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東京都23区における孤独死の実態(PDF:1284KB)

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東京都23区における孤独死の実態(PDF:1284KB)
東京都23区における
孤独死の実態
東 京 都 監 察 医 務 院
緒
言
この資料は,平成22年11月6日に開催された第19回東京都監察医務
院公開講座「東京都23区における孤独死の実態」の講演内容を元に,
公開講座に参加されなかった都民の皆様にも,広くその内容を知って
いただけるように,編集したものになります。
その講演での発表内容は,社会的に注目されている「孤独死」につ
いて,監察医務院の検案・解剖データから東京都23区における孤独死
の実態について統計的に集計したものになります。監察医務院では
「孤独死」を「異状死の内,自宅で亡くなられた一人暮らしの人」と
定義しています。この定義に基づき,東京都23区での孤独死の発生件
数,発生率,死後発見の平均日数を提示し,区別の孤独死発生率と,
その分析結果の一部についても公開講座で発表しましたので,本資料
の中でも,これらを掲載しております。
孤独死問題に興味関心のある都民の皆様,それぞれの地域で孤独死
問題に取り組んでおられる方,孤独死対策に関与されている都や区の
職員の方に,本資料が有効に活用されることを期待しております。
平成22年12月9日
東京都監察医務院
非常勤監察医
金涌佳雅
東京都23区における孤独死の実態 ~1.はじめに~
1
1.はじめに
誰にも看取られずに死後発見されるという孤独死が社会的に大変注目されて
います。監察医務院でも,孤独死についての論文発表 *1や公開講座*2を,以前よ
り実施してきたところですが,孤独死問題に関する行政上の対策に資すること
を目的とした孤独死の統計的実態を把握するために,平成19年5月より監察医務
院の検案・解剖データの本格的な集計・分析(世帯分類別異状死統計調査研究)
を実施してきました。
ここでは,同集計・分析により判明しつつある東京都23区の孤独死の実態に
ついて,一部をご紹介します。
まず監察医務院の孤独死調査では「孤独死」を「異状死の内,自宅で死亡し
た一人暮らしの人」と定義しました。
最初から病死と判明している
病院で
亡くなる
自殺,
事故死,
死因がはっきりしない
異状死
自宅で
亡くなる
その他の場所で
亡くなる
上の図は,東京都23区における1年間の死亡者数を示しています。これを亡く
なった場所(病院,自宅,その他の場所)と,亡くなった時点で診断あるいは疑
われる死因(病死,自殺,事故死,死因不明)で分類します。
亡くなった時点で最初から病死と分かっている場合は「自然死」ですが,自
殺・事故死・死因不明(ここには当然病死も含まれます)では「異状死」に該当
します。東京都23区では異状死であると判断されたご遺体は,東京都監察医務
院が検案・解剖することになります。
この「異状死」の内,自宅で死亡された方の一人暮らし(上の図で黒に塗りつ
ぶされたヒト)を「孤独死」と定義していることになっております。
なお,
各々の分類における死亡者数の割合は,だいたい上の図のヒトモデルの数の割
合を反映しております。
*1 福永龍繁ら.高齢者の突然死と孤独死 2005;29:1873-1877.
