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熱処理設備の変遷と今後の動向
藤 野 智 彦 中外炉工業 ㈱
戦後から現在に至るまでの熱処理設備の発展と変遷を振り返るとともに、
今後の動向について特に戦後経済の発展に大きく寄与し、今後も日本経
済を支え続ける自動車関連部品の熱処理設備を中心に解説する。
1.はじめに
戦後、日本の工業技術は戦時中に諸外国と鎖国状
続けている。
態に置かれていたため、欧米先進国との格差は 20
過去、設備に対する要求は、安全、品質、コスト(生
年とも言われていた。熱処理技術についても同様で
産性含む)、法令順守(公害対策等)というものだけ
あったが、戦後まもなく雰囲気ガス熱処理を中心に
であったが、現在ではグローバル化、熱処理の多様化、
欧米からさまざまな熱処理技術を導入したことを皮
生産フレキシビリティ性の拡大、省スペース化など
切りに、その後各時代の要求に合わせ設備を進化さ
複合的に対応ができる設備が要求されつつある。
せることにより熱処理設備は現在に至るまで発展を
2.海外技術の導入から雰囲気熱処理設備の普及
戦後直後はともかく、1950 年代に入ると鉄鋼産業
特にガス浸炭炉をはじめとする雰囲気熱処理につ
などへの設備投資が活発となった。しかしながら、
いては燃料ガスの安定供給が不可欠であり、LPG が
この頃の熱処理は硬度、寸法のばらつきが大きく、
家庭に普及し始めたのが 1952 年とインフラ整備のタ
これが機械的性質の安定を阻害して国産機械製品の
イミングとの合致も普及を後押しした。ガス浸炭に
品質が欧米製品に大きく劣る原因となっていた。例
用いられる雰囲気である変成ガス発生機(RX ガス 1))
えば固体浸炭は、カーボンポテンシャル(以下 CP)
が国産化して浸炭処理に用いられ、その後 DX ガス、
の調整ができない、脱炭、不均質な浸炭、酸化スケー
NX ガス、AX ガス発生機なども次々と国産化され、
ルによる冷却ムラ発生などによって品質の性能が低
目的に合ったガス成分に調整されて光輝焼鈍などに
くばらつきが大きかった。
用いられるようになった。また、LPG の純度改善に
このような状況を改善する最短の方法は海外から
より再現性の高い熱処理が可能になり、熱処理品質
の技術導入と考え、雰囲気熱処理技術を導入した。
の向上が達成できたことも忘れてはいけない。
そして戦後 10 年にして国産のバッチ型ガス浸炭炉
1960 年代に入ると、バッチ型のガス浸炭炉が国内
が、まもなくして国産の連続ガス浸炭炉が製作され、
の主要な熱処理工場のほとんどで稼動するようにな
その後のわが国の金属熱処理の発展を、またメイド
り、国内設置台数も 100 台を上回った。その後も設
インジャパンの品質を支えてゆくことになった。
備投資が進み、特に 1964 年から 1970 年までのいざ
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なぎ景気の際には設備投資が実質 20 % を超える好況
炭が普及しはじめ、用途に応じて窒化、ガス軟窒化、
が長期間継続したこともあり、広範囲にわたり熱処
浸炭窒化など熱処理設備や熱処理プロセスが多様化
理設備が普及した。浸炭雰囲気ガスについても従来
しはじめた。
の変成ガスに加えメタノールを用いた滴注式ガス浸
3.公害対策
1970 年の大阪万国博覧会を境に、1971 年のニクソ
も NOx 規制が開始された。
ンショック、1973 年および 1980 年の第一次、第二
規制に先駆けて 1975 年頃から低 NOx バーナーの
次石油ショックなど、わが国の経済は大きな試練に
普及が加速され、現在一般的に普及しているバー
直面することになった。また、公害問題もこの頃か
ナーの原点となっている。低 NOx 化には、二段燃
ら表面化し、1970 年には初めて光化学スモッグが発
焼、排ガス再循環技術を用いており、現在では高温
生、窒素酸化物(NOx)が大気汚染物質として規制
空気燃焼技術や酸素バーナーによりさらなる低 NOx
対象に加えられ、その後 1978 年から工業炉について
化が可能な技術が確立されている。
