う({23歳∼26歳} {27歳∼32
歳} {30歳∼35歳})となり,早期初期成人期の娘が母親に生活情報の提供を多く行うが,家庭生
活上の労力サポートの交換は段階的に減少していく.
「緊急時サポート交換」は,年齢段階間で差があり(F(3,840)=9.641),多重比較で{23歳∼29
歳}{27歳∼29歳の群=30歳∼32歳の群=33歳∼35歳の群}の2グループ化があった.最も若い群
が他の年齢群より緊急時サポート交換が多い.項目では,母10・娘10病気やけがをした時の看病や
生活援助({23歳∼29歳}{27歳∼35歳}),母11・娘ll金銭的な経済援助({23歳∼26歳} {27
歳∼35歳の群})であり,若い方の年齢群が病気や経済的危機といった緊急時サポート交換が多い.
若いほど同居者が多いのもその原因と思われる.
「儀礼的物資交換」は,4つの年齢段階間に差は見られなかった.
(3)居住形態と資源交換
同居形態を別居(未婚,核家族,夫の親と同居),同居(既婚,未婚)の5形態に分類し,一元
配置の分散分析を行ない資源交換の下位尺度得点の平均値の差の検定を行なった.
その結果,すべての下位尺度に,有意差が見られた. 「心理サポート交換」 (F(4,830)=9.597),
「日常的サポート交換」(F(4,835)=30.449),「緊急時サポート交換」(F(4,833)=21.858)(F(4,840)=7.687)
であった.
多重比較の結果,4下位尺度の結果を表13∼表16に示した. 「心理サポート交換」は,同居/既
婚が他の形態に比べて多く, 「日常的サポート交換」は, {同居者} {別居者}{核家族と未婚/
別居}の順で多く, 「緊急時サポート交換」は,{同居者}{別居者}のグループができ,それぞ
れのサボ・一一・一ト交換について前者の方の量が多かった. 「儀礼的物資交換」は, {夫の親との同居=
同居/既婚=核家族=別居/未婚} {同居/既婚=核家族=別居/未婚=同居/未婚}のサブグル
ープ化が見られ, {夫の親と同居}と{同居/未婚}の間で差が見られた.
108医療福祉研究 第1号 2005
表13 心理的サポート交換
α=.05
未婚既婚と同居形態
表14 日常的サポート交換
19
同居・未婚
275
別居;夫の親と同居
別居;核家族
別居・未婚
未婚既婚と同居形態
2
1
同居・既婚
α= .05のサプグルーフ’
のサプグルーフ’
度数
14.32
19.93
38
20
19.35
同居・未婚
278
23.48
20.26
別居;夫の親と同居
22.10
別居;核家族
40
23.80
別居・未婚
1,000
.082
等質なサブP’ルV一フ’のグleプ平均値が表示されています
38
28.18
464
28.56
40
有意確率
.999
α=.05のサプグルーフ’
未婚既婚と同居形態
度数
2
1
同居・既婚
20
23.10
別居;夫の親と同居
38
n.39
同居・未婚
277
25.39
ッ居・既婚
P9
氏D95
ll.95
別居;核家族
464
S67
k2.13
P2.13
P2.64
P2.64
28.45
ハ居;核家族
別居;夫の親と同居
37
28.68
ハ居・未婚
R9
別居・未婚
40
28.95
ッ居・未婚
Q82
有意確率
.173
.057
表16儀礼的物資の交換
2
1
32.80
.070
α=.05 のサプグループ
度数
28.56
等質なサプグループのグループ平均値が表示されています
表15 緊急時サポート交換
未婚既婚と同居形態
3
2
1
同居・既婚
463
有意確率
度数
.989
等質なサブグルーフ’のグteフ’平均値が表示されています
P3.08
D231
D149
L意確率
等質なサプグdeプのグteプ平均値が表示されています
儀礼的物資交換は,夫の親と同居している娘が最も育ての母親との間でお祝い等の交換をしてい
るのを除けば,同居者が別居者との資源交換が多い.