*2 小島原將直.『孤独死』― ニーチェに学ぶ.第13回東京都監察医務院公開講座 2005年
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kansatsu/kouza/files/13-kojimahara.pdf
東京都23区における孤独死の実態 ~2.監察医がみた孤独死の事例~
2.監察医がみた孤独死の事例
実際に,監察医務院で監察医が検案・解剖した「孤独死」の事例として3例,
「孤立死*1」の可能性がある事例として1例を提示します。
【事例1】
70歳代の男性。死者は独身で,兄弟はいるが,ずっと会っていないという。隣人が,腐ったよ
うな臭いが日々増していること,部屋の明かりが付けっぱなしになっているのを不審に思い110番
したことで発見された。死後10日くらい経っていたため,解剖によっても,死因は不明とせざる
を得なかった。
【事例2】
80歳代の女性。心臓病の診断を受け,主治医からは,「いつ突然死してもおかしくはない」と
言われていた。死者の子供が自宅へ様子を見に行ったところ,浴槽内で死亡しているのを発見し
た。お風呂の水を飲み込んだ所見に乏しく,心臓発作により亡くなったものと診断された。
【事例3】
50歳代の男性。亡くなる数年前に離婚。仕事仲間が連絡が取れないことから、自宅を見に行っ
たところ、居間で死亡しているのを発見した。最近は体調不良を理由に仕事はしていなかったよ
うだが、日常の生活状況は不明であるという。解剖により、心筋梗塞と判断された。
【事例4】
内縁関係の夫婦である60歳代の男性と女性。近所の人と、数ヶ月前に会ったことまでは判明し
たが,日常の生活の詳細は不明。男性の息子が、1か月ほど連絡がつかないことから心配とな
り、様子を見に行ったところ、自宅の布団上で2人とも死亡しているのを発見した。解剖の結
果、男性は脳出血、女性は腐乱のため死因を決定することができなかった。
孤独死した人の,孤独死に至るまでの生活の状態などを知ることは,孤独死
問題の理解を深める上で,大変貴重ではあります。しかし,親族・友人・隣人
などの交流が少ない一人暮らしの人の,生前の生活状況や心理状況を知ること
は大変困難です。上記の事例でも,一人暮らしのため,日常生活などの実態が
不明となっております。
加えて,監察医務院は,孤独死以外にも,自殺,災害死,赤ちゃんの突然死
など,解決が強く求められる様々な社会問題を取り扱っております。従って,
孤独死された個々の事例の詳細な調査分析のみを業務とするわけにはいきませ
ん。ただし,孤独死で亡くなられた方の生活などの仔細を,完全に調査するこ
とはできませんが,東京都23区という一定地域の全ての孤独死を系統的かつ全
数的に調査できる強みがあります。
そこで今回の調査調査では,前頁で定義した孤独死の事例について,個々の
事例の詳細に注目するのではなく,孤独死された人のグループに注目し,これ
に関する統計から孤独死の実態について把握することにしております。
*1 孤立死とは,社会から孤立した結果、死後長期間放置された事例と定義されています(厚生労働省「高齢者等が一人でも
安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議報告書」)。
2
東京都23区における孤独死の実態 ~3.東京都23区の孤独死の状況~
3
3.東京都23区の孤独死の状況
監察医務院の検案・解剖情報がデータベース化されているのは,昭和62年か
らであり,孤独死調査は昭和62年1月1日から監察医務院で検案された事例を調
査対象としております。ここでは,公開講座で提示したスライドと共に,以前
に論文で発表した孤独死の統計表についても掲載しております。
東京都23区における男女別の孤独死発生件数
(人)
右のグラフは,昭和62年から平成18年
2500
までの男女別の孤独死の発生件数を示し
2000
ています。昭和 62年では,男性は 788
1500
人,女性は335人の方が孤独死されてお
1000
