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国立大学における教育・研究・運営への IT 活用

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国立大学における教育・研究・運営への IT 活用
国立大学における教育・研究・運営への IT 活用
山井 成良
岡山大学総合情報基盤センター
概要:国立大学の教員の立場から,教育・研究・運営への IT 活用に関してこれまでの 10 年間を振り返り,国立大学が共
通に抱える問題点を指摘する.また現時点における最新技術をもとに,これからの 10 年間の方向性を予測する.
キーワード:国立大学,システム管理,補正予算,大学間連携,クラウドコンピューティング,PC 必携化
1. はじめに
ト(10Base5,10Mbps)が使われていたが,
特 に FDDI ネ ッ ト ワ ー ク は 老 朽 化 が 進 み,
梅雨時には頻繁に障害が発生する状況であっ
た.機能的にも VLAN などの仮想ネットワー
ク,認証付き情報コンセント,無線 LAN な
どの機能は利用できず,キャンパス間ネット
ワーク(最も速い回線で 2Mbps)や対外接
続回線(SINET,4Mbps)の遅さも相まっ
て利用者からは強い不満が寄せられていた.
この度のパネルディスカッションでは,パ
ネリストのうち筆者だけが国立大学所属で
あったため,国立大学の立場から教育・研究・
運営への IT 活用に関してポジショントーク
を行った.本稿では,筆者がこれまでの経験
や学会活動を通じて入手した情報に基づき,
主として地方国立大学における IT 活用の現
状を述べる.
2.2 2009 年時点での岡山大学の状況
2. これまでの 10 年間
その後,教育・研究用計算機システムは 2
回の更新を経て,現在では 2006 年 1 月に更
新したシステムが使われている.教育用計算
機には Windows XP を搭載した PC が約 950
台あり,その他にベクトル計算サーバ(NEC
SX-6i)やスカラー計算サーバ(NEC TX-7)
が導入されている.また,2009 年 4 月から
学生を対象に gmail サービスを提供している.
一方,キャンパスネットワークは 2002 年
1 月に更新され,現在に至っている.構成は
基幹部分がギガビットイーサネット
(1000BaseSX/LX,1Gbps)
,支線部分がファ
ストイーサネット(100BaseTX,100Mbps)
であり,ほぼ全ての部屋まで UTP ケーブル
が敷設されている.また,VLAN 機能(IEEE
802.1Q)を活用して物理的に離れた建物間に
またがる仮想的な支線ネットワークを構築で
きるようになった.さらに認証機能付き情報
コンセントや無線 LAN についても一部整備
されている.但し,導入から約 8 年が経過し,
老朽化が目立つことから早期の更新が必要で
あり,折しも本年度の補正予算が認められた
ことから本年度中に認証スイッチを主体とし
たネットワークに更新される予定である.
キャンパス間ネットワーク(岡山情報ハイ
ウ ェ イ 経 由 1Gbps な ど ) や 対 外 接 続 回 線
(SINET,1Gbps)についても高速化や一部
で冗長化が行われており,10 年前と比較す
ると大幅に改善されている.
筆者が所属する岡山大学総合情報基盤セン
ターを例にとり,これまでの 10 年間に IT
に関連する設備がどのように変遷してきたか
を示す.センターが管理運用する主たる IT
関連設備は教育・研究用計算機システムと
キャンパスネットワークの 2 つである.
2.1 1999 年時点での岡山大学の状況
まず,教育・研究用計算機システムでは,
教育用計算機として Windows95 を搭載した
PC を多数使用しており,その他にメインフ
レーム(NEC PX7900/20),ベクトル計算機
(NEC SX-4C/2)などが存在した.当時最も
重要であった問題点は Windows95 における
利用者認証と利用環境の保守で,このうち前
者に関しては OS に認証機能はあるものの
ESC キーにより回避可能であり,役に立た
な い も の で あ っ た. ま た 後 者 に つ い て も
Windows95 では基本的に利用者は管理者で
もあり,自由に設定を変更できたため,ディ
スク内容の定期的なリカバリが必須の状態で
あった.
一方,キャンパスネットワークでは,基幹
部 分 が 1994 年 3 月 に 導 入 し た FDDI
(100Mbps × 4 系統)と 1996 年 4 月に導入
した ATM ネットワーク(155Mbps)の併用,
支線部分が 1994 年 3 月に整備したイーサネッ
16
2.3 10 年前と現在との比較
うな状況を生み出した要因の一つは国立大学
の予算の仕組みにある.
