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イラン国政選挙においてロウハニ政権支持派が勢力を拡大 はじめに 1
更新日:2016/3/28 調査部: 増野 伊登 イラン国政選挙においてロウハニ政権支持派が勢力を拡大 (イラン政府および公的機関のプレスリリースや報告書、その他報道など) 2016 年 2 月 26 日、第 10 期国会選挙と第 5 期専門家会議の選挙が行われ、穏健保守派と改革派を はじめとする政府支持派連合が大きく勢力を拡大した。今回の選挙は、2017 年の大統領選挙と次期 最高指導者選出の行方を決める重要なステップであり、現ロウハニ政権にとっては追い風。 石油・天然ガス開発案件の対外開放をはじめ、現政府に批判的な強硬保守派(原理派)からの反発 を招きやすい政治・経済面での改革がより推進しやすい環境が整ったと言える。 一方で、本選挙の結果がイランの増産凍結合意への姿勢を変える要因になるとは考えにくい。増産 を念頭に置いた 2016 年度予算案(前提原油輸出量:225 万 b/d)がすでに国会に提出されているこ ともあり、増産への道をイランが自ら閉ざす可能性は低い。 はじめに 2016 年 2 月 26 日、イランでは第 10 期イスラーム諮問評議会(国会に相当)議員選挙と第 5 期専門家 会議議員選挙が実施された。人口約 8,000 万人のうち有権者(18 歳以上)の数はおよそ 5,500 万人いる と言われており、2 月 29 日のラフマーニ・ファズリー内務大臣の発表によれば、両選挙の投票者数は約 3,300 万人で、投票率は 62%だった。 イランの国政選挙は政党を基本単位として争われるわけではない。今回の選挙は、外資の誘致を目 指し、対外的な協調路線を志向する現政権を支持するか、旧来の独自路線を支持するかという争点をめ ぐって、政府支持派と政府批判派の 2 勢力間が戦う形となった。現時点で判明している選挙結果につい て以下に述べる。 1.国会選挙 ①イラン国会とはどういう機関か 日本の国会に相当するイスラーム諮問評議会は、日本メディア等では単に「国会」と称されている(以 降は国会と表記)。下表のとおり立法権を有するが、その権限は限られている。監督者評議会 という 12 名の法学者で編成される組織が、国会が憲法とイスラーム法に抵触していないかを審議する権限を持っ ており、法案可決の是非を左右するからだ(図1)。国会と監督者評議会の間で意見の一致を見ない場合 には、現在ラフサンジャニ元大統領が議長を務める体制利益判別評議会が調停に乗り出す。 名称 機能 定員 任期 イスラーム諮問評議会 立法機関 290 名 (うち 5 議席は宗教少数派に割り当て) 4年 また、選挙運営においても監督者評議会は大きな影響力を持つ。イランでは、国会選挙をはじめ、専 門家会議選挙や大統領選挙においても立候補者の事前資格審査が行われる習わしがあり、この審査を 担当しているのが監督者評議会である。同議会においては、1979 年のイスラーム革命の流れを組む強 硬保守派(原理派)の思想が色濃く残っているため、自身を改革派と称する立候補者のほとんどが資格 審査で落とされるなどの事態が起きた。最終的に、当初の立候補者約 12,000 人のうち、資格審査を通っ たのは半数以下の約 5,200 人だった。 ハメネイ最高指導者 (任期なし) 任命 任命 選出・監察・罷免 体制利益判別評議会 監督者評議会 専門家会議 護憲評議会と国会間の 調停役として機能 ラフサンジャニ議長 国会が憲法とイスラーム法に抵 触していないかを審議する機関 ジャナンティ事務局長 86名(法学者のみ) (任期8年) 任命 国軍 時に対立 イスラーム諮問評議会 国会議員290名 (任期4年) 選挙 革命防衛隊 ジャアファリ― 革命防衛隊総司令官 任命 調停 立法 フィールズアーバー ディ統合参謀本部長 任命 選挙 (アリー・)ラリジャニ 国会議長 認証・罷免 行政 司法 ロウハニ大統領 (任期4年) (サーデグ・) 選挙 ラリジャニ 司法長官 国民 約8,000万人(うち有権者数約5,500万人) 図1.イランの政治体制 出所:各種資料を基に筆者作成 ②国会選挙の結果 しかし、資格審査をめぐる攻防戦を終えて蓋を開けてみると、政府批判派勢力の期待を裏切る結果が 待っていた。