...

日蓮遺文における 「妻」 「妻子」 の訓みをめぐって

by user

on
Category: Documents
42

views

Report

Comments

Transcript

日蓮遺文における 「妻」 「妻子」 の訓みをめぐって
日蓮 遺 文 に お け る 「妻 」 「
妻 子 」 の 訓 み を め ぐって
藁
谷 隆
純
へ
③ 此 娑 婆 世 界 に し てき じ (
雑)と な り し 時 は た か (
鷹)
文 であ る 。
﹃
大 石寺 版 ﹄ (
九 〇 三 頁 )﹂ も ﹁め と を や と の 如 く ﹂ と 同
妻
ぞ。 (
寂 日 坊 御 書 、 一六 七 〇 頁 )
釈 迦 仏 ・法 華 経 は め (
妻) と を や と の 如 く ま し ま し 候
や。 子 のさむ さを あ わ れ まざ るを や (
親)あ る べ し や 。
②をと こ (
男) の は だ へ (
膚) を か く さ ざ る 女 あ る べ し
と 漢 字 表 記 であ る 。
但 し、 ﹃
大 石 寺 版 ﹄ (一四 九 八 頁 ) は ﹁人 の妻 を ね ら ひ ﹂
し。 (
南 条 兵 衛 七 郎 殿 御 書 、 三 二七 頁 )
は多 け れ ど も 、 法 華 経 の故 にあ や ま た る ・人 は 一人 な
モ
① 人 のめ (
妻) を ね ら ひ 、 ぬ す み 等 に て 打 は ら る ・人
て行 く 。
日蓮 遺 文 に お け る ﹁
妻﹂ ﹁
妻 子 ﹂ の訓 み を め ぐ って
、 は じ め に
日 蓮 遺 文 に は 、 漢 字 表 記 の ﹁妻 ﹂ ﹁
妻 子﹂ 等 が少 な か ら
(1 )
日 蓮 聖 人 遺 文 ﹄ を 用 い、 ﹃
日蓮 大 聖
ず 見 ら れ る 。 そ れ ら の当 時 に お け る 訓 み を め ぐ って 、 少 々
考 究 し て み た い。
本文 は、 ﹃
昭和 定 本
(2 )
人 御書 全 集﹄ 等 も参 照す る こと と す る。
尚 、 引 用 文 中 の漢 字 の旧 字 体 は 、 原 則 と し て新 字 体 に 改
めた 。
二 、 ﹁め ﹂ (
仮 名 表 記 ) に つ いて
では 、ま ず、 日蓮遺 文 に見 ら れ る、 現代 語 の ﹁
妻 ﹂ の意
と 思 わ れ る と こ ろ の 、 仮 名 表 記 ﹁め ﹂ に つ い て逐 一吟 味 し
9-一
に つか ま れ 、 ね ず み と な り し時 は ね こ に く ら わ れ き 。
ヒ
或 はめ (
妻) に 、 こ (
子) に 、 か た き に 身 を 失 し 事 大 地
をしきをと こ (
夫) を 奪 ふ と も 、 子 の 身 と し て 一分 も
⑥ 父 が 我 が いと を し き め (
女) を と り 、 母 が 我 が い と
へ
ツ
愛
に 堕 る業 也 。 (
日 女 御 前 御 返 事 、 一五 一二頁 )
婦
違 は ば 、 現 世 に は 夫 に捨 ら れ 、 後 生 に は 必 ず 阿 鼻 地 獄
テ
微 塵 より多 し。 (
種 種 御 振舞 御 書 、九 六 六 頁)
ヘ
(﹁め こ ﹂)
但 し 、 ﹃大 石 寺 版 ﹄ (
九 = 二頁 ) は 、 ﹁め に 、 こ に 、 か た
き に ﹂ の 所 、 ﹁め こ の か た き に ﹂ と 複 合 名 詞 的
﹃大 石 寺 版 ﹄ (一二 四 七 頁 ) は 、 ﹁父 が 我 が い と を し き め
聚 名 義 抄 ﹄ に は ﹁婦 ﹂ 字 の和 訓 に ﹁メ﹂ も 見 え る の で 、
にな って いる。
④ た と ひ い か な る 事 あ り と も 、を と こ の め (
妻)な れ ば 、
﹃
大 石 寺 版 ﹄ が ﹁め ﹂ に ﹁婦 ﹂ 字 を 当 て る の は 間 違 いと は
(3 )
を と り ﹂と あ り 、 ﹁め ﹂ に ﹁婦 ﹂字 を 当 て て い る 。例 え ば ﹃類
法 華 経 の女 人 と こ そ 、 仏 は し ろ し め さ れ て 候 ら ん に 、
11息 子 ノ ) いと お
言 え ま い。 或 いは 、 ﹃
名義 抄 ﹄ に、 ﹁
婦﹂は "
子妻"ともあ
字 を 当 てた か 。
ス
し き め を 奪 い﹂ の意 な の で 、 ﹃
大 石 寺 版 ﹄ は ﹁め ﹂ に ﹁婦 ﹂
り 、 内 容 的 に も ﹁父 が 我 が (
私 ノ 時夷
(さ じ き 女 房 御 返 事 、 九 九 七 頁 )
妻
﹃大 石 寺 版 ﹄ (一二 == 頁 ) も 、 ﹁を と こ の め な れ ば ﹂ と
同 文 であ る 。
(
妻)
⑦ 蘇 武 と 申 せ し つわ も の は 、 漢 王 の御 使 に 胡 国 と 申 国
⑤ ⋮ ⋮ 閻 魔 王 に、 我 身 と いと を し と お ぼ す 御 め
と 子 と を ひ つば ら れ ん 時 は 、 時 光 に手 を や す ら せ 給 候
に 入 て十 九年 、副 (
妻)も お と こ (
