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地域の大国イラン・イスラム共和国 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報
JOGMEC 事業推進部 乙丸 修作 エッセー 地域の大国イラン・イスラム共和国 はじめに さ れ、Anglo Persian Oil Company 性を生かした多様な農作物を生産し (APOC:1 9 5 4 年より BP〈英〉)によ ており、自給率は 9 0 %以上* 6 を誇る イランは、紀元前以来数千年の歴史 り開発がなされてから、石油産業が ほどである。また、漁業や鶏、羊や を有する文明国であり、かつてはシル 主要産業となっている。現在でも国 牛等の畜産業も行われている。他方、 クロードの中継地やペルシャ帝国とし 家(一般会計)歳入の約 8 割を石油販売 米、小麦、砂糖や牛肉等は、人口の て世界的に知られている。また、2 0 収入に依存していると言われている。 増大による消費量の増加を受け、輸 世紀初頭、中東地域で初めてとなる石 一方、自動車産業では年間約 1 5 0 万 入に頼っている部分もある。 油開発が行われ、現在でも世界有数の *3 台 、鉄鋼産業では年間約 1,3 0 0 万ト *4 主な経済問題は、インフレの高止 産油国であるとともに北はカスピ海、 ン を生産、電力産業等の石油産業 まり、失業率の悪化、石油販売収入依 南はペルシャ湾、オマーン湾に面して 以外でも外国資本および技術を基盤 存度の高止まり、国営企業の民営化の いることや 7 カ国と国境を接する地政 にした発展はもとより、自国企業に 実態および税制等が挙げられる。これ 学的特異性が加わり、中東地域では経 よる発展も見受けられる。自国産業 らの問題は、政府が改善策を策定ある 済的影響力に加え政治的な存在感をも は、女性の社会進出ができる環境に いは実施しているものであり、いずれ *5 顕示している。他方、 1979年のイラン・ あり、識字率 8 2 % という世界の開 も改善の過渡期にある。今後の成り行 イスラム革命以降、特に近年では、核 発途上国のなかでは決して低くない きが注目される。詳細に関しては、後 開発疑惑や人権問題を起因とする国連 教育レベルを基盤に、外国企業にの 述する。 や諸外国による経済制裁下に置かれ、 み頼るのではなく自国民による発展 国際的に孤立の一途をたどっていると がなされている。また、元来の主な b.貿易関連 言えよう。 産業である農業は、特異な地理的特 前述の国内産業にとどまらず、シル 筆 者 は、2 0 0 8 年 9 月 よ り 2 0 1 1 年 1 1 月までの約 3 年 2 カ月間を在イラン 日本国大使館の経済担当書記官として テヘランに駐在した。 その経験を基に、 前述のような状況下にあるイランでは あるが、石油や天然ガスのみでなく鉱 物資源や産業全般で高いポテンシャル を持つ中東・西アジアの大国イランに ついて紹介する。関係者や読者の一助 となれば幸いである。 1. 国内事情 (1)経済概要 a.経済・社会状況 人 口 は 約 7,4 7 0 万 人(3 0 歳 以 下 が 6 0 %を占めている) *1 出所:筆者撮影 を擁し、1 人あ たりの GDP 約 4,5 0 0 ドル * 2。1 9 0 8 年 にマスジェデ ・ スレイマン油田が発見 65 石油・天然ガスレビュー 写1 イラン最大の原油積出基地(カーグ島) エッセー イラン最高峰ダマバンド山 (5,671m・テヘラン北部) 緑豊かなカスピ海側山麓地域 (マースーレー村) 深緑が生い茂る首都 (テヘラン北部) 穴居住宅 (キャンドヴァーン村・イラン北西部) アルメニアン教会 (イラン北西部) キッシュ島海水浴場 (イラン南部) 出所:筆者撮影 写2 イラン百景 クロードでも知られるとおり、古来物 きく依存しており、継続的に黒字 * 7 ン、桃、魚(甲殻類含む)や花、そして 流が盛んな国である。またホルムズ海 である。特に、2 0 0 5 年 6 月に第 1 期ア 地域により異なる絨毯、象嵌細工や陶 峡、ペルシャ湾やカスピ海沿岸に港を フマディネジャード政権が発足したこ 芸等の伝統工芸品である。また、各地 有し、中央アジアや CIS 諸国への懸け ろから続いている油価の高騰は、イラ では、地域特有の石油、鉱物、繊維、 橋としても知られており、今後、中継 ンの国家財政にとって追い風となって 食料や自動車産業等の工業地域、観光 貿易地としての存在が更に大きくなる いる。 や農業等の産業が発展していることが じゅうたん がん うかが 窺える。 