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2010 年 7 月 /8 月号

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2010 年 7 月 /8 月号
Japan Translation Journal No.248
Japan Translation Federation
− CONTENTS −
社団法人日本翻訳連盟機関誌
2010 年 7 月 /8 月号
新監事ご挨拶
井佐原 均 JTF 監事、AAMT 会長、IAMT 会長、豊橋技術科学大学教授
Report
巻頭言 .......................................................... 1
平成 22 年度通常総会 .................................. 2
このたび、日本翻訳連盟の監事への
が研究開発者にも伝わるということで
経営者の声................................................... 6
就任をお認め頂き、ありがとうござい
ます。私は 2006 年よりアジア太平洋機
す。翻訳過程全体の中での機械翻訳の
位置づけを考える場合、わが国におい
械翻訳協会(Asia-Pacific Association
for Machine Translation: AAMT)の
ても、このような場を設けて、皆様の
翻訳に関する知見や機械翻訳に関する
会 長 を 務 め て お り、2009 年 か ら は
AAMT の 上 部 組 織 で あ る 機 械 翻 訳 国
際連盟(International Association for
ご意見を機械翻訳システムの研究開発
にフィードバックさせることが必要と
感じております。
Machine Translation: IAMT)の会長も
務めております。これらの組織は機械
翻訳の研究開発者・製造販売者・利用
国際市場の重要性が高まり、また製
品のライフサイクルが短くなっている
現在、ビジネス文書の翻訳の高速化、
者の 3 者で構成されており、円滑なグ
ローバルコミュニケーションが図られ
高品質化、低コスト化のニーズがます
ます高まっていくことが予想されます。
るよう、機械翻訳システムの開発・改
良・啓蒙・普及を通じて機械翻訳の発
展に努めております。IAMT の下部組
従来より、JTF と AAMT は相互に会員
となり、また昨期までは JTF 参与の勝
田美保子様に AAMT 監事をお引き受け
織としては、私たちの AAMT のほかに、
ヨーロッパを対象とするヨーロッパ機
械翻訳協会(European Association for
Machine Translation: EAMT)とア
メリカ機械翻訳協会(Association for
Machine Translation in the Americas:
AMTA)という二つの地域協会があり
ます。IAMT では、アジア、ヨーロッ
パ、アメリカを隔年で回っていく機械
翻訳サミット(Machine Translation
Summit) を 開 催 し て お り、 次 回 は
2011 年に第 13 回として、AAMT の主
催で中国のアモイで開催する予定です。
機械翻訳サミットや EAMT、AMTA
が主催する地域会議での近年の特徴
的な動きとしては、研究開発者による
学術セッションだけではなく、ユーザ
セッションが設けられ、機械翻訳の利
用経験に基づく発表が行われていると
いうことが挙げられます。これは機械
翻訳システムや翻訳支援システムが実
際の翻訳現場でも用いられ、その経験
いただいておりました。今後はさらに
両組織の交流を進め、機械翻訳に関わ
る私たちといたしましても、翻訳産業
の発展強化のためのお手伝いができれ
ばと考えております。よろしくお願い
いたします。
現場の声 ...................................................... 7
翻訳者の声................................................... 8
西日本セミナー報告 .................................... 9
翻訳環境研究会報告 .................................. 10
Information
法人会員プロフィール............................... 12
個人会員プロフィール............................... 13
ニューフェイス ......................................... 14
事務局だより ............................................. 14
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社団法人日本翻訳連盟
〒 104-0031
東京都中央区京橋 3-9-2 宝国ビル 7F
TEL ■ 03-6228-6607
FAX ■ 03-6228-6604
発行人■東 郁男(会長)
編集人■野上 員生
E-mail ■ [email protected]
URL ■ http://www.jtf.jp/
1
Report
Japan Translation Journal No.248
平成 22 年度 通常総会
平成 22 年 6 月 3 日(木)
、ホテル銀座
ラフィナート・月光の間において、平成
で、
ソニー(株)などで、
技術翻訳、
マニュ
アル作成、国際標準化などに携わった長
の要請がありました。第5号議案におい
ては、理事として再任 13 名、新任 1 名、
22 年度 JTF 通常総会が開催されました。
また総会の後には、ジャーナリストの原
年の経験に基づいて、
「翻訳という仕事
で輝く」ことを目指さなければいけない
監事として新任 2 名の候補者が選任・承
認されました。また第6号議案では、会
田節雄氏(ソニー(株)嘱託)による基
調講演が行われ、さらに経済産業省・商
務情報政策局サービス産業課から中内重
とし、個人翻訳者にとっては非常に勇気
づけられる内容でした。
総会では、以下の議案について採決し、
費滞納者の退会などに関する定款変更が
承認されました。
則様(企画官)の出席を頂いて懇親会が
開催されました。
原田節雄氏は、
「ビジネスとしての翻
すべてが可決されました。特に第 3 号議
案については、会員出席者より、今後の
業界調査事業の中で、個人翻訳者向けの
1. 平成 21 年度事業報告の件