夫)を は な れ 、 お と
ヒ
は ん ず ら んと 、 にく げ にう ち いひ てお は す べ し。 (
上
夫
ヘ
ヘ
へ
おと こを は な れ﹂ と 同文 であ る 。
ヘ
右 の ﹁め (
妻) も お と こ を は な れ ﹂ か ら 、 ﹁め ﹂ と
こ﹂ は 正 に対 語 関 係 にあ る こ と を 示 す も のと 言 え よ う か 。
﹁お と
﹃
大 石 寺 版 ﹄ (一四 八 二 頁 、 妙 心 尼 御 前 御 返 事 ) も ﹁め も
妻
こ も わ す る ・事 な し 。(
持 妙 尼 御 前 御 返事 、一七 〇 六 頁 )
妻
野 殿御 返事 、 = 一
二 〇頁 )
﹃
大 石 寺 版 ﹄ (一五 四 〇 頁 ) も 、 ﹁
御 め と ・子 と を ﹂ と 同
文 であ る。
こ こ は ﹁め ﹂ に尊 敬 の接 頭 辞 ﹁
御 ﹂ が 付 いた 例 (
﹁
御 め ﹂)
で 、 こ の ﹁御 ﹂ は 勿 論 (
時 光 の) 妻 へで は な く 、 夫 ・時 光
への敬 語 で あ る 。
一10一
日蓮 遺 文 に お け る 「妻 」 「
妻 子 」 の 訓 み をめ ぐっ て
⑧ あ の 蘇 武 が 胡 国 に 十 九 年 、 ふ る さ と の妻 と 子 と の こ
ひ し さ に 、 雁 の 足 に つけ し ふ み 。 ⋮ ⋮ ち ん し (
陳 子)
が か "み (
鏡) の と り (
鳥) の つね に つ げ (
告) し が ご と
く 、蘇 武 が め (
妻)の き ぬ た の こ え の き こ へし が ご と く 、
フ
さ ば せ か い の事 を ︹
妙 ノ 文 字 ガ ︺ 冥 途 に つげ さ せ 給 ら
ん。 (
妙 心 尼 御 前 御 返 事 、 一七 四 七 頁 )
妻
﹃
大 石 寺 版 ﹄ (一四 八 四 頁 ) も ﹁
蘇 武 が め の ﹂ と 同 文 であ
る 。 いず れ も ﹁め ﹂ で あ る事 か ら し て、 右 の始 め の ﹁ふ る
三 {
① の意 ) は 、 9 例 見 ら れ た こ と に な る 。
三 、 ﹁め こ ﹂ (
仮 名 表 記 ) に つ いて
次 に、 日 蓮 遺 文 に お け る 、 現 代 語 の ﹁妻 ト 子 ﹂ の意 と 思
わ れ る と こ ろ の 、 仮 名 表 記 ﹁め こ ﹂ (
前 節 の ﹁め ﹂ に ﹁こ ﹂
が 付 い た も の) に つ い て 調 べ て行 き た い。
① 各 各 我 弟 子 と な の ら ん 人 々 は 一人 も を く (
臆)し を
へ
さ と の妻 と 子 ﹂ の "妻 " の 訓 み は 、 ﹁ツ マ﹂ で は な く 、 ﹁メ ﹂
も は る べ から ず 。 を や (
親 )を を も ひ 、 め こ (
妻 子) を
ヒ
妻子
(前 出 ) 或 は め (
妻)に 、 こ (
子)に 、 か た き に身 を
失 し事 大 地 微塵 より多 し。(
種 種 御 振 舞 御 書 、九 六 六 頁)
③
尚 、参 考 と し て、次 の二例 が 見 ら れ る 。
あ る。 (
真 蹟 断 片 が 富 士 大 石 寺 に残 存 す る 。﹀
﹃
大 石 寺 版 ﹄ (一五 六 五 頁 ) も ﹁め こ な ん ど は﹂ と 同 文 で
妻子
は候 は じ 。 (
上 野 殿 御 返 事 、 一七 六 六 頁 )
② め こ (
妻 子) な ん ど は そ れ に 候 と も 、 よ も 御 た つ ね
あ る 。 こ の ﹁め こ ﹂ は 、 直 前 の ﹁を や ﹂ と 対 を な し て い る 。
﹃大 石 寺 版 ﹄ (
九 一〇 頁 ) も 、 ﹁め こ を を も ひ ﹂ と 同 文 で
御 書 、 九 六 一頁 )
を も ひ 、 所 領 を か へり み る こ と な か れ 。 (
種種 御振舞
であ ろう と 推 測 さ れ よう 。
チ
⑨ 阿 脩 羅 王 ○ 凡 夫 に て は を は せ し 時 、不 妄 語 戒 を 持 て 、
ま な ご を ぬ か れ 、か わ を は が れ 、し ・む ら を や ぶ ら れ 、
ママ サ
血 を す は れ、 骨 か れ 、子 を 殺 れ 、 め (
妻)を う ば わ れ 、
妻
な ん ど せ し か ゼ も 、⋮ ⋮ (
南 条 殿 御 返 事 、 一八 二 〇 頁 、
真 蹟 11 京 都 ・本 満 寺 、 断 片 )
﹃
大 石 寺 版 ﹄ (一五 七 三 頁 ) も 、 ﹁め を う ば わ れ ﹂ と 同 文
枯
(れ )﹂ を 振 り 漢 字 に 表 記 し て い る が 、
で あ る 。 因 み に 、 ﹁骨 か れ ﹂ の 所 、 ﹃
大 石 寺 版 ﹄ は ﹁骨 か れ ﹂
と 、 ﹁か れ ﹂ に ﹁枯
い か が で あ ろ う か 。 (そ の考 究 は 別 の ⋮
機 会 に 譲 り た い 。)
以 上 、日 蓮 遺 文 に お け る 、仮 名 表 記 の ﹁め ﹂(
現代 語 の ﹁
妻﹂
一11一
