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高齢者の共同居住における生活行為と支援環境 -ケアハウス入居者の

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高齢者の共同居住における生活行為と支援環境 -ケアハウス入居者の
生活科学研究誌・Vol. 5(2006) 《居住環境分野》
高齢者の共同居住における生活行為と支援環境
−ケアハウス入居者の生活を事例として−
絹川 麻理、加藤 悠介、三浦 研、森 一彦
大阪市立大学大学院生活科学研究科
Living Activity and Support Environment for the Elderly in a Group - living Setting
- A Case of Care House Residents’Living Environment
Mari KINUGAWA, Yusuke KATO, Ken MIURA and Kazuhiko MORI
Graduate School of Human Life Science, Osaka City University
Summary
Group-Living has been added to the houising variation for the elderly.
Having care house residents as research subjects, this study clarifies their living environment and support environment and aims to consider the subjects of better environment for the elderly in a groupliving setting. Structural interviews were peformed with 12 residents (six physically-independent; six
support-required and care-needing residents: level one) It was made clear that the residents, especially
the physically frail group, conducted living activities by adjusting to the environment for implementation.
Adjustment of relationship among residents and deterioration of physical and mental functions were
found as big issues in the group-living setting. Thus, there is the need for support improving the relationships and for orientation of living supports to take care of difficulties to be generated by deterioration of physical and mental functions and to prevent functional decline.
Keywords:共同居住 生活環境 支援環境 要支援・要介護高齢者 ケアハウス
group-living, living environment, support environment, the support-required / the care-needing elderly, care
house
1 はじめに
ら要支援期,要介護期への移行における身体機能の低下
とその過程に生じる生活支援ニーズに対応可能な 「 住ま
1-1 研究の背景
い 」 の整備と生活環境の充実が求められている。
高齢者の独居や高齢者のみの世帯数,および,要支援・
介護保険の改正後,
「住まい」の整備という観点からは,
要介護高齢者数の大幅な増加が予測され,高齢者を取り
居宅系サービスの特定施設対象が介護付き有料老人ホー
巻く生活環境の充実は社会的課題の 1 つとなっている。
ムとケアハウス以外へも拡大され,サービス提供形態に
また,長期化する高齢期における身体機能の低下と生活
ついては 「 包括型 」 以外にも 「 外部サービス利用型 」 が認
支援に対して,高齢者が抱いている不安は大きい。以上
められるようになった。具体的には,一定の基準を満た
を背景に,社会保障と経済性の観点および高齢者のQO
す高齢者向け優良賃貸住宅などの住居を特定施設入所者
Lの観点から,従来の施設ではない 「 住まい 」 における
