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CFA 協会ブログ
No.97
2012 年 10 月 23 日
債券の売却を迫られる年金積立金管理運用独立行政法人
Japan’s Government Pension Investment Fund, Among Others, Forced Away from Fixed
Income
アレクサンダー・フラッチャー、CFA
200%を超える債務対 GDP 比率、失われた 20 年強、昨
とではありません。債券に偏ったポートフォリオを分
年の大地震と津波の影響による継続的な経済的打撃、
散させるひとつの方法として、GPIF は最近新興国へ
こうした日本の経済状況を妬む人はほとんどいませ
の投資を始め、最初の新興国投資を行うため資産運用
ん。この問題に加え、日本の人口構造と過去に分散投
会社6社を採用しました。
資をほとんど行なってこなかった運用方法を一因と
して、年金積立不足の問題が生じています。こうした
課題のため(あるいはそのおかげで)、日本の大手年
金基金は、ポートフォリオ運用方法を再考せざるをえ
なくなっています。
しかしながら、今後ポートフォリオの分散を進めてい
くと予想される日本の巨大ファンドは、GPIF だけで
はありません。日本郵政グループがもうひとつの例で
す。100%政府出資の同グループは 2 つの巨大金融機
関からなっています。かんぽ生命保険は、保有証券の
日本の政府債務状況を調査した最近の学術的な研究
うち約 8000 億ドルが JGB です。そしてゆうちょ銀行
では、日本国債(以下、JGB)のおよそ 95%を国内居住者
は約 1.8 兆ドルの JGB を保有しています。かんぽ生
が保有しています。その大部分は政府系機関です。一
命保険の運用リスク管理室室長三木隆二郎氏による
例として、年金積立金管理運用独立行政法人(以下、
と、彼らは JGB のおよそ 30%を保有しています。投
GPIF)は JGB 発行残高の 10%近くを保有しています。
資プロフェッショナルとして長年の経験を有する三
2012 年 6 月末現在、およそ 1.3 兆ドルの運用資産を保
木氏は、日本政府が保有株式の売り出しを検討してい
有する GPIF は、世界最大の年金基金です。2012 年 6
るため、数年内に日本郵政グループは上場される可能
月末時点では、ポートフォリオの約 65%を国内債券に
性があると指摘しました。グループが上場されれば、
投資しています。GPIF が国債を大量に保有する最大の
国内債券を売却して資産を分散させる可能性がある
投資家のひとつであることに、これまで日本政府がか
ため、市場に多大な影響を与えることでしょう。
なり非常に満足してきたことは間違いありません。
短期的には、ポートフォリオの大規模な分散は想定さ
GPIF が保有するおよそ 12%の国内株式を国内債券に
れませんが、中長期的には可能性があるとする投資プ
加えると、GPIF の総資産に占める国内資産の割合が
ロフェッショナルもいます。日本の資産運用会社の専
極めて大きいことがわかります。年金給付額が収入を
門家と話した時に、日本の年金基金が行なってきた、
上回ってきているため、最近 GPIF は JGB の売却を
リスク回避型アプローチというよりはむしろ伝統的
始めると同時に、高いリターンが必要と見てポートフ
なアプローチが、実はパフォーマンスの観点から見れ
ォリオの分散に努めています。それは、10 年物国債の
ば、かなりよく機能していたという指摘がありました。
利回りが現在年率 0.77%であることからすると驚くこ
もし、日本の年金基金が外国株式あるいは外国債券に
日本 CFA 協会
1
もっと投資していたならば、パフォーマンスはさらに
執筆者
著しく悪化していたでしょう。また、日本の年金基金
アレクサンダー・フラッチャー(Alexander Flatscher)、
には投資環境の変化への対応が遅い傾向が見られま
CFA
す。個人が貯蓄の大部分を銀行預金に振り向け続け、
アジア−パシフィック地域、CFA 委員会のディレクタ
それを銀行が JGB への投資に使うという事実を考慮
ー。
(翻訳者:浜野 秀明)
すると、JGB への需要が、少なくとも短期的に尽きる
とは予想されません。資産が JGB から国内株式など
他の資産クラスへ僅かに分散されるだけでも、いくつ
かの年金基金で運用されている資産規模からすると、
市場への大きな影響が予測されるとの指摘もありま
した。したがって、例えば GPIF が分散を考慮する際
には、かなり気をつけなければなりません。
英文オリジナル記事はこちら:
http://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2012/10
/23/japans-government-pension-investment-fund-a
mong-others-forced-away-from-fixed-income/
日本では、政府系機関の投資ポートフォリオにおける
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事
JGB の配分に関し、年金基金に本来求められるガバナ
を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版およ
ンスの問題はありません。日本における資産運用業界
び英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版
の専門家によりますと、受託機関(GPIF)は公式に
の内容が優先します。
は政府から独立しています。受託機関の委員が各種運
用委員会においてかなり自由に意見を発言している
ことからも独立性が裏付けられます。投資方針上の必
要性にかかわらず、JGB への資産配分について政府と
公的年金基金の間に暗黙の了解があったならば、この
ように自由な発言はないでしょう。日本における金融
抑圧に関連して何らかの対策があるとしたら、政府債
務の削減に関する最近の BIS ワーキング・ペーパーで
指摘されたように、銀行や他の金融機関に対する規制
強化を通じるものでしょう。
冒頭に述べた課題を考慮すると、日本の年金基金が今
後保有資産の分散を高める可能性は間違いなくあり
ます。年金基金の資産配分は、今より遥かに強く受益
者の利益を反映するものとなるでしょう。その結果、
これまで日本政府が低金利で借り入れを行うことが
できた時代は、近い将来終わることになるでしょう。
日本 CFA 協会
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