母娘間に交わされる総サポート量を5 表17母娘の相互総サボ_ト量
居住形態で比較した.分散分析の結果,
有意差が見られた(F(4,809)=21.319,
α=
未婚既婚と同居形態
度数
1
.05のサプグループ
2
3
同居・既婚
17
た. {同居/既婚} {同居/未婚=別居
同居・未婚
266
82.27
/未婚=核家族} {別居/未婚=核家族
別居・未婚
37
88.54
88.54
455
91.42
91.42
p<.001).多重比較の結果を表17に示し
=夫の親と同居}にグループ化できた.
同居で既婚の娘が最も生活支援資源交換
別居;核家族
別居;夫の親と同居
有意確率
65.59
39
98.05
1,000
.118
.094
をし,夫の親との同居の娘が最も資源交 等質なサブ.グルー7’のグル.フ.平均イ直が表示されています
換が少ない.
(4)空間的距離と生活支援資源交換について
母親の所へ行くのにかかる実時間を心理的な距離として5段階に尺度化した.その5段階を基準
に生活支援資源交換の量の平均値の差を分析した.
分散分析の結果,心理的サポー一一一Eト交換は,5空間的距離段階で有意差が見られ(F(4,834)=11.442,
p<.001),サブグループは{0∼1時間}{31分∼3時間}{1時間以上}となった.心理的サポート
交換は,1時間・3時間・3時間以上が区分点のようである.
日常的サポート交換(F(4,838F64.857, p<.001)は, {15分以内} {16分∼1時間} {1時間∼3
時間} {3時間以上}の4グループに分けられ,細分化されている.
緊急時サポート交換(F(4,836)=22.204,p<.001)の分岐点は, {15分以内}{16分以上}で15
分以内が勝負の緊急性をそのまま示している.
初期成人期の母娘関係に関する研究109
儀礼的サポート(F(4,843)=2.996,p<.05)は,サブグループにならなかった.
生活支援資源交換は,空間的距離に大いに影響されることが明らかになった.
(5)母娘間生活支援資源交換の相互性の検討
母娘間に資源交換量のアンバランスな資源内容があるかを調べるために,母と娘の対応のある平
均値の差の検定をした.その結果,すべての項目に有意差が見られた(p<.001).「盆・正月・お
祝いの品を送る」ことが,娘が母親より多い以外すべての項目で母親の方が娘より生活支援資源提
供が多かった.相関係数の高かったものは,12.困った時,つらい時に一緒にいてあげた(.770),
7.お祝い・盆・正月に品を送る(.710),13.悩み事や相談事に傾聴する(.694),最も低かった
のは,ll.金銭的な経済援助(.330)であった.
精神的サポートや儀礼的な物資提供は,母と娘の間で交わされる生活支援資源提供と授受のバラ
スが取れている一方で,金銭的な援助提供は,母親の方が娘よりはるかに多い.
3.母娘システム間コミュニケーションについて
母娘の間で交わされるコミュニケーション行動をその媒体によって,対面的相互交流行動(3項目),
電子メールの相互交換(2項目),電話の相互交換(2項目),郵便・Faxの文字情報の相互交換(2
項目)を作成し,9項目の因子分析を行った.その結果は,作成意図どおりとなった(表18).因
子名を「対面交流」 「電子メール交流」 「電話交流」 「郵便交流」とした.
信頼度係数の値が高く,内的整合性が保証されたので,各媒体の相互交流得点とした(表19).
得点が低いほうが,交流の量が多いことを示す.表20で示すように,対面的交流と電子メール交流
と電話交流の得点間には,弱い相関が見られ,郵便交流は,他の交流との間に弱い逆相関が見られ
た.
1)母娘システム年齢(娘の年齢)と「コミュニケーション」の関係
各下位尺度についての分散分析の結果,対面交流(F(3,844)=16.712,pく001),電子メール交流
(F(3,844)=11.137,p<.001),電話交流(F(3,838)=6.326, p<.001),郵便交流(F(3,838)=5.128, p<.Ol)
は,それぞれ4つの年齢段階間で有意な差が見られた.
