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PRI Review 第8号(2003 年春季) 目 特 次 集:交通サービス改善の多角的分析…………………………………………………… 2 Ⅰ 都道府県間アクセシビリティ改善の経済効果……………………………………… 2 Ⅱ 空港アクセスにおける情報提供……………………………………………………… 9 Ⅲ 交通の健康学的評価……………………………………………………………………18 調査研究論文 行政規制の実効性確保のための「間接行政強制」について ∼仏独主要都市実務運用実態調査の概要報告∼……………………………26 米国 California 州における環境施策 ………………………………………………………36 イギリス政府における行政改革の現況……………………………………………………42 パースペクティブ 「産業の地域特化」…………………………………………………………………………50 研究所の活動から…………………………………………………………………………………51 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 特集 『交通サービス改善の多角的分析』 交通サービスは、経済活動や人々の暮らしに多くの影響をもたらしており、その改善の ためにハード・ソフトさまざまな観点からの取組みが行なわれている。特集では、交通サ ービスと経済活動の連関、空港アクセス時における交通情報提供のあり方及び交通が人の 心身に及ぼす影響という 3 つの異なる観点から、多角的な分析を試みた。 Ⅰ 都道府県間アクセシビリティ改善の経済効果 総括主任研究官 山口 勝弘 概 要 我が国の都市・国土空間において、都道府県間のアクセシビリティが経済活動にどのよ うな影響を及ぼしているかを分析した結果、首都圏及び大阪圏の交通一般化費用が上昇し たことに伴うアクセシビリティ低下により、 1990 年から 1998 年までの 9 年間で 69 兆 3000 億円あまりの損失、即ち、毎年 7 兆 7000 億円あまりの GDP 減少が引き起こされた可能性 があることがわかった。これは、98 年の GDP に対して約 1.6%のインパクトを持つ大きさ である。このため、交通サービスの改善、渋滞緩和等により首都圏及び関西圏に係る都道 府県間の交通一般化費用の低下を防ぐだけでも、この期間の日本の GDP 成長率は、毎年 1.6%程度の上昇の余地があったということができる。 はじめに 最近における空間を考慮した経済学の発展に伴い、空間と経済活動の関係を規定する要 因は、従来から指摘されている生産要素の賦存量に加え、集積の経済が寄与しているとす るのが定説になりつつある。集積の経済は、多様性への嗜好を背景に、知識の波及と財の 需給連関から生じるとする説が有力であり、 「輸送費」が空間構造の変革をもたらすエンジ ンの役割を果すとされている(空間経済分析の動向については、拙稿(2002)を参照。 ) 。 しかるに、ある地域における他地域との間の輸送費の低減は当該地域の経済活動に常に プラスに働くとは限らず、輸送費の低減が逆に企業や人口の流出をまねき、いわゆる「ス トロー効果」が発生する場合もある。中里(2001)は、都道府県別の道路実延長を用いて地 域間交通インフラが一人当たり県内総生産の成長率に及ぼす影響を分析し、推定期間であ る 1960 年から 88 年までの期間において、対象期間の後半に低下がみられるものの、地域 間インフラの整備はストロー効果よりも市場規模の拡大を通じて経済成長の促進に寄与す る効果の方が大きいことを示している。 本稿では、1990 年以降の期間において都道府県間のアクセシビリティの変化が、経済活 動にいかなる影響を及ぼしたかを分析することとする。具体的には、アクセシビリティの 指標にインフラの整備水準ではなく、 渋滞等による実際の所要時間を反映させるとともに、 鉄道、航空等他の交通機関を考慮するため、都道府県別の交通一般化費用を用いて分析を 行うこととする。また、都市・国土空間におけるアクセシビリティは、交通一般化費用と アクセスする地域の経済活動や人口規模との兼ね合いにより規定されることから、都道府 県別の交通一般化費用と人口等を用いてアクセシビリティ指標を作成し、これを生産関数 に取り込む形で、対象期間を 1990 年度から 98 年度とする分析を行うこととする。 ― 2 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 1.集積・ 輸送費変化を表す指標 (1) アクセシビリティ指標の定義 空間経済学における集積力形成のメカニズムは、ある都市・地域における財やサービス の多様性という比較優位から始まるが、交通関連社会資本の整備による都市圏の拡大や多 様な人材交流の増加といった、特定集積へのアクセシビリティの向上による利用可能な 財・サービス・人的交流の多様化も、集積力の形成を促す。 空間経済分析に関わる先行的な実証研究においては、 都市における産業・人口の集積や、 これらに影響を与える「輸送費」の代理指標について、様々なデータが使用されている。 ある特化した産業の集積の度合いを表す指標としては、産業別特化係数が用いられる場 合が多い。多様性については、これと逆の動きをするハーフィンダール指標が用いられて いる。人口をはじめとする市場規模を表す指標としては、人口密度や経済活動の規模その ものである総生産(GDP)が用いられることが多い。 「輸送費」の代理指標としては、道路実延長距離など直接的な社会資本整備水準を用い るケースと、ある都市・地域から他地域へのアクセシビリティが向上することによる、当 該都市・地域において得られる財やサービスないし人的交流の多様性を評価できるような 合成変数を作成して用いるケースが見られる。しかし、 「輸送費」についてはモデルなどを 用いた実証分析に適する集約され総合化・抽象化された公表統計データが確立されていな いため、公表統計以外に個別企業への聞き取り調査によるパネルデータを用いて、個別企 業の立地箇所から消費市場や交通中継点(積出港)への時間距離を計測し補足しているケ ースもある。 本調査においては、アクセシビリティが向上することによって、当該都市・地域におけ る財やサービスの多様性が増大することを表現できる指標として、経済や人口規模を分子 とし、移動所要時間と移動に係る費用を総合化した「交通一般化費用」を分母とする合成 変数を作成した。 「交通一般化費用」データは、国土交通省の全国幹線旅客純流動調査等の データを用いて、①都道府県間と②都道府県内々について作成した。 アクセシビリティ指標: ACC i = Xj ∑ GV j ij Xj: j 地域の GDP や人口、GVij: i 地域とj 地域との間の交通一般化費用 この合成変数は、経済活動や人口規模の大きい地域からアクセスし易い地域ほど値が大 きくなる性質を有する(i=jの場合は、自地域内のアクセシビリティが改善することで、 自地域の経済活動や人口規模が不変でも、同指標が増大する) 。 (2) アクセシビリティ指標の経年変化 図 1 及び2は、このアクセシビリティ指標の 1990 年から 1998 年までの変化を、沖縄 県を除く 46 都道府県について示したものである。 前述のとおり、同指標の構造上、その変化は分子たる自地域および自地域以外の経済活 動や人口規模の変化による部分と、分母たる自地域内および他地域間との交通一般化費用 の変化による部分に分解される。