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総合交通システム検証施設 MIHARA試験センター
巻頭言 / 寄 稿 寄稿 「総合交通システム検証施設 MIHARA 試験センター」開設のご紹介 1. はじめに 本鉄道車輌工業会及び関連団体において個々 三 菱 重 工 業 ( 株 ) は 平 成 26 年 10 月 2 日、 に「主に高速鉄道を対象とした大規模な試験 三原製作所和田沖工場 ( 広島県三原市 ) 内に、 線と都市内交通を対象とした比較的小規模な 約 3.2km の鉄道軌道用の周回コースを持つ 試験線を組み合わせた試験線建設」の仕様検 我 が 国 初 の 総 合 交 通 検 証 施 設「MIHARA 討がなされ、同年 12 月に報告されましたが、 (Mult ipu rpos e Int egrat ed Highly - 実現には至りませんでした。 Advanced Railway Application)試験セン 2.1 試験線の仕様・活用方法 ター」の暫定運用を開始しました。 かかる状況下、試験線設置の早期の実現を この施設の狙いは、日本のインフラ輸出戦 図るべく、改めて実現可能な試験線について 略の柱の一つである海外都市交通の競争力強 の検討を行うため、平成 24 年 4 月に ( 一社 ) 化を図るもので、弊社だけではなく、他の企 日本鉄道車輌工業会を事務局、東京大学生産 業や官民団体も広く利用可能な運営を目指し、 技術研究所須田教授を委員長として、学識 国際規格への対応や製品開発の強力な支援 者、国、公的機関、鉄道事業者及びメーカー ツールとして活用を図り、 『日本モデル』とし で構成された「試験線検討委員会」が設置 て評価の高い保守・運用を含めたソフト面の され、「都市内交通用鉄道専用試験線の仕様 充実にも役立てるものと期待しています。 及び運営に関する検討」をテーマに議論し、 「MIHARA 試験センター」の仕様、用途の方 2. 経緯・建設の背景 向性が纏まりました。 鉄道の専用試験線については、予てより研 試験線の名称「MIHARA」は、日本で初 究開発、製品開発、安全性評価等のため、鉄 めてとなる本格的な都市交通システム専用試 道関係者間ではその有用性が認識されてお 験線が、広島県三原市に所在し、この地で生 り、平成 20 年 6 月の交通政策審議会鉄道部 まれ、「日本で培われた鉄道システムを世界 会の提言の中でその設置の必要性について言 に発信する試験線」として地域に愛され、発 及されました。この提言を受け、( 一社 ) 日 展して欲しいという願いを託して、この検討 三菱重工業株式会社 交通・輸送ドメイン交通シ ステム事業部 技術部 次長 あさのま としあき 浅野間 俊朗 三菱重工業株式会社 交通・輸送ドメイン交通シ ステム事業部 業務部 次長 じょう こういちろう 城 光一郎 鉄道車両工業 472 号 2014.10 4 委員会の中で、英文名称の頭文字を地名と掛 設設立の目的としております。 け合わせて命名されました。 2.3 三菱重工業の位置付け また、期を同じくして平成 24 年 10 月~ 弊社は、1995 年のマニラ 3 号線建設以降、 12 月には国土交通省発注の委託調査「海外 台湾新幹線、ドバイメトロの他、東南アジア の鉄道用試験線の運営に関する調査」として 各国での鉄道システムの工事や、シンガポー 日本コンサルタンツ ( 株 ) により米:プエブロ ルチャンギ、米国ワシントンダレス、アトラ 運輸試験センター、仏:ヴァレンシエンヌ試 ンタ空港を始めとする世界 11 か所の APM 納 験線、チェコ:ヴェリム試験線、独:ヴィル 入実績を通じて、システムインテグレーター、 デンラート試験線について、運営や経営の状 EPC コントラクターとして経験を積んで参り 況などの実態調査が行われました。この調査 ました。 