可能性を秘めている。イランの主な港 は、 ホルムズ海峡付近のバンダル・アッ c.地域の特異性 バス港やペルシャ湾北部にあるバンダ アフマディネジャード政権の経済 多様な気候と地理的特異性を有し、 (2) ル・イマーム港の 2 港であり、両港で、 各都市を訪れるとそれぞれの特質が異 イランで取引しているコンテナ、穀物 なり、おおまかに言えばカスピ海沿岸 a.第 5 次五カ年開発計画 や自動車等の貨物の 9 割程度を取引し では田園地帯、中部では砂漠、東部で 政府は、2 0 1 0 年 3 月から 2 0 1 5 年 3 ている。その他、ペルシャ湾岸諸国間 は土漠、西部では湿地帯や山脈、南部 月を期間とする第 5 次五カ年開発計画 を結ぶダウ船による海運やカスピ海で ではマングローブ、北部では数千メー を 2 0 1 0 年 1 2 月に採択した。主要な経 は CIS 諸国間の海運のための小規模な トル級の山脈が見られる。大都市は、 済指標の改善目標が定められている同 港がある。原油やコンデンセートは、 鉄道や空路で結ばれ、その中心部では 計画上の各目標値は、GDP 成長率年 ペルシャ湾にあるカーグ (ハーグ) 島か 地下鉄やバス等の公共機関がある程度 平均 8 %、失業率 2 0 1 5 年までに 7 %、 ら輸出量の 9 5 %程度が出荷されてい 発達している。各都市やイランを特徴 インフレ率年平均12%である。 現状は、 る。 付ける名産は、キャビア、サフラン、 GDP 成 長 率 が 3.2 % * 8、 失 業 率 が イランの貿易収支は、原油輸出に大 ザクロ、ナツメヤシ、種類豊富なメロ 1 3.5 % * 9、インフレ率が 1 9.8 % * 1 0 で 政策 2012.5 Vol.46 No.3 66 地域の大国イラン・イスラム共和国 ある。同計画では、 経済的格差の是正、 出を貧困層に再分配する内容が盛り込 4 0 %が公正株として分配されている。 石油販売収入依存からの脱却、生産性 まれている。補助金の再分配は、当初、 国営企業の総資産は、1,2 0 0 億ドル相 の向上、非石油部門産業の成長等も掲 貧困層への現金給付が 5 割、産業支援 当と言われているが、2 0 1 1 年 3 月ま げられている。 向けが3割、政府開発予算分が2割とさ でに約 8 2 7 億ドル* 1 4 分が民営化され れていたが、実際は、現金給付8割、産 ている。民営化は、第 5 次五カ年計画 b.補助金合理化 業支援向け 2 割に変更されている模様 期間中も推進されている。 2010年12月、 経済的格差 (エネルギー である。現金給付の対象は、貧困層と 補助金はガソリンを多く使用する富裕 されていたが、実際には受給登録をし d.その他の政策 層への恩恵が大きい)の是正、エネル た全国民の9割ほどに分配されており、 これら政策が実行されるなか、イラ ギー消費構造の改善、生産性の向上、 国家財政を圧迫している。産業支援は、 ン暦 1 3 8 9 年、産業支援を主な目的と 原油輸出量の増大、ガソリン消費量の 低利子融資が一部で行われているが、 する国家開発基金が設立された。同基 抑制による大気汚染の減少等を目的と 産業界からは支援不足の声が上がって 金は、石油販売収入の20%を財源とし、 する補助金合理化法が施行された。同 いる。他方、国際機関は、石油販売収 産業界への支援や、一般向け住宅供給 法 は、 ガ ソ リ ン、CNG、 電 力、 水、 入依存を脱却するための大々的な政策 を大規模に支援することを目的とする 小麦やパン等に付されていた合計約 は、産油国では初めての試みであると ものである。 1,0 0 0 億ドル *11 の補助金が段階的に廃 *13 して、同政策を評価している 。 止される内容となっている。同法施行 税制分野では、石油販売収入依存か らの脱却を主な目的とし、2008年に3% 年のイラン暦 1 3 8 9 年度予算(2 0 1 0 年 c.国営企業民営化 の付加価値税(VAT)を導入したが、 3 月~ 2 0 1 1 年 3 月)には、約 2 0 0 億ド 第 1 期アフマディネジャード政権時 イラン経済の中核の一つであるバザー の 補 助 金 削 減 が 組 ま れ、 同 の第 4 次五カ年開発計画(2 0 0 5 年 3 月 ル商人が VAT 導入に抗議するストラ 1 3 9 0 年度予算では約 6 0 0 億ドルが計 ~ 2 0 1 0 年 3 月)では、生産性向上に主 イキを起こし、完全実施には至ってお 上されている。その結果、ガソリン価 眼を置いた国営企業の民営化が掲げら らず、外国企業や一部企業にのみ課さ 格が 4 倍~ 7 倍、電力料金やパン価格 れている。