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「国家と社会」—紅河デルタ:タイビン省
寺本実編「ドイモイ下ベトナムの『国家と社会』」調査研究報告書 アジア経済研究所 2007 年 第2章 ドイモイ下ベトナムの障害者の生活における「国家と社会」 ―紅河デルタ:タイビン省、ハーナム省の事例を通して― 寺本 実 要約: 本稿では、家族と同居するベトナムの障害者の生活状況を紅河デルタ地域 に 位 置 す る タ イ ビ ン 省 、 ハ ー ナ ム 省 の 農 村 部 で 実 施 し た 家 庭 訪 問 調 査 (計 92 戸 )を 通 し て 考 察 し て い る 。 その結果、在宅の障害者については、障害者が障害を負った原因によって 「 国 家 」と 個 々 の 障 害 者(「 社 会 」の 側 )と の 関 係 の 様 態 に 違 い が あ る こ と を 見 出 し 、 以 下 の 6 つ の 類 型 を 抽 出 し た 。 (1 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 へ の 直 接 参 加 に よ る も の で あ り 、そ れ が「 国 家 」に よ っ て 認 定 さ れ て お り 、扶 助 1 を 受 け て い る ケ ー ス 、 (2 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 へ の 直 接 参 加 に よ る も の で あるが、それが「国家」によって認定されておらず、扶助を受けていないケ ー ス 2 、(3 )障 害 を 負 っ た 原 因 が 間 接 的 な 戦 争 へ の 関 わ り( 両 親 < 特 に 父 親 の ケース多>の戦争への参加、枯葉剤への被災)であり、それが「国家」によ っ て 認 定 さ れ て 扶 助 を 受 け て い る ケ ー ス 、(4 ) 障 害 を 負 っ た 原 因 が 間 接 的 な 戦争への関わり(両親<特に父親のケース多>の戦争への参加、枯葉剤への 被災)である疑いがあるが、それが「国家」に認定されておらず、扶助を受 け て い な い ケ ー ス 、(5 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 に 関 係 な く 、 「 国 家 」か ら 扶 助 を 受 け て い る ケ ー ス 、(6 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 に 関 係 な く 、 「 国 家 」か ら扶助を受けていないケース、の6類型である。 -59- 総合的結論としては、 「 国 家 」は 問 題 の 所 在 に 気 づ い て お り 、対 応 策 を と り つ つ あ る も の の 、「 社 会 」 の 側 の 方 が 、「 国 家 」 に 比 し て 実 質 的 か つ 相 対 的 に 大きな役割を担いつつ、同分野における国内の対応がなされていることを指 摘 し て い る 。「 国 家 と 社 会 」 の 関 係 の 様 態 と い う 観 点 か ら 述 べ れ ば 、「 国 家 」 も役割・責任を遂行しようという方向性にあるものの、未だ十分なレベルに 達しておらず、実態的には「社会」の役割に「依存」している部分が大きい こ と を 見 出 し て い る 3。 キーワード: 障害者、生活、国家、社会、関係の様態、紅河デルタ はじめに 本稿ではベトナムにおける障害者福祉の実態を考察するとともに、序章で 示した「国家」と「社会」の用語の定義、分析視角に基づいて分析を行う。 こ れ ら は 古 田 [1996、2000]の 該 当 部 分 か ら 読 み 取 っ た「 古 田 モ デ ル 」の 基 本 的骨子を批判的に継承したものである。 すなわち、 「 国 家 」と い う 用 語 の 定 義 に つ い て は 、べ ト ナ ム 政 府( 各 級 地 方 政府を含む)のみを指す狭義の「国家」ではなく、政府部門だけでなく権力 中 枢 を 握 る ベ ト ナ ム 共 産 党 を 含 め た 広 義 の 定 義 を 採 用 す る 4 。次 に「 社 会 」と い う 用 語 に つ い て は 、「 国 家 」 に 対 す る 対 概 念 と し て の 位 置 付 け で あ り 、「 国 家 」権 力 が 必 ず し も 貫 徹 し て い な い 、 「 国 家 」に よ る 管 理 、政 策 の 立 案・遂 行 の対象となる、 『 国 家 』が 設 定 し た『 律 』を 状 況 に 応 じ て 受 容 し つ つ も 、そ れ 独自の『律』に基づいて機能する、一定の関係性を共有する人々の束・集ま り、として理解することにしたい。 「国家」と「社会」関係の様態に対する分析の視角については、古田にお けるように「国家」と「社会」間の相対的な力関係だけに注目するのではな く 、様 々 な 関 係 の 様 態 に 対 す る 視 点 を 分 析 の 射 程 に 取 り 入 れ る こ と に し た い 。 -60- ドイモイ下ベトナムの障害者福祉への取り組みは、政権党であるベトナム 共 産 党 の 第 6 回 党 大 会 で 「『 国 家 と 人 民 が 共 に 担 う (Nha nuoc va nhan dan cung lam)』 と い う 方 針 に し た が っ て 、 全 人 民 に 対 す る 社 会 扶 助 政 策 を 一 歩 一 歩 建 設 す る 」 (De an tro giup… [2006])と 示 さ れ た よ う に 、「 国 家 」 と 「 人 民 」( 本 稿 に お け る 「 社 会 」 の 側 ) 5 が 共 に 担 っ て い く こ と が 基 本 方 針 と さ れ ている。そうしたベトナムにおける障害者福祉の実態面を、ベトナム北部の 紅河デルタに位置するタイビン省・ハーナム省の農村部におけるフィールド 調査を通して考察する試みとなる。 本稿の構成は以下の通りである。第1節ではベトナムの障害者の状況をベ トナムの公式文献に基づいて概観する。続く第2節では家族と同居する障害 者 を 対 象 に 2005 年 と 2006 年 に タ イ ビ ン 省 、ハ ー ナ ム 省 で 実 施 し た 調 査 に 基 づいて、ベトナムの障害者の状況を考える。そして、最後に「国家と社会」 と い う 分 析 視 角 に 基 づ き 、 ベ ト ナ ム の 障 害 者 福 祉 の 状 況 を 考 察 す る 6。 図 表 類 ( 表 1 ~ 4 、 図 1 ~ 16、 付 表 ) は 数 が 多 い た め 、 ま と め て 章 末 に 付 すことにしたい。 第1節 ベトナムの障害者の全般的状況 本節ではベトナム障害者の全体的状況を公式文献に依拠しつつ検討するこ とにしたい。 政 府 が 2006 年 5 月 26 日 に 第 11 期 第 9 回 国 会 に 提 出 し た 障 害 者 法 令 の 実 行 状 況 に 関 す る 報 告 に よ れ ば 、 2005 年 時 点 で の ベ ト ナ ム の 障 害 者 総 数 は 約 530 万 人 (ベ ト ナ ム 全 人 口 の 約 6.34%)と な っ て い る 7 。 う ち 、 農 村 部 に 暮 ら す 障 害 者 は 全 体 の 87.27%を 占 め る 。 ま た 家 庭 単 位 で 見 る と 、 ベ ト ナ ム 全 戸 数 の 7.93%の 家 庭 が 障 害 者 と 共 に 暮 ら し て い る ( Chinh phu[2006: 30])。 2004 年 の 数 字 と な る が 、障 害 者 の 絶 対 数 に 基 づ く 地 域 別 分 布 で は メ コ ン デ ルタ地域が最も多く、紅河デルタ地域、南部東方地域が後に続いている。そ れ ぞ れ 障 害 者 総 数 の 15%以 上 を 占 め て い る 。地 域 別 の 総 人 口 数 に 占 め る 障 害 -61- 者比率では、中部沿海地域・北部東方地域・南部東方地域が上位3地域を占 め 、 中 部 沿 海 地 域 に い た っ て は 二 桁 を 超 え て い る (表 1 参 照 )。 障 害 の 種 類 に つ い て は 、運 動 障 害 29.41%、神 経 系 統 の 障 害 16.83%、視 覚 障 害 13.84%、 聴 覚 障 害 9.32%、 言 語 障 害 7.08%、 知 的 障 害 6.52%、 そ の 他 の 障 害 17% と な っ て い る 。 こ の う ち 20% 近 く が 重 複 障 害 で あ る ( Chinh phu[2006: 31])。 障 害 を 負 っ た 原 因 に つ い て は 、先 天 性 35.8%、病 気 32.34%、戦 争 25.56%、 労 働 事 故 3.49%、そ の 他 の 原 因 2.81%と な っ て い る( Chinh phu[2006:31])。 ここでは交通事故が要因として挙げられていない。しかし、障害者問題の主 管 官 庁 で あ る 労 働 ・ 傷 病 兵 ・ 社 会 問 題 省 が 1999 年 に 出 し た 報 告 書 で は 交 通 事 故 が 障 害 原 因 の 5.52%を 占 め て い る (向 井 [2002:89-90])。ま た 、同 政 府 報 告 で も 2001~ 2005 年 に 交 通 事 故 で 約 12 万 5000 人 が 障 害 を 負 っ た と 報 告 さ れ て い る( Chinh phu[2006:31])。昨 今 の ベ ト ナ ム で は 交 通 事 故 の 増 加 が 社 会 問題化しており、同要因による障害者総数はかなりの数に上るものと推測さ れ る (寺 本 [2006b: 28])。 年 齢 の 分 布 に つ い て は 、16 歳 未 満 が 約 16%、16~ 55 歳 が 約 60%、55 歳 よ り 上 が 約 24%と な っ て い る ( Chinh phu[2006: 31])。 Nhan Dan 紙 に よ れ ば 男 性 で 16~ 60 歳 、 女 性 で 16~ 55 歳 の 年 齢 幅 に 障 害 者 の 約 69%が 該 当 し て お り (Nhan Dan,2006 年 2 月 5 日 付 )、働 き 盛 り の 年 齢 層 が 多 数 を 占 め て い る こ と が 分 か る 8。 教 育 に つ い て は 、中 卒 レ ベ ル 20.74%、高 卒 レ ベ ル 24.13%、非 識 字 者 35.83%、 読 み 書 き が で き る 人 12.58%と な っ て い る 。 ま た 、 職 業 教 育 を 受 け て い な い 人 が 97.64% と 非 常 に 高 い 割 合 と な っ て い る( Chinh phu[2006: 31])。働 き 盛りの年齢層の多さと職業教育の普及度の低さは対照的だといえる。 仕 事 に つ い て は 、 約 58%が 仕 事 に 参 加 (tham gia lam viec)し て い る 。 こ の 中には、家で所有する水牛の世話など、必ずしも所得につながらない仕事も 含 ま れ て い る と 推 測 さ れ る 。約 30%は 未 だ 仕 事 が な く 安 定 し た 雇 用 を 望 ん で い る 。同 比 率 は 紅 河 デ ル タ に お い て 最 も 高 く 約 41.86%と な っ て い る( Chinh -62- phu[2006:31])。し か し 、後 述 す る 2005 年 、2006 年 に 実 施 し た 現 地 調 査 に 基 づ く 感 触 で は 、仕 事 が な い 障 害 者 の 比 率 は 上 記 数 字 を 上 回 る 可 能 性 も あ る 。 た だ し 、国 会 社 会 問 題 委 員 会 が 第 11 期 国 会 で 5 月 31 日 に 提 出 し た 報 告 書 に よ れ ば 、障 害 者 の 生 産・経 営 基 礎 (co so san xuat, kinh doanh cua nguoi tan tat)と 労 働 者 数 は 1995 年 に は 177 カ 所 、 7821 人 で あ っ た の に 対 し て 、 同 報 告 書 執 筆 時 点 で は 400 カ 所 超 、 15000 人 超 に そ れ ぞ れ 増 加 し て い る (Uy Ban ve Cac Cac Van de Xa hoi [2006: 42])。 生活状況については、家族・親戚・社会扶助に依拠して暮らす障害者が都 市 部 で 70~ 80%、農 村 部 で 65~ 70%と な っ て い る 。仕 事 を 持 ち 、自 身 や 家 族 の た め に 収 入 が あ る 障 害 者 は 約 25~ 35%と さ れ て い る ( Chinh phu[2006: 31])。障 害 者 と 共 に 暮 ら す 家 庭 の 多 く は 貧 し く 、32.5%の 家 庭 が 貧 困 世 帯 9 に 属 し て い る 。 障 害 者 の い な い 貧 困 世 帯 の 比 率 は 22%で あ り 、 10%以 上 そ れ を 上 回 っ て い る ( Chinh phu[2006: 31])。 