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[報文] 飼料用米を活用したにいがた地鶏の低コスト鶏肉生産技術の開発
時田正樹:飼料用米を活用したにいがた地鶏の低コスト鶏肉生産技術の開発 [報文] 飼料用米を活用したにいがた地鶏の低コスト鶏肉生産技術の開発 時田正樹 新潟県農業総合研究所畜産研究センター 現:新潟県三条地域振興局農業振興部 Development of Low-Cost Chicken Production Technology of “NIIGATA-JIDORI” that Utilize Rice for Feed Masaki TOKITA Niigata Agricultural Research Institute Livestock Research Center Sanjo Regional Promotion Bureau Agricultural Promotion Department 要 約 飼料用米を有効活用し,にいがた地鶏の低コスト鶏肉生産技術開発について検討を行った.飼料用 米をにいがた地鶏に給与すると飼料用米の形態(籾米,玄米)に関わらず,市販配合飼料と代替率30%まで は生産性を低下させることなく増体を確保することができ,籾米30%代替飼料で15%,玄米30%代替飼料で は20%の飼料費を低減できると試算された.また,飼料用米を給与することにより肉色,脂肪酸組成は変化 するが,鶏肉のうま味成分には差が無い. 平成22年3月に策定された「食料・農業・農村基本計画」 供試鶏の管理は,1 区2 ㎡に20羽の平飼いとし,飼料は不 では,食料自給率の向上や飼料用米の増産による飼料自給率 断給餌器により不断給餌とし,飲水は自由飲水とした.14 を26%から38%へ引き上げることが目標とされ、さらに,平 日齢まで家畜用赤外線電球(200W)を利用し1 日24時間保 成27年3月の新たな「食料・農業・農村基本計画」では,飼 温を行った. 料自給率は40%に目標設定された. 給与飼料は餌付けから20 日齢までは地鶏用前期飼料(CP この飼料自給率目標を達成するために,飼料用米の生産が 22%,ME3,050kcal/kg),21 日齢以降は地鶏用後期飼料(C 年々増加している.また,これを受け飼料用米を家畜・家禽 P17%,ME3,100kcal/kg)を給与した. に給与する取り組みが全国各地で進められてきており,新潟 飼料用米は「こしいぶき」の籾米または玄米を用い,21 県農業総合研究所畜産研究センターでも飼料用米給与に関 日齢以降地鶏用後期配合飼料と代替混合し,籾米30%代替 する様々な研究を実施してきた. (CP13.8%,ME2,968kcal/kg),籾米40%代替(CP12.8%, 鶏は他の家畜と消化機能が異なり籾米を丸粒のまま給与 ME2,924kcal/kg),玄米30%代替(CP14.1%,ME3,154kcal/k することが可能であることが知られている.このため、飼料 g),玄米40%代替(CP13.2%,ME3,172kcal/kg),玄米50% 用米の加工処理が不要で、コスト低減の可能性があり,飼料 代替(CP12.2%,ME3,190kcal/kg)をそれぞれ給与した.飼 自給率向上にも寄与できると考えられる. 料用米の成分値は日本標準飼料成分表(2009年度版)の値を また,にいがた地鶏等の地域産品の生産振興を図るため, 用い代替混合した時の成分は計算により求めた. 飼料用米を有効活用し鶏肉の肉質や品質を向上させる必要 衛生処置としてふ化日にマレック病生ワクチンおよび鶏 がある。そこで,飼料用米を活用した鶏肉の差別化やコスト 痘生ワクチンを皮下注射により投与し,4 日齢,26 日齢お 低減等の鶏肉生産技術開発の検討を行った. よび60 日齢にニューカッスル病・鶏伝染性気管支炎混合生 ワクチンを3 回飲水投与した.また,27 日齢に伝染性ファ ブリキュウス嚢病生ワクチンを飲水により投与した.3 日齢 材料および方法 にコクシジウム3価生ワクチンを9 日齢にコクシジウム生 ワクチンを飼料混合により投与した. 1. 供試鶏 3. 発育成績 にいがた地鶏 雄 180羽 餌付けから2週間毎に体重及び飼料摂取量を測定し,90日 2. 飼育管理 齢でと畜した.飼料要求率は餌付けからと畜までの飼料摂取 Journal of the Niigata Agricultural Research Institute No.14(2016):59-61 59 時田正樹:飼料用米を活用したにいがた地鶏の低コスト鶏肉生産技術の開発 量/増体量から算出した.飼料要求率は餌付けからと畜まで 表 1 体重及び飼料要求率 の飼料摂取量/増体量から算出した. 