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『地域猫活動と譲渡活動で殺処分ゼロへ』 ――命を救うための両輪――
地域猫列伝第二弾 『地域猫活動と譲渡活動で殺処分ゼロへ』 ――命を救うための両輪―― 【地域猫列伝】第二弾は、獣医師であり、『のらねこ学入門』「地域猫の作り方」の著者である荒川ヨ シオ(あらかわ よしお)さんにお話を伺いました。 「獣医師・臨床家という三者協働の異なった視点か ら地域猫を見つめてきた」という荒川さんは、活動をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。 獣医師 荒川ヨシオさん ――獣医師である荒川さんが、地域猫活動へ関わって いったきっかけを教えてください。 荒川 品川区にある「捨て猫防止会」という団体の 関係で、私の父の代から野良猫に対する相談が結構あ ったんです。私がインターネットを始めたきっかけが 子猫の里親探しのためで、地域猫に関わる 2 年くらい 前に、野良猫研究のホームページとして「のらねこ学 入門」を作りました。 もともとは野良猫についてのいろいろな情報を世界 中から集めて載せちゃおう、というものだったんです 品川区のご職場にて が、そのころから黒澤さんの始められた地域猫活動が あちこちの行政に波及していって、各地でやられるよ うになったというので、 「品川区でも何とか地域猫活動を起こしたいな」というのがありまして。それで (地域猫に)入っていったんです。なので、私にとっては野良猫研究の中の一つの部分として、地域猫 というのは始まりました。 ――三者協働の当事者たちとは異なった、 「臨床家」というのは、どのような立場なのでしょうか? 荒川 三者協働というのは、猫ボランティアさん・地域住民・行政の三者で動かなきゃだめ、という ものですが、私はどこにも入っていないんです。けれど、猫ボランティアさんたちとは、かなり親しく 情報交換を行っていて。相談を受けて、その相談にアイデアや提案をするとか、反対に向こうから教え てもらったりして、集まってくる情報を発信したりする立場ですね。ホームページには全国から情報が 集まってきますし。 インターネット以外でも、実際に月1回くらい里親会だとか猫ボラ会議とかやってるんですよ。品川、 目黒、大田、港区界隈のボランティアさんたちが顔を出してくれるので、そこから情報交換という形で もやっています。 ――地域猫活動において、獣医師という専門的な立場ならではの役割の担い方にはどんなものがありま すか? 荒川 猫ボランティアさんが地域猫をやろうと思ったときに、具体的にどうしたらいいのかというと、 近所の人や友達とか、誰かに話すというのが最初。それから、役所に電話する。それで、役所で何をや れと言われるかというと、とにかく「野良猫の不妊去勢手術をしなさい」って言いますよね?でも(何 をしたらいいか)わからないですよね?そこで、それに対してお答えするという流れなんです。こうや って捕まえて、手術はこうやって何日目で返しますから、元に戻してくださいと。 三者協働をやれと言っても、何から始めるかわからないんですよね。だから、その辺の実践的なアド バイスをしています。特に、野良猫は手術のリスクが高いので、どこのお医者さんも野良猫を歓迎して やってくれるかとういと、そうでもないですから。なので、野良猫を一生懸命やってくれる先生を見つ けるというところから始めなくてはいけないですし。 最近では、野良猫の扱いに長けている先生がかなり増えてきていますが、昔はほとんど嫌がられてい ました。普通、飼い猫はどういう手順を踏むかというと、前もって予防注射を打ったり、当日絶食させ たりとか。それから、血液検査とレントゲン検査をして、麻酔に耐えられるかどうかチェックする。野 良猫はいきなり連れて来られるので、それが全部はできないんです。お腹いっぱい食べてくるし、下痢 してたりして運び込まれてきるので。伝染病やノミも持ってるかもしれませんし、暴れてケガをするか もしれない。殺処分を減らそうとか、外猫にも手術をしようというのには賛成なんだろうけど、積極的 にやる先生はやっぱり少数派ですね。 ――少し抽象的な質問になってしまいますが、 “人と猫の関わり方”や“ペットマナー”とは、どうある べきだと思われますか? 荒川 犬と人の関係で見てみると、飼い主と飼い犬という形で、法的に関係がはっきりしているんで す。けれど、猫というのは、非常にあいまいな動物でね。猫自体が飼い主を何人も持っていて、三軒く らい渡り歩いていたりとか、いろんな名前で呼ばれていたりとか、所有権のはっきりしない猫が多いの で難しいんですよね。そうすると、登録制という問題になりますが、犬と同じ登録制をやるかといった ら国民的な議論になりますから、簡単にはできないですね(笑) ですが、猫というのはそういう文化なんです。人と猫というのは、長い間あいまいな関係を続けていて、 猫は気に入らないと出て行って隣の家の猫になっちゃうというのは、結構当たり前。犬はそういうこと は無くて、飼い主責任なんですけど。猫は、都合が悪くなると「これは野良猫です」って言ったり、あ る日突然「これはうちの飼い猫です」と言うこともできる。