諸 本 の異 同 を 示 せ ば 、 次 の如 く で あ る 。
次 に 、 一転 し て仮 名 表 記 の ﹁つま ﹂ に つ い て見 る 。
ト
め に ごにか たき に
① 第 三 に衆 合 地 獄 者 、里縄 地 獄 の 下 に あ り 。⋮ ⋮ 殺 生 ・
﹁顕 諺 法 紗 ﹂ に 次 の如 く あ る 。
昭 和定 本
め こ のかた き に
楡 盗 の 罪 の 上 、 邪 婬 と て 他 人 の つま (
妻)を 犯 者 此 地
ス
大 石寺版
妻 子 ノ敵 二
獄 の中 に堕 べ し 。 而 に 当 世 の僧 尼 士 女 、 多 分 は 此 罪 を
ωー
朝師本
子 と つま の為 に
ツ
平賀本
右 で、 仮 名 書 き の ﹁め こ ﹂ (
複 合名 詞) は、 ﹃
大 石寺 版 ﹄
犯 す 。 殊 に 僧 に こ の罪 多 し 。 ⋮ ⋮ ︹
僧 ハ︺ 独 あ る女 人
㈲1
を ば を か さ ず 。も し や か く (
隠)る と 、他 人 の妻 を う か "
④ (
前 出 ︾閻 魔 王 に 、我 身 と いと を し と お ぼ す 御 め (
妻)
ゆ 。さ れ ば 多 分 は 当 世 た う た げ な る 僧 此 地 獄 に堕 べ し 。
(
貴)げ な る僧 の中 に 、 こ と に 此 罪 又 多 か る ら ん と お ぼ
ひ、 ふかく か く れ んと を もう な り 。当 世 のほか たう と
と 子 と を ひ っぱ ら れ ん 時 は 、 ⋮ ⋮ (
上 野 殿御 返事 、 一
(二 四 九 頁 )
ヘ
ヘ
﹁(
他 人 の) つま
(
妻)﹂、 @
へ
﹁(
他 人 の) 妻 ﹂ の
[
妻 ・嬬 ・夫 ] ︹古 く は 配 偶 者 の 意 で 、 妻 の 意 に 用
﹁を
﹁め ﹂ ﹁を む な ﹂ を 、 夫 の 意 に は
に は 妻 の意 に は
(﹃講
(4 )
つ と ﹂ ﹁を と こ ﹂ を 使 う ︺ ① 妻 。 ⋮ ⋮ ② 夫 。 ⋮ ⋮
い る の が 普 通 だ が 、 和 文 に 用 い る こ と は 少 な く 、 一般
つま
で 確 か め よう 。
そ こ で 先 ず 、 ﹁つ ま ﹂ ﹁め ﹂ ﹁邪 婬 ﹂ 等 の 意 に つ き 、 辞 典
書 き 分 け は 、 単 な る文 字 表 記 の変 化 か 、 ど う な のか 。
右 で、 ω
人 の妻 を う か が ひ ﹂ 等 と 同 文 で あ る 。
﹃
大 石寺 版 ﹄ (
四四 四 頁) も ﹁
他 人 の つま を 犯 す 者 ﹂、 ﹁
他
三 一〇 頁 )
の み であ る 。
こ
右 の① ② の ﹁め こ﹂ は 複 合 名 詞 的 だ が 、 ③ ④ は ﹁め ﹂ と
﹁子 ﹂ の 間 に種 々 の格 助 詞 が 介 入 し て い る の で、 複 合 名 詞
で は な いけ れ ど も 、 参 考 例 と な る の で、 こ こ に掲 げ た 。
以 上 、仮 名 書 き ﹁め こ﹂ の用 例 数 は 少 な いと は いえ ど も 、
明 ら か に ﹁メ コ﹂ と 発 音 さ れ た 語 が 存 在 し た そ の証 と な ろ
う。
と も あ れ 、 こ れ ま で の第 二 ・三 節 で は 、 ﹁メ﹂ 及 び そ の
複 合 語 と し て の ﹁メ コ﹂ の考 察 を し てき た 。
四 、 ﹁つ ま ﹂ (仮 名 表 記 ) に つ い て
談 社 古 語辞 典 ﹄)
一12一
日蓮 遺 文 に お け る 「妻 」 「
妻 子 」 の訓 み をめ ぐっ て
め
(
を )﹂ の対 。 多 く 複 合 語 と
(
めす) の意 。 人 間 に も 、 男 と
[
牝 ・雌 ・女 ・妻 ] ︽﹁男
し て使 う 。 動 植 物 の 雌
に合 わ な い (
現 実 には 男 の方 が 中 心 的 傾 向 があ る と し て
も )。
平 安 時 代 に は 受 領 以 下 の 人 の妻 を いう こ と が 多 く 、 天
し た り す る 気 持 で いう 。 ま た 、 妻 を 指 す 場 合 も あ る が
で は 一面 的 (
男 ← 女 ) と な り 適 切 で は な い の で、 ﹁つ ま ﹂
の文 意 に ぴ った り であ り 、 そ れ で、 ﹁め ﹂ 表 記
﹁妻 ﹂ の場 合 の み で な く ﹁
夫 ﹂ の場 合 も あ る 訳 だ か ら 、 右
そ も そ も ﹁ツ マ﹂ と いう 語 は 、 元 来 、 "配 偶 者 " の意 で 、
皇 ・貴 族 の 正 妻 を さ す こ と は ほ と ん ど な い。 ⋮ ⋮︾
(11 配 偶 者 ノ 意 ) の語 を 、 或 い は 用 いた も の で あ ろ う か 。
一対 を な す 女 の意 で使 う 。 多 く は 女 を 見 下 げ た り 卑 下
(
雌 雄 一対 のう ち の) 女 。 ③ 妻 。 ﹁
ー子 見れ
誤 解 さ れ る 虞 れ も あ り 、 いか が か 。 否 、 も し ﹃
昭和 定 本﹄
(
