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(1)グローバルマーケットの概観 ~変化する

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(1)グローバルマーケットの概観 ~変化する
MARKET
グローバル不動産マーケット ● ● ●
(1)グローバルマーケットの概観
~変化するグローバルマーケット市況を、
オフィスマーケットをベースに確認する~
水登 朱美
シービーアールイー株式会社
リサーチ チーフアナリスト
1. はじめに
こうした経済動向を踏まえ、世界
グローバル経済の
2. この一年の振
り返り
のオフィス市場も、至るところで不
前回まで
「 アジア不動産マーケッ
2012 年は、欧州の債務危機とそ
の多くが様子見姿勢を継続したた
ト」として連載していた当社コンサル
れによる先進国経済の不透明性の
め、この1年間には全般的に強い回
ティング部の藤本に代わり、
「 グロー
進展が大きな影響を与えた年だった
復を示すことはありませんでした。
バル不動産マーケット」として今回か
といえます。EU の財政緊縮は、欧
ら筆者の属するリサーチがバトンを
州経済停滞の主因となるとともに、
よく言われる世界経済の非デカップ
頂き、新連載を開始させていただく
ユーロ安や欧州諸国の輸入減少を
リングが進展し、世界のオフィス市
ことになりました。改めてどうぞよろ
通じて世界経済減速の要因ともなり
場の動きも以前のような分散した状
しくお願いいたします。
ました。こうした先進国での需要の
況になく、ますます似通ったものと
鈍化につれて、中国やアジア等新興
なっていく途上にあるように思われ
国経済も減速しました。 るかもしれません。確かに近年のグ
新連載の初回となる今回は、ま
ず、グローバル全体の現在のオフィ
確実性が生じた結果、テナント企業
こうしてみると、皆さんは、世間で
ス市況について経済や雇用との関係
他方、アメリカは選挙の年でもあ
ローバルオフィス市場にはそういう
を踏まえ概観し、普段から読者の皆
り、
“ 財政の崖”などの問題も抱え、
面もあるのですが、実際には、世界
様が抱いておられる世界の主要都市
前半は大きな不透明性の蔓延から
の各都市の動きは必ずしも一様では
のイメージが現在の実情ではどう変
の影響を受けて低迷しました。しか
ありません。次章ではそうした動き
わりつつあるのかを、比較感という
し、後半になって、住宅市場の調整
の差に着目してみます。
観点で当社の持つ各種インデックス
が大きく進んだことも功を奏し、欧
やランキング等のデータを踏まえ、
州と比較して回復基調が鮮明になっ
実感していただければ幸いです。
てきています。
March-April 2013
27
MARKET
図1 グローバルなエリア別オフィス賃料水準の推移
グローバル
米州
グローバルオフィス賃料インデックス
180
アジア
欧州
160
140
120
100
80
20
01
20 .Q2
01
20 .Q4
02
20 .Q
02 2
20 .Q
03 4
20 .Q
03 2
20 .Q
04 4
20 .Q
04 2
20 .Q
05 4
20 .Q
05 2
20 .Q
06 4
20 .Q
06 2
20 .Q
07 4
20 .Q2
07
20 .Q4
08
20 .Q
08 2
20 .Q
09 4
20 .Q
09 2
20 .Q
10 4
20 .Q2
10
20 .Q4
11
20 .Q2
11
20 .Q4
12
20 .Q2
12
.Q
4
60
Source: CBRE Research, Q4 2012.