同図では、これらの要素を分解して示し、同期間のアク セシビリティ指標変化要因の検討を行った。 ‘90 から’98 にかけて、同指標が著しく増大した県は、長野県と和歌山県である。いずれ も他県との間の交通一般化費用が大きく減少したことがその要因であり、長野県について ― 3 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 は長野新幹線の開業や上信越道の供用による効果、和歌山県については関西国際空港開港 による効果が大であったと考えられる。 図 1 ‘90∼’98 のアクセシビリティ指標変化に対する寄与度の分解(GDP基準) (改善) 8 6 4 2 -1 -1.5 鹿児島県 宮崎県 大分県 熊本県 長崎県 佐賀県 福岡県 高知県 愛媛県 香川県 徳島県 山口県 広島県 岡山県 島根県 鳥取県 和歌山県 奈良県 兵庫県 大阪府 京都府 滋賀県 三重県 愛知県 静岡県 岐阜県 長野県 山梨県 福井県 石川県 富山県 新潟県 神奈川県 東京都 千葉県 埼玉県 群馬県 栃木県 茨城県 福島県 山形県 秋田県 宮城県 岩手県 青森県 -0.5 鹿児島県 宮崎県 大分県 熊本県 長崎県 佐賀県 福岡県 高知県 愛媛県 香川県 徳島県 山口県 広島県 岡山県 島根県 鳥取県 和歌山県 奈良県 兵庫県 大阪府 京都府 滋賀県 三重県 愛知県 静岡県 岐阜県 長野県 山梨県 福井県 石川県 富山県 新潟県 神奈川県 東京都 千葉県 埼玉県 群馬県 栃木県 茨城県 福島県 山形県 秋田県 宮城県 北海道 ― 4 ― 県内一般化費用要因 自県人口要因 県間一般化費用要因 他県人口要因 (悪化) 県内一般化費用要因 自県GDP要因 県間一般化費用要因 他県GDP要因 (悪化) 岩手県 0 青森県 北海道 0 -2 -4 -6 -8 図 2 ‘90∼’98 のアクセシビリティ指標変化に対する寄与度の分解(人口基準) (改善) 1.5 1 0.5 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 一方、同指標が減少した県は、首都圏及び関西圏に集中しており、その全ての都府県に おいて他県との間の交通一般化費用が増大し、移動に伴う時間コストも含めた費用が増大 したことが主因である(東京都については自地域内における経済活動の減退も、アクセシ ビリティ指標の減少に係わっている) 。 2.アクセシビリティが経済活動に及ぼす影響の推計 (1) 推計手法 ①定式化 通常のコブ=ダグラス型生産関数に、交通サービスの水準や交通網などの社会資本整備 によるマーケット・アクセシビリティを考慮した形で、地域全体の生産関数を次のように 定義する。 β β Yi = exp( β 0 + βACC it ) Lit 3 K it 4 β β Yi = exp( β 0 + β 1 ACCO it + β 2 ACCI it ) Lit 3 K it 4 (1) ここで、それぞれの変数は Yit :地域 i 、時点 t における民間部門の総生産、 ACC it :地域 i 、時点 t におけるマーケット・アクセシビリティ(総合) 、 、 ACCI it :地域 i 、時点 t におけるマーケット・アクセシビリティ(県内) ACCO it :地域 i 、時点 t におけるマーケット・アクセシビリティ(県間) 、 Lit :地域 i 、時点 t における労働投入量、 K it :地域 i 、時点 t における民間資本ストック、 (1)式の両辺に対数をとると、次のような推定式が得られる。 ln Yi = β 0 + βACC it + β 3 ln Lit + β 4 ln K it + ε it ln Yi = β 0 + β 1 ACCO it + β 2 ACCI ut + β 3 ln Lit + β 4 ln K it + ε it (2) ここで、 ln X it は変数 X it の自然対数値、 ε it は誤差項。 ②データ 国勢調査や県民経済計算のデータを使用し、平成 2(1990)年、平成 7(1995)年、平成 10(1998)年の、沖縄県を除いた 46 都道府県のクロスセクション・プーリングデータを用 いて推定を行った。 ― 5 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 変数 Yit ACC it ACCI it ACCO it Lit K it Dummy データ 各都道府県の民間部門 GDP(LY) 各都道府県における GDP 基準の市場近接性指標 (ACGDP,ACGDPI,ACGDPO) 各都道府県における人口基準の市場近接性指標 (ACPOP,ACPOPI,ACPOPO) 各都道府県内の民間部門就業者の実総労働時間(LNT) 各都道府県の民間資本ストック(LK) 平成 7(1995)年を 1 とするダミー変数(D95) 平成 10(1998)年を 1 とするダミー変数(D98) 注1:民間部門とは、 農林水産業、鉱業、製造業、建設業、電力・ガス・水道、卸・小売、金融・保険、不動産業、運輸・ 通信、サービス業、対民間非営利サービス業の合計。 注2:慶応大学土居教授推計の「 民間企業資本ストック(全企業): 取付ベース」(平成 2 年暦年価格)を県内総支出デフ レータにより平成 7 年暦年価格にした値(出典:土居丈朗 (2002)『地域から見た日本経済と財政政策』三菱経済研 究所)(百万円単位)を用いた。この民間資本ストックデータにおいては、1985 年度から参入した NTT・JT、1986 年 度から参入した電源開発株式会社、1987 年度から参入したJR 各社をデータから控除しており、1984 年度以前と以 後でのデータの連続性を保っている。 (2)式の推定方法としては、各年のデータをプールした上で、通常の最小二乗法(OLS)を 用いる。このとき、母集団の分布に時間を通じて変化が起こっている場合を考慮し、1995 年および 1998 年の観測値に関してそれぞれ 1 の値をとるダミー変数(D95,D98)を含んだ 形で推定を行なう。 また、(2)式の推定において、資本や労働のデータに内生性がある恐れを考慮して、操作 変数法(IV 法)を用いた推定も行なう。 理論的には、 β , β 1 , β 2 , β 3 , β 4 が正の値をとることが期待される。特に、交通サービスの 改善や交通関連社会資本の整備にともなって県内市場と県外市場へのアクセシビリティが 高まることを考えれば、 β > 0, β 1 > 0 および β 2 > 0 がそれぞれ成り立つと期待される。 (2) 推計結果 様々な変数を用いて行なわれた(2)式の推定結果が、表1に示されている。 ①式は、アクセシビリティ指標として GDP 基準の総合市場近接性を用い、年次ダミー を含めて推定を行っている。ここでは、総合市場近接性指標の係数は符号条件を満たし、 かつ統計的に有意である。しかしながら、1995 年ダミーの係数は統計的に有意ではない。 ②式は、アクセシビリティ指標として人口基準の総合市場近接性を用いている。この推定 においても、総合市場近接性指標の符号条件は満たされ、かつ統計的に有意であったが、 1995 年ダミーの係数は統計的に有意ではなかった。①式、②式ともに、1995 年ダミーの 有意性が低い。 ③式および④式では 1995 年ダミーを式から除外して推定を行なったが、結果は①およ び②式と同様であった。また、1998 年ダミーも式から除外して推定を行なったのが⑤式と ⑥式である。年次ダミーを全て取り除いた推定もそれほど問題ないことを示唆している。 最後に、1990 年と 1995 年、1998 年の各々のデータを用いた推定と、操作変数法を用 いた推定も行ったが、結果は同様である。 ― 6 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 生産関数アプローチでは生産活動に主眼を置いているため、人々の居住地を表す人口指 標よりも経済活動地点を表す GDP 指標の方が、アクセシビリティ指標としてはより相応 しいと考えられる。以上の結果から、③式を以下の分析に用いることとする。 表1 域内外不分割のアクセシビリティ指標を用いた推定結果 式 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 定数項 ACGDP -4.493 [.000] ACPOP LNT LK D95 D98 決定係数 DW 値 0.006 0.599 0.441 -0.012 -0.063 0.993 1.944 [.000] [.000] [.000] [.555] [.016] 0.994 2.022 0.993 1.916 0.994 2.019 0.993 1.744 0.993 1.840 -4.609 0.030 0.620 0.418 -0.002 -0.050 [.000] [.000] [.000] [.000] [.930] [.042] -4.600 0.006 0.616 0.425 -0.052 [.000] [.000] [.000] [.000] [.001] -4.624 0.030 0.622 0.416 -0.049 [.000] [.000] [.000] [.000] [.001] -4.986 0.007 0.681 0.361 [.000] [.000] [.000] [.000] -4.987 0.031 0.683 0.356 [.000] [.000] [.000] [.000] [ ]内は p 値。決定係数は自由度修正済み。 3.アクセシビリティ低下による経済損失 アクセシビリティの寄与分解の分析から、首都圏及び関西圏の交通一般化費用要因が、 これらの都府県のアクセシビリティを低下させていたということがわかった。そこで、首 都圏及び関西圏での交通一般化費用が上昇したことによる経済的な損失がどの程度であっ たかを分析する。 まず、1990 年から 1998 年の期間において、首都圏及び関西圏の交通一般化費用が変化 しなかった場合のアクセシビリティ指標と、現実のアクセシビリティ指標との差を ∆ACC とする。アクセシビリティ指標が 1 単位変化した場合の GDP 水準の変化は、∂GDP / ∂ACC であるから、首都圏及び関西圏での交通一般化費用が上昇したことによる経済的な損失は (∂GDP / ∂ACC ) × ∆ACC となる。 ここで、生産関数アプローチにおける回帰式をもう一度考えると、 ln GDP = β 0 + βACC + β 3 ln L + β 4 ln K + ε となるので、ここから β= ∂ ln GDP ∂GDP 1 ∂GDP = ∂GDP ∂ACC GDP ∂ACC が得られる。したがって、 ∂GDP = β × GDP ∂ACC となり、ここから、 首都圏及び関西圏での交通一般化費用上昇による損失 = β × GDP × ∆ACC (3) とすることができる。ここで、 β は前述の生産関数アプローチにおいて得られた回帰係数 ― 7 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 (表1の③)であり、 GDP は 1998 年の国内総生産水準である。 上記(3)の枠組みでアクセシビリティ低下による経済損失を推計した結果は表2のと おりである。推計にあたっては、首都圏(埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県)及び関西 圏(京都府、大阪府、兵庫県)の交通一般化費用要因を他県に係るものと県内に係るもの に分け、これらが 1990 年から 98 年まで変化しなかった場合と現実の値との差を ∆ACC と して定義している。推計の結果、首都圏及び関西圏におけるアクセシビリティの低下を防 ぐだけでも、この期間の日本の GDP 成長率は、毎年 1.6%程度のさらなる上昇が見込まれ たということができる。 表2 アクセシビリティ低下による経済損失 推定条件(∆ACC ) 首都圏及 び関西圏 経済損失の額 他県交通一般化費用要因が 1990 年から 98 年まで変化しなかった場合と現実との差 における 交通一般 県内交通一般化費用要因が 1990 年から 98 化費用 年まで変化しなかった場合と現実との差 9 年間でおよそ 56 兆 7000 億円 6 兆 3000 億円/年(98 年 GDP の約 1.3%) 9 年間でおよそ 12 兆 6000 億円 1 兆 4000 億円/年(98 年 GDP の約 0.3%) 9 年間でおよそ 69 兆 3000 億円 7 兆 7000 億円/年(98 年 GDP の約 1.6%) 合計 おわりに 本稿は、2002 年 4 月に開催した若手研究者との「空間経済分析に関するワークショッ プ」を契機として進めてきた分析の一部をとりまとめたものである。データの分析に当た り、上智大学経済学部助教授の中里透氏から貴重なアドバイスをいただいた。また、デー タ分析に関しては、三菱総合研究所 幕亮二研究員、堀健一研究員及び篠田徹研究員から 多大な貢献をいただいた。ここに感謝の意を表わしたい。 参考文献 「交通関連社会資本と経済成長」,日本経済研究 No.43 中里 透(2001) 山口 勝弘(2002) 「空間を考慮した効果的な公共投資のあり方」,PRI Review 第 5 号,国土交通省国土交 通政策研究所 ― 8 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 Ⅱ 空港アクセスにおける情報提供 研究調整官 山縣 延文 前 押井 裕也 研究官 概 要 1.当研究所では、e!プロジェクトの一つである e-エアポートの取り組みの一環とし て「次世代マルチモーダル交通情報基盤の研究開発」を進めており、 13 年度か ら携帯端末による位置把握の仕組みを利用し、大規模イベント等の観客や交通利 用者の動態をリアルタイムで把握することにより、円滑な交通対策への活用が可 能なシステムの研究開発を行ってきた。 2.今般、この一環として羽田空港アクセスを対象にして実証実験を実施した。 今 回の実験は、 位置情報を踏まえた情報配信の他に「時間」等によって配信する情 報も加え全体として、 「 空港アクセスにおける情報配信」に係る実験として実施した。 はじめに 我が国では IT 戦略本部の IT 基本戦略(H12.11.27 決定)において、“我が国が 5 年以 内に世界最先端の IT 国家となることを目指す”としており、e-Japan 戦略により実現に向 け取り組んでいるところである。当研究所では、e-Japan2002 プログラムに掲げられてい る e!