り,男女とも年々増加傾向にあります。
男性孤独死
500
特に,男性での伸び率が高く,平成18年
では男性2362人,女性1033人となってい
女性孤独死
0
昭
和
6
2
年
ます。
昭
和
6
3
年
平
成
元
年
平
成
2
年
平
成
3
年
平
成
4
年
平
成
5
年
平
成
6
年
平
成
7
年
平
成
8
年
平
成
9
年
平
成
1
0
年
平
成
1
1
年
平
成
1
2
年
平
成
1
3
年
平
成
1
4
年
平
成
1
5
年
平
成
1
6
年
平
成
1
7
年
平
成
1
8
年
右のグラフは,平成17年における男女
別と年齢階級別の孤独死の発生件数を示
しています。
男女別・年齢別の孤独死発生件数,平成17年
(人)
500
男性では,45~49歳階級で孤独死の件
400
数 は1 00 を越え てその後 ,急激 に上 昇
300
し,60~64歳階級で 404人となってお
り,それ以降の高齢者では孤独死件数は
低下していきます。一方,女性孤独死
は,70歳未満の年齢階級では100人を越
えておらず,70歳以降の年齢階級で,初
めて100人を越え,80~84歳階級で最大
値の201人を認めています。
男性孤独死
200
100
女性孤独死
0
0
~
4
歳
5
~
9
歳
1
0
~
1
4
歳
1
5
~
1
9
歳
2
0
~
2
4
歳
2
5
~
2
9
歳
3
0
~
3
4
歳
3
5
~
3
9
歳
4
0
~
4
4
歳
4
5
~
4
9
歳
5
0
~
5
4
歳
5
5
~
5
9
歳
6
0
~
6
4
歳
6
5
~
6
9
歳
7
0
~
7
4
歳
7
5
~
7
9
歳
8
0
~
8
4
歳
8
5
歳
以
上
東京都23区における孤独死の実態 ~3.東京都23区の孤独死の状況~
男女別・年齢別の孤独死率,平成17年
(人)
※ 孤独死率とは,男女別の一人暮らし1000人あたりに発生した孤独死の割合
10
8
6
男性孤独死
4
2
女性孤独死
0
0
~
4
歳
5
~
9
歳
1
0
~
1
4
歳
1
5
~
1
9
歳
2
0
~
2
4
歳
2
5
~
2
9
歳
3
0
~
3
4
歳
3
5
~
3
9
歳
4
0
~
4
4
歳
4
5
~
4
9
歳
5
0
~
5
4
歳
5
5
~
5
9
歳
6
0
~
6
4
歳
6
5
~
6
9
歳
7
0
~
7
4
歳
7
5
~
7
9
歳
8
5
歳
以
上
8
0
~
8
4
歳
左のグラフは,平成17年の男女別・年
齢階級別の孤独死率を示したものになり
ます。縦軸は,一人暮らしの人1000人当
たり 何人が孤独 死するかを 示してい ま
す。このグラフから発生率は年齢が上が
ると共に上昇し続けること,男性の方が
女性 と比べて孤 独死の発生 率は高い こ
と, 孤独死発生 率の上昇の 立ち上が り
は,男性で早いことが特徴として認めら
れます。
男女別孤独死率の年次変化
(人)
※ 孤独死率とは,男女別の一人暮らし1000人あたりに発生した孤独死の割合
4
3
男性孤独死
2
1
女性孤独死
0
平
成
7
年
平
成
2
年
平
成
1
2
年
左のグラフは,男女別の孤独死発生率
の年次推移を示したものになります。多
少の変動はあるにせよ,平成2年から平
成17年にかけては,孤独死の発生率に上
昇も低下もありません。なお,このグラ
フでの孤独死発生率の計算には,昭和60
年人口モデルを基準人口とした年齢調整
を実施しています。
平
成
1
7
年
孤独死例での死後発見の平均日数,男女別
(日)
左のグラフは,男女別の孤独死例での
死後発見の平均日数です。男女とも昭和
62年当初よりも年々日数は伸びており,
平成18年では,男性では12日,女性では
6.5日となっております。
14
12
男性孤独死
10
8
6
4
女性孤独死
2
0
昭
和
6
2
年
昭
和
6
3
年
平
成
元
年
平
成
2
年
平
成
3
年
平
成
4
年
平
成
5
