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小 論 文

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小 論 文
平成 28 年度入学試験問題
推薦入学・帰国子女特別選抜・社会人特別選抜・編入学
小 論 文
注 意
1. 指示があるまで,手を触れないこと。
2. 指示に従って,解答用紙に受験番号(算用数字)および氏名をはっきりと記入す
ること。
3. 解答は,解答用紙の指定された箇所に,横書きで記入すること。
4. 問題冊子は 8 ページ,解答用紙は 2 枚である。もし,問題冊子の落丁,乱丁およ
び解答用紙の汚れなどがあれば,ただちに申し出ること。
5. 問題冊子は持ち帰ること。
問題一(一〇〇点)
次の文章を読んで設問に答えなさい。
「無縁社会」
経済不況の長期化とグローバル経済の急激な進行のなかで、企業組織は激しく流動
化し、コ スト削 減を 迫られ、 人員 削減や 雇 用の 非正 規化 が進 んで きた。﹁ 格差 社会 ﹂
と呼ばれる現代、セイフティ・ネットは追いつかないまま、他方で﹁自己責任﹂論と
いう新自由主義的な言説も執拗にくり出されている。そのなかで個々人はますます孤
︵注︶
立を強いられる状況にある。先に鬆に喩えたように、これまで不況による困窮のクッ
ションとなってきたいわゆる﹁中間集団﹂︵会社や地域社会︶による庇護の力が弱ま
り、
せ細ってきているからだ。そしてそういう媒介組織もなく、孤立したまま社会
くらい複雑に錯綜していて、社会危機もまるで天災のようにして降りかかってくる。
直近ではリーマン・ショックのように、一国だけではとても制御不能なグローバルな
規模の異変が、なんの前触れもなく個人生活の足許をぐらつかせる。これに対してひ
とびとが、まっ先に、理解よりも先に抱く感慨は、個としての市民としての無力・無
能であろう。
こ の 背 景 に は、 ま ず は 人 口 の 激 し い 流 動 化 が あ る。 血 縁・ 地 縁 の 放 散 で あ る。 血
縁・地縁の弛緩は、人口の流動化にともなうサービス社会の進行と表裏一体となって
進行してきた。家族や地域共同体はかつて何よりも相互の︽いのちの世話︾の場で
あった。栄養摂取のための調理、排泄物の処理、ゴミ処理、洗濯、病気の看護、もめ
事の解決、老人の介護、子どもの養育と教育、看取りと弔いと葬送、祖先の墓守りな
どである。この担い手が、近代的なサービス社会化の進行とともに、外食産業や食品
流通産業、行政による下水道の設置やゴミ収集、病院、弁護士事務所、介護施設、保
育園、学校、葬儀産業など、公的ないしは民間のソーシャル・サービス業務に急速に
とって代わっていったのは、すでに第二章で見たとおりである。このことでひとびと
の寿命は延び、知的水準も上がり、安心して暮らせる環境は整ったが、代わりに失っ
1
にむきだしで曝されている個人にとって、この社会はほとんど無構造にしか見えない
たものも大きかった。それこそみずからの手で世話しあうという協働の能力であり、
﹁共同防貧﹂の仕組みであった。ひとびとは︽いのちの世話︾のプロセスを外部に委
託することで、そのふるまいにおいて受動化され、無力化されていった。﹁協同﹂の
能力を
せ細らせていった。一時期、機能を分担していた﹁社縁﹂という、企業や労
働組合による家族丸抱えのソーシャル・サービスも、あまりに極端な職住不一致の就
労形態のなかで、ほぼ消失した。他方、︽いのちの世話︾を日常的に並行しておこな
いうる職住一致の自営業は、シャッター街に象徴されるごとく、熾烈な企業競争のな
かで衰退する一方である。
まさにその渦中で、二〇一〇年、NHKのドキュメンタリー番組﹁無縁社会﹂が放
映された。現代の﹁孤独死﹂の実態を詳しく報道し、わたしたちにけっして小さくは
ない衝撃を残した。高齢の親の死亡を届け出ずに年金等を受給し続けていた一家族の
﹁事件﹂に、﹁無 縁社会﹂というこの番組の残像を重ねたひとも少なくなかっただろ