プロジェクトにおける e-エアポートの一環として、公共交通機関を含めたマルチモー ダルな交通動態をリアルタイムに把握・集積・分析することにより、交通情報等を利用者 に対して提供する「次世代マルチモーダル交通情報基盤の研究開発」を進めている。 今般、昨年実施したサッカーW 杯における実証実験(詳細は PRI Review 第 6 号参照) に引き続き、羽田空港へのアクセスを対象とした交通情報配信の実証試験を実施した。本 実験ではモニタ位置情報を踏まえた情報配信の他に「時間」等によって配信する情報も加 え全体として、 「空港アクセスにおける情報配信」に係る実験とした。以下にその実施概要 と結果等について報告する。 1.羽田空港のアクセスの現状 羽田空港の乗降客数(平成 13 年度)は約 5,950 万人(日 平均約 16 万人)であり、自宅 等から羽田空港に向かうアク セス数は日平均約 8 万件はあ ると考えられる。羽田空港へ の最終アクセス手段を図―2 に示す。鉄軌道が約 56%を占 めており、次いでバスが続い ている。 主なアクセス手段は、鉄軌 道では浜松町から運行している 図―1 実験フィールド(羽田空港周辺) ― 9 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 東京モノレールおよび蒲田駅経由で品川方 面、横浜方面から京浜急行が乗り入れてい る。京浜急行は都営浅草線に乗り入れてお り新橋・浅草方面からも空港に直接乗り入 れが可能である。バスについても、各方面 から羽田空港行きバスが運行されている。 その他 1.4% わからない 不明 0.0% 10.0% レンタカー 0.2% 私鉄等 22.1% 公用車 1.3% 自家用車 6.7% 2.実験概要 タクシー 4.0% 実験概要を表―1に示す。位置情報取得 貸切バス 端末は駅構内を含め公共交通利用時の位置 8.2% 把握が容易な PHS 端末とした(昨年の W 路線バス 杯時の実験に同じ)。 これをモニタに事前 12.1% に貸与、出発地(自宅等)から羽田空港ま モノレール 34.1% で携行の上移動してもらい位置情報をリア ルタイムに取得するとともに、その位置情 図―2 羽田空港への最終アクセス手段 報及び時間に対応した交通情報メールをモ (H13 年度航空旅客動態調査報告書より作成) ニタ自身の携帯電話に配信した。モニタは 一般旅客(ツアー客)、空港地上職員及び CA(キャビンアテンダント)の方にご協力頂いた。 表―1 実証実験の概要 項目 内容 実験フィールド 羽田空港アクセス(羽田空港及びその周辺エリア) 実験日時 H15 年 2 月 15 日(土)4:30∼17:00(天候:晴)、2 月 21 日(金)3:30∼16:00(天 候:晴) 108 名(2/15:39 名、2/21:69 名) モニタ 実験項目 ①リアルタイム位置把握 ②交通情報メール配信 ③アンケート調査 モニタに貸与した PHS 端末の位置を一定間隔(5 分または 2 分間隔)で地図上 にプロットすることにより、リアルタイムにモニタの位置を把握 PHS 端末によりリアルタイムで把握したモニタの「位置」、ならびに「時間」等に対 応した交通情報をモニタ自身の携帯電話にメールで配信 携帯電話に自動的に配信する交通情報配信の有用性等に対するモニタの感想 等をアンケート調査 交通情報メールの内容、配信タイミング及び本文の一部を表―2、図―3、4に示す。 空港アクセスにおける情報提供の内容としては、主として、搭乗予定便やアクセス手段 など運航(行)そのものに係る情報と、アクセス行動中における利便性向上に係る情報等 が考えられる。前者は、モニタ位置に係わらず該当者へは提供されることが好ましく「搭 乗便情報①」「鉄道遅延情報」「搭乗便遅延情報」及び「搭乗案内」等については「時間」 又は「必要が生じた場合」に配信した。後者は、移動中の鉄道アクセス利用者の乗継ぎ駅 での利便性向上の観点から、関係する乗継ぎ駅での羽田空港方面時刻表等を配信すること とし、鉄道利用者が基本的に通過すると考えられるゾーン(図―5参照)として品川ゾー ン、横浜ゾーン及び多摩川ゾーンを設定し(羽田空港ゾーンは搭乗便情報②の配信のため 設定)これらに進入したことをシステム上で検知次第、直ちに自動送信した(内容は各ゾ ーンに進入する「時刻」により自動変更される)。なお、羽田ゾーンについては、代表的鉄 道ルートが京急と東京モノレールの 2 つあるため、例えば「JR 浜松町駅でモノレールに 乗り換える予定で上野方面から JR で南下してきたモニタが、鉄道運行情報を見て、予定 を変更し、そのまま JR 品川駅まで行き、そこで京急に乗り換える」という判断も「浜松 ― 10 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 表―2 交通情報メールの内容と配信タイミング メールの件名 内容 1 経路情報① 経路情報② 2 搭乗便情報① 自宅等から羽田空港へ向かう際の交通経路2例 (移動時間の短いルートと交通費が安いルート) 搭乗予定便の運航予定、到着地の気象情報(天気 予報、予想気温、降水確率) 3 鉄道運行情報A 鉄道の乗継ぎ情報(乗継ぎ駅での羽田空港方面時 鉄道運行情報B 刻表)。送信した羽田空港方面への乗継ぎ時刻表は 鉄道運行情報C 以下の駅におけるもの。 鉄道運行情報A・・・京浜急行(品川駅、蒲田駅)、 東京モノレール(浜松町駅) 鉄道運行情報B・・・京浜急行(横浜駅、蒲田駅) 鉄道運行情報C・・・京浜急行(蒲田駅) 配信タイミング 実験前夜 (19:00∼21:00 頃) 搭乗予定時刻の3時間前 設定ゾーン(品川、横浜、多摩川 ソーン)に入った段階 鉄道運行情報A・・品川ゾーン 鉄道運行情報B・・横浜ゾーン 鉄道運行情報C・・多摩川ゾーン 4 鉄道遅延情報 羽田空港へ向かう鉄道(東京モノレール、京浜急行) 東京モノレール及び京浜急行に の遅延情報(実際には遅延は発生せず送信せず) 遅延が発生した場合 5 搭乗便情報② 搭乗予定便の最新運航情報 羽田空港ゾーンに入った段階 6 搭乗便遅延情報 搭 乗 便 の 遅 延 情 報 (若 干 の 遅 延 (15 分 )便があり 搭乗予定便に遅延が発生した場 (21 日)該当モニタ3 名(CA モニタ)に送信した) 合 7 搭乗案内 搭乗ゲートへの移動を促す内容 町駅到着の充分手前」で可能となる ようゾーン範囲を大きく設定した。 2月15日08:12現在 ANA 羽田→札幌 15:00発67便は、 3.位置情報に対応した情報配信 今のところ平常運航予 「羽田空港アクセス」において位 定です。 置情報を踏まえた情報配信 (「鉄道 -----------------運行情報」) を行うに際して留意し た点を以下に示す。 到着地気象情報 (1)サブゾーンの設定 札幌の天気予報 晴れ 利用者利便の観点からは鉄道運行 予想気温 最高0℃/最 情報(乗継ぎ駅での羽田方面時刻表) 低-5℃ は当該駅(ホーム)到着前に読了し 降水確率 30% てもらうよう配信すべきであるが、 メール受信時モニタは鉄道で高速移 図―3 搭乗便情報① 動中である可能性が高いため配信の トリガーである「ゾーン」の設定には注意する必要がある。 すなわち PHS 端末による位置の特定(計算等)には実際は 最短でも約 2 分必要であり、仮に位置情報捕捉間隔を X 分と すると、モニタのゾーン進入のタイミングによっては、実際 のモニタのゾーン進入からシステムが進入を検知するまでに 最大X分のタイムラグが生じる。 