年
平
成
6
年
平
成
7
年
平
成
8
年
平
成
9
年
平
成
1
0
年
平
成
1
1
年
平
成
1
2
年
平
成
1
3
年
平
成
1
4
年
平
成
1
5
年
平
成
1
6
年
平
成
1
7
年
平
成
1
8
年
4
東京都23区における孤独死の実態 ~3.東京都23区の孤独死の状況~
以上の孤独死統計についてのグラフから,東京都23区における孤独死の統計
的な実態として,次のことが分かりました。
《東京都23区では,毎日10人前後が孤独死している》
平成18年の段階で,孤独死は男女併せて3395件発生しております。孤独死は
毎年増加傾向にありますから,平成22年は更に増加しているものと考えられま
すが,この数字を単純に365で割れば,一日あたり10人前後が孤独死しているこ
とが計算できます。
《孤独死しやすい年齢は,男性で50歳代前半以降,女性で60歳代後半以降である》
男女とも孤独死発生率は年齢が上がると共に上昇しております。しかし,男
性の方が女性と比べて孤独死の発生率は高いこと,孤独死発生率の上昇の立ち
上がりは,男性で早いことが特徴として認められます。具体的には,男性で50
歳代前半以降,女性で60歳代後半以降で孤独死発生率の増加が目立ち始めてき
ています。女性では,孤独死は高齢者の問題として考えられる一方,男性で
は,高齢者のみならず中年の方でも無視できない問題なのだとわかります。
《孤独死の発生率は,平成2~17年までの間で特に増加していない》
男女の孤独死の発生率は多少の変動はありますが,特に増加しているという
結果は得られていません。孤独死の発生件数は年々増加していますが,これは
東京都区部で一人暮らしの人が年々増加している分だけ,孤独死の数が伸びて
いるということを意味しています。
《孤独死した人は,男性で死後12日,女性で死後6日に発見される》
孤独死された人が死後発見される平均日数は,平成18年の段階で,男性で死
後12日,女性で死後6日で発見されています。死後発見日数は,男女ともに年々
増大している傾向にあることから,孤独死事例の質はこの20年で確実に変化し
ていることが示唆されます。
《孤独死に男女差はある》
孤独死の発生件数,発生率,孤独死しやすい年齢,死後発見日数ともに,男
女で大きな違いが認められました。このことから,孤独死に男女格差はあると
認められます。
5
東京都23区における孤独死の実態 ~3.東京都23区の孤独死の状況~
6
東京都23区における孤独死の実態 ~3.東京都23区の孤独死の状況~
前ページまでに示したグラフは,拙著「世帯分類別の異状死基本統計-東京
都区部における孤独死の実態調査」(『厚生の指標』57巻10号.20~25頁,厚生
統計協会)」の内容が元になっております*1。
ここでは,同論文の表の一部も掲載しました。この表1~5の男性・女性の単
身世帯に該当する箇所が「孤独死」になります。内容の詳細については,同論
文を是非ともご参照下さい*2。
*1 論文の表掲載については,『厚生の指標』編集部の許諾済みです。
*2 これら表1~5を引用される場合は,“金涌佳雅ら.世帯分類別の異状死基本統計
調査. 厚生の指標
してください。
東京都区部における孤独死の実態
2010;57(10):20-25.”と出典を明記して下さい。なお,表の引用に際しては,この論文も必ず参照
7
東京都23区における孤独死の実態~4.孤独死の23区別の状況について~
4.孤独死の23区別の状況について
前掲の統計表から,23区全体の孤独死の統計的実態は判明はしました。更な
る調査分析として,孤独死の区毎の統計による地域格差の分析,区毎の孤独死
統計と区の各種統計値との相関関係を分析することで,孤独死の更なる考察が
期待できます。
その分析作業は継続中ですが,現在まで解明されている結果を報告します。
まず,男女の孤独死発生率の地域格差についてです。次の頁に,平成2・7・
12・17年における男女別孤独死発生率を区毎に地図グラフとして表したもので
