Comments
Description
Transcript
第五十六号(September) No Worry(東條)
大阪女学院大学・大阪女学院短期大学 教員養成センター 〈英語教育リレー随想〉 第 56 号 2014 年 9 月 No Worry 東條 加寿子 8月、国際学会参加のためにオーストラリアブリスベンを訪れた。オーストラリアは2度 目の訪問である。2機内泊、3泊6日の弾丸出張であったが、小さな発見から大きな発見まで いろいろなことがあった。英語教育に携わる者にとって、やはり英語圏での生の体験は貴 重だ。 まず、ブリスベン空港から市内のホテルまで 学会の配慮で参加者は空港からホテルまでの交通手段として、Brisbane Airtrain(電車)のディスカウントチケットが使用できるようになっていた。その案内に 以下のような箇所がある。 Each return ticket represents a saving of 0.8 Kg of exhaust creating carbon emissions. This year alone, Airtrain passengers have helped us prevent 1.4 million Kg of carbon emissions being pumped into the atmosphere. Thank you for helping reduce carbon footprint. Carbon footprintとは、大気への二酸化炭素の排出量を数値化したもので、国が年間にど れだけのCO2を排出しているかを可視化し、国際比較や温室効果ガス削減政策の数値目 標に役立てる概念である。日本ではあまりなじみのない言葉であるが、オーストラリアで は、日常生活の行動一つ一つがどれだけのCO2削減につながるのか、人々の意識を高め ながら、地球温暖化に具体的に取り組んでいることがうかがえる。ちなみに、資源節約の 観点から、数日間のホテル滞在の場合は、毎日ベッドメイキングをしないことが常識とな っているようだ。 ブリスベンの街角で ブリスベンは中央に河が流れる活気がある美しい街であった。出会った人々は(運よく) 皆親切。いろいろな人に道を聞いたが、ある若者は自分の携帯のgoogle mapで検索して道 順を教えてくれ、またある初老の中国系の男性は、たどたどしい英語で、「私は説明でき ないが、娘は英語ができるから」と娘のところまでわざわざ連れて行ってくれた。街には 大阪女学院大学・大阪女学院短期大学 教員養成センター http://www.wilmina.ac.jp/ojc/edu/ttc/ 〈英語教育リレー随想〉第 50 号 1 数ブロックごとに人が集まっている場所があり、何かと思えば、そのエリアではフリーW iFiが飛んでいて、スマートフォーンがネットにつながる場所だった。また、大きな公 共の施設などにPrayer Room があるのが目に留まった。一日の決められた時間にお祈りを する宗教を尊重し、信者にお祈りの場を保障しているだろう。Prayer Room は、フライト の乗継をしたシンガポールチャンギ空港でもあちこちにあった。 ブリスベンのホテルで ホテルのフロントでは滞在中に必要ないろいろな情報を訪ねると、実に機能的に親切に 教えてくれる。帰路の空港までのシャトルを予約してもらったときのこと。”Thank you very much. It’s been a great help.”といったところ、笑顔で “No worry!”と。そう いえば、オーストラリア英語ではこういう表現があると、以前、聞いたことがあった!生 のシチュエーションでこのフレイズを聞いた時の喜びはひとしお。英語を学んでいる生徒 たちには是非、このような瞬間を、と改めて思った。 帰路、シンガポール空港で 乗り換えのため、シンガポールの空港ではかなりの時間があった。待ち時間に隣り合わ せたインド人の青年と話をした。彼は、インドの大学を卒業し、現在はアメリカの主要I T企業で働いている。2週間の休暇をとり、インドに帰る途中とのこと。話を進めると、自 然言語の音声認識を専門としていて、自動字幕や自動翻訳システムに関わっているという。 専門的な話も盛り上がったが、これこそグローバル人材。世界のどこでも通用するさわや かな好青年だった。 旅行記にもならない拙稿であることをお許しいただきたいが、今回のオーストラリア出 張は、まさにmulticulturalな旅であった。アジアからオセアニアへ。中国系、マレー系、 インド系、パキスタン系、バングラデシュ系、欧米系・・・。多くの民族文化が混在し、 ITやグローバル化が進む社会の中で、さまざまな言語を使い分けながら生活が営まれて いることを実感する絶好の機会になった。自文化や自言語を主張し、同時に他者の文化や 宗教を尊重し合う社会の仕組み。そのような国際社会の息づかいを伝えるのも、私たち教 員の仕事であろう。 (とうじょう・かずこ 大阪女学院大学・大阪女学院短期大学 教員養成センター 教授/教員養成センター) http://www.wilmina.ac.jp/ojc/edu/ttc/ 〈英語教育リレー随想〉第 50 号 2