教育・研究用計算機システムは 10 年前で
は 4 年間のレンタル契約で調達されていたが,
2001 年の更新からは予算が 2 割削減された
ためリース期間を 5 年間として調達した.実
際には,資料招請時から仕様策定,入札を経
て稼働開始に至るまで約 1 年の期間があるた
め,リース期間終了直前には約 6 年前の技術
を使用していることになる.また,2004 年
に行われた国立大学法人への移行後は大学の
予算(運営費交付金)に対して毎年 1%の削
減が行われている一方でリース額は次の更新
まで不変であるため,情報系センターの予算
のうち自由に利用できる部分が毎年 100 万円
以上減り,部分的な設備増強もままならない
現状となっている.
キャンパスネットワークについては多くの
国立大学ではリースではなく買い取りで調達
している.本来であれば,ネットワーク整備
は文部科学省に概算要求を行って予算化され
るはずであるが,予算が認められるのは特別
な理由付けが必要であり,通常は数校程度し
か認められない.そのため,現在使用されて
いるキャンパスネットワークは補正予算によ
り調達されたものが多い.岡山大学では,
1993 年 1 月に FDDI ネットワーク,1996 年
4 月に ATM ネットワーク,2002 年 1 月にギ
ガビットイーサネットが稼働を開始しており,
また本年度中にネットワーク更新が予定され
ているが,少なくとも FDDI ネットワーク
を除く他の 3 つのネットワーク整備は補正予
算によるものである.補正予算では旧帝国大
学など一部の例外があるものの予算額は規模
によらずどの大学でもほぼ一律であり,岡山
大学など大規模な地方大学では十分な整備が
できない場合も多い.また,整備後に必要な
保守費が十分確保できず,次の更新の予測も
立たない(多くの大学が耐用年数経過後に一
斉に更新することになり,事実上困難)こと
から,古い機器を保守契約なしで何とか運用
しているのが現状である.
岡山大学に限らず,現在の教育・研究用計
算機システムやキャンパスネットワークにつ
いて 10 年前のものと比較すると,以下の 3
つのキーワードで表すことができる.
● 利便性の向上
CPU 性能や帯域の向上に加え,新しい
技術が次々に実用化され,利便性が向上し
ている点が 10 年前のシステムとの最も大
きな違いといえる.たとえば VLAN など
仮想ネットワーク技術の導入,情報コンセ
ントや無線 LAN などネットワークアクセ
ス環境の変化,統合認証やシングルサイン
オン(岡山大学では未導入)などの認証基
盤の提供などが代表例である.
● 安全性の向上
10 年前では感染力の強いコンピュータ
ウイルスが広範囲に蔓延する一方,教育・
研究用計算機システム側では特別な防御手
段を持っていなかった.しかし,現在のシ
ステムではウイルス対策が PC 上でもネッ
トワーク上でも導入されており,その意味
で安全性が向上しているといえる.同様に,
迷惑メール対策や不正侵入などの脅威に対
してもファイアウォール,不正侵入検出 /
防 止 装 置(IDS/IPS), 統 合 脅 威 管 理
(UTM)装置などを導入している大学が多
い.さらに脆弱性対策として検疫ネット
ワークなどの技術も利用可能である.
● 管理の省力化
管理者にとって重要なのが管理の省力化
である.前述のように 10 年前の教育用計
算機ではディスク内容の定期的なリカバリ
が必須であり大きな人的コストが発生して
いたが,現在ではシンクライアント,ネッ
トブート,自動メンテナンスシステムなど
が導入されており,管理者は少数のマス
ターディスクの内容だけ管理すればよいた
め,管理がかなり容易になった.また,教
育・研究用計算機システムやネットワーク
の構成要素がかなりの部分で多重化され,
障害発生時の対処も容易になった.
3. これからの 10 年間
2.4 国立大学の予算
現在の教育・研究用計算機システムやキャ
ンパスネットワークが一世代前の技術を活用
している状況に鑑みると,これからの 10 年
間は現時点での最先端技術が中心となること
が予想される.そこで国立大学や共同利用機
関で現在行われている取組みを紹介する.
これまでに述べたように,10 年前のもの
と比較すると現在の教育・研究用計算機シス
テムやキャンパスネットワークは多くの点で
優れているが,現在の技術水準と比較すると
一世代前のものである印象を受ける.このよ
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3.1 大学間連携
国立大学でもクラウドコンピューティング
の活用を進めているところがいくつかあり,
例えば名古屋大学では様々なサービスを
SaaS����������������������������������
(���������������������������������
Software as a Service������������
)
,����������
PaaS������
(�����
Platform as a Service),IaaS(Infrastructure as
a Service)として提供する計画が進んでい
る[ 4 ].