う。これに家族内の幼児虐待がそのまま死につながった事件や、いじめのはての小学
離れたところで、現代における死の風景が、その後もまるでモグラ叩きのように紙面
のあちこちに顔をのぞかせたのであった。論として続いてはいないにしても、そうい
う小さな記事の連続に、ひとびとは実体のうかがい知れない地響きのようなものを聞
き取っていたのかもしれない。
地縁も血縁も社縁もやせ細ってしまったこの﹁無縁社会﹂についてのドキュメンタ
リー番組の残像がいまなお色濃いのは、増大する﹁孤独死﹂という事実のみならず、
亡くなった単身者のその係累を訪ねて出身地にまで赴き、その﹁縁﹂の喪失にいたる
までの実態を調査すると同時に、無縁墓地に埋葬されるまでのプロセス、僧侶による
そうした無縁仏の弔い、さらには遺品処理にあたる清掃サービス業などまで、映像で
詳しく伝えたからだろう。
﹁縁﹂、なかでも地縁と社縁は、戦後社会においても、困窮する個人をぎりぎりの
ところで孤立させないための保護膜のようなものとして、ときに破れや綻びをあらわ
にしたにしても、長らく勤労者とその家族を包み込んできた。﹁包み込んできた﹂と
とりあえず書いたが、それは真綿のようにやさしいものではなく、とくに若い世代に
はむしろ鬱陶しい包囲網のようなものとして感受されてきたこともたしかである。核
2
生の自殺の報道なども続き、﹁無縁社会﹂というテーマ設定の近くで、あるいは少し
家族、マンション生活、プライヴァシーの確保といったかたちで、地縁・社縁という
しがらみから、むしろ逃げだそうともしてきた。
が、現代、ひとびとがたがいに過剰なまでに分断され、孤立しているという時代認
0
0
0
0
識から、保護膜としてのコミュニティを再構築しなければもうもたないという思い
も、低音で吐かれるようになってきている。たとえば、退社したあと、解雇されたあ
と の長 い日 々。鋼 鉄 の ド ア で 遮 断 さ れ、近 所 との 行 き来 も︵ そ し てそ の た め の 蓄 え
も︶乏しく、縁、つまりいざとなったらいつでも凭れかかることのできる支えあいの
仕組みからはじき出された高齢の単身者の生活。そこでは保護膜は容易に修復しがた
く破けている。
孤立への怖れはしかし、高齢者だけでなく、若い世代の心をも深く
んでいる。長
びく不況のせいでまともな就職ができず、低所得の非正規労働や派遣の仕事がつづ
き、非婚の生活を余儀なくされる。彼/彼女らは縁を紡ぐ機会そのものを削がれてい
る。
り戻そうとはしない。できない。そのコスト、そのしがらみがあまりに重く、ねばつ
いているという、苦い思いがあるからだ。縁はみずから紡いでゆくほかないとはい
え、そのチャンスがたやすく見つかるわけでもない。縁を紡いでゆくにはエネルギー
と資力とが要る。そういう縁を、あるいはネットワークを、みずから紡ぎだしてゆく
ことができずに、ただ 蹲 っているしかないひとびとを見聞きし、わたしはこの社会
がいつのまにこんなに脆弱になってしまったのかと呆然となる。
︻出典︼鷲田清一﹃しんがりの思想│反リーダーシップ論﹄角川新書、二〇一五年。
︵注︶著者は﹁地域社会、なかでも都市部における地域社会が、まるで鬆が広がるか
の よ う に 空 洞 化 を 進 め て き て い る ﹂ と 述 べ て い る。 な お﹁ 鬆 ﹂ と は 大 根、 牛 蒡
︵ごぼう︶などの芯にできるすきまのこと。
3
が、その保護膜を、地縁・社縁という二つのコミュニティの復活というかたちで取
設問一
著者の言う﹁無縁社会﹂とはどのような社会か、そうした社会をもたらした
原因にも触れ、三〇〇字以内で述べなさい。
あなたが﹁縁﹂つまり人と人とのつながりを強く感じるのはどのようなとき
ですか。その﹁縁﹂は著者が言う﹁保護膜としてのコミュニティの再構築﹂
につながる可能性を持つものかどうか、あなたの考えを、五〇〇字以内で述
べなさい。
4
設問二
問題 2(100 点)
以下の図表をもとに,次の設問に答えなさい。
設問 1
図表 1 ∼ 6 をもとに,最近の投票行動について読み取れることを,300 字以
内で説明しなさい。