2. 平成 21 年度決算報告並びに監査報告
の件
訳∼その四十年の歴史∼」と題するもの
アンケート調査を実施してもらいたいと
3. 平成 22 年度事業計画の件
4. 平成 22 年度収支予算の件
5. 理事及び監事選任の件
6. 定款一部変更の件
7. その他
総会に続き、同ホテル・日光の間にお
いて懇親会が行われました。今年も多数
の会員の方々が参加され、楽しいひとと
きとなりました。
左から、寺田事務局次長、星田専務理事、東会長、
野上副会長、井口常務理事、丸山常務理事
2
Report
Japan Translation Journal No.248
講演:原田 節雄氏 ソニー(株)嘱託、ジャーナリスト
「ビジネスとしての翻訳−その四十年の歴史」
<私の翻訳業の変遷>
まず、23 歳のときに、ソニー子会社の
ということで、朝の通勤電車ではブツブツ
英語のトレーニングをしたり、会社では部
てきて、効率が非常に落ちてしまい、次第
に翻訳の仕事から離れるようになっていき
ソニーサービスで、アメリカから輸入した
アマチュア無線の機械の英文マニュアルを
屋に籠って英語モードになっていたりしま
した。
ました。
翻訳することになりました。しかし、それ
は日曜限定で、手書きでやるものだったた
め、時間的に大変厳しく、2 ページ終えた
44 歳のときには、国際標準化業務に就
きました。これは取説のときもそうですが、
そこに必ず英語の文書があるので翻訳の仕
<翻訳という仕事で輝く>
仕事において、時間で縛られている人は、
他律的他律人または他律的自律人です。他
ところでギブアップしてしまいました。
30 歳の頃には海外勤務で英英翻訳をし
事があるだろう、ということで動きました。
結局、自分の職歴を見ると、ずっと翻訳を
律的他律人とは、たとえばサービス業で、
単位時間給を貰っている、通訳とかコンビ
ました。日本の翻訳会社に技術文書を翻訳
してもらうと、何が書いてあるのか分から
ない英語になっていることが多く、それを
追っかけながら動いてきた、ということが
よく分かります。
ニで働いている人です。もう一つの他律的
自律人は、製造業で、翻訳業もそうです
が、たとえば部品を作る内職のように、自
英語と技術内容の両方がわかる私が書き直
して、現地の外国人がブラッシュアップす
<翻訳業初期/中期/後期>
1983 年のころは、和文は手書き、英文
分の手でやっているとあまり差は無いけれ
ども、何か工夫をすると 2、3 倍のものが
る、ということをやっていました。
次に 35 歳のとき、東京に転勤になり、
外国人技術者を教育することになりまし
はタイプでやっていたのですが、あまり捗
らない上に、部屋の中はぐちゃぐちゃ、手
はペンだこで膨れ上がって、もうこんな大
出せるという人です。このような、人から
貰った仕事を受けてやっているだけの人は
不自由な「ボケル人」です。ただ、翻訳の
た。そこで非常によい英語で書かれた翻訳
テキストに出会ったのですが、私はもっと
新しい技術のものを作ろうと思い、自分で
ビデオに関するテキストを書きました。そ
してそれを英語にしようということにな
り、外の翻訳会社に出しました。すると、
その会社から翻訳者を募集する新聞広告が
出たので、それに応募しようと思ったので
すが、仕事が忙しく断念しました。
東京に移ったこの頃、色々な手当てがな
くなり給料が下がったということもあり、
思い立ってある会社に飛び込みで行き、複
変な仕事があるのかと思いながらやってい
ました。
1984 年になると日収が五千円から二万
円に上がっていきました。これは SMC-70
という MS-DOS のパソコンを買い、ワー
ドスター、スペルスターというソフトを
使って英語を書いたためです。和文のほう
では和文ワープロ、NEC の文豪を使って
いました。
1986 年、日収 4 万円の時代に入ります。
エプソンの PC286 という使えるパソコン
が出てきたのですが、それで「一太郎」を
仕事を個人で主体的にやっているような人
は、自由な働き方の「ハマル人」になって
いきます。
自律的他律人というのは、法業、投資、
保険、出版といった虚業において、偶然結
果給で働く人です。つまり自分で賭けごと
をやっているけども胴元になっていないの
で、結局仕事に縛られているというわけで
す。胴元になっている場合は自律的自律人
で、これは「年収一千万円取る」と決めた
ら、それに向かって自分で動いていくこと
ができる人です。自分で決めた、必然結果
業翻訳を始めることにしました。ただ、そ
ういう方向に行ったのは結局、昔から翻訳
に興味があったということが大きいと思い
ます。
使うと英語から日本語、日本語から英語に
上書きができるので、逐次置換ながら、用
語を置換できるようになり、非常に効率が
上がりました。
給を自分で取れる。これが、士農工商とい
う実業になります。
翻訳業の真の姿は、自律的自律人です。
意識して翻訳を楽しみ、翻訳という仕事で
それから、取説の部署に動いてテクニカ
1987 年にはバイリンガルエディター「章
輝いて欲しい。人と同じことをしていたら
子の書斎」を使いました。これによって、
ファイルからファイルへのコピーが可能に
なり、英語と日本語が同じ土俵で扱えるよ
うになったため、飛躍的に効率が上がりま
人と同じ人間のままです。今、一歩抜け出
るために、何か人と違うことをやっていれ
ば、将来必ず輝きます。
翻訳は工夫と頭脳が要る仕事で、そこで
した。この頃 UNIX 系コマンドで一括置
換のプログラムを作ったのですが、その結
人は永遠に成長できます。ただ、その分野
は変わりますし、やり方も変わります。気
果ものすごく収入が上がって、日収平均で
大体 20 万円くらいに達しました。世の中
にこんなに面白い仕事があるのかと思いま
力と体力が必要です。年を取っても、気力
と体力は能力である程度カバーできるの
で、何とかやることができます。自己の成
したね。会社員とは違い、自分で日常生活
の細かいところから色々工夫し、全部合理
長に至福感を覚えることで人は輝きます。
会社はよく顧客満足といいますけれど、
化して仕事をすることでここまで辿り着け
るというわけです。
しかしその後、Windows の時代が来る
そこで働いている人が幸せでないのに、な
ぜ顧客が幸せになるのか。だからまず従業
員が幸せで、次に顧客が幸せになる。そし
と、MS-Word のようなお仕着せのソフト
ウェアを使わなくてはいけない仕事が増え
て自分も幸せだ、ということになれば皆が
輝いてくると思います。
ルライティングもやりました。ただ、取説
は日本語で書くとまともな英語にするのが
大変なので、英語で最初から書き起こそう
3
Report
Japan Translation Journal No.248