実際、Iran Khodro 元国営 れている。イラン経済におけるバザー 等が数倍に高騰した。 自動車会社等の多くの企業が民営化さ ル商人の強大な権力が窺える。第 5 次 補助金合理化政策は、ガソリン等を れているが、引き続き、政府の影響力 五カ年開発計画では、VAT を毎年 1 % 浪費する富裕層への補助金を減らし、 が強いと思われる。民営化した国営企 増税し、8 %まで引き上げることが示 補助金の削減により抑えられる政府支 業の株式は、貧困対策として、株式の されている。 ル分 * 12 出所:筆者撮影 写3 バザール(シーラーズ・イラン中部) 67 石油・天然ガスレビュー 出所:テヘランバザール 写4 大バザール(テヘラン) エッセー 2. 対外経済 ン歴 1 3 8 9 年の貿易量は、過去 5 年間 量は約 1 1 1 億ドル、その約 9 3 %が石 で最大となっている。 油輸入となっている。日本からのイラ (1) 外国企業の活動 欧州、中国、インド、トルコ、韓国 ン向け輸出量は、約 2 0 億ドルで、輸 a.活動概要 等の外国企業は、引き続きイランで活 送機器、一般機械や鉄鋼が主な品目と 主要産業である石油と天然ガス分野 動しているが、次第に強化される対イ なっている。 のみならず、自動車、鉄鋼、鉱物、食 ラン経済制裁を受けて、決済や貿易保 料、医療、家電や建設等多くの分野で 険の問題が具現化し、大きな障壁と b.対諸外国 外国企業が活動している。特に欧州系 なってきており、必ずしも容易に活動 各国との貿易は、総貿易量が約 1,8 3 4 企業の活動が目に付くが、最近では中 できる環境ではない状況に直面してい 億ドル* 1 7。イランからの各国の輸入 国企業の進出が目立っている。活動内 る。 量が約 1,0 9 3 億ドル、そのうち 8 0 % 容は、一定の制度が整っているイラン 他方、イランを取り巻く国際情勢が が石油や石油・天然ガス製品である。 市場において、事業への投資、EPC 緊迫化するにつれ、油価が 1 バレルあ 各国からのイラン向け輸出量は、約 *15 を突破するほどまで 7 4 0 億ドルで、主に鉄鋼製品等の非石 に高騰しているので、これが石油販売 油製品である。貿易バランスは、約 b.制裁の影響 収入の減少を食い止めていると言えよ 3 5 3 億ドルの貿易黒字となっている。 イランは、核開発疑惑や人権問題を う。石油輸出量の減少については、次 主な輸出品は石油であるが、最近では 起因とする国連制裁、米国やEUをは で述べる。また、制裁により穴が開い 石油化学製品が輸出量を伸ばしてい じめとする各国の独自制裁の下にあ た、ポテンシャルが高くルークラティ る。僅かではあるが、自動車の輸出も る。近年では、核開発疑惑に関連する ブな市場は、外国の中小企業や大企業 行っている。非石油分野におけるイラ 制裁が強化される一方にあり、イラン の関連会社にとって格好の市場となっ ンの主な貿易相手国* 1 8 は、イランか における外国企業の活動に大きな弊害 ている。特に、中国企業は、中国政府 らの輸出国がイラク、中国、UAE で をもたらしていると言えよう。イラン の後ろ盾により、活動の幅を広げてい あり、イランの輸入国が UAE、中国、 を取り巻く国際情勢は、好転の兆しど る。 ドイツである。 やトレーディング等が主である。 たり 1 2 4 ドル ころか一層の暗雲が漂い始めている状 貿易 況にあると思われる。現下、 イランは、 (2) 前述のとおり石油輸出を軸として年間 a.対日本 1,0 0 0 億ドル以上を輸出しており、継 日本との貿易は、総貿易量が 1 3 2 億 続して貿易黒字を維持している。イラ ドル *16 で、イランからの日本の輸入 3.石油・天然ガス産業 (1)概要 石油および天然ガス産業は、1 9 0 8 年に APOC によるマスジェデ・スレ イマン油田開発を発端に、1 0 0 年以上 前から石油開発が行われてきており、 イランの産業の基幹を担っている。石 油埋蔵量、生産量は、それぞれ 1,3 7 6 億バレルで世界第 3 位、日量 4 2 5 万バ レルで世界第 4 位である。天然ガス埋 蔵量と生産量は、それぞれ 2 9 兆 6,0 0 0 億㎥(世界第 2 位)、年間 1,3 8 5 億㎥(世 界第 4 位)である。石油、天然ガスと もに世界最大級のポテンシャルおよび 供給力を持っている* 1 9 。国家歳入の 重要な財源である石油販売収入いわゆ る石油輸出量は、国内需要の増加と生 出所:筆者撮影 産量の減退を受け、日量約 2 1 5 万バレ イラン最大のコンテナ取り扱い港 写5 (バンダル・アッバス港) ル* 2 0 まで減ってきている。 