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RI教育訓練テキスト(平成22年度)

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RI教育訓練テキスト(平成22年度)
平 成 22 年 度
放射線取扱者教育訓練
(安全取扱講習)
実施要領と資料
主
催
放射線安全管理委員会
実 施 担 当
放射線安全管理委員会教育・訓練部会
1.教育訓練の目的
自然界には、地球誕生以来地殻に存在するものや宇宙線により生成されたものなど、さまざまな
放射性核種が存在し、私たちはこれらの核種を含む自然起源の放射性物質(NORM:Natura11y
Occurring Radioactive Materials、「自然放射性物
質」)による放射線を常に受けている。これらに
よる被ばくの我が国の平均は、1.5mSv/年である
と評価されている。その内訳は、宇宙線や宇宙線
により生成する放射性核種による外部被ばく0.3m
Sv/年、大地起源の放射性核種(建材を含む)か
らの外部被ばく0.4mSv/年、ラドン等の吸入によ
る内部被ばく0.4mSv/年及び食物摂取による内部
被ばく0.4mSv/年である。これらに対する最も大
きい被ばくの要因は、U-238系列核種及びTh-232系列核種によるものであり、全体の約7割を占めて
いる。
ところで、放射線施設に立ち入り、その管理区域内で放射線を利用した業務に従事する者(放射
線業務従事者という)には、受ける放射線の限度(線量限度)を規定することにより、できうる限
り放射線被ばくのリスクを回避し、安全を最優先するという基本原則がある。
個人の線量限度
確率的影響(実効線量限度)
部位
職業人
一般公衆
全身
50 mSv/年
1m Sv/年
(100 mSv/5年)
確定的影響(等価線量限度)
眼の水晶体
150 m Sv/年
皮膚
500 m Sv/年
線量限度以下の放射線安全管理が行われるとき、放射線被ばくによる将来のがんの発生など「放
射線リスク」は心配のないものである。実際、放射線業務に従事する者の年間被ばく線量の分布状
況を見ると、従事者の99%以上は5mSv以下の被ばくであり、自然放射性物質に由来する不可避の被
ばく線量と同等レベルである。
放射性同位元素の使用は、自然科学全般の研究や臨床医学診断においてなくてはならないものに
なっている。この安全取扱講習は、放射性同位元素の基本的な安全取扱と放射線防護の基礎を修得
し、また放射線に対する理解を深めることを目的とする。
放射線とアイソトープの安全取扱講習の内容
1. 放射線・RIの基礎
(45分)
2. 測定
(45分)
3. 安全取扱いの実際
(60分)
4. 演習:防護3原則
(60分)
5. 演習:表面汚染密度の測定
(30分)
1
2.ラジオアイソトープの基礎
2.1 原子構造と同位体
原子構造は、中心に正の電荷をもつ原子核があり、そのまわりを負の電荷を持つ電子が、原子核
のクーロンカで引き付けられながら回るというものである。
電 子 (-)
電子の周回軌道はとびとびになっており、原子核に近い側か
M軌 道
らK軌道、L軌道、M軌道、……と名付けられている(ボーア
の原子モデル)。電子の軌道がとびとびにしか存在しないこと
を、電子軌道が量子化されているという。これが今日われわ
陽子
中性子
れが理解している原子の構造である。さらに原子核は、正の電
K軌 道
原子核(+)
荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子からなる。陽子と中性子は核
子と呼ばれる。原子核の種類は、陽子数(Z)と中性子数(N)、お
よびエネルギー状態できまり、これを核種と呼ぶ。Zは原子番号で
L軌 道
あり、これによって元素が決まる。中性原子の場合、Zは原子核外
の電子数に等しい。元素はZが同じでNが異なるいくつかの原子(同位体:アイソトープ)の混合物である。
同位体のうち、放射線を放出して他の核種に変わるものがラジオアイソトープ(RI)である。また、核種の陽
子と中性子の数の和(A)を質量数と呼ぶ。元素記号によって原子番号が決まるので、通常、原子番号の表示
を省略して同位体を12Cのように表記する。
放射性トレーサーとして使用されるアイソトープの例
元 素
原子番号
アイソトープ
RI(半減期)
水 素
1
1
炭 素
6
11
C、12C、13C、14C
11
C(20分)、14C(5730年)
リ ン
15
31
P、32P、33P
32
P(14日)、33P(25日)
硫 黄
16
32
S、33S、34S、35S、36S
35
S(88日)
ヨウ素
53
125
H、2H、3H
3
I、127I、131I
H(12年)
125
I(59日)、131I(8日)
2.2 放射能
原子核が放射線を放出して別種の原子核に変わる性質を放射能(Radioactivity)と呼び、またその現象を放
射性壊変と呼ぶ。この“放射能”の量または強さを表すのにも放射能(Activity)という言葉が使われる。Activity
の単位の特別な名称がベクレル(Bq)であり、単位時間当たりの放射性壊変数(dps;1秒あたりの壊変数)
をいう。以前に使用されたキュリー(Ci)はSI単位ではないが、現在でもよく使用される。
1Bq = 2.7×10-11 Ci、1Ci = 3.7×1010 Bq
ベクレル/キュリー換算表
KBq, MBq, GBq
3.7
7.4
11.1
18.5
37
74
185
370
740
925
μCi, mCi, Ci
0.1
0.2
0.3
0.5
1
2
5
10
20
25
MBq, GBq, TBq
1.11
1.48
1.85
3.7
5.55
7.4
9.25
18.5
27.8
37
30
40
50
100
150
200
250
500
750
1000
μCi, mCi, Ci
2
2.3 半減期
原子核の壊変は量子論に従う現象であり、複数の状態が共存した状態をとることができる。従っ
て、原子核がいつ壊変するかは確率的にしか分からない。すなわち、ある原子核が壊変するかどう
かはまったく偶発的なことであり、壊変する個々の原子核に完全に独立な事象である。
図は
137
Cs の放射能の減衰の様子を示したもので
1.0
ある。横軸に経過時間(単位:年)、縦軸に放射能の
0.9
相対値(基準時刻 t=0 において 1 とする)をとって
0.8
1.0
0.5
表しているが、下の曲線のように、放射能は経過時
間とともに指数関数的に減衰する。放射性原子核の
量(または放射能)が半分になる時間を半減期とい
う。半減期は動物の平均寿命と同じく、放射性元素
の平均寿命と考えると分かりやすい。縦軸を対数目
盛にすると上の直線となり、半減期の決定や任意の
時刻での放射能の読み取りが容易になる。
0.7
放
0.2
0.6
射
1/2
0.5
能
