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トラック運送事業者のための
トラック運送事業者のための ISO9001 (品質マネジメントシステム) ISO14001 (環境マネジメントシステム) 平成19年3月 まえがき トラック輸送は、わが国の活発な経済活動や豊かな国民生活を根底で支えています。しかしながら、 近年のトラック運送業界では、規制緩和の進展や市場原理優先の社会・経済環境のなかで企業間競争 が熾烈を極めており、個々の事業経営はますます厳しさを増す方向にあります。特に、最近は安全や 環境に配慮しつつ、多様化・高度化する輸送ニーズにも積極的な対応を図る必要があり、より質の高 い輸送サービスの提供が課題となっています。一方、荷主サイドも、グローバル化する厳しい競争環 境のなかで、より品質を重視する傾向が高まり、物流に対しても品質へのこだわりを示す企業が増加 しています。 このような状況に対して、ISOの認証取得により業務の標準・規格化を図り、一定の品質を維 持・確保しようとする物流事業者も増えてきました。トラック輸送は、製造業や他のサービス事業に 比べて、サービスや品質の差が見えにくいという特性もありますが、ISOの認証を取得することで、 品質確保に対する体制の維持存続が図られ、同時に、経営水準が一定レベルにあるという社会的評 価=「お墨付き」を得ることが可能となります。ISOの本来の趣旨や目的は、さまざまな分野にお ける国際的な規格・標準化にあるわけですが、トラック運送事業におけるISOについては、むしろ これを経営ツールとして捉えることがポイントであり、どう業績に結びつけていくかが課題となりま す。 いずれにしても、このようなISOは様々な取り組みのなかで、個々のトラック事業者のレベルア ップが図られるばかりでなく、事故防止や環境負荷軽減にも役立つことがわかっています。業界の目 下の最大課題でもある社会的地位向上のために、またトラック輸送への一層の信頼確保のためにも、 今後もISOの認証取得事業者の増加が期待されるところです。 一方、ISOのシステムを構築・認証取得し、運用するには相応の手間と、費用が必要となります。 また、構築するシステムは、トラック運送業者に対応した内容でなければなりません。そこで全日本 トラック協会として下記の4つのマニュアル類を整備しました。このマニュアル類はシステム構築の 手間を低減させ、かつトラック運送業として経営ツールとなり得るシステム構築、運用を支援するた めのものです。これからシステム構築、認証取得を目指す事業者にとって経営に役立つシステムとな るよう、このマニュアル類を有効に役立てていただくことを目的としています。 1.トラック運送事業者のための ISO9001 (品質マネジメントシステム) ・ISO14001 (環境マネジメントシステム) ISO及びISO9001・ISO14001の概要 2.トラック運送事業者のためのISO9001 (品質マネジメントシステム) 認証取得の手引き― ISOの導入に向けて ― 準備から認証取得までの具体的な内容の解説 3.トラック運送事業者のためのISO14001 (環境マネジメントシステム) 認証取得の手引き― ISOの導入に向けて ― 準備から認証取得までの具体的な内容の解説 4.トラック運送事業者のためのISO9001 (品質マネジメントシステム)標準マニュアル ISO9001のサンプル文書とその解説 1 目 次 ISO(アイ・エス・オー) 3 ISO9001品質マネジメントシステム 6 ISO14001環境マネジメントシステム 9 ISO9001、14001マネジメントシステム認証取得までの流れ 12 システム文書の構成例 13 審査登録制度の概略 14 2 ISO(アイ・エス・オー) ISOとはInternational Organization for Standardizationの略で、「国際標準化機構」という国 際組織の名称です。 ISOでは、国際間の取引や利用を円滑にするため、製品やサービスなどに関するさまざまな規格を 定めています。このうち、国際海上コンテナの大きさや写真用フィルムの感光度など、「製品=ハー ド」にかかわるものが一般的に良く知られていますが、さまざまな試験方法やマネジメントシステム など、「方法や仕組み=ソフト」についても多くの国際規格が定められています。 ① 製品に対する仕様を定めた製品規格の例 ISO国際海上コンテナ(ISO668など) ISOフィルム(ISO5800など) ② 試験方法を定めた試験規格の例(ISO6250など) ③ マネジメントシステム規格の例 ISOが定めるマネジメントシステムに関する規格には、次のような規格があります。このうち トラック運送事業にかかわりの深い規格として、品質に関するISO9001、環境に関する ISO14001があげられ、さらに最近では情報セキュリティに関するISO27001などについても、 認証取得する事業者が見受けられるようになりました。 ・ ・ ・ ・ ISO9001 (品質マネジメントシステムー要求事項) ISO14001(環境マネジメントシステムー要求事項) ISO22001(食品安全マネジメントシステムー要求事項) ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステムー要求事項) 3 ISOマネジメントシステム マネジメントシステムは一般的に、PDCA(Plan Do Check Act )サイクルにより、 「常に品質や 業務の改善を図る」という考え方を基本としています。 P l a n(計画) 過去の実績や将来の予測も含め、計画や目標を設定します。 D o(実施) 計画に基づき、業務を実施します。 C h e c k(点検・評価) 実施した業務を点検・評価し、問題点を見出します。 A c t(処置・改善) 問題点の改善・処置を講じます。 Plan Do P D Check A C Act このPDCAをさらに確実なものとするために、方針から計画およびその実施方法などについて、文 書化することが重要です。このようなマネジメントシステムを構築することで、常に均質で良質なサ ービスを提供しようとするのが、ISOの基本的な考え方です。 4 マネジメントシステムによる経営方式 トラック運送事業には、安全かつ一定品質の輸送サービスが提供・確保されるよう、各種法令や規 制を守ることが求められています。但し、さらなる品質の確保向上対策については、事業者ごとの判 断や経営努力に委ねられています。そこで、自ら積極的に経営体質の改善を図り、良質な輸送サービ スを安定的に提供するためにも、ISOマネジメントシステムを導入する事業者が増えています。 一般的なトラック運送事業者の例 ISO9001認証取得トラック運送事業者の例 スタンダード型の経営管理手法 デラックス型の経営管理手法 法令等に基づく管理 (品質や管理に関する詳細な定めは特にない) 法令等+ISOマネジメントシステム規格に基づく管理 (継続的改善と定期審査による品質管理) 経営理念(社是、社訓) 各種法令に基づく諸規定 経営理念(社是、社訓)+品質方針+品質目標 各種法令に基づく諸規定 (就業規則、安全管理規定等) 日・月・年次管理記録・報告(安全・財務等) (就業規則、安全管理規定等) 日・月・年次管理記録・報告(安全・財務等) ISOに基づく品質マニュアル セクション、担当者ごとの品質基準 (裁量的判断に依存) ISO導入により文書化された基準 (判断基準に依存) 品質や管理にバラツキが生じやすい 一定の品質や安定した管理体制の確保が可能 第三者機関による審査制度 ISOマネジメントシステムには、導入事業所の文書や運用が規格に適合していることを認証するた め、第三者機関による審査制度があります。 事業所が審査で適合と確認されると、審査機関より「適合証明証」が発行され、社内に掲示するこ とができます。また、事業所に「ISO9001、14001認証取得」と看板を掲げるなど、自社の品質や 環境への取り組みやこだわりを内外にアピールすることも可能となります。 5 ISO9001品質マネジメントシステム トラック運送事業は、いわば役務提供型のサービス業であり、現場の労動力に大きく依存していま す。このため、サービスレベルの向上や均質化を図ることが重要な課題となりますが、それらを解決 する方法として、ISO9001品質マネジメントシステムを導入することが効果的です。 ISO9001導入の目的 お客様との信頼関係を高めたい サービスレベルの向上と均質化を図りたい 事故防止対策を確実に実施したい 経営体質をもっと強くしたい 従業員による仕事のバラツキを直したい 人材のレベルアップを図りたい 役割と責任を明確にしたい 事業継承を円滑にしたい 企業イメージを向上させたい 6 品質方針・品質目標の例 経営者は、責任をもって品質方針(輸送品質)を設定しなければなりません。 