同産業は、石油省の下で石油、ガス 2012.5 Vol.46 No.3 68 地域の大国イラン・イスラム共和国 分野の上中流部門・輸出を担う世界で る。前述のとおり 1 9 7 0 年初頭以降日 まっているため、生産量が減少する傾 も有数の国営石油会社(NIOC) 、精製 本はイラン原油の最大級の輸出先であ 向 に あ る。 生 産 量 の 減 少 理 由 は、 および製品の国内販売を担う国営石油 り続けていたが、2 0 0 9 年、中国が日 1979 年 の イ ラ ン ・イ ス ラ ム 革 命 や 精製販売会社 (NIORDC) 、国内ガス販 本に代わりイラン原油の最大輸出先と 1 9 8 0 年代のイラン ・ イラク戦争によ 売、輸送を担う国営ガス会社(NIGC) 、 なり、今では日量 5 0 万バレル以上に る影響も挙げられる。また、核開発疑 石油化学製品の生産と販売を担う国営 達している。 惑に対する国連による制裁発動がなさ れた 2 0 0 6 年以降は、その影響により、 石油化学会社(NPC)の四つの巨大国 営会社が統括している。これら国営会 (3) 原油開発関連 外国企業の上流開発への新規参画が困 社の下には分野別に数多くの事業会社 a.油田開発の現状 難となったことに加え、外国からの機 が存在する。石油省は、専門的人材を 中東で初めて油田が発見されたイラ 材調達が困難であることや技術的な問 輩出するイラン石油大学出身者を多数 ンでは、早い時期から油田開発が行わ 題により、生産設備のメンテナンスお 擁している。 れていたため、既存油田の多くで老朽 よび新規開発が滞っており、外国企業 既存油田の多くは、成熟化が進み、 化が進んでいる。1 9 7 0 年代には日量 に比べると開発技術が乏しい自国企業 ガス圧入等の EOR により石油増産が 6 0 0 万バレル程度の生産量を誇ってい による生産量の維持さらには増加が困 試みられているが、生産量は減少傾向 たが、油層内部の圧力が低下してし 難となっている。 にある。このような状況下、制裁の影 響により、上流開発における外国企業 の新規参画が困難な状況にあり、外国 石油省 ロスタム・ガーセミ大臣 (革命防衛隊関係者 / ハタム・オル・アンビア前社長) 企業に比べると開発技術が乏しい自国 企業による生産量の維持または増加が 困難な現状にある。ガス田開発や精製 分野においても同じ状況にあり、新規 ガス田開発の停滞や精製能力の増強が なされていない。詳細は、後述する。 (2) 石油取引における各国との関係 a.日本との関係 NIOC ガレバーニ総裁 兼石油省次官 NIORDC ゼイガミ総裁 兼石油省次官 NIGC オージ総裁 兼石油省次官 出所:筆者作成 日本のイランからの原油輸入量は、 図1 石油省組織図 1 9 7 0 年代初めには日量約 1 6 0 万バレ ルで総輸入量の 4 0%(輸入元第 1 位)程 度を占めていたが、1 9 7 9 年の革命後 はその数量を減らし、2 0 1 1 年の輸入 量は日量 3 1 万 3,0 0 0 バレル(総輸入量 の 8.8%、同第 4 位)* 2 1 で、最盛期の約 1/5 の数量となり、2 0 0 9 年以降、漸 減傾向にある。 b.各国のイラン原油輸入 イラン側は、輸出量にキャパシティ があることを配慮し、欧州向けよりバ レルあたり数ドル高い価格のアドバン テージがあるアジア市場を重視しつ 出所:筆者撮影 つ、仕向け地の多様化を図る販売戦略 を取っている。輸出量に占めるアジア 向けの割合は 6 0% 程度で推移してい 69 石油・天然ガスレビュー ドルゥード油田と積み出し用原油タンク 写6 (ガス圧入事業・カーグ島) NPC バヤット総裁 兼石油省次官 エッセー バレル / 日 5,000,000 1,200,000 総輸入量 中東輸入量 4,000,000 1,000,000 サウジアラビア 800,000 アラブ首長国連邦 3,000,000 600,000 イラン カタール 2,000,000 クウェート 400,000 オマーン 1,000,000 200,000 中立地帯 イラク 0 その他 0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 年 出所:経済産業省統計を基に作成 図2 日本の原油輸入量/中東依存量(2002~2011年) 生産量を維持・増加させるためには、 2 次回収技術(EOR、天然ガスを油田 15% に注入する等)が必要であるが、イラ ン独力では、資金的にも技術的にも困 4% 難である。