4.省エネルギーと炉形の変遷
二度の石油危機を経て先進国の高度成長に歯止め
に使用量が増加した。バッチ炉、連続炉ともに、セ
がかかり日本経済も低成長へと移行、その過程でエ
ラミックファイバーの使用に合わせて炉形(断面形
ネルギーの有効利用が改めて認識され工業炉の省エ
状)は角型から図 1 右のように丸型へと変化し、そ
ネルギーが国家的な重要問題と位置づけられた。1979
れによって図 2、3 に示すように昇・降温時間やシー
年に「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省
ズニング時間が大幅に短縮、燃料原単位、生産量と
エネ法)が施工され、さまざまな施策が実施された。
もに 10 ∼ 20 % 程度向上した。
過去行われた炉形の変化は、省エネルギー推進の
ためのものが多くを占め、日本の工業炉技術の進歩
は、省エネ技術の進歩で達成されてきたものと言っ
ても過言ではない。熱処理炉における代表的な取り
組み例をいくつか紹介する。
れんがライニング炉
セラミックファイバー
ライニング炉
4.1 断熱材の構成と炉形の変化
戦後まもなくは断熱材には全て煉瓦が用いられて
いたことから、炉内形状は図 1 左のように角型が主
流であった。
セラミックファイバーの炉材適用は 1960 年代以
図 2 バッチ型浸炭炉の昇温・降温曲線(48 h 停炉後)
降で、最初は外壁材として用いられていたが、熱処
理炉の内壁材として使用され始めてからは加速度的
RCファン
ラジアント
チューブ
RCファン
ラジアント
チューブ
図 1 角形および丸型断面の連続ガス浸炭炉
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れんがライニング炉
48h停炉後
初期乾燥時
セラミックファイバー
ライニング炉
図 3 バッチ型浸炭炉のシーズニング曲線
特集 熱処理技術の最新動向
現在ではさらに高性能の断熱材が開発され、炉内
燃料 蓄熱体
の最外層部に用いられることで同じ断熱厚さでは放
切替弁
熱量はセラミックファイバーと比べて 30 % 程度(原
単位で数 %)低減できている。
空気
加熱室
4.2 廃熱回収技術の進歩
廃熱回収技術は最も有力な省エネ技術のひとつで
排ガス
ある。過去色々なアイデアが生まれ、コストメリッ
トがあり、且つシンプルな技術から採用されてきた。
図 5 リジェネバーナーの構造
(1)レキュペレーター
熱処理設備省エネの代表格が図 4 に示すレキュペ
燃焼している反対側の蓄熱体を通過させ熱エネル
レーターで、古くから用いられている。燃焼後の高
ギーを回収する。次に反対側のバーナーが燃焼する
温の排ガス熱で燃焼用空気を昇温させる機構であ
際に燃焼用空気を先ほど加熱した蓄熱体を通過させ
り、20% 程度の省エネルギー効果がある。構造が単
ることでエネルギーを回収するものである。片側通
純でコストも安く、現在では他の省エネ機構を設け
行の燃焼方式と比べ温度分布の改善効果も得られる。
ないバーナーの殆どに設置されている。燃焼空気を
ただし、設備が高額、低温では熱回収効果が設備
予熱すると排ガス NOX 値は若干上昇するが、排ガ
投資の割に小さい、NOx 発生量が大きいことなど欠
ス再循環で低 NOX 化ができる。
点もあり、加熱炉などの大型設備には標準的に採用
されている優れた技術であるものの、金属熱処理炉
燃料ガス
に対する適用は条件の合うものに限定されている。
バーナー
空気
排ガス
(3)その他
廃熱回収方法は過去多岐にわたって考案された。
レキュペレーター
ラジアントチューブ
その中の利用例を二点紹介する。
・浸炭炉から焼戻炉へのバーナー廃ガス熱再利用
浸炭炉、焼入炉の燃焼廃ガスを焼戻炉の熱源と
して使用(図 6)。
図 4 レキュペレーターの構造
(2)リジェネレイティブバーナー
1990 年代になると、レキュペレーターよりもさ
らに高効率で排熱回収を行えるリジェネレイティブ
バーナー(以下リジェネバーナー)が開発された。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)事
業として、㈳日本工業炉協会が 1993 ∼ 2003 年度に
