...

飛び交う個人情報――韓国における住民登録番号の功罪

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

飛び交う個人情報――韓国における住民登録番号の功罪
http://hotwired.goo.ne.jp/bitliteracy/tsutiya/040914/index.html
FRONT DOOR
text:土屋大洋 / HP
/ 「モードとしてのガバナンス」の一覧へ
/ Text Only Version
2004年8月はじめ、韓国では警察官を殺した容疑者が逃亡
していた。警察は威信にかけて容疑者を捕まえなくてはな
らない。警察は指名手配写真に容疑者の住民登録番号を付
けて全国に配布した。すると、その住民登録番号を使って
あるポータル・サイトに容疑者がアクセスしているという
情報が上がってきた。情報提供を受けた警察は、夕方5時か
ら特攻隊など400人余りを投入し、容疑者が潜んでいると思
われるアパートを取り囲んだ。次々に警察がアパートの部
屋を調べていくが、容疑者は捕まらない。ところが翌朝、
その電子メール・アドレスの利用者をなんとか特定してみ
ると、小学6年生の男子児童であることが分かった。アパー
トの住民を恐怖に陥れた大捕り物は完全に空振りに終わっ
た 。
韓国では住民登録番号という個人IDが国民全員に付けら
れている。これは朴正煕政権時代に、韓国内に潜む北朝鮮
のスパイをあぶりだすために制度化された。この番号はど
こでも必要とされ、携帯電話の購入やウェブ・サイトでの
ID取得のためにも必要になる。
この番号は、ほとんどの人が出生届を出したときに付与
される。子供のうちは親が把握してその番号をさまざまな
ところで使う。17歳になると役所から通知が来て、写真と
右手親指の回転指紋が掲載されたプラスチック・カードを
作ることになる。法律上は常に持ち歩く必要はなくなった
が、ほとんどの人が持ち歩いている。「免許証や会社のID
06.11.21 4:42 PM
1/3
http://hotwired.goo.ne.jp/bitliteracy/tsutiya/040914/index.html
カードにも番号が印刷されているのだから常に持ち歩く必
要もないだろう」と聞いてみると、「警官に職務質問され
たときには必要になる。無論、免許証にも番号は書いてあ
るが、住民登録カードのほうがベターだ。少し上の世代は
軍事政権時代の記憶が残っているから、警官の職務質問の
怖さを知っている」という。
冒頭の事件では、年齢制限のあるゲーム・サイトに入り
たかった子供が、指名手配写真に掲示されていた住民登録
番号を年齢認証に使ったために起きた。その子供は住所や
名前は偽のものを使っていたが、電子メール・アドレスは
自分のものを使ったために特定されることになった。
今回の事件は例外的なものではない。ここまで大事にな
らないにしても、同じようなことがたくさん起きている。
韓国の個人情報侵害申告センターが受け取った他人の住民
登録番号の毀損、侵害、盗用事件は、2004年上半期だけで
4552件に達するという。
しかし、この住民登録番号は、意外なほど肯定的に評価
されている。韓国は世界でも有数の電子政府先進国といわ
れており、その中核となっているのがこの住民登録番号な
のだ。中央政府と地方自治体は各種データベースを、住民
登録番号を基に構築しており、住民票などの各種証明書
は、住民登録番号を使えばウェブから申請し、電子文書や
ファックスで受け取ることができる。ソウルの地下鉄駅な
どには電子政府サービスのためのキヨスクが設置されてお
り、ここでも住民登録番号カードを銀行のATMのように差
し込めば各種サービスが受けられることになっている。重
要書類については指紋認証装置がついており、右手親指を
読みとり装置に押しつけると登録されている指紋情報と照
合される。
政府関係者にインタビューしてみると、一様にこのシス
テムの効率性を自慢する。スパイ撲滅という当初の導入理
由は誉められたものではないが、偶然にもそのシステムが
電子政府の確立に役立った。全国共通番号であるために、
自治体間の照会もスムーズになり、戸籍の取り寄せも日本
ほど面倒ではない。日本の住民基本台帳ネットワークもこ
うした韓国のシステムをある程度念頭に入れていたと思わ
れるが、その導入に強い反対運動が起きたことを考える
と、韓国の状況は政府にとって幸運だったといえるだろ
う 。
しかし、問題はこの番号管理がどうもずさんであり、必
06.11.21 4:42 PM
2/3
http://hotwired.goo.ne.jp/bitliteracy/tsutiya/040914/index.html
要のないところでも使われているということだ。米国でも
社会保障番号(SSN)という似たような制度があるが、こ
れを民間で使うことはできるだけ避けるようになってきて
いる。例えば、昔は銀行の口座番号や、大学の学生証にも
SSNが記載されていたが、現在では希望すれば別の番号を
入れてくれる。SSNの悪用による被害コストが大きくなっ
てきているからだ。
韓国の場合は、先にも触れたように、至るところで住民
登録番号が必要になる。ウェブ・サイトに会員登録する時
にも年齢認証を理由に住民登録番号の入力が求められる。