現在、天然ガスの油田圧入 14% ス処理等の技術的問題等により予定量 7% を圧入できていない。 この油田圧入は、 7% イラン全体で 1 3 油田に実施されてい パース・ガス田フェーズ 6、7、8 から 中国 543 日本 341 インド 328 韓国 244 イタリア 183 トルコ 182 スペイン 137 南アフリカ 98 フランス 49 その他 6% はなされているが、天然ガスの有毒ガ る模様。計画より遅れながらサウス 千バレル / 日 22% 2% 10% 13% 出所:EIA Country Analysis Briefsを基に作成 生産される天然ガスのアガジャリ油田 図3 イラン原油の主な輸出相手国2011年上半期 への圧入事業が 2 0 1 0 年ごろより開始 されている。 石油省高官は、2 0 1 1 年上期、制裁 の影響により外国企業による新規開発 がなされないため、現状が続く限り 2 1,600 年後には原油生産量が日量 3 0 0 万バレ 1,400 ルを下回り、7 年後には原油純輸入国 に転じると警告している。石油・天然 7 6 800 4 400 2 0 1 6 年以降、徐々にかつ顕著に減産 200 対して自国資源開発の権益を与えるこ 百万バレル/日 5 で現在の生産量が維持または微減し、 イランでは、憲法により外国企業に 原油生産量 1,000 600 b.独特な法制度 原油埋蔵量 1,200 ガス関連の情報誌は、2 0 1 5 年ごろま 3 2 1 0 19 70 19 72 19 74 19 76 19 78 19 80 19 82 19 84 19 86 19 88 19 90 19 92 19 94 19 96 19 98 20 00 20 02 20 04 20 06 20 08 20 10 していくと予測している。 億バレル 年 出所:OPEC Annual Statistical Bulletinを基に作成 図4 イランの原油埋蔵量と生産量(1970~2010年) 2012.5 Vol.46 No.3 70 地域の大国イラン・イスラム共和国 とが禁止されている(憲法第 4 4 条) 。 1 9 9 8 年にトルクメニスタンと原油ス この憲法上の制約と外資導入の必要性 ワップ契約を締結している。 との妥協策として考案されたのがバイ このスワップは、カスピ海原油をイ バック契約である。 ランのカスピ海沿岸のネカ港で受け取 バイバック契約とは、外国企業が探 り、代わりに同量のイラン原油をペル 鉱、 開発・生産に係るコストを全額負 シャ湾岸の輸出ターミナル(カーグ島 担し、 開発に成功すれば外国企業は投 等)から供給するものである。イラン 下コストとともにあらかじめ取り決め は、2 0 1 0 年 6 月、カザフスタン原油 た報酬を (原油などで) 回収することが のスワップ対価が低いことを理由にス できるというものである。 契約期間は ワ ッ プ を 停 止 し た が、2 0 1 1 年 7 月、 一般的に 5 年前後と短い。 新規契約を締結し、スワップを再開し 石油会社等の上流開発会社は、バイ ている。また、カスピ海で生産される バック契約が採算に合わないとして、 原油をネカ港で受け取り、オマーン海 NIOC に契約形態の改善を求めていた に面するジャスク港までパイプライン が、大きな改善は見られていない。前 を敷いて油送するネカ - ジャスク原油 述したように、外国企業が新規参画し パイプライン敷設計画がある。 難い状況になってから、石油省がバイ 原油輸出は、ペルシャ湾北部に浮か a.天然ガス開発の現状 バック契約の内容を一部変更し、外国 ぶカーグ島で輸出量の95%以上を行っ イランは天然ガス埋蔵量世界第 2 位 企業が以前に比べて長期間、開発事業 て い る。 カ ー グ 島 は、 総 面 積 約 と豊富な埋蔵量を有し、大きなポテン に関与することができるようになって 3 2km 、人口約 2 万 5,0 0 0 人、島民あ シャルがある。特に後述する世界最大 いる。 るいは関係者以外は入島許可を要する 級のサウスパース・ガス田は、イラン 制限エリアとなっており、イラン・イ の埋蔵量の約半分を占める巨大ガス田 c.油送/輸出 ラク戦争時に出荷用桟橋が攻撃される であり、その多くの鉱区が開発途上に イランはその地理的特異性(北にカ などの大打撃を受けた。しかし現在で あり今後のポテンシャルが大きい。そ スピ海、南にペルシャ湾を擁する)を も日量 2 0 0 万バレル以上を輸出する国 の他、ペルシャ湾には未開発ガス田が 生かし、出口を持たないカスピ海原油 内最大の石油積み出し拠点となってい 存在している。 の貴重なスワップパートナーとなって る。