0.1
0.4
0.05
0.3
1/4
0.2
1/8
0.02
0.1
0
0.01
0
10
20
30
ところで、RI は半減期が長いほど、危険性が高い
40
50
60
70
80
90
100
経 過 時 間(年 )
と思われがちであるが、それは誤りである。半減期が無限に長ければ、崩壊は起こらない。半減期
は不安定な RI ほど短いので、放射能の強さは半減期の短い RI ほど強くなる。しかし、半減期の短
い RI は急速に放射能が減衰する。
2.4 放射線の種類
図は、放射線の種類と大まかな分類を示したものである。放射線とは、それが物質を透過すると
き、物質中の原子や分子に作用して電離する能力をもつ電離放射線をいう。この電離作用は、電荷
をもつ高速の粒子線のみがもつ性質で
X線
あるが、電荷をもたない放射線でも
特性X線、制動X線
電磁波
原子や分子と作用して二次的に高速の
γ線、散乱線、陽電子消滅放射線
荷電粒子を発生させ、これが電離作用
加速電子線、二次電子
をもつ。このような場合、はじめの電
荷をもたない放射線を間接電離放射線
β線
放射線
-
+
β 線、β 線
α線
といい、電磁波がある。
粒子線
加速粒子
電磁波の中で、周波数の最も低いも
p、d、He、重イオン
のが電波、最も高く、すなわちエネル
中性子
熱中性子、高速中性子
ギーが大きいものが胸部レントゲン検
宇宙線
一次宇宙線、二次宇宙線
査でおなじみのX線や放射性同位元素
から放出されるγ線である。X線とγ線の区別は、発生機構が異なるだけで、エネルギーの大小に
は直接的な関係はない。X線とγ線を区別しない共通の名前として、光子という用語も使われる。
荷電粒子放射線には、原子核から放出されるα線や 2 種類のβ線(β + 線、β - 線)、加速器を使
って電子を高電圧の下で加速して発生させる電子線、主として加速器でつくられる陽子線、重陽子
線、ヘリウムの原子核であるα粒子、重イオンなどがあり、これらは高速の荷電粒子であるから直
接的に電離作用をもつ。中性子は核反応や核分裂で生じる電荷をもたない粒子である。
宇宙では、超新星の爆発や太陽表面の爆発などで発生した高エネルギーの粒子がいつも飛び交っ
3
ている。これは一次宇宙線と呼ばれており、約90%が陽子、8%がα粒子、その他の粒子が約1%含
まれる。
2.5 原子核壊変
原子核には、不安定で、時間経過とともにより安定なほかの原子核に変化するものがある。原子
核が自然に変化することを原子核壊変と呼び、この際、放射線が放出される。以下、放射線利用に
おいて重要な原子核壊変について説明する。
① アルファ壊変
陽子の数が大きい原子核では、核内のクーロン斥力が増して核の安定性が小さくなる。一方、
α粒子(プラス荷電のヘリウムの原子核)は結合エネルギーが大きく安定な原子核である。そのた
め、Z が 83 以上で A がほぼ 200 以上の重い原子核は、
α粒子(線)を放出しエネルギー的により安定な原子核
α粒子(線)
になろうとする。これがアルファ壊変である。
ところで、原子核の中のα粒子は強い核力により原子核
につなぎとめられているので、古典力学的には核外へは
アルファ壊変
出られない。核外へ出るにはどこからかエネルギーを借
りてこなくてはならないが、量子力学のトンネル効果に
よって原子核のポテンシャルの壁をすり抜け、核外にα粒子が出ることがある。いったん、核外へ
出ると強い核力は及ばなくなり、さらに、原子核とのクーロン斥力により、α粒子は勢いよく原子
の外に飛び出していく。一方、壊変後の原子核は、その反動を受けてα粒子の放出方向と正反対の
方向に力を受ける。これを原子核の反跳と呼ぶ。
α壊変の例として、 238U の壊変図を示す。壊変する前の核種を親核種、壊変後の核種を娘核種と
呼ぶ。238U の壊変では、Z が 92、A が 238
の
238
2 38
9
U 4.468×10 y 親核 種
U の原子核がα線を放出すると、Z
α 1 4.151 MeV
21.0 %
が2 減、A が 4 減の 234Th の原子核になり、
壊変エネルギーが解放される。壊変エネ
ルギーは、壊変の前後における運動量の
0.047
α 2 4.198 MeV
79.0 %
保存則とエネルギーの保存則によって、
γ
α粒子のエネルギーと生成核の反跳エネ
ルギーに分かち与えられる。反跳された
娘核種 234Th は、一部γ線の放出と、さら
にベータ壊変して他の核種へと変わる。
Q= 4.270 MeV
0
娘 核種
2 34
Th 24.1 d
β
‐
Q値 :壊 変エネ ル ギー
壊変エネルギーが等しいにもかかわらず異なるエネルギーのα線が放出されるのは、α壊変の
21%が生成核の励起状態(0.047MeV)になるからである。α線のエネルギーは、壊変エネルギーと
娘核種の量子化されたエネルギー状態によって決まるので線スペクトルを示す。
② ベータ壊変
安定な原子核の陽子と中性子の組み合わせに対して中性子の数が多い場合には、中性子が陽子に
変化してβ - 線と反ニュートリノ(ν *)が原子核から放出される。これをβ - 壊変と呼び、Z が1増
加する。反対に、中性子が少ない場合には、正の電荷をもつβ + 線(陽電子)とニュートリノ(ν)
4
を放出して陽子が中性子に変わる。これはβ + 壊変と呼ばれる。Z は1減である。ベータ壊変では、
運動量の保存則を満たすように、壊変エネルギーが
β
ベータ粒子とニュートリノに異なる割合で分配され
-
壊変: 中性子 (Z,A)
β
るため、β線のエネルギー分布は、固有の最大値
+
壊変: 陽
(Z+1,A)
中性子 + β + + ν
子
(Z,A)
(最大β線エネルギー)以下の連続分布となる。
(Z−1,A)
EC 壊変: 陽 子 + e
一方、β - 線が放射性核種から放出される電子で
-
子 + β + ν*
陽
-
中性子 + ν
(Z,A)
(Z−1,A)
あるのに対し、電子線は、加速電圧が一定の電子線加速器で得られる均一エネルギーの人工放射線であり、
線スペクトルを示す。
中性子欠乏核のもう一つの壊変様式として、自身の軌道電子が原子核に捕獲される核変換がある。
これは軌道電子捕獲あるいは EC 壊変と呼ばれるものであり、原子核に最も近い K 軌道電子が捕獲
されやすい。電子捕獲によって軌道電子の再編成が行われ、Z が1減の核種が生成する。この過程
で空孔となった電子軌道は、外側のエネルギー準位の高い軌道の電子の移動により安定化する。
その際、娘核種の軌道間のエネルギー準位の差に相当する特性エックス線が放出される。電子構造
の再構成に伴ったエネルギー放出が X 線放出によらず、原子から電子を放出することによって行わ
れることもある。これをオージェ効果と呼び、放出される電子をオージェ電子と呼ぶ。
壊変の例を示す。純β - 線放出核種である 32P は、最大で
1.71MeV のβ - 線を放出して Z が 1 つ上の 32S になる。この