生活介護事業所として指定し,そこに住まう高齢者が虚
生活継続への指向性が高まっている。つまり,健康期か
弱化した時も自宅で介護を受けながら住み続けることを
1
( )
生活科学研究誌・Vol. 5(2006)
可能にすることが挙げられている。 1 ) また,介護保険法
表1 対象施設と調査対象者の概要
の改正にあわせ,高齢者の 「 住まい 」 の課題に対応する
ことを目的に,高齢者専用賃貸住宅制度が新たに創設さ
れた。以上のように,高齢者の 「 住まい 」 の選択肢に共
同居住という居住形態が含まれ,そこで外部サービスや
その他の支援を受けながら生活を継続していくことが今
後の高齢者の生活の形の 1 つとして想定される。
1-2 研究の目的
以上を背景に,身体機能は自立であるが生活上の支援
が必要な高齢者,および,今後も大幅な増加が予測され
る1)
註1
要支援・要介護度 1 と認定される高齢者の 「 住ま
い 」 と生活環境のあり方を考えることは急務であると考
えられる。そこで,本研究では,「 支援が受けやすいこ
5 階に23室(内, 2 室は夫婦用居室), 6 階に15室が配
と 」 を生活環境の充実と捉え,生活に支援が必要な軽費
置されている。各居室とも手すり付きトイレ,電磁調理
老人ホーム(ケアハウス)入居者を対象に,ケアハウス
器付きミニキッチン,冷蔵庫,冷暖房機,洗面化粧台,
という共同居住形態の 「 住まい 」 において,①実施して
緊急通報システムが設置されている。その他は, 5 階に
いる生活行為とその実施状況,および,②受けている支
ゲストルーム,食堂,浴室(男性用),浴室(女性用),
援とその状況を明らかにした上で,対象者の③支援環境
事務所,デイコーナー(ビリヤード室),ロビー,訪問
に対する評価を調べることにより,共同居住形態の 「 住
介護室,洗濯室,6 階に大浴場 2 つ,ガーデンテラス註 2 ,
まい 」 における対象者の生活環境の改善点について考察
洗濯室が配置されている。(図 1 )
することを目的とする。
なお,本研究では,生活とは 「 行為主体に即して,時
間的,空間的に構造化された何ものか 」 2 ) という考えを
基本として,生活環境を 「 空間 」「 行為 」「 時間 」 の概念
から捉えることを試みる。また,支援を,居宅サービ
スやケアハウスが提供するサービス等制度下にあるサー
ビス,外部業者による訪問サービス,家族・知人・他入
居者等から受けるインフォーマルなサポート等,対象者
の生活行為の実施に必要なサービスおよびサポートとす
る。
2 研究の対象
2-1 対象施設
大阪市住吉区にあるケアハウスAを対象とした。天王
寺,難波,梅田の都心に近く,近隣には,住宅街,中学
校,研修センター,障害者作業所,都市計画公園などが
あり,都心への買い物や近隣での散歩等,ケアハウス外
でも活動がしやすい立地条件となっている。40名を定員
とし,デイサービス,診療所,喫茶(以上, 1 階),特
別養護老人ホーム( 2 ∼ 4 階)が併設された建物の 5 ,
図1 ケアハウスの平面図
6 階部分にある。(表 1 )
ケアハウスの入居者用居室は,個室36室と夫婦用居室
5 階中央に位置する食堂は,食事の他,施設が提供
2 室(単身者用:21.6㎡,夫婦用:32.9㎡)で構成され,
する様々なレクリエーション(以下,レク)や入居者が
2
( )
絹川・加藤・三浦・森:高齢者の共同居住における生活行為と支援環境−ケアハウス入居者の生活を事例として−
主催するレクに利用され,入居者の社交場所として機能
ることができる。入浴の介助は行わない。相談・助言は,
している。ロビーは排煙機が設置されているため喫煙場
入居者の希望により随時受付けているが,施設側からは
所として,そして,外部サービス(銀行)の利用場所と
年 1 回の面談が実施されている。在宅福祉サービスの利
して利用されている。デイコーナーも同じく外部サービ
用援助では,ヘルパー派遣のための援助等を行っている。
ス(散髪)の利用およびビリヤードとマッサージチェア
各室には緊急通報ベルが設置され,緊急時の対応を行っ
ーが設置されているためそれぞれの目的で使用されてい
ている。
る。ガーデンテラスは, 6 階入居者全員で月 1 回催す 6
2-4 外部サービスの利用
階入居者のためのお茶会に使用されている。
外部業者が対象施設に出向いて提供しているサービス
2-2 調査対象者
には,銀行からの出金等サービス(週 1 回),散髪(月
調査への協力を得た15名の内,認知症の症状がみられ
1 回),カーテン等大きな物の洗濯サービス(年 1 回),
ない12名を対象とした。(自立 : 6 名,要支援 : 3 名,要
ヘルパー(要支援・要介護グループ 6 名全員が利用:週
介護度 1 : 3 名)。(表 2 )
1 ∼ 2 回)がある。その他,外部からボランティアと
