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Title 耳鼻咽喉科における「継承と発展」 Author(s) 中島, 庸也 Journal
Title Author(s) Journal URL 耳鼻咽喉科における「継承と発展」 中島, 庸也 歯科学報, 109(6): 556-557 http://hdl.handle.net/10130/1182 Right Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ 556 耳鼻咽喉科における「継承と発展」 中 島 庸 也 市川総合病院耳鼻咽喉科 2)小顎症や中 等 症 以 下 の OSAHS,あ る い は 1.医療連携で行う睡眠時無呼吸症候群の診療 CPAP 脱落例では口腔内装置(oral appliance:OA) 東京歯科大学市川総合病院耳鼻咽喉科では睡眠時 が適応となり,歯科口腔外科講座へ治療を依頼して 無呼吸症候群(SAS) の治療に取り組み始めて,10年 いる。さらに協同研究として,咬合不全に対して行 という月日が経った。潜在的には約200万人いると う顎矯正手術が睡眠呼吸状態に及ぼす影響を検討し 言われる SAS 患者の掘り起こしが進み,当科にお ている。今後の sleep surgery への足がかりとして いても SAS 関連の患者は年々増加傾向にある。こ さらなる研究が期待される。 の症候群は多因子疾患であり,診療には肥満・鼻呼 3)閉塞性でなく,チェーン・ストークス呼吸症 吸障害・小下顎・循環器疾患・代謝疾患などは当然 候群などの中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAHS) で で,さらに睡眠障害や精神障害にも対応を迫られる は心疾患や脳血管障害が原因となるため,循環器科 ため,幅広く医療連携をとる必要が生じてきてい を始めとした各科での原疾患の治療や BiPAP(二相 る。 式気道陽圧ユニット) を使った無呼吸の治療が必要 となる。 院内医療連携(図1) : 院外医療連携(図2) : 1)現在,いびき無呼吸専門外来へ来院した患者 は終夜睡眠ポリグラフ(PSG) を基本とした診断の 1)OSAHS 疑いの場合,睡眠障害である可能性 後,重症の閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAHS) で もあり,睡眠リズム障害や周期性四肢運動障害・ナ は治療のゴールドスタンダードである経鼻的持続陽 ルコレプシー・薬物性不眠などの鑑別が重要とな 圧呼吸(CPAP) を処方し,気道系の狭搾部位が存在 る。これら専門性の高い診療は慈恵医大青戸病院や する場合は鼻内手術や咽頭形成術(UPPP) を考慮し 国立国際医療センター国府台病院との連携をとり睡 ている。 眠障害の患者についても対処できる体制をとってい る。 図1 院内医療連携 図2 ― 2 ― 院外医療連携 歯科学報 Vol.109,No.6(2009) 557 2)一方,OSAHS で重要な 肥 満 対 策 に つ い て は,これまで栄養指導を行うも自主管理であり十分 な成果を挙げられなかった。今回,09年秋より八幡 にあるスポーツクラブと連携して栄養・運動管理に て体力向上,体脂肪量減少を促し,OSAHS の改善 を図る計画が実行の運びとなった。今後の成果が期 待されるところである。 3)最後に医師,歯科医師,技師における臨床ス キルアップ,および教育については川崎の太田総合 病院睡眠科学センターとの連携が効果を発揮してい る。 図 今後これらの医療連携をさらに充実発展させ,よ 好酸球性副鼻腔炎の術前 CT 所見 篩骨洞,嗅裂を中心に陰影を認める り高度な医療をめざしていきたい。 2.難治性副鼻腔炎:好酸球性副鼻腔炎への挑戦 症例提示 慢性副鼻腔炎の治療は,保存療法としてマクロラ 28歳男性。2年前より嗅覚障害,鼻閉にて受診し イド(少量長期投与) 療法が用いられるようになり, た。両側鼻茸を認め,既往症に喘息があった。血中 治療効果が飛躍的に向上した。また手術治療におい 好酸球数は9. 6%と増多しており,CT 上,篩骨洞 ても1980年代より内視鏡手術が導入され,術後にマ を中心に陰影を認めた(図) 。本症例に対し,内視鏡 クロライド療法の併用により高い治癒率が報告され 下鼻副鼻腔手術を施行し,術中に採取した鼻茸より ている。一方で,内視鏡手術とマクロライド療法を 著明な好酸球浸潤を認めた。術後は嗅覚も改善して 併用しても容易に再発する難治性副鼻腔炎の存在が おり現在のところ経過良好であるが,患者にも再発 認識されるようになり,症例検討にて気管支喘息を しやすい病態であることを説明し,長期における経 合併し,副鼻腔組織への好酸球浸潤が優位であるこ 過観察を行っている。 とが報告された。その後,2001年に当教室から難治 いまだ好酸球性副鼻腔炎の病態については不明な 性副鼻腔炎の代表的病態として,好酸球性副鼻腔炎 点が多く,明確な定義や診断基準は確立されていな が初めて提唱された1)。 い。現在,我々は,慈恵医大関連施設と共に,慢性 好酸球性副鼻腔炎の臨床的特徴として,成人発 副鼻腔炎に対する手術のガイドラインを作成するた 症,両側罹患で多発性浮腫状の鼻茸,嗅覚障害,喘 め基礎的なデータ収集,慢性副鼻腔炎症例の術後成 息の合併が多い,粘稠性分泌物の貯留,手術療法に 績,予後についての検討を目的とし,2007年4月か 抵抗性(鼻茸の易再発,治癒不全例) ,ステロイド全 ら2008年3月までに施行された慢性副鼻腔炎手術症 身投与が著効することが挙げられている(表) 。 例の前向き検討を行っている。この調査の中で,血 中好酸球数,アレルギー検査,手術で採取した副鼻 腔貯留物と副鼻腔粘膜(鼻茸) の病理学的検討を行 表 好酸球性副鼻腔炎の臨床的特徴 1.成人,両側罹患で多発性の浮腫状の鼻茸 2.中鼻甲介付近の病変が多く,下鼻甲介は所見が少ない 3.嗅覚障害例が多い 4.粘稠性分泌物(ニカワ状,多数の好酸球) の貯留 5.鼻アレルギーの関与が少なく,IgE 値はさまざま 6.喘息,アスピリン喘息に伴うことが多い 7.血中好酸球の増加,血中・鼻粘膜 ECP 濃度が高値 8.篩骨洞病変が中心だが,汎副鼻腔病変例も多い 9.治療とくに手術治療に抵抗性 10.ステロイドの全身投与が有効 い,術前後の CT 画像の比較,術後早期及び晩期に おける鼻内所見及び自覚症状スコアを評価してい る。この臨床検討が,好酸球性副鼻腔炎の病態解 明,診断基準の設定,効果的な治療法の確立に反映 されることを期待したい。 文 献 1)春名真一,鴻 信義,柳 清,森山 腔炎.耳展 44:195∼201,2001. ― 3 ― 寛:好酸球性副鼻