グローバルオフィス
3. マーケット:トレンドと
サイクル
的な欧米市場と変化の激しいアジア
非常にボラティリティが高く、上昇局
市場、という差が鮮明であるのを理
面と下降局面が明確で、ピークやボ
解しておくことは、ポートフォリオの
トムでの変化も急激なのが特徴と
分散に当たって重要といえます。
ここでは、世界のオフィス市場に
なっています。また、2003 年のボト
ついて、近年のトレンドを CBRE が
ムはアジア独自の SAAS 問題に端
出しているいくつかの指標を追いな
を発した景気の落ち込みによる独自
がら、現状を確認してみたいと思い
のものであるのに対し、2009 年のボ
図2は、CBRE が四半期ごとに作
ます。
トムは金融危機によるもので他地域
成している世界の主要都市における
と原因としては横並びであるもの
2012 年第 4四半期時点のオフィス賃
の、落ち込みの度合いはピークまで
料サイクルです。これは、各主要都
の上昇度合いと同様に大きく、その
市の一定水準のハイグレードビルの
図1は、グローバル全体およびア
後の回復も他に追随を許さない急
賃料がどの市場サイクルに位置する
ジア、米州、欧州の各エリアの賃料
カーブを描き、金融危機後の成長を
のかを示しています。
水準に関して、2001年第 2 四半期を
アジアが牽引していることがわかり
100とする指数で表示して賃料水準
ます。
1)賃料トレンドにみるグローバル
マーケット
28
料トレンドは他のエリアと比較して
2)グローバルな主要都市の賃料サ
イクル
都市のある一時点での評価であ
る賃料や空室率などのファンダメンタ
の推移を示したものです。この推移
米州や欧州にも、成長著しい南米
ルに加え、今後の方向性として市場
をみると、世界の賃料水準のトレン
や東欧、中東など新興市場は含まれ
サイクルを見極めることは、ビジネス
ドの中で、欧州と米州はほほ同様な
ているのですが、アジアでは欧米よ
にとって重要なのはいうまでもあり
トレンドカーブを描いているのに対
りも安定した成熟市場が少なく、経
ません。
し、アジアがいかに特殊であるかが
済成長の著しい都市の割合が多い
2012 年第 4 四半期時点では、景
良くわかります。実際、アジアの賃
ために、エリアで見ると比較的安定
気に上向き感の出てきた東京や、ワ
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.12
図 2 グローバルな主要都市のオフィス賃料サイクル 2012年 Q4
賃料下落傾向の加速
賃料下落傾向の減速
賃料上昇傾向の加速
賃料上昇傾向の減速
ロンドン シティ L
ロンドン ウエストエンド L
パリ P
ニューヨーク ミッドタウン N
シドニー S
上海 S
S サンパウロ
T トロント
M メキシコシティ
H 香港
マドリット M
A オークランド
C シカゴ
F フランクフルト
L ロスアンゼルス センチュリーシティ
L
ロスアンゼルス ダウンタウン
T 東京
W ワシントンD.C.
シンガポール S
Source: CBRE Research, Q4 2012.
となっていると考えられます。
オフィス市況とそれ
4. を支える都市のトレ
ンド
CBRE では、グローバルなオフィ
ス需要は雇用と相関関係があり、雇
用拡大がオフィス需要を押し上げる
大きな要因のひとつと捕らえていま
12
11
20
10
20
09
20
08
20
07
20
06
2007年Q4からの雇用成長率
18%
16%
14%
12%
10%
8%
6%
4%
2%
0%
欧州
米州
シ
ド
メ ニー
ル
ボ
ル
ン
ニ 上
ュ 海
ー
デ
リ
ー
北
京
パ
ー
ス
ソ 広
ン 州
ガ
ポ
ー
ル
成
都
でもオフィス市場の今後を占う指標
図4 危機後に雇用が大幅に拡大している都市
フ
ラ
ン
ク
フ
ベ ルト
ル
ワ リン
ル
シ
ャ
ワ
サ
ン
メ パ
キ ウ
シ ロ
コ
シ
テ
ィ
は興味深く、サイクルはこうした意味
20
05
Source: IHS Global Insight, Q3 2012.
こうした賃料サイクルが発する市
場展望が景況感とも連動しているの
20
04
20
ります。
03
移っていくと見られるポジションにあ
20
達しており、今後は下落のフェーズに
02
どは上昇がすでに鈍化してピークに
20
化しているロンドンや、パリ、上海な
01
に対し、オリンピック以降成長が鈍
20
ションにあるのがわかります。これ
00
ら上昇に転じる好循環に向かうポジ
グローバル雇用, 対前年変動率
2.0%
1.8%
1.6%
1.4%
1.2%
1.0%
0.8% 2007年からのグローバル雇用の成長率:5.2%
0.6%
0.4%
0.2%
0.0%
20
米の都市がボトムに位置し、これか
図3 グローバル雇用のトレンド
20
シントン DC 、ロスアンゼルスなど北
アジア
Source: CBRE Research and Oxford Economics, Q3 2012.
す。日本ではこれまで終身雇用制を
March-April 2013
29
MARKET
り利用されていませんが、オフィスの
5%
床需要に直結する雇用は、世界のオ
4%
フィス市場においては需要を予測す
3%
るための信頼できる指標となってい
2%
ます。
1%
を行っていきます。2000 年から2012
年までのグローバル雇用
( 雇用者
数、以下同じ)
の成長のトレンドをみ
たものが図3です。グローバル雇用
0%
ロ
ン
ス
ド
ト
ッ
ン
ク
ホ
ル
ム
オ
ス
ブ
タ ロ
ベ
ス
ト
以下では、この雇用に着目し分析
欧州
米州
アジア
台
北
データ上の制約もあり、実務では余
危機前ピークからの成長率
6%
ソ
ウ
ル
香
港
雇用弾力性が 乏しかったことや、
図5 危機前のレベルまで既に回復を果たした都市
ニ ダ
ュ ラ
ー ス
ヨ
ー
ワ
ク
シ
ヒ ント
ュ
ー ン
ス
ト
ン
背景に雇用が非常に安定しており、
Source: CBRE Research and Oxford Economics, Q3 2012.