しかし,アウトソーシングやクラウドコン
ピューティングにもいくつかの問題点がある.
まず,具体的な処理内容が管理者から見えな
いため,障害発生時に原因を追究することが
困難になる点が挙げられる.これは特にクラ
ウドコンピューティングの場合に大きな問題
になりうる.これに関連して,たとえ原因が
特定できる場合でも管理主体が異なるため迅
速な復旧作業が期待できないこともありうる.
さらに,一度これらのサービス形態に移行す
ると学外のサーバ群やネットワークと深い相
互関係を築くことになるため,システム更新
などにも単独では行うことができず,円滑な
運用に影響を与えることになる.そのため,
これからの 10 年はアウトソーシングやクラ
ウドコンピューティングが普及するとともに
上記の問題を解決する技術の開発が進むと期
待される.
2006 年より旧帝国大学や国立情報学研究
所 な ど を 中 心 と し て,UPKI(University
Public Key Infrastructure,全国大学共同電
[1]
子認証基盤構築事業)
プロジェクトが進行
中である.このプロジェクトの活動の一つに
本年度から本格的に開始された学術認証フェ
デレーションがある.これにより大学間で相
互に認証連携が可能になり,学内でのシング
ルサインオンだけでなく他大学や商用のサー
ビスにおいても同じ ID とパスワードで利用
することが可能になる.
技術的には EDUCAUSE(米国高等教育に
お け る ICT 活 用 教 育 推 進 の 中 核 機 関 )/
Internet2 が開発したシングルサインオンシ
ステムである Shibboleth[ 2 ] を活用する.海
外では既に実運用に入っており,また国際的
なフェデレーション実験も開始されているこ
とから,これからの 10 年間は日本国内でも
普及していくものと思われる.
3.2 アウトソーシングと
クラウドコンピューティング
静岡大学などではサーバ群をセンター内に
置かずに学外のデータセンターに集約する,
アウトソーシングを採用している[ 3 ].この
場合,学内では原則としてシンクライアント
を用い,重要なデータを学内に置かないよう
にしている.これにより耐障害性の向上や省
エネ化を図ることが可能になる.問題は重要
なデータを学外に置くことがセキュリティポ
リシー上認められない大学が多い点であるが,
一方で重要なデータを学内に置くよりもデー
タセンターに置くほうが安全であるという意
見もあり,今後はアウトソーシングを採用す
る大学が増加すると思われる.
クラウドコンピューティングはネットワー
クを基盤とした計算機の利用形態であり,最
近クラウドコンピューティングに関する様々
な技術が特に注目されている.これまでの計
算機システム構築技術の推移を見ても,メイ
ンフレームを核とした集中型システム,多数
の計算機をネットワークで相互接続した分散
システム,管理の集中化により運用コストの
削減を目指したネットブートやシンクライア
ントと,集中化と分散化が繰り返されており,
様々なサービスをネットワーク上に分散化し
たクラウドコンピューティングはその次の時
代の主流となるであろう.
3.3 ノートPC・携帯端末の必携化・貸出
学生の情報活用能力を高め,また大学側が
十分な台数の端末を提供できない場合でも情
報教育を実施できるようにするため,いくつ
かの国立大学ではノート PC の必携化あるい
は無償貸与を実施している.たとえば静岡大
学情報学部では以前より入学時にノート PC
を購入させており,またお茶の水女子大学で
は新入生全員にノート PC を 1 年間無償貸与
している.この他にも高知大学,山口大学,
金沢大学などでノート PC 必携化の取組みが
行われている.また,私立大学でも同様の取
組みが進んでいる.現在のところ,このよう
な取組みは主流とは言えないが,今後,予算
削減あるいは PC を活用する講義の増加など
の要因により大学側で十分な台数を提供でき
ない状況が生じると,必携化が多数の大学で
導入される可能性がある.
但し,ノート PC の必携化には次のような
問題がある.まず,全員の学生に購入させる
ノート PC は価格を低めに設定せざるを得ず,
性能的にはそれほど高くはできないため,比
較的短期間で陳腐化してしまう点が挙げられ
る.一方,大学側で導入する PC はデスクトッ
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プ型が多く,ノート PC と比べると性能面で
優れている場合が多い.またノート PC は携
帯可能とはいえ携帯電話や PDA と比べると
重く,盗難の危険性も高い.そのため学生が
常時持ち歩くとは限らず,必携化の効果が薄
れてしまう危険性もある.
