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高校3年「哲学」テキスト 10

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高校3年「哲学」テキスト 10
高校3
高校3年「哲学」
哲学」テキスト 10
テーマ 近代7
近代7「今の社会の
社会の考え方を見つめる」
つめる」
-特に、功利主義、
功利主義、実証主義、
実証主義、そして、
そして、プラグマティズム-
プラグマティズム-
平成26年9月30日(火)
ⅩⅡ
〈ポイント〉
開智未来中学校・高等学校長
関
根
均
功利主義
□私益と公益をいかに調和させたらよいのか。
1
功利主義の背景
近代とは「自由なる個人」の自覚により始まった。その個人が市民革命を経て、近代社会(市民
社会)を形成するようになる。しかし、個人の自由の尊重は「私的利害」の衝突を生む。ここに、
「私益と公益の調和」という問題が発生する。
この問題は社会につきものである。「個人の自由」と「公共の福祉」。沖縄基地問題や原発問
題等、しばしば解決しがたい問題として私たちに投げかけられている。
この「私益と公益の調和」を解決しようとしたのが「功利主義」である。
2
アダム=スミス(1723~90)
彼は、利益と公益は「神の見えざる手」によって自然調和すると楽観的に捉えた。「市場の原
理」にみられるように自然に調和的に変動する。この考え方は「自由放任主義(レッセ=フェー
ル)」という初期資本主義の考え方の基礎となった。
〈考察1〉
もちろん、資本主義が発展する中で自由放任にすると「貧富格差」という社会問題が発生する。
また、不景気などの景気変動も深刻な問題である。そこで政府の市場介入(福祉国家論)や社会主
義のように人間がその調和に関与しようとする考え方が生まれた。
最近は、コンピュータやインターネットの発達により、高速に莫大な量の計算を行えるように
なり、また瞬時に経済に介入できるようになった。人間の力はかなり神の領域に近くなった。し
かし残念なことに、人間は神のような先見性や善意を持ち合わせていない。
〈考察2〉
この「調和」という考え方は、ライプニッツの「予定調和説」にも見られるように、人類の基
本的な考え方である。ストア派の「自然法」の考え方、キリスト教の「神の摂理」、老荘思想の
「無為自然」等々、枚挙にいとまがない。それは自然というものが「エコシステム」にみられる
ように予定調和的な様相を示しているからであろう。
3
ベンサム(1748~1832)
イギリス経験論の流れを引く仮は、人間は「快楽を求め不快を避ける存在」であるとした。よ
って「快は善であり、幸福は快楽」である。そして、社会政策を考える(社会問題の解決を図る)
際は、その社会構成員の快の量を計算し、その快の量が最も多くなるように決めることが正しい
と考えた。これが「最大多数の最大幸福」である。もちろん、彼はこの考え方によってうまれる
「利己主義の絶対肯定」を懸念している。利己主義に陥らないように「4つの制裁(自然的制裁、
法律的制裁、道徳的制裁、宗教的制裁)」を提起している。
〈考察〉
このベンサムの考え方は今でも主流である。単純で分かりやすいからである。そして、一見理
論的である。最近の知者(マスコミに搭乗するようなアナリストたち)は、この程度の理屈で世の
中を論ずる。その程度の知性で、技術的に社会を論じても人間の問題は解けまい。最大多数から
もれた弱者をどのようにすくい挙げたらよいのだろう。
- 1 -
4
ミル(1816~1873)
彼は快楽にもレベルがあるとした。「内面的・精神的快楽」が質の高い快楽で「身体的・物質
的快楽」は質の低い快楽である。「満足した豚よりも不満足のソクラテスである方がよい」とい
う彼の言葉は有名である。彼は「献身」を主張する。利己主義の横暴や対立を超えるために「利
他主義」を提起したのである。
〈考察〉
仏教にも見られる「利他主義」はこれからの社会を解く「キーワード」であろうと私は考えて
いる。開智未来の「貢献」である。なぜ人間はそのエゴにより利己主義であるにもかかわらず利
他主義を理解し共感することができるのか。そこに人間を読み解く鍵があるような気がする。
〈ベンサムの言葉〉
「個人はすべてひとりとして計算されるべきであって、何人もひとり以上に計算されてはならな
い。」
〈ミルの言葉〉
「満足した豚よりは、不満足な人間であるほうがよく、満足した愚者であるよりは、不満足なソ
クラテスである方がよい。」