妻 ) と 補 記 し た の は 、 か え って 、 現 代 語 の ﹁
妻 ﹂ の意 と
と も 考 え ら れ よう 。よ って 、﹃昭和 定 本 ﹄が ﹁つま ﹂ の下 に 、
読 ま れ る 事 を 避 け る 等 の理 由 で、 ﹁つま ﹂ と 仮 名 表 記 し た
(
11 妻 の 意 )
日 ⋮⋮②
そ の ﹁ツ マ﹂ を 、 仮 に ﹁
妻 ﹂ と 漢 字 表 記 す る と 、 ﹁メ ﹂ と
(
同前 )
[
邪 淫 ・邪 婬 ] ︹
仏 ︺ 五 戒 の 一。 妻 以 外 の 女 、
(5 )
ば め ぐ し う つく し ﹂︿
万 八 〇 〇 ﹀⋮ ⋮ (﹃
岩 波 古 語 辞 典 ﹄)
じ ゃ いん
ま たは夫 以 外 の男と 通 ず ること 。 ⋮ ⋮
へ
が こ こ の ﹁つま ﹂ を 、 現 代 語 の ﹁
妻 ﹂ の意 と 解 し て ﹁妻 ﹂
ヘ
さ て、右 本 文 に戻 り 、 ω の ﹁(
邪 婬 と て他 人 の) つま (
を
ツマ
字 を 補 った の で あ れ ば 、 そ れ は 誤 り と 言 え る の で は な か ろ
ス
犯 者 )﹂ を 、 仮 に 現 代 語 の ﹁妻 ﹂ (
蓋 {o) の 意 味 と す る と 、
う か。
へ
﹁
あ る 夫 ← 他 の女 ﹂、 す な わ ち 、 ﹁
男 か ら 女 へ﹂ と いう 一方
え てみ れば 、 こ こは ﹁
邪 婬 ﹂ を 言 って いる の で あ る か ら 、
女 ) の 両 性 に 言 及 し て い る のと 合 致 し よ う 。 も し 仮 名 表 記
多 分 は此 罪 を 犯 す 。﹂ で 僧 尼 士 女 と 男 (
僧 ・士 )、 女
否 、 そ う 解 し て こ そ 、 直 後 の文 ﹁而 に当 世 の僧 尼 士 女 、
あ る 妻 が 他 の男 と 通 じ る 、 つま り 、 ﹁
女 か ら 男 へ﹂ と いう
﹁つま ﹂ を 妻
通 行 的 な 方 向 ・行 動 ・罪 と いう こ と に な ろう 。 し か し 、 考
両 面 が あ る 筈 で あ る 。﹁邪 婬 ﹂ の直 前 の本 文 ﹁
殺 生 ﹂ ﹁楡 盗 ﹂
に う ま く つな が ら な い 。
へ
(
を う か " ひ )﹂ の 方 で あ る が 、
直 前 に ﹁殊 に 僧 に こ の 罪 多 し ﹂ と あ る の で 、 ﹁(
他 人 の) 妻
一方 、 @ の ﹁(
他 人 の)妻
(
女 ) の み と 解 し た ら 、 波 線 部 の文 に 論 理 的
(
尼、
も 勿 論 男女 にわ た る わけ であ り 、 そ れ ら ﹁
殺 生 ﹂ ﹁楡 盗 ﹂
と ﹁邪 婬 ﹂ は 並 列 さ れ て い る のだ か ら 男 女 両 性 に 及 ぶ は当
然 で あ る 。 ﹁邪 婬 ﹂ の み が 仮 に "
男 だ け " と いう の で は 理
一13一
昭和 定 本
妻 子 ノ敵 二
め に ご にかた き に
な って いな い)。
か ら 男 へ﹂ の 方 向 は 無 い の で 、 こ こ は
朝師本
子 と つま の為 に
(
を う か " ひ )﹂ の 主 語 は ﹁僧 ﹂ (
男 ) で あ る 。 従 っ て 、 ﹁女
ノ 意 ) と は 書 け な い で あ ろ う 。 よ っ て 、 @ の ﹁妻 ﹂ は 、 和
平賀 本
め こ のか たき に
﹁つ ま ﹂ (11 配 偶 者
文 で も あ る し 、 ﹁メ ﹂ と 読 む と 考 え ら れ る 。
大 石寺版
く り 返 せ ば 、ω の 仮 名 表 記 ﹁つま ﹂は 、"配 偶 者 "の 意 (﹁妻 ﹂
他 者 でも 、 意 味 は 同 じ でも 文 章 に変 化 を 持 た せ る た め に同
と 読 ん で 、 ﹁配 偶 者 ﹂ の 意 で は な か ろ う )。 勿 論 、 日 蓮 で も
表 記 ﹁妻 ﹂ は 、 メ と 読 み 、 "妻 "惹 {。 の 意 で あ ろ う
ま ﹂ の用 例 は ほ と ん ど 見 ら れ ず 、 か つ、 現 代 の "妻 " の意
な い。し か し な が ら 、日 蓮 遺 文 全 編 を 通 じ て 、仮 名 書 き ﹁つ
主 語 は ﹁を と こ ﹂ (11夫 ノ意 ) と な り 、 ﹁配 偶 者 ﹂ の意 で は
き ﹁つま ﹂ が 見 え る 。 ﹁
子 と つま ﹂ と 並 列 的 対 句 的 ゆ え 、
右 の 四本 中 、 平 賀 本 の み に ﹁子 と つま の為 に﹂ と 仮 名 書
(
漢 字 ・仮 名 ) を 変 え る こ と は 常 に 見 ら れ
三 ま の意 で は な い。 男 女 に わ た る ) で あ る が 、 @ の 漢 字
一語 の 文 字 表 記
の ﹁ツ マ﹂と いう 語 は 、より 後 代 のも のと 考 え ら れ る た め 、
(﹁ツ マ ﹂
る こ と だ が 、 こ こ で は 、 日 蓮 は 、 意 味 の違 い に よ っ て、
平 賀 本 の本 文 ﹁
子 と つま の為 に﹂ に は 従 い難 い。 或 いは 、
