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長距離伝送を可能とするGE-PONシステムの光パワーバジェット
長延化対応ONU 長延化対応OLT R&D 光パワーバジェット 長距離伝送を可能とするGE-PONシステムの 光パワーバジェット拡大技術 NTTアクセスサービスシステム研究所 まつもと たくろう し ま づ さ と し き む ら ひ ろ し やました しょういちろう やまさき じん 松本 卓郎 /嶌津 聡志 /木村 洋史 /山下 尚一朗 /山崎 仁 NTTアクセスサービスシステム研究所ではFTTHエリアのさらなる拡大に対応す るため,GE-PON光信号の光パワーバジェット拡大を実施してきました.2009年 のOLTの光パワーバジェット拡大に引き続き,今回ONUの光パワーバジェットを拡 大したことにより,トータルで37 dBと世界的にも類を見ないシステムとなりまし た.私たちはこの成果を利用することで,ルーラル地域への経済的なFTTH展開が 可能になると考えています. 途中区間での光の損失の和を「光線路 算で15 dBの損失:図1③).これと光 損失」と呼びます.PON区間(OLT∼ ファイバでの損失(2dB:図1①),お ONU間)で正常な通信を行うには,送 よび接続個所での損失(1dB:図1 システムは,1心の光ファイバを光スプ 信器の送信出力と受信器の受光感度の ②)を加えた18 dBが光線路損失の値と リッタを用いて分岐させ,複数のユーザ 差で定義される「光パワーバジェット」 なります.一方,光パワーバジェットは で 共 用 す る FTTH( Fiber To The が光線路損失の値を上回る性能でなけ 26 dBであり,光線路損失の値を上回る H o m e ) の光 アクセスシステムです. ればなりません. ため,PON区間での正常な通信が可能 GE-PONシステムの概要 PON(Passive Optical Network) となります. GE-PON( Gigabit Ethernet-PON) 下り通信を例に,図1を用いて説明 システムは,1Gbit/sの速度のPONシ します.OLTから出力された光信号は, ステムであり, 現 在 , N G N ( N e x t スプリッタにより32分岐されることで光 大きいほど,長距離伝送が可能なシステ Generation Network)サービス(フ の強度が32分の1に減衰します(dB換 ムです.GE-PONシステムに関する標準 一般的に,この光パワーバジェットが レッツ光ネクスト)等で利用されていま す.GE-PONシステムは,通信事業者 の設備センタに設置するOLT(Optical ■設備構成例 A Line Terminal: 光 加 入 者 線 端 局 装 置 ), お客 さま宅 内 に設 置 するO N U B 設備センタ ONU-B C ONU-C A B C A B C A B C OLT PC等 ぶ光ファイバのネットワークから構成さ れています. A B C PC等 (Optical Network Unit:光加入者線 終端装置),光スプリッタ,それらを結 ONU-A 光スプリッタ (32分岐) A B C 接続個所 接続個所 PC等 ■光パワーバジェットと光線路損失の計算例 光パワーバジェットと光線路 損失 光通信システムでは,途中区間の光 信号の減衰を考慮した光送受信器が必 要です.GE-PONシステムでは,①光 ファイバの損失,②接続個所での損失 強 弱 ④OLTの送信出力 6dBm ①光ファイバ損失 2dB(合計) ︵光 ①線 ③光スプリッタでの + 路 ②損 分岐損失15 dB + 失 ②接続損失 ③ 18 1dB(合計) ︶ dB 光 の 強 度 ⑤ONUの受光感度 −20 dBm 数値は一例です に加え,③光スプリッタでの分岐に伴う 光信号の大きな損失が起きるため,高性 能の光送受信器が必要となります.この 52 NTT技術ジャーナル 2011.7 光 パ ワ ︵ー ④バ │ジ ⑤ェ ︶ッ ト 26 dB 図1 光パワーバジェットと光線路損失 R 規 格 である「 I E E E 8 0 2 . 3 a h 」( 1 ) では, (b)).