年 度 4. 筋胃割合 解体時に筋胃重量を測定し,生体重で除した筋胃割合を算 給与飼料 90 日齢体重(g) 飼料 要求 率 2.45 2.54 2.43 2.84 2.43 2.62 3.26 2.99 3.01 配合飼料のみ 2,545 ± 235 A 籾米 30%代替 2,475 ± 198 AB H24 玄米 30%代替 2,459 ± 240 AB 玄米 50%代替 2,312 ± 164 B 配合飼料のみ 2,355 ± 187 H25 籾米 30%代替 2,298 ± 308 籾米 40%代替 2,258 ± 229 配合飼料のみ 2,288 ± 197 H26 玄米 40%代替 2,143 ± 352 n=20 同一年度異符号間に有意差あり AB:P<0.01 出し飼料用米給与による筋胃への影響を調査した. 5. 肉質調査 と殺,中抜き後24時間4℃で冷却し,解体後分析に供した. ムネ肉の肉色は色彩色差計(ミノルタ株式会社CR-300) で,脂肪酸組成についてはガスクロマトグラフ(島津製作所 GC2014)で測定した. また,モモ肉の遊離グルタミン酸をヤマサL-グルタミン酸 測定キットⅡを使用して測定した. 6. 官能評価 表 2 筋胃割合 配合飼料のみを給与した鶏ムネ肉と飼料用米を40%籾米, 40%玄米に代替給与した鶏ムネ肉を用い,重量比5倍量の3% 食塩水に1時間浸した後,ペーパータオルで軽く水切りをし 配合飼料のみ 籾米 30%代替 玄米 30%代替 玄米 50%代替 n=6 ホットプレートで両面を焼いた.ホットプレートは温度20 0℃に設定し,外面(皮に近い方)から片面づつ,3分,3分, 2分,2分と繰り返し,合計10分加熱し, 加熱肉の表面を削ぎ, 1cm四方に切断し室温になったものを官能検査に供した. 筋胃割合 (生体重比) 1.45% A 1.88% B 1.23% A 1.34% A AB:P<0.01 官能評価は,畜産研究センター職員28人で行った. 3. 肉質調査 ムネ肉の肉色(色差)は,飼料用米の割合が高くなるにつ 7. 経済評価 れ明度(L*)および黄色度(b*)が低下し,赤色度(a*) 飼料用米を代替給与した際の飼料費を検討するため,発育 が増加した(表3).及川らは飼料用米給与よってムネ肉, 成績および飼料要求率を用いて飼料費を試算した. モモ肉,腹腔内脂肪の黄色度(b*)が有意に低下したと報告 結果および考察 しており,黄色度(b*)については同様の結果となった. 脂肪酸組成は,飼料用米の割合が高くなると,オレイン酸 1. 発育成績 割合が増加し(P<0.01),リノール酸割合が減少した(P<0. 飼料用米の代替混合割合を変え,3ヶ年で3回飼育試験を実 01).籾米40%では有意な差が見られ,飼料用米給与により 施した.90日齢時体重は籾米,玄米ともに40%代替までは有 脂肪酸組成が変化することが確認された(表4). 小松らも 意差が無いが,飼料用米の代替割合が高くなると体重が低下 比内地鶏への玄米給与によりオレイン酸が上昇し,リノール する傾向が見られた.大矢らは籾米30%代替までの増体はほ 酸が低下すると報告しており,同様な結果となった. ぼ同じで50%代替では著しく増体が低下すると報告してお 表 3 ムネ肉の肉色 り,同様な傾向であった. 年 度 また,飼料要求率は,飼料用米の代替割合が高くなるとと もに上昇する傾向がみられた(表1). 給与飼料 配合飼料のみ H24 2. 筋胃割合 生体重に対する筋胃割合は,籾米を30%代替給与した区で 籾米 30%代替 玄米 30%代替 玄米 50%代替 高くなり有意な差が見られた(P<0.01).玄米では30%代替 配合飼料のみ 給与,50%代替給与ともに配合飼料のみを給与した区と差は H25 籾米 30%代替 籾米 40%代替 なかった(表2). n=6 これは籾米が筋胃内で破砕・攪拌する際に物理的刺激が大 きく筋胃が発達したものと推察される. Journal of the Niigata Agricultural Research Institute No.14(2016):59-61 60 肉色(色差) a* L* 51.18 49.45 50.33 48.59 51.63 49.12 47.91 a ab ab b A AB B 2.24 2.77 2.43 3.50 1.80 2.63 2.80 B AB AB A b ab a b* 6.85 5.45 5.07 3.34 4.62 4.05 3.43 A AB AB B 同一年度、同項目異符号間に有意差あり AB:P<0.01 ab:P<0.05 時田正樹:飼料用米を活用したにいがた地鶏の低コスト鶏肉生産技術の開発 