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科学大競争の時代 : Hotwired

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科学大競争の時代 : Hotwired
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Hotwired / Column & Interview index / 科学大競争の時代
現実 2.0
白田秀彰 の 「インターネット
の法と慣習」
ネットは中立的であり続け
られるか
土屋大洋の「ネット・ポリ
ティックス」
COLUMN / INTERVIEW
INDEX
Text:土屋大洋
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スタイリストが見た東京カルチャーと
日常風景
‘事件’から‘ビジネス’までITの行
方を確実に捉える
混乱する経済論戦シーンを明解
に読み解く
最近、どこで本買
う?
Vol.33
築(後編)
Web2.0的信頼の構
フランスの「iTMS公開法
案」、支持する?
YES:
NO:
20642
7321
通信料金の低廉化によるグローバリゼーションの進行は、科学の世界
に、静かだが大きな二つの変化を引き起こしている。一つは知の商業化
に伴うアクセスの狭まりであり、もう一つは知のセンターの分散化であ
る。
従来は、書籍の出版や論文ジャーナルの出版という形で科学的な知識
の普及は行われてきた。そして、そうした印刷物が図書館に納められて
きた。大学の図書館や市区町村の図書館である。そのうち、学術雑誌を
定期購読している自治体となると、それなりの規模に限定されるだろう
が、それでも大きな図書館ならいくつかの学術雑誌を利用者のリクエス
トに応じて購読しているだろう。それは、市井の研究者を育てたり、最
先端の科学技術情報を一般に普及させたりするという点で重要な役割を
果たしてきた。
しかし、そうした学術雑誌の電子化が進んでいる。もともと商業ベー
スではない学術雑誌は、赤字かそれに近い採算で発行されている。それ
を電子化して印刷コストを省くことができれば、採算は好転する。それ
に、これまでは図書館に納められた雑誌は、たいていはコピーされて使
われていた。教育機関などで各自が一部ずつコピーをとることは問題が
ないが、営利研究機関などでもコピーがどんどん作られているのが実態
だろう。しかし、学術コンテンツを電子化し、アーカイブ化すれば、ア
クセス課金ができるようになる。無論、PDFファイルなどで提供されれ
ば、そのファイルがどんどんコピーされるようにもなるが、それでも論
文1本あたりで生み出される収益は向上する可能性がある。
公共図書館が無料でそうしたデータベースを無料で利用させてくれれ
ば、研究機関に属していない人もその恩恵を享受することができるだろ
う。しかし、データベースは一般的には無料ではない。個々の利用者が
料金を負担していないとしても、図書館が利用料をまとめて支払ってい
るケースが多い。データベースの利用料金が、利用需要と比べて小さけ
れば、図書館はそのデータベースの利用を止めてしまうかも知れない。
そうすると、知識へのアクセスが限定されてしまうおそれがある。
特に、バイオの世界では企業が莫大なお金を投資してデータを蓄積し
ており、そうしたデータへのアクセスには高額な費用が請求されること
もある。知識への扉が閉ざされつつある。
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2006年3月31日(金)
「家族の携帯を監視するソフ
ト」に警告
バイオテロへの備えは万全? ペ
ンサイズの血液浄化器
アップル商標裁判:「iTMSは
データ転送」と米アップル
スティーブ・ジョブズ名言集
(下)
世界の処方薬売り上げトップ10
と今後期待の新薬
注射針を不要にする新技術(下)
イラン政府、ブログへの締め付
けを強化(下)
オーディオファイ
ル形式ガイド (第2回)
人間かロボット
か、それが問題だ (第4
回)
こうした変化を敏感にとらえて開始されたのがクリエイティブ・コモ
ンズのサイエンス・コモンズというプロジェクトである
(sciencecommons.org)。スタンフォード大学のローレンス・レッシ
グが始めたクリエイティブ・コモンズは、これまで主としてデジタル・
コンテンツを対象とした「Some Rights Reserved」運動を展開してき
た。つまり、著作権者が自らの著作権を制限することによって創造的な
コンテンツのコモンズ(共有地)を確保・拡大しようとしてきた。その
活動は世界各地へと広がっており、21カ国・地域がすでに活動を本格化
させ、10カ国・地域が活動を始めている。
もちろん、クリエイティブ・コモンズの対象は学術情報を排除してき
たわけではないが、主として音楽や画像、動画に焦点を合わせてきた。
そうしたコンテンツをアート・コモンズとしてくくるとともに、学術情
報をサイエンス・コモンズと位置づけることで、新しい目標を定めるこ
とになった。その先駆的な事例が、教材を無料で公開し始めたマサ
チューセッツ工科大学(MIT)のOCW(OpenCourseWare)であり、
MITのOCWはクリエイティブ・コモンズのライセンスを使っている。特
にバイオではこの活動が注目されている。
科学の進歩はその成果を広く共有することで加速される。科学者たち
は世界中で同じ問題に取り組んでおり、時としてブレークスルーはほぼ
同時に行われる。科学的な知識は、その詳細が分からなくても、「こう
いうことが発見されたらしい」「こういうことが可能になったらしい」
というだけで大きく進展することがある。しかし、その成果の内容が広
く共有されれば、その妥当性がより多くの人によって検証され、一層の
発展へとつながるだろう。
作成環境は複合機+デジカメ+年賀
状ソフト?
