...

第3回 国際カード決済のしくみ(2)

by user

on
Category: Documents
39

views

Report

Comments

Transcript

第3回 国際カード決済のしくみ(2)
第
3
回
キャッシュレス決済入門
山本 正行
Yamamoto Masayuki 山本国際コンサルタンツ代表
関東学院大学経済学部経営学科講師、決済サービス事業の企画、戦略立案を専門
とするコンサルタント。消費生活相談員を対象とした研修も実施。講演、執筆多数。
国際カード決済のしくみ ⑵
ー取引の流れとチャージバックー
前回に続き、国際カード決済のしくみを解説
4者間取引では、イシュアーと加盟店間、お
します。トラブルを解決する際に理解しておく
よびアクワイアラーとカード利用者間には直接
べき取引の流れやチャージバック、イシュアー
の契約関係がないという特徴があります。また、
の識別方法など重要な事柄について説明します。
このしくみではイシュアーとアクワイアラーが
同一会社ということもあり得ます。
4者間取引
国際カード取引の流れ
国際カードの取引は、イシュアー、カード利
用者、アクワイアラー、加盟店の4者で構成さ
国際カードの取引は、①オーソリゼーション
れます(4者間取引)
。
②売上処理
(クリアリング)③清算
(セツルメン
国際決済ブランドは、イシュアーとアクワイ
ト)
の3つのステップで完結します
(図2)
。
①オーソリゼーション
アラーの販売代金の清算や決済ネットワークの
運営などに特化しており、利用者や加盟店との
オーソリゼーションとは、加盟店がカード決
接点を持ちません。その特殊な位置づけから、
済で商品・サービスを販売することをイシュアー
イシュアーとアクワイアラーをつなぐネット
に承認してもらうための処理をいいます。店舗
ワーク装置ととらえることもできます。そのた
の POS 装置などに付随するカード読取機
(決済
め、国際決済ブランドは取引の構成要素から除
端末)
で処理しますが、カード番号、決済金額な
外して考えます。
どの情報がアクワイアラーを通じてイシュアー
これに決済代行業者が加わることもあります
に送られます。イシュアーではアクワイアラー
が、決済代行業者はその業務内容によってアク
から届いた情報を見て瞬時に取引を判定
(承認 /
ワイアラーの委託先、あるいは加盟店の一種と
不承認)し回答します。アクワイアラーはその
位置づけられます。そのため、決済代行業者が絡
回答を即時加盟店に知らせます。
んでも4者間取引の原則は変わりません
(図1)
。
国際決済ブランド
国際決済ブランド
メンバー契約
4者間取引
アクワイアラー
(決済代行業者)
メンバー契約に
従い協力
加盟店契約
加盟店
国際決済ブランド
はアクワイアラー・
イシュアー間の販
売代金を清算
アクワイアラー
❷
❸
カード会員規約
応答:承認/否認
売上処理
売上処理
売買契約
売上処理
セツルメント
支払
(決済代行業者)
加盟店
イシュアー
取引の承認要請
❶
イシュアー
国際ブランド
❶オーソリゼーション
❷売上処理(クリアリング)
❸清算(セツルメント)
カード利用者
図1 国際カードの4者間取引
図2 国際カード取引の流れ
2015.10
国民生活
30
キャッシュレス決済入門
②売上処理
(クリアリング)
代金を支払う処理をいいます。清算の段階で初
めて資金が動きます。
売上処理は、加盟店がアクワイアラーに、ア
クワイアラーがイシュアーに、カード決済によ
実際の支払いは、国際決済ブランドの指定す
る売上情報を提示
(売上提示)
し、代金の支払い
る銀行口座を介して行われます。まず、イシュ
を求める手続きです。
アーの銀行口座から代金が即座にアクワイア
オーソリゼーションで国際カード決済の利用
ラーの銀行口座に振り込まれます。最後に、ア
を承認された加盟店は、販売代金を得るために
クワイアラーから加盟店への販売代金の支払い
アクワイアラーに販売代金を請求します。加盟
が行われ、加盟店は販売代金を得ます。
店の売上処理にはいくつかの方式があります。
伝票請求とチャージバック
例えば、加盟店の店員が決済端末を操作して売
上処理を行う方式、POS システムが自動処理す
アクワイアラーの売上提示のほとんどが正常
る方式などです。インターネット決済では、販売
なものですが、中には盗難・紛失届のあるカー
事業者のウェブサイトに組み込まれたアプリケー
ドが悪用されたり、利用者本人に覚えのない取
ションにより自動処理されるのが一般的です。
引などが含まれないとは限りません。万一その
次にアクワイアラーがイシュアーに対して売
ような疑いのある売上処理を受けた場合に、イ
上処理を行います。通常、アクワイアラーから
シュアーは、①伝票請求 ②チャージバックの2
イシュアーに対する売上処理は、国際決済ブラ
つの手続きにより、取引内容の調査や支払済み
ンドが運営する決済ネットワークで行われます。
代金の払い戻しを行います
(図3)
。
③清算
(セツルメント)
これらの処理は国際決済ブランドがネット
ワーク機能の一部として用意しており、イシュ
清算とはイシュアーがアクワイアラーに販売
伝票請求・チャージバック
加盟店
Ⅰ売上提示
国際決済ブランド
チャージバックの主な理由
金額相違、会員利用覚えなし、
サービス未提供(商品未着)
、
取消済継続課金、
など
(理由はイシュアーがリーズンコードで指定)
(決済ネットワーク)
Ⅱ 売上提示