品 質 方 針 (1)安全、丁寧、確実、迅速なサービスを提供し、お客様の信頼と満 足を確実にします。 (2)サービス品質の改善を継続的に行います。 (3)お客様に喜んでいただけるサービスを提供します。 効果的な品質マネジメントシステムを構築し、この品質方針を実施 するための経営資源を明確にします。 顧客の要求事項を満たすとともに、法令、規則、社会規範など順守 します。 提供するサービス及び品質マネジメントシステムの有効性の継続的 な改善に努めます。 20××年××月××日 ○○運送株式会社 社長 ○○ 太郎 関係部署では、品質方針と整合し た品質目標を設定します。 社長印 品 質 目 標 (20XX年度) 経営者の重点目標 運送サービスの品質不良を改善して顧客の信用を高め、 経営効率を上げる。 各業務毎の品質目標 契約配車業務:サービスに関する顧客の評価情報を最低 2ヶ月に1回入手し、年間2回とりまとめ、 サービス改善に役立たせる。 運行管理業務:貨物事故件数を昨年実績より10%削減す る。交通事故件数を年間3件以下にする。 整備管理業務:法令点検整備の100%実施。 総務事務業務:請求書関連ミスを年間ゼロにする。 年間ミスゼロの維持。 20××年××月××日 ○○運送株式会社 品質管理 責任者印 7 ISO9001の規格の構成 企業は、お客様と約束したことを実現するために「経営者の責任」 「資源の運用管理」 「輸送サービスの 実現」「測定、分析及び改善」により、常に品質マネジメントシステムの継続的改善に努めなければなり ません。このため、ISOマネジメントシステムでは、主に次のような対応が求められます。 1.「経営者の責任」 経営者は、品質方針を設定し、組織をどの方向に進めるかを従業員に周知させます。また、計画 した仕組みがうまく動いているか、常に見直しをしていきます。 2.「資源の運用管理」 経営者は、顧客と約束したことを実現するために、従業員に仕事をする力量(能力)を高める教 育を行います。また、設備を準備し、仕事が行いやすいように作業環境も整備します。 3.「輸送サービスの実現」 業務をあらかじめ決めたルール(手順)で行います。その際、それぞれの仕事(例、受注・配車な ど)もPDCAを活用しながら、次のプロセスへバトンタッチをしていきます。 4.「測定、分析及び改善」 輸送サービスの提供に顧客の満足度はどうなのか、また、内部監査により仕組みに問題がないか など、計画していた結果が得られたかを見直します。うまくいかないところは継続的に改善してい きます。 品質マネジメントシステムの継続的改善 顧 客 顧 客 経営者の責任 資源の運用管理 測定、分析及び改善 経営者による 実行の約束 監視及び測定 資源の提供 顧客重視 満 足 品質方針 不適合サービスの管理 人的資源 計 画 データの分析 インフラストラクチャー 責任、権限及び コミュニケーション 改 善 作業環境 経営者による見直し 輸送サービスの実現 要 求 事 項 受 注 配 車 積 込 プロセス 8 運 行 荷 降 輸 送 サ ー ビ ス の 提 供 ISO14001環境マネジメントシステム 昨今、環境重視の時代といわれるなかで、企業活動の面でも環境への配慮が欠かせません。特に、 トラック運送事業者には、各種規制による対応はもとより、エコドライブなどによる自主的かつ積極 的な対応が求められています。このような環境への取り組みで着実に成果をあげていくために、また これを効果的に進めていくために、ISOでは環境マネジメントシステムに関する規格が定められてい ます。 地球環境の悪化 大気汚染 オゾン層破壊 酸性雨 森林減少 地球温暖化 海洋汚染 砂 漠 化 土壌汚染 天然資源の枯渇 9 ISO14001導入の目的 環境対策を効果的に推進したい 燃費消費量を確実に節減したい 燃費(D/R) 燃料消費量(S) 従業員の環境意識を高揚させたい お客様のニーズに対応したい 資源の再利用を推進したい 確実な点検整備を実施したい 10 環境方針・目的・目標の例 経営者は、運送業務にかかわる環境の保全を考慮し、環境方針を設定します。 環 境 方 針 ○○運送株式会社(以下当社)はトラック運送の事業を通して、環境負荷 の低減が企業活動において重要な責務であると認識し、以下の環境方針 を定め、積極的に環境の保全に取り組みます。 (1)事業活動、および当社の関連する業務、施設におけるすべての環境影 響を確実に把握し、取り組みます。 (2)環境関連の法規制、地方条例、業界の行動規範および地域協定など当 社が受入を決めた規制、基準を順守します。 (3)トラック運送事業活動に対する環境目的・目標を設定し、PDCAサイ クルを回し、その有効性の継続的改善に取り組みます。 20××年××月××日 ○○運送株式会社 社長印 社長 ○○ 太郎 環境目的・目標は、関係部署の従業員が、それぞれ必要に応じ環境目標を設定し、目標値を達成するよ うに努力します。 環 境 目 的 ・ 目 標 (20XX年度) 環境目的 車両運行効率の向上 各業務毎の品質目標 部 署 環境目標 今期目標値 配 車 業 務 実車率の向上 75%(+5%) 運行管理業務 エコドライブの実施 走行燃費10%向上 整備管理業務 省燃費材料の使用 12月までに保有車両の90%採用 20××年××月××日 ○○運送株式会社 環境管理 責任者印 11 ISO9001、14001マネジメントシステム認証取得までの流れ 推 進 体 制 の 編 成 準 備 構 築 計 画 の 策 定 方 針 と 範 囲 の 決 定 構 築 文 書 類 の 作 成 シ ス テ ム の 実 行 実 行 し た 結 果 の チ ェ ッ ク 運 用 経 営 者 の 見 直 し 第 一 段 階 審 査 * 第 二 段 階 審 査 * *印の審査の名称は審査会社によって異なることがあります。 認 証 取 得 認証取得後も会社内部や審査会社による半年、または1年ごとの 定期査察 (サーベイランス) や3年ごとの更新審査により、常に仕組 みを見直していきます。 12 システム文書の構成例 仕組みを文書化した例 品質マニュアル 環境マニュアル レベル1 マネジメントシステムにおいて 会社として何を実施するかを記述した文書 手 順 書 レベル2 レベル1を実現するために どのように実施するかを決めた文書 作業指示書 レベル3 どのように実施するかを レベル2より詳細に表した文書 関 連 文 書 レベル4 レベル2や3を実施する際に 参考となる文書 記 録 レベル5 これらの活動の結果や 実施した証拠となる文書 ISO9001 品質マネジメントシステムの文書構成例 文 書 管 理 の 手 順 書 な ど ︵ 手 順 書 ︶ 01 ISO90 アル マニュ 品質 会社 送株式 ○○運 ISO14001 環境マネジメントシステムの文書構成例 ISO14001 積 み 付 け 作 業 指 示 書 な ど ︵ 作 業 指 示 書 ︶ 環境マニュアル 交 通 法 規 な ど ︵ 関 連 文 書 ︶ 受 領 書 な ど ︵ 記 録 ︶ ○○運送株式会社 13 運 行 手 順 エ 書 コ な ド エ ど ラ コ ︵ イ ド 手 ブ ラ 順 マ イ 書 ニ 燃 ブ ︶ ュ 費 推 ア 管 進 ル 理 手 な 表 帳 ど な な ︵ ど ど 作 ︵ ︵ 記 業 関 録 指 連 ︶ 示 文 書 書 ︶ ︶ 審査登録制度の概略 ① 「トラック運送事業者」が審査登録機関に審査の申請をします。 ② 審査登録機関により「トラック運送事業者」に対し審査が行われます。 ③ 審査登録機関により適合が確認されると認証登録されます。 ④ 事業者の希望により認定機関に登録されます。 認定機関 (財)日本適合性認定協会(JAB) ④認定機関に登録されます 審 査 登 録 機 関 (注)「審査登録機関」は平成20年9月までに「認証機関」と名称が変わります ①審査登録機関を選び 申請をします ③適合が確認されると 認証登録されます ②文書や仕事の現場の 審査が行われます ト ラ ッ ク 運 送 事 業 者 コンサルティング コンサルティングを受けるか否かは事業者の任意です。また、コンサル ティングには他事業者と合同で受ける「合同コンサルティング」があります。 合同コンサルティングは、基本料金、付帯費等が各社による共同負担と なるので、割安となる場合があります。また、他事業者とグループで取 り組むという安心感や、情報を共有し活用できるメリットもあります。 14 〒1 63-1 519 東京都新宿区西新宿1丁目6番1号 新宿エルタワー1 9階 TEL.03 (5323) 7109(代) ホームページ h t t p : / / w w w . j t a . o r . j p 5000307