グローバリゼーションが科学に与えている二つめの変化は、クリエイ
ティブな人材の流動化である。
『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニストであるトーマス・フリー
ドマンは著書『The World is Flat』で「世界は丸くない。真っ平らだ」
と指摘した。米国が同時多発テロ(9.11)のショックに慌てている間
に、世界中にインターネットが普及し、通信料金が一気に下がり、グ
ローバリゼーションが進行している。米国の消費者が企業のコール・セ
ンターにかけるとインドのバンガロールにつながり、若いインド人が答
えてくれる。彼らは米国のそれぞれの地方のアクセントまで習得してお
り、米国の消費者は自分がインドに電話しているとはちっとも考えな
い。同じく、日本の消費者がかけるコール・センターの先は中国の大連
である。旧満州のなごりで日本語がわずかながら生きていた影響らし
い。グローバリゼーションの深化によって、競争条件が真っ平らになっ
たという意味で、世界はフラットなのである。
もはや世界中の若者が米国に殺到する必要もなくなってきている。米
国のビザを取得するのはどんどん困難になっているし、仮に米国に入国
できてもそれほど居心地がいいわけではないかもしれない。米国議会で
審議しているリアルID法が成立すれば、外国人は運転免許の取得も困難
になる。それよりは自国で家族や友人とともに暮らしながら、グローバ
リゼーションの果実にありつけるほうがいい。米国のIT産業の発展を支
えてきた少なからぬ人たちが外国籍の人や、市民権を取得した外国出身
者たちである。そうした人たちが今後、米国に来なくなるとすれば、科
学の中心としての米国の力に影響が出るかもしれない。
ワシントンDCにあるジョージ・メイソン大学のリチャード・フロリダ
は、米国から才能がどんどん逃げ出してきていると危機感を募らせてい
る。フロリダは経済成長に必要なのは三つの「T」だと著書『The Rise
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of the Creative Class(クリエイティブ階級の台頭)』の中で言ってい
る。タレント(才能)、テクノロジー(技術)、そしてトレランス(寛
容)である。彼の議論はしばしば誤解されているが、例えば、トレラン
スの指標の一つとして彼は、同性愛者の人口の多さを挙げている。保守
的な土地では新しいアイデアを持ったイノベーティブなよそ者を受け入
れることができず、彼らは排除されてしまう。知のリミックス(混ぜ合
わせ)が起きない。シリコンバレーに隣接するサンフランシスコなどで
はそうした人々を受け入れてきた。
米国が外国人に寛容さを失う一方で、そうした三つのTを持つ都市は他
の国々にも見られるようになってきている。カナダ、オーストラリア、
ニュージーランド、北欧諸国、オランダ、アイルランド、ニュージーラ
ンドなどに彼は注目している。もはや米国だけがクリエイティブなので
はない。
科学、そして芸術も含めたクリエイティビティをめぐる大競争が始
まっている。サイエンス・コモンズは、科学におけるデバイドを解消し
ようとするものだが、それは先進国に暮らす科学者にとってより大きな
圧力となって跳ね返ってくる可能性もある。
日本は幸か不幸か、日本語という壁を持っている。自戒を込めて言
えば、特に社会科学者は日本語市場という参入障壁の高い市場の中で暮
らしているので、グローバル競争にさらされる圧力が小さい(もちろん
自然科学者はもっと強い圧力にさらされている)。そうした壁は、外国
からのアイデアを輸入し、それを日本の文脈でリミックスし、何かを加
えていくことを可能にしている(まさにこのコラムがそうだ)。日本の
科学、技術、芸術などにおける強さはリミックスの力にある。しかし、
それも相対的な力に過ぎない。クリエイティブな才能をどれだけ生み出
せるか、そして外から惹きつけられるかが問われるようになる。それは
大学も会社も国も同じことだろう。研究的職務に従事する狭い意味での
科学者だけでなく、広い意味でのクリエイティブな人材がもっと必要
だ。
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