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エネルギー変換 -ミトコンドリアと電子伝達系
第Ⅳ部 細胞の内部構造 14 エネルギー変換 -ミトコンドリアと葉緑体 (後半) p793-826 3 . 葉緑体 chloroplast と光合成 photosynthesis 4 . ミトコンドリアと色素体の遺伝子系 5 . 電子伝達系 electron-transport chain の進化 0. 2 章の復習 -1- 菊地 浩輔 解糖系 C6 C3×2 C3 ×2 C3 ×2 C3 ×2 グルコース ↓ 三単糖リン酸 (グリセルアルデヒド 3 リン酸 + ジヒドロキシアセトンリン酸 ) ↓ ←グリセルアルデヒド 3 リン酸脱水素酵素 ホスホグリセリン酸キナーゼ (リン酸 1 分子奪い ADP に付加) 3-ホスホグリセリン酸 ↓ ピルピン酸 ↓ ←ピルピン酸脱水素酵素複合体 アセチル CoA 脂肪は脂肪酸アシル CoA として回路を 1 周するごとにアセチル CoA(C2)ずつ切り取られていく クエン酸回路 アセチル CoA ↓ オキサロ酢酸 →→ クエン酸 ↑ ↓ ↑← αケトグルタル酸 電子伝 系 達 electron-transport chain -2- 3 . 葉緑体と光合成 植物,光合成細菌などは,水から得た電子と太陽光のエネルギーを使って大気中の CO2 を有機 化合物に変換している(光合成 photosynthesis).水を分解する際に大量に放出する O2 は様 々な生物の好気呼吸に使われる. 植物では,光合成は葉緑体 chloroplast で行われる.葉緑体は日中に光合成を行って ATP と NADPH を生産し,これは CO2 を糖に変換するのに使われる.植物の細胞質にある ATP の大 半は動物細胞の場合と同様,ミトコンドリアでの糖と脂肪の酸化によって作られる. 葉緑体はミトコンドリアよりも大きいが,構造 はよく似てい て,外膜は透過性が高 く,内膜は透過 性 は 低 い が 輸 送 タンパクを 埋 め 込 ん で い て , 両 膜 の 間 が 膜 間 部 分 で あ る .内 膜 が 取 り 囲 む 広 い 空 間を ストロマ stroma と い い,ミトコンドリアのマトリックスに 似 て,代 謝 に 関 わる 酵 素 が 多 数含 ま れ て い る. ミトコンドリアと 葉 緑 体 の 大 き な 違 い は ,葉 緑 体 の 内 膜 に 電 子 伝 達 系 が 無 い こ と で あ る .光 合 成,電子伝達系,ATP 合成酵素は 3 番目の膜,チラコイド膜 thylakoid membrane にある.チラコイドは袋 状で,各チラコイド同士は内部でつながる,つまり葉緑体にはチラコイド膜で囲まれた 3 番目の区画 があるのだ. -3- 光合成の反応系は大きく次の 2 つに分類できる. 1) 光合成電子伝達反応 photosynthetic electron-transfer reaction (明反応 ともいう) 太陽光か らのエネルギーが,緑色の有 機色素 クロロフィル chlorophyll を活 性化し て,チラコイド 膜 にある電子伝達系内に電子を移動させる反応.ミトコンドリアの電子伝達系と似ている. クロロフィルは電子を H2O から取り出し,副産物として O2 を発生させる.電子伝達に 従って,H+がチラコイド膜を通して取り込まれ,それによって出来たプロトン勾配がストロマ での ATP 合成を駆動する.この反応で最終的に NADP+に高エネルギー電子が H+と共 に 移動して,NADPH が生じる.これらの反応は全て葉緑体内で起こる. 2) 炭素固定反応 carbon-fixation reaction (暗反応 ともいう) ATP と光合成電子伝達反応で作られた NADPH をエネルギー源と還元力として,CO2 を 炭水化物に変換する反応である.