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東アフリカで導入が進むキャピタル・ゲイン税
更新日:2014/9/18 調査部:竹原 美佳 東アフリカで導入が進むキャピタル・ゲイン税 サブサハラの特に東アフリカの近年発見のあった資源国において、キャピタル・ゲイン税(譲渡 収益への課税)の適用が進んでいる。導入の目的は自国の地下資源からの利益の最大化にあ る模様。 サブサハラでは探鉱密度の低い、いわゆるフロンティア地域において探鉱に特化した中小独立 系石油企業が有望構造を発見し、中堅やスーパーメジャーに引き継ぐ探鉱・開発モデルが存在 するが、同法の適用が拡大することによりこの自然分業体制が崩れ、フロンティア地域における 探鉱の停滞につながりはしないかと懸念される。 ウガンダではキャピタル・ゲイン税適用を巡る係争や開発の遅延が生じている。モザンビークで はキャピタル・ゲイン税適用を巡る係争は起きておらず、税制変更の過渡期ではあったが現金と 物納(事業に必要かつ資源国の産業や国民への裨益にもつながる発電インフラへの投資)を受 け入れた興味深い事例がある。同国政府が投資促進(ビジネス)と国の発展のバランスを追求す る上で柔軟性を示した一例ではないかと思われる。 新興資源国が周辺国を参考に法制・税制の変更を行い、自国の地下資源からの利益を追求す る動きに対し、企業も周辺国の事例を研究し、適切なアドバイザーを選定の上、資源国との交渉 を含め適切に対応することが有効であると思われる。もっとも、課税の問題は一企業で対処でき ることには限度があり、アフリカへの投資を促進する上で、インフラ整備等に加え法的な投資環 境整備への公的支援が一層重要である。 1.キャピタル・ゲイン税とは キャピタル・ゲイン税とは譲渡収益(capital gain)に対する課税をさす。通常、不動産及び事業用動産 以外の譲渡収益は居住地国で課税するようだが、非居住者に対しても源泉地国の国内法規定にもとづ き課税される場合があるようだ。租税条約あるいは投資協定を結んでいない国におけるビジネスでは、 企業と政府当局との間で課税を巡り紛争になるリスク、つまりカントリーリスク(投資環境リスク)となり得る。 日本のアフリカにおける租税条約締結国はエジプト、ザンビア、南アフリカの三カ国のみであり、本稿で 取り上げる東アフリカ三カ国について、日本はモザンビークとは 2013 年 6 月に投資協定を締結し、ケニ アとは投資協定について交渉中、ウガンダとは未締結という状況にある。 –1– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 (1)資源国におけるキャピタル・ゲイン税導入の目的:自国の地下資源からの利益の最大化 本稿で扱うウガンダとモザンビークはいずれもキャピタル・ゲイン税という特別な税金を設定している わけではなく、譲渡収益を事業所得の一部と見なし、課税している模様である。EY Oil & Tax Guide 2014 によると、ウガンダは所得税法(ITA)の Section 89C(2)にもとづき税率 30%を課税している。モザン ビークについては 2012 年 12 月に所得税法を改正し、2014 年 1 月から非居住者の譲渡収益について 32%が課税されることになった模様である。本稿では詳述しないが、タンザニアにおいても税率 30%を課 税している。ケニアは過去に株式や資産売却に伴う譲渡収益に対し 30%課税していたが、1985 年に投資 を拡大する目的でこれを廃止した。しかしその後も同国は政情の不安定などにより投資は伸び悩んでお り廃止の意味がないという認識が生じたようだ1。またケニアにおいてキャピタル・ゲイン税を再度導入す る計画は世銀が作成を支援している石油マスタープランにおいて検討がなされている模様である。 資源国におけるキャピタル・ゲイン税導入の目的は自国の地下資源からの利益の最大化にあるようだ。 本稿で事例を紹介したキャピタル・ゲイン税はウガンダとモザンビークの税収の1割から 2 割にあたる決 して小さくない存在である。ケニアのケニヤッタ大統領は 8 月にナイロビで行われたインタビューにおい て、現在改正中の石油法にキャピタル・ゲイン税および超過利潤税(Windfalll Tax)を盛り込むことを検 討しており、導入により地下資源からの利益を最大化できると述べた。また隣国ウガンダは対応が不十分 で利益を多く失ったがケニアは公正でありつつも、正当な恩恵を受ける必要があると語っている。 