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“キャッシュレス決済”の相談を 受けるための心構え

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“キャッシュレス決済”の相談を 受けるための心構え
第
9
回
キャッシュレス決済入門
山本 正行
Yamamoto Masayuki 山本国際コンサルタンツ代表
関東学院大学経済学部経営学科講師、決済サービス事業の企画、戦略立案を専門
とするコンサルタント。消費生活相談員を対象とした研修も実施。講演、執筆多数。
“キャッシュレス決済”
の相談を
受けるための心構え
今回は、さまざまなキャッシュレス決済サー
◦取引類型
(どういう取引だったのか)
ビスが絡む消費生活相談を受けるための心構え
◦支払方法
(どの支払手段をどのように
について述べたいと思います。
使ったのか)
相談内容の複雑化
という 3 つのポイントです。
近年、キャッシュレス決済が絡む相談内容が
「きっかけ」
は、バナーをクリックしたら高額
とても複雑化してきたと感じます。私が相談を
請求された、ネットで探したアルバイトで登録
受けるようになった今から6年ほど前、相談内
料を請求された、出会い系サイトでポイントを
容は、国際クレジットカードで高額決済してし
買い続けてしまった、などさまざまです。いず
まった、出会い系サイトの利用のためサーバ型
れもその取引の性質を知るうえで重要です。
「取引類型」
は、商品・サービスの購入、投資、
電子マネーを買い続けてしまったなど、型には
まった事例が多かったように思います。しかし、
不当請求などです。例えば商品・サービスの購
今では1件の相談に国際クレジットカード、サー
入の場合は販売業者やサービスの提供者がいる
バ型電子マネー、コンビニ収納、キャリア決済
はずです。投資の場合はそれをあっせんする人
など複数の決済手段が絡むようになり、決済手
や業者がいます。不当請求では、最近はコンビ
段の使われ方も多様になりました。従来のパソ
ニで電子マネーを買わせる手口が多く、これは
コンを使ったインターネット決済に加え、スマ
明らかな詐欺といえるでしょう。
「支払方法」
は、
用いられた決済手段の特定と、
ホで支払う場面が激増しました。特にスマホは
さまざまなアプリケーションやサービスが介在
それを
「どのようにして支払ったのか」
が重要で
し、操作しているうちに相談者が意識せずに支
す。以下に国際クレジットカードの場合を例に
払ってしまうこともあります。そもそもどのよ
説明します。
相談者が
「クレジットカードで支払った」と申
うな決済手段が使われたのかも分かりにくく難
告した場合、例えば
解です。
●重要ポイント1 情報収集
◦店舗でカードを渡して支払った。
複雑化した相談に適切に対応することは極め
◦ EC サイトでクレジットカード番号を入
て難しいと言わざるを得ないと思います。しか
力して支払った。
し、忘れてはならないことは、原点に立ち帰っ
◦スマホで事前に登録していたクレジット
て可能な限り多くの情報を収集することです。
カードで支払った。
つまり、
などの場面が想定されます。クレジットカード
◦きっかけ(相談者が取引に巻き込まれた
の場合は、一括払いかリボ払いかも確認する必
きっかけ)
要があります。
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さらに相談者がクレジットカードと思ってい
式支払手段発行者など)
ても、実際に使ったカードは国際プリペイド
(au
◦決済代行業者
WALLET やソフトバンクカードなど)だった、
◦アクワイアラー
(国際カード取引の場合)
ということもあり得ます。
◦決済サービスを提供するサイト業者
決済時の販売業者の行動や販売サイトでの決
(PayPal、ヤフーなど)
済方法もできる限り確認することが望まれます。
例えば販売業者と対面して支払った場合は、
などがその例です。
当事者の中でも、イシュアーへのアプローチ
◦決済端末を使ってカードを処理した。
は重要な意味を持ちます。例えば販売業者と連
◦販売業者がパソコン画面を操作してカー
絡が取れないトラブルもあります。イシュアー
ド番号などを打ち込んで処理した。
はクレジットカード、デビットカード、前払式
◦販売業者がスマホを操作してカードを
支払手段の商標などが、いつ、どこで、いくら
処理した。
利用されたのか、あるいはまだ利用されていな
◦販売業者がカードをどこかに持って行っ
いのか、などの状態をシステムから確認するこ
て見えないところで処理した。
とができますので、決済に介在する決済代行業
など、販売業者の行動パターンがいくつかあり
者や販売業者などの情報を入手して提供してく
ます。
れる場合もあります。
EC サイトやスマホで支払った場合は、
イシュアーとは冷静なやりとりを
◦クリックするだけで支払った
(事前にアカ
相談員はイシュアーに対し、相談者に対する
ウントに登録していたカードで支払った)
。
請求をいったん止めてもらうなどの交渉を行う
◦カード番号を自分で入力して支払った。
ことも少なくないと思います。多くの相談員は
◦請求メールが来て、メールにある URL を
適切にイシュアーと交渉していると思います