に基づく検討会にて海外各試験線の仕様、組 今後拡大が見込める新興国の都市交通シス 織、 運 営、 経 営 面 の 観 点 か ら「MIHARA」 テム市場において、日本の鉄道業界全体のグ をモデルケースとした国内鉄道用試験線の運 ローバル化が、システムインテグレーターを 営の概観を示して頂くとともに、この検討会 生業とする弊社の競争力強化に繋がると考え で実施頂いた「国内試験線の利用に関するア ており、関連する企業や官民団体が連携する ンケート」で、国内での潜在的ニーズ、必要 場として、この検証施設を広く利用可能な運 とされる機能 ( サービス ) 等について再認識し 営を行います。 た次第です。 もちろんグローバル市場を相手とする EPC 現在、平成 26 年 2 月より再度委員会組織 コントラクターのメインプレーヤとして、弊 にて、運営開始後の「MIHARA 試験センター 社もこの検証施設を有効に活用して参ります。 の活用拡大に係わる検討及び推進活動」につ いて審議・検討頂いております。 3.MIHARA試験センター(以下MTCと称す) 2.2 設立の目的 施設概要 弊社は、海外の都市交通システムの分野に MTC の鉄輪試験線は約 3,170 mの周回線 おいて日本の優れたシステムを正当に評価 と約 360 mの引込線、及び 260m の小曲線 し、効率的に海外に輸出する為に、日本の優 から構成されています。 れた技術力を示すテストフィールドが必要で 弊社和田沖工場敷地内には平成 16 年から あると考えていました。 19 年にかけて建設した標準軌の既存試験線 国内と海外では鉄道システムに求められる 部分 ( 約 1,270m) があり、今回鉄輪の試験線 規格や仕様が異なるため、開発や製品出荷時 を周回軌道として大きく拡張し、車両・信号・ における認証や安全性評価が重要となります。 通信・運行管理などを総合的に試験できる各 また、日本の鉄道システムの実力を海外の 種設備を準備し、鉄輪周回試験線として運用 鉄道事業関係者に広く、正しくご理解頂くた を開始するものです。 めには、単なる座学ではなく、実地システム 和田沖工場敷地内には他に新交通システム での教育・訓練等も重要です。 車両 (APM) 試験線、磁気浮上車両 (HSST) 試 従い、規格認証や安全性評価などのための 験線並びに OCC( 中央指令棟 ) が併設されて 試験環境の提供と、海外への PR の場を兼ね おり、MTC の電力設備、通信設備と一部供 たトレーニングフィールドの構築を当検証施 用しております。 5 鉄道車両工業 472 号 2014.10 寄稿 MIHARA 試験センター概要 MTC:MIHARA Test Center , E P C:Engineering Procurement Construction 設計・調達・建設 APM:Automated People Mover ,HSST:High Speed Surface Transport OCC:Operation Control Center 3.1 アライメント 験、曲線部での騒音試験等も実施可能です。 周回線での最小曲線は R120 m、最大カン 3.2 軌道設備 ト 150mm、カント低減倍率 400 としてい 今回、新設した軌道は、海外案件への適用 ます。 事例の多い欧州規格である EN54E1 ロング 車両搬入口から周回線に接続する引込線部 レール ( 既存線部分は JIS50N 定尺レール ) 分にはR 100 mの曲線を、更にR 30 m、R を採用しました。 18 mの路面電車を想定した小曲線を軌道末 標準軌と狭軌の3線軌条としていますが、 端に備えています。 将来的にはメータゲージ用に4線軌条化でき 最長直線部分は約 1,050m、その直線東端 るようマクラギにはレール締結箇所を備えて 部分に 50‰勾配部分を設け、更にその 50‰ おります。 勾配の東側は R120m の平面曲線とし、市街 分岐部分は当面標準軌分岐のままとしてい 地等の地形制約による厳しい線形や勾配を想 ますが、狭軌による運用を行う際には分岐部分 定した縦断曲線と平面曲線が混在する複雑な を3線軌条化し、乗越分岐を用いる計画です。 線形としました。 