懇親会
東 郁男会長【(株)翻訳センター 代表取締役社長】
景気の方は、1年半くらい前から厳しい状況にあります。しかしながら、企業によっ
て若干温度差ありますけれども、昨年後半、今年に入ってから、少しずつ業種によって
は動きが見られつつあるようです。そういった世の中の動きとは、翻訳業界は若干タイ
ムラグがあるかもしれません。しかしながら、日本の企業、それから外国企業の日本へ
の参入のためには、いずれにしても翻訳の仕事は今後も欠かせないものだと思っており
ます。
またこういう不況といえる中にあっても、色々な方策を考えて、皆さん努力をされて
いると思います。そういった中で業界一致団結して、引き続き頑張っていければと思い
ます。
東 郁男会長
中内 重則氏【経済産業省 商務情報政策局サービス産業課企画官】
昨年 12 月末に、新成長戦略が策定され、その基本方針が閣議決定されたところで
ございます。当省では、6 月 1 日に日本産業の今後のあり方を示す産業構造ビジョン
2010 を産業構造審議会へ提出し、これまでの自動車に依存する一本足打法から戦略5
分野を中心とする多様な「八ヶ岳構造」へ産業構造を転換していくことが必要と提言を
したところでございます。
この成長戦略を踏まえて、当課では、今年度から 3 年間の予定で、サービス事業者の
参入を阻害しているような規制や制度などといった課題を明確にして、最終的には産業
創出に繋げていく調査研究事業を実施しています。この事業には、翻訳業をはじめとす
る多種多様なサービス事業者が単独もしくはパッケージで取り組んでいただいて、サー
ビスの供給を競い合い、創意工夫を引き出すことが必要だと考えており、このような事
業を進めることは、数多くの産業育成や雇用創出につながるものと認識しています。そ
ういった意味におきまして、貴連盟の今後の活躍というものは必要不可欠でございます。
「ほんやく検定」をはじめとする人材育成などの事業とともに、引き続きこの事業につ
いても積極的なご対応をお願い申し上げたいと思います。
中内 重則氏
石岡 映子理事【(株)アスカコーポレーション 代表取締役社長】
大阪の経済はもうずっと泥沼状態です。しかし、日本全体が元気になるためには大阪
に元気になってほしい。もう少し関西を引っ張って行きたいという意味で、今回西日本
環境セミナーの担当を引き受けさせていただきます。大阪から東京に行くばかりでなく、
東京の人が来たくなるテーマを設定したいものです。そのためには、西日本全域にある
翻訳企業、関連企業・団体、教育機関などの協力なしでは実現できません。皆様からの
お知恵とご意見を歓迎します。ご支援よろしくお願いいたします。
石岡 映子理事
古賀 勝夫監事【(株)クロスランゲージ 代表取締役】
私自身、機械翻訳ソフトを作るという方面で 30 数年くらいやり続けてきたという経
歴がございます。それで 23 年前にクロスランゲージの母体を作りまして、それ以来現
在までよく生き残ってきたな、と思っています。また、7年前くらいから、自ら機械翻
訳と人間翻訳という両方をうまく組み合わせた翻訳事業も進めております。そういうこ
とで、この業界に関してはある意味上から下から、いろいろ見て来たつもりがあります
ので、いろいろと今後お役に立てればと思っています。
古賀 勝夫監事
4
Report
Japan Translation Journal No.248
<新役員一覧>
会長
東 郁男
(株)
翻訳センター 代表取締役社長
副会長
丸山 均
(株)ジェスコーポレーション 代表取締役
専務理事 星田 和惠
常務理事 井口 耕二
(株)ランゲージドキュメンテーションサービス 代表取締役
技術・実務翻訳者
理事
阿部 淳一
(株)エイブス 代表取締役
理事
石岡 映子
(株)アスカコーポレーション 代表取締役社長
理事
植田 忠志
(株)知財翻訳研究所 取締役
営業本部長 兼 海外出願事務グループ担当
理事
川村 みどり
(株)
川村インターナショナル 代表取締役社長
理事
佐藤 晶子
実務翻訳者・通訳者
理事
田中 千鶴香
技術・実務翻訳者
理事
平本 照麿
理事
福 良雄
理事
マーク アタウェイ ライオンブリッジ ジャパン(株) 代表取締役
理事
吉野 徹夫
監事
古賀 勝夫
(株)クロスランゲージ 代表取締役
監事
井佐原 均
アジア太平洋機械翻訳協会 会長
(株)アルク 代表取締役社長
WIP ジャパン(株) 代表取締役
日本アイ・ビー・エム(株) トランスレーション・サービス・センター
部長
佐藤 晶子 理事
丸山 均 新副会長
懇親会司会:星田 和恵 専務理事
5
Report
Japan Translation Journal No.248
【経営者の声】翻訳業界のみならず、ドキュメント業界の一員として
高木 哲夫 (株)フィンテックス 代表取締役
ドキュメント業界の仕事に携わって
早 32 年。当初、ドキュメント制作と
は印刷会社の版下作成の一環として捉
りではなくサービス業界、化粧品業界、 きで始めたはずです。しかし、そのお
鉄道会社、等々、声をかけてくださる 子様方が同じように好きであるとは限
お客様の業界も多岐に渡ってきまし りません。無理をしてまで親族に継が
えており、原稿作りから版下作成まで
をお客様の指示の元で制作してきまし
た。当時はお客様である各メーカーに
は優秀で強力なディレクション組織が
確立されており、あまり知られていな
かったこのドキュメント業界を支えて
た。
ドキュメント制作の提案力は必須で
す。しかし、付加価値の提供だけでは
もう追いつきませんし、実はお客様も
それを望んではいません。お客様が求
めるものは オリジナリティ です オ
いたのです。また、制作現場にはメー
カー側担当者が深くかかわり、発注側
と受注側双方が上も下もなく、協力し
てドキュメントを完成させるという、
目的意識、チーム意識が強くあったも
リジナリティ を追求していかなけれ
私の座右の銘は「迂直の計」です。
ばわが社の明日は無い!くらいの気持
「勢いだけで敵陣に攻め込むのでは
ちを持って、日々努力を続けています。 なく、迂回しながら緩急に手ごころを
マンガマニュアルもその一翼を担って 加えつつ進軍することの方が、よほど
います。それがわが社の造語である ド 有効で、結果的には速く勝利に導くこ
せることは、結果として新たな問題を
発生させることにもなります。
私は自分がいなくなることを想定
し、才能ある人材を叱咤激励しながら
育てていけば、必ず解決方法が見えて
くると考えるようになりました。
のです。
キュメントエンジニアリング につな
しかし、十数年前のバブル崩壊とと がっているのです。
もに、お客様のディレクション組織は
わが社の仕事は、知的労働集約型ビ
すっかり姿を消してしまい、代わりに、 シネスになってきました。末端で頑