第2節 紅河デルタ:タイビン省、ハーナム省における事例 本 節 で は 2005、 2006 年 に ベ ト ナ ム 北 部 紅 河 デ ル タ 地 域 に 位 置 す る タ イ ビ ン省、ハーナム省で実施した調査に基づいてベトナムの障害者の状況の実態 面について考える。初めに調査地域について記した後、行なったフィールド 調査に基づいて考察を行なうことにしたい。 1.紅河デルタ:タイビン省、ハーナム省 調査地のタイビン省、ハーナム省はベトナム北部紅河デルタに位置し、互 いに隣接しあっている。ハーナム省が内陸の省であるのに対し、タイビン省 はトンキン湾に面する。 紅河デルタは南部のメコンデルタと並ぶベトナムの最重要農業地域である。 -63- ベトナム建国の王とされる「雄王」ゆかりの廟もこの地域にある。紅河水系 と タ イ ビ ン 水 系 の 形 成 す る 約 150 万 ha の デ ル タ で 、 開 発 の 歴 史 が 古 く 、 人 口 密 度 が 極 め て 高 い 地 域 で あ る (桜 井 [1999: 132-133],長 [2005: 66-71])。 同 地域にはベトナムの首都ハノイ市を含む9省・2中央直轄市が位置する。 第1節で指摘したように、障害者総数では各地域の中ではメコンデルタに つ い で 2 番 目 に 多 い 980,118 人 の 障 害 者 が 紅 河 デ ル タ 地 域 で く ら し て い る 。 ま た 、 同 地 域 内 総 人 口 1783 万 6000 人 に 占 め る 障 害 者 比 率 は 5.5%と 各 地 域 の 中 で 2 番 目 に 低 い 比 率 と な っ て い る ( 表 1 参 照 )。 ま た 、 2004 年 の 貧 困 率 は 12.1%で ホ ー チ ミ ン 市 が あ る 南 部 東 方 地 域 に つ い で 2 番 目 に 低 い 数 字 で あ る (表 2 参 照 )。 2005 年 推 計 で タ イ ビ ン 省 の 人 口 は 186 万 6000 人 と 紅 河 地 域 内 で 4 番 目 、 ハ ー ナ ム 省 は 82 万 2700 人 で 最 下 位 で あ る 。紅 河 デ ル タ 地 域 内 で 農 村 部 人 口 が9割を超えるのはこの2省だけである。面積についてはタイビン省が 1545.4 ㎢ で 同 地 域 内 4 番 目 、ハ ー ナ ム 省 は 852.2 ㎢ で 下 か ら 2 番 目 の 規 模 と な っ て い る (表 3 参 照 )。人 口 密 度 は タ イ ビ ン 省 が 1 ㎢ あ た り 1204 人 、ハ ー ナ ム 省 は 965 人 と 同 地 域 内 で の 順 位 は 面 積 の そ れ と 同 様 で あ る 。 2.フィールド調査に基づく考察 次ぎに、今回実施した調査に基づいて考察する。 タ イ ビ ン 省 、ハ ー ナ ム 省 で の 調 査 は 、前 者 は 2005 年 10 月 19 日 ~ 11 月 1 日 、 後 者 は 2006 年 10 月 27 日 ~ 11 月 4 日 に 実 施 し た 10 。 タ イ ビ ン 省 で の 調 査 地 は 省 都 タ イ ビ ン 市 か ら バ イ ク で 20 分 く ら い の と こ ろ に 位 置 す る ブ ー ト ゥ ー 県 B 社 で あ っ た 。ハ ー ナ ム 省 で の 調 査 は ズ イ テ ィ エ ン 県 内 を 通 る 国 道 1 号 線 沿 い で 実 施 し 、若 干 の 調 査 対 象 者 を 除 い て 主 に 同 県 D 社 で 調 査 を 行 な っ た 11 。 調 査 対 象 者 は 家 族 と 同 居 す る 障 害 者 で あ り 、 原 因 に よ る 区 別 な く 対 象 とした。 調査方法は各家庭を直接訪問しての調査票に基づくインタビューである。 -64- 筆者と調査を補助していただいたベトナム社会学研究所研究員の2人で調査 を実施し、基本的に後者が問いを投げかけ、筆者が調査票に応答を書き込む と い う 役 割 分 担 に 基 づ い て 調 査 を 進 め た 12 。 し か し 、調 査 事 項 以 外 に つ い て も 確 認 す る 必 要 が あ る と 思 わ れ た 場 合 に は 、 随時質問を行なうようにした。ただ、道案内役、紹介役をするため、現地の 責 任 者 が 調 査 に 同 行 、 同 席 し た ケ ー ス も か な り あ っ た 13 。 調査家庭の無作為抽出は体制上の問題もあり実現できず、基本的に現地人 民委員会、現地機関・組織の調整、紹介に基づいて選ばれた、タイビン省で 47 戸 、 ハ ー ナ ム 省 で は 45 戸 を 調 査 対 象 と し た 14 。 調 査 デ ザ イ ン と し て は 、 冷水豊・上智大学社会福祉学部教授が言われるところの探索的デザイン、も し く は 事 実 発 見 ・ 個 性 記 述 デ ザ イ ン に 分 類 さ れ る と 考 え ら れ る 15 。 農 村 部 に おける類似の調査については、管見の限りでは先行研究が未だ見当たらない ため、仮説構成に未だ至っていないという観点からすれば、探索的デザイン により近い位置づけとなる。 基本的にご本人が応答可能な場合にはご本人に、不可能であるかご不在の 場合には近親者の方に応答いただいた。調査対象者、近親者がご一緒にお答 え い た だ い た ケ ー ス も 中 に は 含 ま れ る が 、そ れ ぞ れ 有 効 回 答 と し て 記 録 し た 。 以下、調査票の集計結果に基づいて考察していくことにしたい。 (1 )集 計 結 果 か ら の 考 察 タ イ ビ ン 省 、ハ ー ナ ム 省 で 記 し た 調 査 票 の 集 計 結 果 が 図 1 ~ 図 15 で あ る 。 タイビン省、ハーナム省共に共通する方向性を指し示していると判断できる ポイントに注目しつつ項目ごとに検討作業を行うことにしたい。ここで取り 上 げ る 調 査 項 目 16 は 、① 応 答 者 、② 調 査 対 象 者 の 生 年 分 布 、③ 障 害 の 種 類 17 、 ④障害を負った原因、⑤「国家」からの扶助金受給者と障害要因、⑥仕事に よ る 収 入 、⑦「 国 家 」に 対 す る 要 求 、 「 社 会 」に 対 す る 要 求 、の 7 項 目 で あ る 。 以下、順をおって項目ごとに考察を進めていきたい。 -65- ①応答者(図1、2参照) 調査票に対する応答者については、両省共に障害者本人による応答が最多 で あ り 、 続 い て 父 親 、 3 番 目 が 母 親 で あ っ た 18 。 他方、障害の状況により、障害者本人がインタビューに応じられないケー スも多くあった。また、首都ハノイ市に治療を受けに行ったなどの理由で不 在の場合もあった。 総合的に見ると、タイビン省・ハーナム省の調査対象者共に障害者本人が 応答するケースよりも、近親者が応答したケースが多かった。 以上の点からも、障害者の生活にとって、近親者、特に両親の役割、存在 が非常に大きな位置を占めていることが看取される。 ② 調 査 対 象 者 に お け る 生 年 分 布 (図 3 、 4 参 照 ) 今回の調査対象者の生年分布で両省ともに共通していることは、タイビン 省 、 ハ ー ナ ム 省 の 調 査 対 象 者 共 に 1970~ 1999 年 生 ま れ の 範 囲 に あ る 程 度 の 「 集 中 」が 見 ら れ る こ と で あ る 。タ イ ビ ン 省 で 26 人 、ハ ー ナ ム 省 で 27 人 が この範囲に属している。また、ハーナム省の1人を除く、枯葉剤の間接的被 災 者 (第 2 世 代 )の す べ て が 両 省 共 に こ の 範 囲 に 入 っ て い る 。 枯 葉 剤 に は 激 し い発ガン性と催奇形性を持つ猛毒のダイオキシンが含まれる。ベトナム戦争 に お い て 、 1961~ 1971 年 に ベ ト ナ ム 中 部 、 南 部 で 米 軍 が 行 な っ た 枯 葉 作 戦 により同剤は散布された。 ( 中 村 [2005:4-12])19 。直 接 戦 争 に 参 加 し た こ と に よ り 障 害 を 負 っ た 障 害 者 は 、 タ イ ビ ン 省 に つ い て は 1930~ 1949 年 生 ま れ が 多 く 、 ハ ー ナ ム 省 に つ い て は 1950~ 1959 年 生 ま れ に す べ て 含 ま れ て い る 。 両 親 の ど ち ら か が( 調 査 対 象 者 に お い て は ほ と ん ど が 父 親 )が ベ ト ナ ム 中 部 、 あるいは南部でベトナム戦争に参加して枯葉剤に被災し、帰郷後に子どもを もうけたところ、その第2世代に枯葉剤による影響が出るという、世代間の 連関を読み取ることができる。 第 3 世 代 へ の 影 響 が 懸 念 さ れ て い る が 、 1990~ 1999 年 生 ま れ の 範 囲 に 含 ま れ て い る 、母 方 の 祖 父 が 枯 葉 剤 に 被 災 し た 少 年 が 、ハ ノ イ 市 の 医 師 に よ り 、 枯葉剤被災の疑いがあると診断されている。直接話をうかがえなかったが、 -66- 母親の末の妹の子どもも症状的には類似の状況にあるとのことであった。 最 後 に 、イ ン タ ビ ュ ー 時 点 で 10 歳 台 で あ っ た 調 査 対 象 者 が タ イ ビ ン 省 で 15 人 、 ハ ー ナ ム 省 で 9 人 含 ま れ て い る こ と を 記 し て お き た い 20 。 ③ 障 害 の 種 類 21 (図 5 、 6 参 照 ) 障 害 の 種 類 に つ い て は 、タ イ ビ ン 省・ハ ー ナ ム 省 共 に か な り 多 様 で あ っ た 。 重複障害のケースも多く見られる。また、肢体障害、精神・神経に障害があ る人が1、2番目を共に占めている。 傷病兵については、片腕を失う、片脚を失うなど、肢体の損傷度が明確か つ重度のケースが多かった。戦争により障害を負った調査対象者の中で、肢 体 に 障 害 を 負 っ て い な か っ た の は 、1979 年 2 月 半 ば ~ 3 月 の 越 中 戦 争 に 参 加 し、精神・神経を患った人 1 人だけである。 同じ枯葉剤被災者といっても障害の表れ方は一様でない。歩行が困難で小 刻みに体を震わせながらハンモックに横たわり、時にうなり声を上げるとい うような状況の人から、一見しただけでは被災者とは分からない状況の人ま で、症状は多様であった。 個々の分類ごとにもさらに様々な症状があり、かつ障害の重複状況も多様 で あ る と い う 状 況 は 、そ れ ぞ れ の 障 害 者 に 対 す る「 国 家 」、「社 会 」に よ る 対 応 の柔軟性、多様性の必要を必然的に要請していると考えられる。 ④ 障 害 を 負 っ た 原 因 (図 7 、 8 参 照 ) 障害を負った原因としては、タイビン省、ハーナム省共に「生来」が最多 となっている。枯葉剤間接被災者を除いても「生来」が最多であり、妊娠か ら出産にいたる母体、母子管理の問題が影響をあたえている可能性がある。 2 番 目 に 多 い 原 因 は 共 に 戦 争( 戦 闘 参 加 に よ る 傷 病 、直 接 的 な 枯 葉 剤 被 災 、 間接的な枯葉剤被災、枯葉剤被災の疑いを含む)である。この点は、ベトナ ム戦争、カンボジア侵攻、越中戦争といった戦争を経験してきたベトナムの 特徴だと考えられる。 -67- 枯葉剤問題についても、ベトナムの国土における米軍の行為を原因として 発生した「ベトナム発」の問題であり、同様にベトナムの特徴ということが で き る と 考 え ら れ る 22 。 3番目に多い原因が病気であることも両省に共通している。日本脳炎、原 因不明の高熱により、肢体の発育不全・奇形、精神・神経の疾患といった障 害が残った人も多く見られた。先に記した母体、母子管理制度の整備はむろ んのこと、 「 国 家 」に よ る 予 防 接 種 な ど の 防 疫 プ ロ グ ラ ム・防 疫 知 識 の 普 及 と 実施、それらを取り巻く医療・保健制度の充実が不可欠な状況にあると考え られる。 ⑤ 「 国 家 」 か ら の 扶 助 金 受 給 者 と 障 害 要 因 23 (図 9 、 10 参 照 ) 「国家」からの扶助金の受給と障害の要因については、タイビン省、ハー ナム省共に戦争関連で障害を負ったと認定された人の扶助金受給率は、両省 共 に 100%と な っ て い る 。 そ れ に 対 し 、 戦 争 以 外 の 要 因 で 障 害 を 負 わ れ た 人 の 受 給 率 は 、 タ イ ビ ン 省 で 18.18%、 ハ ー ナ ム 省 で 9.09%に 過 ぎ な い 。 