す。一人暮らし1000人あたり孤独死が0~0.75人発生した区は緑色,0.75~1.5
人の区は青色,1.5~2.25人の区は水色,2.25~3人の区は桃色,3人以上の区は
赤色になります。このグラフから男性孤独死は,城東地域で最も発生しやす
く,次いで城北・城南・副都心地域で発生しやすい傾向があること,女性孤独
死は城東地区で発生しやすい傾向があるが,男性ほどバラつきは大きくないこ
とが分かります。
次に,区毎の孤独死統計と区の各種
統計値との相関関係です。右のグラフ
孤独死率と失業率と関係,平成17年
5
は,平成17年における,区毎の孤独死
男性孤独死
孤独死発生率
4
発生率と,男女別の区毎の完全失業率
女性孤独死
3
を示したものです。このグラフから,
2
男性については,完全失業率が高い区
1
ほど,孤独死発生率も高く,女性には
そのような相関関係は認められません
0
0
2
4
6
8
10
完全失業率
でした。
その他の項目としては,生活保護率
が高く,平均所得が低い区ほど,男性孤独死率が高いことが分かりました。
仕事をしている人であれば,1日でも無断欠勤すれば,心配して様子を見に来
ることが多いでしょうから,孤独死と失業については,常識的に見ても,結び
つきがあるキーワードだと思われます。
ただし,失業した一人暮らしの男性全てが孤独死するわけではありません。
亡くなった人についてしか調査ができない監察医務院では,失業した一人暮ら
しの男性で孤独死する人と,孤独死しない人の違いを把握することは不可能に
なります。このことについては,法医学以外の分野での調査研究が必要でしょ
う。
8
東京都23区における孤独死の実態~5.孤独死とどのように向き合うべきか?~
5.孤独死とどのように向き合うべきか?
《孤独死の何が問題か?》
孤独死がなぜ悪いか,何が問題かという点については,孤独死は社会的コス
トを増大させる,死後放置させる状況は「人間の尊厳」を傷つけている,孤立
生活が不健康・貧困をもたらすといった指摘などがあります。
しかし,孤独死の何が問題かは,人間の生き方・死に方に関わる問題であ
り,人それぞれでの意見があるかと思いますので,孤独死は都民1人ひとりの
問題として考えていただきたいと思います。
《孤独死対策の3本柱》
孤独死問題の対策を図る上では,①孤独死の発見(孤独死してしまった人をい
かに早く発見するかという対策),②孤独死の救命(一人暮らしの人が病気・怪
我を負っても救命につなげるという対策),③孤独死の予防(一人暮らしの人が
孤独死しないようにする対策)があるかと思います。
孤独死の発見は,技術的には十分可能な対策でありますし,地域の方による
見守りでも対応可能です。孤独死の救命は,一人暮らしの人が病気・怪我を
負った後に病院へ搬送され救命された人の調査が監察医務院では不可能なの
で,我々では「孤独死の救命」対策については不明です。孤独死の予防は,性
別・年齢・地域・職業など孤独死しやすい人を抽出することで,予防対策に講
ずることが可能であり,それはこの調査研究の内容をそのまま応用することが
可能であります。このことから,監察医務院の調査は,孤独死の予防対策へ資
することが可能であると言えます。
《孤独死の予防対策について》
孤独死の予防については,地域の孤独死をどうしたいのかの目標設定が必要
かと思います。
例えば,男女・年齢別の孤独死発生率ですが,同じ一人暮らしでなぜこうも
男女差が生ずるのでしょうか?そのことから,孤独死の現実的な予防策とし
て,男性の孤独死発生率を女性の程度なみに下げるという目標も,現実的なも
のとして設定可能ではないかと考えます。
また今回は,異状死した人の一人暮らしに注目した集計でした。もしこれ
が,孤独死と同じように,自然死された方でも「一人暮らしの人」で死亡の男
女格差があるとすれば,一人暮らしにおける健康問題の指摘ができる可能性が
あるのではないでしょうか。
10
東京都23区における孤独死の実態~5.孤独死とどのように向き合うべきか?~