表 4 ムネ肉の脂肪酸組成 表 7 飼料費 脂肪酸組成(%) オレイン酸 リノール酸 配合飼料のみ 44.8 ± 1.2 B 18.5 ± 2.0 A 籾米 30%代替 46.8 ± 1.8 AB 16.1 ± 1.6 AB 籾米 40%代替 47.9 ± 1.0 A 13.3 ± 1.7 B n=6 同一項目異符号間に有意差あり AB:P<0.01 単価 飼料 飼料費 低減 (円 要求 (円/羽) 割合 /kg) 率 配合飼料のみ 102.0 2.43 594.9 - 籾米 30%代替 80.4 2.62 505.6 -15% 籾米 40%代替 73.2 3.26 572.7 -4% 玄米 30%代替 81.9 2.43 477.6 -20% 玄米 40%代替 75.2 3.01 543.2 -11% 飼料費は、体重 2.4kg までに必要な金額 配合飼料:102 円/kg、籾米:28 円/kg、玄米:35 円/kg で計算 給与飼料 モモ肉中の遊離グルタミン酸は,飼料用米代替では差は認 められなかった(表5).龍田らは籾米をトウモロコシと30% ~100%代替した飼料をブロイラーに給与した結果,モモ肉 中のグルタミン酸には有意差が無かったと報告しており,同 様の結果となった.これに対し,及川らは籾米を50%代替し 6. まとめ CP,MEを配合飼料と同等に調整し給与することによりムネ 以上のことから,給与飼料用米を肉用鶏に給与する場合, 肉中のグルタミン酸濃度が上昇したと報告しており,異なる 飼料用米の形態(籾米,玄米)に関わらず,市販配合飼料と 結果だった.これは代替割合及び飼料成分の調整の差異が影 40%代替までは生産性を低下させることなく増体を確保す 響した可能性が考えられ,今後検討する必要がある. ることができるが,飼料用米の代替割合が40%を超えると飼 料要求率が上昇することから,市販配合飼料に飼料用米を代 表 5 モモ肉の遊離グルタミン酸含量 グルタミン酸 給与飼料 (μg/g) 配合飼料のみ 102.7 ± 14.9 籾米 30%代替 105.3 ± 17.4 籾米 40%代替 98.1 ± 10.8 n=6 替混合する場合は30%までとすることが望ましい. また,飼料用米の代替給与により,官能評価において食味 の差がみられた.肉色,脂肪酸組成に変化がみられたが,う ま味成分である遊離グルタミン酸に差がみられなかったこ とから,イノシン酸など他のうま味成分についても確認する 必要がある. 飼料用米の飼料費低減効果については,配合飼料と飼料用 4. 官能評価 米の単価にもよるが,配合飼料のみを給与する場合と比べ, 配合飼料のみを給与した鶏肉と飼料用米を40%籾米,40% 籾米30%代替飼料で15%,玄米30%代替飼料では20%飼料費 玄米に代替給与した鶏肉を官能評価したところ,2つの鶏肉 を低減できると試算され,にいがた地鶏の生産コスト低減に には食味の差が認められた(表6). 有効であると考えられた. これは配合飼料と飼料用米の成分の違いにより,鶏肉中の 脂肪酸組成等が変化したことによるものと思われ,今後更に 引用文献 給与飼料の成分についても検討する必要がある. 表 6 配合飼料のみを給与した鶏肉との官能評価 差がある 差がない 籾米 40%代替 14 2 ** 玄米 40%代替 27 1 ** 有意差あり **:P<0.01 (1) 小松恵・力丸宗弘・石塚条次 比内地鶏への玄米給与 が発育及び肉質に及ぼす影響.秋田県農林水産技術セ ンター畜産研究所研究報告25,84-88 (2011) (2) 農業,食品産業技術総合研究機構 日本標準飼料成分 表(2009年度版).中央畜産会(2010) (3) 及川輝久・野月浩 飼料用米を活用した青森シャモロ 5. 経済評価 ック生産技術.東北農業研究65,93 -94 (2012) 飼料用米を配合飼料に代替混合したときの飼料費は,配合 (4) 大矢浩司・齋藤美緒 籾米の給与が「会津地鶏」と「ふ 飼料単価を102円/kg,籾米単価を28円/kg,玄米単価を35円/ くしま赤しゃも」の成長と解体成績に及ぼす影響.東 kgとすると,配合飼料のみを給与したときに比べ,出荷(生 北農業研究63,71 -72 (2010) 体重2.4kg)までに籾米30%代替飼料で15%,玄米30%代替 (5) 龍田健・石川翔 飼料用全粒籾の給与割合がブロイラ 飼料では20%低減が可能と試算される(表7). ーの生産性に及ぼす影響.兵庫県立農林水産技術総合 センター研究報告〔畜産編〕50,9-14 (2014) Journal of the Niigata Agricultural Research Institute No.14(2016):59-61 61