例 え ば傷病兵に対する支援については「革命活動者、烈士、烈士家庭、傷兵、病 兵 、 抵 抗 戦 争 活 動 者 、 革 命 支 援 功 労 者 優 遇 法 令 」 (2002 年 )、「 革 命 功 労 者 優 遇 法 令 」(2005 年 )と い っ た 法 令 、枯 葉 剤 被 災 者 に つ い て は「 ベ ト ナ ム 戦 争 に おいてアメリカによって使用された化学毒物に汚染された反侵略戦争参加者 と そ の 子 ど も に 対 す る 制 度 に つ い て の 首 相 決 定 」( 2004 年 )、「 革 命 功 労 者 優 遇法令」 ( 2005 年 )、非 戦 争 要 因 に よ り 障 害 を 負 っ た 人 の 主 な 支 援 に つ い て は 「 障 害 者 法 令 」( 1998 年 ) と 、 扶 助 金 支 給 に 際 す る 根 拠 と な る 法 律 は そ れ ぞ れ異なる。したがって、関連法・制度の実行率に差異が生まれている状況に あ る と 考 え ら れ る 24 。 障害を負った原因に関わらず、調査対象者のほとんどが、それぞれ何らか の形で「国家」からの支援を必要とし、欲しているが、両省共に調査対象者 の半分に満たない人たちが「国家」から扶助金の支給を受けることできてい るに過ぎない。その差異の大元には、障害を負った原因の差異があると考え られる。 -68- いずれにせよ、国が制度を作ったとしても、実行が伴わなければ当該制度 の 善 し 悪 し を 評 価 す る こ と も ま ま な ら な い 。ベ ト ナ ム は 発 展 途 上 の 国 で あ り 、 財政面で限界があるのはやむをえない。しかし、文言上の制度整備だけでな く、その実行率を高めることが大きな課題の1つであるという点は、否定で きないと考えられる。 ⑥ 仕 事 に よ る 収 入 ( 図 11 参 照 ) 仕 事( 農 業 以 外 25 )を 通 じ て の 現 金 収 入 が あ る 人 に つ い て は 、タ イ ビ ン 省 、 ハ ー ナ ム 省 の 調 査 結 果 に 差 異 が 出 た 26 。 タ イ ビ ン 省 で は 裁 縫 業 に 従 事 す る 片 足 の 不 自 由 な 女 性 1 人 だ っ た の に 対 し( 1 人 だ け の た め 図 は 作 成 し な い )、ハ ー ナ ム 省 で は 15 人 と 数 が 多 か っ た 。 し か し 、 タ イ ビ ン 省 の ケ ー ス に つ い て はインタビュー時に応答者が言及しなかったものの、揚げ豆腐作り・盆栽作 りなど、収入があることをうかがわせる作業に従事している人たちがいたこ とにも留意する必要がある。 ハーナム省においては、中でも手工芸が最も多く、6人が籐細工、1人が 刺繍に取り組んでいた。その他にも豆腐作り・酒作りに取り組む人たちがお り、合計すると手に職をつけた人が9人いた。障害の種類としては病気、枯 葉 剤 、生 来 と い っ た 様 々 な 原 因 で 障 害 を 負 っ た 人 が 含 ま れ て い る 。発 育 不 全 、 肢体不自由、難聴、言語障害など、障害の状況も様々であるが、これらの人 たちに共通していたのは手先の自由がきくということであった。技術の習得 のルートは、省の労働・傷病兵・社会問題局が運営する職業技術センターに 通う、養母の兄に学ぶなど、それぞれの条件に基づいて選択を行っている。 両省の共通点をここで求めると、裁縫、籐細工、刺繍、豆腐作りなど、手 に 職 を つ け る と か 、あ る い は 飲 料 水 販 売 店 、飲 食 店 を 経 営 す る と い う よ う に 、 勤務時間、仕事のペースなどを主体的に管理しやすい仕事、職種、環境をこ れらの障害者の人たちが選択しているということである。 「国家」からの支援だけに依存しないで、あるいは「国家」からの支援に 依存しないで生活するためには、仕事は重要な選択肢の一つである。それぞ -69- れの障害の具体的状況、周囲の環境・条件に応じて、それぞれの障害者が生 き方を模索していると考えられる。 ⑦ 「 国 家 」 に 対 す る 要 求 、「 社 会 27 」 に 対 す る 要 求 (図 12、 13、 14、 15 参 照) 「国家」に対する要求については、タイビン省、ハーナム省共にほとんど の人が要求事項を挙げた。中でも扶助金の支給、増加に対するものが両省共 に最多であった。医療関係についての要求が両省共に2番目となっている。 生 活 関 連 の 項 目 で タ イ ビ ン 省 4 人 、 ハ ー ナ ム 省 で 10 人 と 差 が 出 た の は 、 後者では実際にお金の絡む仕事に従事している人が多かったことが一つの背 景と考えられるほか、家の修理・建築への支援といった個別、特殊事情に応 じた要求がハーナム省で多く出たことによる。 仕事関係の項目でも数に差が出たが、タイビン省では資金を借りてまで商 売を行おうという人がいなかったのに対して、ハーナム省では3人いたこと も要因となっている。この点についても後者では実際にお金の絡む仕事に従 事している人が多かったことが、一つの背景としてあると考えられる。 タイビン省で教育関係の要求が6人あったのに対し、ハーナム省では0人 で あ っ た 。調 査 対 象 者 中 に 含 ま れ る 10 代 の 人 の 割 合 が 前 者 で 15 人 、後 者 で 9 人と、若い調査対象者が前者で多かったことも要因の一つとして考えられ る。 次に「社会」に対する要求について考えたい。タイビン省、ハーナム省共 に 要 求 事 項 を 挙 げ な い 人 が 20 人 を 超 え た 。 「 社 会 」に 対 す る 要 求 で 最 も 多 い 項 目 は 、 「 関 心・理 解 」で あ り 、両 省 と も に6人であった。 「 関 心 を 持 っ て も ら う だ け で 十 分 」、 「時々話にきてもらえれ ば」といったささやかな願いも中に含まれる。生活関係の項目がハーナム省 でかなり多いが、単なる「支援」を求めるもののほか、障害者間の交流の条 件作りを求めるものや、コンピュータへのアクセスなど、より具体的な事項 が挙げられていることがタイビン省とは異なっている。ハーナム省では「ハ -70- ーナム省障害者の会」といった障害者組織が、未だできて間もないものの存 在 し て い る 28 。 そ う し た 点 も こ の よ う な 要 求 が 出 て く る 要 因 の 一 つ に な っ て いると考えられる。 「国家」に対する要求と「社会」に対する要求の関係という観点から最も 注 目 さ れ る の は 、タ イ ビ ン 省 、ハ ー ナ ム 省 共 に 、 「 国 家 」に 対 す る 要 求 を ほ と んどの人が挙げているのに対し、 「 社 会 」に つ い て は 要 求 事 項 を 挙 げ て い な い 人が相当数に上ることである。同じ生活環境でくらし、経済的物質的な側面 では豊かとはいい難い生活をしていることを互いに理解している近隣の人た ちに対して、何かをあえて求めることはできないという主旨の説明は両省で 共 に よ く 聞 か れ た 。こ の こ と は 、 「 社 会 」が 既 に 多 く を 担 っ て き て い る こ と を 示 唆 し て い る と 考 え ら れ る 。ま た 、 「 社 会 」が 多 く の こ と を 既 に 担 い 、か つ 何 かを要求する対象として位置付けられていないケースが多いということは、 障害者個々の生活にとって、 「 社 会 」の 中 で も 特 に「 家 族 」の 存 在 が 大 き い こ とを示唆していると考えられる。 他方、タイビン省・ハーナム省の調査対象者の多くが、要求可能な対象、 物事を要求する対象として「国家」を認識していると考えられる。 第3節 ベトナムの障害者の生活における「国家と社会」 これまでの検討結果に基づいて、本節ではベトナムの障害者問題における 「国家と社会」の関係の様態について考えたい。前節での考察、特に②~⑤ に 関 連 す る 検 討 か ら 、 障 害 を 負 っ た 原 因 に よ っ て 「 国 家 」 と 障 害 者 (「 社 会 」 の 側 )と の 関 係 の 様 態 に 違 い が あ る こ と が 分 か っ て き た 。こ れ に つ い て 、以 下 の 6 つ の 類 型 を 抽 出 で き る と 考 え ら れ る 29 。 (1 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 へ の 直 接 参 加 に よ る も の で あ り 、 そ れ が 「 国 家 」 に よ っ て 認 定 さ れ て お り 、 扶 助 30 を 受 け て い る ケ ー ス 。 (2 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 へ の 直 接 参 加 に よ る も の で あ る が 、そ れ が「 国 -71- 家 」 に よ っ て 認 定 さ れ て お ら ず 、 扶 助 を 受 け て い な い ケ ー ス 31 。 (3 )障 害 を 負 っ た 原 因 が 間 接 的 な 戦 争 へ の 関 わ り ( 両 親 < 特 に 父 親 の ケ ー ス多>の戦争への参加、枯葉剤への被災)であり、それが「国家」によって 認定されて扶助を受けているケース。 (4 ) 障 害 を 負 っ た 原 因 が 間 接 的 な 戦 争 へ の 関 わ り( 両 親 < 特 に 父 親 の ケ ー ス多>の戦争への参加、枯葉剤への被災)である疑いがあるが、それが「国 家」に認定されておらず、扶助を受けていないケース。 (5 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 に 関 係 な く 、 「 国 家 」か ら 扶 助 を 受 け て い る ケ ース。 (6 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 に 関 係 な く 、 「 国 家 」か ら 扶 助 を 受 け て い な い ケース。 以下では、まず6つの類型それぞれについて検討した後、ベトナムの「国 家 」 と 障 害 者 (「 社 会 」 の 側 )と の 関 係 の 様 態 に つ い て 総 合 的 な 分 析 を 行 う こ とにしたい。検討の際、6つの類型それぞれの具体的事例をタイビン省、ハ ーナム省から基本的に一例ずつ挙げるが、調査対象者の応答に即して、調査 時点での情報に基づいて記述を行う。その際、調査対象者のプライバシーを 守 る こ と を 心 が け る 。お 金 に 関 す る 記 述 も 含 む の で 、参 考 の た め に 物 価 表( 表 4)を掲げる。 それでは、それぞれの類型について考えていくことにしたい。 (1 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 へ の 直 接 参 加 に よ る も の で あ り 、 そ れ が 「 国 家」によって認定されており、扶助を受けているケース。 これは傷病兵や枯葉剤に直接被災した人のケースである。戦闘への直接的 な 参 加 、戦 地 に お け る 任 務 で 障 害 を 負 っ た が 、 「 国 家 」へ の 貢 献 を 認 め ら れ て 扶助金の支給などを受けている。この場合、若い頃の軍服姿の写真を額に入 れ て 部 屋 に 飾 る な ど「 国 家 」の た め に 働 い た こ と を 誇 り に し て い る 人 が 多 い 。 片方の脚を付け根から失う、膝から下の部位を失う、片腕を失う、爆弾の破 片 が 頭 に 残 り 、視 覚 や 手 の 動 き に 障 害 が 残 る な ど 、様 々 な 障 害 を 抱 え て い る 。 -72- 調査対象者中、このケースに該当する人はタイビン省9人、ハーナム省4 人 の 計 13 人 で あ っ た 。 具体例として、以下の事例を挙げておきたい。 タ イ ビ ン 省 ブ ー ト ゥ ー 県 B 社 の I さ ん は 1950 年 代 半 ば に 生 ま れ た 。 ベ ト ナ ム 南 部 の ロ ン ア ン 省 な ど で 戦 闘 32 に 参 加 し た 。 右 脚 付 け 根 か ら 下 を 失 い 、 右手にも障害を負った。調査時点で「国家」から補助者に対する手当ても含 め て 月 額 122 万 2000 ド ン の 扶 助 金 を 支 給 さ れ て い る 。 義 足 も 「 国 家 」 か ら 補助を受けて作成した。農業に従事する妻と孫の3人で生活している。 3人の子どものうち、2人の息子は地方政府機関、輸出加工区で働いてい る。1人娘は隣省で結婚したが、夫と共に職がなく、娘を I さん宅に預けて い る 。 こ の 孫 の 幼 稚 園 へ の 送 迎 、 家 事 が I さ ん の 日 課 で あ る 33 。 I さんの心配事は「子どもが不在で世話をしてくれる人がいないこと」で あ る 。「 国 家 」 に 対 す る 要 求 は 、 扶 助 金 の 増 額 、「 社 会 」 に 対 し て は 要 求 を 挙 げられなかった。 ハ ー ナ ム 省 ズ イ テ ィ エ ン 県 D 社 で 暮 ら す H さ ん は 1950 年 代 初 め 生 ま れ の 男性である。ベトナム南部タイニン省などで戦闘に参加し、右脚を負傷する と と も に 枯 葉 剤 に 被 災 し た 。