対象者の入居年数の平均は, 6 年11 ヶ月である。対
して週 1 回手工芸・書道等レクの講師が訪問している。
象者の半数( 6 名)は開設時に入居している。開設時か
3 研究の方法
ら約10年の時間が経過しつつあり,入居者の身心機能の
低下が見られ始めている。対象者を身心属性から,介護
保険の認定をうけないグループ(自立: 6 名,以下自立
12名を対象に,個別に 2 ∼ 3 時間をかけ構造的聞き取
グループ),介護保険の認定者であるグループ(要支援:
り調査を行った。表 3 に示す内容以外にも,対象者が話
3 名・要介護度 1 : 3 名,以下要支援・要介護グループ)
す内容の記録も行った。調査は,2006年 3 月中旬に実施
の 2 グループに分ける。
している。
両グループとも日常生活動作(ADL)は自立してい
表3 調査の項目
る。手段的日常生活動作(IADL)は,自立グループ
は全項目について自立しているが,要支援・要介護グル
ープは家事,食事を中心に支援が必要な状態にある。(表
2)
表2 対象者のⅠADL
4 対象者の生活環境
2-3 対象施設が提供するサービス内容
4-1 生活における空間利用の状況
一般のケアハウスと同様,食事・入浴準備,相談・助言,
調査日より遡った 1 週間もしくは平均的な 1 週間を対
在宅福祉サービスの利用援助,緊急時の対応,夜間の管
象として,利用した空間(居室,共用空間,屋外空間),
理,娯楽活動の援助等のサービスを提供している。
利用時間および利用内容について調べた。図 2 は自立グ
食事は階下の特別養護老人ホームの給食室で調理され
ループのYOさんが 1 週間に利用した空間と利用時間,
た給食が運ばれる。事前にメニューが配布され,入居者
利用内容,および, 1 週間の生活の概要であり,事例と
が給食の利用を決定するシステムとなっている。各給食
して示す。図 3 は,グループ別対象者毎に空間利用の割
とも提供時間が決められており, 3 ヶ月に 1 度食堂の
合を示している。( 6 :00∼18:00,30分毎: 1 カウント)。
テーブルの着席場所をくじにより決定する。入浴につい
居室外空間(共用+屋外)の最も高い利用率は59%( 1
ては,14:00∼20:00の間であれば希望する時間に入浴す
日平均 7 時間),最も低い利用率は16%(同 2 時間),全
3
( )
生活科学研究誌・Vol. 5(2006)
図3 対象者別1週間の空間利用の状況
は全体で153カウント,一方,要支援・要介護グループ
では182カウントであった。以上のことにより,身心機
能が低下し屋外空間の利用が低くなった場合,施設内の
共用空間の利用が多くなる傾向があると推察できる。
4-2 生活行為の実施の有無
既往研究 3 ) や文献 4 )
5)
を参考にあらかじめ用意した生
活行為の実施状況について実施の有無を確認した。調
査において対象者が示したその他の生活行為も加え,対
象者の生活行為の実施の有無をまとめたものが図 4 であ
る。ここでは,対象者本人が生活行為の実行に関わるこ
とを 「 実施している 」 とする。(職員等が代行して実施し
ている場合は 「 実施していない 」 となる。)
図2 YOさんの1週間の生活
生活行為を大きく基本生活に関わる項目,安心生活に
体平均では35%(同4.2時間)という結果であった。内
関わる項目,ゆとり生活に関わる項目の 3 分類に分類し,
訳は次の通りである。共用空間の最も高い利用率は33%
基本生活に関わる項目は,必需項目,運営項目,自由項
( 同 4 時間 ),最も低い利用率は 4 %(同 0 . 5 時間)。全
目に分けた。註 3 図 4 では,施設から提供されるサービ
体平均では17%(同 2 時間)という結果であった。屋外
スに関わる生活行為を網掛けで示している。 2 - 3 に示
空間の最も高い利用率は38%(同 4 . 5 時間)であったが,
したサービスの他,聞き取り調査により,ゴミステーシ
利用してない対象者が 2 名みられた。
ョンに集められたゴミの処理,月 1 回の入居者総会の開
両グループを比較すると,居室外空間の利用率に特徴
催,年金等の事務処理,新聞等購読物の受取り,数名の
的な違いは見られなかった。しかし,要支援・要介護グ
入居者に対する血圧チェックが行われていることを確認
ループでは,屋外空間を利用していない対象者(MY,
した。これらも加えて網掛けで示している。
ID)がみられ,屋外空間の利用率が低い対象者(NH)
必需項目は,両グループともほぼ全員が実施してい
を合わせたこの 3 名については共用空間の利用率が高い
た。運営項目は,グループで差が見られる。実施してい
傾向がみられた。また,自立グループの共用空間の利用
ない入居者がみられた項目数は,自立グループでは 9 項
4
( )
絹川・加藤・三浦・森:高齢者の共同居住における生活行為と支援環境−ケアハウス入居者の生活を事例として−
