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四国地域イノベーション創出協議会 地域食品・健康分科会 編
食品中の健康機能性成分の分析法マニュアル 平 成 22年 3月 作 成 四国地域イノベーション創出協議会 地 域 食 品 ・健 康 分 科 会 編 [email protected] ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 小魚の可溶化カルシウム 作成者:徳島県立工業技術センター 主任研究員 新居 佳孝 1 .し ら す 干 し に つ い て 1.1 概要 し ら す 干 し は 、イ ワ シ 類( カ タ ク チ イ ワ シ 、マ イ ワ シ 、ウ ル メ イ ワ シ 、イ カ ナ ゴ 等 ) の 稚 魚 を 塩 水 で 煮 熱 後 、 天 日 な ど で 乾 燥 さ せ た も の で あ り 、 四 国 で は 水 分 量 を 45% 前 後 ま で 乾 燥 さ せ た 製 品 を 「 ち り め ん 」 も し く は 「 ち り め ん じ ゃ こ 」 と 称 し て い る 1)。 春から秋はカタクチイワシの稚魚、冬季はマイワシやウルメイワシの稚魚が漁獲され る。マイワシは2~3月に日本の南側の海で産卵し、その稚魚は3~5月に太平洋岸 や瀬戸内海で水揚げされる。主な産地は静岡、愛知、和歌山、兵庫、香川、愛媛、鹿 児 島 な ど で あ る 2)。 な お 、 徳 島 県 小 松 島 市 の 和 田 島 漁 港 に て 生 産 さ れ る 「 和 田 島 ち り めん」は、単一漁協としては全国一の漁獲高を誇っている。 1.2 食品あるいは含有成分の機能性 カルシウムは体内に最も大量に存在するミネラルで、体重の1〜2%(約1kg)を占めている。 そのうちの 99%は骨と歯の重要な構成成分であり、残りの1%は筋肉、神経、血液をはじめとす る軟組織に存在して生体の恒常性維持に関与している。骨は吸収と形成を常に繰り返しており、 成長期には骨形成が骨吸収を上回り、最大骨量(ピークボーンマス)に達する。その後、成人で は骨吸収と骨形成がほぼ平衡状態となるが、骨量は徐々に低下していく。閉経以降もしくは高齢 期では、骨吸収が骨形成を上回り、骨量はさらに減少する。 1 カルシウムの摂取量が不足した場合には、生体の恒常性が優先されるため、不足分は骨から供 給される。このように、骨はカルシウムの貯蔵庫の働きをしているが、永年にわたりカルシウム の摂取不足が続くと十分な骨量を維持できなくなるおそれがある。これまでの多くの研究結果か ら、カルシウム摂取量と骨密度とは有意な関連が認められており、特にカルシウム摂取量の不足 と骨粗鬆症との関連が強く指摘されている。なお、カルシウム摂取量と大腿骨頸部骨折の発症と の関連については未だ十分に明らかになっていない。 しかし、カルシウムは、これまで一度も目標量を満たしたことはない。これを満たすためには、 カルシウムに富む食品をこれまで以上に摂取しなければならないが、現状を考慮すると、食習慣 の意識的な改革とともに相当な努力が必要と思われる。このため、カルシウムを効果的に摂取す るためには、量的な確保に加えて、栄養学的な利用効率、すなわち吸収性を考慮した調理または 食方法を採り入れる必要があると考えられる。 1.2.1 カルシウムを含む食品 カ ル シ ウ ム が 多 く 含 ま れ る と さ れ る 食 品 類 は 、 小 魚 類 の ほ か 、 牛乳・乳製品、豆類お よび緑黄色野菜な ど が 挙 げ ら れ る 。 <引用・参考文献> 1. 文 部 科 学 省 科 学 技 術 ・ 学 術 審 議 会 資 源 調 査 分 科 会 :五 訂 増 補 日 本 食 品 標 準 成 分 表 ,pp.346,国 立 印 刷 局 (2005) 2.