このことについては,今後,様々な学問からのアプローチによる調査・研究
が必要でしょう。いずれにしても,一人暮らしの人と同居家族がいる人との健
康格差がもたらした一つの結果として「孤独死」というものを捉え直すと,孤
独死は公衆衛生上の問題として調査や対策が必要であるかも知れません。
監察医務院における孤独死調査から判明した,東京都23区における孤独死の
実態について総括すると,
① この20年の間,東京都23区の孤独死は,その質に変化が見られている。
② 一人暮らしの中年以上の男性が孤独死する割合は,同じ年齢群の一人暮ら
しの女性よりも高い。
③ 孤独死は,失業などの経済的な項目と相関関係があるが,因果関係の有無
については今後の調査課題である。
④ 孤独死対策の目的・方法は,「人間の生き方」についての問題にも直結
し,都民1人ひとりの課題として判断されるべき。
となります。
最後になりましたが,統計的な調査から見えてきた孤独死の実態から,孤独
死問題についてどのような取り組んでいくのがよいか,この孤独死調査に3年に
わたり継続してきた私なりの見解を紹介させていただきたいと思います。
➢
一人暮らしという世帯がある限り、誰にもみとられず、死後発見される
ような死に方を無くすことは、事実上不可能ではないかと考えます。
➢
孤独死の男女格差をなくすこと、発見日数を減少させることなど、孤独
死の質を改善することは,現実的に達成可能な目標と考えます。
➢
孤独死のみを対象にした対策というよりは、一人暮らしの人が気軽に地
域のコミュニティーに参加できる風潮・雰囲気の向上、失業率の改善に
役立つような対策により、少しずつ改善されていくものと期待しており
ます。
➢
孤独死の問題の奥に隠れている可能性がある「一人暮らしの人と複数人
世帯の人の健康格差」の問題に、今後注目され,法医学分野以外でも研
究・調査が進められることを望んでおります。
11
東京都23区における孤独死の実態~Q&A~
ここでは公開講座後あるいはアンケート用紙などでの質問や要望などに,Q
&A形式でお答えしていきます。
問.〈男女の孤独死の死因に差はあるのか?〉
答.男女共に,死因としては病死が多く,その中で心臓疾患が多くなっていま
す。しかし,男性孤独死の方が,アルコールに関連した疾患で亡くなる人が多
い傾向にはあります。死因に関する集計・分析は現在実施中であり,男女の孤
独死における死因の差については,今後報告の予定になります。
問.〈孤独死の発生率が最も高い区を具体的に教えて欲しい〉
答.区毎の孤独死数・率などの孤独死の実態に関する基本統計については,統
計表を整理・編集作業中です。これらが完了次第,順次統計表については公表
する予定です。
問.〈孤独死の予防という観点から,孤独死の予備軍にはどのような人が該当
するのか?〉
答.今回の調査により,孤独死の発生率が増大する年齢が判明しましたので,
その年代より若い人を孤独死予備軍と言えるかも知れません。しかし,監察医
務院では,亡くなった人しか調査できませんので,孤独死の予備軍の実態把握
は,現在一人暮らしをされている人を対象にした調査によって明らかにされる
必要があると考えられます。従いまして,監察医務院で扱える調査ではないの
で,孤独死の予備軍の詳細は不明です。
問.〈家族と同居している,あるいは2世帯住宅の場合で,「家族から孤立」
している場合はどう扱うのか?〉
答.このような事例の実態把握も求められると考えますが,「家族から孤立し
ている」という定義は,主観的にならざるを得ず,調査としては難しい点もあ
り,当面は客観的な項目に基づいた定義で孤独死の実態を調査することとして
おります。
問.〈毎年の孤独死発生率のデータを公表して欲しい〉
答.孤独死発生率の計算には,男女別・年齢別の一人暮らしの人数が必要にな
ります。この人口数は,国勢調査の結果からしか入手できないので,孤独死発
生率は国勢調査実施年である5年毎での集計になります。
12
東京都23区における孤独死の実態~Q&A~