対面交流では, {23歳∼26歳群=27歳∼29歳群} {30歳∼32歳群二33歳∼35歳群}のサプグルー
プに分けられ,30歳未満の娘の対面交流が30歳以上の対面交流より多い.電子メール交流は, {23
歳∼26歳群}{27歳∼29歳群=30歳∼32歳群}{30歳∼32歳群二33歳∼35歳群}に分けられた.電
話交流は,{35歳∼27歳群}{29歳以下の群}で26歳以下の人では郵便交流は少ない.郵便交流は,
{35歳∼27歳群}{26歳以下の群}に分けられた.
郵便交流,電話交流,電子メールとコミュニケーション手段の時代的変化に年齢層が対応してい
る.
2)空間的距離とコミュニケーションについて
それぞれの交流について距離区分で分散分析をした結果,対面交流は, {15分以内}{16分∼30
分}{31分∼1時間}{1時間∼3時間} {3時間以上}と5区分が区別された.電子メール交流は,
距離区分では,有意差が見られなかった.電話交流では, {16分∼3時間以上} {1時間以上=15分
以内}で,近すぎても遠すぎても電話交流が少なく,16分から1時間くらいが電話交流に合っている
ようである.郵便交流は, {27歳以上} {26歳以下}で分かれ,若い母娘間では郵便交流は少ない
といえる.
110医療福祉研究 第1号 2005
表18 システム維持;コミュニケーション (回転後の因子行列)
因子
質問項目
1
2
3
4
対面
電子
電話
手紙
共通性
平均1直6))
流
=[ル
母5
母に行動を共にすることを誘われた
4.49(1.55)
.906
.065
.176
一、016
.857
コ5
ィ母さんと行動を共にすることを誘った
S.51(L54)
D892
D063
D178
│.028
D833
黷P
ィ母さんと私は、直接会って(顔をあわせて)話した
Q.61(1.61)
D651
D016
│.197
│.358
D592
娘4
携帯メールやパソコンeメールを送った
6」4(2.49)
.060
.986
.056
.038
.981
黷S
黷ゥら携帯メールやパソコンeメールがきた
U.23(2.44)
D063
D986
D060
D033
D981
母2
お母さんが電話をしてきて話した
3.69(L66)
.083
.055
.助o
.106
.868
コ2
ィ母さんに電話をかけて話をした
R.45(L48)
D094
D057
D91?
D020
C854
娘3
手紙やハガキあるいはFAXを出した
7.63(,94)
一.093
二〇16
.060
.9i3
.846
黷R
黷ゥら手紙やハガキあるいはFAXがきた
V.62(.98)
│.106
D089
D047
B④2
D836
固有値
2,085
L967
1,803
1,791
ン積寄与率
Q3.16
S5.02
U5.05
W5.0
因子抽出法:主成分解 回転法:バリマックス法
表19 システム維持;コミュニケーションの記述統計
度数
最小値
最大値
平均値
歪度
尖度
α係数
対面交流
848
24
11.59(3.92)
.46
一.16
.775
d子メール交流
W48
P6
P2.31(4.87)
│.74
│1.16
D980
d話交流
W42
P6
V.15(.96)
k19
P.84
D851
X便交流
W42
P6
P5.26(1.75)
│2.69
V.05
D826
表20 母娘システム間コミュニケーション (下位尺度間の相関係数)
対面交流
対面交流
電子メール交流
郵便交流
電 話
手紙等
Pe㎜nの相関係数
1
.113(**)
.153(**)
一.249(**)
m
W48
@ 840
@ 835
@ 834
Pear80nの相関係数
m
電話交流
電子メール
.113(**)
1
.131(**)
.069(*)
@ 840
W48
@ 839
@ 841
Pe㎜nの相関係数
.153(#)
.131(螂
1
.134(**)
m
@ 835
@ 839
W42
@ 834
Pear80nの相関係数
一.249(**)
.069(*)
m
@ 834
@ 841
.134(**)
1
@ 834
W42
tt @相関係数は1%水準で有意(両側)です。 ★ 相関係数は5%水準で有意(両側)です
初期成人期の母娘関係に関する研究111
4.相互支援(生活援助支援交換)にかかわる母娘システムの要因