原 文 に は ﹁妻 ﹂ (
漢 字 表 記 ) だ った も の を 、 の ち 転 写 の段
﹁つま ﹂ ﹁妻 ﹂ と 、 文 字 表 記 を 書 き 分 け た も の と 考 え た い 。
(
雑)と な り し 時 は
階 で、﹁つま ﹂と 仮 名 表 記 に変 じ た 可 能 性 は な い であ ろ う か 。
(前 出 ︾ 此 娑 婆 世 界 に し て き じ
②
な いよう であ る。
へ
﹁つま ﹂) を 考 察 し て き た わ け であ る 。
(
伴
以 上 、こ れ ま で の 二 節 ∼ 四 節 で は 、仮 名 書 き の用 例 (
﹁め ﹂
侶 の意 と 考 え ら れ る ﹁ッ マ﹂ は 一例 見 え る よ う だ が )。
﹁ツ マ﹂ 仮 名 書 き 用 例 は つも 見 ら れ な いと 言 え よ う
と も あ れ 、 日 蓮 遺 文 に は 、 現 代 語 の "妻 " (
三{
①﹀の意 の
尚 、 仮 名 書 き ﹁つま こ﹂ の用 例 は 、 日 蓮 遺 文 に は 見 ら れ
たか (
鷹) に つ か ま れ 、 ね ず み と な り し 時 は ね こ に く
⑦ー
ら わ れ き 。或 は め (
妻) に 、 こ (
子) に 、 か た き に 身 を
ヒ
ヘ
子 と つま
失 し事 大 地 微 塵 よ り 多 し 。(
種 種 御 振 舞 御 書 、九 六 六 頁 )
右 に は異文 が あ る。
⑦ "め に ⋮ ⋮ き に " 8 字 11 妻 子 ノ 敵 二㊥
の為 に ㊥
更に ﹃
大 石寺 版 ﹄ (
九 = 二頁 ) は 、 ﹁め こ の か た き に﹂ と
ある (
﹁め こ ﹂ と 複 合 名 詞 的 。 ﹃
昭和 定 本﹄ は複 合 名 詞 に は
一14一
日蓮 遺 文 に お け る 「妻 」 「
妻 子 」 の訓 み をめ ぐっ て
五 、 ﹁妻 ﹂ (漢 字 表 記 ) に つ い て
次 に 、 漢 字 表 記 の ﹁妻 ﹂ 字 の 考 究 で あ る が 、 こ れ は 用 例
が 多 出 し て い る の で 、 こ こ で は ご く 一部 分 を 掲 げ る こ と に
ひ し さ )﹂ と 読 む の が よ い と 考 え ら れ る 。
ス ベち
② 夫 、 信 心 と 申 は 別 に は こ れ な く 候 。 妻 のを と こ (
夫)
(
妙 一尼 御 前 御 返 事 、 一七 四 九 頁 )
を お し む が 如 く 、 を と こ の妻 に 命 を す つ る が 如 く 、
⋮⋮
右 で は 、 ﹁を と こ ﹂ (
夫 ) に 対 応 す る も の と し て は ﹁妻 ﹂
な る 語 ・漢 字 で あ る こ と が 読 み 取 れ る 。例 え ば ﹁め を と こ ﹂
し た い。
①
(
妻 夫 、 夫 婦 ノ意 ) な る 複 合 名 詞 が 古 く よ り 見 ら れ る こ と
(前 出 ) あ の 蘇 武 が 胡 国 に 十 九 年 、 ふ る さ と の 妻
と 子 と の こ ひ し さ に 、 雁 の足 に つけ し ふ み 。 ⋮ ⋮ ち ん
から し ても
で は な く 、 ﹁め ﹂ と 読 む と 考 え ら れ る 。
ゾ
③ 何 汝 本 来 の面 目 を 捨 て 不 立 文 字 と 云 耶 。 是 昔 し 移 宅
わた ま し
(﹁つま を と こ ﹂ な ど は 余 り 見 か け な い )、 第 二
し (
陳子) が か " み (
鏡) の と り (
鳥) の つ ね に つ げ (
告)
節 で も 見 た 如 く 、 右 の ﹁妻 ﹂ 字 二 例 は 、 い ず れ も 、 ﹁つま ﹂
︹
妙 ノ文 字 ガ︺ 冥途 に
しがごとく、蘇武 がめ (
妻) の き ぬ た の こ え の き こ へ
フ
し が ご と く 、 さ ば せ か い の事 を
つげ さ せ 給 ら ん 。 (
妙 心 尼 御 前 御 返 事 、 一七 四 七 頁 )
へ
右 は 、 前 述 の ご と く 、 ﹁蘇 武 が め ﹂ の "め " は 、 ﹁蘇 武 が ﹂
右 の ﹁移 宅 ﹂ を ﹁わ た ま し ﹂ と 和 語 風 に読 む と 和 文 調 と
し け る に 我 妻 を 忘 た る 者 の如 し 。(
諸 宗 問 答 紗 、三 一頁 )
﹁つ ま ﹂ と は 仮 名 表 記 さ れ て い な い 。 そ し て 、 初 め の ﹁ふ
な り 、 又 、 配 偶 者 の意 で は な く 現 代 語 の妻 の意 と 思 わ れ る
に 修 飾 さ れ て い る の だ か ら 、 明 ら か に ﹁妻 ﹂ の 意 で あ る 。
る さ と の妻 と 子 と の﹂ の所 、 こ こ は 夫 か ら 見 て の立 場 で述
故 、 和 語 の ﹁め ﹂ と 読 ん で よ いと 考 え ら れ る 。
④ 貧 欲 故 妻 帯 。 (一代 聖 教 大 意 、 六 〇 頁 )
アル ニ ワ ス
べ ら れ て い る の で 、 こ こ の ﹁妻 ﹂ の 字 は 、 ﹁配 偶 者 ﹂ を 意