表 1:東アフリカ三か国におけるキャピタル・ゲイン税導入の状況 税率 ウガンダ モザンビーク ケニア 備考 30% 2005年以降油田発見 2010年所得税法改正 32% 2010年以降深海ガス田発 見 導入予定 1985年譲渡収益への課税 停止(30%) 2012年以降油田発見 各種情報に基づき作成 –2– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 (2)キャピタル・ゲイン税とサブサハラのフロンティア地域における探鉱開発モデルの関係 ケニアの大統領が指摘する公正でありつつも正当な恩恵とは何を意味するのか。これはサブサハラ のフロンティア地域における探鉱開発モデルと関係があるのではないかと思われる。サブサハラのナイ ジェリア、アンゴラなどの主要産油国ではメジャーズが開発の主体である。しかし商業規模の発見がない か、あるいは探鉱密度の低い、いわゆるフロンティア地域では米、英、豪、加ベースの探鉱に特化した中 小独立系が探鉱を行い、有望構造を発見すると中堅やスーパーメジャーに一部あるいは全ての権益を 売却し、中堅以上がオペレーターとして探鉱を引き継ぐか、あるいは開発に移行するという探鉱・開発モ デルが存在する(図 1)。探鉱に比べ開発は巨額の投資が必要となり、中小企業は単独では開発に移行 させることは難しい。一方のスーパーメジャーも限られたマンパワーを小規模の探鉱に割くことは合理的 ではなく、自然と分業体制が成立している形となっている。このような分業により西アフリカのトランスフォ ーム・マージン(ガーナ東部からコートジボワール、リベリア、シエラレオネまで約 1,500km におよぶ大陸 縁辺部、図 2)などのフロンティア地域で探鉱が活性化したというプラスの側面もある。今後サブサハラで キャピタル・ゲイン税の導入が拡大することで分業体制が崩れ、フロンティア地域における探鉱の停滞に つながりはしないかと懸念される。 図 1:サブサハラにおける探鉱開発モデル 出所:「サブサハラの石油ガス事業における有機的なパートナーシップ」(石油・天然ガスレビュー、2013 年 3 月) –3– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 図 2:アフリカにおける国別原油生産量とフロンティア 出所:「Africa Oil Week への参加とサブサハラの注目エリアについて」(石油・天然ガスレビュー、2014 年 3 月) 2.ウガンダの石油産業における最近の事例 (1)ウガンダにおける油田開発の現状 Oil & Gas Journal によるとウガンダの原油確認埋蔵量(2014 年 1 月推計)は 25 億 bbl で商業生産は行 っていない。EIA によると石油消費は 1 万5000b/d で、全量輸入している。天然ガス確認埋蔵量(2014 年 1 月推計)は 1Tcf で商業生産および消費は行っていない。 2005 年以降同国の東アフリカ大地溝帯の西側に位置するアルバートリフト堆積盆地3 鉱区(EA1、2、3) において加 Heritage や豪 Hardman などの中小独立系が油田を発見した。現在これらの発見鉱区は英 Tullow Oil(以下、Tullow)、仏 Total、中 CNOOC の 3 社がそれぞれ 1 鉱区ずつオペレーターを務めて おり、統合開発を行う計画である。3 鉱区の確認埋蔵量は 17 億バレル程度とされる。2015 年末から 2016 年にかけて最終投資決定を行い、2018~20年頃の生産開始(プラトー生産20~23万b/d)を目指してお –4– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 り、石油輸出パイプラインのプレ FEED や、油田開発コンセプトの検討などの開発準備を進めている。し かしウガンダは後述するように製油所建設や Capital Gain 税の問題などにより、発見から 10 年が経とうと しているが、開発が遅延し、未だ最終投資決定に至っていない。 図 3:ウガンダにおける発見鉱区 出所「活発化する東アフリカ・リフト堆積盆の探鉱」JOGMEC 石油天然ガスレビュー2010 年 9 月 (2)製油所ならびに輸出パイプライン計画の現状 2012 年7 月に上流事業者の Tullow、Total、CNOOC は輸出パイプラインを含む油田開発計画をウガン ダ政府に提出した。その中には原油輸出パイプライン(総延長1,200~1600km、輸送能力20~25万バレ ル/日、パイプ口径 24 インチ~32 インチ〈600~810mm〉)建設計画が含まれていた。しかし、ウガンダ –5– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 政府は生産した原油は製油所を建設し、自国ならびに周辺国に供給することを主張した。