かけて高性能工業炉の開発に関して積極的に取り組
んだ結果、現在では加熱炉をはじめとして、熱処理
図 6 浸炭炉から焼戻炉への熱回収サイクル
炉、鍛造炉、溶解炉、焼成炉、脱臭炉など幅広く工
業炉に用いられている。
リジェネバーナーは図 5
・連続焼なまし炉の冷却熱再利用
に示すとおり蓄熱体と
2)
一体化した一対 2 台のバーナーを交互に燃焼させ、
降温冷却帯の熱を予熱帯へ送り、材料昇温の熱
源として使用(図 7)。
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(2)バーンダウンバーナー
浸炭ガスは CO、H2 を大量に含むガスで、大
きなエンタルピを有するものの排気燃焼させて
廃却している。これを有効に利用する方法と
して連続ガス浸炭炉において図 9 に示すように
バーンオフ炉を装入側に設置し、炉内雰囲気ガ
スをヒューム燃焼に用いる熱源として使用する
方法(図 10)が考案された。
RX廃ガス
連続ガス浸炭炉
図 7 冷却熱の回収・予熱利用サイクル
バーンオフ炉
焼入槽
4.3 雰囲気ガス製造,再利用技術の進歩
(1)炉内設置型ガス発生機
1980 年代に入り、変成ガス発生機についても省エ
焼戻炉
ネ化が行われた。従来のガス発生機は浸炭炉と独立
して設置され、変成されたガスは一旦冷却してから
洗浄装置
各炉へ供給している。
図 9 設備配置例
これに対し図 8 に示すようにガス発生機を超小型
化することで反応筒を炉の天井へ直接取り付ける炉
内設置型構造とした。直接炉内へ変成ガスが供給さ
廃ガス
れることからガスの再加熱が不要である上、炉の断
燃焼空気
熱材が発生機の断熱を兼用することも合わせて燃料
ベースで発生機単体では 80 % 減、設備全体でも 20 %
減 と非常に大きな省エネ効果が得られた。
3)
レキュペ
レーター
補助燃料
燃料ガス
空気
RX廃ガス
予熱空気
加熱室
放熱板
材料
ヒューム
燃焼室
バーナー
図 10 バーンオフ炉断面図
変成ガス
(3)その他
浸炭効率の良い雰囲気ガス(CO + H2 各 50 %)や、
変成ガスを再生し再循環する技術についても考案さ
図 8 炉内設置型ガス発生機
れた。現時点では変成ガスのコストが安価なことで
限定的な適用となっているが、将来広く用いられる
可能性がある。
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特集 熱処理技術の最新動向
5.設備の高性能化と炉形の変遷
5.1 バッチ炉
バッチ炉には、熱処理条件を変更しやすく設備投
資額が安いという利点がある。代表的な設備形状を
図 11 に示す。ガス浸炭のほかに浸炭窒化、ガス軟窒
化処理などにも用いられる。
最新の省エネルギーと作業環境を向上させた設備
では、ベスチブルを真空置換することで装入扉の開
時に炎が発生しないフレームレス型もあり、変成ガ
ス使用量は従来型と比較して半分程度に低減するこ
とができている。
図 12 連続式熱処理設備
ことから、昇温均熱・浸炭・拡散・降温保持が仕切
扉のない 1 室内で行われる。そのため各ゾーン
間で温度、CP に大きな差を設けることができ
なかった。これに対し図 12 に示す RH 型設備で
は、仕切扉を設けることが可能になったことで、
脱脂予熱室 / 昇温均熱・浸炭・拡散室 / 降温保持
室の 3 室に分割でき、効率的で均一な昇温降温、
処理時間短縮、省スペース化、トレイ内品質ば
らつき低減、ダミートレイ装入不要といった効
図 11 バッチ式熱処理設備
果が得られた。
しかし、TP型は設備価格が安いという非常に大
5.2 連続炉
きな利点があることから、図13 に示すような加熱∼
連続炉は温度・雰囲気が一定に維持されている炉
浸炭までを TP 型で、拡散∼保持焼き入れまでを RH
内を処理品が移動する方式である。生産性が高く品
型で構成する設備が考案された。現在では、この設
質が安定することから大量生産に適し、高度成長期
備はさらに浸炭∼拡散間ゾーンおよび拡散∼保持焼
には飛躍的に台数が増加した。1950 年台∼ 70 年代の
き入れゾーンについても扉で仕切ることで CP を精