とができる」という孫子の兵法です。
物事は思慮深く進め、タイミングを
みて仕掛けることが肝要ということで
す。
我々には最後まで責任を負うための制
作体制を要求されるようになりまし
張っている社員たちが長期休暇をとり
たいとき、また何らかの事情でここを
ドキュメント業界の中で立ち止って
はいられない現状と、後継者問題と、
た。もはやそれがなければ仕事の受注
に繋がらないほどになってしまったの
去らねばならなくなったとき、その代
わりを担う人材を確保する事が非常に
色々と考える中で、私はこの「迂直の
計」を常に肝に銘じて進んでいきたい
です。
難しくなってきています。そのための
わが社も試行錯誤しながらチーム編 対策として、わが社では、今を走りな
成をし、制作体制を確立してきました。 がらも、資産のデータベース化と設備
と思います。
http://www.fintecs.co.jp/
その流れの中で、わが社は「守り」 投資、それにソフト開発にといった 【プロフィール】
である体制強化の一方、
「攻め」であ オートメーション化へと変化させよう 生年月日:1950 年 1 月 1 日
る新商品の開発とそのマーケッティン
グを心がけ、こちらからの発信を積極
と考えています。それが、社員にゆと
りある生活を送らせること、ひいては
的に行ってきました。その結果、現在 コスト削減に繋がるものと期待してい
では月 10 件以上のエンドユーザー様 ます。
からアプローチを頂いています。まだ
ドキュメント業界の本質はコミュニ
まだ小さな引き合いが多いのですが、 ケーションです。
一つ一つを丁寧に心を込めて作り上げ
人が進化を手に入れたツールである
た製品をお客様にお届けしています。
この心がけを持ち続けるならば、きっ
と恒常的な受注につながると信じてい
ます。
この新事業では、お客様のコンサル
言語という商品を扱っている我々は、
同じく進化を目指さなければ淘汰され
てしまう側になってしまいます。立ち
止まることはできません。
そのための大きな決断を、今、私は
テーションにまでかかわることも度々
あります。
( コンサルテーション と
声高に謳うと何か怪しげな雰囲気が出
てきますので、わが社では一切この言
葉は使用していませんが)、アンテナ
したばかりです。
そして頭を悩ます後継者問題です
が、翻訳業に携わる経営者の方々の後
継者問題を見聞きする限り、皆さん同
じように頭を抱えているようです。会
を全方位に広げた結果、メーカーばか
社を興した社長様方は今のお仕事を好
6
東京都出身、法政大学法学部卒業
Report
Japan Translation Journal No.248
【現場の声】企業の開示文書の翻訳に求められるもの
松本 智子 日本財務翻訳(株)取締役 COO
日本財務翻訳株式会社は、読んで字 版の場合もあり)が開示されており、 ん。役員の肩書きは組織変更で変わっ
のごとく、国内上場企業の開示(財務) 豊富な訳例や参考訳文が入手できます ているかもしれませんし、子会社も合
文書の英訳を中心業務としている会社 ので、翻訳時に活用することもできま 併などで英文名称が変更されている可
です。非常にニッチな市場に特化した す。
能性もあります。企業の公式ウェブサ
業務ですが、上場企業の英文開示に関
こうした開示文書の翻訳で気をつけ イトで最新情報を確認することもお忘
する関心は強く、需要は今後ますます なければならないポイントをいくつか れなく。組織図のページが更新されて
高まると見られています。
いなければ、組織変更のリリースを探
ご紹介したいと思います。
ただ、日本の上場企業の決算は 3 月
して見るなど、いろいろな可能性を考
に集中しているため、業務が一時期に ①財務・会計用語の正しさが品質を左
えて万全の裏付け調査を行う必要があ
集中します。その超繁忙の中で、絶対
右
に間違いがあってはならない文書を作
どの分野の翻訳でも、その文書に
成するという過酷な作業を毎年繰り返 合ったスタイルが求められる点は同じ
すという宿命を負っている業界です。 だと思います。財務関連の文書も同様
それでも、校了時にお客様から「助か で、会計用語が正しく用いられている
りました。また来年もお願いします」 かどうか、内容を理解しているかどう
という言葉をいただけると疲れも吹っ かで訳文の品質に大きな違いが出てき
飛び、スタッフ一同のやりがいにつな ます。
がっています。
例えば、"As of March 31" という表
ります。
④体裁面での完成度も重要
企業では英訳した情報をなるべく早
く開示したいと希望されているため、
確認後すぐにウェブサイトにアップさ
れても問題ないレイアウトに仕上げて
納品する必要があります。文章だけに
気を取られていると、タイトルのナン
現が業績報告では頻出しますが、こ
れは通常「3 月 31 日現在」と訳しま
バリングが飛んでいたり、ページに
よってフォントが異なっていたり、一
開示文書とは、上場企業から金融庁、 す。「3 月 31 日時点」としても意味は
証券取引所、SEC(米国証券取引委員 同じですが、財務文書では使用しませ
会)への提出が義務付けられている報 ん。また、「減価償却費」を英語では
告書や適時開示が求められているプレ "depreciation and amortization" と
スリリースなどのことです。主な文書 いい、辞書で見ると depreciation も
見してすぐにわかる間違いが残ってい
ることが往々にしてありますので、気
としては決算短信、有価証券報告書、 amortization も「減価償却費」と出て
株主総会招集通知が挙げられます。日 います。しかし、depreciation は有形
常の生活の中ではあまり触れる機会は 固定資産の減価償却、amortization は
ないかもしれませんが、大手上場企業 無形固定資産の減価償却に使う用語で
特に和訳の場合、開示文書では固い
表現や決まった言い回しが使われます
の英文ウェブサイトを見ると、さまざ
まな報告書や資料が英文で掲載されて
います。
すので、文中で具体的に何かの減価償
開示文書翻訳のポイント
然「だけど」や「だから」が出てきた
らビックリされてしまいます。これら
の場合は「ただし」や「したがって」
としていただければ、違和感のない文
章になります。
②既訳の定番用語は必ず踏襲
http://www.zaihon.co.jp
企業が継続的に発表している報告書
の場合、前回までに使用されている用
語や表現を踏襲するのが原則です。事 【プロフィール】
1959 年生まれ。外資系半導体メー
業部門や子会社の名称、3 ヵ年計画の
内容説明などは過去の文書を調べ、既 カーで社内広報、外資系商社でバイ
そもそも開示文書って?