これに対して,最近ではノート PC より小
型軽量の携帯端末を無償貸与する動きがあ
る.たとえばいずれも国立大学ではないが,
青山学院大学では社会情報学部の全学生に
iPhone 3G を無償貸与する計画を 2009 年 5
月に発表し[ 5 ],また高知工業高等専門学校
では学生および教員全員を対象に iPod touch
を無償貸与する計画を 2009 年 9 月に発表し
ている[ 6 ].これらの取組みが成功すれば,
全国の大学でも同様の取組みが広がるであろ
う.
権で保護されたソフトウェアの不正コピーが
発覚しており,コンプライアンスを強化する
ためにソフトウェア資産管理をシステマ
ティックに行うことが要請されている.これ
に対してはいろいろな取組みがある.たとえ
ば,主要なソフトウェアについては構成員全
員を対象としたキャンパスライセンスを提供
している大学や,ネットワークに接続する時
点でソフトウェアのインベントリ情報を収集・
報告するシステムを導入している大学などが
ある.これについても説明責任(アカウンタ
ビリティ)の観点からますます重要になるた
め,今後導入する大学が増えていくであろう.
4. おわりに
本稿では国立大学の教員の立場から,教
育・研究・運営への IT 活用に関してこれま
での 10 年間を振り返り,またこれからの 10
年間の方向性を予測した.これからの 10 年
間のキーワードは「利便性の向上」
「安全性
の向上」
「管理の省力化」に加え,
「省エネル
ギー化」
「コンプライアンスの向上」などが
重要になるであろう.但し,システム更新の
タイミングは限られており,高々 2 回しかチャ
ンスはない.そのチャンスを生かせるかどう
かに国立大学の IT 活用の成否はかかってい
る.
3.4 運営面での要請
これまでは国立大学における教育・研究面
での IT 活用について述べてきたが,最近で
は大学全体の運営にも IT が関与するように
なってきた.そこで,運営面での最近の IT
活用の要請について,いくつか紹介する.
まず,国立,私立を問わず,多くの大学で
は卒業生や旧教職員に対しても生涯利用でき
るメールアドレスやアカウントを付与してい
る.これは大学と同窓生との連携を強化し,
大学側からの円滑な情報提供を実現すること
を目的としている.但し,実施形態について
は単なる転送,フリーメールの活用,大学内
での運用など,様々である.また,同窓生は
大学付与のメールアドレスをどの程度利用す
るか未知数であり,今後の運用にかかってい
る.
次に,大学における研究業績や授業評価な
どの情報を集約化した,大学データベースの
構築がいくつかの大学で進行している.これ
は大学の法人評価や認証評価に関する情報の
集計,あるいはたとえば科学技術振興機構が
公開する研究者情報へのデータ提供など,大
学が持つ様々な情報を少ない労力で活用でき
るようにすることを目的としている.しかし,
各部局で持つ基礎情報は統一されたフォー
マットで記録されておらず,そのような情報
を一元管理するためには全データ項目の意味
づけなど膨大な作業が必要であり,今後の動
向が注目される.
最後に,ソフトウェア資産管理の動向につ
いて述べる.残念ながら一部の大学では著作
参考文献
[1]
国 立 情 報 学 研 究 所:
“UPKI イ ニ シ ア テ ィ ブ ”,
<https://upki-portal.nii.ac.jp/>.
[2]
Internet2:“Shibboleth”, <http://shibboleth.
internet2.edu/>.
[3]
井上春樹他:
“
「ISMS」と「グリーン IT」実現に
貢献する SaaS -アウトソーシング,シンクライ
アント戦略の推進”,インターネットと運用技術
シンポジウム 2008 論文集,情報処理学会,pp.2330,2008.
[4]
梶田将司:
“大学におけるクラウド環境と教育研
究支援”,インターネットと運用技術シンポジウ
ム 2009 論文集,情報処理学会,pp.17-22,2009.
[5]
青山学院大学:
“青山学院大学 - 新着情報 詳細”,
<http://www.aoyama.ac.jp/news/361.html>,
2009.
[6]
毎日新聞社:
“高知高専:授業に iPod 活用、全学
生 に 貸 与 年 内 に も 本 格 ス タ ー ト / 高 知 ”,
<http://mainichi.jp/life/edu/exam/influenza/
kochi/archive/news/2009/20090912ddlk3904070
7000c.html>, 2009.
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