ような純β - 線放出核種には、他に、放射性トレーサーとし
て使用される 3H、 14C、 35S や核分裂生成物である
90
32
P 14.26d
β - 100%
(1.7 1M eV)
Sr-90Y
などがある。しかし、多くのβ - 線放出核種では、娘核種の
32
基底状態まで直接変化するものは少なく、大多数は娘核の
22
励起状態へと遷移し、さらに、基底状態へ脱励起される際
陽電子放出核種である 22 Na は、10%は EC 壊変による X 線
γ
0
放出により一部そのエネルギーを放出するが、90%は、核内
で 1 対の電子対を生成するのに必要な電子 2 個分のエネル
22
2
β 1 + 8 9.8 %
(0 .5 4 6M eV)
1.2 75
は次項で触れる。
Na 2.60y
2 m 0C
EC 10 .1%
にガンマー遷移を起し、γ線を放出する。γ遷移について
S
β2
+
Ne
ギー(2m0C2:1,022KeV)を消費した後、陽子が生成した電子と結合して中性子に変わり、陽電子は
核外へ放出される。その結果、Z が 1 減で A の変わらない励起された 22Ne となり、更に、γ遷移に
よりγ線を放出、基底状態となる。
陽電子は、物質中でその運動エネルギーがほぼゼロまで減速され、電子と結びついて消滅し、
電子質量に等しい2個の511KeVの光子が作られる。これらの光子は消滅放射線と呼ばれ、PET検査に
利用されている。
③ ガンマー遷移
α壊変やβ壊変の娘核種の多くは、その原子核は基底状態にあるとは限らず、励起状態にあるこ
とが多い。励起状態の原子核は、核種に固有な飛び飛びの離散的なエネルギー準位に収まっており、
エネルギー準位の高い原子核は、不安定で、極めて短時間にそのエネルギーを電磁波として放出、
よりエネルギー準位の低い状態あるいは基底準位へ遷移(ガンマー遷移)する。放出された電磁波
の波長は非常に短く、γ線と呼ばれる。γ線のエネルギーは核種に固有であり、線スペクトルを
5
示すことから、γ線のエネルギーを測定することにより核種を同定することができる。
ところで、X線はγ線と性質は同じ
であるが、原子核外の軌道電子の状態
変化により放出される電磁波である。
次に、γ遷移の例を
60
Co の壊変でみ
ていこう。60Co はβ - 壊変をすると、60Ni
の励起原子核になる。その励起状態の
60
Co 5.27y
β 1 - 0.318 MeV
99.9 %
β 2 - 1.491 MeV
0.08 %
2823.6 MeV
2.5058
γ 1 1.173MeV
1.3325
寿命は 3ps 程度で、ただちに 1.173MeV のγ線を放出し
て次の励起準位になる。この準位の寿命も 0.9ps 程度で、
ただちに 1.3325MeV のγ線を放出して安定な 60Ni になる。
従って、これらのγ線は実際には励起状態の 60Ni から放
γ2
出されるが、見かけ上は
0
60
Ni
60
60
Co から放出されるようにみ
-
えるので、 Co はβ 線とγ線を放出する核種とみなさ
れる。
④ 核異性体転移と内部転換
励起状態 にある原 子核 で、その 寿命が測 定可 能な程度 に長いも のが ある。こ のような 核種 は
核異性体と呼ばれ、質量数の右に m を付け表される。例えば、60mCo(10.47 min)、137mBa(2.55 min)、放射
性医薬品の原料として使用される99mTc(6.01 h)などが代表的
137Cs
なものであり、γ線を放出する。核異性体からのγ遷移を
30.0y
β1
核異性体転移(IT)と呼ぶ。
ITでは、γ線を放出する代わりに、そのエネルギーを軌
道電子に与えて軌道電子を放出する場合(内部転換:IC)があ
る。放出された電子は内部転換電子と呼ばれ、壊変エネルギ
ーから電子の結合エネルギーと原子核の反跳エネルギーを差
β1 ( 0.512 MeV, 94.6 %)
β2 (1.173 MeV, 5.4 %)
γ( 0.6617 MeV, 85.1 %)
137mBa
2.55m
0.6617
β2
K軌道 IC : 0.624 MeV (8 %)
L&M軌道 IC :2%
し引いた線スペクトルを持つ。
γ, IC
0
137Ba
内部転換の直後、空孔となった電子軌道は、他の軌道の
電子の移動により満たされる。 その結果として、内部転換では電子捕獲のように 特性X線やオージェ
電子が発生する。
参考図書
米沢仲四郎ら共訳:実用
ガンマ線測定ハンドブック、日刊工業新聞(2002)
野口正安、富永洋:放射線応用計測、日刊工業新聞(2004)
6
3.放射線の影響評価
放射線の人体影響を評価するには、放射線の強さと量を評価する必要がある。放射線自体の強さ
と量については光と同じように考えることができる。放射線の強さは光の場合の照度に相当し、
ある点における放射線の強さは、小球の大円の単位面積を通過する粒子
数で表す。これをフルエンス(φ)と呼び、粒子放射線に適用される。
小球の大円の単位面積に入射した放射線のエネルギーで表す場合は、
dN
これをエネルギーフルエンス(Ψ)と呼ぶ。
放射線の強さは、放射線自体の強さを表すフルエンス、エネルギー
フルエンスの他に、放射線を照射された物質が受ける作用の大きさが
問題とされる場合が多い。照射された物質への作用量としては、物質の
da:大円の面積
フルエンス (fluence)
Φ=dN/da
単位質量当たりの吸収エネルギーがとられ、これを吸収線量と呼び、
グレイ(Gy)という名称が与えられている。放射線が物質に当たると、物質と相互作用を起こし、
原子を次々と電離・励起しながらそのエネルギーを失って行く。物質が吸収したエネルギーとは、
このようにして失われた放射線エネルギーにほかならない。
放射線防護の分野では、人体に生じるさまざまな障害の大きさを考慮して、被ばく限度、作業基
準等を決めている。障害の大きさは被ばく線量に依存するが、放射線の種類・エネルギー、線量率
などにより異なる。また、被ばく部位の放射線感受性等によっても異なる。ここでは、放射線防護
に関係する線量計測の単位について要約する。
吸収線量に放射線の種類・エネルギーについての障害の起こし易さの係数である放射線荷重係数
を乗じた値が被ばくした器官・組織の障害の大きさを表す線量であり、これを等価線量という。
身体が不均等に被ばくする場合には、被ばくした個々の器官・組織の等価線量を論ずるよりも
全身が均等に被ばくした場合の障害の大きさに換算して論ずる方が実用的である。このため、被ば
くした器官・組織の等価線量にその器官・組織の放射線感受性の係数、組織荷重係数を乗じて全身
が均等に被ばくした場合の障害の大きさを表す線量に換算する。この換算された線量を実効線量と
いう。実効線量は、身体のすべての器官・組織の等価線量の和である。
線
量
単
フルエンス(Φ)
(/㎡)
エネルギーフルエンス(Ψ)
(J/㎡)
吸収線量 (D)
定
位
Gy
(J/kg)
