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(3)やはりロンドンに注目が集まる?

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(3)やはりロンドンに注目が集まる?
MARKET
グローバル不動産マーケット ●● ●
(3)やはりロンドンに注目が集まる?
賀藤 浩徳
シービーアールイー株式会社
リサーチ シニアディレクター
不動産鑑定士 日本証券アナリスト協会検定会員
て、欧州不動産への投資売買高は、
このため、これらの国に投資を開始
のうち投資が活発化しつつあるホッ
昨年の後半から増加を続けてきて
することで、投資家はアドバンテー
トな都市を取り上げると予告してお
います。こうした流れの中で、投資
ジを取れる可能性もあります。そう
りましたので、今回はその視点から
家のセンチメントは確実に変化して
いう意味でホットな国ではありうる
レポートいたします。
きていると言えます。銀行セクター
のですが、マーケット規模や流動
に問題を抱えマーケットが大きく後
性、プライシングの透明性やリスクな
1.どこがホットな都市
なのか?
退した国が、ユーロ崩壊危機の後
どを考慮した場合に、多くの投資家
退、銀行問題解決の進展から、逆に
が選好するかといえば、また話が
大幅な回復の兆しを見せつつありま
違ってきます。
どの地域をホットと言うことがで
す。例えば、スペインやアイルランド
き、どの都市をとりあげるべきか、
図表1は、マドリー
といった国々です。
これはどのような視点で判断するか
ドとロンドン ウエストエンドのプライ
で大きく異なってきます。マーケット
ムオフィスのイールドの差を表わして
では、投資家はどの都市に注目し
の変化を重視すべきか、投資量など
います。直近で、前者は6.25% 、後
ているのでしょうか? 前号でもご
の絶対規模を重く見るべきか、投資
者は4.0% と、そのスプレッド水準は
紹介しましたが、欧州で 2013 年2月
家の選好状況を重視すべきか、それ
1994 年以来の高い水準であり、スペ
に実施された CBRE 不動産投資家
らは投資家のリスク選好度にも大き
インとポルトガルが EU に加盟した
意 識 調 査によれ ば、欧 州の中で
く関係します。
1986 年当時の極めて高い水準に近
2013年の投資先として最も魅力的と
欧州では、投資家の懸念は、ユー
いものとなっています。今後回復が
考えられている都市は、30% 以上の
ロ崩壊懸念から通常のリセッション
現実のものとなれば、このスプレッ
得票率で他の都市を圧倒的に引き
に対する懸念にかわりました。そし
ドは縮小することが予想されます。
離しロンドンとなっています。上述
前号で、欧州の不動産マーケット
2. 投資家の注目は?
July-August 2013
49
MARKET
図表1 プライムオフィスイールド マドリード VS ロンドン
ブリンが約 7% 、マドリードやバルセ
2.0
1.0
ケットの成熟度の高さです。規模や
2013.1
2012.1
2011.1
2010.1
2009.1
2008.1
2007.1
2006.1
2005.1
2004.1
2003.1
2002.1
2001.1
2000.1
1999.1
1998.1
1997.1
1996.1
うか? 一言で言えば、不動産マー
1995.1
0.0
-1.0
1994.1
なぜロンドンが選ばれるのでしょ
3.0
1993.1
た。
4.0
1992.1
であり、都市はロンドンとなりまし
5.0
1991.1
最も投資先として魅力ある国は英国
6.0
1989.1
のアンケートでは、2013 年に世界で
マドリード
7.0
1988.1
CBRE が投資家向けに行った同種
ロンドン - ウエストエンド
8.0
1987.1
ん。また、日本において今年 4月に
スプレッド
9.0
1986.1
ロナにいたっては数 % にすぎませ
1990.1
のホットな国の都市については、ダ
Source: CBRE
流動性、取引慣行の透明性、資金
調達の容易さ、投資家に選好される
物件の豊富さなどが成熟度の尺度と
なりますが、それらが高く評価され
ているのです。また、都市そのもの
としても、世界で最も卓越した金融
センターの1つであり、GFCI
( グロー
バルフィナンシャルセンターインデッ
クス)のグローバルランキングでは
2013 年もニューヨークを抑え1位を
維持しています。ニューヨークとアジ
アをつなぐタイムゾーンに位置し、交
通インフラも利便性に富み、またス
キルの高いワーカーが豊富に存在し
図表2 知識集約型サービスの雇用数(金融サービスを除く)
インナーロンドン
アウターロンドン
M4/M40コリドー
ストックホルム
ベルリン
パリ
ミュンヘン
ワルシャワ
フランクフルト
ローマ
バルセロナ
ミラノ
マドリード
デュッセルドルフ
アムステルダム
-15
-10
-5
0
5
10
15
20
25
30
% CHANGE 2009-2012
Source: Eurostat to 2011 with extrapolations to 2012 by CBRE based on Oxford Economics data; residence-based