﹁(ふ る さ と の ) 妻 ﹂ と は 、 同
味 す る は ず は な く 、 文 字 通 り 現 代 語 の "妻 " の 意 で あ る 。
す る と 、 ﹁(
蘇 武 が) め﹂ と
(
配 偶 者 で は な く 、 現 代 語 の "妻 " の 意 ) と 考 え ら
し 文 に 直 せ ば 、﹁(
貧 欲 ア ル 故 二) 妻 ヲ帯 ス ﹂ と 、 ﹁妻 ﹂字 は 、
じ意 味
れ る か ら 、 同 じ 書 簡 の 中 な の で あ る し 、 仮 名 書 き の ﹁(
蘇
﹁ツ マ﹂ で も ﹁サ イ ﹂ で も な く 、 ﹁メ ﹂ と 読 む と 考 え ら れ る 。
メ
右 の ﹁妻 ﹂ 字 は ど う 読 む か 。 ﹃
昭 和 定 本 ﹄ の如 く 書 き 下
(
と 子 と のこ
め
武 が ) め ﹂ と 同 一視 し て 、 ﹁(ふ る さ と の ) 妻
一15-一
又 、 右 は 漢 文 体 で あ る か ら 、 ﹁(
貧 欲 故 二) 妻 帯 ス ﹂ す な わ
も 二 例 見 え る し 、 こ こ は 和 文 脈 な の で ﹁メ コ﹂ と 和 語 に訓
右の ﹁
妻 子 ﹂ は 、 後 に仮 名 書 き の ﹁
を と こ﹂ (
夫 ノ意 )
サイ タイ
ち ﹁
妻 帯 ス ﹂ と 、 二字 熟 語 (
漢 語 サ 変 動 詞 ) と し て読 む こ
む であ ろう 。
或 は妻 子 を と る。
レ
(
種種 御 振 舞 御書 、 九 七 八頁 )
其 御 房 ︹11 日 蓮 ︺ に物 を ま いら せ け り と 云 て国 を お ひ
フ
③ 或 は其 前 を と を (
通行)れ り と 云 て ろ う に 入 、 或 は
フ
(
法 華 題 目紗 、 三 九 四頁)
て妻 子 を 見 る よ り も め づ ら し と を ぼ す べ し 。
めす べし 。 ⋮ ⋮強 き か たき にと ら れた る者 のゆ る され
② さ れ ば こ の経 の題 目 を と な え さ せ 給 は ん に は を ぼ し
と も 可 能 で あ ろう 。 そ の場 合 は ﹁
妻 ﹂ 字 は ﹁サ イ ﹂ と 音 読
み に な る 訳 であ る 。
以 上 、 漢 字 表 記 ﹁妻 ﹂ の、 ご く 一部 分 の 用 例 を 記 し た 。
六、 ﹁
妻 子﹂ (
漢 字 表 記 ) に つ いて
次 に、前 節 の ﹁
妻﹂ に ﹁
子 ﹂ が 合 し た 二字 熟 語 ﹁妻 子 ﹂
"メ コ " と 訓 む も の
の訓 み に つ い て 、 こ こ で は 二 種 類 に立 て 分 け て論 じ た い。
A 、 ﹁妻 子 ﹂ を
先 ず 、 訓 読 み す る も の であ る 。
うかべ
つわ もの
(
妙 一尼 御 前 御 消 息 、 一〇 〇 一頁 )
﹁
④ 大 月 輪 の 中 か 、 大 日 輪 の中 か 、 天 鏡 を も って妻 子 の
(
娑婆)
①
身 を 浮 て 、 十 二 時 に御 ら ん あ る ら ん 。 設 妻 子 は 凡 夫 な
︹
故 上 野 殿 ハ︺ さ だ め て 霊 山 浄 土 に て さ ば
の事 を ば ち う や (
昼夜) に き き 、 御 覧 じ 候 ら む 。 妻 子
れば 此 を みずき かず 。 ⋮ ⋮
フ
等 は肉 眼 な れば み (
見) さ せ 、 き か (
聞) せ 給 事 な し 。
をと こ
⋮ ⋮ 生 生 世 世 の 間 、 ち ぎ り し 夫 は 大 海 の いさ ご の か ず
よ り も を ・く こ そ を は し ま し 候 け ん 。 今 度 の ち ぎ り こ
⑤ ⋮ ⋮ 現 在 眼 前 に は他 国 の せ め き び し く 、 自 身 は 兵 に
かたき
そ、 ま こ と のち ぎ り のを と こ (
夫) よ 。 そ の ゆ へは 、
やぶ ら れ、妻 子 は敵 にと ら れ て、 ⋮ ⋮ ⋮
そ の他 の用 例 は 省 略 す る 。
(
破 良 観 等 御 書 、 一二 七 九 頁 )
を と こ の す ・め に よ り て 法 華 経 の 行 者 と な ら せ 給 ヘ
フ
ば 、 仏 と を が ま せ 給 べし 。 (
上 野 殿 後 家 尼御 返事 、 三
二八頁 )
一16一
日蓮 遺 文 にお け る 「妻 」 「
妻 子 」 の 訓 み を め ぐ って
B 、 ﹁妻 子 ﹂ を
テ
ヲ
ニ
ス
ニ
バ リ "サ イ シ " と 読 む も の
スル
次 に 、 音 読 み す る も の であ る 。
ニ
ニ
ノ
ハ リ
一
或依
ニ
(
守 護 国 家論 、 八九 頁 )
① 然 捨 レ生 堕 二悪 趣 一縁 非 レ 一。或 依 二
妻 子 春 属哀 憐
ノ
ニ殺 生 悪 逆 重 業 二:⋮
右 は、
ノ
妻子春属哀憐
ノ
殺 生 悪 逆重 業
(
十 法 界 明 因 果 紗 、 一七 三 頁 )
漢 文 訓 読 文 的 で、 音 読 み の漢 語 (
春 属 ・所 従 ) に 上 接 し