図4 生活行為の実施の有無
目,一方,要支援・要介護グループでは26項目であった。
調整 」 とは,実施に関わる要素(社会的環境,物理的環
安心生活に関わる項目では,人間関係の調節を両グルー
境,時間条件,行為,その他;本研究では,実施に関
プの全員が行っていた。ゆとり生活に関わる項目では,
わる要素を実施状況に作用するものとして実施環境とす
実施者は自立グループの 1 名のみであった。以上のよう
る)を調整することを指す。共同居住形態の「住まい」
に,軽度に身体機能が低下した場合,実施する項目が減
における生活環境の調整を示すことを重視し,表 4 では
るのは運営項目であり,その他の項目については両グル
一般に行われる調整内容と区別して示している。共同居
ープで実施に顕著な差がみられなかった。
住に特有なものとしては,「 食事・入浴・洗濯・レク・
TV / ラジオ,相談 / 助言・人間関係 」 の項目において,
4-3 生活行為の実施状況
「くじ引きで気が合わない人と同じテーブルになった時
「自立」「支援(を受けている)」「支援する」という
は,自室に給食を運び食べている」「嫌いな人が入って
3 分類を用いて生活行為の実施状況を確認した。しか
いる時を避けて入浴する」等,他者との関係や居合わせ
し,聞き取り調査において,「 気の合わない人とテーブ
により生活行為の実施や生活環境を制限する形で実施環
ルが一緒の時は給食を自室に持ち帰る等の調整をしてい
境を調整していた例があげられた。また,逆に,「 6 階
る 」「 実施していないが要望している 」 等の状況を確認し
のガーデンテラスでは職員や 5 階入居者の視線が気にな
た。そのため,「 調整 」「 要望 」 も加えた 5 分類の組み合
らないので月 1 回 6 階入居者の誕生日を祝うお茶会をす
わせにより対象者の生活行為の実施状況を分析した。確
る 」「 購読料を抑えるため他入居者と一緒に新聞を購読
認した実施状況のパターンは12パターンであった。
している 」 といった物理的環境や社会的環境を利用して
生活行為の実施状況・実施環境・「調整 」 そして後述
生活行為の継続や生活環境を豊かにしている例もみられ
する 「 支援 」 に関する概念を整理した。(図 5 )調査で
た。以上のように,他者との関係や居合わせによる生活
確認した 「 調整 」 の具体的内容は表 4 にまとめている。「
行為の実施環境の調整は,共同居住特有の生活行為の実
5
( )
生活科学研究誌・Vol. 5(2006)
図5 生活行為および支援に関わる概念の説明
施状況として捉えることができる。
新聞 / 雑誌),安心(安否確認)がみられた。
[ 対象者が実施している生活行為]
両グループに共通して半数( 3 名)以上が実施環境の
生活行為の実施状況を 「 支援 」「 調整 」「 支援・調整 」 に
調整をしていると答えた項目は,必需(食事)であった。
分けて示す。(図 6 )本研究の目的から,完全に自立し
自立グループのみでは,安心(人間関係)があげられ,
ている(○:自立)項目以外についてまとめている。
要支援・要介護グループのみでは,必需(入浴)があげ
支援を受けて実施している項目(「自立+支援」
「支援」
られた。
「自立+支援+要望」)は,自立グループは18項目,要支
また,支援を受けながら実施環境の調整をしている項
援・要介護グループは26項目であった。実施環境を調整
目については,自立グループが自由(レク)をあげていた。
しながら実施している項目(「 自立+調整 」)は,自立
以上のことから,両グループとも支援を受けながら,
グループでは 6 項目,要支援・要介護グループは12項目
もしくは,実施環境を自ら調整しながら生活行為を実施
であった。また,支援を受けながら自ら実施環境を調整
しているが,身体機能が低下した対象者グループ(要支
し実施している項目(「自立+支援+調整」
「支援+調整」)
援・要介護グループ)の場合,より多くの生活行為にそ
は両グループともに 4 項目であった。
の傾向がうかがえる。特に,同グループでは,実施する
両グループに共通して半数( 3 名)以上が支援を受け
運営項目が限られているが(図 4 ),実施環境を調整し
ていると答えた項目は,運営(洗濯・ごみ捨て・会合へ
たり,支援を受けながら実施している状況が示された。
の参加(施設内),自由(レク・家族との交流)であっ
[対象者が実施していない生活行為]
た。自立グループのみでは,安心(相談 / 助言)があげ
対象者本人は実施していないが,支援を受けている,
られ,要支援・要介護グループのみでは,必需(散髪・
支援を受けながら調整している項目,つまり,支援者の
通院),運営(掃除 ( 自室)),自由(親類 / 知人との交流・
みが実施に関わり実施されている生活行為(代行),お
6
( )