「幸福になる唯一の道は、幸福ではなくて、それ以外の何か別の目的を人生の目的とすることで
ある。」
ⅩⅢ
その他の哲学
〈ポイント〉
□実証主義が経験主義の系譜にあることを理解しよう。
□社会進化論が強者の論理に利用されたことを理解しよう。
□「生の哲学」が近代の「理性中心主義」に対立するものであることを理解しよう。
□プラグマティズムは今の社会の基本的な考え方であることを理解しよう。
1
実証主義
コント(仏
1798~1857)、デュルケム(仏
1858~1917)
いっさいの形而上的なものを否定し、近代自然科学の方法と成果を活用して、経験的事実
のみに基づいて、歴史や社会を認識しようとする考え方である。
〈考察〉
実証主義の考え方は現在の主流の考え方である。もちろん、抽象的な形而上学を振りかざして
も現実の問題は解けない。ただし、実証だけで人間や社会の真理に到達できるのか。人間の智慧
や洞察力、想像力や直観というものも無視してはなるまい。
なお、この実証主義は「社会学」という学問を生んでいる。
2
社会進化論
ダーウィン(英
1809~1882)、スペンサー(英
1820~1903)
人間社会とその歴史的展開の法則を進化論的な考えに基づいて捉えようとする立場。
(1) ダーウィン(英 1809~1882)
進化論で有名。人間に関する知の中で最も大きな意義を持つものの一つであろう。
自然環境に最も適した者が生き残りその資質を遺伝させる。時には、特別変異で適応した遺伝
が次世代を生み、生物は進化してきた。彼は実証主義によってこの進化論を立証した。キーワー
ドは自然淘汰、適者生存、生存競争。
(2) スペンサー(英 1820~1903)
ダーウィンの進化論を社会と人間に適用すると、社会に適応できた人間が生き残るということ
になる。社会の上層にいる者はまさに適応できた者として正当化される。社会進化論が強者の論
理に利用された所以である。キーワードは社会的淘汰。
- 2 -
3
生の哲学
ベルグソン(仏
1859~1941)
理性よりも感情や意志を、知識よりも体験を重んじ、非合理的な「生」こそ実は真の姿であ
るとする思想。
〈考察〉
理論はしばしば人間の感情や生といったものを捨象する。理屈はわかるが納得できない。そこ
で「生」というエネルギーに着目した論も出現する。それが「生の哲学」ではないかと思ってい
る。日本でも終戦後、このベルグソンの哲学が流行したらしい。
ただし、オーム真理教の例にあるように、簡単に非合理に傾くことの危険性を私たちは自覚し
ておく必要がある。
4
プラグマティズム
○
○
真に価値のあるものは、有用な・効果的なものだけであるとする考え方。
理性や知識を道具として利用し、実際の行動を通して人間の可能性を実現しようとした
考え方。
○ 観念的・抽象的な形而上学の無意味さを批判し、思想を日常生活と密接に関連させ、科
学的・実証的に裏付けようとした考え方。
(1) パース(米 1839~1914)
(2) ジェームス(米 1842~1910)
「実用主義(真理の有用性)」
○知識や思想が真理か否かは、生活に有用であるか否かによる。
(3) デューイ(米 1859~1952)
「道具主義」
○知性は真理の探究というはたらきをするだけでなく、問題解決の道具としての創造的知性で
なければならないとする考え方。
〈考察〉
このプラグマティズムはアメリカの代表的な思想である。思想の伝統のないアメリカがフロン
ティアを開拓するなかで生み出した哲学のように思える。実際、このプラグマティズムは「有用
性」や「有効性」を重視した現代日本の考え方の基底にあると思われる。観念論に閉塞すること
も問題だが、結果オーライというこの考え方で人間は果たして満足するのだろうか。また、満足
する人間でよいのだろうか。
5
分析哲学
ウィトゲンシュタイン(オーストリア
1889~1951)
哲学を主に言語の分析によって解明しようとした哲学。哲学と言われてきたこのは、単な
る言語ゲームに過ぎなく、多くの命題も無意味である。その言語によって語られた真理の無
意味さの彼方に真理を見出そうとするところに、これまでの哲学から解放された真の哲学が
ある。
〈考察〉
言葉で物事を考える以上、言葉というものの制約の中で私たちは思考する。言葉の限界を知る
ということは人間の思考の限界を知ることかもしれない。同様に、私の言葉の力を自覚するとい
うことは私の思考の限界を知ることであろう。
- 3 -
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