これまで過半数の議席を確保していた強硬保守派が大きく議席を減らしたのである。特に テヘランなどの都市部における政府支持派の台頭は顕著で、テヘラン選挙区の全 30 議席を独占すると いう圧倒的な勝利であった。ハタミ大統領時代に第一副大統領を務め、今回政府支持派連合を率いた モハンマド・レザー・アーレフ氏は、同区で約 160 万票を獲得しトップ当選を果たした。 –2– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 一方の強硬保守派は、制裁下での既得権益構造構築の中核を担ったというイメージが国民の間で共 有されていること、反米・反英・反外資以外に真新しい方針を打ち出すことができなかったことなどが敗 因になったと考えられる。前回選挙においてテヘラン区でトップ当選し、今回政府批判派を率いたゴラ ーム・アリー・ハッダード・アーデル元国会議長など、欧米との核合意に反対姿勢を取ってきた議員の多 くが落選した。 とはいえ、まだ最終的な結論を出すことはできない。イランでは最低得票率(25%)が定められており、 いずれの候補者も総投票数の 25%以上の票を獲得できなかった 64 議席分については、4 月 29 日に再 度投票が行われる予定だからだ(69 議席との報道もあり)。また、すでに確定している 226 議席について も不透明性が残る。イランでは、各勢力が候補者リストを作成し有権者に投票を呼び掛けるシステムだが、 同一候補者が複数のリストに記載されることもある。このため、選挙結果が明らかになったところで、全体 的な傾向は分かっても、議席の色分けまでは簡単にはできないという事情もある。 また、今選挙では、現職(第 9 期国会)議員の大半が落選したと言われており、多数の新顔が登場した。 この中には、政府支持派と政府批判派のいずれにも属さない独立派勢力がいる。未だ政治的主義主張 が不明なこれら当選者が今後どのように転ぶか分からない。内務省から正確な数字が公表されていない ため、各勢力の獲得議席数の内訳についても報道などによりばらつきがあるが、政府支持派が約 80 議 席、政府批判派が 80~100 議席を獲得しおおよそ拮抗しており、残りの 40~60 議席を独立派が確保し ていると見られている。 4 月 29 日の決選投票を実施した後、5 月下旬に第 10 期国会が召集される予定である。 2.専門家会議選挙 ①専門家会議とはどういう機関か 専門家会議とは、下表のとおり、最高指導者の選出・監察・罷免を行う組織であるとともに、同組織内か ら次の最高指導者が選出される。現職のハメネイ最高指導者(76 歳)は健康上の問題を抱えているとも 言われており、次期(第 5 期)メンバーから次の指導者が選出される可能性が高いことから、本選挙に対 する注目度は高い。 名称 機能 定員 任期 専門家会議 最高指導者の選出・監察・罷免権限を持つ 88 名 8 年(現在は特例で 10 年) 国会と同様、監督者評議会が立候補者の事前審査を行った結果、当初の立候補者数 801 人に対し、 最終的に審査を通ったのは 166 人であった。中でも注目されたのは、初代最高指導者ホメイニ師の孫で –3– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 あるハサン師(43 歳)が立候補したことである。しかし、改革派勢力と親交のある同師の当選を阻む動き があり、監督者評議会の審査においては「資格なし」と判断された。この事件はイラン国内のみならず各 国の紙面を賑わせた。決定を覆そうとしたロウハニ大統領の働きかけも功を奏さず、結局 2016 年 2 月頭 に発表された候補者リストからは、ハサン師のほか政府支持を表明する多数の法学者が落とされた。こう して、現実路線派のラフサンジャニ元大統領や改革派のハタミ元大統領など、ロウハニ大統領の推し進 める国際協調路線を支持するグループと、現政権の地位低下を目論む強硬保守派との攻防戦は最後ま で続いた。 ②専門家会議選挙の結果 しかし結果は、国会選挙同様にロウハニ政権に対する国民の強い信任感情を示すものとなった。テヘ ラン選挙区(定数 16)では、ラフサンジャニ師が約 390 万票中 230 万票を獲得するという圧倒的な支持を 得てトップに躍り出た。