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フォーラム富山「創薬」
フォーラム富山「創薬」 「再生医学の現状と将来」 富山大学医学薬学研究部 再生医学講座 二階堂敏雄 【はじめに】医療機器産業の世界市場規模は 源;移植するための細胞、2)液性因子;細 約 16 兆円だが、そのうち米国が 41%、欧州 胞の増殖や分化を制御する増殖因子やサイト が 25%、日本が 15%程度のシェアを占めてい カインなど、3)スカッフォールド(足場); る。国内の医療機器市場は2兆 286 億円規模 細胞の適切な増殖や分化に必要な微小環境を だが、貿易収支は 5,000 億円程度の赤字にな 構成する細胞外マトリクスや人工足場など、 っており、赤字幅は年々拡大し続けている。 である。特に1)の細胞源に関しては、ヒト 特に治療関連機器は7割が輸入に頼っており、 胚性幹細胞(ES 細胞)の樹立、およびここ数 輸入元は米国が8割を占める。また、輸出入 年における幹細胞研究の飛躍的な進展が細胞 収支を輸入と輸出額の合計で割った国際競争 移植療法に大きく貢献すると期待される。幹 力指数は、ここ 10 年間マイナスが続いている。 細胞とは、臓器細胞の欠損・傷害時の再生に 同じペースメーカーを日本で購入すると 150 大きく寄与するとされている細胞で、複数種 万円ほどになるが、アメリカでは 90 万円程度、 の細胞に分化する能力を維持しつつ、自己複 ドイツでは 40 万円程度で購入できる。こうし 製できる細胞であり、この細胞を細胞源とす た内外価格差は、輸入品の多い医療機器に多 ることで、成熟細胞移植に比べ少量で効率よ く、市場を欧米企業にコントロールされてい い臓器再生が期待できる。1999 年には神経幹 ることから発生している。このように再生医 細胞が、2001 年には造血幹細胞が、胚葉を越 療を含む医療機器産業の分野は欧米に比べて えた分化能を持つことが示唆され、移植細胞 甚だ遅れている。そこで厚生労働省は、国内 源として期待されるようになった。しかし、 の医療機器産業を活性化し、国際競争力を高 ES 細胞を含めたこれらの候補には、使用にお めるための「医療機器産業ビジョン」を策定 ける倫理的問題の解決、移植時の免疫反応の した。平成 15 年度からの 5 年間をイノベーシ 回避、ドナー細胞の確保など、様々な問題が ョン促進のための集中期間と位置づけ、再生 提起されている。 医療やバイオイメージング機器、心血管系医 【羊膜細胞の多能性】演者らは、これらの問 療機器など、今後ニーズが拡大する医療機器 題を解決する細胞として羊膜細胞に着目して について重点的に支援していくことを決めた。 いる。演者らのこれまでの研究結果から、1) このように日本では再生医療を含 培養ヒト羊膜上皮細胞(hAEC)は糖尿病マウ む医療機器産業は甚だ立ち後れているが、最 スに移植することでインスリン産生細胞に分 近再生医療に新たな動きが出てきている。再 化し、血糖値を低下させることが明らかにな 生医療は、臓器の機能細胞を移植源とし、そ った1)。羊膜間葉系細胞(hAMC)をマウスに れを適所に生着させることで機能補助・補完 移植するといずれの細胞も肝細胞に分化する するという方法であり、通常の臓器移植に比 ことが明らかになった2)。3) また心筋梗塞組 しドナーおよびレシピエントの精神的・肉体 織にヒト羊膜間葉系細胞を移植することによ 的な負担を軽減し、加えて移植源の確保が比 って、心筋様細胞に分化することが明らかに 較的容易になることが期待できる。細胞移植 なった3)。4) またヒト羊膜間葉系細胞が軟骨 療法には3つの重要な要素がある。1)細胞 細胞に分化する可能性を明らかになった。こ れらの結果は、羊膜細胞が膵・肝への分化誘 生きた細胞シートを構築することができた4)。 導に加え、羊膜細胞が心筋組織などさまざま 【医療材料としての乾燥羊膜の利用】演者ら な組織への分化能を持つ細胞群を含むことを は羊膜を乾燥させ、常時使用可能で、ハンド 示す(図1) 。現在、羊膜細胞を再生医療材料 リングの良い再生医療材料として乾燥羊膜を として利用した治療の可能性を検討している。 開発した。同種間の臓器移植が認められてい 【羊膜細胞を使った人工気管開発の試み】気 る現在においても、種々の問題から人工硬膜、 管切開による狭窄や外傷、悪性腫瘍などによ 心臓弁や広範な表皮喪失に対する被覆剤とし り気管管状切除が必要となる場合があるが、 て利用されている材料は未だに人畜共通感染 切除断端の端々吻合は通常 6cm が限界とされ、 症の危険性のある異種生体材料である。乾燥 長い欠損を補うには人工気管の使用が不可欠 羊膜の抗炎症作用、感染抑制作用、上皮化促 となる。しかし、人工気管には狭窄、感染、 進作用など創傷治癒を促進する性質、人工臓 虚血、逸脱などの多くの問題がある。演者ら 器として組織や細胞との親和性に優れてい は、単離羊膜上皮細胞を多孔質人工チューブ る可能性を検討し、細胞活性能をもつ創傷被 内腔に培養し、ハイブリッド人工気管を構築 覆剤、再生医療のスカフォールド、人工臓器 することで、同種移植(allograft)が可能で の作成を試みている(図3)。 かつ、狭窄、感染、そしてより生体親和性の 【終わりに】 高い優れた特性を持つ新たな人工気管を作製 これらの研究結果は、羊膜細胞が膵・肝への することを試みている(図2)。 