成長のペースは 2008 年のグローバ
用レベルが衰退する一方で、堅調な
新興市 場 が 雇 用成長を牽引して
2010 年以降、大きく回復を遂げまし
たが、2012 年には先進国経済の危
機感が高まった影響で後退していま
す。
こうしたことを踏まえ、金融危機
前のピークと比較した雇用の状態を
みることにより世界の各都市のオ
フィス市場の相対的な回復の程度を
みてみましょう。
危機前ピークからの下落率
0%
-1%
-2%
-3%
-4%
-5%
-6%
-7%
-8%
米州
欧州
東
京
ました。その後は、先進国経済の雇
図 6 危機前のピーク・レベルを超えて回復した都市
パ
リ
ロ
ス
ア
ン
ゼ
ル
シ ス
カ
ア
ト ゴ
ラ
ン
タ
マ
イ
ア
シ ミ
ア
ミ
ネ ト
フ ア ル
ィ
ラ ポリ
サ デル ス
ン
フ フィ
ラ
ン ア
シ
ス
ボ コ
ス
ト
ン
ル金融危機以降に極端に落ち込み
アジア
Source: CBRE Research and Oxford Economics, Q3 2012.
1)
世界の都市の雇用成長性による
を示しています。現在、新興国とし
図5は、グローバル金融危機の影
て脚光を浴び急成長をものにしてい
響を受けて雇用の減退を経験した
によって、世界の都市は以下の3 つ
るアジア、東欧、南米の主要都市や、
ものの、その後ようやく最近危機前
に分類されます。
資源立国として成長を遂げている
のレベルにまで回復した市場を示し
オーストラリアなどの都市がここに
ています。ロンドンやニューヨーク、
あげられていますが、米国の都市は
香港といった国際金融都市として
ひとつもありません。
トップランキングに位置する世界を
分類
金融危機後の雇用トレンドの変化
(a )
危機前のピークから大幅に拡大
している都市群
リードする金融都市が並ぶほか 、
図4は、金融危機後に雇用が危機
前のピーク・レベルを大幅に超えて、
5%以上の成長を果たしている市場
30
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.12
( b )危機前のレベルまで既に回復
を果たした都市群
( a )の都市に準ずる北欧やアジア
の新興都市も登場しています。
図 7 危機前のレベルまでまだ回復途上にある都市
スアンゼルス、シカゴを筆頭に米国
の中西部の都市が軒並み連なって
5%
0%
いるほか、アジアでは近年
「 日本を
除くアジア」という言い方で例外扱
いが定着してしまった東京や、ヨー
欧州
米州
広
州
ち込み、その後回復が遅れているロ
10%
シ
ド
ニ
ー
市を示しています。危機の影響で落
15%
バ
ン
コ
ク
レベルにまでまだ回復していない都
ヒ
ュ
ー
ス
ト
ン
図6は金融危機前のピークの雇用
20%
ヘ
デ
ル
ュ
ッ シン
セ
キ
ル
ド
ル
フ
復を果たしていない都市群
危機前ピークからの成長率
ウ
ィ
ー
ン
(c )
危機前のレベルまでいまだに回
アジア
Source: CBRE Research, Q3 2012.