絹川・加藤・三浦・森:高齢者の共同居住における生活行為と支援環境−ケアハウス入居者の生活を事例として−
表4 「調整」の具体的内容
図7 支援者が代行して実施している生活行為および対象者が
要望している生活行為 よび,現在実施していないが要望している生活行為を図
7 にまとめている。
支援者が代行している生活行為は,自立グループでは
8 項目,要支援・要介護グループでは13項目みられた。
施設職員が代行する生活行為としては,給食,共用部分
の掃除のサービスを除くと,要支援・要介護グループで
は,公的事務処理を代行してもらっている者が 4 人みら
れた。
現在実施されていないが要望として挙げられた生活行
為は,自立グループでは,リハビリ・会合への参加 ( 地
域 )・奉仕活動・相談 / 助言,要支援・要介護グループでは,
リハビリ・整理 / 片付け・墓参り・レク・外食・相談 / 助
言であった。
[対象者が支援している生活行為]
対象者が他入居者に対して支援をしている生活行為を
図 8 に示す。対象者は一様に「身体機能が低下した他入
居者への支援は問題が生じたら困るので控えるようにし
ている」と発言した。しかし,認知症の症状が出て精神
活動の低下がみられる入居者に対しては,自立グループ
ばかりでなく,要支援・要介護グループの対象者が支援
をしていることを確認した。認知症の症状がみられる他
入居者とレクに参加する時に,はぐれないように一緒に
歩く,忘れていること等の声かけをする,新聞 / 雑誌を
運んであげる等がその内容である。
図8 対象者が支援している生活行為
7
( )
生活科学研究誌・Vol. 5(2006)
図6 生活行為の実施状況(完全に自立して実施している生活行為以外について)
5 支援状況
5-1 支援パターン
前項では,生活行為の実施状況から,対象者,特に身
体機能が低下した人が,実施環境の調整を行いながら生
活行為を実施していることを把握し,その内容を示した。
本項では,支援を受けている状況を明らかにする。支援
の形態(直接・間接・代行)および支援を受ける時間(定
常的・一時的)により支援を受ける状況を類型化し(図
5 ),これを用い,支援を受けている状況を分類し,示
した(図 9 )。
最も多く見られたのは,代行・定常支援と直接・定常
図9 各支援パターンの実施状況
支援であった。間接支援はみられなかった。
8
( )
絹川・加藤・三浦・森:高齢者の共同居住における生活行為と支援環境−ケアハウス入居者の生活を事例として−
5-2 生活行為別にみる支援状況 者, 2 :第 3 者の存在(以上,社会的環境), 3 : 物理的
生活行為別に支援状況を表したものが図10である。直
環境, 4 :支援を受けるタイミング(時間条件), 5 : 支
接支援を定常的に受けている(直接・定常的支援)項目
援内容)を支援環境(図 5 )と捉え,受けている支援に
については,自立グループでは,レク・ゴミ捨て・会合
ついて「問題ない(○),どちらでもない(△),問題あ
への参加(施設内)の施設側から提供されるサービス,
る(×)」という基準で対象者に評価をしてもらった。(図
外部サービスを利用した洗濯,そして,家族の訪問によ
5 )△と×と評価された項目については,以上の 5 要素
る家族との交流が多くみられた。要支援・要介護グルー
について,気になる,あるいは,問題として認識する点
プでは,施設から提供されるレク・新聞 / 雑誌・ゴミ捨て,
をきいた。また,現在実施されていないが実施を要望す
外部サービスを利用する洗濯・散髪が多くみられた。代
る生活行為についても,支援自体がないことを問題とし
行支援を定常的に受けている(代行・定常的支援)項目
て捉え 5:支援内容と分類して,併せて整理をしている。
については,自立グループでは,施設から提供される食
これらを改善点として捉える。
事の支度(給食)・掃除(共用)・新聞 / 雑誌が主なもの
図11は△・×の評価を受けた項目について,支援を受
であった。要支援・要介護グループでは,施設から提供
される食事の支度(給食)・掃除(共用)・公的事務処理
が多くみられた。
図10 生活行為別支援状況
6 支援環境評価からみた生活環境の改善点
6-1 支援環境評価の基準
次に,支援を受けることに作用する要素( 1 :支援
9
( )
図11 支援環境評価からみた生活行為の要改善点
生活科学研究誌・Vol. 5(2006)
ける場所および改善点をまとめたものである。対象者の
宅すると入浴できない),流し台の高さが調整できない
半数以上が低い評価をした項目は,食事とレクであった。
こと(流し台が高いため,洗面台で皿等を洗っている),
居室が狭いこと(ベッドを置くと狭くて物が片付かない。
6-2 支援環境の5要素からみた改善点
そのため,自室での他入居者との交流が限られる),通
支援者を問題としていた生活行為は,入浴・洗濯物た
風の調節ができないこと(風通しをよくしたいが,廊下