連続炉は図 12 に示すトレイプッシャー型(以下 TP
度良く制御できるようになっているほか、バーンオ
型)設備が主流であったが、1980 年に入ってからロー
フ炉による脱脂を 1 室目の予熱兼用室に設けること
ラーハース型(以下 RH 型)設備が稼動をはじめた。
やバーナー加熱と電熱とをゾーンで分けるなどさま
1 室 TP 型設備はトレイがプッシャーで搬送される
ざまな工夫がされている。
図 13 連続式熱処理設備
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5.3 冷却機構
インバータを用いた流速制御、揺動、加圧・減圧焼
製品を硬くするためには加熱後に急冷が必要で
入れ、一槽三段焼入れなど、さまざまな工夫で精度
あり、鋼種、サイズ、仕様に合った冷却を行って
の高い焼入れ処理を実現している。しかし、作業環
いる。以前はソルト、油、衝風冷却が主流であっ
境面で良いとは言えず、冷却中に熱伝達率が大きく
たが、1980 年代から加圧ガス冷却技術が進歩して
変化することがひずみの予測精度向上を妨げる原因
きた。ソルト冷却はひずみや焼き割れが心配な製
ともなっている。
品の処理として現在も用いられているが作業環境
ガス冷却は、クリーンでひずみ低減を狙った冷却
の問題で減少している。油冷却は現在も主流の方
方法である反面、冷却能力が低いこと、ガスコスト
法であり、油流速分布の均一性向上だけでなく、
が高いことが課題である。
6.作業環境および省力自動化
熱処理炉の作業環境は決して良いとは言えない。
法であり、現在急速に適用範囲が広まりつつある。
特に雰囲気熱処理炉は炉内雰囲気を屋内で燃焼排出
省力化の変遷形態は、業種により微妙に異なって
させている上、扉を開ける際にも雰囲気ガスを燃や
いる。部品メーカーでは同じ製品が大量生産される
さなければならず、夏場の工場内は慣れていない作
ので、前・後工程との兼ね合いや管理作業者の動線
業者には耐えられないほどの高温となる。また、操
に重点において自動化が進み、熱処理専業メーカー
作を誤ると常に火災や爆発の危険もある。
では狭い工場の中で多種多様の製品が不定期に処理
炎を出さない安全な熱処理装置への要求は高まり、
されることから、仕分けや省スペース化、入出庫管
前述したように扉部に炎のない設備の開発、雰囲気
理に重点が置かれてきた。
ガス熱処理から真空熱処理へ、ガス浸炭の真空浸炭
詳細は紙面の都合もあり割愛するが、近年は電子
への転換や、ガス軟窒化炉の真空炉化などが行われ
機器やマテハン機器の進歩が目覚しく、アイデア次
ている。特に真空浸炭は完全に炎のない浸炭処理方
第で今後も大きく変革してゆくものと考えられる。
7.金型の熱処理
素形材を作る上で金型を用いることは非常に多
などへの要求が強く、ガス軟窒化処理、浸硫窒化処
く、様々な使用環境に耐える必要があるために熱処
理、各種コーティング処理、それらの複合処理など
理への要求事項は厳しい。例えばプレス用金型には
多種多様の熱処理が行われるようになった。
炭素工具鋼(SK)、合金工具鋼(SKS,SKD)、高速
冷却についても 1980 年台あたりから目覚しい進歩
度鋼(SKH)および構造用鋼(SCM,SCR)等がある。
を遂げ、現在では加圧高速冷却により大型の金型に
これらの熱処理は、長らく塩浴炉や雰囲気炉が用い
ついてもガス冷却を行えるようになった。ただし、
られてきたが、1970 年代から真空熱処理炉の適用が
現状日本国内においては 1 MPa(10 bar)以上で高圧
はじまった。真空熱処理には、光輝性、酸化脱炭浸
ガス保安法による規制によりヨーロッパでは主流で
炭防止、省力、省エネ、作業環境改善、安全性向上
ある 20、30 bar のガス冷却が広く用いられる環境で
など幅広いメリットがあることから急速に広まって
はなく、熱処理業界から規制緩和が熱望されている。
いった。その後、金型への耐摩耗性、耐焼き付き性
8.熱処理炉への要求事項と課題
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8.1 品質とコスト
ルを搾った省エネにはおのずと限界がある。
熱処理への要求事項は、今も昔もそして将来も『安