「 国 家 」か ら 月 額 69 万 ド ン の 扶 助 金 を 支 給 さ れ ている。傷はまだ痛むという。 ほ ぼ 同 年 齢 の 奥 さ ん と 結 ば れ 、2 人 の 息 子 と 2 人 の 娘 を も う け た 。ま だ 10 歳 に 満 た な い 養 子( 男 )も い る 。実 子 4 人 す べ て 枯 葉 剤 被 災 者 と 認 定 さ れ た 。 2 人 の 娘 の 症 状 は 比 較 的 軽 く 、結 婚 し て 家 を 出 た 。 「 国 家 」か ら の 扶 助 金 お よ び 経 営 す る 飲 食 店 (ビ ー ル や つ ま み を 販 売 )の 売 り 上 げ が 生 活 収 入 源 で あ る 。 飲 食 店 経 営 か ら の 収 入 は 月 額 約 20 万 ド ン ほ ど と い う こ と で あ っ た 。 H さ ん は店の設備の老朽化を心配している。店は見た目かなり古く、インタビュー 中に2度部屋の灯りが消えた(この地域では筆者滞在中に幾度も停電が発生 し た 。し た が っ て 原 因 が 店 の 設 備 に あ る の か ど う か は 必 ず し も 特 定 で き な い )。 それでもHさんは意欲的であり経営拡大を願っている。 「 国 家 」に 対 す る 要 求 と し て は 、 「 傷 病 兵・障 害 者 の 生 活 に 関 心 を 持 っ て ほ -73- しいということ」と「飢餓撲滅・貧困緩和」への取り組みを挙げた。他方、 「 社 会 」 に 対 す る 要 求 と し て は 、「 分 か ち 合 い 」 と 「 支 援 」 を 挙 げ て い る 。 (2 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 へ の 直 接 参 加 に よ る も の で あ る が 、そ れ が「 国 家 」 に よ っ て 認 定 さ れ て お ら ず 、 扶 助 を 受 け て い な い ケ ー ス 34 。 こ れ は 例 え ば 、 青 年 先 鋒 隊 ( Thanh nien xung phong) の 一 員 と し て 戦 闘 に参加したことを原因として障害を負ったにも関わらず、 「 国 家 」か ら 扶 助 金 の 支 給 な ど を 受 け る こ と が で き て い な い ケ ー ス で あ る 。こ の 場 合 、上 述( 1 ) の類型に該当する人と同様に「国家」のために命を賭けて働いたにもかかわ らず、扶助を受けることができていない。 調査対象者の中にはタイビン省、ハーナム省ともに該当するケースはなか った。ここでは具体例として、タイビン省における調査対象者の父親のケー スを記しておきたい。 タ イ ビ ン 省 ブ ー ト ゥ ー 県 B 社 の S さ ん は 40 代 後 半 の 男 性 で あ る 。 タ イ ニ ン省で戦闘に参加した。正規軍による攻撃の前に準備を行うことがSさんの 任 務 だ っ た 。見 る と 、S さ ん の 両 脚 は 極 端 に や せ 細 っ て い た 。2005 年 末 に ナ ムディン省で会った枯葉剤被災者の男性は片方の脚がSさんの両脚と類似の 症状であった。S さんは枯葉剤に被災したことが原因だと考えている。現在 は精米業を細々と営む。 調査当時5歳の娘さんは、肢体、視覚、神経、聴覚、精神、言語のすべて に障害がある。枯葉剤の影響だとSさんは考えている。妻は娘を生んですぐ 家を出た。 心 配 な こ と は 、娘 を 世 話 す る 人 が 誰 も い な い こ と 、自 身 の 健 康 問 題 で あ る 。 「 国 家 」に 対 す る 要 求 は 娘 に 対 す る 支 援 で あ り 、学 費 免 除 、扶 養 で あ っ た 。 「 社 会 」に 対 す る 要 求 に つ い て う か が う と 、震 え る 声 で 静 か に「 国 家 の 責 任 」 と応答された。 (3 )障 害 を 負 っ た 原 因 が 間 接 的 な 戦 争 へ の 関 わ り ( 両 親 < 特 に 父 親 の ケ ー -74- ス多>の戦争への参加、枯葉剤への被災)であり、それが「国家」によって 認定されて扶助を受けているケース。 これは枯葉剤被災者の第2世代に相当する。自身は直接戦争に参加してい ないが親(特に父親のケース多)が戦闘に参加して枯葉剤に直接被災し、帰 郷後にできた子どもが枯葉剤被災者として認定されたケースである。この場 合 、「 国 家 」 か ら 扶 助 金 を 受 給 し て い る 。 枯葉剤被災者の場合、外部の者がその思いを汲み取りうるような健康状態 にない人も多い。だが、症状の比較的軽い人は「国家」から扶助金を受ける ことができているという点については肯定的に受け止めている。 肢体の奇形、起立困難、間断なく咳き込む、徘徊、難聴など様々な障害の 現状を抱えている。 調査対象者中、このケースに該当するのはタイビン省5人、ハーナム省8 人 の 計 13 人 で あ っ た 。 具体的例として、以下の事例を挙げておきたい。 タ イ ビ ン 省 ブ ー ト ゥ ー 県 B 社 の T さ ん は 1990 年 代 生 ま れ の 少 年 で あ る 。 肢体、視覚、精神・神経、聴覚、言語に生来障害があり、知的理解にも問題 のある疑いがある。起き上がることはできず、部屋に吊るしたハンモックの 中で小刻みに体を震わせながら声にならない声を時折上げるという状況だっ た 。応 答 い た だ い た 父 親 は 農 業 に 従 事 し て お り 、 1970 年 代 初 め か ら 80 年 代 初めにかけて従軍、うち5年間を中部高原地域で戦闘に参加し、枯葉剤に被 災した。T さんだけでなく姉3人も枯葉剤被災者として認定されている。T さんの症状は中でも一番重い。父親、姉妹兄弟全員にそれぞれ「国家」から 扶 助 金 が 支 給 さ れ て い る 。 T さ ん に 対 す る 月 額 支 給 額 は 約 17 万 ド ン と い う 。 また、赤十字から生活水の精製施設の設置費用の支援を受けており、近所に 住む一人のお歯黒をしたおばあさんの話では、T さん家族が住んでいる家も 共 同 体 (cong dong)の 支 援 で 建 設 し た と の こ と で あ っ た 。 父 親 に よ れ ば 、T さ ん の 母 親 、長 姉 、次 姉 と 4 人 で 農 業 に 従 事 し て い る が 、 主食の米も必要量を下回っている。心配しているのは子どもの世話を継続す -75- るための経済問題である。 「国家」に対する要求は生活を保つために扶助金を増額してほしいという こと、他方「社会」に対する要求は何も挙げなかった。 父 親 は T さ ん の 足 首 を 握 り な が ら「 十 分 強 い 」と 語 り 、10 年 後 の 希 望 と し て「病気の治癒」を挙げた。 ハ ー ナ ム 省 ズ イ テ ィ エ ン 県 D 社 で 暮 ら す H さ ん は 1970 年 代 後 半 生 ま れ の 独 身 女 性 で 妹 、弟 が い る 。姉 、弟 も 枯 葉 剤 被 災 者 で あ る 。父 親 が ク ア ン チ 省 、 トゥアティエン=フエ省で戦闘に参加、枯葉剤に被災した。父は既に亡くな り、応答いただいた母、そして妹、弟の4人で暮らしている。枯葉剤被災者 と し て 月 額 18 万 ド ン を 支 給 さ れ て い る 。 聴 覚 、 言 語 に 障 害 が あ る が 、 手 話 は学んでいない。補聴器があれば聞くことが可能ということだった。籐細工 作りと家事に従事している。 母親の心配ごとは「自分の死後のこどもたちの世話の問題」であった。 「 国 家 」 に 対 す る 要 求 に つ い て は 「 補 聴 器 の 支 援 」、「 社 会 」 に 対 す る 要 求 については「誰もが貧しいので要求することはできない」とその理由を述べ ている。 (4 ) 障 害 を 負 っ た 原 因 が 間 接 的 な 戦 争 へ の 関 わ り( 両 親 < 特 に 父 親 の ケ ー ス多>の戦争への参加、枯葉剤への被災)である疑いがあるが、それが「国 家」に認定されておらず、扶助を受けていないケース。 これは、親が戦闘に参加して枯葉剤に直接被災し、帰郷後に障害を負った 子どもが生まれたものの、親の枯葉剤の被災も未だ未公認であるため、枯葉 剤被災の疑いがあっても認定されていないケースである。祖父などの直接被 災 が 第 2 世 代 だ け で な く 第 3 世 代 に ま で 影 響 し た 場 合 も こ こ に 含 ま れ る 35 。 この場合、 ( 3 )の 類 型 に 該 当 す る 人 と 類 似 の 症 状 で あ っ て も「 国 家 」か ら の 扶助金を受給できていない。片目眼球の欠損、肢体の奇形、視覚の喪失など 様々な障害を抱えている。 調査対象者中、このケースに該当するのはタイビン省3人、ハーナム省3 -76- 人の計6人であった。 具体例として、以下の事例を挙げておきたい。 タ イ ビ ン 省 ブ ー ト ゥ ー 県 B 社 の N さ ん は 1980 年 代 初 め 生 ま れ の 独 身 女 性 である。父親は青年先鋒隊として米軍による枯葉剤散布地域である中部高原 ダクラク省で戦闘に参加した。学費は軽減免除され、中学校を卒業した。片 方の眼に障害がある。原因は「生来」との応答であったが、父親も視覚が弱 っているとの状況、弟も重度の障害を負っていることから、原因は枯葉剤に よ る 影 響 の 可 能 性 が あ る 。 調 査 当 時 、 母 親 は 病 気 で 入 院 中 で あ っ た 。「 国 家 」 からの支援はない。米などの基本食糧も不足傾向にある。 最 も 心 配 な こ と は 健 康 問 題 で あ り 、病 気 の 治 癒 を 願 っ て い る 。 「 国 家 」に 対 す る 要 求 に つ い て は 病 気 の 治 療 支 援 、自 身 と 弟 に 対 す る 資 金 援 助 、 「 社 会 」に 対する要求は何も挙げられなかった。理由は「すべての人がいい人だから」 とのことであった。現在は出来る範囲で家事をしている。 ハ ー ナ ム 省 ズ イ テ ィ エ ン 県 D 社 の V さ ん は 1970 年 半 ば に 生 ま れ の 独 身 男 性である。肢体、視覚、聴覚、言語、精神・神経に生来障害があり、また知 的理解に障害のある疑いがある。V さんは7人姉妹、兄弟の末っ子である。 6人の姉、兄は父親が戦争に行く前に生まれた。父親はベトナム戦争時に枯 葉剤散布地域であるクアンチ省で戦闘に参加しており、Vさんは枯葉剤被災 の疑いがある。村長も扶助金を受ける手続を進めようとしているが、ここ数 年進捗がない。父親が従軍中、軍務を放棄して帰郷したことが背景にあるよ う で あ る 。 V さ ん は 食 事 、排 泄 、 入 浴 と も に 一 人 で で き る が 、 所 得 を 得 る た めに仕事をすることは容易でない。 (5 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 に 関 係 な く 、 「 国 家 」か ら 扶 助 を 受 け て い る ケ ース。 こ れ は 病 気 、先 天 性 な ど 、戦 争 以 外 の 原 因 で 障 害 を 負 い 、 「 国 家 」か ら 扶 助 金 を 得 て い る ケ ー ス で あ る 。こ の 場 合 、 「 国 家 」か ら 扶 助 金 を 受 け る こ と が で きているという点については、肯定的に受け止めている。日本脳炎による発 -77- 育不全、肢体の奇形、視覚障害、知的障害など、様々な障害を抱えている。 調査対象者中、このケースに該当するのは、タイビン省6人、ハーナム省 3人の9人であった。 具体例として、以下の事例を挙げておきたい。 タ イ ビ ン 省 ブ ー ト ゥ ー 県 A 社 の S さ ん は 1950 年 代 後 半 に 生 ま れ た 独 身 女 性 で あ る 。80 歳 に な る 母 親 と 2 人 で 暮 ら し て い る 。生 来 、左 脚 が 湾 曲 し て い る 。「 国 家 」 か ら 扶 助 金 と し て 月 額 65000 ド ン を 支 給 さ れ て い る 。 応 答 と し て は 家 事 を し て い る と い う こ と で あ っ た 36 。 家 の 中 は き れ い に 片 付 け ら れ て いた。訪問時若い女性が2人家にいた。色々手伝ってもらっているようであ った。 「国家」に対する要求は生活の支援で具体的には扶助金の増額を望んでい る。 「 社 会 」に 対 す る 要 求 は 挙 げ ら れ な か っ た 。米 な ど の 基 本 食 糧 は 足 り て い る。 ハ ー ナ ム 省 ズ イ テ ィ エ ン 県 D 社 の B さ ん は 1950 年 代 後 半 生 ま れ の 独 身 女 性 で あ る 。 4 人 姉 妹 、 兄 弟 ( 女 2 人 、 男 2 人 ) の 長 女 で 70 歳 台 半 ば の 脚 の 不 自 由 な 母 親 (杖 使 用 )と 暮 ら し て い る 。 