Ⅲ 伝票請求
(リトリーバルリクエスト)
Ⅳ 伝票請求回答※1
アクワイアラー
イシュアー
Ⅴ チャージバック
Ⅵ チャージバック回答※1
チャージバック回答
1. 受け入れ
2. 受け入れ拒否※3
(再提示)
※1 伝票請求、チャージバックには理由ごとに回答期限が設定されており、
期限内に回答がない場合は当該売上についてアクワイアラーの
チャージバック受け入れが確定する。
※3 受け入れ拒否の後のプロセスの詳細は国際決済ブランドにより異
なるが、最終的には国際決済ブランドによる裁定手続きに移行する
ことができる。
● 疑義ある売上提示に対し、
イシュアーは伝票請求
(リトリーバルリクエスト)
を行い
アクワイアラーに取引情報を請求することができる
● アクワイアラー/加盟店による瑕疵が明らかな売上について、
イシュアーはチャージバックを
行うことができる
● チャージバックプロセスが可能な取引は以下に限定される
ビザ:国際取引および国内相互取引
マスターカード:国際取引のみ
(2015年以降国内相互取引も段階的に可能になる予定)
● 伝票請求、チャージバックは国際ブランドと直接契約がある一次カード会社が実施するため、
二次カード会社は一次カード会社と連携(依頼)して実施する
図3 伝票請求とチャージバック
2015.10
国民生活
31
問い合わせ
利用明細※2
カード利用者
※2 クレジットカードの利用明細
「Ⅱ 売上提示」
を受けてイシュアーがカード利
用者に送付(クレジットカードの場合)。盗難/
紛失カードの場合など、イシュアーがカード
利用者への請求前にチャージバックすること
も多い。デビット、プリペイドでは「Ⅱ 売上提
示」を待たずにオーソリゼーションで利用額
を仮確定して口座(プリペイドの場合はバ
リュー残高)
から引き落とし処理を行う。
キャッシュレス決済入門
アーの担当者が専用の情報端末などから必要事
プロパーカード
項を打ち込んで処理します
(図3)。
①伝票請求
(リトリーバルリクエスト)
サインパネル
伝票請求とは、
売上提示に疑義がある場合に、
い合わせるための処理をいいます。伝票請求を
サインパネル
ATM用
ロゴなど
連絡先
(イシュアー)
イシュアーがアクワイアラーに詳しい内容を問
提携カード
ATM用
ロゴなど
連絡先
連絡先
(提携企業) (イシュアー)
カード裏面イメージ
受けたアクワイアラーは、国際決済ブランドが
図4 カード裏面に記されるイシュアーの連絡先
定める期限内に該当する取引に関する情報をイ
シュアーに提示しなければなりません。通常は
あっても認められません。
加盟店でカードを利用した証拠となるレシート
なお、日本国内では次の条件に当てはまる取
などが示されます。レシートにはカード利用者
引についてのみ伝票請求・チャージバックが可
本人による署名があるので、それを確認するこ
能です
ともできます。インターネット取引ではレシー
・ビザの取引すべて
トが存在しないため、取引に関する補足情報な
・マスターカードの取引のうち海外アクワイア
どがイシュアーに提示されます。
ラーを経由するもの
②チャージバック
これに該当しない取引については伝票請求、
チャージバックとは、イシュアーが問題取引
チャージバックができないため、イシュアーと
と判断した売上提示について、アクワイアラー
アクワイアラーが個別に協議するなどして対応
に代金の払い戻しを請求する処理をいいます。
を決めています。
チャージバックの際にイシュアーは理由を添
正しいイシュアーの識別方法
える必要があります。理由には
「本人利用覚えな
し」
「商品未達」
「盗難・紛失カード」
など国際決済
国際カードの取引では、アクワイアラーや加
ブランドごとに数十種類以上設定されており、
盟店の所在が海外の場合も含まれます。また詐
リーズンコードと呼ばれる番号で識別されます。
欺が疑われる取引などでは、加盟店の所在が分
チャージバックを受けたアクワイアラーはイ
からず連絡できないこともあります。そのよう
シュアーに対して、国際決済ブランドが定める
な場合には、イシュアーの協力を得て調査を進
期限内に「受け入れ」
または
「受け入れ拒否」
のい
めることが重要です。
ずれかの回答をすることが義務づけられていま
国際決済ブランドはイシュアーに連絡先の表
す。「受け入れ」
の場合は、該当する売上代金が
示を義務づけており、カードの裏面には必ず連
直後の清算処理でアクワイアラーからイシュ
絡先が表示されています
(図4)
。
アーに払い戻されます。
「受け入れ拒否」
の場合
イシュアーのロゴやブランドのみが表示され
は代金の払い戻しは行われません。受け入れら
る
「プロパーカード」の場合、裏面にはイシュ
れない場合も、アクワイアラーの回答をもって
アー1社のみの連絡先が記されています。イ
チャージバック処理は終了します。
シュアーの提携先企業の名称やロゴなどが表示
伝票請求、チャージバックには実施できる期
される
「提携カード」
の場合は、イシュアーと提
限が定められています。期限はチャージバック
携先の2つ
(場合によってそれ以上)
の連絡先が
の理由により異なりますが、売上提示からおお
記載されるので、問い合わせる場合は注意が必
むね 90 日程度です。期限を過ぎた売上提示を
要です。提携先には流通業、メーカー、航空会
対象とするチャージバックは、いかなる理由が
社、ホテル、学校、団体組織などさまざまです。
2015.10
国民生活
32
Fly UP