平 成 19 年 水 産 加 工 品 生 産 量 : 農 林 水 産 省 ホ ー ム ペ ー ジ (2008/ 7/10 登 録 ) http://www.maff.go.jp/www/info/bunrui/bun06.html#nen3 2.可溶化カルシウムについての説明 食品に含まれているカルシウムは、タンパク質と結合しているもの、リンや乳酸と結合して化 合物を形成しているもの、さらにはイオンとして遊離の形で存在しているものなどその存在形態 は食品ごとに異なっている。食品中のカルシウムが小腸から吸収されるためには、カルシウムが 水溶液中に溶解(可溶化)した状態で存在しなければならないことが明らかにされている。すな わち、カルシウムが生体で吸収されるためには、食品中の栄養成分が消化・吸収される過程でカ ルシウムも可溶化されていなければならないことを意味している。実際、カルシウムは、胃酸の 図2− 1 腸管におけるミネラル吸収 2 働きによりその形態にかかわらず、ほぼ 100%が可溶化されているが、肝心のカルシウムの吸収 部位である小腸では、胆汁酸塩などの流入と pH の上昇により、一旦可溶化したカルシウムの相 当量が不溶化して吸収されないと考えられている。 腸管におけるカルシウム吸収には、2つの経路があり、1つは、細胞内を通過する能動輸送で あり、もうひとつは、細胞間隙を通過する受動的な拡散である(図2− 1)。カルシウム摂取量 が低いときは能動輸送が重要となるが、カルシウム摂取量が適切か、もしくは高い時には、受動 輸送が優位となる。同様に、マグネシウム、リンなど大半のミネラルの吸収は受動輸送で行われ ており、利用効率を決定する因子として、(1)可溶性(2)腸管透過性(3)管腔通過時間が挙 げられている。すなわち、消化管において可溶性の高いカルシウムを摂取することは栄養学的に 有効な手段であると考えられる。代表的な吸収性の高い物質として、これまでにクエン酸および リンゴ酸を一定のモル比で混合した CCM、カゼインホスホペプチド(CPP)およびクエン酸塩など が知られている。 3. 定量分析の方法について 可溶化カルシウム(水溶液中に溶解した状態のカルシウム)を原子吸光光度計によ り定量する方法を述べる。 3.1 準備する器具など 1.原 子 吸 光 光 度 計 2.カ ル シ ウ ム 用 中 空 陰 極 ラ ン プ 3.ア セ チ レ ン 4.コ ン プ レ ッ サ ー ( 助 燃 ガ ス ( 空 気 ) 供 給 用 ) [試 薬 ] 1.1 % 塩 酸 (原 子 吸 光 分 析 用 も し く は 精 密 分 析 用 ) 市販品をイオン交換水で希釈する。 2.カ ル シ ウ ム 標 準 原 液 ( 市 販 品 ) 3.測 定 用 カ ル シ ウ ム 標 準 溶 液 標 準 原 液 を 適 宜 1 % 塩 酸 で 希 釈 し て 、検 量 線 2〜 25ug/ml の 濃 度 の 標 準 溶 液 を 調 製 す る。ストロンチウム溶液を測定用試料と同濃度になるように加える。 4.ス ト ロ ン チ ウ ム 溶 液 干 渉 抑 制 剤 と し て 塩 化 ス ト ロ ン チ ウ ム 六 水 和 物 15 .215g( ス ト ロ ン チ ウ ム と し て 5 % (w /v)) を 1 % 塩 酸 に 溶 解 し て 100ml に 定 容 す る 。 3.2 分析用試料の前処理・調製方法 [小 魚 か ら の カ ル シ ウ ム 可 溶 化 試 験 ] 1.し ら す 干 し を フ ー ド カ ッ タ ー ( MK-K75,松 下 電 器 産 業 ( 株 ) 製 ) に て 細 砕 す る 。 2.こ の う ち 1 g を 精 秤 し 、 こ れ に 20ml の 柑 橘 果 汁 ( ス ダ チ 果 汁 、 レ モ ン 果 汁 、 ユ ズ 果 汁 ) を 加 え 、 37℃ で 1 時 間 振 と う し た 。 対 照 と し て 超 純 水 ( Milli-Q SP,ミ リ ポ ア 社製)を柑橘果汁の代わりに用いた。 