ウガンダの製 油所計画は同国が加盟している東アフリカ共同体(EAC)の域内製油所開発計画“PRDS”(Regional Refineries Development Strategy)に基づいたもので、処理能力を 1 期 2 万バレル/日からベースケース で 6 万バレル/日に拡張し、さらに油田の追加発見に伴い 12~18 万バレル/日に拡張し、東アフリカ 域内に供給するというものである。2しかし、Tullow をはじめとする上流事業者は、油田開発からパイプラ イン建設を含めた総事業費は 140 億ドルにのぼり、ファイナンスを円滑に進めるためには収入見通しを 示すことができる輸出パイプラインの建設が不可欠であり、ウガンダ政府が希望する規模の製油所を建 設するとパイプラインの経済性が悪化し、ファイナンス組成が難しくなり、事業そのものが成立しないと主 張し、製油所の規模を 2~3 万バレル/日とすることを提案した。 2013 年4 月にウガンダ政府と事業者は製油所(3 万b/d 程度)の建設について上流事業者と合意した。 ウガンダ政府は製油所建設のリードスポンサーについて入札を行い、2014 年 6 月に韓国 SK、露 RT Global をショートリストした。3 年以内に 3 万 b/d で稼働を目指し、2019 年までに 6 万 b/d に引き上げる 他、205kmの製品パイプラインも建設する計画であり、投資額は25億ドルと試算されている。落札企業が 60%、残りをウガンダ政府が保有する PPP(Public-Private Partnership)方式3である。 石油輸出パイプラインについて、2014 年 5 月にケニア、ウガンダ、ルワンダ政府はウガンダからケニア 向け石油輸出パイプラインの運営委員会設置で合意し、6月には FSおよび基本設計の監理業務に関す る公募を行った。ウガンダならびにケニアにおける上流事業者は同運営委員会との協力について合意 している。以前はウガンダからタンザニアに向かうルートも検討されていたようだが、ウガンダHoima から ケニア北西部 Lokichar 堆積盆地を経由しケニア Lamu に向かうルートに固まった模様である。パイプライ ンは一つだが Hoima からウガンダとケニアの国境を第 1 区間、国境から Lamu を第 2 区間とする模様で ある。またパイプライン(総延長約 1,300km)建設に加え、Hoima・Lokichar・Lamu に石油貯蔵ターミナル を設置し、Lamu の石油貯蔵ターミナルから沖合の係留地までの 9km のパイプライン建設を行うようだ(図 4)。 –6– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 図 4:ウガンダ製油所、パイプラインルート位置(濃い緑色は EAC) (3)ウガンダにおける Capital Gain 税を巡る係争 事例①Heritage 2009 年 11 月、加 Heritage Oil(以下、Heritage)は伊 Eni に対しウガンダにおける発見鉱区(EA1、2、 3A)権益の 50%を譲渡することで合意した。しかしパートナーの Tullow が先買い権を行使したため、 Heritage は 2010 年 1 月に Tullow に対し 14 億 5000 万ドルで売却することで合意した。ウガンダの税務 当局(Ugandan Revenue Authority;URA)は Heritage に 3 億 1300 万ドルを課税した。税率 30%で計算す ると、ウガンダ政府は譲渡収益を 10 億 4300 万ドルと見なしたことになる。ウガンダは 2010 年に所得税法 を改正しており、Heritage は譲渡契約合意後の税制改正による課税は無効と主張し、支払いに応じなか った。ウガンダ政府はTullow に立て替えを求め、支払いが済むまで買収ならびにPS契約の承認を停止 した。Tullow は Heritage への課税分のうち 2 億 8300 万ドルをウガンダ政府に支払い、ウガンダ政府は 2012 年 2 月に PS 契約を承認した。 Tullow は Heritage に対して英国で返還請求を行った。2013 年 6 月、英ウェールズ州高等裁判所は Tullow の Heritage に対する 3 億 4580 万ドル(訴訟費用を含む)の返還請求を支持した。同年 10 月、 –7– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 Heritage は控訴したが、2014 年 7 月にロンドン控訴院は Tullow の Heritage に対する 3 億 4580 万ドルの 返還請求を支持する判決を下した。 