て いる の で 、 ﹁サ イ シ﹂ と 音 読 み であ ろ う 。
⑤ 日蓮過 去 に妻 子 所領 春 属 等 の故 に身命 を捨 し所 いく
ヲ
そば く か あ り けむ 。 (
四条 金 吾 殿御 消 息 、 五〇 四頁 )
ヒ
(
音 読 み) に 上 接 し て いる の で、
(
事 理 供 養 御 書 、 一二 六 二 頁 )
⑥ 我 が身 に は 分 に 随 て妻 子 ・春 属 ・所 領 ・金 銀 等 も て
る人 々も あり 、 ⋮⋮
右 は 、 二字 熟 語 三個
ニ レテ
ノ
ノ
ブ モ じ
(
蓮 盛 紗 、 一九 頁 )
為 二悪 業 一
所レ
養 妻子兄弟等親属 不 レ
能レ
ニ
﹁サ イ シ﹂ と 音 読 み で あ ろ う 。 (
四 語 の音 読 み に よ り 、 結 果
リ
救 云云。
フ コト
⑦汝独地 獄焼
と対 句 にな って いる。 "
妻 子 " 以 外 す べ て音 読 み で あ り 、
ヲ
と し て韻 律 的 にな って い る 。)
フコ 漢 文 訓 読 文 的 ゆえ 、 "
妻 子 " もま た 音読 みと 考 え る。
シモ レ
②少莫 レ
憶一
一妻 子 春 属 ↓ (
弟 子 檀 那 中 御 書 、 四 二七 頁 )
こ れ 又 、漢 文 訓 読 文 的 、四 字 熟 語 的 な の で音 読 み す べき か 。
こ れ も 漢 文 訓 読 文 的 で 、 直 下 の ﹁兄 弟 ﹂ と 合 し て 、 四 字
の熟 語 的 に な っ て い る か ら 、 ﹁サ イ シ ﹂ と 音 読 み す る で あ
ヒ
ノ ヲ
ヲ
メ ヘ ム
スルヲ
セ
す すめ テ
ヲ
ヲ
メ
セ
(
日女 御 前 御 返 事 、 一五 一四 頁 )
ス
③ ⋮ ⋮ 或 は 師 々 に 問 、 或 は 主 々 に 訴 へ、 或 は 傍 輩 に か
スル ニ
ろう 。
ノミ
ママ ニ
次 か ら は 、﹁
妻 子 ﹂が 漢 語 の羅 列 の先 頭 に来 な い例 で あ る 。
語 の羅 列 の先 頭 に 来 る 例 であ る 。
そ の他 の 用 例 は 省 略 す る が 、 こ こ ま で は 、 ﹁
妻 子﹂が漢
た り 、 或 は 我 身 ノ妻 子 春 属 に申 程 に 、 ⋮ ⋮ 人 ご と に 日
テ ス
蓮 が名 を 知 り 、
ニ
④ 但 非 我 信 二 此 邪 法 ↓ 知 二行 国 一人 聾 二人 民 一
令 レ同 二邪
法一
以二
妻 子 拳 属 所従 人 一
亦 聾従 令 レ
行 二我 行 ↓
一17一
ハ
シ
ニ ク
ノ
ヨリ
ノ
ニ
シテ ノ
(
女 人成 仏 紗 、 三 三 一
二頁 )
⑧ 浬 藥 経 二十 二 云 ⋮ ⋮父 母 兄弟 妻 子春 属 命 終 涕 泣 所 レ
ス
出 目 涙 多 二四 大 海 水 ゆ
右 は、 仏典 中 に出 て いるし 、 二字 熟 語 が 四 つ (
四字 熟 語
が 二 つと も 言 え る) 羅 列 さ れ た 形 であ り 、 ﹁サ イ シ﹂ と 音
リテ
ヲ
フ
読 み し て 、 八 字 す べ て音 読 み で あ ろ う 。
モ
(
十 法 界 明 因 果 紗 、 一八 頁 )
⑨ 主 君 亦 蒙 二彼 恩 一 養 二父 母 ・妻 子 ・春 属 ・所 従 ・牛
ヲ
馬等 ↓
リ
あはれ
二 字 熟 語 が 五 つ羅 列 の 二番 目 に 位 置 し 、﹁サ イ シ﹂と 訓 み 、
五 つす べ て音 読 み で あ ろ う 。
⑩娑 婆 にあ る時 は 、親 類 兄弟 妻 子春 属 集 て父 は慈 み の
なさ け
志 高 く 、 母 は 悲 み の情 深 く 、
(
松 野 殿 御 返 事 、 一二 六 八 頁 )
キ
⑪ 此 魔 王 、 疫 病 の神 の目 に も 見 え ず し て 人 に付 候 やう
キ
に 、 古 酒 に 人 の酔 候 如 く 、 国 主 ・父 母 ・妻 子 に付 て法
フ
(
種 種 御 振舞 御 書 、九 八六 頁)
華 経 の行 者 を 嫉 む べ し と 見 え て候 。
ツ
⑫ 釈 の心 は法 華経 を教 のご とく 機 に叶 ひ時 に叶 て解 行
す れ ば 、 七 の大 事 出 来 す 。 其 中 に 天 子 魔 と て第 六 天 の
ツ
魔 王 、或 は 国主 或 は父 母或 は 妻 子或 は檀 那 或 は悪 人 等
(
種 種 御 振 舞 御 書 、 九 七 二頁 )
に つ い て 、 或 は 随 て 法 華 経 の行 を さ (
支)え 、 或 は 違
し て さ う べき 事 也 。
右 は 、 漢 語 と 漢 語 の間 に ﹁
或 は ﹂ が 入 った構 文 で は あ る
"メ コ" "サ イ シ " いず れ と も 決 め か ね
が 、 や は り 五 語 す べ て音 読 み し て韻 律 的 に し て い る の であ
ろう 。
C、 ﹁
妻子﹂
るも の
次 に 、 ﹁妻 子 ﹂ を 音 読 み か 訓 読 み か 、 俄 か に 断 定 し が た
いも のが いく つか 見 ら れ る 。
