...

全頭型 MEG における伏臥位用視覚刺激装置の試作

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

全頭型 MEG における伏臥位用視覚刺激装置の試作
全頭型 MEG における伏臥位用視覚刺激装置の試作
永田
治
NAGATA Osamu : Introduce a visual stimulus device for Hole Head type MEG system
1. 目的
の距離を可能な限り接近させることが必要で、センサ
近年、脳高次機能の計測は、fMRIやMEG(生体磁気
感度および計測精度の面から極めて重要である。さら
計測装置)のような計測装置を用い、言語や痛覚認知、
に計測中の頭部移動はノイズの原因ともなるため被験
視覚あるいは聴覚刺激、仮現運動などの運動視といっ
者に負荷をかけない範囲で固定しなければならない。
たヒトでなければできない研究をおこなうため、直接
その場合、刺激画像はシールドルーム天上面に投影
ヒトの脳を対象として外的影響を与えず非侵襲的に計
することになるが、液晶プロジェクタからスクリーン
測する手法が確立されてきた。
に直接画像を投影する方式では対応不可能であるため、
なかでもMEGの設置台数は基礎および臨床計測用を
含め世界でも日本が過半数を占めており、先端的な研
-13
-14
伏臥位の被験者に対する適切な画像誘導装置が必要と
なる。
究がおこなわれている。MEGは10 ~10 テスラといっ
同様の事例としては、過去にデュアルセンサ型の
た極めて微弱な脳磁場を計測する装置で、地磁気など
MEG 装置を使用した計測システムにおいて同様の環境
外界からのさまざまな影響を遮断するため、シールド
を構築しており、その計測使用状態を図1に示す。こ
ルームといった特殊な環境内で使用する必要があり、
れは2台の鏡台によりプロジェクタの投影像をスクリ
被験者に与える刺激は非磁性でなければならないとい
ーンまで誘導するシステムであるが、全頭型 MEG にお
う制約があるため、空気圧や画像、光刺激などを利用
いても同様の方法で可能である。この場合設置角度を
している。一般の機材では金属類など環境磁場を直接
調節することでシールドルーム天上面に設置したスク
変動させる材質や強度の電気信号が使用されているた
リーンにも投影が可能であるが、各鏡台の位置と角度
め使用できない。そのため、多くの場合は自作または
の調整を適正におこなわないと投影画像に歪みが生じ
特注による機器に頼っているのが実状であり、被験者
てしまう。
の体位または実験手法を限定する必要があり、ストレ
スを与える要因となっている。この問題を改善するた
め2003年度の奨励研究1)により、全頭型MEG装置を使用
した実験系において計測形態が座位による健常人の被
験者を対象とし高分子樹脂の透過スクリーンを利用し
た視覚刺激装置を試作して、ほぼ問題のないレベルの
実験環境を構築することができた。しかし、計測形態
が椅子を使用した座位で可能な健常人の計測について
は、この装置で問題なくおこなえるが、臨床応用を考
図1 デュアルセンサタイプ MEG による画像刺激環境
慮した場合、座位の計測では被験者に対して与える負
荷が大きく、不適切な場合が多く発生するため、被験
者をベッドに寝かせた状態、いわゆる伏臥位の計測環
境の構築は必要不可欠である。
2. 刺激環境の構築と設置条件
全頭型MEGの座位による刺激の場合は、通常図2に
示すようにスクリーンを被験者正面に設置し、シール
また、被験者が小児の場合もセンサに頭部を安定し
ドルーム外のプロジェクタから投影された画像を直接
て固定することが比較的容易であるため、座位よりも
被験者に提示する方法がとられる。投影像は色彩色差
伏臥位の計測が適切である。頭部を固定しなければな
計を使用して周辺輝度差が10%以下となるように調整
らない理由は、計測対象である磁場は距離の2乗に比
されているが、この場合輝度が高すぎて被験者に負荷
例して急激に減衰するため被験者から誘導コイルまで
をかけることがあるため通常は1/10の輝度減衰フィル
タをプロジェクタレンズ部に接続し使用する。
さらに長時間の実験の場合さらに減衰させる必要
があり、そのため図3に示す様な4種類の減衰率(可
以上のような問題を解決するため図4に示す様なシ