開示文書は一見とっつきにくい難解
な文書のように思われますが、実はど
の会社も記載されている内容は共通す
るところが多く、かなりパターン化さ
れていますので、慣れてしまえばノウ
ハウの使い回しができます。また、業
績の報告には財務・会計の知識が必須
ですが、深い専門知識がなければでき
ないというものではありません(あれ
ば、もちろん強みになります)。企業
のウェブサイトには報告書の和文版
と、それを訳した英文版(英文は要約
却について述べている場合には、使い
分ける必要があります。
に翻訳されたものがあれば、整合性の
とれた訳文にする必要があります。
③公式なリソースで最新情報を確認す
ること
②の手順で、過去の文書の訳例を調
べたからといって安心してはいけませ
をつけましょう。
⑤文章の硬軟のレベルを合わせる
ので、全体の固さのレベルを統一する
必要があります。固い文章の中に、突
ヤーを経験後 IR コンサルティング会
社で翻訳に出会う。2006 年の日本財
務翻訳株式会社設立と同時に現職。
趣味は読書と卓球と翻訳。引退した
ら毎日卓球と翻訳をして暮らすのが
夢。
7
Report
Japan Translation Journal No.248
【翻訳者の声】どんな原稿でも「翻訳やせ」させない仕事が必要
高橋 さきの 特許翻訳者
はじめまして。特許翻訳が生業の高 とえば、技術系の仕事になじめなかっ
橋です。
た)弁理士も雇い支えせねば資格の価
翻訳者は、転職の方も多いのですが、 値が無化しますから、そうした人員も
私の場合は、大学院をでて、すぐ、こ 翻訳にまわるといったケースも増えて
の仕事に就きました。多くの技術に触 いるでしょう。また、事務経費も含め
れたかったのと、ことばが好きなのと るかたちで請求されてきた翻訳料に対
で、知人に拾ってもらったのです。入 する企業の値下げ圧力は、さらに強
所した特許事務所では、翻訳だけでな まっているようで、その結果、翻訳者
く、明細書から鑑定までの執筆を指導 に外注される仕事の総量は、出願数の
技術者たちが懸命に編み出した新技
術が特許を取得できるかどうかは、こ
の「情報を足す」作業が適確に行われ
してもらい、その後も嘱託のかたちで
15 年ほどお世話になり、週1回です
が、米国や欧州の特許庁への応答の対
策を弁理士さんと一緒に練って現地に
具体的な指示を出す仕事をしていまし
術の権利化は、翻訳の段階でどこまで
原文の潜在的意図を汲み取って訳出で
きるかにかかってきているように思い
ます。
「代書屋」ではなく、きっちり内容
た。在宅での翻訳の仕事は、主に、机
を並べてきた人たちや、その紹介でい
ただき、かれこれ四半世紀以上が経過
したことになります。和英ばかりでな
く、意識して英和の仕事も入れるよう
にしていますし、翻訳事務所さんにも
減少を大きく超えて減少し、単価が引
き下げられたり、単価の低いところに
仕事が流れたりしているのだと思いま
す。
さらに深刻なのが、弁理士合格者数
が極端に増加した結果、新人の教育が
追いつかず、明細書、つまり私たちが
翻訳する原稿の質が極端に落ちてきて
いるという問題です。これは、訳文の
チェックやリライトのスキルが落ちた
り、粗悪な翻訳と、丁寧にしあげられ
ているかどうかで決まります。そのた
めには、原文をきっちり読み解かなけ
ればなりませんし、原文執筆者との有
形無形の意思疎通も必須だろうと思い
ます。
原文の質が落ちてきている現在、技
に踏み込んだ仕事をしているクライア
ントであれば、かっちり訳出された明
細書と、そうでない明細書は、審査の
過程で区別がつくはずです。これから
も、筋の通った仕事をしているクライ
アントと一緒に、技術に日の目を見せ
お世話になっています。
た高品質な翻訳との峻別も困難になっ てやる仕事を続けていきたいというの
好きで続けてきた仕事ですが、現在、 たりするということを意味します。今 が私のささやかな希望です。
この仕事は曲がり角にさしかかってい は、まだベテランが対応しているので
るのかな、と思っています。
なんとかなっていますが、この部分が 【プロフィール】
先年来、聖域ともいわれてきた研究 崩落するのは時間の問題だろうと思い
東京大学農学部大学院修士課程修
開発費にメスが入り、2009 年の特許
出願件数は、ここ数年 40 万件程度で
ます。
私たちは、こうした現状を、翻訳者
了。1984 年に特許事務所で働きはじ
め、1987 年に独立。
漸減してきたのが一挙に 35 万件を割
り込みました。これが不況のせいなの
という立場から支えていかねばならな
いわけで、今まで以上に、きちんとし
た翻訳作業が必要なのだろうと思いま
材料系・バイオ系を中心に「ナノテ
クからバイテクまで」を手がける。出
か、それとも国内の製造業の衰退によ
るものなのかは不明ですが、後者も考 す。
慮するのが順当でしょう。一方、この
長年、審査の過程、つまり、英訳さ
十数年で弁理士さんの数は約 2 倍に増 れた明細書を使う現場にもたちあって
え、登録総数が 8600 人ほどなのに、 きましたが、翻訳というのは、くちあ
昨年単年度の合格者数は 813 人にのぼ たりのよい文章をこしらえる作業では
りました。
ありません。文意がストンと腑に落ち
ここから見えるのは、特許翻訳の仕 なければ困りますが、原文の理路が、
事が発生する現場の困窮と混乱です。
かっちりとしつこく訳出されていなけ
つまり、企業は、出願を特許事務所 れば使いものにならないのです。
に発注せずに内製し、特許事務所は、
翻訳を外注せずに所内で内製するとい
う具合になっているのではないかとい
うことです。依頼人が日本語を読めな
い英文和訳(外内出願)には翻訳者以
外があたり、特許明細書を書けない(た
8
翻訳の過程では、ほっておけば、
「翻
訳やせ」がおきます。つまり、原文と
比べて過不足のない訳文というのは、
実は、膨大な手間をかけて、情報を加
えながら作成された結果、できあがっ
ているのです。
願∼権利化までの各種文書を受注。
《技
術文書》
《権利文書》
《コミュニケー
ション文書》という3つの性格をもつ
明細書を、
《書いた人》と《読んだ人》
の双方の目線を往き来しながら訳すの
がモットー。科学書の翻訳(
『猿と女
とサイボーグ』
(青土社)
、
『科学者と
して生き残る方法』
(日経 BP)など)
、
科学史の分野の執筆も。
「翻訳フォー
ラム」を共同主催。
Report
Japan Translation Journal No.248
インを恐れる競合大手翻訳会社では
西日本セミナー報告
Trados 離れが進む
◆パート 2. 統計的機械翻訳(Statistical
Machine Translation。以下、"SMT")