たみ(ヘルパーの質が悪い),墓参り(家族が管理して
に面しているドアを開けておくのは嫌。ドアと窓に通風
くれない),新聞 / 雑誌(届けてくれる他入居者が忘れ
の調節ができる小窓が欲しい)が問題点として挙げられ
る・間違う),レク・外食・相談・人間関係(以上,支
た。
援者がいない)であった。
共用空間において行われる支援の評価として,食堂で
第 3 者を問題としていた生活行為は,食事・入浴・レ
の食事の席決めのルールがあること,認知症や機能低下
ク(以上,他入居者の存在が気になる)であった。
した人のためのリハビリやレクの機会がないこと,洗濯
物理的環境を問題としていた生活行為は,食事(共用:
機の使い方がわからないこと,認知症の人が新聞を持っ
広すぎる)
・入浴(居室:シャワー設備が欲しい,共用:
てきてくれること(以上,支援内容),食堂での食事・
危ないので手すりが欲しい)・洗濯(共用:脱水機だけ
大浴場での入浴・レク実施時における他入居者との関係
が欲しい)・レク(共用:食堂をレクに使用している時
(第 3 者の問題),夕食の時間が早いこと,掃除・洗濯の
はうるさくて自室ドアを開けられない),そして,食事
ヘルパーサービスが十分でないこと,レクに利用できる
の支度 / 片付け(居室:流し台が高い),整理 / 片付け(居
場所が限定されており,レクの実施が限られること(以
室:ベッドを置くと狭くて物が片付かない),冷暖房管
上,タイミング )),食堂が広すぎること, 6 階浴室に手
理(居室:小窓が欲しい)であった。次項に,空間毎に
すりがないこと,食堂でレクが行われるとうるさいこと
改善点の整理を行う。
(以上,物理的環境)が問題として挙げられた。
タイミングを問題としていた生活行為は,食事(施設
屋外空間において行われる支援については,買い物・
による支援:夕食の時間が早い),入浴(施設による支援:
金銭管理・墓参り・個人的なレクのための外出支援やそ
入りたい時に入れない),レク(施設による支援:カラ
のための支援者の確保できていないこと(支援者・支援
オケをもっとしたい),掃除(自室)・洗濯(ヘルパーに
内容),地域の会合への参加・奉仕活動の機会がないこ
よる支援:ヘルパーが来る間隔が長い),レク(他入居
と(支援内容)等が問題点として挙げられた。
者による支援:食堂が使われていない時にしか入居者企
居室もしくは共用空間(居室 / 共用)で行われる支援
画によるレクができない)であった。
の評価として,気軽にできる相談 / 助言・人間関係につ
支援内容を問題としていた生活行為は,食事(施設
いての相談相手がいないこと(支援者),職員にしか相
による支援:味,席決めのくじ引きが問題),レク(施
談することができないという現状(支援内容)が問題点
設による支援:認知症の人も参加できることをしてほし
として挙げられた。
い),リハビリ(施設による支援:外出がむずかしいの
各空間および支援環境の要素別に改善が必要とした回
で施設内で腰痛の針灸を受けたい,介護予防のリハビリ
答数を示したものが表 5 である。共用空間は全要素に関
をしてほしい,足が弱ってきた他入居者のためにリハビ
して改善が必要であると回答された。特に,第 3 者,支
リをしてあげてほしい),食事の支度 / 片付け(施設に
援を受ける時間的条件(タイミング),支援の内容が改
よる支援:お茶を沸かすのもしんどくなってきた。食事
善対象として挙げられた。その他,屋外空間に関しては,
以外の時のお茶のサービスをしてほしい),洗濯(支援
支援内容が改善対象として挙げられた。
がない:脱水機だけ使いたいが,使い方がわからない),
買物,整理 / 片付け,冷暖房管理,金銭管理,会合への
参加(地域),墓参り,奉仕活動,相談 / 助言(以上,支
援がないことが問題)であった。
6-3 空間別にみた改善点
本項では,利用空間(居室,共用空間,屋外空間)から,
改善点の整理を行う。 居室では,シャワー設備がないこと(入浴時間外に帰
10
( )
表5 空間別にみた改善対象となる支援環境要素
絹川・加藤・三浦・森:高齢者の共同居住における生活行為と支援環境−ケアハウス入居者の生活を事例として−
7 結論
・支援を受けることに作用を及ぼす 5 要素 ( ①支援者,
②第 3 者,③物理的環境,④タイミング,⑤支援内
生活に支援が必要なケアハウス入居者(身体機能が
容 ) について支援環境の評価を行ってもらい,改善の
自立している入居者 6 名および要支援・要介護度 1 と認
対象となる生活行為の整理をした。
定されている入居者 6 名)を対象とし,共同居住形態の
・①支援者では,ヘルパー,他対象者が改善対象とし
住まいにおける対象者の生活環境と支援状況を明らかに
て挙げられていた。また支援者自体がいないことが
し,支援環境評価から生活環境の改善点について考察す
問題視されている生活行為があった。