ます。ただ、ロンドンがそのような
長期推移
(予測を含む)
を示していま
都市であることは既に皆さんもご存
知でしょうし、成熟した都市に投資
して妙味があるのか? という疑問
が生じます。マーケット規模の大き
50
3.ロンドンのワーカーと
マーケットの成長性
す。今後 6 年間で16万3,000人の増
加が予測されており、90 年代以降の
成長率の長期トレンドを維持して増
いロンドンは、投資家がポートフォリ
図表 2 は、欧州の主要都市におけ
オの分散を図る際に無視できない
る知識集約型産業のワーカー数の
では、どのような職種が増加するの
都市であることは確かですし、その
変化率
( 2009 ~ 2012 )
を表したもの
でしょうか? 図表4 からわかる通り、
重要性は容易に理解できますが、成
です。ストックホルム、ベルリン、パ
金融セクターよりも、専門サービスの
長性に関してはどうなのでしょう
リ、ミュンヘンを引き離して、ロンド
増加が伸び率でも絶対数でも顕著
か?
ンの諸都市が 20% 前後の増加率で
に見込まれています。TMT
( テクノ
図表 3
トップを占めています。また、
ロジー、メディア、通信)
の伸びも比
は、ロンドンのオフィスワーカー数の
較的高いと言えます。伸び率の高い
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.14
加を続ける見込みとなっています。
専門サービスの中での内訳職種とし
図表3 オフィスワーカー数推移 セントラル/インナー ロンドン
1,400
163,000
専門サービスでは、過去の特定の期
1,000
間と比べ 、今後 6 年間の年平均伸び
900
。経
率が最も高くなります
( 図表 5 )
800
済の回復に伴い、最も仕事が創られ
700
るのはやはり専門サービス分野とい
600
うことになるのです。欧州の他のコ
2017
2018
1,100
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
設計・エンジニア・技術が続きます。
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
1,200
1992
1993
も増加数が大きく、次に法律・会計、
1990
1991
1,300
1984
1985
1986
1987
1988
1989
千
ては、経営コンサルタント・本社が最
ア都市と比べると、ロンドンのワー
カー数の今後の増加は突出していま
Source: CBRE
す。ミュンヘン、ベルリン、パリは、
前出の調査で、ロンドンに次いで投
図表4 業種別雇用者数変化 −セントラル/インナー ロンドン
専門サービス
金融
テクノロジー・メディア・通信
アドミ サポート
資先として魅力的な都市にランキン
行政機関
グされた有力都市ではありますが、
600
ワーカー数の伸びを見ると、ロンドン
500
千
。
とは全く比較になりません
( 図表 6 )
400
世界の金融都市と比べるとどうで
300
しょうか? 成長著しいアジアの金
融都市と比べるとさすがに見劣りす
200
ることは否めないものの、成熟都市
100
である、ニューヨーク、サンフランシ
スコに比べると、非常に高い成長を
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
0
。つ
示していると言えます
( 図表 7 )
Source: CBRE
まり、欧州の中でロンドンは、単に
成熟した不動産マーケットと規模を
図表5 専門サービス雇用者数変化
有するためのみで選好されているわ
2013-18
2009-12
けではなく、需要のドライバーとなる
1998-09
ワーカー数の増加、それも質の非常
経営コンサルタント/本社
に高いワーカーの増加が予測されて
法律/会計
おり、これが賃料と稼働の向上に大
設計・エンジニア・技術
きく寄与しマーケットの成長に貢献
広告/マーケットリサーチ
すると投資家が判断しているからな
不動産
のです。質の高いワーカーの増加
研究開発
は、すなわち賃料負担力の高い企業
-1,000
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
の成長と同義と言えるのです。
雇用者数の年平均変化
Source: CBRE
July-August 2013
51
MARKET
130
120
110
ましょう。
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
1998
ネスコンフィデンスはかなり改善して
2003
100
英国経済に関しては、企業のビジ
きていますが、設備投資については
パリ
140
2002
ケットに関し当面の動向を見ていき
ベルリン
150
2001
中で最も人気の高いオフィスマー
ミュンヘン
160
2000
後、ロンドンの各不動産セクターの
ロンドン
*
170
1999
次に、英国経済に関し一言述べた
図表6 オフィスワーカー数 欧州主要都市比較
1998 = BASE 100
ロンドンオフィス
4.