クリックした後でカード番号を入力した。
が、その過程で一部の相談員から
「イシュアー
など、これにもさまざまなパターンがあります。
が対応してくれない」という相談を受けること
このような確認は、一見意味が無いように思
があります。他方、私はイシュアーから
「相談
えるかもしれませんが、支払手段やそれに絡む
員から無茶なことを言われて困る」という別の
事業者などを特定するうえでとても重要です。
相談を受けることもあるのです。
相談者から時系列に一つ一つ聞き取ってまとめ
あえて中立的な視点で述べますと、そういう
ることも問題解決に役立つはずです。
相談の場合は、イシュアーと相談員の双方に問
●重要ポイント2 題があると感じています。
当事者の見極めとアプローチ
相談員のなかには、相談者を救いたい気持ち
から、まれに感情が高ぶってイシュアーを攻め立
このように原点を確認し情報を整理していく
と、当該取引に関与する重要な当事者が誰なの
ててしまうようなこともあるかもしれません。
かがみえてきます。
しかし、相談員には感情的になることなく、落ち
着いて事実関係を淡々とイシュアーに伝えるこ
◦販売業者(取引上は加盟店。商店、サイ
とが求められます。例えばイシュアーに対し、
ト業者、個人などさまざま)
チャージバックなど相談者のための具体的な処
◦イシュアー
(クレジットカード会社、前払
理を求めることは避け、まず、あらゆる情報を時
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系列に正確に伝えるよう心掛けてください。そ
はイシュアーだけでなく、アクワイアラー、決
して、イシュアーから取引の状態や種別など、
済代行業者、加盟店
(販売業者)
など複数存在し
相談者も認識していない情報をできる限り聞き
ます。相談員はそれら事業者の利害関係を理解
出してください。身に覚えのない不当請求だと
するよう心掛けるとよいでしょう。
思っていた請求が、調べてみたら実は相談者本
国際カードの四者間取引では、問題の根源は
人が使ったものだった、というようなこともあ
販売業者にあり、決済代行業者とアクワイア
り得ます。
ラーは当該取引から間接的に利益を得ます。利
益を得るアクワイアラーと販売業者に対し、不
当事者の利害関係を
理解すること
利益を被るイシュアーと相談者、という関係な
のです
(表)
。
国際カードの四者間取引では、販売業者が商
イシュアーと相談者は問題取引における共通
品を送らない、額面どおりにサービスを提供し
の被害者であり、利害を共有する仲間です。で
ないなど、加盟店
(販売業者)
に起因する問題が
すからイシュアーと相談者のあっせんを行う相
多く、その責任はまず加盟店にあります。そし
談員は友好的な関係でなければなりません。ど
て加盟店を適正に管理できていないアクワイア
ちらか一方が他方に被害を押し付けるのではな
ラーの責任も重大です。ではイシュアーはどう
く、協力して解決すべき関係です。イシュアー
かといえば、オーソリゼーション*で取引を承
と相談員がもめてしまうことは、問題解決を遅
認している以上、一定の責任は認めざるを得な
らせかねないまずい状態なのです。
いでしょう。しかしオーソリゼーションにより
本稿は相談員を対象とすることからイシュ
技術的に問題取引を完全に排除できるわけでは
アーなどの事業者に対するメッセージは控えま
なく、しかもいったん承認すれば、加盟店・ア
すが、一部、イシュアーの対応にまったく問題
クワイアラーに対する代金の支払いからイシュ
がないとはいえないケースも認められます。イ
アーは絶対に逃れることはできません。イシュ
シュアーは相談員を敵視せず、真摯に相談内容
アーはアクワイアラーに対しチャージバック請
に耳を傾け善処すべきです。相談者はイシュ
求を行うなどして、支払済みの代金の差し戻し
アーにとって大切なお客様の一人であり、相談
を受けられることがあります。しかしアクワイ
者の問題を伝える相談員はイシュアーにとって
アラーがそれを拒んで返金を認めなければ、そ
お客様の問題を解決するための重要なメッセン
の時点でイシュアーは被害者になります。
ジャーなのです。
しん し
そのため、相談者のあっせんを行う相談員は
抱え込まずに相談する
イシュアーに責任を問うことよりも、問題解決
に向けて調査や情報提供などの協力を得るよう
複雑化したキャッシュレス決済サービスでは、
心掛けることが重要なのです。
イシュアーなどの当事者だけでは対処できない
先にも述べたとおり、問題に関与する当事者
トラブルの根源
加盟店
(販売業者)
表
利益を得る当事者
問題や、従来の概念とは異なる新しいしくみが
用いられた可能性もあります。相談者の理解を
不利益を被る当事者
超えるような内容の場合は、
抱え込むことなく、
◦加盟店
(販売業者)
◦アクワイアラー
◦イシュアー
◦決済代行業者(決
◦消費者(相談者)
済代行業者が介
在する場合)
早めに専門的な教育を受けたスタッフや専門家
に相談するよう心掛けてください。
* 加盟店がカード決済で商品・サービスを販売することをイシュアー
に承認してもらうための処理。
キャッシュレス決済トラブルの利害関係
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