ることを目的とした。一事例ではあるが,本研究で得た
・食事・入浴・レクといった施設側から提供される主
知見を以下にまとめる。
要なサービスにおいて,②第 3 者の存在が改善対象
1)対象者の生活環境
として挙げられていた。
・ 空間利用をみた結果,対象者は居室を基本としつつも,
・③物理的環境については,空間別に改善対象の整理
居室外空間(共用空間+屋外空間)を平均で 1 日 4 時
を行った。共用空間については,食事・入浴・リハ
間以上利用して生活を展開していた。また,屋外空間
ビリ・レクの実施と関連した改善が望まれている。
の利用が少ない要支援・要介護グループ対象者に共
屋外空間については,個別外出への支援や支援者の
用空間の利用率が高い傾向がみられた。以上のことか
確保,および,地域との交流機会の創出の実施と関
ら,対象者の生活にとって,居室外空間,特に,身体
連した改善が望まれていた。居室については,シャ
機能が低下した場合,共用空間が重要な意味をもつこ
ワー設備の設置,流し台の高さ調節,居室の広さ,
とが示唆される。
通風の調節に関した改善が望まれていた。
・生活行為の実施の有無をみると,軽度に身体機能が低
・支援を受ける④タイミングでは,食事・入浴・レクの
下した場合,実施する項目が減るのは基本生活に関わ
施設側から提供される主要サービス,ならびに,在
る運営項目であり,その他の項目については両グルー
宅福祉サービス(ヘルパー)を利用できる間隔があ
プで実施に顕著な差がみられなかった。
げられていた。
・生活行為の実施には,自立する・支援を受ける・支援を
・⑤支援内容では,施設側から提供される食事・レクが
するに加えて,実施環境の調整という状況がみられ
あげられていた。また,支援がないことが問題とさ
た。特に,要支援・要介護グループの対象者が実施環
れていたのは,介護予防や認知症を対象としたリハ
境の調整を行いながら生活行為を実施していた。安心
ビリ・レク,自室での食事の支度 / 片付け,洗濯,買物,
生活に関わる項目のうち,人間関係の調整は対象者全
整理 / 片付け,地域での会合への参加 / ボランティア
員が実施していると答えており,社会的環境調整(第
等の機会の創出,墓参り,相談 / 助言であった。
濯・レク等,他入居者と共に実施する生活行為を実施
3)生活環境の改善点に関する考察
[ 生活環境の構築について ]
していることを確認した。
・対象者は,支援を受けるだけでなく,実施環境を調
3 者との居合わせの調整)を行いながら食事・入浴・洗
・要望するものとして両グループに挙げられた項目は,
整しながら生活行為を実施していることを把握した。
リハビリ・相談 / 助言であった。これに加えて,自立
生活行為の実施を制限するのではなく,生活行為を
グループでは会合(地域)・奉仕活動,要支援・要介
継続させ生活環境を豊かにすることに向けて調整す
護グループでは整理 / 片付け・墓参り・外食・レクが
ることができるように生活環境を整備することが重
挙げられた。
要である。このことから,身心機能の衰えとともに
・対象者は,身心機能が低下した入居者を支援の対象
変化する生活行為の実施状況を把握する必要がある
としてみている。特に,認知症の症状が出て精神活
動の低下がみられる入居者に対しては,自立グルー
と考えられる。
・時間の経過とともに入居者の身心機能が低下し,身
プばかりでなく,要支援・要介護グループの対象者が,
心機能によりグループ分けができている。特に認知
声かけ等の支援をしていることを確認した。
症の症状は,自立グループの精神的不安要因となり,
2)支援状況
また,入居者間で「支援する人・支援を受ける人」
・支援パターンにより支援状況を分析した結果,定常
という関係が生まれている。このことから,身心機
的な直接支援および代行支援はみられたが,間接支
能が自立している高齢者と身心機能が低下した高齢
援の実施はみられなかった。
者,特に,認知症の高齢者と共に共同居住する場合
11
( )
生活科学研究誌・Vol. 5(2006)
の問題点や課題を明らかにする必要があると考えら
こと,参加したい時にレクに参加ができないこと,
れる。
ヘルパーによるサービスを受ける間隔が長い点等が
・施設側から提供されるサービスを利用する際の第 3
支援を受ける時間条件の調整により対応可能な項目
者の問題は共同居住において大きな課題である。身
である。
心機能の低下による人間関係の悪化は,高齢者の共
註
同居住における生活環境の構築において対応の対象
となると考えられる。
1 )介護保険が導入された2000年以降の認定者数の推移
[ 物理的環境について(空間)]
をみると,要支援(104%)と要介護 1 (125%)が
・対象者の身体機能属性(自立∼要介護度 1 )の場合,
増加を示している。2004年現在では認定者の50%を
居室外空間を自発的に利用しながら生活を展開して