特に PHS 端末の移動速度 が早い場合、 位置特定処理の完了前に PHS 端末が基地局の 切替えを行うため位置特定ができない事象が発生するため、 仮にゾーン進入直後のタイミングで位置捕捉が出来ないと最 大で倍の 2・X 分のタイムラグが生じる。JR 山手線であれば ― 11 ― 搭乗予定時刻 30 分前 2月 21日 07:15現 在 確 認 後 URL を ク リ ッ ク し てください。 東京モノレール及び京浜 急行は平常運行しており ます。 -----------------乗換情報 ■品川駅 @京浜急行下り 7:20 特 7:31 急 (羽) 7:41 快 7:51 特 8:01 急 (羽) ■京急蒲田駅 @空港線 7:30 急 (羽) 7:41 急 (羽) 7:51 特 (羽) 8:01 特 (羽) 8:11 急 (羽) ■ 浜松町 @東京モノレール(羽田 空港行) 4分∼ 5分 間 隔 で 運 行 中 -----------------http://www.xxxxxx.co.j p/xxxx/ 図―4 鉄道運行情報A 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 2・X=4 分の場合、東京駅→ 有楽町駅まで、2・X=10 分 品川ゾーン の場合、東京駅→品川駅まで 移動してしまい、配信した情 報が役に立たなくなる恐れが ある。このため、本ゾーン周 辺に位置捕捉間隔を短縮する ための「サブゾーン」を設定 し、サブゾーン進入をシステ 多摩川ゾーン ムが検知次第 5 分→2 分に切 り変えた。位置取得を全て 2 分間隔で行うことは可能であ るが、今回は、経済性及びサ ブゾーン設定の有効性確認の ため 5 分間隔で位置情報取得 を開始した。なお 2 月 21 日 は 2 月 15 日の様子を踏まえ サブゾーンエリアを拡大した。 (2)「オフセット時間」の設定 横浜ゾーン 羽田空港ゾーン 位置捕捉には最短でも 2 分 のタイムラグがあり、またモ ニタが受信したメールを読み 判断する間にも鉄道で高速移 動中である可能性が高いこと 等から、システムが自動配信 する情報はモニタの実際のゾ ーン進入時刻から起算して、 図―5 ゾーン設定 「XX 分後の将来時点のモニ タの必要とする情報」を予測して送る必要がある。すなわち乗継ぎ対象駅に到着あるいは 通過すると想定される少し前の時刻を決定して、当該駅から羽田空港方面の鉄道時刻を早 いほうから 5 つ案内する(図―4参照)。この XX 時間を「オフセット時間」と称し予備実 験を踏まえ設定した。2 月 21 日は 2 月 15 日の様子を踏まえてさらに微修正を行った。 4.実験結果 (1)リアルタイム位置把握について 位置情報取得率(対象:自宅等移動開始時点∼羽田空港到着時点)及びモニタの移動軌 跡図の一例を図―6、7に示す(図―6のバス除外とはバス利用モニタの位置情報をバス 乗車区間以外も含め全て除外)。2 日間の平均取得率は約 67%であった。前述のとおり PHS 端末による位置把握は電波状況が良好でない場合や端末の移動速度が早い場合は、位置特 定ができない事象が発生する。本実験では高速道路走行中のバスはほぼ位置情報取得は出 来なかった。鉄道区間(4 ルート)別取得率は約 6∼7 割であり、ルート別に大きな差はな かった。 ― 12 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 74% 15日 21日 2日合計 72% 位 置 70% 情 68% 報 取 66% 得 率 64% 15日 21日 合計 京浜急行( 品川→京急蒲田) 京浜急行( 横浜→京急蒲田) 区 間 京浜急行( 京急蒲田→羽田空港) 東京モノレール( 浜松町→羽田空港) 62% 60% 全体 0% バス除外 ①全体の平均値 20% 40% 60% 位置情報取得率 80% ②区間別の平均値 図―6 位置情報取得率(自宅等移動開始時点∼羽田空港到着時点) 本ゾーン 本ゾーン サブゾーン 移動軌跡 サブゾーン 本ゾーン サブゾーン 図―7 モニタの移動軌跡図例(2月21日) (2)モニタの交通情報メール配信に対する考え方について 本実験が終了した後のモニタに交通情報メール配信に対する考え方についてアンケート 調査を行った。 ― 13 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 1)羽田空港アクセスにおけるメールによる情報配信の全般について 図―8∼10は、今後、このようなリアルタイムでの搭乗便情報やバス・鉄道の運行情 報についてメール配信サービスを受けることが出来るとすれば利用したいか、また、利用 できるとした場合にどのような条件であれば自分の位置情報を提供してもよいと考えるか を訊いた結果である。バスや鉄道の運行情報メールは 9 割以上に利用意向があり、約 7 割 のモニタは「非常に利用したい」としている。一方、自分の位置情報提供に際しては何ら かのメリットの付与が必要とする意見が多く、また、プライバシーを守るため、位置情報 の提供を提供者側が任意に断ることが出来ること等が必要とする意見が多い。 図―11、12は羽田空港まで移動する際に図中の 7 情報が提供されるとした場合の入 手希望及び提供方法を訊いたものである。混雑していない経路、当日のフライト情報・鉄 道などの遅れの情報は「移動前・移動中の両方で入手したい」を含め「移動中」の入手希 望が多い。情報の提供方法は、交通機関の時刻表、最短時間経路等についても自動的にメ ール配信を希望する意見が比較的多い。 0% 20% 40% 60% 80% 100% 経路情報 情報 情報 搭乗便情報 (遅延情報も含む) 非常に利用したい やや利用したい 特に必要としない 無回答 バスや鉄道の運行情報 (遅延情報も含む) 搭乗案内 図―8 交通情報等の利用意向 0 10 モニタ数(人) 30 40 20 50 60 70 特に条件はなくいつでも提供する 条件 条件 ある程度の誤差があれば提供する 交通情報メール等のサービスが利用できれば提供する 通話料金等の割引等があれば提供する 提供したくない 無回答 図―9 位置情報提供の条件(複数回答可) 0 必要処置 必要処置 10 20 30 モニタ数(人) 40 50 60 70 移動履歴を自分で提供前に確認できること 調査開始前に調査機関に断ることができること PHSをON/OFFで位置情報の提供を断ることができること 移動履歴の記録開始前に、その旨を通知されていること その他 無回答 図―10 プライバシーを守るために必要な処置(複数回答可) ― 14 ― 80 90 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 0% 20% 40% 60% 80% 100% 交通機関の時刻表 移動中に入手 最低運賃での経路 移動前に入手 情報 最短所要時間での経路 乗換えが少ない経路 移動前、移動中の両方 で入手 混雑していない経路 特に必要としない 当日のフライト情報 無回答 当日の鉄道などの遅れ 図―11 情報別入手希望 0% 20% 40% 60% 80% 100% 交通機関の時刻表 最短所要時間での経路 情報 情報 携帯電話でサ イトを閲覧 自動的にメール 配信 その他 最低運賃での経路 乗換えが少ない経路 混雑していない経路 当日のフライト情報 無回答 当日の鉄道などの遅れ 図―12 情報の提供方法 2)本実験でのメール配信について 本実験で配信したメールを「受信し、見た」モニタの、配信メールに対する感想を図― 13に示す。 (鉄道運行情報C、搭乗便遅延情報は該当モニタ数が少ないため省略)前述の とおり 15 日と 21 日でサブエリアゾーン半径及び「オフセット時間」が異なるため、鉄道 運行情報A、Bは両日の結果を示す。「やや参考になった」を含めると各情報とも約 7∼ 経路情報 搭乗便情報① 鉄道運行情報A(2/15) 鉄道運行情報A(2/21) 鉄道運行情報B(2/15) 鉄道運行情報B(2/21) 搭乗便情報② 搭乗案内 0% 大変参考になった 20% やや参考になった 40% あまり参考にならなかった 60% 欲しい情報とはかけ離れていた 図―13 配信メールの利用状況 ― 15 ― 80% 100% 無回答 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 8 割が「参考になった」と回答している。ただし、鉄道運行情報に関しては「大変参考に なった」は比較的少ない。 配信メールのうち位置情報に対応して配信したメール(鉄道運行情報、搭乗便情報②) について、受信したタイミングに対するモニタの感想を図―14に示す。鉄道運行情報B (2/21)を除けば全体として「ちょうど良いタイミング」とする意見が多いが「もっと 早く欲しかった」とする意見もかなり多い結果となった。 鉄道運行情報A(2/15) 鉄道運行情報A(2/21) 鉄道運行情報B(2/15) 鉄道運行情報B(2/21) 搭乗便情報② 0% 20% ちょうど良いタイミングだった 40% 60% もっと早く欲しかった 80% もう少し駅に近づいた時でよかった 100% その他 無回答 図―14 メール受信のタイミング 各配信メールを「受信し、見た」モニタを対象に「こうした情報(経路の情報、搭乗便 や到着地の情報、鉄道の運行情報)はどのように受け取るのが良いか」を訊いた結果を図 ―15∼18に示す(各々対象者数は当該メールを「受信し、見た」と回答したモニタ数) 経路情報は「自動的にメール配信」と「サイトを閲覧」はほぼ同数であったが、搭乗便情 報①、鉄道運行情報及び搭乗便情報②はいずれについても自動的にメール配信されること を希望するモニタが多い。 0 10 20 30 40 50 携帯電話に自動的にメールで配信される 自分で携帯電話を使用してサイトなどを閲覧する その他 無回答 図―15 経路情報の情報提供方法(複数回答可)(対象者数:94 名) 0 10 20 30 40 50 60 携帯電話に自動的にメールで配信される 自分で携帯電話を使用してサイトなどを閲覧する その他 無回答 図―16 搭乗便情報①の情報提供方法(複数回答可)(対象者数:98 名) ― 16 ― 70 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 モニタ数(人) 0 10 20 30 携帯電話に自動的にメールで配信される 自分で携帯電話を使用してサイトなどを閲覧する 2/15 その他 2/21 無回答 図―17 鉄道運行情報の提供方法 (A+B+C)(複数回答可)(対象者数 2/15:15 名、2/21:39 名) 0 10 モニタ数(人) 20 30 40 50 携帯電話に自動的にメールで配信される 自分で携帯電話を使用してサイトなどを閲覧する その他 無回答 2/15 2/21 図―18 搭乗便情報②の情報提供方法 (複数回答可)(対象者数 2/15:31 名、2/21:61 名) 3)PHSによる交通調査実験に対する意見について アンケートの自由記述欄で複数挙がった意見をまとめると概ね以下のとおりである。 表―3 本実験に対する主な意見(複数挙がったもの) ・よりタイムリーが情報提供が必要である ・メール着信の確実性が問題である ・自分の位置情報を取られているということに不快感・不安感があった ・(すべての情報が自動的に配信されるのではなく)自分でサイトにアクセスして閲覧したい(PULL型) ・今回のメールが役に立った ・イレギュラー時(突発的な事故による遅れ、遅延便、出発時刻の変更等)の情報が最も欲しい情報で重要 ・公共交通機関内でPHS端末・携帯電話の電源を入れ、また、着信させることに疑問をもった ・携帯電話とPHS端末の両方を持つことが煩わしかった ・本システムが実用化されればよい ・到着地の気象情報がよかった おわりに 今回、羽田空港アクセスを対象として「空港アクセスにおける情報配信」に係る実証試 験を実施し、主にアンケートによるモニタの意向を中心に結果を報告した。現在、空港ま での経路検索が出来るサイトも提供され自宅等での利用も可能であるが、携帯電話に対す る情報配信は適切な配信がなされれば、事故等の異常時に限らず空港アクセスという移動 環境において空港利用者にとって十分利便性の高いものになりうると考える。 ただし、空港利用者の操作に拠らず配信する「PUSH」型情報配信を行う場合の配信内 容、空港アクセスにおける位置情報を踏まえた情報配信の内容、あるいは位置情報を提供 してもらう際の条件整備等については今後より十分検討を行う必要がある。 最後に本実証実験の実施にあたっては、愛媛大学羽藤助教授のご指導をいただくととも に、全日本空輸株式会社の方々にご協力いただいた。ここに感謝の意を申し上げる次第で ある。 ― 17 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 Ⅲ 交通の健康学的評価 研究官 後藤 進 概要 交通機関利用時に利用者が受けるストレスを医学的・生理学的な視点から実地調 査により調べた。過去にこのような調査事例はあまりみられないことから、今回の 調査は、利用者属性は考慮せずストレス関連指標の変化を測定すること、調査目的 に適した調査指標を調べるための基礎資料を得ること、を目的とするパイロット的 調査とした。実際の測定においては男性 5 名を被験者として、航空機(羽田∼関空 間、羽田∼那覇間)、路線バス(渋谷→新橋)の利用時のストレスを、唾液、血液、 尿などの検査を通して調べた。 被験者数が 5 名であることから統計的な議論は難しく、5 名のケーススタディと しての調査結果から、交通機関利用時のストレス要因となる可能性として ―①国 内線程度の搭乗時間では、搭乗時間が長いことは必ずしもストレスではない可能性、 ②航空機搭乗によるストレスは離陸後で大きい可能性、③航空機搭乗においては往 路より復路のストレスが高い可能性、④バス乗車では混雑時はストレスが高く免疫 力も低下する可能性― などが推測された。 また、調査指標としては、移動中容易に測定できる唾液等の指標で時系列的に追 っていく調査が必要と思われた。 1.背景 私たちは、日々の暮らしの中や経済活動の中で必ず移動を伴う環境下にある。多く の場合、交通機関による移動は、混雑、渋滞、長時間搭乗など様々な要因によりスト レスを生む。適度なストレスは人間にとって不可欠かもしれないが、それを越える余 分なストレスは決して好ましいものではない。このことから、交通機関利用者の快適 性の視点から交通政策をみると、渋滞や混雑の緩和、高速化などは、余分なストレス を低減する意味からも大切なテーマといえるだろう。 しかし、交通機関利用時のストレスについて、これまで定量的な計量の事例は多く はなく1、交通機関利用時の心理的なものも含めたストレスが具体的にどのような形で 「人の健康」に影響するのかについての調査研究事例はほとんどみられない。