同 じ 敷 地 内 の 別 宅 に 弟 が 住 む 。 L さ んは烈士家庭に生まれ育ち、2歳の時に日本脳炎にかかり、肢体が発育不全 と な っ た 。「 国 家 」 か ら 月 額 65000 ド ン の 支 給 を 受 け て い る 。 仕 事 は 、 家 内 で 籐 細 工 作 り に 従 事 し て い る 。 仕 事 時 間 は 休 憩 1 時 間 ~ 1 時 間 30 分 を 挟 ん で 、大 体 朝 7 時 30 分 ~ 夕 方 18 時 ま で 。同 細 工 作 り の 技 術 は 職 業 教 育 セ ン タ ー (Trung tam day nghe )で 学 ん だ 。「 国 家 」 か ら の 扶 助 金 と 籐 細 工 の 売 上 げ が L さんの収入源である。 心配な事柄は作った籐細工の売り上げが安定せず、収入が不安定なことで あ る 。 具 体 的 に は 1 日 平 均 で 5000~ 7000 ド ン の 実 入 り と の こ と で あ っ た 。 また、コンピュータへのアクセスが未だできていないことも心配な事柄とし て挙げた。 「 国 家 」に 対 す る 要 求 と し て は 、 「すべての障害者に対して関心を持ってほ し い 」 と い う こ と 、「 障 害 者 に 対 す る 補 助 器 具 の 充 実 」 を 挙 げ た 。 -78- 「社会」に対する要求としては、コンピュータへのアクセスへの支援を挙 げ た 。 L さ ん は 障 害 者 組 織 の 会 員 37 で あ り 、 同 組 織 に そ う し た 条 件 、 環 境 作 りを期待している。 (6 )障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 に 関 係 な く 、 「 国 家 」か ら 扶 助 を 受 け て い な い ケース。 こ れ は 病 気 、 先 天 性 な ど 、 戦 争 以 外 の 要 因 で 障 害 を 負 っ て い る が 、「 国 家 」 か ら 扶 助 を 受 け る こ と が で き て い な い ケ ー ス で あ る 。こ の 場 合 、類 似 の 原 因 、 症状の人が「国家」から扶助金を受けているケースがあるにもかかわらず、 扶助金を受給することができていない。生来寝たきり、日本脳炎による発育 不全、全身の麻痺、寝たきり、徘徊、交通事故による片足膝下の喪失、医療 事故による両腕の麻痺など、様々な障害を抱えている。 調査対象者中、このケースに該当する人は6つの類型の中で最も多く、タ イ ビ ン 省 24 人 、 ハ ー ナ ム 省 26 人 で 計 50 人 で あ っ た 。 具体例として、以下の事例を挙げておきたい。 タ イ ビ ン 省 ブ ー ト ゥ ー 県 A 社 の Q さ ん は 1990 年 代 初 め 生 ま れ の 少 年 で あ る 。生 来 、全 身 が 麻 痺 し た 状 況 に あ り 、車 椅 子 を 使 用 し て い る 。30 歳 台 前 半 の両親は中部高原地域ダクラク省で小売業をしており、仕入れのために年2 回ほど戻ってくるだけである。したがって通常はQさんの世話をしている祖 父と弟の3人で生活している。 「 国 家 」か ら 扶 助 金 な ど は 受 け て い な い 。傷 が 目につく使用中の車椅子は外国の組織からの寄贈品であり、祖父とハノイ市 で開かれた授与式に参加した。 祖 父 の 心 配 な 事 柄 は 、畑 仕 事 を し な が ら Q さ ん の 世 話 を し な け れ ば な ら な いこと、Q さんの心配なことは、学校に行けないことであった。現在、施設 で ベ ト ナ ム 語 、数 を 学 ん だ り 、家 で 自 習 し て い る 。 「 勉 強 し た い 」と い う 気 持 ち が 強 い 。弟 が 兄 の 思 い を 察 し て Q さ ん の 勉 強 ノ ー ト を 持 っ て き て く れ た が 、 意志のこもった文字が並んでいた。 「国家」に対する要求は、勉強したい、学校に通うことができるよう支援 -79- し て ほ し い と い う こ と で あ っ た 。他 方 、 「 社 会 」に 対 し て も 同 様 の 希 望 を 持 っ ている。 ハ ー ナ ム 省 ズ イ テ ィ エ ン 県 B 社 の Q さ ん は 1970 年 代 半 ば 生 ま れ の 独 身 男 性 で 生 来 全 身 麻 痺 の 状 況 に あ る 。精 神・神 経 、言 語 に も 障 害 が あ る 。し か し 、 主として応答下さった父親によれば、食事、排泄、入浴は一人ででき、健康 状況は安定している。7人兄弟姉妹の4番目で現在は両親、弟、妹と5人で 暮らしている。両親と弟は農業に従事しており、Q さんは牛の世話を担当し て い る 。父 親 は 戦 争 に 参 加 し て い な い 。 「 国 家 」か ら 扶 助 金 な ど の 支 援 は 何 も 受けていない。 心 配 な 事 柄 は 両 親 が 年 老 い た 後 の Q さ ん の 世 話 で あ る 。Q さ ん 自 身 は 収 入 が得られる仕事を持ちたいと願っている。 「 国 家 」に 対 す る 要 求 は 扶 助 金 (毎 月 )の 支 給 で あ り 、 「 社 会 」に 対 し て は「 何 もない。誰もが貧しいから」ということであった。 こ れ ま で( 1 )~( 6 )の「 国 家 」と 障 害 者(「 社 会 」の 側 )の 関 係 に 関 す る 類 型 に つ い て 述 べ て き た 。こ の 6 つ の 類 型 は 、 「 国 家 」か ら 扶 助 金 を 受 給 し て い る ( 1 )、( 3 )、( 5 ) と 、 扶 助 金 を 受 取 っ て い な い ( 2 )、( 4 )、( 6 ) の2つのグループに分けることができる。 各類型について述べた際、今回の調査対象者における該当者数をそれぞれ 記したが、ここでそれをまとめてみよう。 す る と 、( 1 ) は タ イ ビ ン 省 9 人 、 ハ ー ナ ム 省 4 人 で 計 13 人 、( 2 ) は タ イビン省、ハーナム省ともに0人(事例として挙げたのはタイビン省におけ る 調 査 対 象 者 の 父 親 の ケ ー ス )、( 3 ) は タ イ ビ ン 省 5 人 、 ハ ー ナ ム 省 8 人 の 計 13 人 、( 4 ) は タ イ ビ ン 省 3 人 、 ハ ー ナ ム 省 3 人 の 計 6 人 、( 5 ) は タ イ ビ ン 省 6 人 、 ハ ー ナ ム 省 3 人 の 計 9 人 、( 6 ) は タ イ ビ ン 省 24 人 、 ハ ー ナ ム 省 26 人 の 計 50 人 と な っ た 38 。 「 国 家 」 か ら 扶 助 金 を 受 給 し て い る ( 1 )、( 3 )、( 5 ) の 類 型 に 属 す る 人 は 受 給 要 因 未 特 定 の 1 人 を 合 わ せ て 合 計 36 人 ( 39.1%)、 扶 助 金 を 受 取 っ て -80- い な い ( 2 )、( 4 )、( 6 ) に 属 す る 人 は 56 人 (60.9%)と な る 。 し た が っ て 、 調 査 対 象 者 中 約 60%の 人 た ち は「 国 家 」か ら の 経 済 的 支 援 を 受 け て い な い と い う こ と に な る 。 ま た 、 そ の 56 人 の う ち 、 50 人 ( 約 89.3%) ま で が 戦 争 に 関わらない要因で障害を負った、 ( 6 )の 類 型 に 該 当 す る 人 た ち で 占 め ら れ て いる。第2節⑤の分析でも指摘したように、障害を負った原因が戦争に関わ るか否かによって、差異が生まれていると考えられる。 第 2 節 ⑦ で「 国 家 」 ・ 「 社 会 」へ の 要 求 に つ い て 考 察 し た が( 図 12、13、14、 15 参 照 )、「 社 会 」 に 対 し て 要 求 を 挙 げ る 人 の 人 数 に 比 べ 、「 国 家 」 に 対 し て 要求を挙げる人の人数が圧倒的に多いことは、 「 社 会 」が 既 に 多 く を 担 っ て き て い る こ と を 示 唆 し て い る と 考 え ら れ る 。ま た 、 「 社 会 」が 多 く の こ と を 既 に 担い、かつ何かを要求する対象として位置付けられていないケースが多いと い う こ と は 、障 害 者 個 々 の 生 活 に と っ て 、 「 社 会 」の 中 で も 特 に「 家 族 」の 存 在が大きいことを示していると考えられる。 以上の考察から、タイビン省・ハーナム省における調査を通して見えてき た 、ベ ト ナ ム の 障 害 者 の 生 活 を め ぐ る「 国 家 」と「 社 会 」の 関 係 の 様 態 は 、 総 合 的 に 見 れ ば「 社 会 」の 側( 特 に「 家 族 」)が「 国 家 」に 比 し て よ り 多 く を担っているという状況にあると考えられる。このことは、特に戦争と関 わらない要因で障害を負った人たち、戦争との関わりを認定されていない 人 た ち に つ い て 、よ り 顕 著 な 現 象 で あ る( 前 者 が 約 9 割 を 占 め る )。換 言 す れば、 「 国 家 」は 障 害 者 の 生 活 を め ぐ る 問 題 へ の 取 り 組 み に お い て「 社 会( 特 に 「 家 族 」)」 の 役 割 、 力 に 大 き く 依 存 し て い る と 判 断 す る こ と が で き る 。 おわりに ベトナムの障害者の基本的な状況をベトナム北部の紅河デルタに位置する タイビン省、ハーナム省における事例調査を通して考察してきた。 今回の取り組みから明らかとなった紅河デルタに位置するタイビン省、ハ -81- ー ナ ム 省 の 障 害 者 の 基 本 的 な 状 況 に つ い て は 、第 2 節 で 記 し た 通 り で あ る 39 。 本 研 究 を 通 し て 、「 国 家 」 と 同 地 域 の 障 害 者 (「 社 会 」 の 側 ) の 関 係 の 基 本 的 様態は、障害を負った原因によって、先に挙げた6つの基本的類型に分ける ことができることが分かった。 ( 1 )~( 6 )の 類 型 は 、 『 国 家 」か ら 扶 助 金 を 受 給 し て い る( 1 )、 ( 3 )、 ( 5 ) と 扶 助 金 を 受 取 っ て い な い ( 2 )、( 4 )、( 6 ) の 2 つ に 分 け る こ と が で き た 。調 査 対 象 者 を 各 類 型 に 振 り 分 け て み た と こ ろ 、 『 国 家 」か ら 扶 助 金 を 受 給 し て い る ( 1 )、( 3 )、( 5 ) に 属 す る 人 は 、 受 給 要 因 未 特 定 の 1 人 を 合 わ せ て 合 計 36 人 ( 39.1%)、 扶 助 金 を 受 取 っ て い な い ( 2 )、( 4 )、( 6 ) に 属 す る 人 は 56 人 (60.9%)と な っ た 。 調 査 対 象 者 中 約 6 割 の 人 た ち は 「 国 家 」 か ら 経 済 的 支 援 を 受 け な い で 生 活 し て い る こ と に な る 。 ま た 、 そ の 56 人 の う ち 、50 人( 約 89.3%)ま で が 戦 争 に 関 わ ら な い 要 因 で 障 害 を 負 っ た 、 (6) の類型に該当する人たちで占められている。このことは、障害を負った原因 が戦争に関わるか否かによって、差異が生まれていることを示している。 また、両省における調査対象者のほとんどすべてが「国家」に対する要求 を挙げる一方で、半数近くから3分の2近くの人が「社会」に対して要求を 挙 げ て い な い 。こ の こ と は 、 「 社 会 」が 多 く の こ と を 既 に 担 い 、か つ 何 か を 要 求する対象として位置付けられていないということを示しており、障害者 個々の生活にとって、 「 社 会 」の 中 で も 特 に「 家 族 」の 存 在 が 大 き い こ と を 示 唆していると考えられる。 以上のことから、タイビン省・ハーナム省の農村部におけるベトナムの在 宅の障害者の生活における「国家」と「社会」の関係の様態は、総合的に判 断すれば、 「社会」 ( ひ い て は「 家 族 」)の 役 割 が「 国 家 」の 役 割 よ り も 大 き い 状 態 に あ る と 考 え ら れ る 40 。 ド イ モ イ 下 ベ ト ナ ム の 障 害 者 福 祉 へ の 取 り 組 み は、冒頭で記したように「国家」と「人民」が共に担っていくことが基本方 針とされている。また「国家」は取り組みを何もしていないわけではない。 この点は重要である。しかしながら「共に担う」ことにおけるバランスとい う点からみれば、現状では「社会」の側にバランスは傾いているということ -82- に な ろ う( 図 16 参 照 )。