後述する光パワーバジェットの拡 このような背景から,PON区間が長 光パワーバジェット26 dBが規定されて 大検討においては,ここで述べた光送受 距離となるようなルーラルエリアに対し います. 信器の特徴を考慮する必要があります. てもFTTHサービスを提供可能な長延化 GE-PONの光送受信器の特徴 NTT GE-PONの光パワー バジェット GE-PONの光送受信器は,高パワー 対応GE-PONシステムの開発を行いま した. GE-PONシステムの長延化を実現す バジェットに加え,光スプリッタを介し 前述したように,GE-PONの標準規 るには,光パワーバジェットの拡大が必 複数のONUを接続することから以下の 格上の光パワーバジェットは26 dBです. 要です.光パワーバジェットを拡大させ ような特徴があります. しかし,2004年から商用導入されてい るには次の3つの方法が考えられます. (2) スプリッタとOLTの区間は,複数の るNTTのGE-PONシステム は,2002 ① OLT側光送受信器の開発 ONUからの上り光信号が合流します. 年 より商 用 導 入 されていたB - P O N ② ONU側光送受信器の開発 (3) ③ OLTとONUの両方の光送受信 ONUが光信号を出し続けると,ほかの (Broadband-PON)システム が採 用 O N U の光 信 号 と衝 突 を起 こします. したクラスB+ の光パワーバジェット「29 GE-PONでは,ONUはOLTから指定 dB」(4) を実装しています.この光パワー ①は,接続されるONUが一様に遠方 された時間だけ正確に光信号を送信し, バジェットは,設備センタからおおむね に位置すると仮定すると有効な方法で そのほかの時間は消光しています.この 7km以内のエリアに対し,PONシステ す.また,OLTの高性能な光送受信器 制御により,ONUの光信号の衝突を避 ムを用いたFTTHの光サービス提供を可 を実装することによるコスト上昇分を複 けています(図2(a)). 能とします. 数のONUで共有することができるため経 OLTの受信器は,複数のONUからの 長延化対応GE-PONの開発 上り光信号を受信します.しかし,ONU NTTでは,GE-PONシステムを用い, ごとにOLTまでの距離が異なるため,光 器の開発 済性にも優れています.そこで,OLT側 の光送受信機の開発を先に着手し,長 延化対応OLTとして2010年3月にNTT 東日本・西日本に成果提供しました. 信号の減衰量がまちまちとなり,OLTで FTTHによる光サービスを積極的に展開 受信する信号強度はばらつきます.そこ してきました.しかし,さらなるFTTH 長延化対応OLTの開発概要を図3に でOLTでは,受信した光信号を電気信 の展開やエリア拡大を行うためには,設 示します.PON-IF(インタフェース) 号に変換する際に,信号強度を瞬時に 備センタからの距離が長距離となるよう パッケージに実装されるトランシーバ内 適正な値に制御(ゲインコントロール) なエリアへも対応可能な経済的なシステ の送信器における高出力レーザダイオー し,正確な信号再生を行います(図2 ムが必要です. ドの採用(信号強度の向上),および高 効率非球面レンズの採用(光ファイバへ の結合効率の向上)によって下り送信 (a) 上り信号の衝突回避制御 ①送信タイミングの指定 (数100μs∼数ms周期) ②指定された タイミングで送信 た,受信器における増幅制御回路(受 ③信号が整列 A 出力の3dBm向上を実現しました.ま ONU 信 光 信 号 の増 幅 率 を制 御 ) の変 更 , B A TIA(TransImpedance Amplifier: OLT B 受光素子の出力電流を電圧に変換し増 光スプリッタ ONU 幅する回路)の変更により,上り受光 感度の3dBm向上を実現し,光パワー (b) OLT受信器のゲインコントロール 上りの信号強度はPON区間の 距離に反比例 A ONU 距離:近 B ONU 距離:遠 バジェットの3dB拡大を図りました. さらに, 従 来 のO L T 筐 体 に通 常 版 PON-IFパッケージと長延化版PON-IF A OLT パッケージを混在収容することが可能で B す(図4) .