表 2:ウガンダの石油産業における適用事例 対象資産 買収合意時期 売り手 合意額 買い手 課税額 Block EA1、EA2、E A3A(50%) Block EA1、EA2、E A3A(66%) 2010年1月 14.5億ドル Heritage Tullow Oil 3.13億ドル 2011年3月 29.4億ドル Tullow Oil CNOOC Total 4.72億ドル →4.07億ドル (未決) Tullow ウェブに基づき作成(2014 年 9 月現在) 事例②Tullow 2011 年 3 月、Tullow は Total および CNOOC に対しウガンダ発見 3 鉱区(EA1、2、3A)の権益各 33.3% を計 29 億 4000 万ドルで売却した。ウガンダ政府は Tullow に対し 4 億 7200 万ドルを課税した。税率 30% で計算すると、譲渡収益を 15 億 7000 万ドルと見なしていることになる。 Tullow は課税を不服とし、30%(1 億 4200 万ドル)を支払った上でウガンダの国税不服審判所(Tax Appeal Tribunal; TAT)に不服申し立てを行った。2014 年 7 月に TAT は Tullow に対し 4 億 700 万ドルを 課税、残額 2 億 6500 万ドルを支払うよう裁定した。ただし TAT は譲渡収益への課税の行使は EA2 のラ イセンス(PSA)承認と不可分であると指摘したが、ウガンダ政府は法律上の例外は適用できないとしてま だライセンスを発効していない。Tullow は今後 TAT に課税額の見直しを求めることに加え、キャピタル・ ゲイン税の問題に絡み EA2 のライセンス承認が保留されていることについて裁判所ならびに国際投資 紛争解決センター(ICSID)への提訴を検討しているが、一方でウガンダ政府との直接交渉による解決に も期待していると述べている。 –8– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 図 5:ウガンダの譲渡収益への課税(キャピタル・ゲイン税)を巡る係争の流れ 3.モザンビークの天然ガス産業における最近の事例 (1)モザンビークにおける天然ガス開発の現状 Oil & Gas Journal によると、モザンビークの天然ガス確認埋蔵量(2014 年 1 月推計)は 100Tcf であり、 生産量は154Bcf(LNG換算323万t、2012年EIA推計)である。生産の8割を南アフリカに輸出している。 Gulf Oil が 1957 年に Temane ガス田を、1961 年に Pande ガス田を発見した(いずれも陸上)。2000 年に Sasol がモザンビーク国営 ENH と契約を締結し、2004 年 2 月に Temane ガス田、2009 年 6 月に Pande ガス田の生産を開始した。生産したガスは南アフリカのセクンダ(Secunda)まで 865km、口径 26 インチの ガスパイプラインにより南アフリカに輸出され、Sasol 社化学工場に供給されている。 2010 年以降モザンビーク北部 Rovuma 堆積盆地の深海 2 鉱区(Area1・Area4)でガス田が発見されて いる。オペレーター各社のウェブサイトによるとArea1の推定埋蔵量は約50~70Tcfとされる。Area4 の原 –9– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 始埋蔵量(in-place)は約 80Tcf とされる。いずれの鉱区も液化事業を検討している。 Area1 は LNG1 期事業(液化能力 500 万ト/y×2 トレイン計 1000 万トン/y)について、2014 年の投資 決定を目指している。2013 年 12 月に Anadarko はタイ国営 PTTEP に対し LNG260 万t/年の販売につ いて preliminary supply agreement を締結した。また 2014 年 2 月に同社は 1 トレイン(生産能力 500 万ト ン/年)の約 3 分の 2 をアジアの需要家に向けて長期的に販売する旨の複数の基本合意書(HOA)を締 結したこと 2013 年第 4 四半期の決算報告書の中で明らかにした。Area4では Eni が FLNG(250 万 t/年 ×3 トレイン)を計画していたが、陸上の液化プラント建設に切り替えたと報じられている。 モザンビーク政府は国の発展に寄与する天然ガスの開発に前向きであり、2014 年 8 月に新石油法が 可決した。法律、税制などの枠組みが整ったことでモザンビークの LNG 事業は前進した。2014 年 10 月 15 日に大統領選挙を控えているが、与党Frelimo の Filipe Nyussi 前防衛相(LNG プラント建設予定地カ ボ·デルガード州出身)の当選が確実視されている。 (2)モザンビークにおけるキャピタル・ゲイン税 ウガンダと異なり、モザンビークの石油・天然ガス産業においてはキャピタル・ゲイン税を巡る係争は起 きていない4。