問.〈監察医務院で毎年発行している「事業概要」に掲載されている一人暮ら
しの死亡数と,この研究調査での一人暮らしの人の死亡数に違いがある
が?〉
答.孤独死の定義にもあるように,本調査では孤独死を「異状死の内,自宅で
死亡した一人暮らしの人」と定義しています。一方,事業概要にある掲載され
ている一人暮らしの死亡数統計には,自宅死亡の他,病院死亡,屋外での死亡
なども含まれておりますので,両者に違いが生じてしまいます。
問.〈「孤独死しやすい年齢」とは,どのような基準に基づいているのか?〉
答.男女・年齢階級別の孤独死発生率の表から,それぞれの年齢階級における
孤独死発生率の微分値を算出し,最も高い値をとった年齢階級を求めました。
この年齢階級を,孤独死のリスクが高いと考えることもできます。しかし,孤
独死の多くが生活習慣病を背景にした病死で亡くなっている現状を考慮して,
孤独死の予防的な観点を重視する目的で,特に断りのない限り,前記で求めた
年齢階級より10歳若い人までを含めて「孤独死しやすい年齢」とした基準を設
定しました。
問.〈なぜ男女で孤独死に差が出るのか?どうすれば男性孤独死を減少させる
ことができるのか?〉
答.男女の孤独死における死因や生活実態の違いは,今後の調査課題になって
います。ただし,医務院のデータから判明した男女孤独死の特徴の違いが,孤
独死発生の男女格差の原因になっている保証はありません。今後は,法医学以
外の分野から,幅広い研究調査が必要となるでしょう。
問.〈死亡時との年齢と死後経過時間の間に,一定の関係はあるのか?〉
答.死亡時の年齢と死後経過時間との関係については,現在集計作業を実施中
のため,公開講座でお話しした内容以上の詳細は現時点でも不明です。ただ,
この死後経過時間に関する統計は,随所にて要望が多く,孤独死の「質」に関
連した大変重要な内容でもあることに鑑みて,本資料に速報値として一部を掲
載しましたので,ご参照下さい。
13
年齢,死後経過時間・性別単身及び複数世帯異状死数,東京都区部・平成21年
死 後 経 過 時 間
年
齢
0~1日
男性
2~3
女性
男性
4~7
女性
男性
8~14
女性
男性
15~30
女性
男性
31~90
女性
男性
91~180
女性
男性
181~365
女性
男性
366~
女性
男性
女性
単 身 世 帯
総数
65~69
70~74
75~79
80~84
85~89
90~94
95~99
100~
352
362
309
250
251
146
173
64
135
41
70
22
7
3
3
-
1
-
67
84
75
60
46
15
5
-
25
35
82
104
74
38
4
-
96
78
61
40
23
10
1
-
23
31
62
67
44
18
4
1
67
78
55
28
16
6
1
-
18
24
36
43
21
3
1
-
71
52
31
16
3
-
10
9
14
17
12
2
-
50
43
30
6
6
-
4
12
13
4
5
3
-
28
19
13
9
1
-
5
6
5
2
3
1
-
2
3
1
1
-
1
1
1
-
2
1
-
-
1
-
-
1012
840
63
54
18
13
8
2
3
-
-
-
1
1
-
1
135
189
184
230
157
89
28
-
77
95
155
157
176
134
39
7
11
15
15
10
10
2
-
4
6
18
11
10
5
-
5
5
1
3
2
1
1
-
3
2
2
3
3
-
2
1
1
3
1
-
2
-
2
1
-
-
-
-
1
-
1
-
-
1
-
複 数 世 帯
総数
65~69
70~74
75~79
80~84
85~89
90~94
95~99
100~
2
3
1
1
1
-
1
1
-
年齢,死後経過時間・性別単身及び複数世帯異状死数,東京都区部・平成15年
死 後 経 過 時 間
年
齢
0~1日
男性
2~3
女性
男性
4~7
女性
男性
8~14
女性
男性
15~30
女性