等価線量 (HT)
Sv
実効線量 (E)
Sv
義
備
考
放射線場の単位面積を通過する粒子数
放射線場の単位面積に入射した総エネ
ルギー
物質の単位質量当たりに吸収された
全ての放射線を対象
エネルギー
吸収線量に放射線荷重係数(WR)を乗
被ばくした器官・組織の障
じたものHT = D・WR
害の大きさを表す
等価線量に組織荷重係数(WT)を乗じ
確率的影響に対する危険
たものE = ∑WT・HT
性の尺度
7
4.汚染検査等にサーベイメータを使用する時の留意事項
4.1 GM計数管式サーベイメーター
GM 計数管式サーベイメーターは、エネルギー依存性が高く、空間線量率の測定には不向きだが、
汚染検査には最も適している。とくに、大口径(直径 5 ㎝)の GM 管を備えるサーベイメーター
(TGS-133)は、広い範囲の汚染検査の際に効率が高いので便利である。ただし、低エネルギーγ・
X 線の測定の際は、計数効率は低いことを理解する必要がある。また、GM サーベイメーターによ
るβ線の測定に際しては、窓厚に注意しなければならない。市販の端窓型 GM 管の窓厚は 3mg/cm2
程度のものが多く、50KeV 以下の電子線を効率よく測定することはむずかしい。従って、3H は端窓
型有機 GM 管での汚染検査は不可能であり、14C に対しても検出効率が著しく低いため実用的でない。
これら軟β線核種の汚染検査には、低エネルギーβ用の薄窓型ガスフローカウンタを備える 3H/14C
サーベイメータ(TPS-303)によるか、ふきとり(スミア)法によるサンプルを液体シンチレーション
計数法で行うほうが確実である。
端窓型ハロゲン GM 管を備えるサーベイメーター(TGS-121)は、バックグラウンド放射線のような
低線量率の測定に適しており、γ線の線量のみを測定する場合は、アルミニウムなどのキャップを
入射窓に付けて行う。
なお、GM 管は分解時間が数百μ秒と非常に悪いため、線量率が高いと数え落としによる見かけ
上の計数率指示値の減少がおこる。
GM管式サーベイメーターによるおもなRIの計数効率
核種
計数効率(%)*
14
C
β(最大 0.156MeV)
0.3
32
P
β(最大 1.71 MeV)
15
Ca
β(最大 0.257MeV)
3
γ(0.320 MeV)
4
γ(0.0355MeV)、× (0.0275MeV)
0.5
45
51
Cr
125
*
放射線の種類(エネルギー)
I
検出器の窓内におさまるRIを、ラップ1枚介して測定
4.2 シンチレーション式サーベイメーター
入射放射線のエネルギーに対する依存性が強く、正確な空間線量率を決めるのは厄介だが、検出
感度が高いので汚染検査に向いている。一般的な NaI(Tl)シンチレーション式サーベイメーター
(TCS-165)のエネルギー下限は 50KeV 程度であり、これより低エネルギーの γ・X線は測定できな
い。エネルギーの低い
125
I の汚染検査には、検出窓及び NaI(Tl)シンチレータを薄くした
(TCS-163)が使用される。
8
4.3 汚染検査の方法
主な核種の適切な汚染検査の方法は次の通りである。
主な核種の適切な汚染検査の方法
核種
3
H
測定する放射線
使用機器
計数効率(%)
スミア法
β線
液体シンチレーションカウンタ
50
C
スミア法
β線
液体シンチレーションカウンタ
70
S
スミア法
β線
液体シンチレーションカウンタ
70
Ca
スミア法
β線
液体シンチレーションカウンタ
70
スミア法
β線
液体シンチレーションカウンタ
70
チェレンコフ光
液体シンチレーションカウンタ
50
β線
液体シンチレーションカウンタ
100
β線
GM サーベイメータ
15
γ線
NaI ウエル型 γ カウンタ
50
γ線
125
10
14
35
45
検査方法
33
32
P
P
125
I
スミア法
サーベイ法
スミア法
サーベイ法
I 用サーベイメータ
5 放射線防護の基礎知識
5.1 Rl取り扱いの注意
管理区域では、事業所の予防規程に従い以下の事項を厳守しなければならない。
(1)専用の実験衣(黄衣)、スリッパを着用する。
(2)ガラスバッジまたはポケット線量計を装着する(資料1)。また、装着部位を資料1に示す。
(3)作業台等は、常に整理整頓し、不必要な物品を持ち込まない。
(4)飲食、喫煙、化粧等を行わない。
(5)作業台は、ポリエチレンろ紙で被覆する。
(6)RIの取扱は、ポリエチレンろ紙を敷いたバットの中で行う。
(7)作業は原則として、RI取扱者(ホット取扱者)とコールド取扱者で分担して行う。
(8)RI取扱者は、プラスチック手袋等を用い、必要最小限のものだけを取り扱い、RI以外のものは
コールド取扱者が行なう(資料2)。
(9)液状のRIを取り扱う時は、マイクロピぺッタ等を用い、ピペットを口で吸ってはならない。
(10)γ線放出核種や放射能が1MBq以上のβ線核種を使用する時は、十分に遮へいし、被ばくを少
なくする。
(11)作業中に汚染した恐れがある時は、コールド取扱者を通じて直ちに管理者に報告する。さら
に、管理者の指示に従って汚染の有無を測定し、汚染があれば除去、脱衣等適切な措置をとる。
(12)RIに汚染した廃棄物は、可燃物、難燃物、不燃物、液体および動物に分け、必ず定められた
容器に廃棄する(資料3)。
(13)作業前後は、作業台付近を必ずサーベイメータ等で汚染チェックを行なう。
(14)管理区域から出る時、器具類等を持ち出す時は、汚染検査室で汚染チェックを行う。
(15)ケガをした時、RI溶液をこぼした時など、その他不慮の出来事が生じた時は、直ちに管理者
に報告する。
9
ホット取扱者とコールド取扱者
RIを使用して実験を行う者(取扱者)は、原則として二人一組で実験を行なう。RIを取扱う者
(ホット取扱者)は、プラスチック手袋等を着用し、RI汚染を引き起こす可能性のある作業を行う。
その際、汚染を引き起こさないように万全の注意を払う。RI溶液のしずくを垂らすなど、汚染を引
き起こした時は、汚染を取り除いた後、次の作業に取りかかる。
RIを取扱わない者(コールド取扱者)は、ホット取扱者がRIの取扱に専念できるように、実験に
必要な器具や試薬などを準備したり、作業が短時間でスムーズに進行するように手助けを行なう。
コールド取扱者は、直接RIを取り扱ってはならない。
5.2 放射線防護
放射線防護の三原則
放射線による外部被ばく防護の三原則は、図に示すとおり、時間・遮へい・距離の3つである。
「時間」の原則は、作業者が放射
線にさらされている時間を短縮
することにより被ばく線量を低
減すること、
「 遮へい」の原則は、
線源と作業者との間にコンクリ
ートのような遮へい物を設置す
ることにより被ばく線量を低減
することである。「距離」の原則
は、線源と作業者との距離を離す
ことにより、作業時における空間
線量率を低減することである。防
護三原則が取り入れられている