マーケットの見通し
(2013〜 2014 )
Source: CBRE, Oxford Economics. * all Inner London Boroughs; includes the self-employed
まだ慎重であると言えます。但し 、
英国の GDP 成長率予測のコンセン
サス値は 2013 年 0.9% 、2014 年1.7%
図表7 民間セクター オフィスワーカー数 国際比較
シンガポール
260
り、これに応じて、今年後半には企
240
業による投資も勢いを増すものと考
220
えられています。
こうした中で、ロンドンのオフィス
賃貸マーケットと投資マーケットは
1998 = BASE100
と経済の着実な回復が見込まれてお
上海
ロンドン*
ニューヨーク
サンフランシスコ
200
180
160
140
それぞれどのように見通せるので
120
しょうか?
100
セントラルロンドンにおける2013
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1)
賃貸マーケット
1998
80
Source: CBRE, Oxford Economics. * all Inner London Boroughs; includes the self-employed
年のオフィス賃貸借の成約面積は、
52
経済の回復、ビジネスコンフィデン
オフィスのアベイラビリティ
( 空き
いシティを選び、その賃料動向を述
スの更なる高まりなどにより、前年と
室の総面積 )は、2013 年と2014 年
べます
( 必ずしも、シティがサブマー
比べ増加することが見込まれていま
に投機的な開発物件の竣工を迎え
ケットの中で最も魅力的だから取り
す。もっとも、英国経済にはいくつ
ることから2013 年にピークを迎え、
上げているわけではありません。単
かのリスク要因が存在することか
経済回復につれて強まる需要が新規
にマーケット動向の例として記述し
ら、企業は不動産の移転等の意思
供給を上回るようになる2014 年に下
ております)
。シティの2013 年第1
決定をするにあたり現在はまだ慎重
降を始めるとみられます。
四半期のプライムオフィスビル賃料
なスタンスを継続しています。この
セントラルロンドンにおける基本
は、年額55.00ポンド/スクエアフィー
ため、経済がより力強くなっていると
的な動向は上述の通りですが、ここ
トとなりましたが、これは 2010 年第
予測される2014 年までは、成約面
からは、数あるサブマーケットの中
4 四半期から全く変化しておりませ
積の増加幅は低い水準にとどまると
から、オフィスストック量が最も大き
ん。シティのコアエリアとウエスタン
思われます。
くかつ当面の新規供給量が最も多
シティにおいては、最近需要が改善
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.14
対して、いい選択肢を提示できずに
図表8 Prime City Rent Index
います。このことは、一部投資家が、
25
FORECAST
An n u al % Ch an g e
15
収益極大化のため、より大きなリス
クを有する資産
( 開発物件や、より
短期のインカムしか確定できていな
5
い物件)
まで検討対象にせざるをえ
-5
なくなるという現象を引き起こしてい
-15
ます。
そうした中で、2013 年第1四半期
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
-25
において、シティのプライムオフィス
イールドは、25bps
( ベーシスポイン
ト、100 分の1% )低下し 4.75% とな
Source: CBRE
。これは、2011年
りました
( 図表 9 )
第 3 四半期以来のことです。プライ
図表9 City Prime Yield vs. Swap Rate
City
8
ムイールドは低下しましたが、5 年ス
5 Year Swap Rate
ワップレートとのイールドギャップは
7
まだ非常に高い水準にあり望ましい
6
状況にあることに変わりはありませ
ん。今後も、長期のインカムを確保
4
Q1 2013
Q3 2012
Q1 2012
Q3 2011
インカムしか確定できていない非プ
Q1 2011
予想されています。加えて、短期の
0
Q3 2010
1
Q1 2010
は、非常に安定し強固であることが
Q3 2009
2
Q1 2009
しているプライムオフィスビルの価格
Q3 2008
3
Q1 2008
%
5
Source: CBRE, Macrobond