ステムを試作し伏臥位の被験者に対して自然な状態で
刺激を与える環境の構築を試みた。
視光透過率:63%・36%・30% ・20.4%)を持ったフィル
タとレンズ部に接合するアダプタを作成し適宜組み合
わせて使用することとした。ちなみに現状では最終透
過率を1%程度まで減衰させて使用することが多い。ま
た、このフィルタにより可視光を低減することで周辺
輝度差を軽減することにもなる。輝度の計測は被験者
の目を基点として角度を取り、スクリーンの投影範囲
の中心およびその周囲を8分割した各領域の輝度差を
計測して差分を10%以下となるようにプロジェクタを
図4 伏臥位による刺激提示環境
調整する。
さて、ベッドを使用した伏臥位による計測の場合は
刺激の誘導に際してプロジェクタからの画像導入位
センサガントリを90度回転させ被験者が上方を向いた
置は、加工が容易でなく遮蔽性能の低下を招く恐れも
状態の計測となるため、刺激画像は被験者直上のシー
あるため、開口部を追加するなどシールドルームを変
ルドルーム天井部に投影されなければならない。
更することはできないので現状のまま使用しなければ
通常この様な体位の場合は被験者眼前に200mm×
ならない。したがって通常の液晶プロジェクタ設置位
100mm程度の小さな鏡を設置することでスクリーンに
置から投影角度を偏光し画像等をスクリーンまで誘導
投影された画像を反射して提示するが、視野が限定さ
しなければならないが、このような条件下で問題を解
れた状態の刺激になりやすく自然な状態での視覚刺激
決するためには、一般的には鏡やレンズ等を応用した
を確保することは困難である。また鏡の塗膜銀面に金
導光システムを応用して、被験者直上に設置した透過
属成分が含まれていることが多く、センサ近傍に設置
型スクリーンに画像を誘導することで、伏臥位におい
された鏡自体の微細な振動により静磁場が変動してノ
て常に自然な体位で歪みの少ない画像刺激をおこなえ
イズとなることもある。
る計測システムが構築できる。
3. システムの全体構成
システムはプロジェクタ側の偏光部である2枚の鏡
と、被験者側の偏光用鏡、投影用透過スクリーンおよ
び非磁性部材で構成されたフレームからなっている。
スクリーンサイズは 40 インチで、座位の場合と同様の
高分子樹脂スクリーンを使用している。
図2 座位による刺激提示環境
基本的にフレームは木製の集成材を使用しており、
接合には金属材料は一切使用していない。その全体図
と設置状況を図5および6に示す。
すべての機材は 10φの樹脂製ボルトで結合されて
おり、金属材料は一切使用していない。また不要な場
合はすべて撤去しなければならないため、フレームと
鏡およびスクリーンの各構成部材に分解できる構造と
し、使用時にシールドルーム内において組み立てと分
解をおこなう。1名でも組み立ては可能であるが、各
部材に重量があるため、基本的には2名で作業を行う。
図3 輝度減衰用フィルタ
(可視光透過率 A:63% B:36% C:30% D:20.4%)
このシステムは、プロジェクタからスクリーン方向
の光軸が同一線上にあるため、比較的調整が容易であ
るが、台形歪みが発生しやすく鏡の角度調整に時間が
本研究は、平成 16 年度科学研究費補助金(奨励研究、
かかる。現在は微調整をおこなう必要があるため、ス
課題番号:16922115)による助成をうけて行われた。
クリーンと鏡の回転及び取り付けの位置が変更できる
なお、本報告は、生理学技術研究会報告第 27 号にも掲
ようにしてあるが、条件設定が終了した段階で固定す
載されている。
る予定である。
図5 刺激システム構成図
図6 設置状況とフレーム構成部材
使用時にシールドルーム内で組み立てをおこなう。
4. まとめ
今回試作した機材は、輝度の減衰と周差による像の
歪みを極力抑えるためレンズは使用していない。全体
を非磁性体のフレームで構築した鏡による偏光システ
ムであり、像の投影はほぼ問題なくおこなえるが、全
体に光路長が増大するため投影像が拡大してしまう。
したがって、目的とするスケールに合わせるにはプロ
ジェクタ本体による投影像の拡大縮小機能を利用する
か、源画像データ自体を縮小しなければならないため
今後改良が必要である。
5. 参考文献
1) 研究会報告 永田 治(2004) 生理学技術研究会
報告
第 26 号:94-95
Fly UP