① 讐 へば 将 門 ・貞 任 も 貞 盛 ・頼 義 が な か り し 時 は 国 を
し り 、 妻 子 安 穏 な り 云云。 (
宝 軽 法 重 事 、 一 一七 九 頁 )
右 の ﹁妻 子 ﹂ は 、 右 文 全 体 が 和 文 体 な の で ﹁メ コ﹂ と 訓
め そう だ が、 下 の ﹁
安 穏 ﹂ が 音 読 み ゆえ 四 字 熟 語 的 にと ら
え た 場 合 ﹁サ イ シ﹂ と 音 読 み す る 可 能 性 も い さ さ か 生 じ ま
いか 。 よ って、 即 断 を 避 け 今 後 の課 題 と し た い。
そ の他 、 ﹁妻 子 ﹂ (
"メ コ" "サ イ シ " いず れ と も 決 め か ね
( )
る も の) の用 例 は いく つか 見 ら れ る が 、 こ こ で は 紙 幅 の関
係 等 も あ り省 略 す る 。
と こ ろ で 、 山 上 ・泉 氏 は 、 次 の 如 く 述 べ て い る
一一18
日蓮 遺 文 にお け る 「
妻 」 「妻 子 」 の 訓 み をめ ぐ って
第 三 五項
﹃妻 子 ﹄ は
同上
種 種 御 振舞 御 書
一、
上 野 殿御 返
﹁ツ マ コ﹂ と 訓 ま ず し て 、 ﹁メ
﹃め こ ﹄ と 訓 む
聖 文 で は 、 ﹁妻 子 ﹂ を
へ
コ﹂ と 訓 ま れ た こ と は 、
ヘ
一、 九 六 〇
へ
めこ (
妻 子 ) な ん ど は そ れ に候 と も
事
ヘ
へ
いと し き め (
妻 ) を はな れ 子を みねば
ヘ
或はめ (
妻 ) にご (
子 )に
三九 四
等 の例 に よ って推 測 せ ら れ る 。
三 、し か し 、仮 名 書 き の ﹁つま ﹂ (
現 代 語 の妻 ノ 意 )は な い。
四 、但 し 、仮 名 書 き の ﹁つま ﹂ (
配 偶 者 ノ意 か )が 1例 あ る 。
五 、漢 字 表 記 の ﹁
妻 ﹂ は 用 例 多 数 で、 訓 み は す べ て 、 "メ "、
意 味 は す べ て現 代 語 の "
妻 " であ ろう 。
六 、 漢 字 表 記 の ﹁妻 子 ﹂ も 用 例 多 数 で 、 訓 み は 二種 、 ① メ
コ (
和 文 体 )、 ② サ イ シ (
漢文訓読文、漢 語羅列文等)
であ る。
七 、 仮 名 表 記 の ﹁つま こ ﹂ は 、 用 例 な し 。
八 、 仮 名 表 記 の ﹁さ いし ﹂ も 、 用 例 な し 。
は 妥 当 と 考 え る が 、 但 し 、 本 節 で考 察 し て き た よ う に 、 漢
﹁ツ マ コ﹂ で は な く ﹁メ コ﹂ と 訓 む べ き と す る 点 に お い て
(
漢 字 表 記 ) は 、 訓 み は 基 本 的 に は ﹁メ コ﹂ だ が 、 漢 文
者 " の意 は な い で あ ろ う 。 ま た 、 日 蓮 遺 文 の ﹁妻 子 ﹂
で な く ﹁メ ﹂、 意 味 は 現 代 語 の "
妻 " の意 の み で、 "配 偶
九 、結 局 、日 蓮 遺 文 の ﹁妻 ﹂ (
漢 字 表 記 ) は 、訓 み は ﹁ツ マ﹂
文 訓 読 的 な ど の文 脈 に よ って は 、 ﹁サ イ シ ﹂ と 音 読 み す べ
訓 読 文 ・漢 語 羅 列 文 等 の場 合 は ﹁サ イ シ﹂ で あ り 、 意 味
一19一
こ の説 は 、 日 蓮 遺 文 に お け る ﹁妻 子 ﹂ (
漢字表記) を、
き ケ ー スも 少 な か ら ず 見 ら れ る の で 、 そ の点 に お い て は 山
は現代 語 の "
妻 子 " が 中 心 であ る 。
総 本 山 身 延 久 遠 寺 、 昭 和 五 十 一年 初 版 第 四 刷 に よ る 。
い て は 、 別 の⋮
機会 に 譲 り た い。
﹁
女 ﹂ ﹁婦 ﹂ ﹁夫 ﹂ ﹁夫 婦 ﹂ そ の他 の訓 み ・意 味 等 の考 察 に つ
尚 、 論 じ 足 り な か った 点 、 日 蓮 遺 文 に お け る 漢 字 表 記 の
上 説 は いさ さ か 不 十 分 で あ る と も 三口
え よう か 。
七 、お わ り に
以 上 の考 察 を 、 簡 潔 にま と め れ ば 、 次 の如 く な ろう 。
日蓮 遺 文 に お け る ﹁
妻 ﹂ ﹁妻 子 ﹂ の訓 み に つ い て は 、
1注
一、 仮 名 書 き の ﹁め ﹂ (
現 代 語 の妻 ノ意 ) が 9例 あ る 。
二 、 仮 名 書 き の ﹁め こ﹂ (
現 代 語 の妻 子 ノ意 ) も 2例 あ る 。
)
(
以 下 、 ﹃昭 和 定 本 ﹄ と 略 称 )
(2) 日 蓮 正 宗 大 石 寺 、 昭 和 六 十 年 一六 四 刷 に よ る 。
﹃
大 石寺版﹄ と略称 )
(
3 ) 風 間 童旦房。 昭 和 六 十 一年 。
(
4) 昭和 四十九年 三十九刷 による。
(5) 昭 和 四 十 九 年 第 一刷 に よ る 。
(以 下 、
(
わ ら が い ・た か す み 、 本 学 教 授 )
一20-一
Fly UP