今 回 の 調 査 対 象 者 の 60%を 越 え る 、戦 争 以 外 の 要 因 で障害を負った人とその家族、戦争関連の要因と認定されていない人とその 家族については、その度合いが特に大きくなる。 あ え て ア ナ ロ ジ ー す れ ば 、序 章 で 記 し た 、 「 国 家 」に 対 し て「 社 会 」の 役 割 の 大 き さ を 想 起 さ せ る 、( 1 ) ド イ モ イ 以 前 の ベ ト ナ ム 、( 2 ) ド イ モ イ 開 始 に至る時期・ドイモイ初期についての古田の描写と類似した状況と見ること もできよう。 2006 年 11 月 7 日 、 世 界 貿 易 機 関 ( WTO) 一 般 理 事 会 で ベ ト ナ ム の WTO 加 盟 議 定 書 が 承 認 さ れ 、同 機 関 へ の ベ ト ナ ム 加 盟 が 確 実 の も の と な っ た (正 式 加 盟 は 2007 年 1 月 11 日 付 )。 序 章 に お け る 議 論 で 示 し た 通 り 、 十 分 な 政 策 遂行、実施能力を有する「強い国家」の形成を現在のベトナムの「国家」は 志向している。しかし、工業化・現代化、市場経済化の推進が優先されると ともに、 「 国 家 」以 外 の ア ク タ ー を 活 用 で き る 分 野 で は そ れ を 奨 励 す る「 社 会 化( xa hoi hoa)」が 同 時 に 進 め ら れ て い る 。序 章 末 尾 で も 指 摘 し た が 、現 代 のベトナムでは「国家」が担うべきことと「社会」が担うべきことの間の均 衡点が模索されているといえる。 そ う し た 状 況 下 、 ベ ト ナ ム の 「 社 会 」( 特 に 「 家 族 」) が 障 害 者 の 問 題 で 担 う役割は現状よりもさらに大きくなっていくのだろうか。ベトナムの障害者 の問題における「社会」と「国家」の役割間の適正なバランスはどの地点に 求められるべきなのか。今後のベトナムの「国家」の在り方、性質を決める こ と に も な る 模 索 の 過 程 に 今 後 も 注 目 し て い き た い 41 。 〔 付 記 〕本 稿 の 執 筆 に あ た り 、多 く の ベ ト ナ ム の 方 々 に ご 協 力 を い た だ い た 。 筆者の訪問、調査を受け入れて下さった調査対象者とそのご家族の方々をは じめとして、ご協力いただいたすべての方々、機関に感謝の意を表したい。 -83- 〔注〕 1 ここでの扶助は「扶助金の支給」を主に意味する。以下の「扶助」についても同様で ある。これ は先に指 摘 したよう に 調査の結 果 から、扶助 金への人 々 の関心が 他 の項目に 比べて非常に高かったことによる。しかし国による扶助の中には医療面でのものなど 様 々 な 形 が あ る 。 例 え ば 調 査 に お い て 少 な く と も タ イ ビ ン 省 で 8 人 、 ハ ー ナ ム 省 で 20 人 の 障 害 者 の 人 が 医 療 保 険 を 所 持 し て い る こ と が 分 か っ た 。こ れ を 所 持 し て い な い 人 の 中には、医療保険がほしいという人ももちろんいる。しかし、自身が医療保険に加入し て い る こ と を 今 回 の 調 査 時 に 同 行 の 幹 部 に 伝 え ら れ る ま で 知 ら ず に い る 人 や 、病 気 を し ても医者じゃなく薬局(中には東方医療。いわゆる漢方も含まれよう)に行くという人 も多く、人々の認識、視野への浸透度には現段階ではまだ限界があると思われる。その 動向には今後も注視していきたい。 2 このケースについては、 タイビン省で調査対象者となった女児の父親のケースである。 3 正村公宏氏は、スウェーデンの福祉国家の形成過程におけるもっとも有力な理論的指 導 者 で あ っ た グ ン ナ ー・ミ ュ ル ダ ー ル 教 授 が 、多 く の 施 策 を 国 家 が 推 進 す る 必 要 が あ る 第 一 段 階 、個 人 や 民 間 の 自 発 的 な 諸 組 織 の 活 性 化 を 図 り 、多 様 な 市 民 的 参 加 の 機 会 を 増 や す よ う に し な け れ ば な ら な い 第 2 段 階 に 分 け て い る こ と を 指 摘 し て い る (正 村 [1992:pp.43-44]。ベ ト ナ ム は こ の 文 脈 で い え ば 、第 1 段 階 に あ る の で は な い か と 思 わ れ る。 4 序章でも指摘したが、本研究の取り組みでは前者の理解を採ろうが、後者の理解を採 ろうが大きな影響はない。 5 正式な言葉の理解においては 「『 人 民 』と は 革 命 の 担 い 手 を 意 味 す る 階 級 的 概 念 で あ り 、 ベ ト ナ ム の 場 合 は 『 労 働 者 ・ 農 民 階 級 お よ び 知 識 人 の 連 盟 』 を 指 し て い る 」( 中 野 [2006:62])。 しかし、ここでは本稿の文脈に即してその位置付けを捉えている。 6 ベ ト ナ ム の 障 害 者 福 祉 関 連 の 主 な 先 行 研 究 に は 、 赤 塚 [1999]、 黒 田 ・ 向 井 ・ 津 止 ・ 藤 本 [2003]、ヴ ー・テ ィ・ウ ゴ ッ ク・ア イ ン [2004]、寺 本 [2006a]、黒 田 [2006]、寺 本 [2006b] がある。向井氏がベトナムの「農村部に居住する障害者や、高齢者、児童などへのサー ビス及びケアのより詳細な実態は全くといって良い程報告がなされていない…農村の 実態調査及び報告を進めなければ総体としてのベトナム社会福祉の現状及び実態はと ら え ら れ な い だ ろ う 」と 指 摘 さ れ て い る よ う に 、都 市 部 に お け る 調 査 研 究 が 主 と な っ て いる。地 方 農村部を 中 心対象と し た障害者 全 般に関す る 論稿には 、管見の限 り では、寺 本 [2006a]、 寺 本 [2006b]が あ る 。 「 国 家 」 と 「 社 会 」 分 析 視 角 を 用 い た 分 析 に は 、 寺 本 [2006a]が あ る 。 こ の よ う に 、 ベ ト ナ ム 障 害 者 福 祉 に 関 す る 調 査 研 究 、 特 に 農 村 部 に おけるそれは未だ数が限られている。 7 世 界 保 健 機 構 (WTO)の 推 計 に よ れ ば ベ ト ナ ム の 障 害 者 数 は 人 口 の 約 10%と な っ て い る 。 ま た 、 労 働 ・ 傷 病 兵 ・ 社 会 問 題 部 門 の 資 料 に し た が う と 同 比 率 は 6.6%に な る と す る 指 摘 も あ る (Uy ban Ve Cac Van de Xa hoi Cua Quoc hoi Khoa Ⅺ [2006: 95])。 8 ベ ト ナ ム の 労 働 法 で は 15 歳 以 上 か ら 労 働 契 約 が 結 べ る 。 男 性 で 60 歳 、 女 性 で 55 歳 が定年、年金給付開始の原則年である。 9 2001~ 2005 年 の 貧 困 ラ イ ン は 1 人 当 た り 1 カ 月 収 入 が 、都 市 部 で 15 万 ド ン 、農 村 部 で 10 万 ド ン 。 2006~ 2010 年 の 貧 困 ラ イ ン は 、 都 市 部 で 26 万 ド ン 、 農 村 部 で 20 万 ド ン と な っ て い る 。 こ の ラ イ ン に 達 し な い 場 合 、 貧 困 世 帯 に 分 類 さ れ る (Nhan Dan,2005 年 7 月 13 日 付 )。 1 0 こ れ ら は 実 質 的 な 調 査 実 施 期 間 で あ る 。ハ ノ イ に お け る 現 地 出 発 前 の 準 備 期 間 や 関 係 -84- 各機関でのインタビューなどの期間は含まれていない。 1 1 タ イ ビ ン 省 で の 調 査 の 際 は 同 省 タ イ ビ ン 市 か ら 毎 日 バ イ ク で 調 査 地 ま で 通 っ た 。他 方 、 ハーナム省における調査の際は、調査地域内に宿をとり、調査を実施した。 1 2 ベ ト ナ ム 社 会 科 学 院 社 会 学 研 究 所 フ ァ ム・ス ア ン・ダ イ 氏 に 同 行 、 協力をいただいた。 ご 協 力 に 対 し 感 謝 を 申 し 上 げ た い 。な お 、タ イ ビ ン 省 で は 現 地 協 力 者 の 方 1 人 に お 願 い し 、 さ ら に 23 戸 の 家 庭 を 調 査 い た だ い た が 、 各 家 庭 を 直 接 訪 問 し て 直 接 話 を 伺 う こ と を最重要視したため、それらの調査票は今回の分析に取り入れていない。 1 3 調 査 地 と は 全 く 無 関 係 で あ っ た 異 邦 人 で あ る 筆 者 が 家 庭 調 査 を 行 う の で あ る か ら 、ベ ト ナ ム の 体 制 上 か ら も 、現 地 関 係 者 が 注 意 す る の は 当 た り 前 で あ る 。た と え 日 本 で も ス トレンジャーである外国人が調査を行うとなれば注意、警戒されると思われる。 14 調 査 中 に 情 報 を 得 て 訪 問 を し た 調 査 対 象 者 も 若 干 含 ま れ て い る 。 1 5 冷 水 教 授 は 上 智 大 学 の「 社 会 福 祉 調 査 法 」の 講 義 に お い て 、調 査 デ ザ イ ン を 以 下 の 4 つ に 分 類 し て い る 。( 1 ) 探 索 的 デ ザ イ ン ( 新 し い 調 査 問 題 な ど で 先 行 研 究 が 少 な い た め に 仮 説 構 成 で き な い 場 合 、 仮 説 の 探 索 の た め に 行 な わ れ る 、 (2 )事 実 発 見 ・ 個 性 記 述 デ ザ イ ン (あ る 社 会 事 象 の 発 言 と そ の 程 度 、お よ び そ の 特 徴 に 関 す る 仮 説 を 検 証 す る た め に 行 な わ れ る )、 (3 )要 因 関 連 分 析 デ ザ イ ン ( 独 立 変 数 、 従 属 変 数 、 統 制 変 数 の 確 定 の 上 で 、そ れ ら の 変 数 < 要 因 > 間 の 相 互 関 連 や 因 果 関 連 推 測 に 関 す る 仮 説 の 検 証 の た め に 行 な わ れ る )、(4 )因 果 分 析 デ ザ イ ン( 原 因 変 数 、結 果 変 数 、統 制 変 数 の 確 定 の 上 で 、実 際 に あ る 原 因 の 後 に あ る 結 果 が 生 じ る と い う 仮 説 を 検 証 す る た め に 行 な わ れ る )( 冷 水 [2006])。 1 6 障 害 者 の 方 の 状 況 を 把 握 す る た め に 調 査 を 実 施 し て お り 、同 居 家 族 の 構 成 、学 歴 、交 友関係、役割の有無、心配なこと、将来の希望すること、家族の構成など、その他の事 項につい て も調査し て いる。論文 の構成上 、ここでは こ の7項目 を 記すに留 め ることに したい。 17 障 害 の 状 況 に よ っ て は 、 障 害 者 御 本 人 か ら お 話 し を 伺 う こ と が 困 難 で あ る 。 18本 人 に よ る 応 答 な の か 、 近 親 者 に よ る 応 答 な の か と い う 点 は 重 要 な 点 で あ る 。 ま た 本 人 に よ る 応 答 の 際 に も 周 囲 に 誰 が い た の か と い っ た 点 に は 、社 会 福 祉 調 査 と い う 観 点 か らすれば留意が必要である。 19 枯 葉 作 戦 の 目 的 は 、 「ベトナムのジャングルや田畑に航空機から化学薬品を浴びせか け 、 解 放 勢 力 の 食 糧 減 と 拠 点 を 壊 滅 さ せ る の が 狙 い と さ れ て い た 」( 中 村 [2005:4])。 2 0 ベ ト ナ ム の 「 子 ど も の 保 護 ・ 養 護 ・ 教 育 法 」 で は 16 歳 未 満 が 「 子 ど も 」 と 規 定 さ れ ている。 21「 知 的 障 害 」 に つ い て は 日 本 で も 未 だ 定 義 が 未 確 立 で あ る と さ れ る 。 日 本 に お け る 一 般 的 な 定 義 と し て は「 知 的 障 害 と は 心 身 の 発 達 期 (お お む ね 18 歳 ま で )に 何 ら か の 原 因 に よ る 障 害 で 、一 般 的 知 的 機 能 が 明 ら か に 平 均 よ り 低 く 、生 活 上 の 適 応 障 害 を 伴 っ て い る も の 」 と さ れ て い る 。 ま た 、「 日 本 の 行 政 施 策 上 で は 、 知 的 障 害 は 知 能 指 数 (IQ)75 以 下 と さ れ て お り 、 知 的 障 害 の 程 度 と し て IQ25 以 下 を 重 度 、 IQ25~ 50 を 重 度 、 IQ50~ 75 を 軽 度 と し て い る 」(以 上 、小 澤 編 [2006: 32-33])。