同島には、ブーシェール州からの 2 0 0 9 年までは、天然ガスの開発が お り、 1 9 9 6 年 に カ ザ フ ス タ ン と、 定期船や本土の各都市から空路で渡る 十分進んでおらず、天然ガス輸入国 (主 ふ せつ 2 出所:筆者撮影 写7 イラン最大の製油所(アバダン・イラン西部) 71 石油・天然ガスレビュー Iraq カーグ島 Iran Qatar UAE Saudi Arabia 出所:Googleマップを基に筆者作成 図5 カーグ島位置図 ことができる。 (4)天然ガス開発関連 出所:筆者撮影 写8 サウスパース・ガス田陸上設備(イラン南西部) エッセー な輸入相手国は、イラン北方のトルク Iran LNG 計画のみである。外国企業 ナヒチェヴァン自治共和国(アゼルバ メニスタン、 アゼルバイジャン) であっ は、既存の合意内容に基づき情勢が好 イジャン)向けに 2 億 5,0 0 0 万㎥のス た。2 0 1 0 年、サウスパース・ガス田 転した際に参画すべく、水面下に身を ワップ取引を行っている。 フェーズ 6、7、8 開発が完了し生産量 潜めている状況と言えよう。Pars LNG 現時点での天然ガス輸出契約や計 が増加した結果、トルコ、アルメニア、 計画では、Total、Petronas が上流開 画 は、 最 近 で は、2 0 1 1 年、 イ ラ ン、 アゼルバイジャン向け輸出量が増加す 発 交 渉 を 中 止 し、CNPC が こ れ ら に イラク、シリアの 3 カ国間で 1 0 0 億ド ることにより天然ガス純輸出国に転じ 取って代わり上流開発契約を締結し ル規模のパイプライン敷設に合意し、 ている。 た。Persian LNG 計画では、イラン企 シ リ ア 経 由 で EU 向 け に 輸 出 す る 予 業が上流開発を手掛けている。いずれ 定。また、イラクと三つの発電所向 b.サウスパース・ガス田開発の現状 の LNG 計画とも、上流開発が行われ け日量 2,5 0 0 万㎥のイラン産ガス供給 サウスパース・ガス田はイラン領ペ たからといって、LNG の液化技術を に 係 る 3 億 6,5 0 0 万 ド ル 規 模、 全 長 ルシャ湾海上にある世界最大級のガス 有さない限り、絵に描いた餅となる。 1 3 0km のガスパイプライン敷設契約 田で、天然ガス埋蔵量はイランの全埋 現時点では、イランは、LNG 計画に の初期契約を締結している。1 0 年以 蔵量29兆6,000億㎥の約半分を占める。 同液化技術を有する外国企業を取り込 上前からある計画には、パキスタン、 同 ガ ス 田 は、 カ タ ー ル 領 の ノ ー ス むことにより開発を手掛ける以外に確 インド向け IPI(Iran Pakistan India) フィールド・ガス田と同一構造にある。 信的解決策はないと言える。 パイプライン計画やオーストリア向 けナブッコパイプライン計画がある。 石油省は、同ガス田を現時点で 2 8 の開発フェーズに分割して開発を進め c.天然ガス輸送とスワップ IPI パイプライン計画は、主に政治情 ており、 外国企業やイラン企業が参画。 天然ガス輸出は、パイプラインに 勢やガス価格の問題により大きな進 既にフェーズ 1 から 8 は開発がなされ、 よる主にトルコ向け輸出が行われて 捗 が見られないが、イラン国内のパ 生産を開始している。フェーズ 9、1 0 おり、2 0 1 0 年の輸出量は 7 7 億 7,0 0 0 *23 しん ちょく イプライン敷設は完了している模様 も開発がほぼ完了し、一部生産を開始 万㎥ で あ る。 ナ ブ ッ コ パ イ プ ラ イ ン は、 している。フェーズ 1 1 から 2 4 は主に 輸出会社(NIGEC)のカサイザデ総裁 国際情勢の影響もあり、進捗はほと イラン企業が開発中である。フェーズ (当時)とトルコ側はトルコ経由で欧 んど見られない。これら天然ガスパ 2 5 から 2 8 は、事業自体が中止となっ 州向けガス輸出に合意している。ま イプライン計画は、全体の一部であ ている。 である。2 0 0 9 年、国営ガス た、2 0 0 4 年には、アルメニアとガス り、オマーン、クウェート等の湾岸 *2 2 2 0 10 年に強化された対イラン制裁 販売契約およびパイプライン敷設契 諸国向け、ギリシャ向け等、複数の が発動されるまでは、同ガス田では三 約を締結しており、2 0 1 0 年、アルメ 計画が存在する。これらパイプライ つ の LNG 計 画 が 検 討 さ れ て い た。 ニア向けに 4 億㎥を輸出している。