男性
31~90
女性
男性
91~180
女性
男性
181~365
女性
男性
366~
女性
男性
女性
単 身 世 帯
総数
261
239
193
191
146
124
82
57
71
18
39
12
6
1
0
0
1
0
74
57
53
37
23
16
1
-
24
37
57
55
46
16
4
-
65
42
51
18
11
5
1
-
23
33
46
50
34
4
1
53
41
28
13
11
-
20
32
32
26
8
5
1
-
30
22
14
9
4
2
1
-
10
18
12
9
6
2
-
35
21
7
6
1
1
-
6
4
3
1
3
1
-
18
12
7
2
-
2
1
4
1
3
1
-
4
2
-
1
-
-
-
1
-
-
総数
590
547
25
29
10
9
7
6
1
2
3
0
1
0
0
1
0
0
65~69
70~74
75~79
80~84
85~89
90~94
95~99
100~
108
100
119
119
93
44
7
-
51
87
94
127
102
65
18
3
2
7
7
3
4
1
1
-
3
4
8
7
6
1
-
3
3
4
-
1
4
2
2
-
2
1
2
2
-
1
1
1
2
1
-
1
-
2
-
1
1
1
-
-
1
-
-
-
1
-
-
-
65~69
70~74
75~79
80~84
85~89
90~94
95~99
100~
複 数 世 帯
一般に法医学というと,殺人や暴行で亡くなられた方を解剖し,警察の捜査に役立っていると
いう印象が強いかと思いますが,監察医務院は,そのような事件で亡くなった方を対象としてい
るわけではありません。
そのため,監察医務院が,社会に対してどのように役立っているのか,一般の方では想像し難
いところがあるかも知れません。しかし,事件で亡くなった訳ではないが,死因がハッキリしな
い人でも,監察医が緻密に検案・解剖し,日常業務で得られた情報を分析することで,この資料
にあるような孤独死の実態把握や統計表の作成が可能となります。
殺人事件の解剖が「法医学の司法上の応用」とすれば,監察医による検案と解剖は「法医学の
行政上の応用」と言えるでしょう。それは,あたかも行政機関同士での話だけと思われるかもし
れません。しかし実際には,孤独死問題に対する行政対策は,都民の皆様の生活に,直接的ない
し間接的に関係するものです。今後も,孤独死問題の対策に向けて,監察医務院の業務資料が寄
与できるように努めていきたいと考えています。
都民の皆様には,かかる監察医務院の事業に引き続きご理解,ご支援の程を宜しくお願い申し
上げます。
【調査研究体制】
研究代表者
金涌
佳雅(東京都監察医務院
研究分担者
阿部
伸幸,谷藤
野崎
一郎(東京都監察医務院
森
非常勤監察医)
隆信(東京都監察医務院
晋二郎(東京都監察医務院
臨床検査技師)
監察医補佐)
監察医長)
福永
龍繁(東京都監察医務院
共同協力者
舟山
眞人(東北大学大学院医学系研究科法医学分野
院長)
研究協力者
青柳
美輪子(東京慈恵会医科大学法医学講座
研究補助員)
落合
恵理子(東京慈恵会医科大学法医学講座
大学院生)
教授)
本調査は,聖ルカ・ライフサイエンス事業団(平成20年度「臨床疫学研究などに関する研究助
成」)ならび千代田健康開発事業団(平成21年度(第56回)社会厚生事業助成金制度『医学研究助
成』)からの研究助成金を受けて実施したものです。
東京都23区における孤独死の実態
平成22年12月発行
編集・発行
印刷・製本
東 京 都 監 察 医 務 院
東京都文京区大塚四丁目21番18号
電話 03(3944)1481
伊 豆 ア ー ト 印 刷(株)
東京都江東区平野二丁目5番8号
電話 03(5848)8088
・本書の無断複写は著作権法上での例外を除き禁じられています。
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