な お 、応 答 者 の 心 情 に 対 す る 配 慮 か ら「 あ な た は 知 的 な 障 害 が あ り ま す か 」と い う 直 接 的 な 質 問 は 今 回 の 調 査 で は 行 な わ な か っ た 。「 疑 い 」 と し て カ ウ ン ト し て い る の は 、 ベ ト ナ ム に お け る 「 知 的 障 害 」 の 定 義 が余り明確でない(管見の限りで)ことと上述の理由による。 22そ の 被 害 は ベ ト ナ ム 人 だ け で な く 、 ベ ト ナ ム 戦 争 に 参 加 し た ア メ リ カ 、 オ ー ス ト ラ リ ア 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 、 韓 国 、 フ ィ リ ピ ン 、 タ イ な ど に も 問 題 は 広 が っ て い る (中 村 [ 2005:4-12] )。 2 3 こ こ で 扶 助 金 受 給 者 に つ い て 特 に 注 目 す る の は 表 22~ 25 に 見 ら れ る よ う に 調 査 に お -85- いて人々の扶助金への要求が最も多かったことによる。 2 4 戦 争 に 勝 っ て い る 当 時 の 日 本 に お い て も 軍 事 救 護 法・恩 給 法 な ど の「 施 策 は す べ て 国 家 の 強 力 な 財 政 的 支 援 に よ っ て 推 進 さ れ て お り 、戦 前 の 傷 痍 軍 人 対 策 が 一 般 の 障 害 者 に 対 す る 施 策 に 比 較 し て 充 実 し て い た こ と が 理 解 で き る 。つ ま り 軍 人 と し て 国 策 に 協 力 し た と い う 貢 献 に 応 じ て 手 厚 い 対 策 が な さ れ た 」 (佐 藤 ・ 小 澤 [2006:72])。 し た が っ て 、 ベ トナムだけの現象とは言い切れない点には留意する必要がある。 2 5 職 業 は 農 業 と 答 え ら れ た 人 は タ イ ビ ン 省 で 4 人 、ハ ー ナ ム 省 で 2 人 で あ っ た 。そ の う ち 現 金 収 入 が あ る と 答 え た 人 は ハ ー ナ ム 省 の 1 人 だ け だ っ た 。し か も こ の 人 は 家 畜 飼 育 の経営拡大を考えている人であり、体が弱く、している作業は限定的で、奥さんが主に 担 っ て ら っ し ゃ る よ う で あ っ た 。こ こ で 非 農 業 と あ え て 明 示 し た の は 、そ う し た 理 由 に よる。 26仕 事 に つ い て い え ば 、 農 作 業 を す る 水 牛 の 世 話 、 家 で 飼 っ て い る 豚 の 世 話 な ど 、 本 人 の収入に直接結びつかない労働をしている人たちもいる点にも留意していただきたい。 2 7 「 社 会 」に 対 す る 要 求( yeu cau)つ い て は 、国 家 に 対 す る 要 求 を 質 問 し た 後 で“ xa hoi” と い う 言 葉 で 問 い か け を 行 な っ た 。つ ま り 、前 者 、後 者 を セ ッ ト に し て 調 査 し た 。 “ Xa hoi” で 意 味 が 通 ら な い 場 合 に は 「 cong dong」、「 lang」 と い う 言 葉 を 重 ね て 用 い る よ う に し た。 2 8 今 回 の 調 査 に お い て も 同 会 の メ ン バ ー を 紹 介 い た だ く な ど 、ご 協 力 下 さ っ た 。記 し て 感謝したい。 2 9 2005 年 に タ イ ビ ン 省 で 行 っ た 調 査 に 基 づ い て 記 し た 寺 本 [2006a:37-39]で は「 (1)障 害 を負った原因が直接的、間接的であるかに関わらず、戦争と関係があり、それが当局に よ り 認 定 さ れ て い る ケ ー ス 、(2)障 害 を 負 っ た 原 因 が 実 際 に は 戦 争 に 関 わ っ て い る に も 関 わ ら ず 、そ れ が 当 局 に よ り 正 式 に 認 定 さ れ て い な い ケ ー ス 、(3)障 害 を 負 っ た 原 因 は 戦 争 に 関 係 な い が 国 か ら 援 助 を 受 け て い る ケ ー ス 、(4)障 害 を 負 っ た 原 因 が 戦 争 に 関 係 な く 国 か ら の 援 助 を 受 け て い な い ケ ー ス 」を 指 摘 し た 。今 回 提 示 し た 6 つ の 類 型 の 原 型 は こ の 4類型にある。 3 0 こ こ で の 扶 助 は「 扶 助 金 の 支 給 」を 主 に 意 味 す る 。以 下 の「 扶 助 」に つ い て も 同 様 で ある。これ は先に指 摘 したよう に 調査の結 果 から、扶助 金への人 々 の関心が 他 の項目に 比べて非常に高かったことによる。しかし国による扶助の中には医療面でのものなど 様 々 な 形 が あ る 。 例 え ば 調 査 に お い て 少 な く と も タ イ ビ ン 省 で 8 人 、 ハ ー ナ ム 省 で 20 人 の 障 害 者 の 人 が 医 療 保 険 を 所 持 し て い る こ と が 分 か っ た 。こ れ を 所 持 し て い な い 人 の 中には、医療保険がほしいという人ももちろんいる。しかし、自身が医療保険に加入し て い る こ と を 今 回 の 調 査 時 に 同 行 の 幹 部 に 伝 え ら れ る ま で 知 ら ず に い る 人 や 、病 気 を し ても医者じゃなく薬局(中には東方医療。いわゆる漢方も含まれよう)に行くという人 も多く、人々の認識、視野への浸透度には現段階ではまだ限界があると思われる。その 動向には今後も注視していきたい。 3 1 こ の ケ ー ス に つ い て は 、タ イ ビ ン 省 で 調 査 対 象 者 と な っ た 女 児 の 父 親 の ケ ー ス で あ る 。 32 こ の 項 で 取 り 上 げ る 人 は す べ て ベ ト ナ ム 戦 争 へ の 参 加 者 で あ る 。 33 若 干 記 述 内 容 は 異 な る が 、 寺 本 [2006a: 32]で も こ の 方 の こ と を 記 し た 。 3 4 2005 年 に タ イ ビ ン 省 で 調 査 を 行 な っ た 際 、 調 査 対 象 者 の 父 親 が こ う し た 経 験 を 有 す る人であった。インタビューを行なったが、調査対象者には含まれていない。ハーナム 省では調査対象者の中にこうした人はいなかった。 3 5 ベ ト ナ ム で は 制 度 の 改 正 が 頻 繁 に 行 わ れ る 傾 向 が あ る が 、少 な く と も 調 査 の 時 点 で は 第3世代への枯葉剤被災の認定は行われていない。 36 た だ 、 敷 地 内 別 棟 で 人 の 手 を 借 り て 、 揚 げ 豆 腐 を 多 数 作 っ て い た 。 -86- 「 ハ ー ナ ム 省 障 害 者 の 会 (Hoi Nguoi Khuyet tat o Ha Nam)」。 2006 年 の 調 査 で 色 々 ご協力いただいた。 3 8 ハ ー ナ ム 省 に お け る 国 家 扶 助 金 受 給 者 で 要 因 が 特 定 で き て い な い 方 が 1 人 い る 。1 カ 月 14 万 ド ン と い う 受 給 額 で あ っ た が 、額 か ら す る と 枯 葉 剤 被 災 者 の 受 給 額 に 最 も 近 い 。 3 9 先 に も 記 し た が 、障 害 者 の 生 活 の 実 態 を つ か む べ く 、そ の 他 の 調 査 項 目 に つ い て も 今 回調査を行なった。これれの項目に対する考察は、別の機会に譲ることにしたい。 4 0 承 知 の こ と と 思 わ れ る が 、こ れ ら の こ と は 政 府 が 何 も し て い な い と い う こ と で は な い 。 施 策 展 開 が 未 だ 初 期 の 段 階 で 浸 透 し て い な い 状 況 だ と 思 わ れ る 。 1998 年 に 障 害 者 法 令 を制定して以来、障害者雇用、扶助金受給者も増加し、公共交通機関における費用免除 の 試 み ( ホ ー チ ミ ン 市 )、 バ リ ア フ リ ー 建 築 へ の 取 り 組 み な ど 徐 々 に 施 策 は 進 め ら れ て い る 。 ま た 2006 年 1 月 9 日 に 「 現 在 の 経 済 ・ 社 会 開 発 状 況 に お け る 障 害 者 支 援 政 策 実 行 推 進 に 関 す る 首 相 指 示 」が 出 さ れ る な ど 政 府 は 問 題 の 所 在 を 認 識 し て お り 、取 り 組 み を強化する方向にあると考えられる。 4 1 序 章 で も 指 摘 し た が 、正 村 公 宏 氏 は 、ス ウ ェ ー デ ン の 福 祉 国 家 の 形 成 過 程 に お け る も っ と も 有 力 な 理 論 的 指 導 者 で あ っ た グ ン ナ ー・ミ ュ ル ダ ー ル 教 授 が 、多 く の 施 策 を 国 家 が 推 進 す る 必 要 が あ る 第 一 段 階 、個 人 や 民 間 の 自 発 的 な 諸 組 織 の 活 性 化 を 図 り 、多 様 な 市民的参加の機会を増やすようにしなければならない第2段階に分けていることを指 摘 し て い る (正 村 [1992:pp.43-44])。 ベ ト ナ ム は こ の 文 脈 で い え ば 、 第 1 段 階 に あ る の で はないかと思われる。 37 -87- 〔参考文献〕 <日本語文献> 赤 塚 俊 治 [1999]「 ベ ト ナ ム の 児 童 福 祉 の 現 状 と 課 題 ― ホ ー チ ミ ン 市 に お け る 要 保 護 児 童 の実態調査を踏まえて―」『東北福祉大学研究紀要』 小澤温 編 [2006]『 第 2 版 よくわかる障害者福祉』ミネルヴァ書房 黒田学・向井啓二・津止正敏・藤本文朗 編 [ 2003] 『 胎 動 す る ベ ト ナ ム の 教 育 と 福 祉 ―ドイモイ政策下の障害者と家族の実態―』文理閣 黒 田 学 [ 2006] 『 ベ ト ナ ム の 障 害 者 と 発 達 保 障 』 文 理 閣 桜 井 由 躬 雄 ・ 石 澤 良 昭 [1977]『 東 南 ア ジ ア 現 代 史 Ⅲ』山川出版社 桜 井 由 躬 雄 [1999]「 紅 河 デ ル タ 」 (石 井 米 雄 監 修 、 桜 井 由 躬 雄 ・ 桃 木 至 朗 編『ベトナ ムの辞典』同朋社) 佐藤久夫・小澤温 編 著 [2006]『 第 3 版 障害者福祉の世界』有斐閣 冷 水 豊 [2006]『 上 智 大 学 社 会 福 祉 学 部 社 会 福 祉 学 科 講 義 ・ 社 会 福 祉 調 査 法 調 査 レジメ No.7 ,No.8 』 長 憲 次 [2005]『 市 場 経 済 化 ベトナムの農業と農村』筑波書房 寺 本 実 [2006a]「 ベ ト ナ ム の 障 害 者 福 祉 に お け る 『 国 家 と 社 会 』 」 ( 寺 本 実 編 『 ド イ モ イ下ベトナムの「国家と社会」をめぐって』アジ研調査研究報告書) ― ― ― [2006b]「 ド イ モ イ 期 ベ ト ナ ム の 障 害 者 を め ぐ る 小 考 察 」 (特 集 発のイマージングイシュー『アジ研 障害と開発―開 ワ ー ル ド ト レ ン ド 』 No.135) 古 田 元 夫 [1996]『 ベ ト ナ ム の 現 在 』 講 談 社 ― ― [2000]「 行 政 改 革 」( 白 石 昌 也 編 『 ベ ト ナ ム の 国 家 機 構 』 明 石 書 店 ) 中 野 亜 里 [2006]「 国 家 ・ 公 民 社 会 と「 実 社 会 」の 関 係 性 ― NGO 活 動 の 事 例 か ら ― 」( 寺 本実編『ドイモイ下ベトナムの「国家と社会」をめぐって』アジ研調査研究報告書) 中 村 梧 郎 [2005]『 新 版 母は枯葉剤を浴びた ダイオキシンの傷あと』岩波書店 ヴ ー ・ テ ィ ・ ウ ゴ ッ ク ・ ア イ ン [2004]「 ベ ト ナ ム に お け る 障 害 児 者 家 族 の 生 活 実 態 に 関 す る 調 査 研 究 」『 立 命 館 産 業 社 会 論 集 』 正 村 公 宏 [1992]『 福 祉 社 会 を 築 く た め に 』 岩 波 書 店 向 井 啓 二 [ 2002]「 ベ ト ナ ム の 障 害 者 に 関 す る 法 制 の 現 状 」(『 仏 教 福 祉 学 7 号 』 種 智 院 -88- 大学) <ベトナム語文献> Chinh phu 〔 政 府 〕[2006] Bao cao 7 nam Trien khai Thuc hien Phap lenh Ve Nguoi Tan Tat〔 障 害 者 法 令 の 実 行 展 開 7 年 間 の 報 告 〕,Uy ban Ve Cac Van de Xa hoi Cua Quoc hoi Khoa Ⅺ 〔 第 9 期 国 会 社 会 問 題 委 員 会 〕 [2006] Bao cao Ket qua Giam sat Thuc hien Chinh sach,Phap luat Ve Nguoi cao tuoi,Nguoi tan tat,Dan so〔 高 齢 者 ・ 障 害 者 人 口 に 関 す る 政 策 、法 律 の 実 行 監 視 結 果 報 告 〕 Hanoi:Nha Xuat ban Lao dong –Xa hoi 〔労働・社会出版社〕. De an Tro giup Nguoi Tan tat giai doan doan2006-2010〔 2006~ 2010 年 の 障 害 者 支 援 計 画 案 〕 [2006]。 