3.振 と う 後 、 試 料 を 遠 心 分 離 ( 18,000 g ,10 分 間 ,4 ℃ ) し , 得 ら れ た 上 清 中 ( 可 溶 化画分)のカルシウム量を定量した。 3 4.上 清 を 550℃ で 灰 化 し 、 1% 塩 酸 に て 抽 出 し た 後 、 原 子 吸 光 光 度 計 を 用 い て 定 量 し た。干渉除去剤としてストロンチウム溶液を添加した。 5.し ら す 干 し か ら の カ ル シ ウ ム の 可 溶 化 率 は 、試 料 中 に 含 ま れ る カ ル シ ウ ム 量 に 対 す る可溶化したカルシウム量の割合(%)で表した。 3.3 原子吸光光度計による分析方法 3.3.1 定量 1 % 塩 酸 試 料 溶 液 の 適 量 を 容 量 25ml の メ ス フ ラ ス コ に 採 取 し 、干 渉 除 去 剤 と し て ス トロンチウム溶液を添加し、1%塩酸で定容して測定用試料溶液とする。これを原子 吸 光 光 度 計 の ネ プ ラ イ ザ ー で 吸 入 噴 霧 し 、ア セ チ レ ン -空 気 フ レ ー ム に 導 入 す る 。カ ル シ ウ ム の 中 空 陰 極 ラ ン プ の 測 定 波 長 は 、422.7nm に 設 定 す る 。な お 、原 子 吸 光 光 度 計 の 操作法は、各機種により異なるため、詳細についてはそれぞれの操作説明書を参照さ れたい。 4.分析例 4.1 原子吸光光度計による分析例 定量には標準溶液を用いて作成した検量曲線から濃度を算出する。以下に典型的な 標準曲線を図4.1− 1に示す。 図4.1− 1 カルシウム標準溶液の検量曲線 5.食品の分析結果例 上記手法を用いて、小魚中の可溶化カルシウムの定量分析を行い、可溶化率を算出 し た 。 そ の 結 果 、 カ ル シ ウ ム の 可 溶 化 率 は 、 対 照 ( 超 純 水 ) で 13% と な っ た 。 こ れ に 対 し て 、 ス ダ チ 果 汁 を 加 え る こ と に よ り 89% に ま で 上 昇 し た 。 同 様 に レ モ ン 果 汁 で は 93 % 、 ユ ズ 果 汁 で は 91% の カ ル シ ウ ム が 可 溶 化 す る こ と が 分 か っ た 。 4 6.分析上の留意、注意点 測定用試料溶液には、干渉除去剤であるストロンチウム溶液を必ず添加すること。 7.その他 我々は、柑橘果汁の添加による小魚カルシウムの可溶化率の増加が、カルシウムの吸収率の上 昇に結びついていることをヒトおよびラットの両系から明らかにしている 1)2)。さ ら に こ の 作 用 は 、 ス ダ チ 果 汁 に 含 ま れ る ク エ ン 酸 が 主 に 関 与 し て い る こ と も 報 告 し て い る 3) 4) 。 <引用・参考文献> 1.Nii,Y., Fukuta,K., Sakai,K. and Yamamoto,S.: J.Nutr.Sci.Vitaminol.,50, 177 -183(2004) 2.Nii,Y., Osawa,T., Kunii,D., Fukuta ,K., Sakai,K., Kondo,M. and Yamamoto,S.: Food Sci.Technol.Res.,12,27-30(2006) 3.新 居 佳 孝 ・ 福 田 和 弘 ・ 清 蔭 亮 子 ・ 坂 井 堅 太 郎 ・ 山 本 茂 :栄 食 誌 ,50,439-443(1997) 4.新 居 佳 孝 ・ 福 田 和 弘 ・ 坂 井 堅 太 郎 ・ 小 松 龍 史 ・ 山 本 茂 :食 科 工 ,47,544-547(2000) 8.定量法に関する引用・参考文献 1.新 居 佳 孝 ・ 福 田 和 弘 ・ 清 蔭 亮 子 ・ 坂 井 堅 太 郎 ・ 山 本 茂 :栄 食 誌 ,50,439- 443(1997) -以上- トップページに戻る 5