前述の通りモザンビークは 2012 年に所得税法を改正したが、施行が 2014 年 1 月となった ため、過渡期には交渉ベースで課税が決まっていた模様で、以下にあげた事例は全て課税率が異な る。 事例①Cove Energy 2012 年 7 月、Cove Energy はタイ国営 PTT の探鉱開発子会社 PTTEP に対し 19 億ドルで企業売却を 行い、PTTEP は Area1 の上流権益 8.5%を取得した。モザンビーク政府は Cove Energy に 2 億 4000 万ド ルを課税した。課税率は 12.5%とされており、モザンビーク政府は譲渡収益を 18.8 億ドルと見なしたこと になる。 事例②Eni 2013 年 3 月、Eni はモザンビーク Area4 権益 20%(Eni の東アフリカ資産 28.57%売却に伴う)を CNPC に 42.1 億ドルで売却することで合意した。Eni CEO の Scaroni 氏(当時)はモザンビークを訪問し、ゲブー ザ大統領と面談、4 億ドルの税金支払いと LNG 液化基地建設予定地の Cabo Delgado 州に 75MW の発 電所を建設することを明らかにした5。 事例③Videocon – 10 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 2013 年 6 月、印 Videocon Mauritius Energy(以下、Videocon)は Area1 権益 10%を印 ONGC の海外探 鉱開発子会社 OVL と Oil India(OIL)に 24 億 7000 万ドルで売却した。モザンビークは Videocon に 2 億 2700 万ドルを課税したが、同国税務当局(Mozambique Tax Authority )は課税額算出根拠について明ら かにしていないと報じられている。6 事例④Anadarko 2013 年 8 月、Anadarko は Area1 権益 10%を印 OVL と Oil India(OIL)に 26 億 4000 万ドルで売却した。 モザンビークは Anadarko に 5.2 億ドルを課税した。Anadarko は 2014 年 3 月に支払った。税率 32%で計 算するとモザンビーク政府は譲渡収益を 16 億 2500 万ドルと見なしていることになる。 対象資産 買収合意時期 売り手 合意額 買い手 課税額 モザンビーク Area1(8.5%) 2012年6月 19億ドル Cove Energy PTT 2.4億ドル モザンビーク Area4(20%) 2013年3月 42.1億ドル Eni CNPC 4億ドル+発電 所 モザンビーク Area1(10%) 2013年6月 24.7億ドル Videocon ONGC/Oil India 2.27億ドル モザンビーク Area1(10%) 2013年8月 26.4億ドル Anadarko ONGC 5.2億ドル 4.キャピタル・ゲイン税導入を検討するケニア (1)ケニアにおける油田開発の状況 ケニアでは現在原油・天然ガスの生産は行われておらず Oil & Gas Journal において確認埋蔵量 は計上されていない。石油消費量は約 8 万 2000b/d(2011 年推計、米エネルギー省)で、モンバ サ製油所で原油を処理し、不足分の石油製品を輸入しているが同製油所は老朽化により閉鎖が検討 されている。天然ガスの消費はない。 Tullow やAfrica Oil などが同国北西部陸上のLokichar 堆積盆地で探鉱を行なっており2012 年 以降 Block 10BB の Ngamia など複数の有望構造を発見している。Tullow は Lokichar 堆積盆地 – 11 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 の推定資源量(gross mean resources)は約 6 億バレルでさらに 10 億 bbl のアップサイドポテン シャルがあるとしている。前述の通り、ウガンダからケニア向けの石油輸出パイプライン計画は Lokichar を経由することになり、 Tullow をはじめとするケニアにおける上流事業者は、関係国政府 が設置したパイプライン運営委員会との協力について合意しており、Tullow はウガンダ同様 2015 年末ま たは 2016 年の投資決定を目指している。 (2)石油法改正中、キャピタル・ゲイン税導入検討 同国北西部の South Lokichar Basin で Tullow が油田を発見、間もなく開発に移行する見通しである。 ケニアの石油法は 1986 年に制定されたもので実情に合わせ法的枠組みを改正している。