2006 年 10 月 26 日 ~ 11 月 9 日 に 実 施 し た 現 地 調 査 時 に 入 手 。 Tong cuc Thong ke 〔 統 計 総 局 〕 [2006]Nien giam Thong ke2005 〔 統 計 年 鑑 2005〕 ,Hanoi:NXB Thong ke〔 統 計 出 版 社 〕 Uy ban Ve Cac Van de Xa hoi Cua Quoc hoi Khoa Ⅺ [2006] Bao cao Ket qua Giam sat Thuc hien Chinh sach,Phap luat Ve Nguoi cao tuoi,Nguoi tan tat,Dan so Hanoi:Nha Xuat ban Lao dong –Xa hoi. Uy Ban ve Cac Cac Van de Xa hoi [2006]Bao cao Giam sat Viec Thuc hien Phap luat Ve Nguoi Tan tat〔 障 害 者 法 令 の 実 行 展 開 7 年 間 の 報 告 〕 [2006] Bao cao Ket qua Giam sat Thuc hien Chinh sach,Phap luat Ve Nguoi cao tuoi,Nguoi tan tat,Dan so, Hanoi:Nha Xuat ban Lao dong –Xa hoi <新聞> Nhan Dan〔 人 民 〕 -89- 表1 障害者の地域別分布(2004年) 地域 障害者数 総人口数 同地域人口に占 める比率(%) 紅河デルタ地域 980,118 17,836,000 5.5 北部西方地域 157,369 2,524,900 6.23 北部東方地域 678,345 9,244,800 7.34 中部北方地域 658,254 10,504,500 6.27 中部沿海地域 749,489 6,981,700 10.74 中部高原地域 158,506 4,674,200 3.39 南部東方地域 866,516 13,190,100 6.57 メコンデルタ地域 1,018,341 17,076,100 5.96 総数 5,266,938 82,032,300 6.42 (出所)Uy ban Ve Cac Van de Xa hoi Cua Quoc hoi Khoa Ⅺ[2006] 表2 ベトナムの地域別貧困率 (%) 地域 2002年 2004年 全国 28.9 19.5 22.4 12.1 北部西方地域 68 58.6 北部東方地域 38.4 29.4 中部北方地域 43.9 31.9 中部沿海地域 25.2 19 中部高原地域 51.8 33.1 南部東方地域 10.6 5.4 メコンデルタ地域 23.4 19.5 紅河デルタ地域 (注)ここでの貧困率というのは1人1カ月当りの平均支出 に基づくもので統計総局と世界銀行により2002年では 16万ドン、2004年では17万3000ドンが判定のライン。 (出所)Tong cuc Thong ke[2006]。 -90- 表3 紅河デルタ地域諸省の人口と面積 地名 人口(1000人) 面積(㎢) 人口密度(人数/㎢) 全国 83119.9(73%) 329314.5 252 紅河デルタ地 18039.5(75.1%) 14812.5 1218 3145.3(34.7%) 921 3415 ヴィンフック省 1169(86.0%) 1371.4 852 バックニン省 998.4(86.8%) 807.6 1236 ハータイ省 2525.7(89.7%) 2192.1 1152 ハイズオン省 1711.4(84.4%) 1648.4 1038 ハイフォン省 1792.7(54.2%) 1526.3 1175 フンイェン省 1134.1(88.9%) 923.1 1229 タイビン省 1860.6(92.7%) 1545.4 1204 ハーナム省 822.7(90.3%) 852.2 965 ナムディン省 1961.1(84.4%) 1641.3 1195 ニンビン省 918.5(84.7%) 1383.7 664 域 ハノイ市 (注)人口は2005年推計。面積は2003年時の数値。括弧内の%は農村部 人口の占める割合。 (出所)Tong cuc Thong ke[2006]より筆者作成。 表4 調査地における物価(参考) タイビン省 普通米1kg 皮厚大ミカン1kg 3,500ドン 10,000ドン ハーナム省 4,000ドン 6,000ドン (注)調査村内における価格。ミカンは購入価 格。 (出所)タイビン省については2005年10月19~ 11月1日の調査、ハーナム省については10月 27日~11月4日の調査に基づく。 -91- 図1 タイビン省調査家庭での応答者 18 16 14 12 人 10 数 8 6 4 2 子 父 祖 の 妻 息 弟 の 妻 妹 弟 姉 兄 母 父 両 親 妻 本 人 0 応答者 (注)複数の方に応答いただいた場合は応答の量に関わらずカウントしている。 (出所)2005年10月19~11月1日に実施した調査に基づき筆者作成。 図2 ハーナム省調査家庭での応答者 24 22 20 18 16 14 人 12 数 10 8 6 4 2 0 本人 妻 両親 父 母 兄 姉 妹 祖父 応答者 (注)複数の方に応答いただいた場合は応答の量に関わらずカウントしている。 (出所)2006年10月27日~11月4日に実施した調査の結果に基づき筆者作成。 -92- -93- 20 00 19 90 19 80 19 70 19 60 19 50 19 40 ~ 20 06 ~ 19 99 ~ 19 89 ~ 19 79 ~ 19 69 ~ 19 59 ~ 19 49 人 数 ~ 19 39 ~ 19 29 20 19 19 19 19 19 19 19 19 00 90 80 70 60 50 40 30 20 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 20 19 19 19 19 19 19 19 19 09 99 89 79 69 59 49 39 29 人 数 19 30 19 20 図3 タイビン省調査対象者の生年分布(対象 総数47人) 12 10 8 6 4 2 0 生年 (出所)2005年10月19日~11月1日に実施した調査に基づき筆者作成。 図4 ハーナム省調査対象者の生年分布(対象総数45人) 12 10 8 6 4 2 0 生年 (出所)2006年10月27日~11月4日に実施した調査の結果に基づき筆者作成。 図5 タイビン省調査対象者における障害の種類(対象総数47人) 35 30 25 人 20 数 15 10 5 害 障 的 知 的 な 障 害 の 精 あ 内 る 疑 神 ・神 い 経 語 言 覚 聴 覚 視 肢 体 0 障害の種類 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2005年10月19~11月1日に実施した調査に基づき筆者作成。 図6 ハー ナム省調査対象者における 障害の種類(対象総数45人) 害 障 的 内 知 的 な 障 害 の 神 あ る 疑 経 ・精 い 神 語 言 覚 聴 覚 視 肢 体 40 35 30 25 人 数 20 15 10 5 0 種類 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2006 年 10 月 27 日~11 月4日に実施した調査に基づき筆者作成。 -94- 図7 タイビン省調査対象者における障害を負った原因(対象総数47人) 30 25 20 人 数 15 10 5 の 事 事 療 戦 遊 戯 中 医 枯 枯 故 故 齢 老 気 病 来 生 剤 葉 剤 葉 剤 葉 枯 疑 接 間 接 直 病 る 傷 よ に 争 い 0 原因 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2005 年 10 月 19 日~11 月 1 日にタイビン省で実施した調査に基づき筆者作成。 図8 ハー ナム省調査対象者における 障害を負った原因(対象総数45人) 35 30 25 20 人 数 15 10 5 明 不 因 遊 戯 中 交 原 通 の 事 事 故 故 気 病 来 生 剤 葉 枯 剤 枯 葉 剤 葉 枯 疑 接 間 接 直 病 る 傷 よ に 戦 争 い 0 原因 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2006 年 10 月 27 日~11 月4日にハーナム省で実施した調査に基づき筆者作成。 -95- 図9 タイビン省調査対象者における「国家」からの扶助金受給者と障害要因(対象総 数20/47人) 療 の 事 事 故 故 気 病 来 生 接 間 中 医 遊 戯 枯 枯 葉 葉 剤 剤 傷 直 病 接 兵 10 9 8 7 人 6 5 数 4 3 2 1 0 要因 (注)国家機関を退職し年金を受給していた方が1人いたが受給理由が障害と関係 がないためここではカウントしていない。 (出所)2005 年 10 月 19~11 月 1 日に実施した調査の結果に基づき筆者作成。 図10 ハーナム省調査対象者における 「国家」からの扶助金受給者と障害要因(対象 総数16/45人) 認 未 確 明 不 因 遊 戯 中 交 原 通 の 事 事 故 故 気 病 来 生 接 間 剤 葉 枯 枯 葉 剤 傷 直 病 接 兵 9 8 7 6 人5 数4 3 2 1 0 要因 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2006 年 10 月 27 日~11 月4日に実施した調査の結果に基づき筆者作成。 -96- 図11 ハーナム省調査対象者の中で仕事による収入がある障害者(対象総数 15/45人) 育 畜 (個 家 営 経 店 販 飲 食 食 品 飼 人 ) ) 人 (個 売 ・酒 類 手 製 工 造 芸 8 7 6 5 人 4 数 3 2 1 0 職種 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2006 年 10 月 27 日~11 月4日に実施した調査の結果に基づき筆者作成。 図12 タイビ ン 省調査対象者の「国家」に対す る 要求(対象総数 46/47人) 30 25 20 人 15 数 10 5 協 し 際 な 力 度 家 族 国 の 支 へ 制 援 援 支 解 係 心 ・理 育 教 事 仕 関 関 係 関 係 関 生 活 関 療 医 扶 助 係 金 0 種類 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2005 年 10 月 19~11 月 1 日にタイビン省で実施した調査に基づき筆者作成。 -97- 図13 タイビ ン 省調査対象者の「社会」に対する 要求(対象総数16/47人) 35 30 25 人 20 数 15 10 5 し へ の 支 な 援 解 心 ・理 社 会 組 織 関 教 仕 育 事 関 関 係 係 係 関 生 医 活 療 扶 関 助 係 金 0 種類 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2005 年 10 月 19~11 月 1 日にタイビン省で実施した調査に基づき筆者作成。 図14 ハー ナム省調査対象者の「国家」に対する 要求(対象総数45/45人) 25 20 人 数 15 10 5 事 し な な 項 度 制 解 全 般 的 心 関 育 教 事 仕 ・理 係 関 係 関 係 関 生 活 関 療 医 扶 助 係 金 0 種類 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2006年10月27日~11月4日に実施した調査の結果に基づき筆者作成。 -98- 図15 ハー ナム省調査対象者の「社会」に対す る 要求(対象総数24/45人) 25 20 人 数 15 10 5 事 し 全 般 的 な な 項 度 制 解 関 育 教 事 仕 心 ・理 係 関 係 関 係 関 活 生 医 療 扶 関 助 係 金 0 種類 (注)回答が複数の場合、そのままカウントしている。 (出所)2006 年 10 月 27 日~11 月4日に実施した調査の結果に基づき筆者作成。 図 16 ベトナムの障害者をめぐる「国家」と「社会」の相関シーソー <「国家」の役割> <「社会」の役割> 大 大 小 小 (出所)筆者作成。 -99-