そのた め、健康面から見て交通システムのサービス改善がいかなる結果を有するのか、どの 程度の施策がどのような効果をもたらすかについての知見はほとんどないのが現状で ある。 一方で、ストレスの医学・生理学的影響についての調査は、盛んに行われるように なっている。最近では、 「旅に出るとストレスが減る」ことについて、心理調査や血液 検査、脳波検査等の生理学、医学的、心理学的手法による調査が行われ、 「旅は免疫力 を高め、ガンや老化を防ぐ性質を持っている。 」とした調査もある(社団法人日本旅行 業協会・ 『 「旅と健康」に関する調査研究プロジェクト』 、2001) 。 1 過去に交通機関利用時の「疲労」に着目した研究としては、橋本ら(1966)が実際に電車を繰り返し走らせ て実験し車内の混雑で通勤者がどのくらい疲労するかを調べたものがある。この調査では自律系機能として 筋電図、脈拍等の連続測定を、疲労テストとして尿中アドレナリン、ノルアドレナリン、フリッカー調査等 を測定し、混雑率 260%(現在での 200%程度)を越えた後に身体的影響が出ると判断している。また、精神 的、心理的な面での負担についてはそれ以下の混雑でも増加する可能性を指摘している。 ― 18 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 また、より安価かつ簡易にストレス指標を測定する手法(アミラーゼ活性2など)も 実用化を目指した開発が行われており、このような調査は今後も発展していくものと 思われる。 そこで、交通サービスの改善の効用を健康学的視点から分析することを目指し、そ の第一歩として、公共交通機関に実際に利用した際のストレスを医学生理学的視点か ら測定する調査をパイロット的に行い、交通機関利用時のストレスに関する基礎的な 知見を得ることとした。 2.実態調査について (1)調査の目的 調査を実際に行う際には、ストレスに関連する数ある指標のうちどの指標を用い、 どのような測定間隔で身体・心理的ストレスを定量化していくかが重要となる。過去 において交通機関利用時の調査が行なわれた例はあまりみられないことから、ストレ スにかかわる指標を多種試し、各指標の動きを見ること、そしてこのような調査に適 した指標についての基礎的な知見を得ることも必要である。 そこで本調査では、①利用者属性は考慮せずストレス関連指標の変化を測定するこ と、②利用者属性にあわせたきめ細かな交通施策を検討するために適した簡易な指標 を調べるための基礎資料を得ること、を目的とした調査を行った。 (2)調査行程、被験者等について ・被験者 ビジネス客を想定し、30 才前後の男性 5 名を被験者とした。 ・交通機関 実験条件の設定などを考慮して、航空機(羽田∼那覇間、羽田∼関空間)と路 線バス(渋谷→新橋)を対象とすることとした。その際に、航空機に関しては、 搭乗時間の長短によるストレス反応の差異、路線バスに関しては渋滞、混雑によ るストレス反応の差異についても調べることとした。 ・調査の流れ 調査は唾液検査、血液検査、尿検査及び心理調査により実施した。調査に際し ては、搭乗・乗車時だけでなく、その前後に事前・事後調査として、日常時にお ける被験者のストレスなどの健康学的データを把握し、調査対象群としてのプロ フィールを明確にした。 また、搭乗・乗車時の調査においては、ビジネストリップを念頭においたもの とした。このため、バス調査では出勤時を想定したスケジュールとし、航空機調 査では到着地における業務を課した。 本調査では被験者数(5 名)の制約があり、交通手段による各種ストレス指標に対 して統計的検証を十分に行うことはできないものの、 今回のケーススタディを通じて、 2 ストレスを唾液中のアミラーゼという酵素の活性度から測定する手法である(Yamaguchi et al.(2003), 山口ら(2001), 山口・高井(2002), 高井・山口(2002)など)。アミラーゼ活性は交感神経系と相関がよく、簡 便な光学的分析法があり注目されている。この手法は、安価であるばかりでなく、血液採取などに比べて被 験者への負担もはるかに少ない。今回の調査では、当該手法の研究開発を行っている富山大学山口昌樹助教 授、ヤマハ発動機株式会社、ニプロ株式会社にご協力いただいて唾液アミラーゼ活性の測定も行った。 ― 19 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 交通とストレスとの関連について推定される可能性を探った。 調査の流れ 搭乗・乗車時調査 事前調査 2002(H14)年 搭乗・乗車前 機内・車内 事後調査 12 月 5 日 到着・降車後 被験者各自で実施 11 月 18 日 検査 (ABCD) è 検査 (ABCD) 検査 (A) 検査 (ABCD) 検査(A) è 12 月 10 日 検査 (ABCD) 11/19 羽田→那覇、11/20 那覇→羽田 11/26 羽田→関空、11/27 関空→羽田 バス(渋谷→新橋)11/22 平日ラッシュ時 11/23 休日非ラッシュ (検査内容: A…唾液検査、B…血液検査、C…尿検査、D…質問紙検査) 航空機 (3)検査項目 一般に、ストレッサー(ストレスのもと)は、視床下部によって感知されCRH(コ ルチコトロピン放出ホルモン)を通して下垂体にストレス刺激が伝達され、下垂体か ら放出されたACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の上昇を受け、副腎皮質からコルチゾー ルに代表される副腎皮質ホルモンが血中に放出される。一方、視床下部で感知された ストレッサーは、交感神経系にも伝達され、副腎髄質からはアドレナリン・ノルアド レナリン等のカテコラミン類が放出される。これらカテコラミン類は種々の生理・薬 理学的機能を持ち、血管収縮、心拍数増、血圧上昇作用などのストレス反応を誘発す る。また、こうしたストレス反応に伴い、免疫系の変動や、血管壁への脂質沈着等が 誘発され、がん抑制能の低下、虚血性心疾患、脳梗塞など血管系疾患のリスク増など 健康への影響も生じる。近年では、活性酸素によるDNA損傷など酸化ストレス問題が 注目され、がん化や老化との関係が次々と明らかにされつつある。 そこで本調査では、血液・唾液・尿から血中コルチゾール、尿中VMA(アドレナリ ン・ノルアドレナリン代謝産物)、唾液中sIgA(免疫物質であるがストレス指標とし てよく用いられる)、アミラーゼ活性(交感神経系と相関がよく、簡便な光学的分析法 があり注目されている)などの一般的なストレス指標の他、NK細胞活性(ナチュラ ルキラー:比較的非特異的にがん、ウィルス等を攻撃する一時防衛的なリンパ球の活 性)等の免疫指標、8−OHdG(ヒドロキシグアニン:DNA中のグアニンが活性酸素 によって酸化された変異体)等の酸化ストレス系の指標を調べることとした。次表に 調査で用いた検査項目をまとめた。 ― 20 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 今回の調査で用いた各検査項目リスト 指標 ストレス 指標 ストレス時 項目名 の変化 コルチゾール 血液 ↑ MHPG 血液 ↑ sIgA 唾液 ↑ 唾液 ↑ 尿 ↑ アミラーゼ活 性 VMA ストレス時に副腎皮質から分泌。ストレス指標として古典的に 用いられる ノルアドレナリンの代謝産物であり、中枢ストレス(心理スト レス)を良く反映する指標として用いられる。 