したがって,すでにGE-PON 異なる強度の光信号を同じ レベルの電気信号に変換 によるFTTHサービスが展開されている エリアの拡大にも,長延化版P ON-IF 強 度 A B OLT 受信器 光信号 図2 GE-PON光送受信器の特徴 B A 電気信号 パッケージを追加するだけで容易に対応 できます.長延化対応OLTを適用した 場合,GE-PONシステムの光パワーバ ジェットは32 dBとなり,設備センタか NTT技術ジャーナル 2011.7 53 & D ホ ッ ト コ ー ナ ー 長延化対応OLT (トランシーバ部) SC コネクタ 【レンズ】 高効率 非球面レンズを採用 【発光素子】 高出力レーザ ダイオードを採用 合分波フィルタ 光ファイバ 同一OLT筐体に混在収容可能 通常版PON-IF パッケージ 長延化PON-IF パッケージ LD ドライバ レンズ 長延化(Long) を 表す「L」を記載 送信データ 増幅制御 回路 TIA 受信データ OLT筐体 制御盤 図4 OLT筐体へのパッケージ 搭載イメージ 増幅制御回路・TIAの変更 図3 長延化対応OLTの開発概要 ス1」に準拠するよう,5dBmの出力向 上としました.受信器ではアバランシェ・ フォトダイオードの採用によって下り受 長延化対応ONU (トランシーバ部) SC コネクタ 【レンズ】 球面レンズから 非球面レンズへ変更 【発光素子】 高出力タイプ (DFBレーザ) を採用 合分波フィルタ 光ファイバ LD ドライバ レンズ ワーバジェットを5dB拡大しました. 長延化対応ONUの外観を図6に示し ます.長延化対応ONUは通常版ONU と同じサイズであり,また消費電力につ いても通常版ONUとほぼ同じのまま, 5dBmの出力向上を実現しました. 送信データ 増幅制御 回路 光感度の5dB m向上を実現し,光パ TIA 受信データ 【光受光素子】 アバランシェ・フォト ダイオードを採用 図5 長延化対応ONUの開発概要 また,同一PON-IF配下に長延化対 応ONUと通常版ONUを混在収容させ ることが可能です(図7).したがって, 同じルート上で,特定の地点だけが遠方 となるような形 態 においても容 易 に FTTHを展開可能となります. 今 回 開 発 した長 延 化 対 応 O N U と, ら7km以上のエリアにもFTTHサービ 長延化対応ONUを個別に展開するほう 2009年度に開発した長延化対応OLTを スを展開することが可能となりました. が経済的です.そこで今回,私たちは長 組み合わせることで,GE-PONシステム 延化対応ONUを開発し,2011年3月 は,最大37 dBの光パワーバジェットを にNTT東日本・西日本に成果提供しま 得ることができます.この光パワーバ した. ジェットは,現在商用化されているPON GE-PONシステムのさらなる 長延化 長延化対応OLTの適用によりFTTH 長延化対応ONUの開発概要を図 5 システムにおいて,世界的に見ても非常 の提供エリア拡大を図ることが可能とな に示します.ONUトランシーバ内の送 に高性能な値となっています.この組み りましたが,設備センタからさらに遠方 信器における非球面レンズの採用(従来 合わせにより,設備センタからの距離が の少数のエリアに対しては,依然として は球面レンズ),および高出力タイプの 20 kmを超えるようなエリアに対しても, 光サービスを提供することはできません. DFB(Distributed FeedBack)レー 32分岐の光スプリッタを用いたGE-PON このようなエリアに対して光サービスを ザダイオードの採用によって上り送信出 システムによる光サービスを提供するこ 提供するためには,GE-PONシステムの 力の向上を実現しますが,ONUがお客 とが可能となります. さらなる光パワーバジェット拡大が必要 さま宅内に設置される機器であること, となります.FTTHの提供エリア内にお ONUが故障した場合,送信器のレーザの いて,さらなる光パワーバジェットの拡 安全性を考慮し,IEC(International 従来は,設備センタからの距離がおお 大が必要な地点が少数であることを考慮 Electorotechnical Commission)で規 むね7km以内(標準エリア内)のエリ すると,高性能な送受信器を搭載した 