代表的な事例は、エックス線撮影
原子力 Q&A、電気事業連合会
における技師の被ばく線量低減の
ために採られる措置にみることができる。以下、非密封RIの取り扱いで推奨される「遮へい」の
効果について例証する。
32
Pや 125IなどのRI標識化合物を使用する場合には、被ばく線量をできるだけ低くするため、効果的
な遮へい材を適切に用いて実験を行う。32Pなどのβ線を遮へいするにはアクリルなどのプラスチッ
ク、 125Iの低エネルギーγ線を遮へいするには鉛入りガラスや鉛入りアクリルを使用する。
32
Pのしゃへい
32
Pなどの核種から放出されるベータ線は、物質を通過する際に制動放射線とよばれるエックス線
を放出する。制動放射線の透過力はβ線より大きいのでこれを確実に遮へいしなければならない。
この制動放射線の強さは、β線のエネルギーの強さと、通過する物質を構成する原子の原子番号の
大きさに比例し増大する。アクリルのようなプラスチック類は原子番号の小さい物質からできてい
る。このアクリルでできた遮へい体では発生する制動放射線が弱いため、実質、遮へい体でほぼ
吸収されてしまう。そのため、1cm厚のアクリル板(例えば、β-Safety Screen)はβ線を効果的に
遮へいし、制動放射線の発生を抑えることができる。
10
125
Iのしゃへい
ガンマ線を遮へいするためには、鉛のように大きな原子番号を有する物質を用いるのが
効 果 的 で あ る 。 し か し 、 通 常 大 き な 原 子 番 号 の 物 質 は 透 明 で は な い 。 1 2 5 Iな ど か ら 放 出 さ れ
る低エネルギーγ線の場合には鉛
を入れたアクリルを用いることで
こ の 問 題 を 解 決 し 、γ 線 を 効 果 的 に
遮へいできる製品が販売されてい
る 。 表 に 、 線 源 と し て 74MBqの 125I
を 使 用 し た 際 の 、 125I用 遮 へ い 板 で
あ る 1 2 5 I− Safety Screen( 12mm厚 の
鉛入りアクリル製)の有無による遮へい効果を示す。
5.3 汚染を起こさないために
非密封のRIを使用した実験を行えば、危険性の大小はあるが、必ず“汚染”の可能性がある。
RI実験に使用した全ての器具が広い意味で汚染したといえる。実験に使用した器具はすべて適切な
“除染”処理を行うこと。その処理が不適切であると、実験台の上や周辺、実験室全体にまで汚染
が広がることがある。正しい汚染の処理、除染法を身につけて、いつでも行えるようにすること。
“おそれない”
きちんとした防御をして、モニタをしっかり行えば除染は安全にできる。
“あわてない”
あわててしまうと、拾い上げた汚染源を落としたり倒したりして、かえって汚染領域を広げ
てしまうので、落着いて除染すること。
“あなどらない”
手袋をして、ろ紙で拭き取っているから大丈夫、とか、汚染範囲内の除染が終了して
一安心!…ではない。
手袋の汚染に気づかずにその手袋で触ったところが汚染していないか?
汚染範囲外のモニタはしたか?
小規模汚染の原因
① ピペットチップを落としてしまった
RI標識化合物を取り出すために使用したチップを落としたと
きは、周囲にも溶液が飛び散っていないか確認すること。確認
しないで次にすすむと思わぬところにまで汚染が広がる原因と
なる。
② 取り出し/分注の際に溶液が泡立ち、それがはじけた
試験管などの深い部分でおこると、外部飛散はなくても、ピペット本体が汚染した可能性があ
る。確認しないで次にすすむと、他に汚染が広がってしまうことがある。ピペット先端を汚染さ
せないため、エアロゾルバリア付のチップなどを使用するのも良い。
11
③ キャップの開閉で上部についたRl標識化合物を飛散させてしまった
注意してもピペット先端がチューブ上部に触れてしまうことがある。
付いてしまった溶液は遠心で下部に集めたり、拭き取る。そのままキャ
ップをした場合、次に開くときに飛散して汚染を広げてしまうことにな
る。開封時にはろ紙でキャップを覆い、飛散しないようにする。開封
前には遠心し、溶液を底部に集める。
④ 汚染した手袋を取ろうとして、他の部分を汚染させてしまった
手袋を引っ張って取ろうとして、手袋表面の汚染が飛散したり、汚染
した手袋で触れた部分をさらに汚染させることがある。ゆっくりと静かに取ること。
スミア(拭き取り)法による汚染のモニタ
必ず手袋をして行うこと。 3Hの場合には、この方法でないと確認することができない。
注:低エネルギーβ線用 3H/14Cサーベイメータ(TPS-303)を使用すれば3Hのモニタができる。
除染の方法
① 同じ実験室内にいる人に汚染が発生したことを知らせる
一人での処理を考えないこと。必ず他の人に知らせ、 RI管理者に連絡してもらったり、除染を
共同で行ったりする。
②身体および衣服などへの汚染が無いことを確認する
実験室内の広い場所に移動し、実験衣は汚染部分を
確認しながらゆっくりと脱ぎ、他に汚染が広がらないよ
うビニール袋に入れる。
③ 皮膚についた場合、まず大量の水で洗い流す
水がはねて他の場所を汚染しないよう注意する。ぬる
ま湯で、手洗い用石鹸や中性洗剤を用いてよく洗う。
あまり強くこすって、皮膚表面を削ったり、傷をつけな
いよう注意する。
3∼4回繰り返し、再度モニタする。それでも落ちない
場合、チタン酸ペースト(酸化チタンを0.01N HClで溶
いたもの、なければ練り歯磨きのような研磨剤のはいっ
たもの)で注意深く洗う必要がある。
12
④ 適切なモニタで汚染区域を確認する
汚染した区域を明確に示すためテープなどで
囲い、はっきり分かるようにする。実験衣や手
袋、防護めがねなどの保護具をきちんと つけて
いることを確認してから行う。汚染の程度に応
じて、例えば実験用の遮へい板などを使用する
ことも考える。
⑤ 周辺に汚染がないか適切なモニタを使用して再確認する
⑥ 大きな汚染物を取り除き、ビニール袋や廃棄用容器に入れる
除染したあと再使用するのがよいか、そのまま廃棄するのがよいか考えること。
⑦ こぼれた溶液をろ紙や吸収紙で拭き取る
手袋をきちんとしていることを再確認の上、ピンセットなどを用いてろ紙などで拭き取る。
使用したろ紙などはビニール袋や廃棄容器に入れる。さらに溶液がなくなるまで拭き取って
からモニタする。
汚染が生じたときは、何をおいても、先ずRI管理者か主任者に相談
13
6 演 習
6.1 GMサーベイメータの使用方法
指示計
PROBE(検出器)
接続用コネクタ
RESET スイッチ
GM プローブ
RANGE 切換スイッチ
FUNCTION スイッチ
時定数
TIME CONST.スイッチ
GMサーベイメータ (アロカ社製、TGS−133)
各部の名称と機能
GM プローブ:GM 計数管が収納されており、β(γ)線を検出する。
指示計(メータ):計数率(cpm)を示すメータ。下側の目盛りでは 0∼100 の単位で計数率が示され、
上側の目盛りでは 0∼300 単位で計数率が示される。