熱処理は、品質(例えば硬さやひずみ量など)を向
全』『品質』『コスト』であることに変わりはないで
上・安定させるための中間的な特性(加熱速度、温
あろう。しかしながら闇雲な品質向上や乾いたタオ
度分布、ガス成分、冷却速度等)を付与するもので、
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これを最適化および安定化させることが熱処理品質
・壊れにくくて修理しやすい設備
向上につながる。例えばトレイ内硬度差やひずみを
・短期間で設置できて、すぐに使える設備
小さくする場合、設備側の影響因子(例えば加熱速度、
・処理量の融通が利き、少量でも生産コストが安
焼入れ温度、焼入れ油の流速など)を抽出後、その最
い小さな設備
適値および効果の大小を確認し、それにコストを加
無論これらはグローバル化にかかわらず重要であ
味して設備設計に反映する。しかし、いくら設備側
るが、特に海外では可能な限り熱処理作業者や保全
が頑張って品質を向上、安定させたとしても、それ
部隊のスキルに頼らない設備が望まれている。
が製品の品質やコストへ反映されなければ意味はな
い。ひずみ量減少により後加工が不要になれば大き
8.3 熱処理製品の変化への対応
なメリットが得られるが、加工が必要なレベルの改
例えば昨今自動車で注目されている燃費向上には
善なら工具の消費が少し減る程度である。硬度の振
部品をいかに小さく軽くするかが重要課題であり、
れ幅が狭くなっても部品の寿命が変わらなければ意
強度、耐摩耗性、ひずみなど複合的な要求がシビア
味はないが、それによって鋼種変更、浸炭時間短縮
になる。対応しきれない部品には複合熱処理が増加
が可能なら大きな効果が得られる。熱処理の最適化
するかも知れないし、ひずみ予測技術も重要となる。
には、ユーザーとメーカーとの連携が必須である。
HV、PHV、EV、FCV、ディーゼルなどどこへ向か
うか答えは現時点ではない。自動車だけでなく、新
8.2 グローバル化
興国で建設ラッシュになれば建機が売れ、若年層の
海外展開によって熱処理設備への要求事項につい
都市流入で人手不足となれば農機が売れる。このよ
ても変化が見られる。
うに、熱処理される製品や要求仕様は変化してゆく
・だれでも簡単操作で安全に使える設備
ので、常に動向に注視する必要がある。
9.おわりに
現在はグローバル化の嵐が吹き荒れ海外展開が容
以上、とりとめもなく戦後から現在までを振り返
易な技術を各社が追い求めているが、では国内に残
るとともに筆者なりの意見も多少加えたが、追加・
すべき熱処理プロセスとはどのようなものであろう
修正すべき点があればご指導いただきたい。また、
か。よく、
『コストを半分に』、
『生産性を 2 倍に』、
『設
読者の方々とより良い熱処理に向けて議論できる機
置スペースを半分に』などと言われる。少々の改善
会をいただければ幸いである。
改良ではこれらの実現は不可能なのは明白であり、
実現にはプロセス自体を一新しなければならない。
参考文献
これまでわが国では『mottainai』の精神で、き
1 )RX ガスは米国 Surface Combustion Co. の商品名
めの細かい省エネを推進してきたが、これからは
2 )谷川,辻,光川:工業加熱,37(2000)No. 5,p14
発想の転換が重要となる。過去提案されたすぐれ
3 )尾崎彰 : 工業加熱,22(1985)No. 4,p18
たプロセスも、経済性などの理由で広く実用化さ
れている技術はほんのひとにぎりである。駄目だっ
た理由は?違う付加価値付与でメリットは出ない
か?違う畑で使えないか?エネルギー情勢が変わ
ればどうか?など分析した上で駄目なら一旦引けば
良い。その技術も新しい技術との融合で再び花が開
くときが来ないとも限らない。
中外炉工業株式会社
熱処理事業部 商品開発部
〒 592-8331 堺市西区築港新町 2-4
TEL. 072-247-2231 FAX. 072-244-1980
http://www.chugai.co.jp/
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