設問 2
若者の政治参加意識を高めるためには,どうすればよいか。図表 1 ∼ 6 を参
考にしながら,あなたの意見を 300 字以内で説明しなさい。
【出典】総務省選挙部「目で見る投票率」2014 年
内閣府「社会意識に関する世論調査(平成 27 年 1 月調査)」
※ 出題にあたり,図表の一部を加工修正しています。
図表 1 衆議院議員総選挙の投票率の推移
(%)
80
75
74.04
72.08
70
76.43 75.84 76.99
74.22
73.99
73.51
71.76
74.57
73.45
71.40
73.31
69.28
71.14
67.95
68.51
68.01
67.94
67.26 67.51
65
62.49
60
59.65
59.86
59.32
55
昭 21 22 24 27 28 30 33 35 38 42 44 47 51 54 55 58 61 平2 5 8 12 15 17 21 24 (年)
注 1 )昭和 38 年は投票時間が 2 時間延長され,午後 8 時までであった。
注 2 )昭和 55 年及び昭和 61 年は衆参同日選挙であった。
注 3 )平成 8 年より小選挙区比例代表並立制が導入された。
注 4 )平成 12 年より投票時間が 2 時間延長になり,午後 8 時までとなった。
注 5 )平成 17 年より期日前投票制度が導入された。
5
図表 2 平成 24 年衆議院議員総選挙の年齢別の投票率
(%)
90
80
73.17
70
62.47
60
52.64
50
40
30
66.68
77.15 76.47
71.02
69.27
56.69
48.08
47.07
40.25
35.30
20〜24 25〜29 30〜34 35〜39 40〜44 45〜49 50〜54 55〜59 60〜64 65〜69 70〜74 75〜79 80以上
年 齢
※全国の投票区の中から抽出した 188 投票区の平均。
図表 3 平成 24 年衆議院議員総選挙の棄権理由
24.3
仕事があったから
重要な用事(仕事を除く)があった
から
11.0
5.5
病気だったから
13.2
体調がすぐれなかったから
3.7
投票所が遠かったから
11.4
面倒だから
17.6
選挙にあまり関心がなかったから
政党の政策や候補者の人物像など,
違いがよくわからなかったから
19.1
26.1
適切な候補者も政党もなかったから
私一人が投票してもしなくても同じ
だから
13.2
選挙によって政治はよくならないと
思ったから
17.3
今住んでいるところに選挙権がない
から
1.5
0.6
天候が悪かったから
11.0
その他・わからない
0
5
10
6
15
20
25
30(%)
図表 4 「国の政策に国民の考えや意見が反映されているか」という問いに対する回答
(世論調査結果の推移)
(%)
100
反映されていない
90
77.1
73.0
70.1
67.8
80
70
63.8
63.6
60
50
54.3
51.1
40
30
20
54.0
30.7
59.4
58.9
61.0
62.2
32.6
30.8
79.3
79.8
77.4
73.4
81.9
80.7
76.8
75.3
78.7
75.2
71.2
73.1
69.4
69.7
66.4
52.8
46.0
36.4
35.7
32.5
34.0 33.0
26.8
24.4
反映されている
25.6
21.5
30.1
23.5
18.2
10
15.1
17.5
20.9
17.9
15.0
22.8
21.8
20.9
26.6
30.7
27.6
16.8 18.6 15.5
1
月
1
月
年
2
月
年
1
月
年
1
月
年
1
月
年
1
月
年
2
月
年
1
月
年
2
月
年
2
月
年
月
月
月
月
月
年
年
年
年
年
月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
月