分化誘導に加え、羊膜細胞が心筋組織などさ 【羊膜細胞シートの作製】細胞移植療法では、 まざまな組織への分化能を持つ細胞群を含 移植される細胞が生着する場所を制御するこ むことを示唆している。また羊膜細胞は、 とは非常に困難である。重合体Ⅳの上にコン スカフォールドと組み合わせることによっ フルエントまで培養(1∼2週間培養)し、 てハイブリッド人工臓器の作成が可能であ 4℃で処理すると3時間で細胞シートが培養 り、更に乾燥羊膜は細胞活性能をもつ創傷被 ディシュから剥離した。得られた細胞シート 覆剤として使用可能である。このように羊膜 を別のディシュで培養すると、再び生着・増 は再生医療材料として最適な材料であるの 殖することから、細胞移植治療に利用可能な で、今後広範な分野での利用が期待される。 1. Wei JP, Zhang TS, Kawa S, Aizawa T, Ota M, Akaike T, Kato K, Konishi I, Nikaido T. 2003. Human amnion-isolated cells normalize blood glucose in streptozotocin-induced diabetic mice. Cell Transplant. 12: 545-52. 2. Takashima S, Ise H, Zhao P, Akaike T, Nikaido T. 2004. Human amniotic epithelial cells possess hepatocyte-like characteristics and functions. Cell Struct Funct 29: 73-84 3. Zhao P, Ise H, Hongo M, Ota M, Konishi I, Nikaido T. 2005. Human amniotic mesenchymal cells have part of the characteristics of cardiomyocytes Transplantaion 79: 528-535. 4. Zhang H, Iwama M, Akaike T, Urry DW, Pattanaik A, Parker TM, Konishi I, Nikaido T. 2006: Human amniotic cell sheet harvest utilizing a novel temperature-responsive culture surface coated with protein-based polymer. Tissue Engineering 12: 391-401. 【羊膜細胞の多分化能】 ハイブリッド人工器官 アルブミン 染色 肝細胞 人工気管・血管再建の課題の克服 (Takashima et al, 2004) Trypsin 上皮細胞 間質細胞 分 化 誘導 羊膜 膵細胞 ●ポリエステル布製 2.血液適合性の不足 ●生体材料(化学処理動物血管)製 Rat心臓に移植 心筋細胞に 分化した 羊膜細胞 Collagenase 1.柔軟性、耐圧性の不足 ●PTFE(テフロン)製 (Wei JP et al, 2003) 心筋細胞 H/E 主な欠点 従来の人工器管材料 マウス脾臓に 移植した 羊膜細胞 αHuman insulin 染色 3.吻合部組織の肥厚による閉塞 1,2の改善策 柔軟性、耐圧性 (Zhao P et al, 2005) anti-CK19 軟骨細胞 高血液適合性 セグメント化ポリウレタンの採用 Rat軟骨に移植 軟骨細胞に 分化した 羊膜細胞 羊膜には 1)多分化能を有する幹細胞が存在する。 2)細胞移植療法に適した細胞源となりうる。 臨床実績、安全性 3の改善策 (Wei JP, in preparation) 羊膜上皮細胞のコーティング 図1羊膜細胞の多分可能 吻合部肥厚化の改善 図2ハイブリッド人工器官 背景 医療廃棄物となる 従来の医療材料の問題点 (生体材料、 人工臓器) 新たな 生羊膜 医療材料源 人畜共通感染の危険性 拒絶反応 低い組織親和性 高価 目的 1 乾燥 開 発! 乾燥羊膜 (1 枚=約 1g) 欠点 ①必要時に入手困難 ②長期保存不可 ③ハンドリングが難 利点 ①高い組織親和性 ②低い拒絶反応 マイクロ波 減圧 遠赤外線 羊膜 低温維持 検討内容 ①必要時に使用可か? ②長期保存可か?(室温) ③ハンドリングが易? ④高い組織親和性を保持しているか? ⑤拒絶反応は? 図3乾燥羊膜の臨床への応用 目的 2 乾 燥 羊 膜 を 製 品 として 実 用 化 す る! 創傷被覆剤として利用可能か? 方法 乾燥羊膜貼付 目標 広範囲 皮膚欠損治療 ①欠損性損傷モデル(マウス、 ブタなど)を用い、 他の市販創傷被覆剤と 治癒経過を比較検討する。 ②乾燥羊膜の特性、欠点を ①乾燥羊膜を加工し、生体へ移植する。 評価する。 ③乾燥羊膜の抗炎症作用、 ②内腔が近隣組織からの上皮細胞により 被覆されるよう、誘導因子を解析する。 瘢痕性収縮抑制作用を 組織学的に評価する。 臨 床 に 応 用 す る ! ケロイド予防 人工食道作製 褥瘡治療 火傷治療 機能再建をめざした組織再構築の スカフォールドとして利用可能か? 