定されたレーザ製品の安全性規格「クラ アに対 し, G E - P O N システムによる 54 NTT技術ジャーナル 2011.7 長延化GE-PONの利用シーン R OLTに加えて長延化対応ONUを適用す 所外 スプリッタ 通常版 ONU 設備センタ 所内 スプリッタ P O N │ OLT I F 長延化 ONU 今後の予定 GE-PONの光パワーバジェットを拡大 同一PON-IF配下での 混在収容が可能 図7 長延化対応ONUの適用 イメージ 図6 長延化対応ONU ることで,FTTHのサービス提供が可能 となります. するために,長延化対応OLT,長延化 対応ONU開発を行ってきました.この 一連のGE-PONの長延化対応開発によ り,光サービス展開エリアのさらなる拡 大を経済的に実現できるようになりまし た.今後は,本システムの円滑な事業導 入に向けた導入支援を行っていく予定 標準エリア 光線路損失:∼29 dB 提供形態:通常版OLT・通常版ONU ①提供エリアの面的拡大 光線路損失:29∼32 dB 提供形態:長延化対応OLT・通常版ONU 設備センタA 通常版 ONU OLT筐体 通 長長 常 延延 版 化化 P PP O OO N NN ︲ ︲︲ I II F FF A 通常版 ONU 通常版 ONU 通常版 ONU 通常版 ONU 長延化 ONU 長延化 ONU 通常版 ONU ONU 距離:近 ②さらなる提供エリア拡大 光線路損失:32∼37 dB 提供形態:長延化対応OLT・長延化対応ONU リア です. ■参考文献 (1) IEEE Std 802.3ah,2004. (2) 落合・立田・藤本・田中・吉原・太田・三 鬼:“Gigabit Ethernet-PON(GE-PON)シ ステムの開発,”NTT技術ジャーナル,Vol.17, No.3,pp.75-80,2005. (3) 平尾・原田・武本・小平:“ブロードバンド 光アクセス技術動向,”NTT技術ジャーナル, Vol.15,No.1,pp.24-27,2003. (4) ITU-T Rec.G984.2 Amd.2,2006. 供エ 提 Aの タ セン 設備 ア エリ 提供 の タB 設備センタB セン 設備 長延化 ONU 長延化 ONU ③隣接設備センタ収容 光線路損失:32∼37 dB 提供形態:長延化対応OLT・長延化対応ONU 図8 長延化GE-PONの利用シーン FTTHサービスを展開してきました.一 連のGE-PONシステムの長延化対応技 術を用いることで,次のような利用が期 待されます(図8). (1) 提供エリアの面的拡大 が可能です. (3) 隣接設備センタ収容 通常,ある地点にFTTHサービスを提 供する際は,最寄りの設備センタに設置 された所内設備とお客さま宅を光回線で 標準エリア外で,設備センタからの距 接続することによりサービスを提供しま 離が7kmを超えるエリアには,このエ す.しかし,ルーラルエリア等において リア一帯に対して長延化PON-IFを増設 は,最寄りの設備センタ内に所内設備 することで,経済的にFTTHサービスを が配置されていない場合もあります.そ 提供することが可能です. こで,最寄りの設備センタ内は光ファイ (2) さらなる提供エリア拡大 バを通過させ,所内設備が存在する隣 (1)よりもさらに遠方の少数の地点に対 接設備センタとお客さま宅を光回線で接 しては,長延化PON-IFの増設に加えて 続し,光サービスの提供を行うことが可 長延化対応ONUを個別に適用すること 能です.このような場合,一般的に途中 で,FTTHサービスの提供を進めること 区間が長距離化するため,長延化対応 (後列左から)山下 尚一朗/ 嶌津 聡志/ 山崎 仁 (前列左から)木村 洋史/ 松本 卓郎 今後も事業会社のニーズを踏まえながら, 高品質なGE-PONシステムの研究開発に取 り組んでいきます. ◆問い合わせ先 NTTアクセスサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト IPアクセス推進DP TEL 046-859-4841 FAX 046-859-5514 E-mail ge-pon ansl.ntt.co.jp NTT技術ジャーナル 2011.7 55 & D ホ ッ ト コ ー ナ ー