12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 12 1
9 10 12 14 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27
年
8
年
7
年
6
年
5
年
4
年
3
年
2
15.3
24.1
年
年
年
年
年
年
年
57 58 59 60 61 62 63
年
平成元年
昭和
0
80.3
図表 5 平成 24 年衆議院議員総選挙の投票参加促進広告への媒体別接触度
促 進 広 告 媒 体
全体
テレビスポット広告
新聞広告
国や都道府県,市区町村の広報紙
都道府県・市区町村などの広報車
啓発ポスター
立看板,広告塔,たれ幕,アドバルーン
交通広告(車内・駅・バス)
ラジオスポット広告
街頭・イベントなどでの啓発キャンペーン
啓発物(ポケットティッシュ,花の種など)
インターネット上での広告・ホームページ
雑誌広告(フリーペーパーを含む)
ショッピングセンター,遊園地などでのアナウンス
電光掲示板,大型映像広告
有線放送
銀行などの ATM
コンビニのレジ画面
スーパーのビニール袋やレシート
ファミリーレストラン等のトレーマットや割り箸入れ
46.9
43.3
28.2
20.6
15.3
12.9
11.3
8.1
7.3
6.3
4.4
3.9
3.0
1.9
1.8
1.5
1.5
0.4
0.2
20〜30
歳代
36.5
23.0
13.3
10.4
15.4
8.3
13.1
8.0
7.8
5.6
7.8
4.4
3.5
2.2
0.7
1.3
2.0
0.2
0.6
40〜50
歳代
44.9
39.9
21.2
18.5
15.7
11.0
10.6
8.3
6.9
4.5
3.9
4.2
2.5
1.6
1.3
1.3
1.8
0.3
0.0
60 歳
以上
55.2
59.1
43.4
28.9
15.3
17.3
11.0
8.2
7.5
8.2
2.8
3.3
2.8
2.0
2.8
1.8
0.9
0.7
0.2
※インターネット上の広告には,
「国,都道府県,市区町村のホームページ(Facebook,ツイッターを含む)
」が含まれている。
7
図表 6 性別,年齢別に見た,国の政策に国民の考えや意見を反映させる方法
(平成 27 年 1 月世論調査結果)
国の政策に民意が「ある程度反映されている」,「あまり反映されていない」,
「ほとんど反映されていない」と答えた者に尋ねた結果である。
国民が参加
マスコミが
できる場を
国民が国の
国民が選挙 国民の意見を
ひろげる
政策に関心
のときに自 よく伝える
政府が世論
政治家が国民の を持つ
覚して投票
をよく聞く
声をよく聞く
その他
する
わからない
(該当者数)
総 数(5,752 人)
25.6
23.4
15.1
14.4
14.1
5.1
1.8
0.5
〔 性 〕
男 性(2,721 人)
23.2
24.8
14.3
13.8
15.7
5.8
1.7
0.8
女 性(3,031 人)
27.8
22.2
15.8
15.0
12.7
4.5
1.9
0.2
〔年 齢〕
20〜29 歳( 411 人)
20.9
25.3
30〜39 歳( 776 人)
21.5
24.5
9.0
23.6
13.4
6.8
1.0
-
16.1
20.5
12.8
0.9
3.5 0.3
40〜49 歳(1,004 人)
25.4
23.9
19.1
16.5
10.0
0.7
3.6 0.8
50〜59 歳( 958 人)
23.3
25.2
16.3
16.6
11.9
5.0
1.5
0.3
60〜69 歳(1,280 人)
26.6
24.5
14.1
11.8
15.9
1.4
5.4
0.3
70 歳以上(1,323 人)
30.3
19.7
13.3
7.4
18.1
6.4 4.0
0.8
0
10
20
30
40
8
50
60
70
80
90
100(%)
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