人工気管作製 あざ、ほくろ等の 除去後の皮膚欠損部被覆など 美容目的利用 人工卵管作製 略 現職 氏名 生年月日 最終学歴 職歴 業績 (10 編) 特許 受賞 歴 書 富山大学医学薬学研究部再生医学・教授 二階堂敏雄 昭和 28 年 5 月 27 日 Tel: 076-434-7210 Fax: 076-434-5011 E-mail: [email protected] 1984 年 3 月大阪大学大学院医学研究科博士課程修了 医学博士 1984 年 4 月京都大学医学部医科学講座(日本学術振興会奨励研究員) 1985 年 4 月愛知がんセンター研究所研究員 1986 年 11 月米国ハーバード大学医学部生化学−分子薬理学教室 1989 年 10 月米国ウイスター研究所(助教授) 1993 年 10 月信州大学講師(医学部付属病院) 2000 年 4 月信州大学助教授(医学部医学研究科) 2004 年 4 月信州大学教授 (医学部保健学科) 2005 年 4 月富山医科薬科大学教授(医学部再生医学) 2005 年 10 月富山大学教授(医学部再生医学) 統合により大学名称変更、現在に至る 1. Obata, M.et al. 1981. Structure of a rearranged g 1 chain gene and its implication to immunoglobulin class switch mechanism. Proc. Natl. Acad. Aci. USA 78: 2437-2441. 2. Nikaido, T.et al. 1981 Switch region of the immunoglobulin C m gene is composed of simple tandem repetitive sequences. Nature 292: 845-848. 3. Takahashi, N.et al. 1982. Structure of human immunoglobulin gamma genes: Implications for evolution of a gene family. Cell 29: 671-679. 4. Nikaido, T.et al. 1984. Molecular cloning of cDNA encoding human interleukin-2 receptor. Nature 311: 631-635. 5. Yoshida, M.et al. 1992. Quercetin arrests human leukemic T cells in late G1 phase of the cell cycle. Cancer Res. 52: 6676-6681. 6. Kawa, S.et al. 1996. Inhibitory effect of 22-oxa-1, 25-dihydroxyvitamin D3 on the proliferation of pancreatic cancer cell lines. Gastroenterology 110: 1605-1613. 7. Horiuchi, A.et al. 1999. Possible role of Calponin h1 as a tumor suppressor in human uterine leiomyosarcoma. J. Natl. Cancer I. 91:790-796. 8. Homano H,et al. 2001. Pancreatitis associated with elevated levels of IgG4 in serum. New Engl J Med 344:732-738. 9. Ise H,et al. 2004. Effective hepatocyte transplantation using rat hepatocytes with low asialoglycoprotein receptor expression. Am J Pathol. 165:501-510 10. Zhao P, et al. 2005. Human amniotic mesenchymal cells have part of the characteristics of cardiomyocytes. Transplantaion 79: 528-535. 特開 2001-037476: 「DC パルスによるエレクトロポレーションを用いた、導入効率を大 幅に向上できる薬剤導入法を提供する装置」 特開 2002-069075: 「生理活性物質 NK34896B, 及びその製造法」 特開 2002-068980: 「生理活性物質 NK34896 類縁体の用途 」 特願 2001-372878: 「ヒト羊膜由来細胞含有医薬組成物」 特願 2002-262265: 「心疾患治療のためのヒト羊膜由来細胞含有医薬組成物」 国際出願 JP02/12761:「ヒト羊膜由来細胞含有医薬組成物」 特願 2003-366452: 「生体材料」 特願 2005-245964: 「乾燥羊膜及び羊膜の乾燥処理方法」 昭和 平成 平成 平成 62 7 14 14 内藤記念科学奨励賞 免疫フォーラム賞 第 1 回日本再生医療学会総会で優秀演題賞受賞。 第 3 回国際遺伝子発現会議で最優秀ポスター賞受賞。