また、軌道面は、基本的にバラスト軌道を また、最長直線部においては、海外都市内 採用していますが、50‰勾配の R120 曲線 交通で要求される最高 100 ㎞ /h 程度の高速 部分のみマクラギ直結軌道としています。 走行を可能とし、周回線化による走行速度の なお、軌道は安全上の観点から全周にわ 確保並びに連続運転等も含め、車両の性能試 たってフェンスで囲んでおります。 鉄道車両工業 472 号 2014.10 6 既存線軌道 周回線分岐部 3.3 架線 架線については、今回、海外の都市交通シ ステムへの要求事例に多いDC1,500Vき電に も対応する設備とし、DC750V/DC1,500V 両方に対応できるものとしました。 架線構造はシンプルカテナリ。ちょう架線 は 150mm2 硬銅より線張力 1,500kgf、ト 新設周回線軌道 ロリ線は 110mm2GT-SN 張力 1,000kgf と しています。将来 AC2.5kV のき電に容易に 拡張できるように碍子等は耐電圧 2.5kV 仕様 のものを用いています。 3.4 電力設備 き電電圧は海外都市内交通の電気方式を想 定し、DC600V/DC750V( 設備容量:2,500 kW/ 連続定格 ) あるいは DC1,500V( 設備容 量:1,500kW/ 連続定格値 ) を選択できるよ 新設周回線軌道 R120 曲線部 ( マクラギ直結軌道 ) うにしました。また、安全上の配慮として沿 線上にき電表示灯とアラームを設備していま す。 3.5 信号設備 周回線上の車両の在線位置を確認するため アクセルカウンターを配置しています。車両 の在線状況は中央指令棟の卓上モニタで確認 することができます。 周回線上の転轍機は中央指令棟機器室から 遠隔操作可能としていますが、分岐付近に在 線している場合はアクセルカウンターからの 新設周回線軌道 R160 曲線部 ( バラスト軌道 ) 7 鉄道車両工業 472 号 2014.10 インターロックが働き、転轍機の遠隔操作は できなくしています。 寄稿 3.6 通信設備 周回線上に CCTV、沿線電話、放送設備を 配置し、中央指令棟でモニタリングできる設 備としています。 3.7 中央指令棟 中央指令室と機器室を備え、中央指令室で は大画面マルチディスプレイシステムにより き電の状態や沿線 CCTV の映像を確認でき、 卓上のモニタ上で車両の在線状況などを確認 できます。また、中央指令室から無線、沿線 プラットホーム 電話、放送設備を通じ、車両、沿線およびプ ラットホームに連絡可能な設備としており、 ここで試験中の指揮・連絡を行います。 なお、機器室には、電力操作盤、転轍機操 作盤を備えています。 その他設備として、プラットホーム3か所、 ピット 2 ヶ所、車両搬入口、車両止め 2 ヶ所 を備えています。 CCTV:Closed-CircuitTeleVision 閉回路テレビ 車両運転士用プラットホーム 中央指令棟 (OCC) ピット 中央指令室 車両搬入口 鉄道車両工業 472 号 2014.10 8 の観点での活用を想定していますが、更には 日本で培われた技術力のアピールにも繋が り、大きな武器になると考えております。 4.1 研修・訓練 諸外国の鉄道関係者が MTC において日本 の鉄道システムに触れることにより、日本シ ステムの理解、諸外国との相違、技術レベ ル等の理解を得ることにより、「ジャパンフ 車両止め リーク」を醸成し、国際競争力強化に繋げま す。 3.8 無線利用に関して また、MTC において実際に外国人へ教育 CBTC や無線を利用したシステムの試験も するトレーナーの育成やトレーニングノウハ 想定し、平成 25 年 11 月「構造改革特区第 ウの蓄積が可能です。 24 次提案募集」に、地元広島県のお力添え 4.2 技術開発・安全性評価 を頂き、MTC における電波法規制緩和アイ MTC において、実運用に近い条件での実 ディアを応募しました。事務局である内閣官 証や安全性評価を行うことにより、現地実路 房地域活性化統合事務局と電波法所管元であ 線での試験軽減や新技術、新システムの実用 る総務省と種々調整の結果、特区認定までに 化を早めることが可能です。 