同じく現実路線派のロウハニ大統領は約220 万票を獲得し 3 位当選を果たすなど、 改革派、現実路線派、穏健保守派などをはじめとする政府支持派連合の圧勝であった。 一方の強硬保守派は、中心人物の一人でもあるジャナンティ師(監督者評議会議長)がテヘラン区で は唯一当選したものの、得票数では最下位の 16 位という結果だった(132 万票)。現専門家会議長のモ ハンマド・ヤズディ師(2015 年3 月の議長選でラフサンジャニ師に勝利)や、アフマディネジャド前大統領 をはじめ強硬保守勢力に対する絶大な影響力を持つとされるモハンマド・タキー・メスバーフ・ヤズディ 師は共に落選した。 2015 年 12 月には、最高指導者の選出にむけた検討委員会が専門家会議内に発足したと報じられて おり、今選挙を経て同会議における地位を確固たるものにしたラフサンジャニ師の意向が影響力を持つ ことになるだろう。 3.イランの石油政策に与える影響 <選挙結果のまとめ> 制裁解除を成し遂げたことに対する前向きの評価、経済回復への期待の高まりや、若年層の盛り上 がりなどを背景に、国会と専門家会議の両選挙において政府支持派連合が躍進した。 今選挙は、2017 年大統領選挙と次期最高指導者選出の行方を決める上で重要なステップであり、 国際協調路線をとる現ロウハニ政権にとっては追い風になったと言える。 国会選挙では、政府支持派と政府批判派の勢力が拮抗しているが、このどちらにも属さない独立派 勢力が今後どちらに転ぶかが鍵となる。 –4– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 <今選挙の評価と今後の展望> イランの統治体制は、図 1 で示したとおり、最終的な意思決定権を持つ最高指導者を筆頭に、その 下には機能別に多くの下部組織がぶら下がっている。今回選挙が行われたのはその一部に過ぎな い。選挙後も、強硬保守派が監督者評議会や軍部(革命防衛隊)などを通じて、最高指導者の権力 基盤の一部を形成していることには変わりはなく、制裁解除後のイランの舵取りを任されたロウハニ 政権にとっては、どうやって政府批判派勢力と協調・妥協していくかが課題となる。 とはいえ、穏健派が躍進したことによって、ロウハニ政権にとっては政治・経済面での改革がより推 進しやすい環境が整ったと言える。外資開放や、段階的に進められてきた補助金改革も今後一層 進むことになるだろう。 新しい石油契約方式 Iranian Petroleum Contract(IPC)については、2 月 22~24 日のロンドンでの説 明会がキャンセルされている。イラン側はビザの問題を原因として挙げているが、選挙を目前にした 強硬保守派が、外資に有利な契約修正に対する非難を強めたことが背景にあったとも言われている。 本選挙を終えて、IPC 説明会の開催に向けた調整が進む可能性もある。実際、国営石油会社 NIOC 内部では説明会の開催場所や時期に関する議論が進んでいるとの報道も見受けられる。 一方で、IPC の最終的な完成までには更に半年から 1 年を要するとの見解を表明する者もおり、先 が読めない。ただし、メフディ・ホセイニ契約改定委員長をはじめとする関係者からは、外資企業か ら提示される提案内容次第では相対契約の可能性があるとの発言も聞かれ、IPC の完成と発表を待 たずとも、契約の詳細は各企業との間で個別に交渉していく余地があることをイラン側は示唆してい るとも考えられる。 最後に、本選挙の結果がイランの増産凍結合意への姿勢を変える要因になるとは考えにくい。ザン ギャネ大臣をはじめ、イラン上層部は、制裁により「不当に」シェアを奪われたという意見を共有して いることや、増産を念頭に置いた 2016 年度予算案(前提原油輸出量:225 万 b/d)がすでに国会に 提出されていることもあり、増産への道を自ら閉ざす可能性は低い。今回の選挙で注目すべきは、 やはり次の大統領と最高指導者の選出に大きな影響を及ぼすという一点に尽き、万一イランの石油 政策の転換が起きるとすれば、上記二者の顔ぶれが揃うまで待たねばならないだろう。なお、2017 年の大統領選挙については、強硬保守派内部でカリスマ性のある指導者の不在が問題視されてお り、アフマディネジャド元大統領を再度担ぎ出そうという動きもある模様だ。 以 上 –5– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。