リセットスイッチ:メータを初期状態にリセットする(指針がゼロに戻る)。
レンジ切換スイッチ:メータの最大スケールを 100、300、…、30k、100k(cpm)の 7 段に切り換える。
TIME CONST.スイッチ:測定器の回路の応答時間。時定数を3秒、10秒、30秒のいずれかに切り換える。
メータ指示値の読み取りには時定数の2∼3倍の時間が必要。
FUNCTION スイッチ:電池の電圧チェック(BATT.)、高電圧のチェック(HV)、測定(USE)およびスイッチ
オフ(OFF)の切り換えを行う。スピーカーのスイッチをオンにすると、β(γ)線を検出するたびに
クリック音がスピーカーから出る。
使用手順
1)
汚染を防ぐために、GM プローブの窓をラップや薄手のビニール袋等で包む。
2)
FUNCTlON スイッチを[OFF]から[BATT]に切り換える。この時、メータの針が緑の範囲内
にあることを確認する。
3) HV に切り換え、メータの針が赤の範囲内であることを確認する。
4) FUNCTION スイッチを[USE]もしくはスピーカー音に切り換える。
5)
GM プローブの窓面を線源より約 1cm 離して測定する。走査するときは、ゆっくりとした速
14
さ(3∼6cm/s)で移動させて、計数率が最大となる場所を探す。
6)
メータの指針が振り切れたり、小さすぎないように、レンジ切換スイッチにより適当なレン
ジを選択する(レンジを切り換えたときは、指針の振れが落ち着くまで若干の時間を要す
る)。
7)
計数率が低く、指針がふらつく場合は、時定数を 30 秒に設置し指針の振れ幅の中央値を読
取る。
8)
測定が終了した後は、FUNCTION 切り換えスイッチを OFF の位置に戻す。測定が終了した後
は、FUNCTION 切り換えスイッチを OFF の位置に戻す。
注意事項:GMプローブは破損しやすいため、特に注意して取り扱い、衝撃等は加えないこと。
時定数と誤差
GMサーベイメータの時定数は短い方が測定時間が短くなるので便利であるが、指示計の針のふ
らつきが大きく、読みとりが難しくなる。一般に指示計の針のふらつきは、標準誤差(SE)又は
確率誤差(PE)で表される。
(1)指示計の値と標準偏差
M=N±σ=N±[N/(2T)] 1/2
(l・1)
ここで、M:正味の計数率(cpm)
N:指示計の計数率(cpm)
σ:標準偏差(cpm)
T:時定数(min)
(2)標準誤差(SE)又は確率誤差(PE)
時定数をT、計数率をNとすると、
SE=σ/N
=[N/(2T)] 1/2/N
=(2NT) -l/2
(1・2)
PE=0.675σ/N
=0.675(2NT)-1/2
(1・3)
よって、時定数(T)を大きくすれば、指示計の針のふらつきは小さくなる。
(3)カウンタの測定値と標準偏差
M=N±(N/t)l/2
(l・4)
ここで、M:正味の計数率(cpm)又は壊変率(dpm)
N:カウンタの測定値(cpm)又は(dpm)
σ:標準偏差(cpm)又は(dpm)
t:測定時間(min)
なお、(1)の指示計の値と標準偏差の式(1・1)は、(1・4)式でt=2Tとおいたものに相当する。
15
6.2 防護3原則:放射線の距離・遮へいによる減弱の効果
目 的
a) 標準線源の放射能の測定を距離を変えて行い、距離の効果を確かめる。
b) 標準線源から放射されている放射線の遮へいを行い、遮へいの効果を体験する。
使用器材
品
名
規
格
数/班
備
GMサーベイメータ
アロカ、TGS−133
1台
測定試料台
アクリル製
1台
線源固定板
86×80×2mm(アクリル)
1枚
遮へい板仕切
86×80×2mm(アクリル)
1枚
60φ切り抜き
遮へい板
79×79×2mm(アクリル)
10枚
遮へい材
遮へい板
79×79×2mm(鉛)
5枚
遮へい材
サーベイメータ固定台
アクリル製、厚さ1cm
1台
距離の効果
巻き尺
2m
1個
ビニールテープ
標準線源
考
遮へいの効果
1個
注)
1個
保管容器
注)標準線源について
この実習で使用される密封線源は、
自然界に存在するウラン系列の 226Ra(半
減期1600年)であり、一連の娘核種と放
射平衡になっているものである。よって、
13核種を含み、放出される放射線はα線、
β線、γ線および制動放射線(X線)であ
る。この線源は、0.5mmの白金板で挟まれ、
更に1mmのプラスチックで覆われている
ので、α線の全てと、低エネルギーβ線
は遮へいされており、表面には出てこな
い。この実験で測定されるのは、γ線と
高エネルギーβ線および制動放射線であ
る。
アイソトープ手帳(改定 10 版)より
16
a) 距離の効果
1)
実験台にビニールテープを貼り付け、距離0、5、10、20、40、80、160cmの位置に印をつけ
る。
2)
線源がない実験台上で、バックグランド(自然放射線)を測定する。
3)
線源中心とサーベイメータ固定台上のサーベイメータ中心が平行になるように測定試料台
横に両面テープを貼り、裏側を測定試料台側として、ラジウム線源を取り付ける。
4)
線源表面が 0 cm となるように測定試料台を置く。
5)
サーベイメータ固定台を移動させ、各点で放射能を測定する。測定は遠距離より行う。
6)
実測値を実習レポートのグラフ用紙(直線目盛と両対数目盛)に作図する。
b) 遮へいの効果
1)
GMプローブを測定試料台の穴に取り付ける。
2)
線源固定板を測定試料台の5段目(5.5cm)の位置に
置く。
3)
遮へい板仕切を3段目(3.5cm)の位置に置く。
4)
遮へい板がない状態でバックグランドを測定する。
5)
線源を固定板に置く。
6)
アクリル板(厚さ2mm)を1枚から10枚まで増やし
ながら測定を行う
7)
同様に、鉛板(厚さ2mm)を1枚から5枚まで増やし
ながら測定を行う。
8)
それぞれの遮へい物について、測定値より相対比を
求め、グラフ用紙に作図する。
17
防護3原則:放射線の距離・遮へいによる減弱の効果
a) 標準線源とGMサーベイメー夕の距離を変えて測定を行い、距離の効果を確かめる。
(記録1)
測定順序
測定距離(cm)
1
バックグラウンド:BG
7
5
6
10
5
20
4
40
3
80
2
160
計数率注1)(cpm)
注1) N(計数率)cpm = counts per minute
注2) Nnet(正味の計数率)= N − BG
18
正味の計数率注2)(cpm)
b) 標準線源から出ている放射線の遮へいを行い、遮へい体による遮へい効果を体験する。
(記録2)
アクリル板(厚さ2mm)
遮へい体
(枚数)
計数率
正味の計数率
(cpm)
(cpm)
0
鉛
相対比 注3)
1.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
注3) 相対比 =
遮へい体の枚数毎の正味の計数率
遮へい体なしの正味の計数率
19