**********************************
の近未来
平成 22 年度第 1 回 JTF 西日本セミナー
・ 大量データの高速処理が安価に行え
平成 22 年 4 月 9 日(金)14:00 ∼ 16:30
るようになり、機械翻訳の研究の主
【開催場所】大学コンソーシアム大阪・
流は、従来のルールベースから、対
キャンパスポート大阪 ルーム E
【テーマ】IT 翻訳の現状と翻訳の未来
を語る∼大阪で聴いてもやっぱり面白
い∼
【講師】河野 弘毅氏(ローカリゼーショ
ンスペシャリスト、tratool-jp(ML) 管
訳コーパスを元にした統計ベースの
SMT に移行
・ SMT では、言語モデルの主流が単語
ベース(IBM モデル)から句(フレー
ズ)ベースに移行しつつある
・ 言語構造の近さがプラスに作用し、 デルは広告収入が中心で、人間による
理人)
英語と欧州言語間では、SMT はかな
翻訳を必要とするような独自のエコシ
**********************************
りの実績を上げつつある
ステムはまだ見えてこない。
・ 良質かつ大量の対訳コーパスが存在
単価の推移の話から始まり、代表的
すればするほど、翻訳精度が上がる
統計的機械翻訳の現状は、Google
の翻訳者ツールキットやマイクロソ
翻訳支援ツール(翻訳メモリ)である
・ IT 分野には、翻訳支援ツールによる
フト社の MSDN(開発者ネットワー
Trados をとりまく業界の動向から、対
大量の翻訳メモリ=対訳コーパスが
ク)の技術資料などで見ることができ
訳コーパス(翻訳メモリ)の蓄積によ
すでに存在する
るが、たとえば、MSDN マガジンは、
2009 年 7 月号よりいったん機械翻訳
る統計的機械翻訳の近未来、そして、
機械翻訳が実用レベルに達することを
◆パート 3. 翻訳の未来を考える
が採用され、ユーザーからの要望で 10
前提とした(IT)翻訳の未来と、河野
・ 翻訳者から(テスティングなどを含
月号からは人間による翻訳に戻されて
氏の経験や知的好奇心の幅広さそのま
めた)ローカリゼーションの専門職
いる。翻訳品質の可否良否を決めるの
ま、話題は多岐にわたった。ここでは、
へ
は、最終的にはユーザーである。この
講演内容をざっくり要約してから、若
・ SMT と住み分けて共存できる翻訳者
人的翻訳は 2010 年 6 月号までの暫定
干の感想を述べたいと思う。なお、要
・ SMT を使いこなす、新しい専門職(専
処置であり、今後の動向が注目される。
機械翻訳は、適用範囲を限定すれば、
約は、記憶と配付資料を基に、可能な
門会社)を目指す
限 り 正 確 を 期 し た が、 多 分 に 主 観 が
統計的機械翻訳で新たに必要となる 「それなりの」品質に到達する可能性
入っていることをあらかじめお断りし
専門職(コーパス・トレーナー、デ
があり、それで成り立つ市場もあると
ておく。
コーディング・エンジニア)
は思う。が、いずれにしろ、従来の枠
・ 翻訳品質の本質とは何か(MT の普
◆パート 1. IT 翻訳の現状
・ IT 産業の成熟化によるソースクライ
アントおよび製品の淘汰、それに伴
及と翻訳品質)
(注:講演では、この項目の説明には
ほとんど時間が取れなかった)
と悲観的になりがちだ。個人的には、
Kindle や iPad といった電子書籍端末
の普及がもたらす出版産業の革命や、
近いうちに日本でも普及するであろう
う翻訳需要の縮小
・ 日本市場の重要性後退による、ソー
組み内だけで IT 翻訳の未来を考える
以下、感想である。全体を通じて、 Facebook などは、IT に限らず、翻訳
スクライアントでの日本語関連ロー
IT 翻訳ビジネスに関する講師の危機感
産業全体に新しいビジネスチャンスを
カライズ予算の削減
がひしひしと伝わってきた。パート 1
もたらす可能性があると考える。翻訳
の要約にあるように、IT 翻訳単価の下
者であると同時に、あるいはそれ以上
落傾向にはいくつかの要因が考えられ
に、個人事業主としての自覚が一層必
・ CMS(Contents Management System) るが、ひとことで言えば、産業自体が
要な時代に入ってきているのは間違い
・ 翻訳支援ツールや(統計的)機械翻
訳の導入によるコスト削減圧力
と TMS(Translation Management
成熟化し、積極的に投資して利益の拡
System)の不整合
大を図る対象から、最小限の投資で利
・ 翻 訳 管 理 で は、CMS と の 連 携 が
益を確保すべき保守管理対象へと変化
TMS との連携と同様に重要である
してきていることが大きい。Google の
・ SDL は Trados の開発元であると同
ように例外的な急成長を続ける企業も
時に大手翻訳会社でもあり、ロック
あるが、今のところ、そのビジネスモ
ない。
報告者:湊 康祐(個人翻訳者)
9
Report
JTF 翻訳環境研究会報告
Japan Translation Journal No.248
おそらく consumption で fix できると
の予測の元、これらの両単語 ( 個人消費
と consumption) と、日本の政府関連の
pdf 資料の中からよく使われている訳を
らもきちんと説明する。例えば、最近の
ビジネス用語に「現場力」という言葉が
あるが、これを訳す場合、現場力の意
味である、
「現場にいる人たちが協働し、
より良い結果を出そうとすること。不可
分な対人関係的能力を要する」という内
***********************************
平成 22 年度第 1 回 JTF 翻訳環境研究会
検索するために、site: の後に日本政府
のドメインである go.jp と filetype:pdf
を入力する。検索の結果、検索抄録リス
平成 22 年 5 月 13 日(木)14:00 ∼ 16:40
【開催場所】剛堂会館ビル
トの中に、personal consumption とい
う訳語が複数散見される。
【テーマ】
「金融分野日英翻訳−農林
中金総合研究所の金融論文英訳、The
Nikkei Weekly 英文記事を日英翻訳に
今度は、personal consumption を逆
検索して、英文の金融文書でも個人消費
の意味でこの言葉が使われていること
ルとして、The Nikkei Weekly という
英字新聞がある。日本の政治・経済・経
営・金融・技術情報および国際情報が
網羅され、日本特有の言葉が巧みに英
生かす」
【講師】佐藤 晶子氏(金融翻訳者、JTF
理事)
、冨永 信太郎氏(異文化経営コン