ロッパではパリが、残念ながらここ
に該当しています。
ここで、前章で見られたオフィス
賃料サイクルと、上記の世界の都市
の見極めも可能となってきます。
の分類を、東京とパリを例にとって
比較分析してみましょう。二都市は
雇用を見る限りにおいては、共に金
(b )
賃料が危機前のピークのレベル
2)世界都市の賃料の回復による分
類
より低い都市群
図8に示される多くの
これに対し、
融危機以前のレベルまで回復してい
では、次に、上記の雇用回復によ
ない都市なのですが、オフィス賃料
る分類と同様に、金融危機前のピー
サイクルではボトムとトップとそのポ
クと比較して賃料の回復のレベルが
ジションが分かれ 、明らかに違う様
どの段階にあるかを比較分析するこ
ロスアンゼルス、ボストン、サンフラ
相を見せています。これは、何故な
とにより、オフィス市場を相対的に
ンシスコなど、これまで一級都市と
のでしょうか。東京は 2011年から需
評価してみましょう。
して常に世界をリードしてきた都市
要が回復し賃料は底入れしつつあっ
たものの、2012 年前半に大量供給
市場の賃料は、危機前の賃料のピー
クより低いレベルにあります。
とくに、ロンドン、ニューヨーク、
は軒並み、危機前の賃料よりも10 〜
(a )
賃料が危機前のピークのレベル
20%以上低いままにとどまっていま
があったために一時的に需給が緩
を超えて成長している都市群
す。また、先にボラティリティが高い
和し賃料も底ばいを続けました。現
図7は、危機前のピーク・レベルを
というお話をしたアジアの都市であ
在は、ようやくその影響から脱しつ
超えて回復した市場を示しています。
るシンガポール、ムンバイは 30 〜
つあり、今後賃料は回復し 、上昇
広州を筆頭に、デュッセルドルフや
40%下落した状態で、さらに低いレ
フェーズに入ることが見込まれてい
ヘルシンキ、ウイーンといった、アジ
ベルにあることがわかります。これ
ます。一方で、パリは、2012 年に進
アやヨーロッパの中でも、これまでの
図1でみられるように
らの都市では、
展した欧州景気の不透明性の影響
1級都市ではなく、後発の新興都市
危機前のピークに達する際の上昇率
を大きく受けて賃料サイクルも下落
として、今後の発展が期待される中
も同様に急激であったこともあり、
フェーズにあるために、市場の先行
堅の都市がここには示されていま
好景気時にオーバーシュートしてい
きにより不安があると考えられてい
す。
たと考えられます。
るのです。このように、こうした指標
このように、金融危機後の経済変
の組み合わせにより、より深い市場
動によって、世界の都市のオフィスは
March-April 2013
31
MARKET
図8 危機前のピークより低いままの都市
危機前ピークからの下落率
欧州
米州
アジア
0%
-10%
-20%
-30%
-40%
上
海
香
港
シ
ン
ガ
ポ
ム
ー
ン
ル
バ
イ
ニ
ュ
CB
ー
デ
D
リ
ー
-C
BD
ニ
ュ
ー
ヨ
ロ
ー
ス
ク
ア
ン
ゼ
ル
ス
ボ
ス
サ
ト
ン
ン
フ
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ン
シ
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ン
.D
C
ロン
ドン
ロ -セン
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トラ
ド
ル
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-セ -ウエ
スト
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-シ
イ
テ
ィ
パ
リ
チ
ュ
ー
リ
ア
ッ
ム
ヒ
ス
テ
ル
ダ
ム
-50%
Source: CBRE Research, Q3 2012.
それぞれに多くの影響を受けました
ケットを見る視点が重要といえるで
相対的な変化はじわじわと起こって
が、その変化は必ずしも一律ではあ
しょう。
いるのです。また、そうした変化は
りませんでした。たとえばこれまで
一級都市とされていた都市がその相
5.おわりに
対的なポジションを下げ、新たな新
一律ではないために、その中でも
ターゲットを掘り下げた分析を行う
ことによってビジネス勝機を見出せ
興都市が台頭しているように、これ
グローバルのオフィス市場は現
る先があるのです。次回以降は、今
までの世界都市の勢力地図が大き
在、企業や投資家が模様眺めの警
後の各市場の行方を、個別エリアや
なうねりの中で変わりつつある状況
戒モードで動きが少ない状態にある
都市に特化してさらに掘り下げなが
であるということがこの分析からも
中で、マクロ的にはやや弱含みで推
ら、注視していきたいと考えていま
垣間見られます。こうした変化の動
移しています。しかしながら、そうし
す。
きの差異にも常に注意を払ってマー
た中でもミクロな市場での個別かつ
みずと あけみ
東京大学工学部都市工学科卒業後、三菱信託
銀行(現・三菱 UFJ 信託銀行)入社。マサチュー
セッツ工科大学スローン経営大学院ファイナ
ンス専攻科にて MBA 取得、同大学不動産開
発工学センター不動産学専攻科にて MS 取得。
三和総合研究所(現・三菱 UFJ リサーチ&コ
ンサルティング)、新日本監査法人、社団法人
不動産証券化協会を経て、2009 年 7 月、シー
ビー・リチャードエリス総合研究所に入社、
リサーチに所属し、国内外の不動産チーフア
ナリストに就任。
JICA 専門家、国土交通省国土審議会関連 WG
委員、東京電機大学非常勤講師等歴任。
32
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.12
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