板(厚さ2mm)
計数率
正味の計数率
(cpm)
(cpm)
相対比 注3)
1.0
6.3 サーベイメータ法による表面汚染密度の測定
目 的
RIを取扱う実験は、実験器具類の汚染はもちろんのこと、実験台、フード、床等の表面の汚染も
避けることは難しい。実験中に汚染を起こしたとき、または起こしたかもしれないと思ったとき、
そして実験を終了したときは、直ちに汚染状況を測定しなければならない。
ここでは、作業室の実験台を汚染させた場合を想定して、サーベイメータ法で汚染場所の特定と
表面汚染密度の評価を行う。
手 順
1)
使用の手順に従ってサーベイメータを準備する。
2)
FUNCTIONスイッチをスピーカ昔に切り換える。
3)
GMプローブの窓面が実験台表面から約1cmのところで、バックグラウンド計数率(R b )を
測定する。「TIME CONST.」は「30」、レンジ切換スイッチ「100」を選択する。
4)
線源(プラスチックシートに封じたマントル)を裏に貼り付けた用紙を受け取る。
5)
「TIME CONST.」は「10」、レンジ切換スイッチを「300」に選択する。
6)
プローブを、配布された用紙表面より約1cmの距離に保って汚染箇所を発見する。プローブは、
音を手がかりにして初め大雑把に移動させ、汚染していると思われる付近ではゆっくり移動
させる。(参考:汚染箇所の検索方法)
7)
汚染箇所の外側から内側にプローブをゆっくり移動させながら、音が大きくなり始めたとこ
ろで止める。これを8方向から行い汚染の範囲を調べ、マーカーで印を付ける。(参考:汚染
箇所の検索方法)
8)
汚染箇所の中心上(汚染の範囲が広い場合は計数率の最も高いところの上)にプローブを
静止させ、プローブ前面から汚染箇所の表面までの距離を約1cmに保って、計数率(R ts )を
測定する。
表面汚染密度の測定
汚染箇所の表面密度 As(Bq/cm2)を以下の式より求める。
As =
R ts - R b
60ηw
ここで、Rtsは、測定箇所の計数率(cpm)、Rbは、バックグラウンドの計数率(cpm)
ηは、計数効率(TGS-133で0.2)、w は、検出器の有効窓面積(TGS-133で20cm2)
(記録3)
測定対象
バックグラウンド(Rb)
汚染中心(Rts)
計数率(cpm)
汚染箇所の放射能 A(Bq)は、 A =
R ts - R b ( ) - ( )
=
= (
60η
60 ´ 0.2
従って、汚染箇所の表面密度 As (Bq/cm2)は、 A s =
20
)
A ( =
= (
w
20
) (Bq)
) (Bq/cm2)
汚染箇所の検索方法
汚染の中心
汚染の範囲
プローブの移動方向
プローブ
補足:スミア法による汚染の測定
GM サーベイメータの計数効率の低い核種
( 3 H/ 14 C)による汚染の場合、ふきとり(スミア)
法によるサンプルを液体シンチレーション計数法で
行うほうが確実である。汚染箇所を中心とした約
10×10cm2 の範囲をスミアろ紙で一様に拭き取る。拭き取り方は、スミアろ紙が破れない程度の力
を加え、拭きむらができないように行う。低エネルギーβ用の薄窓型ガスフローカウンタを備える
3
H/14C サーベイメータ(TPS-303)があれば、サーベイメータ法による測定が簡易である。
スミア法による汚染箇所の表面密度Aw(Bq/cm2)は、以下の式より求める。
Aw =
R tw - R b
60ηλS
ここで、Rtwは、スミアろ紙の計数率(cpm)
Rbは、バックグラウンドの計数率(cpm)
ηは、計数効率(液体シンチレーションの測定で 14Cで0.7)
λは、ふき取り効率(0.05)
Sは、ふき取り面積(10×10cm2)とする。
汚染の除去
水で全体を湿らして固く絞ったワイパーで、スミア法で拭き取った範囲を、外側から中心に向っ
て10回以上強い力をかけて拭き取った後、汚染検査を行い、最も計数率の高い箇所を測定する。
汚染が残っていたら、汚染箇所に除染剤を適量垂らし、除染作業を繰り返す。測定値が、バック
グラウンドの3倍以下になったら、除染作業を終わる。
21
資料1 ガラスバッジ、ポケット線量計
図 1 ガラスバッジ
図 2 ポケット線量計
図 3 ガラスバッジの装着部位
個人線量の測定は、放射線障害防止法(規則第20条)、医療法(規則第30条の18)、電離放射線
障害防止規則(第8条)等の法令で義務付けられている。
ガラスバッジ装着上の注意
・モニタラベルに表示している使用者氏名、装着部位を確認のうえ装着すること
・ガラスバッジは装着部位によって色が変わる
・ガラスバッジは、絶対に開けないこと
・モニタラベルは、剥がさないこと
・ガラスバッジは貸与品です。紛失または破損の場合、弁済料が必要となる。
22
資料2 プラスチック手袋の取り扱い法
RIを取り扱う際は、必ずプラスチック手袋等を着用しなければならない。基本は、手袋の外面は
汚染していると考え、内面と外面を接触させないこと、外面を皮膚に触れさせないことである。
1.新品のプラスチック手袋の取り扱い
1)サイズの確認:自分の手の大きさに合ったサイズを選ぶ。
2)破損の有無の確認:
① 破損がないこと(眼で観察)
② ピンホールがないこと(手袋の首の部分を広げてクルクルと回して空気を入れ、洩れのな
いことを眼で観察)
3)装
着:黄衣の袖を絞り、袖口まで手袋を上げる。(必要に応じて、手袋の内部と手にパウダ
ーを適量塗布する。)
2.作業後の取り扱い
1)水
洗:手袋を装着したまま、実験室内の流しで丹念に手を洗い、ハンドドライヤーやペー
パータオルなどで水分を取る。
2)確
認:手袋に汚染のないことをサーベイメータで確認する(汚染があったり、破損がある
ときには再使用はしない)。
3)脱
ぐ:
① 片方の手の小指(汚染の可能性小)を反対の手の手袋の掌側の袖の近くの外側に架けて、裏
返しながら取る。
② 実験台上に用意したペーパータオルの上に置く。
③ もう片方は、素手になった手で手袋を装着している手の甲側の袖の内側をつかみ、裏返しな
がら取り、ペーパータオルの上に置く。
④ 必要に応じてペーパータオルに名前を書いておく。
3.再使用するとき
1) 自分のものかを確認:名前や場所を観察
2) 再装着準備:裏側になった手袋を表側にする。(手袋の指の部分を内側に入れ、手袋の首の
部分を広げてクルクルと回して空気を入れて指を延ばすとともにピンホールがないかを眼
で確認する。)
3)装
着:手袋の手首を外側へ約5より7cm 折り重ねる。黄衣の袖口を絞り、手袋の折り返し部
分を持ち袖のまで手袋を上げる(両手にパウダーを適量塗布する)。
23
資料3 廃棄物の分類
24
資料4 管理区域への入退室方法(学内共同利用RI実験室の場合)
入退室管理システム
放射性同位元素等使用施設への入退室では、RI管理区域に加え施設への入館にも指紋照合による
システムが導入されている。
指紋照合装置の使い方
玄 関
1.画面にPassword Input!!
