Comments
Description
Transcript
りゅうたま
RPGレビュー りゅうたま まず、レビューに当たって、ルールブックの序文を引用します。デザイナーがこの ゲームをどのように遊んでほしくて作ったのか、その考えが凝縮されています。 <序文より引用> 「りゅうたま」の世界は、「竜」と「季節」と「旅」のファンタジー世界 です。 世界は4匹の竜から生まれました。 4匹の竜は、春、夏、秋、冬の四季を司り、世界中の自然を創造しまし た。次に表れたのは地と天を司る20匹の竜たち。20匹の竜から美しい 大地が作られ、空には気象が生まれました。季節と地と天の竜から全てが はじまり、今も世界は竜たちに見守られています。 このゲームのプレイヤーは世界を旅する「旅人」になります。 一生に一度きりの旅に出たごく普通の人、それが旅人です。旅人となっ たプレイヤーは狩人、商人、吟遊詩人など7つの職業からクラスを選びま す。彼らは剣や魔法を少し扱えるとはいえ、この世界は未開地も多く、モ ンスターも生息しており、旅をする事が少し大変な世界です。加えて、ど んな天候になるか、どんな地形を歩くかで旅の難易度も大きく変わりま す。無事に目的地にたどり着けるか? 食べ物と水は大丈夫か? 頑丈な ブーツや雨よけマントの準備は万全か?まずは旅の装備を調えてくださ い。そして、移り変わる季節の世界を巡り歩き、旅先で出会うものを、見 て、聞いてみてください。そして旅の手触りや匂いを感じてみてくださ い。 そして、旅人たちを見守る者がいます。それがゲームマスターの操る キャラクター「竜人」です。 (中略) ゲームマスターは、この世界に1万と1人の数だけ存在する竜人のひとり になります。竜人は世界の母ともいえる存在で、その目的は「旅物語」を 生み出し、季節の竜にその物語を食べさせる事です。竜人は気に入った旅 人たちを守護し、彼らを旅物語の始まりへと誘います。 (中略) そうして生まれた旅物語を季節の竜が食べる事で世界は更に豊かにな り、竜人自身も成長していきます。そして、竜人はまた新たな旅物語を紡 ぐのです。 (中略) この世界は生まれたばかりの「卵」の世界です。あなたの想像力がこの 卵を温めることで、きっと素敵な世界が生まれることでしょう。 ようこそ、あなたたちだけの「りゅうたま」の世界へ! <引用終わり> 「りゅうたま」は「生き残るゲーム」ではありません。「財宝を手に入れるゲーム」 でも、ましてや「敵を倒すゲーム」でもありません。 「旅をするゲーム」なのです。それも「心に残る旅」を。 そして、そのための最適解を追求した結果として、さまざまな(一見奇妙な)こだわ りと、大胆な(一見大胆すぎる)簡略化とが、ルールには盛り込まれています。 それらのルールの中で、特に特徴的なものをいくつか見ていきましょう。 1.「旅歩きルール」 旅歩きルールはその日のコンディションや旅路のはかどり具合などをルール化したも のです。 旅人の進む旅路はバラエティに富んでいます。様々な地形、様々な天候が旅人の行方 に待ち受けています(様々な地形を守護する竜、天候を司る竜がいます)。そんな野外 での旅の一日がスムーズに行くかどうかを判定します。 旅人のコンディションも、日によって違います。暴飲暴食の翌日もあれば、食料が確 保できずに水だけでしのがなければならない日もあります。オオカミの遠吠えで一晩中 よく眠れなかった日もあれば、露にぬれて風邪を引いてしまう日もあるでしょう。コン ディションによって、旅人のその日一日、無理が出来るか、思うように動けないかが決 まります。 その他、起伏の激しい土地で疲労は大丈夫でしょうか?霧の中、道に迷うことは無い でしょうか?暖かくて安全な寝床は探せるでしょうか? そう言ったことをチェックするのが、「旅歩きルール」なのです。 え、そんなルーチンワークみたいなことをルールにして何が楽しいのかって? 旅は確かにルーチンワークです。次の町まで一週間かかるのなら、朝起きて、たき火 を起こし、朝食を食べ、ロバに荷物を積み込み、街道を進み、野営の地を見つけ、枯れ 草を集めて寝床を作り、一晩保つだけの薪を集めて火をおこし、夕食を食べ、マントに くるまって、順番に横になる、7回それの繰り返し・・・でも、同じ毎日に見えても、 毎日何かしら違っているのです。 あなたの横を歩いている友達、今日はなんだかちょっとつらそうじゃありませんか? しとつく雨の中、薄いマントしか用意していなかった仲間が震えながら歩いています ね。 道に迷った森の奥で、マッパーをしていた仲間がしょんぼり肩を落としています。 さて、あなたは彼等に、何をしてあげますか? 変哲の無い旅路。その日々の中で、竜を育てる旅物語を、あなたはうまく紡いでいけ るでしょうか。もちろん、そのために、あなたに出来ることは沢山あります。 