いる。また,身体機能が低下して外出が困難となり,
占めている。
2 )屋上の花壇と花壇を臨む廊下を利用した屋内空間で
屋外空間を利用していない場合は共用空間の利用率
構成される。廊下にはテーブルと椅子がしつらえら
が高い傾向がみられたことから,共用空間は,他者
れており,対象者はここでお茶会などを行う。その
と交わりながら社会性をもって暮らすことを重視し
ため,ここで言うガーデンテラスとはこの廊下空間
た計画とされる必要がある。
を指し,空間区別としては共用空間とする。
・人間関係の調整が対象者の生活において課題の 1 つと
3 ) 分類にあたっては既往研究 3 ) や文献 4 )
5)
を参考に
なっていた。 6 階には職員や 5 階入居者の目に触れ
している。大分類として,文献 4 )では,食事・入
ず利用できるガーデンテラスがあり, 6 階入居者は
浴などを必需行動,仕事・通学・社会参加などを拘
この空間を有効に利用し, 6 階入居者同士で良好な
束行動,交際・レジャーなどを自由行動とし,文献
人間関係を形成していた。このことから,食堂やレ
5 ) では睡眠・食事などを 1 次活動,仕事・家事な
クに対応できる共用空間の小規模分散化,様々な人
どを 2 次行動,その他自由に使える時間を 3 次活動
数の利用に対応可能な空間やしつらえの設置等,人
としている。しかし,本研究の対象者である部分的
間関係の形成をサポートする物理的環境の計画が重
に支援を必要とする高齢者の生活行為には当てはま
要である。
らない項目や分類がみられた。そこで,面接調査に
・身心機能が低下した場合ベッドを使用するようになり
より,要介護状態となってから現在までに実施して
ますます居室が狭くなることから,居室は他入居者
きた生活行為について確認しまとめた既往研究 3 )
や家族等との交流を行う空間としての機能が低下し,
も参考に,本研究では生活行為の分類を行っている。
ベッドを中心とした寝室へと変化する。身心機能が
なお,図 4 では,本文中に示したように,あらかじ
低下しても,人との交流や生活の拠点として快適な
め用意した生活行為の項目に,聞き取り調査におい
居室を計画する必要がある。
て対象者が示した他の生活行為を加えてまとめてい
[ 支援内容について(行為)]
る。
・両グループともに,介護予防 / 認知症対応型のリハビ
参考文献
リの実施や相談 / 助言を要望していた。また,自立グ
ループでは地域との交流の機会創出を要望し,要支
援・要介護グループでは外出に関する支援を要望し
1 )厚生労働省:介護保険制度改革の概要(パンフレッ
ていた。このことから,身心機能の低下防止,認知
ト)∼介護保険法改正と介護報酬改定∼
症の症状がみられても参加できるレク,気軽にでき
(2006年 3 月)
る生活上の相談,屋外への生活領域の拡大等があら
2 ) 三浦典子,森岡清志,佐々木衛編集:リーディン
たな支援内容として考慮するべき項目である。
グス日本の社会学 5 生活構造,東京大学出版会 [ 支援を受けるタイミングについて(時間)]
(1986年)
・気軽に相談ができる相手や外出支援の支援者がいな
3 )絹川麻里,高田光雄,三浦 研:要介護高齢者の
いという点,介護予防 / 認知症対応のためのリハビリ
施設入居前の生活実態からみた在宅生活の意義と限
/ レクが提供されていないことが挙げられた。
界,日本建築学会計画系論文集,No.582, pp. 9 -16
その他,食事の時間が決められていること,第 3 者
との居合わせの問題で入りたい時に入浴ができない
(2004年 8 月)
4 )NHK 放送文化研究所:2005年国民生活時間調査報
12
( )
絹川・加藤・三浦・森:高齢者の共同居住における生活行為と支援環境−ケアハウス入居者の生活を事例として−
告書 ( 全国 ),(2006年)
5 )総務庁統計局,平成13年社会生活基本調査報告,第
1 巻,全国生活時間編(その 1 )−男女,年齢,就
業状態別にみた 1 日の生活時間−(2001年)
高齢者の共同居住における生活行為と支援環境
−ケアハウス入居者の生活を事例として−
絹川 麻理、加藤 悠介、三浦 研、森 一彦
要旨:共同居住という形態が高齢者の住まいの選択肢として加えられた。
そこで,ケアハウス入居者の対象として,共同居住形態の住まいにおける対象者の生活環境の改善点について考察
することを目的とする。12名(自立:6 名,要支援・要介護度 1:6 名)を対象に聞き取り調査を行った。対象者は,
生活行為の実施環境を調整することにより生活行為を実施していた。人間関係の調整,身心機能の低下は共同居住
の課題である。人間関係の形成をサポートする空間計画,身心機能の低下に対応し,また,予防する生活支援が望
まれる。
13
( )
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