初期成人期における母娘システムの現況を分析するための概観図から,個々の要素についての特
徴を分析してきたが,この時期における重要な機能である相互支援は,これ以降の母娘システムの
機能としてもますます重要になると考えられる.そこで, 「母娘の相互総サポート量」および相互
支援の下位尺度である「心理的サポート交換」,「目常的サポート交換」,「緊急時サポート交換」,
「儀礼的物資交換」に関与する他のシステムの要素がどの程度の強さで関与しているかについて重
回帰分析(ステップワイズ法;F値確率.05,除去.01)を用いて分析した.説明変数として,娘システ
ムの①未婚/既婚,②無職/有職,生活基盤の③金銭的余裕,④時間的余裕,⑤健康度,母システ
ムの⑥金銭的余裕,⑦時間的余裕,⑧健康度,2者間システム構造の⑨同居/別居,⑩2者の住居
間距離,母と娘の絆の⑪感謝の念,⑫人生のモデル,⑬母への依存,⑭対等な関係,⑮干渉,コミ
ュニケーションの方法の⑯対面的交流,⑰電子メール交流⑱電話交流⑲郵便交流,⑳システム
年齢の20要素で各得点を用いた.なお,①②⑨はダミー得点を用い,⑩⑳は修正した段階の数字を
用いた.コミュニケーションとサポートは,得点が低いほど交流やサポートの量が多い.
その結果, 「母娘の相互総サポート量」では,除去されずに9項目が投入された.調整済みのR2
乗=.547となり,回帰式を採択し,説明力があると判断して解釈することにした(表21). 「母娘
の相互総サポート量」にかかわる母娘システム要因の強さを標準化係数(β)でみると,コミュニ
ケーションの方法では対面的交流(514),電話交流(.124)であり,母と娘の絆では人生のモデル
(一.262),干渉(一.133),母への依存(一.069)であった.2者間のシステム構造では,同居/別居
(.173)が,個人システムでは母娘とも健康度(.076,.066),娘の年齢群(一.082)であった.母と
娘の間で相互支援を維持するには,日ごろから対面的交流に心がけそれができないときには電話で
連絡し合うこと,お互いに健康には少し不安を持っていること,同居していること,娘は母親を人
生のモデルとしていることや母に依存心をもっていること,母親が娘のことに口出しすること,年
齢が高いことが関与している.
心理的サポート交換の量には,20要素中10要素が投入された.調整済みR2乗=.414で説明力はや
や弱い(表22).心理的サポート交換には,コミュニケーションの対人交流(.326),電話交流(.116),
母と娘の絆の人生のモデル(一.168),対等な関係(一.160),母への依存(一.154),干渉(一.126),
2者間構造の同居/別居(.125),母娘それぞれの生活基盤の健康度(.133,.064),年齢段階(一.071)
が関与している.心理的サポート交換の多さには,対人交流や電話交流が多いこと,母親を人生の
モデル対象と考えていたり対等な関係と考えたりしていること,娘が母親に情緒的な援助を受けて
いると感じていること,娘母親共に健康度にやや不安があること,年齢が高いことが関与している.
日常的サポート交換の量に関わる要素は,8要素が抽出された(表23).調整済みR2乗=.564と
説明力は高い.日常的サポート交換には,コミュニケーションの対人交流(.538),電話交流(.139),
郵便交流(.058),母と娘の絆の人生のモデル(一.190),干渉(一.098),2者間構造の同居/別居
(.211),住居間距離(.108),年齢段階(一.071)が関与している.日常的サポート交換の多さに
は,対人交流や電話交流・郵便交流が多いこと,母親を人生のモデル対象と考え,母親が干渉的で
あること,母親の住むところまでの短時間でいけること,年齢が高いことが関与している.
心理的サポート交換と日常的サポート交換に関与する要因の違いは,心理的サポートには母と娘
の絆の要因が多く関与し,日常的サポートには物理的にも近接し気軽に交流なり支援交換なりがな
される環境が関与している.
緊急時サポート交換と儀i礼時物資支援は,それぞれ調整済みR2乗=.283,および.143と説明力が
あまりないので細かくは分析しないが,どちらも対面的交流が多く,同居で人生のモデルと捉えて
いる娘がこれらのサポート交換をよくしている.