警察は住民登録番号をたどれば個人情報をかなりの規模で
集められる。勤務先や自宅の住所・電話番号、電話の通話
記録、インターネットの利用状況、銀行口座、納税記録、
家族状況、通院歴、犯罪歴、学業成績などだ。冒頭の事件
が示しているように、インターネットのサービス・プロバ
イダーやコンテンツ・プロバイダーは指名手配者の住民登
録番号をモニターしており、利用者情報を警察に通報して
いる。
1/2
ご意見・お問い合わせ | インフォメーション | トップページ | ビットリテラシー・トップページ
Produced by NTT Resonant Inc. under license from Wired Digital Inc.
06.11.21 4:42 PM
3/3
http://hotwired.goo.ne.jp/bitliteracy/tsutiya/040914/02.html
FRONT DOOR
はたしてここまで必要なのだろうか。一般レベルではこ
うした状況が当然とされているためにさして問題意識は強
くない。朝鮮戦争は休戦しているだけであり、言ってみれ
ば韓国はまだ戦時下だ。そうした状況ではある程度プライ
バシーを政府に譲り渡すことは仕方がないと多くの人が考
えている(現在の米国でもそうした雰囲気が高まってきて
いる)。
現在の住民登録番号は、写真とともに指紋が印刷されて
いるため、初めて見るとぎょっとさせられる。韓国政府は
数年前、これをICカードに置き換えようとした。しかし、
これに対してはさすがに韓国の市民運動家たちが激しい反
対運動を起こしたため、今のところは頓挫している。
「そもそも日本はこうした番号なしでどうやって個人認
証しているのか」と聞かれた。われわれはどうやっている
のだろうか。オンラインでサービスを受ける場合には、有
料であればクレジット・カードを使うことが多い。クレ
ジット・カード番号を打ち込むことで間接的に個人情報を
相手に渡すことになるが、それでも情報量は限られてい
る。無料のメルマガを講読するだけなら電子メール・アド
レスだけで十分だ。「講読をやめるときの本人確認はどう
するのか」と韓国の人たちは疑問に思うらしい。「電子
メールで解除コードが送られてくるからそれを使えばい
い。電子メール・アドレスのパスワードが悪用されていな
い限りはそれで十分だ」というと、「そんなのでいいの
か」という答えが返ってくる。
確かに、電子政府の構築では日本は韓国に遅れをとって
いるかもしれない。しかし、公共サービスと民間サービス
で共通の番号を使う必要はない。民間の有料サービスに
限って言えば、日本の場合はネットワークの向こうに座っ
ているのが、大げさに言えば 犬 であっても支払いがき
ちんとされれば問題ない。韓国の場合は、どこの誰なのか
が確実にならないとサービスが受けられない。
06.11.21 4:42 PM
1/2
http://hotwired.goo.ne.jp/bitliteracy/tsutiya/040914/02.html
「住民登録番号がなくても日本ではビジネスが成り立っ
ているのだから、韓国でもあらゆるところで使う必要はな
いのではないか」と問いかけると、「実はその点の研究を
始めているところだ。なぜ日本でうまくいっているのか不
思議で仕方ないと思っているところだ」という本音が政府
関係者から出てきた。
究極的に自分が自分であることを証明するのは難しい。
データベースと照合するといっても、データベースの内容
が正しいとは限らない。ICカードやスマートカードでも、
コストをかければ偽造できないわけではない。意地悪な見
方をすれば、住民登録番号制度があることによって韓国政
府は国民を管理しやすくなっているだけに過ぎない。国民
が不便を我慢できるなら、プライバシー保護のためには共
通番号も電子化もいらないだろう。
日韓の違いは二つある。第一に、100%のセキュリティを
求めるかどうかだ。日本では「セキュリティが破られる可
能性がある」というだけで議論が止まってしまう。韓国で
は100%のセキュリティはあり得ないことは承知の上で、シ
ステムの改善を目指している。第二に、不正行為があった
ときに誰を罰するかだ。日本の個人情報保護法の問題点
は、個人情報のデータベース管理を怠った人を罰して、個
人情報を盗んだ人を罰しない点だ(無論、不正アクセスや
プライバシーの侵害などさまざまな関連法を動員して罰す
ることにはなるだろう)。
しかし、韓国では「情報通信網利用促進及び情報保護な
どに関する法律」があり、情報の窃盗や盗用は5年以下の懲
役または500万ウォン(約50万円)以下の罰金になる。冒頭
の事件の小学生が大人であれば、この法律によって処罰さ
れるところだった。詳細に見ると、韓国のこの法律はオン
ラインに十分対応しておらず、罰則も軽すぎるという批判
がある。しかし、100%盗まれないシステムの構築という無
理難題に取り組むよりも、社会制度によってそうした行為
を抑制することも合わせて考えるべきだろう。
2/2
ご意見・お問い合わせ | インフォメーション | トップページ | ビットリテラシー・トップページ
Produced by NTT Resonant Inc. under license from Wired Digital Inc.
06.11.21 4:42 PM
2/2
Fly UP