を詳細に確認して裏付けを取る。たと
えば、今回の課題文は論文のため、米
訳されている。例えば、「終身雇用」と
いう言葉は文章化された規則ではなく、
国の大学関係者が執筆する論文の pdf
ファイルで裏付けを取る場合、Google
検索で [site:edu.personal consumption
習慣的なものであり、しかも雇用者側も
この暗黙の規則を簡単に無視すること
ができない。社会的に拘束力のある暗黙
filetype:pdf] と入力して検索する。この
裏付けが取れたら訳語として採用する。
用語の取り違いから原文作成者の意
図から離れた翻訳にならぬよう、上記の
ような過程で作業を進めるとよい。翻訳
者としてのリスク管理ともいえる。リス
ク管理をしっかりと行い、原文作成者の
思想を汲みとった英文に仕上げる努力
を続け顧客からの信頼を得ることが継
続受注につながる。
の契約である。これを "implicit social
contract of lifelong employment" と訳
しており、非常に参考になる。
翻 訳 か ら 一 歩 踏 み 出 し、 国 際 業 務
に 目 を 向 け 仕 事 を 獲 得 す る に は、IT
サルタント)
***********************************
金融翻訳業界は、不景気の煽りを受け
受注減少の影響が特に大きい分野と言
われている。第一部では、金融翻訳者で
ある佐藤氏が、金融英訳の手法をわかり
やすく説明し、第二部では、契約書翻訳
を専門とし、異文化をキーワードに幅広
く活躍されている冨永氏が、翻訳を超え
る仕事とは何かについて語った。
第一部 金融分野 日英翻訳
実務翻訳はサービス業として捉えら
れ る。 金 融 分 野 の 日 英 翻 訳 を 行 う 場
合、 ま ず 原 文 全 体 を 読 み、 何 が 書 か
れているかを理解し、顧客である原文
作成者の思想や意図を把握する。次に
その文書で使われている専門用語を調
べる。例えば、今回の課題のタイトル
で あ る「 個 人 消 費 」 を 英 訳 す る 場 合、
Google 検 索 で、[site:go.jp 個 人 消 費
consumption filetype:pdf] と入力して
検索する。個人消費の「消費」の訳は
第二部 翻訳を超える仕事
例えば、e-mail の英訳は、単なる日
本語から英語への置き換えではすまな
いことが多い。メールというのはコミュ
ニケーションのツールであるため、行間
には喜びや悲しみ、怒り、感謝、失望
ツールの活用は必須である。これから
は IT ではなく、ICT(Information and
Communications Technology) を活用
する必要があるだろう。Skype、Blog、
Twitter、YouTube の 他、LinkedIn、
MySpace、Facebook などの SNM(Social
Networking Media) を活用し、自ら英語
で情報発信し、世界中のクライアントか
らアクセス可能な状況を作ることをお勧
めする。
視野を広げて世界を見ることで、単な
などの感情が含まれていることが多い。
原文からそれらを読み取り、翻訳する
ときに原文にはない一言を加えること
で、相手とのその後のコミュニケーショ
る翻訳に留まらない仕事があるという
ことに気付かされた。仕事が来ないと嘆
く前に、自分から探しに行かなければな
らないのだと活を入れられた講演会で
ンがスムーズに進行する場合も多い。こ
あった。
れは、一例ではあるが、
翻訳を超える仕事とい
える。
また、録音された電
話会議を英訳するとい
う仕事も行っている
が、これも翻訳を超え
る仕事である。一通り
会話を聞いて内容を理
解した上で、英語の構
造で文章を作るという
作業をしている。日本
語には英語に訳しにく
い言葉が多いが、それ
10
容を漏らさず伝える。
日英翻訳を行う際に活用できるツー
***********************************
平成 22 年度第 2 回 JTF 翻訳環境研究会
平成 22 年 6 月 10 日(木)14:00 ∼ 16:40
【開催場所】剛堂会館ビル
【テーマ】「元気の出る IT 翻訳 ∼負けな
い IT 翻訳者をめざして∼」
【講師】高橋 聡氏(IT 翻訳者、JTF 標
準スタイルガイド検討委員)
***********************************
翻訳業界の不況の最前線と言っても
過言ではない IT 翻訳。景気の良い話は
まったく聞かれない分野であるが、この
Report
Japan Translation Journal No.248
分野でがんばっている翻訳者は少なく
ない。第 2 回研究会は、翻訳全般に四
みで PE 無しの訳文でも良しとする分野
や、ボランティア翻訳者が活躍する分野
半世紀、IT 業界に 10 年以上携わってき
た高橋氏が、IT 翻訳業界の歴史から現
が増えてくるだろう。それでも、専門
の翻訳者が翻訳しなければならないだ
在にいたるまでの経緯、さらに現在の状
況を分析し、この分野で生き残っていく
ためにはどうすればよいかを語った。
ろうホワイトペーパーやテクニカルド
キュメント、web ページなどの分野は
残るだろうと思われる。
IT 翻訳の過去と現状
IT 翻訳業界は、IT バブル期の 1999
負けない IT 翻訳者になるには
IT 翻訳者が生き残るための方法はい
年∼ 2001 年がもっとも良かった時期で、
その後バブルがはじけても急激に悪く
くつもある。まず、質的、量的な付加価
値を付けること。一日の翻訳量が 2,500
なることはなく、2005 年頃まではある
一定水準を保っていた。その後、ツール
の普及もあって単価は現状維持かやや
ワード以上あれば、翻訳会社からも重宝
される。翻訳量の向上は、売り上げアッ
プのためだけでなく、その努力の過程
下降という傾向だったが、2008 年の世
界不況で一気に窮地に陥った。
で他の力もつくので実践をお勧めする。
MT に取って代わられそうな分野には見
現在は、大量かつ短納期案件の発生、
アジア各国ベンダーの攻勢、価格大崩
壊、コミュニティなどでのボランティ
ア翻訳者の台頭、機械翻訳の導入など、
IT 翻訳は価格も仕事量も翻訳の質も下
降の一途をたどっている。
ただ、翻訳の質の低下に関しては、非
日本語ネイティブが訳した翻訳物では
日本人読者が満足できないという事例
が多数発生し、日本人翻訳者に仕事が
戻ってくるケースもいくらかあるよう
だ。しかし、根本的な不況要因は払拭さ
れていない。このような中で IT 翻訳者
はどのようにして生き延びていったら
いいのだろうか?