炭素固定反応は葉緑体のストロマで始まり,スクロース などが生産される. 1)2)の反応は日中に行われ,夜に,日中作った炭水化物を分解する.また,この 2 つの反応は 巧 妙 な フィードバック機 構 に よ っ て つ な が っ て い る .例 え ば,暗 い と き に は 炭 素 固 定 反 応 に 働 く 酵素が不活性化され,明るくなると,電子伝達系により,再活性化される. クロロフィル chlorophyll と反応中心 reaction center 光は光子 photon というエネルギーの固まりに分かれていると見なす.その時,異なる色の光子 は異なるエネルギーで,長波長のもの(赤っぽい)ほどエネルギー hνは低い. 緑 色 色 素の クロロフィル分 子 が 太陽 光 を 吸 収 す る と,分子 内 の 電 子 が 光 子 に より 高 エネルギー状 態 に励 起さ れる.クロロフィル分子 は単 離状 態で は 光を 生体 の利 用で きるエネルギーに 変換 でき ず,適 当 なタンパクと結合し,複合体, 光化学系 photosystem を形成して初めて変 換可能である.アンテナ複 合 体 は,数 百 個 の クロロフィル分 子 か ら な っ て い て,光 の エネルギーを 捕 ら え て,励 起 電 子 を 作 り 出 す. 励 起 電 子 は 次 々 と 受 け 渡 され, 反 応 中 心 reaction center に 集 め ら れ る.エネルギーはこ こ で 捕 らえられ, スペシャルペア special pair をなしているクロロフィル分子の電子を 1 個励起するのに使わ れる. 反 応 中 心 は タンパク質 と 有 機 色 素 か ら な る 膜 貫 通 複 合 体 で ,光 合 成 の 核 心 に 位 置 し て い る . 反 応 中 心 に あ る,クロロフィル分 子 のスペシャルペアは,同 じ 複 合 体 の 中 に あ る 電 子 受 容 体 に 高 エネルギー 電子 を渡 す よう に 配置 され て いて,励 起 電 子を 不可 逆 的に 素 早く 捕ら え る.反応 中 心 にあ る クロロフィル分子はこの過程で,1 個の電子を失って,正の電荷を帯びる. -4- ATP と NADPH 光合成は CO2 から有機分子を合成するが,この過程には,ATP と還元力の両方が大量に必 要である.必要な還元力は NADP+から作った NADPH によって供給される. 植物やシアノバクテリアの光合成では,光子 2 個を使って ATP と NADPH を生産する.1 個目の光 子で ATP を(光化学系Ⅱ photosystemⅡ),2 つの光子を吸収した後で NADPH を合成する(光 化学系Ⅰ photosystemⅠ).光化学系Ⅰと光 化学系Ⅱの 2 つの系が光合成電子 伝達反 応であ る. 1 個目の光子 はまず,光化学系Ⅱ に吸収 され,そこで高エネルギー電子を作るの に使わ れ,この 高エネルギー電子 は電 子伝 達 系を 経て,光 化 学 系Ⅰ に渡 され る.電 子が 電子 伝 達系 を流 れ るこ の 過程で,チラコイド膜にある H+ポンプが駆動され H+勾配が出来る.ついでチラコイド膜にあ る ATP 合成酵素 ATPase がこの H+勾配を使って,膜のストロマに面した側で ATP の合成を行う. 光化学系Ⅰに到着した電子は,反応中心に出来ている正電荷を持つ"正孔"(電子が 1 個転 出 し て い る の で )を 埋 め る .光 化 学 系 Ⅰ の ほ う が 光 化 学 系 Ⅱ よ り エネルギー順 位 が 高 い た め ,こ の反応でエネルギーを得られ,このエネルギーで NADP+から NADPH を合成する. こ こ ま で の 過 程 で , 反 応 中 心 に あ る 光 化 学 系 Ⅱ の ク ロ ロフ ィル 分 子 か ら 外 れ た 電 子 1 個 が NADPH に供給される.が,光化学系全体ではこの電子 1 個分だけ不足することになる.