112医療福祉研究 第1号 2005
表21重回帰分析;母娘の相互総サポート量
説明変数
(コミ)対面交流
(母絆)人生のモデル
(構造)同居/別居
(母絆)干渉
(コミ)電話交流
表21 重回帰分析;母娘の相互総サポート量
説明変数
標準化係数β
.514
一.262
。173
一.133
.124
(コミ)対面交流
(母絆)人生のモデル
(構造)同居/別居
(母絆)干渉
(コミ)電話交流
標準化係数β
.514
一.262
.173
一.133
.124
(発達)年齢群
一.082
(発達)年齢群
一.082
(母の)健康度
.076
(母の)健康度
.076
(母絆)母への依存
(娘の)娘の健康度
一.096
(母絆)母への依存
一.096
.066
(娘の)娘の健康度
.066
調整済みR2乗=.547
調整済みR2乗=.547
表23 重回帰分析;日常的サポート
説明変数
標準化係数β
(コミ)対面交流
.538
(構造)同居/別居
.211
(母絆)人生のモデル
一.190
(コミ)電話交流
.139
(構造)住居間距離
.108
(発達)年齢群
一.098
(母絆)干渉
一.092
(コミ)郵便交流
.058
調整済みR2乗二.564
IV.まとめ
本研究では,初期成人期の母娘関係を母娘の2者間システムの観点からとらえ,娘が青年期後期
までに培われてきた関係をその後どのようなかたちで維持し発展させてきているのかを明らかにす
ることを目的とした.愛知淑徳短大コミュニケーション学科をした卒業生(23歳∼35歳)のうち,
回答があり,育ててくれた母親が存命の867名を分析した.
データは,システム年齢(娘の年齢),システム構造(母・娘・関係構造),システム機能(母と
娘の絆と相互支援),コミュニケーション(交流方法)の現況について検討した.主に初期成人期
のシステム機能である「母と娘の絆」 「相互支援;生活支援資源交換」とシステム維持に関係する
「コミュニケーション」について,娘の年齢段階と5居住形態(別居;未婚,核家族,夫の親と同
居,同居;既婚,未婚)を用いて分析した.また,初期成人期およびそれ以後の時期に重要な機能
となる「生活支援資源」にっいては,システムを構成している諸要素がどの程度関与しているかを
検討した.
その結果,「母と娘の絆」に関しては,感謝の念・人生のモデル・母への依存・対等な関係・干渉の
初期成人期の母娘関係に関する研究113
5下位尺度が抽出され,母への依存が初期成人期の娘にも依然継続し,年齢が若い方が強い.母親
を「人生のモデル」と思う娘は,夫との親と同居している娘の方が,未婚で親と同居している娘よ
り強い.また母親と「対等な関係」との認知は,既婚でいずれかの親と同居している娘の方が未婚
で同居している娘よりも強い.
相互支援機能については,心理的サポート交換・日常的サポート交換・緊急時サポート交換・儀
礼的物資交換の4下位尺度で構成され,早期初期成人期の娘は,心理的サポート交換や緊急時のサ
ポート交換が多く,日常的情報の提供も多い.また,既婚者で同居している娘は,心理的サポート
交換が多く,儀礼的物資交換を除けば,いずれもサポート交換は,同居者と別居者を比べると同居
者の量は多い.空間的距離の近さは,生活支援資源交換には重要なことである.
コミュニケーション手段については,年齢に伴う時代的変化が交流形態に影響を与えている.
相互支援機能にかかわるシステム全体の要素(20要素)を投入して重回帰分析をしたところ,い
ずれのサポートも「対面的交流」と母親を「人生のモデル」と認知していることが明らかになった.
初期成人期の母娘システムのシステム機能に関与する要因を原因結果的に分析したが,各要因は
それぞれに直線的関係というよりは循環的関係によって成り立っている.さらにそれぞれの要因間
関係と初期成人期あるいはその後のライフサイクルでの母娘の相互・相互補完支援関係の維持に関
与する要因を明確にしていく必要があるだろう.
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Fly UP