切りをつけ、新しい翻訳分野を拡大す
る。その逆に、MT の PE 作業に徹する
専門エディターになる。さらに、IT 以
外の分野に進出し、活路を見いだすのも
生き残るための一つの方法である。IT
翻訳の内容は常に新しいので、新しい技
術についていけるようにしておくこと。
ツールを駆使することで生産性が向上
することが多い分野なので、新しいツー
ルも積極的に導入していく姿勢も大切
である。
また、翻訳者として生き残るために
は人とのつながりが非常に大切である。
翻訳会社とのつながり、翻訳者同士のつ
ながり、IT 分野の専門家とのつながり
IT 翻訳の将来
繰り返しや定型的な表現が多い IT 分
野の翻訳の一定部分は、最終的に機械
など、日頃から様々な人と積極的につな
がるようにすることで、自分の知識が増
えていったり、思いもよらなかったとこ
ろから仕事を受けたりすることもある。
翻訳 (MT) と、機械翻訳された訳文を編
Blog や Twitter などで積極的に自分を
集して読みやすくする後工程 (PE) 作業
に移行するだろう。それ以外は、MT の
発信すると他人からのフィードバック
も多くなりつながりが増える。
IT 翻訳の魅力
新しい概念、新しい用語を、それらが
世の中に普及する前に知ることができ
るのは大きな魅力である。またパソコン
や電子ツールが好きな人ならば、それら
を駆使して効率を上げることができる
分野であり、ツールの工夫や改善を常に
行いながら翻訳を行えるので楽しい。さ
らに、パソコンやツールを実際に使って
いれば、その知識や経験が翻訳に生きて
くるので、ツールと翻訳対象が近い「恵
まれた」分野といえるだろう。
「負けない IT 翻訳者」というタイト
ル通り、この分野で試行錯誤を続けなが
ら奮闘している高橋氏の様々な思いや
IT 翻訳の魅力を知ることができ、非常
に元気づけられた研究会であった。
報告:早舩 由紀見(個人翻訳者)
11
Information
Japan Translation Journal No.248
法人会員プロフィール
株式会社 RWS グループ
〒 105-0013
東京都港区浜松町 1-18-16
住友浜松町ビル 3F
TEL: 03-5403-9191
FAX: 03-5403-9192
Email: [email protected]
URL: http://www.rws.com/JP/
世界で活躍する翻訳会社たち *
翻訳など多言語ビジネスに関わる企
業で、年商 30 億円を超える企業は約 20
社。ほとんどが 10 拠点以上の活動の場
をもつグローバル企業です。言語サービ
ス産業の確実な拡大がみられる中、世界
11 位(年商約 77 億円)という座にある
RWS Group は、自社の歴史が極めた知
的財産という分野をさらに追求します。
知的財産における各国情報を自社各拠点
から収集し日々の業務に生かすことも可
能です。エンドユーザである顧客へその
情報発信を努めサービス向上を目指して
います。特許出願に係る翻訳においては、
グループ拠点を駆使したサービスを顧客
へ提供すると同時に、あらゆる需要に地
道に応える努力を関係協力者と共に行っ
ています。
エキスパートであり続けるこだわり
翻訳の品質とは、どれほど客観性のあ
るものでしょう。客観的に量れるのは「品
質」といわれるもの全体の何%ほどで
しょうか。依頼元・依頼先という立場で
対等に品質を客観できるのでしょうか。
12
特許出願用翻訳におけるノウハウの蓄積
とは。知的財産の翻訳を続ける中で、常
にエキスパートとしてのノウハウ蓄積に
はこだわりを持ち続けて参りました。技
術者としての協力翻訳者の見解、出願明
細書としての品質を追及する代理人の議
論、依頼元である出願人との情報共有。
また、特許情報が極めて身近になった昨
今、関係各者が持ち得る情報量も過去の
それとは比較になりません。翻訳会社と
いう立場でそれぞれのコミュニケーショ
ンを咀嚼し、必要情報を確実に蓄積して
いくこと。あいだに翻訳会社が入ること
のメリットを各関係者が実感できるよう
な関係作りを目標に、エキスパートであ
り続ける努力を惜しみません。
翻訳実取引における継続性
翻訳支援ツールと称される各電子ツー
ルの力を借りて翻訳をすること。RWS
でも翻訳メモリを使う概念を肯定してい
ます。しかしその前提としては、やはり
継続して類似/同一分野の翻訳に関わる
ことが挙げられるでしょう。RWSでは、
出願用特許明細書を扱うことから、特に
類似した翻訳分野を継続して取り扱うこ
とが日常です。翻訳支援ツールが必ずし
も生きるかという議論はさておき、類似
案件を同じメンバーの翻訳者へ依頼する
ことが頻繁に起こります。これにより、
常に協力翻訳者においてもRWSにおい
ても、翻訳の実績を積むことができる。
取引継続性は確実に品質を延ばし、逆に
品質が保たれなければ継続取引は実現し
ない。これをRWSは顧客との間に入っ
て実現するに好条件をもち備えていると
いえます。
日本RWSの第二章とは
1998 年に設立した日本法人である株
式会社RWSグループ。主な活躍の場は、
過去もこれからも出願用特許明細書に向
かっていることに変わりありません。で
は、第二章とは。設立以降のRWSが、
知的財産という拡大し続けた市場におい
て、急成長を遂げたことを言及せざるを
得ません。真の実力が問われるこれから
の時代において、生き残るべきエキス
パートとして、これまでに甘んずること
なく常に今の課題に取り組む姿勢を持ち
続けたいと思います。まずは各協力翻訳
者とのコミュニケーション強化。次に多
様化する顧客ニーズに応える対応力を確
実に強化すること。そして、グローバル
企業としてのメリットを存分に利用した
十分な情報提供を行い、知的財産翻訳に
おけるリーディングカンパニーである努
力を惜しず、歩みを進めて参ります。
* 統計出典:"The Language Services
M a r k e t : 2010" b y C o m m o n S e n s e
Advisory (May 2010)
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