ま ンに加え、ロシアの天然ガスをスワッ フェーズ 1 1 の Pars LNG 計画(当初、 た、アゼルバイジャン本土のガスを プする計画もある。 Total〈仏〉、Petronas〈マレーシア〉 。 現 在、CNPC〈 中 〉 ) 、フェーズ 12 の Iran LNG 計画(Iran LNG 社が主導し 天然ガス埋蔵量 兆m3 天然ガス生産量 億m3 て、パートナー候補としての ONGC 35 〈印〉と交渉している模様) 、フェーズ 30 1,600 25 1,400 国際情勢の悪化を受け、交渉を一時中 断している。 引き続き開発が行われている LNG 計画は、イラン企業が参画している 600 400 5 200 0 10 08 20 06 20 04 20 02 20 00 20 98 20 96 19 94 19 92 19 90 19 88 19 86 19 84 19 82 19 80 19 78 19 76 19 74 0 19 側と交渉していたが、同国を取り巻く 10 72 LNG 計画にも参画する内容でイラン 800 19 フェーズの上流開発を手掛け、 さらに、 1,000 15 70 が検討されていた。当初、 外国企業は、 1,200 20 19 Shell〈英蘭〉 、Repsol YPF〈スペイン〉 ) 19 1 3 と 1 4 の Persian LNG 計 画( 当 初、 1,800 年 出所:OPEC Annual Statistical Bulletinを基に作成 イランの天然ガス埋蔵量と生産量 図6 (1970~2010年) 2012.5 Vol.46 No.3 72 地域の大国イラン・イスラム共和国 (5)石油・天然ガス開発状況 アルメニア 石油・天然ガス上流開発分野では、 ができないことを逆手に取り、2 0 0 9 トルコ Rasht Teheran Rey Sanandaj 延している。中国企業以外の外国企業 Saveh Kermanshah の一部は、メジャー企業が参画できな Arak イラン イラク や機材調達が困難であり、事業が進め られない状況にある。このため、契約 ヤダバラン油田 アガジャリ油田 4. まとめ イランは、資源のみならず地政学的 にも多大な可能性を有する国である。 ガチサラン油田 Abadan ダルクエイン油田 Bandar Khomeini クウェート Kerman Shiraz ドロウド油田 Firuzabad の石油・天然ガス市場であるとはいえ、 るイランを重要な国と捉えている。 マスジェデ・スレイマン油田 マルーン油田 各国企業は、活動に制限があるイラン 関係維持する等、豊富な埋蔵量を有す Esafahan アフワズ油田 アザデガン油田 テヘランに事務所を構えてイラン側と Neka Qazvin 開発事業は、当初の計画より大幅に遅 解除や一時的に活動を中止している。 トルクメニスタン Astara 得している。しかし、ほとんどの上流 が、いずれも制裁の影響を受け、資金 ガス田 Tabriz ~ 2 0 1 0 年にかけて巨大案件を複数獲 いことを尻目に契約を締結している 油田 カスピ海 中国企業が活動範囲を広げている。中 国企業は、外国企業が制裁により活動 製油所 アゼルバイジャン ノースパース・ガス田 ゴルシャン・ガス田 Assaluyeh サウスパース・ガス田 サウジアラビア Bandar Abbas フェルドウシ・ガス田 Lavan Island バーレーン ノースフィールド・ガス田(カタール) バラル油田 シリ油田 カタール 出所:JOGMEC 図7 イランの主要な油ガス田 イランを取り巻く国際情勢下、多くの 出所:筆者撮影 出所:筆者撮影 写9 雪に覆われたテヘラン市街 73 石油・天然ガスレビュー 写10 座敷スタイルのチャイハネ(喫茶店) エッセー 外国企業がテヘランやその他の都市に あり、大胆な方針転換をするか興味 ニークな立場にある日イラン関係の維 事務所を構えて各分野で大きなポテン 津々である。 持、強化に少しでも貢献できればとの シャルを持つイランにおいて活動して いる。あるいは活動する時期を見計 まいしん 思いで業務に邁進した次第である。 おわりに 個人的に感じ取ったイラン人の一般 的な気質や国民性は、誇り高く、利己 らっているというのが現状であり、今 後、国際情勢がどのように変化してい 筆者は、イランで多くの方々と交流 的な点はあるものの、情を重んじ、親 くか注視する必要がある。2 0 1 1 年下 し貴重な経験ができたと思っている。 切かつ友好的である。筆者は、可能な 期から 2 0 1 2 年上期は、各国による対 繰り返し触れたように、イランを取り 限り多くのイラン人と接し、互いの理 イラン制裁が強化され、イランにとっ 巻く国際情勢は必ずしも良好ではない 解を深めようと試みてきた。