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海産カジカ科魚類における交尾後の性選択と精子の進化

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海産カジカ科魚類における交尾後の性選択と精子の進化
平成24年度
新潟大学長
新潟大学プロジェクト推進経費研究経過報告書(中間まとめ)
殿
申 請 者
所 属
理学部附属臨海実験所
代表者氏名 安房田 智司
本年度、交付を受けたプロジェクト推進経費について、現時点までの研究の進行状況等を報告し
ます。
プロジェクトの種目:奨励研究
プロジェクトの課題:海産カジカ科魚類における交尾後の性選択と精子の進化
プロジェクトの代表者:所属 理学部附属臨海実験所 職名 助教 氏名 安房田智司 分担者 0名
プロジェクトの成果:
海産カジカ科魚類(約 300 種、日本に約 80 種)は、魚類も含め脊椎動物の中でも最も繁殖様式を多様
化させたグループの一つで、同科内に交尾種と非交尾種の両方が見られる。また、子の保護様式も多様で、
無保護種、雄保護種、雌保護種、両親保護種と魚類の子の保護様式を全て網羅する。こういった繁殖様式
の多様性と海産カジカ科魚類の種分化は密接に関係していると考えられ、海産生物の種多様性の理解を深
める上で重要なグループと言える。
申請者が勤務する理学部附属臨海実験所のある佐渡島は、真野湾に代表される砂泥海岸から、外海府に
代表される断崖絶壁から成る岩礁海岸まで、多様な沿岸海洋環境が存在し、海産カジカ科魚類の種数が多
いことが知られている。これまで浅海域で観察できる海産カジカ科魚類は 11 種見つかっており、この中
には交尾種、非交尾種のどちらも含まれることが分かってきた。また、交尾種であっても雄が卵保護を行
う種と行わない種とでは、交尾期間が大きく異なり、雌雄の繁殖戦略は全く異なることが明らかになりつ
つある。実際に予備調査から、海産カジカ科魚類は、交尾器形態や体色の性差は種間で極めて変異が高い
ことが分かった。これは単に交尾行動だけでなく、ダーウィンの提唱した性選択が大きく関わっていると
考えられる。近年では、従来考えられてきた交尾前の性選択(雄間競争と雌の配偶者選択)だけでなく、
交尾後にも性選択がはたらくことが明らかになってきている。交尾後の性選択は、
「精子競争」と「隠れ
た雌の配偶者選択」からなり、繁殖行動、精子量や形態、交尾器形態の進化に大きく寄与することが分か
ってきた(Eberhard 1996; Birkhead and Møller 1998)
。
海産カジカ科魚類の精子量や精巣構造、精子の運動性も交尾後の性淘汰と密接に関係していると考えら
れるが、進化生態学的観点からこれらのことを調べた研究は皆無である。そこで本研究では、佐渡に生息
する複数のカジカ科魚類、特に交尾・無保護型のアナハゼ属魚類を対象に、野外観察、精子の運動性計測、
また、精子や精液成分に関係する遺伝子を解析する。さらには、父性判定によって精子競争の強さと隠れ
た雌の配偶者選択の可能性を探り、海産カジカ科魚類の繁殖行動と精子の進化を解明することを目的とし
た。アナハゼ属魚類の繁殖期は、秋から冬の海水温が下がる時期であり、現在、野外調査は継続中である。
以下に、これまでの途中経過を報告する。
(注)報告書は2枚程度とする。別紙による場合も同じ。
-1-
(1) 精子の運動性と形態
交尾・無保護型であるアナハゼ、キリンアナハゼ、スイに
ついて精子の運動性測定を行い、精子形態を観察した。精子
の運動性を測定した結果、3 種ともに海水中では精子は不活性
であるが、雌の卵巣腔液中では活発に運動していることが明
らかになった。さらに、体内受精であるほ乳類の精子形態と
よく似た頭部の細長い精子を持っていた(右図)
。一般的に体
外受精を行う魚類では、精子の頭部は丸く、海水中で活性化
されることから、精子の形態や運動性の違いは交尾行動によ
って進化したと考えられた。これらの結果は、Koya et al. 2011
の結果と一致する。今後は、交尾・無保護型の中での精子形
態や運動性の変異について検討する。
アナハゼPseudoblennius percoides
の精子形態。精子全長約70µm。
(2) 精巣構造
アナハゼ、キリンアナハゼの 2 種について精巣構造について調べた結果、小さないわゆる精巣部
分に加えて非常に発達した貯精嚢を持ち、その中には最終成熟に達した精子がぎっしりと詰まって
いた。これほど発達している精巣を持っている場合は、
「精子競争」が起こっていることを強く示唆
しており、親子判定を行った場合には、雌の一腹卵に多数の雄が関与している結果が得られると予
測される。また、精子の遊泳速度も一般的な魚類精子に比べても速く、精子の遊泳速度も「精子競
争」によって進化した可能性が考えられる。
(3) 親子判定
沿岸性のカジカ計 11 種から DNA サンプルを収集した。そのうちの 1 種アサヒアナハゼから、次
世代シークエンサーを用いて、親子判定用のマイクロサテライト(STR)プライマーを作成した。
現在、作成したプライマーの中から親子判定に利用可能な多型性の高いものを選定中である。
アナハゼ類の雌は交尾期間後にホヤに産卵することが知られている。産卵期である 12 月以降に
潜水調査によりホヤの中に産まれた卵を採集し、親子判定を行う。また、卵をお腹にかかえている
雌を採集し、水槽内でも産卵させ、それらも親子判定を行う。これまでの野外調査の結果、大型の
アナハゼ類は大型のホヤ類に、小型のスイは、グンタイボヤやカイメンを産卵場所として利用して
いる可能性が高いことが分かってきた。しかしながら、親種については DNA を用いて特定する必
要があり、現在、種判別用の遺伝マーカーを開発中である。
参考文献
Eberherd WG (1996) Female control: sexual selection by cryptic female choice. Princeton Univ. Press,
Princeton, NJ.
Birkhead TR, Møller AP (1998) Sperm competition and sexual selection. Academic Press, San Diego, CA.
Koya Y, Hayakawa Y, Markevich A, Munehara H (2011) Comparative studies of testicular structure and sperm
morphology among copulatory and non-copulatory sculpins (Cottidae: Scorpaeniformes: Teleostei). Ichthyol Res
58: 109-125.
プロジェクト成果の発表(論文名,発表者,発表紙等,巻・号,発表年等)
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