は至りませんでしたが、MTC 所管となる総 例えば、システム検証の分野においてRAM 務省中国総合通信局に当施設の特異性・位置 Sや EMC 等のデータ取得、耐久試験、組み合 付け等をご理解頂き、今後有事の際には、前 せ試験、インテグレーション試験が MTC にて 広にご相談し、運用面の工夫等により応援頂 可能となりますが、軌道工事が現地で完成し けることとなりました。 ていない段階で国内での事前試験が実施でき CBTC:Communication Based Train Control るため、全体工程の短縮にも繋がります。また、 3.9 その他 日本国内での再現試験も可能となり、国内で MTC の隣接地には広島県の公共埠頭が設 の事前検証の徹底により、出荷後の出戻りロ 置されており、車両の海上輸送に便利な立地 スの未然防止による工程短縮、延いては大幅 となっています。 なコスト削減にも寄与できると考えます。 RAMS: Reliability ( 信頼性 ) , Availability ( 可用性 ) 4. 活用と期待される効果 Maintainability ( 保守性 ) , Safety ( 安全性 ) MTC は、前述のとおり日本の鉄道インフ EMC:Electromagnetic Compatibility ( 電磁両立性 ) ラ輸出競争力強化の観点から今後も市場とし 4.3 規格認証 て活況を呈している新興国の都市内交通を 要求元 ( 海外鉄道事業者 ) の要求仕様、適合 ターゲットにグローバルな仕様を織り込み、 規格に沿ったデータの取得・評価が可能とな 以下大きく3つ り、日本技術の輸出促進に繋がります。 ①研修・訓練、 例えば、国際規格への対応において、国内 ②技術開発・安全性評価 の認証機関である独立行政法人交通安全研究 ③規格認証 所を中心に、証明用データを取得し、蓄積し 9 鉄道車両工業 472 号 2014.10 寄稿 ていく事で、海外からの信頼度が向上すると 談しながら進めて参りますので、よろしくお ともに、日本のシステムの評価が高まります。 願い申し上げます。 因みに、海外では、米国、ドイツ、フランス、 チェコ等に既に試験センターが稼働していま 6. おわりに す。特に、米国 ( プエブロ )、チェコ ( ヴェリム) MTCは、現段階では鉄輪の試験線を周回 等では高速鉄道も対象とした大規模な施設と 軌道として欧州規格対応で大きく拡張し、車 なっており、欧州を中心に試験線を用いた開 両・信号・通信・運行管理などを総合的に試 発や規格認証は一般的に行われています。 験できる器を準備した段階です。 弊社内での使用はもとより、日本鉄道イン 5.MTC の運営 フラシステムの海外輸出競争力向上に向け、 鉄道技術は、各種要素技術や製品を担当す 広く、より多くの皆様に御活用頂ければと念 る数多くの企業の技術力を結集した総合力が 願しております。 鍵となり、日本企業全体の底上げが競争力の 源泉となるため、この検証施設は、弊社のみ ならず、他の鉄道関連企業や官民団体も広く 参考文献 利用可能な運営を目指して参ります。 平成 24 年 8 月 10 日 そのためには、運営組織の在り方、運営費 試験線検討委員会報告書 用面の裏付け等も必要となり、弊社だけでは 一般社団法人日本鉄道車輌工業会 / 試験線 解決できない問題が山積しております。 検討委員会 従い、運営については、先ず、利用者のニー 平成 25 年 2 月 4 日 ズや利用実態を鑑み、利用者皆様のご意見も 鉄道車両輸出組合報 ( 通巻 255 号 ) 海外展 伺いながら段階的に固めていきたいと考えて 開交流会記事 おります。 「MIHARA 試験センター建設計画について」 当面、MTC 利用に関する「問い合せ」、 「利 平成 25 年 3 月 用申請受付」、「利用手続き」等の対応につき 海外の鉄道試験線の運営に関する調査報告書 ましては、( 一社 ) 日本鉄道車輌工業会様と相 日本コンサルタンツ株式会社 鉄道車両工業 472 号 2014.10 10