補充 用の電子は低エネルギー電子供与体から来るが,植物やシアノバクテリアでは H2O を使う.2 個の H2O 分子から 4 個の電子が取り除かれ,光子 4 個で生じた不足を補うことが出来て,その時 O2 が 放出される. -5- 炭素固定反応 carbon fixation CO2 と H2O から炭水化物を合成する反応はエネルギー的に起こりにくい. 大気由来の CO2 は,五単糖の リブロース 1,5-ビスリン酸 ribulose 1,5-bisphosphate と H2O と反応 して,3 個の C 原子を含む 3-ホスホグリセリン酸(クエン酸回路にもあった)を 2 分子作る.この反応は 葉緑体のストロマで起こり,ルビスコ rubisco という大型の酵素により触媒される.ここから炭素固 定回路 カルビンベンソン回路 carbon fixation cycle が始まる. 炭素固定回路では 3 分子の CO2 が回路に入るごとに,グリセルアルデヒド 3 リン酸(解糖系でも出 てくる) glyceraldehyde 3-phosphate が 1 分子生成する.また 1 個の CO2 分子が炭水化物に変 換される度,3 分子の ATP と 2 分子の NADPH が消費される. 代謝産物 葉緑体で作られたグリセルアルデヒド 3 リン酸の大部分は好気呼吸の解糖系に入る.また,その他 いろい ろな 代謝 産物 にも 変換 され,貯蔵 さ れる.植物 では,糖 は主 にスクロース sucrose の形で,維 管 束 を 通 し て 体 の 他 の 部 分 に 輸 送 さ れ ,炭 水 化 物 を 供 給 す る .(動 物 で グルコースが 血 液 中 を 流 れるのと同じ) また葉緑体に 残ったグリセルアルデヒド 3 リン酸は,光合成の生産が 過剰なと きにストロマでデンプン starch に変換され,夜間に代謝に使う.(動物でグルコースをグリコーゲンとして貯蔵するのと同じ) -6- 4 . ミトコンドリアと色素体の遺伝子系 ミトコンドリアの祖先は好気 性細菌 であり,原始嫌気性 真核細 胞(紅色硫黄 細菌の 類)が取り込 んだと考えられ ている.しかし,本来の細 菌のゲノムの大半は細胞 の核へと運 ばれ,ミトコンドリア自 体に 残っ た遺 伝子 は 少し にな って し まっ た.その ため,動 物 のミトコンドリアは独 特の 単 純な 遺 伝 システムを持っているが,タンパク質のほとんど(RNA ポリメラーゼ)などは核の遺伝子により細胞質で 生産され,タンパク輸送チャネルを通って(12 章),ミトコンドリア内に運ばれる. 葉緑体も細菌由来だが,この場合の祖先は H2O から電子を取り,O2 を放出する光合成細 菌(シアノバクテリア(ラン藻)の 類縁)であ る.葉緑 体は自 身の 遺伝 子を たく さん 持っ てお り,タンパク合 成に必要な転写,翻訳系も完全な形で持っている. 5 . 電子伝達系 electron-transport chain の進化 原始細胞は大部分の ATP を発酵(リン酸化反応)から得ていて,生じた有機酸を老廃物とし て排出していた.発酵のため,周囲の環境が酸性になったので,膜結合の H+ポンプが出現して, 細 胞 か ら H+ を く み 出 し , 内 部 pH を 中 性 に 保 つ よ う に な っ た . 電 子 伝 達 系 の H+ ホ ゚ ン プ,H+-ATPase(ATP 駆 動 型 H+ポンプ)な ど で あ る . こ の 後 ,H+勾 配 を ATP 合 成 酵 素 ATP synthase が利用することで,ATP を大量に生産できるようになった. 地球上には生体の利用できる有機化合物は少なく,そのため CO2 を用い,炭水化物を生産 できる原始光合成細菌が 現れた.最初はま だ NADPH の合成は出来なかったが,電 子伝達系 をつなぎ合わせ,光化学系によって光のエネルギーを捕獲し,可能となった. -7-