ライム物件の価格も、2013 年中に改
善することが見込まれます。なぜな
らば、プライム物件の継続的な不足
により、需要が非プライム物件によ
してきており、これが賃料水準を安
の伸びを示すものと思われます
(図
り多く向いてくることが予想される
定させる要因となっていますが、今
表8 )
。
からです。
2)
投資マーケット
5.まとめ
後、フリーレント等のインセンティブ
が減少していかない限り、ヘッドライ
ンレント
( フリーレント等のインセン
ティブの調整を行わないいわゆる表
面賃料)
の上昇にはつながりません。
同様に、シティにおけるオフィスの
投資動向をみていきます。
シティの優良なオフィス物件に関
今回は、欧州の不動産マーケット
の中から注目マーケットを選びその
このため、2013 年中は、ヘッドライン
しては、海外からの強い投資需要が
マーケット動向をご紹介しました。
レントは現在と同水準で推移するも
見られるものの、他の多くの成熟
注目マーケットを選ぶ着眼点は色々
のと予測されます。経済の回復と企
マーケットと同様に、物件の不足か
ありえましょうが、今回は、CBRE グ
業のオフィス需要が大きく増加する
ら、最も高いクオリティを持つ資産
ループの複数の投資家調査におい
と思われる2014 年には、10%前後
や高水準のインカムを狙う投資家に
て今年最も魅力的な投資先として選
July-August 2013
53
MARKET
定されていたロンドンといたしまし
た。あまりにもオーソドックスすぎて、
“ またか”、
“ 常に”という感は否め
図表10 ロンドン SWOT分析
強み
ないでしょうが、経済も金融マー
ケットも不動産マーケットも非常に
ボラタイルな状況は続いており、そ
の観点からも、最終的にはロンドン
とさせていただきました。ただ、成
熟都市で安定感が大きいロンドンと
いえども、大きな成長ドライバーが
あることは見て取れたのではないか
国際的
洗練
オープン
ファッショナブル,“クール”
高い教育水準
言語
タイムゾーン
機会
TMT(テクノロジー・メディア・
通信)分野での統合をリード
来たる世界経済回復局面での投資増
急激に成長する新興市場との結びつきの強化
と思います。ご参考までに、CBRE
の英国のリサーチチームが作成した
銀行へのワーカーの集中
ロンドン以外の英国経済の弱さ
社会的結束
インフラ
規制過多
風評被害
住宅コスト
極東との競争
インフラ
社会的・民族的な緊張
テロリズム
移ろいやすい流行
脅威
Source: CBRE
ロンドンマーケットに関する SWOT
カーの規模的成長のための施策の
分析表
( 図表10 )を掲載しておきま
必要性など、課題は山積であること
す。
がますます実感できました。
東京も、金融都市を含む従来か
次回は、欧州以外から一つのエリ
らの主要グローバル都市および成長
アを選びそのマーケットを概観した
著しいアジアを中心とする新興都市
いと思います。
リーを推奨することを目的としてはおりま
せん。マーケット動向全般のご紹介という
目的の中で、種々のデータ、オピニオン、
比較データなどを記載しております。本レ
ポートは読者の責任と判断でご利用いただ
くものであり、シービーアールイーグルー
プ及び著者は 、読者または第三者が本レ
ポートに基づいて行われた検討 、判断 、意
思決定及びその結果について法律構成・訴
の両者に伍してグローバル競争に打
ち勝っていくためには、グローバル
弱み
注)
本稿は 、特定のマーケット、物件カテゴ
求原因の如何を問わず一切の責任を負わ
ないものとします。
都市としての基盤整備、良質なワー
かとう ひろのり
CBRE における日本のリサーチチームのヘッド。CBRE のグローバルなリサーチネットワークを活
用し、国内外の様々な不動産レポート、データ、情報を提供しオピニオンを発信する。
1983 年大阪大学法学部卒業後、大手生命保険会社に入社。企業向け融資・審査、不動産担保・プロジェ
クト評価、事業債・仕組債等へのクレジット投資および財務企画を担当。
2002 年 4 月 生駒シービー・リチャードエリス株式会社 ( 現シービーアールイー株式会社 ) 入社、
グローバルコーポレイトサービス部門の立ち上げに携わり軌道に乗せる。主に大企業向け CRE 戦略
の企画・立案を担当し数多くの不動産サービスを提供する。
2008 年 1 月日本におけるリサーチ部門の立ち上げを担い、現在に至る。
54
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.14
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