今後も両 てさらなる試練の時期となっていると 状況下、経済担当として国際的にユ 国の関係の発展に微力ながら貢献でき 言えよう。 イラン政府は、このような国際情勢 にもかかわらず、いや、このような国 際情勢であるからか、国民に負担をか けてでも補助金合理化、石油販売収入 依存度の低下や税制改革を図ろうとす る経済政策を打ち出しその一部を実行 している。今後のイランを取り巻く国 際情勢の動向と政策の効果による国内 経済の発展度合いは、イランのみなら ず、近隣地域にも多大な影響を与える ほど重要である。 ア フ マ デ ィ ネ ジ ャ ー ド 政 権 は、 2 0 1 3 年 6 月の次期大統領選挙までに どのような状況下で次期大統領にバト ンを託すか、欧米諸国との核開発疑惑 をめぐる問題は依然として平行線上に 出所:筆者撮影 写12 小川で水遊びする若者たち 出所:筆者撮影 ノールーズ(イラン正月)明け 写11 (テヘラン) 出所:筆者撮影 イマーム・レザー廟(年間巡礼者 写13 300万人以上を誇る) 2012.5 Vol.46 No.3 74 地域の大国イラン・イスラム共和国 ればと考えている。驚くことにアジア ガラス器等の宝物である。 げたい。なお、紹介内容は、国際機関 の対極に位置するイランと日本の関係 イラン駐在期間中にお世話になった やイラン政府発表の公式統計や報道等 は、少なくとも奈良時代までさかのぼ 政府関係者、経済有識者、企業関係者、 に基づいたものであるが、表現や言い るほど古く、長い。これを証明するの 在イラン日本国大使館、在留邦人、本 回しに私見が混入している場合はご容 は、ペルシャよりシルクロードを渡っ 邦有識者、各国外交団や各国企業の 赦願いたい。 て日本に渡来した奈良・正倉院にある 方々にこの場をお借りして御礼申し上 <注・解説> * 1:CBI(イラン中央銀行) 統計:イラン暦 1 3 8 9 年 (2 0 1 0 年 3 月~ 2 0 1 1 年 3 月) * 2:IMF:2 0 1 0 年推計値 * 3:Iran Khodro 元国営自動車会社による 2 0 1 1 年説明資料:生産台数の約半数は国産車、約 7 0 万台がプジョー。その他シ トロエン、ルノー、韓国の現代・起亜や日本車の組み立て生産数。 * 4:世界鉄鋼協会:2 0 1 1 年統計 * 5:世界銀行:2 0 1 1 年イラン概要 (2 0 0 3 ~ 2 0 0 9 年 (1 5 歳以上の推定値) * 6:Iran Daily(2 0 1 1 年 8 月 3 日報道) :Sadeq Khalilian イラン農業大臣発言 * 7:CBI:イラン暦 1 3 8 9 年統計 * 8:IMF:2 0 1 0 年推定値 * 9:CBI:イラン暦 1 3 8 9 年統計四半期平均値 * 1 0:CBI:イラン暦アーバン月 (2 0 1 1 年 1 0 月 2 3 日~ 1 1 月 2 1 日) までの過去 1 2 カ月間 * 1 1:Press TV(2 0 1 0 年 1 2 月 2 0 日報道) :アフマディネジャード大統領発言 * 1 2:2 0 1 0 年 1 2 月から 2 0 1 1 年 3 月までの 4 カ月間の削減額であり、年間では約 6 0 0 億ドルとなる。 * 1 3:IMF:2 0 1 1 年 6 月 1 3 日 Press Release 等 * 1 4:Iran Privatization Organization:2 0 1 1 年 3 月統計 * 1 5:OPEC:2 0 1 2 年 3 月 1 3 日 OPEC バスケット価格 * 1 6:JETRO:2 0 1 0 年統計 * 1 7:CBI:イラン暦 1 3 8 9 年統計 * 1 8:イラン税関:1 3 8 8 年統計 (2 0 0 9 年 3 月~ 2 0 1 0 年 3 月) * 1 9:BP:石油、天然ガスともに 2 0 1 1 年統計 * 2 0:EIA:Country Analysis Briefs * 2 1:EIA:Country Analysis Briefs * 2 2:国連決議 1 9 2 9 号や対イラン包括制裁法 (CISADA)等 * 2 3:BP:2 0 1 1 年統計 執筆者紹介 乙丸 修作(おとまる しゅうさく) 明治大学法学部卒業後、2005 年 4 月、JOGMEC に入構。経理部や調査部に所属し、2008 年 9 月から外務省在イラン日 本国大使館に出向。2011 年 11 月に外務省から復帰し、事業推進部業務課に所属。 趣味は、スポーツ全般。 75 石油・天然ガスレビュー