だから、人と猫の関係ってあいまいな、ち ょっと不思議な関係ですよね。けれど、その不思議さが魅力でもあるのだと思います。登録制になった らなったでいいと思いますが、猫の文化は簡単には変わらないでしょうね。 でも、だんだん猫は室内飼いが当たり前になってきていて、外暮らしの猫は減ってきています。私とし ても、やっぱり室内飼いを推奨します。里親会で出す猫についても、完全室内飼いっていうのがルール なので、外へ出して飼うという人には譲渡しないことになっています。ですが、放し飼いの文化は、基 本的に地方は放し飼い、都会は室内飼いという地域差があるん ですよね。例えば、とても自然が豊かで畑がいっぱいある場所 の真ん中に住んでいる人に猫を譲渡した場合、完全室内飼いに してくださいとも言えないですよね。自分の敷地がいっぱいあ るから、そこまで規制できない。だから、地方の獣医さんや行 政の獣医さんとお話ししたときに、地域猫っていうのは都会の 文化だから、田舎の方には適用しないって言われましたね。 ――荒川さんが考える地域猫活動のスタート地点とゴール地点はどこでしょうか? 荒川 私自身は直接活動をやろうという立場ではあり インタビューの様子 ませんが、最初に地域猫に入ったきっかけが里親探しから きていて、最終目標としては、殺処分ゼロになるまでは積 極的に不妊去勢手術をやります。なので、私の立場として は、地域猫活動は里親会や譲渡と切り離すことができない ものです。どちらも、捨て猫や殺処分されるのを減らすた めの、 “車の両輪”になっていますからね。地域猫とはち ょっと外れるかもしれないけれど、地域猫をやっていると やっぱり関わってくる問題ではあります。 現実問題、子猫が生まれちゃってどうしようっていうと きに、役所の回答では、 「動物愛護センターに持っていき 地域猫活動と譲渡活動は、殺処分ゼロへの両輪であ なさい」で終わりなんです。その先がどうなるかわかって ると話す荒川さん るから、みんなやりたくないですよね。何とか命を助けた い。そうすると、慣れる猫は慣らして、譲渡会で里親探しをする。慣れそうにないのは、手術してその 地域で飼って地域猫にする。そういう選択肢になると思います。 殺処分ゼロを達成する具体的な方法として里親会があって、もう一つとして TNR がある。けれど、10 年以上やって来て、TNR だけで放置しておくと 5 年後に振り出しに戻るっていうのをいくつか経験した んです。特に個人でやっている人は、隠れてエサをやっていることが多い。そうすると、エサだけやっ てパッと逃げるから、この猫がオスなのか、メスなのか、どんな病気をしてるか、痩せてるか、あんま りよく観察してないんです。なので、これは地域猫でやっていくしかないから、役人に入ってもらって、 できれば地域の何人かとグループを作って、継続的に餌やり・管理をしてもらうことが重要です。 殺処分ゼロが達成されたら、もうそんなに積極的にやる必要はないと思う。需要と供給の関係で、欲し がっている人に比べて子猫はまだまだ供給過剰なんですよね。未だに子猫は相当処分されている現状が ありますから。殺処分ゼロが達成された後は、私も(地域猫活動から)手を引くかもしれない。 殺処分ゼロを達成したいというのは、父親が保健所にいたっていうのもあるし、同級生がそういう職場 に行っているというのも理由にあります。命を救うはずの獣医の資格をとって、殺処分する側の「動物 愛護管理センター」と「と殺場」にだけは行きたくないと、みんな言うんですよね。その人たちの負担 を減らしてあげたいという思いもあります。 ――これから地域猫を始めようとしている人にメッセージをお願いします。 荒川 とにかく、一人でやらないで、分かち合いましょう。苦労は分散して、なるべく一人で抱え込 まないように。人に話をして聞いてもらうだけでも、気持ちがすっきりします。 最近では、役所や区議会議員さんも話を聞いてくれるようになってきましたしね。そういうふうに、昔 からすればだいぶやりやすい風に変わってきていると思います。 ■荒川 ヨシオ(あらかわ よしお) 品川区・荒川動物病院の獣医師。 父が元保健所職員であり、のちに荒川動物病院を開業した影響で、自分も獣医師を志す。 2001 年に野良猫研究のホームページ「のらねこ学入門」(http://www.geocities.co.jp/AnimalPark-Tama/9073/)を開設。 2005 年にブログ「地域猫の作り方」(http://noranekogaku.blog8.fc2.com/)を開設。 獣医師という立場から、地域猫活動の情報発信を行い、その普及に大きく貢献している。 インタビューを終えて… 三者協働の当事者とは異なった、動物の専門家としてのご立場からの視点からのお話は、今までなか なか伺ったことがなかったのでとても勉強になりました。私自身、罪のない動物たちを税金をかけて殺 処分するという、誰もが望まないはずなのに存在する現状の矛盾に憤りを感じており、今回のお話を伺 って地域猫活動の“罪なき命を救う”という点での可能性を、改めて感じることができました。 荒川さん、貴重なお話をお聞かせくださいまして、本当にありがとうございました。 担当 N.S