2013 年 11 月 に可決する見通しであったが 2014 年 6 月に同国エネルギー省は議会可決は 10 月の見通しと語ってい る。 5.キャピタル・ゲイン税への対応に関する考察 本稿を執筆しようと考えたきっかけはキャピタル・ゲインについて生じた疑問である。資源国が、自国 の地下資源を発見した企業が開発を行わずに巨額の譲渡収益を得ることについて、事業所得と見なし て課税する流れは避けられないかもしれない。しかし探鉱に特化したキャピタル・ゲイン追求型の企業の 売却と異なり、開発に向けた追加投資やファイナンスを行う上で財務基盤を強化するなどの理由で部分 的な売却を行う場合、譲渡収益の評価を前者と同列に扱うことが果たして公平と言えるのか、また後者の 譲渡収益の評価は複雑となり、ウガンダのように係争につながるのではないかと感じる。 モザンビークにおける Eni の事例は現金とともに、事業に必要かつ資源国の産業や国民への裨益に もつながるインフラへの投資(物納)を受け入れた興味深い事例である。同国政府が投資促進(ビジネ ス)と国の発展のバランスを追求する柔軟性を示す一例ではないかと思われる。資源国が周辺国を参考 に法改正やキャピタル・ゲイン税を導入しようとする動きに対し、企業も周辺国の事例を研究し、適切なア ドバーザーを選定の上、資源国と交渉を行うことが有効であると思われる。もっとも、課税の問題は一企 業で対処できることには限度があり、企業はカントリーリスク軽減のために自国政府に対し投資協定締結 など投資環境整備に向けた働きかけを行っていく必要があるのではないかと思われる。また日本政府は 2013 年 6 月に行われた TICADⅤ(第 5 回アフリカ開発会議)において今後 5 年で ODA1.4 兆円を含む 最大 3.2 兆円の官民の取り組みでアフリカの成長を支援することを表明しているが、アフリカへの投資を – 12 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 促進する上で、インフラ整備等に加え法的な投資環境整備への公的支援が一層重要であると感じた。 主な参考資料 日本の租税条約の現状 http://www.taxlabo.com/kokusaikazei/sozeijoyaku.html 投資の相互の自由化、促進及び保護に関する日本国政府とモザンビーク共和国政府との間の協定(外 務省、平成 25 年 6 月 1 日 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page5_000168.html 日・ケニア投資協定交渉第 2 回会合の開催(結果概要) 外務省、平成 26 年 7 月 17 日 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_001074.html Today’s Accountant Taxation of Transfers of Oil Assets- Part II http://todaysaccountant.com/index.php/category-financial-reporting-awards/84-taxation-of-transfers-of-o il-assets-part-ii CAPITAL GAINS TAX - THE NEW RESOURCE NATIONALISM? (Oil Council) http://www.oilcouncil.com/expert_insight_articles/capital-gains-tax-new-resource-nationalism Global Oil and gas tax guide 2014 (EY June,2014) 1 PON2014/8/20 EAC は 2001 年に発足、加盟は 5 か国(ウガンダ、ケニア、タンザニア、ルワンダ、ブルンジ)で 2005 年に関税同盟を締結している。 2 PPP:公共サービスの提供に民間が参画する手法を幅広く捉えた概念で、民間資本や民間のノウハウを活 用し、効率化やサービスの向上を目指すもの(「PPP/PFI 手法の整理とコンセッション方式の積極的導入の ための展開について」国土交通省) 4 資源メジャーRio Tinto の Riversdale 買収(2011 年 41 億ドル)については係争となっている。 5 Eni2013 年 8 月 13 日プレスリリース 6 “Mozambique: U.S.$227 Million in Capital Gains Tax“(Allafrica 2014/2/17) 3 – 13 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。