????が掲示される。
Password Input!!
2.利用者ID番号を、テンキーを用いて入力する。
“*”キーで入力をクリアできる。
????
3.画面に4桁の数字が出る。登録した指を指紋読み取り窓に置く。
4.読み取りを始めるSCAN COUNT の表示が出る。
OK
5.読み取りにくい場合、2回から3回試みる。
6. OKのサインが出る(指紋照合ができないとNGのサインが出る)。
NGの場合もう一度試みるか、第2指を用いて照合する。
Door Open
7.自動ドアのセンサーによりドアが開く。入館した個人、日時が記録される。
汚染検査室(RI管理区域)への入室
・ 指紋照合装置の使用は“玄関”の項目1∼5”までと同様である。
・ OKのサインが出るとカチッと電気錠が開く、ドアのノブを回し入室する。
・ RI管理区域への入室は一人一人行う。入室した個人、日時が記録される。
RI貯蔵庫の開錠
1.利用者ID番号をテンキーを用いて、入力する。
2.画面に4桁の数字が出る。
3.カチッと電気錠が開く、ドアのノブを回し入室する(内部からは自由に退出できる)。
4.退室の際、ドアは確実に閉める。
Please check on the hand
汚染検査室(RI管理区域)からの退室
1.ハンドフットクロスモニター(HFC)にかかる。
2.汚染が無ければHFCの横の指紋照合装置に利用者ID番号をテ
foot cloth monitor
ンキーを用いて、入力する。
3.スリッパを履き替える。
4.出口の右側の指紋照合装置に、利用者ID番号をテンキーを用いて入力する。
5.カチッと電気錠が開く、ドアのノブを回し退室する。
緊急時、停電の際はドアの鍵を開けて退室してください。
(開錠の記録は残ります)
25
資料5 計画から実験まで
RI安全使用のための3原則(3C)
3Cは、放射線管理の基本である放射線障害の防止を達成するために実行されるものである。
実験計画
RIを使用するといっても、取り立てて特別のことを考える必要はない。どのような実験でも、最
良の結果を得るためにはどうするのが良いか、それを安全にかつ効率よく行うためにはどうすべき
かをいつも考えているはずである。RIを用いた実験の場合には、安全に実験を行うために、取扱い
時間を最小にして、実験台の上の器具・試薬の配置やしやへいなどについて再度注意深く見直す。
効率良い実験のためには、操作ステップの見直し、廃棄物をできるだけ少なくする方法を考えるこ
とが大切である。
コールドラン
事前に、RIを用いずに、全く同じ環境(機器の配置や使用する器具など)で実験操作を行ってみ
る。これは大変重要なことである。
・ 実験器具、試薬などの配置が安全にかつ使いやすい位置にあるか
・ 必要なものがすべて揃っているか
・ 実験操作に無理や無駄がないか
・ 何か不都合が見つかれば、実験計画を立て直すこと
RIの受け取り
RIの発注と受け取りは管理室の職員が行っている。入荷後、管理室の職員から入荷の旨連絡が入
るが、保管庫への保管は申し込み者で行う。外容器に汚染がないことを確認した上で、ただちに適
切な保管を行う。最適な保管方法と輸送形態が異なることがあるので、必ず添付書を確認すること。
管理と記録
RIを受け取り後、施設の手順にしたがって記帳する。使用前および使用中、使用後の記録と管理
も責任を持って実験者が行う。それぞれの施設で定められた記録帳票に必ず記録すること。
実験をはじめるにあたって
安全に使用することを心がける。個人用被ばく線量計を、決められた位置に装着する。一人で実
験を行わないこと。事前の準備がきちんとなされていることを確認する。特に被ばく、汚染に対す
る予防措置が十分であることを確認すること。
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RI標識化合物容器の開封
・ よく換気されているフード内で開封する。
・ 容器表面などに汚染がないことを必ず確認する。
・ 溶液状のRIは、開封前に遠心して溶液を容器の下部に集める。
実験上の注意
・ ゴムやプラスチック手袋、防護めがねなどの放射線防護用具をきちんと装着する。
・ 遮へい材を適切な位置に設置する。
・ RI溶液の入った容器の中を直接のぞかない。
・ 器具やチューブの取り扱いは、丁寧に落ち着いて行う。
・ 廃棄物入れをあらかじめきちんと設置する。
・
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P使用中はGMサーベイメータで、 125I使用中は 125I用シンチレーションサーベイメータで実験区
域を常時モニタする。
・ 実験後は、スミア法等で汚染の無いことを確認する。
・ 誤ってRIをこぼして汚染させても、決してあわてない。
廃棄と洗浄
廃棄と洗浄は十分注意しないと、周囲に汚染を広げてしまう。あわてず、あせらず、ゆっくりと
行う。
・ 廃棄するものと洗浄するものを分け、決められた区分にしたがって廃棄する。
・ 溶液など、廃棄する総放射能量を確実に記録する。
・ はね返った水で周囲を汚染させないよう注意する。
・ 使用した手袋でさわった部分を汚染させてしまうことがある。汚染チェックが終わるまでは手袋
で周囲をさわらないようする。
・ 洗浄終了後は必ず周囲のモニタを行って、汚染がないことを確認する。
・ 洗浄廃液の処理、廃棄を安全にかつ確実に行う。
・ 汚染が生じたら、除染の方法にしたがって、除染する。
実験終了
・ 実験に使用した器具の整理整頓を行う。
・ RI実験室に持ち込んだものは、汚染のないことを確認して持ち出す。
・ 実験台、身体の汚染のチェックを入念に行う。
・ 汚染などの問題がないことを確認してから実験室を退出する。
・ 使用記録を必ず記入する。
・ 個人用被ばく線量計の管理、保管を行う。
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