2.「竜人ルール」 竜人ルールはゲームマスターの介入をルール化したものです。 陰に日向に、竜人は旅人たちを支える存在です。竜人は、旅人たちもそれと気づかな い身近なところにいるかもしれません。あるいは巨大な竜の姿で現れ、直接的に旅人を 救うかもしれません。 旅人たちが良い旅を送れるように、そしてより良い物語を紡いでくれるように、竜人 たちは見守っています。 さて、世のほとんどのRPGでは、ゲームマスターはルールやシナリオに暗黙裏に介入 します。それはモンスターのダイス目をごまかしたり、ボスをあっさり倒してしまった プレイヤーたちのために急遽裏ボスを用意したり、情報を手に入れ損ねたプレイヤーの ために悪役がうっかり口を滑らせたり、と言ったことです。 これらはプレイヤーからは隠されていますが、おそらく一度もこうした「調整」をし ていないマスターはいません。それは、マスターがゲームを面白くするための努力の一 環です。 ですから、プレイヤーはこのことに幻滅する必要はありませんが、マスターが介入し すぎることにより、「何をやっても結局はこの結末しか無いのではないか」という無力 感を抱いてしまうことも無いとは言えません。 旅人たちを助けてくれる「竜人」のルールは、プレイヤーに甘いシステムであると感 じるかもしれません。しかし実は、ルール化することによって、マスターの介入は逆に 制限されることになります。と言うのは、竜人にも能力があり、出来ることには限りが あるからです。 「竜人」ルールは、それ以外の介入を防止すると言う意味では、むしろプレイヤーた ちに程よい緊張感と、自分で解決することの充実感を与えてくれることでしょう。 マスター、そしてプレイヤーは、竜人はむしろ仲間の一人だと考えてください。旅人 よりは強い力を持っている、でもやっぱり限界のある、そして自分が気に入った旅人た ちの無事を願っている、良き理解者であり守護者なのです。 そしてマスターは、旅人の仲間の一人として、旅を楽しみましょう。それはシナリオ の進行やジャッジメント、やられ役と言った様々な苦労をこなしていくマスターに与え られた、ささやかな見返りです。 **** 「旅歩きルール」も、「竜人ルール」も、いずれも普通のRPGでは任意であったり、 不文律で進行されたりする部分ですが、それがきっちりルール化され、そして重要な意 味を与えられて、むしろシステムの主要な部分に位置づけられています。 3.その他の特徴的なルール そして更に、一般にはかなりどうでもいいところに、徹底的にこだわっています。例 えば、道具屋には普通のポーチが売っているのですが、「かわいい」ポーチを2倍の値 段で買うことも出来るのです! あ、ちなみに「キモかわいい」ポーチは1.6倍。 それから、モンスター。 「りゅうたま」の世界には普通のモンスターももちろんいるのですが、そうでないモ ンスターもいます。一つだけ、特徴的なモンスターを挙げておきましょう。 「ネコゴブリン」 ゴブリンではありませんので、お間違い無きよう。想像を膨らましてもらうため詳細 の説明は避けますが(笑)、「りゅうたま」ではシリアスなシナリオからホノボノした ものまで、実に幅広いシナリオがプレイ可能です。 ただしマスターは、プレイヤーのスタイルとシナリオのベクトルがずれてしまわない ように、多少の注意と配慮が必要です。 4.大胆な省略 様々に特徴的な、このゲームならではのルールが詳細に決められている一方で、省け るところはかなり大幅に簡略化されています。キャラクタ作製ではダイスを振らない し、武器や防具も非常に大まかな区分けになっています(「剣」と「槍」どちらを選ぶ か、と言った感じ)。その分戦闘もシンプルですが、楽しめるようにいろいろ工夫され ています。 能力値は4種類。クラスは7種類(うち、主要なものは4種類)。いずれも、最近の RPGの中で、多彩であるとは言えません。 レベルアップの要素はありますが、そして能力は上昇していきますが、それがメイン の楽しみではありません。 なぜこのような大胆な省略がなされているか。もう改めて説明する間でもありませ ん。「敵を倒す」でも「財宝を手に入れる」でもない、「旅をする」ためのゲームだか ら、です。 5.最後に こうやって特徴を挙げていくと、初心者向けのRPGと思われがちかもしれません。も しくは「ごっこ遊び」と。(実際、初心者を引きつける要素は多い) このゲームは、もしかしたら人を選ぶかもしれません。こういうゲーム「は」楽しめ ないという人も、こういうゲーム「しか」楽しめない人もいるかも。 でも、こういうゲーム「も」楽しめる人は、他のRPGをプレイするときも、他の人以 上に深く楽しめている人でしょう。 その意味で、初心者だけでなく、RPGをやりなれた人にもチャレンジしてみて欲しい 作品です。