ストレス応答がよく、検体採取が比較的容易なため、近年よく 利用されている。 交感神経系の反応に良く反映する。応答時間は速やか。 ストレス時、脳内や交感神経系から放出されるアドレナリン、 ノルアドレナリンの代謝産物。反応性は悪い。 過酸化脂質。血小板凝集による血栓形成、動脈硬化、老化の成 MDA 血液 ↑ る。 酸化スト レス関連 指標 血液 ↑ 8-OHdG 尿 ↑ DNA の酸化損傷物。 尿 ↑ 細胞膜損傷の指標。 血液 ↓ 生体防御、免疫監視機構を推測する。(ガン免疫力の指標) 血液 ↓ HVA 尿 ↑ 5-HIAA 尿 ↑ ン NK 細胞活性 リンパ球数、 顆粒球数 感性指標 心理指標 活性酸素を押さえる働きがあり、虚血、老化、発ガン、炎症、 SOD 活性 イソプロスタ 免疫指標 因との関連性が強い。この上昇は血管性疾患のリスク要因とな 質問紙 細胞の錆び付き、動脈硬化などの予防にも寄与。 ストレス時、脳内や交感神経系から放出される、ドーパミン(快 感などと関わる)の最終代謝産物。 ストレス時、脳内や交感神経系から放出されるセロトニン(幸 福感と関わる)の最終産物。 (質問紙形式による心理状態の把握) (注:ストレス時の変化での↑(上昇)や↓(下降)については、ストレス下で必ずしも上昇(下降)しない場合もある。) 3.調査結果について 今回の調査の結果については、 被験者数が 5 であることから統計的な議論は難しく、 5 名のケーススタディの結果として、次のようなことが推測された。 (1)国内線程度の搭乗時間の場合、搭乗時間が長いことは必ずしもストレスの要因では ない可能性 下図にストレスが大きくなると数値が低下(免疫力が低下)する NK 細胞活性(生 態防御、免疫監視機構を推測するための免疫学指標の一つ)の羽田∼那覇間におけ ― 21 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 る変動を示す。搭乗時間 1 時間程度の羽田∼関空間と 3 時間弱程度の羽田∼那覇間 の結果を比較した結果では、航空機の搭乗時間が長いことが必ずしもストレスでは ない可能性があることが分かった。ただし、今回より長い搭乗時間(例えば国際線 など)では異なる変化が起こる可能性は十分考えられるが、議論をするにはさらに 長い搭乗時間の調査が必要となる。 免疫力 免疫力 羽田 ó 那覇 低 低 羽田待合時 那覇到着時 A B C D 免疫力 免疫力 低 低 B C D 羽田到着時 A 関空到着時 A 那覇待合時 C B D E NK細胞活性(関空→羽田) 高 高 羽田 ó 関空 羽田待合時 60 50 40 30 20 10 0 E NK細胞活性(羽田→関空) 70 60 50 40 30 20 10 0 NK細胞活性(那覇→羽田) 高 高 NK細胞活性( 羽田→那覇) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 60 50 40 30 20 10 0 関空待合時 E 羽田到着時 A B C D E 高 (2)航空機搭乗によるストレスは離陸直後で大きい可能性 以下にストレスが大きくなると数値が上昇する唾液中の sIgA(分泌型 IgA:分泌 液中に多量に存在する IgA が二個結合したもの)の羽田∼関空間での変動を示す。 「搭乗前」に比べ「飛行中①(離陸直後、ベルトサインが消えた時) 」での値が大き くなっており、航空機搭乗によるストレスは離陸直後に大きい可能性があることが 見られた。 sIgA (羽田→関空) ストレス 羽田 è 関空 600 500 400 sIgAの変化(2002/11/21) 300 200 低 100 羽田待合時 搭乗前 飛行中① 飛行中② A ― 22 ― 関空到着時 B C D E 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 高 sIgA (関空→羽田) ストレス 関空 è 羽田 600 400 100 200 低 0 関空待合時 搭乗前 飛行中① 飛行中② A 羽田到着時 C B D E (3)航空機搭乗においては往路より復路のストレスが高い可能性 下記データもストレスが大きくなると数値が上昇する唾液中のsIgAの変動(羽田 ∼那覇間)であるが、今回の調査では往路より復路の方が相対的に高い値を示して おり、航空機搭乗においては往路より復路のストレスが高い可能性があると思われ た。この傾向は、免疫力の指標であるNK細胞活性においても示唆された。 高 sIgA (羽田→那覇) ストレス 羽田 è 那覇 低 600 500 400 300 200 100 0 羽田集合時 待合時 搭乗前 飛行中① 飛行中② 飛行中③ 飛行中④ A B 那覇到着時 C D E 高 ストレス 那覇 è 羽田 sIgA (那覇→羽田) 低 800 700 600 500 400 300 200 100 0 那覇集合時 待合時 搭乗前 飛行中① 飛行中② 飛行中③ A B 羽田到着時 C D E (4)バス乗車では混雑時はストレスが高く免疫力も低下する可能性 バス乗車時におけるアミラーゼ活性(ストレスが大きくなると数値が上昇するア ミラーゼ(唾液に含まれる消化酵素)の活動度)の検査結果を以下に示した。デー タから、バス乗車中は非ラッシュ時よりもラッシュ時の方が、ストレスが大きい可 能性があることが示唆された。また、このような傾向は NK 細胞活性(免疫力)の 低下としても見られた。 ― 23 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 アミラーゼ活性(休日・非ラッシュ時) 高 高 アミラーゼ活性(平日・ ラッシュ時) 100 ストレス ストレス 渋谷 è 新橋 ︵ 路線バス︶ 100 80 60 80 60 40 20 20 低 低 40 0 0 乗車前 乗車中 A B 乗車後 C D 乗車前 E 乗車中 A B 乗車後 C D E 4.今回の調査から推測された、調査に有効な指標や調査方法について 交通移動に関するストレスについては、移動中の動向を時系列的に個人を追って測 定することが重要であると考えられる。これに対して、一般的にストレス調査に有効 な指標とされる血液や尿の検査は、移動中での測定が難しく、血液や尿の検査のみで は明確な議論がしにくいものと思われた。また、血液採取については、被験者の負担 も少なくないこともあり、移動中簡易に測定できる指標を活用することも必要である。 そこで、このような調査においては、以下のような視点が必要と思われた。 1)移動ストレスは、被験者数を増やし、まずは長期間にわたる唾液調査を実施 バス移動、飛行機移動によるストレス(本調査の仮説の検証など)を統計的に 議論できるようにより詳しく調べる場合、被験者数を増やし(マッチングした被 験者)、その移動を行わないとき、行うときを含め比較的長期間、唾液中の sIgA、 アミラーゼ活性などを追うことが必要であろう。そして、そこで何らかの優位な 傾向が見られた場合、長期的視点では有効な指標と考えられる血液、尿検査など 実験計画的に行うのが効率的であろう。 2)通勤時のストレスは、通勤パターン毎に連続的に調査・比較 ラッシュの影響をより深く調査するには、通勤時の交通ストレスを調べるのな らば、被験者数を増やし、通勤パターン毎に唾液中のsIgA、アミラーゼ活性を、 同時に、または一方のみ、2週間程度連続的に調べ、比較することが望ましいで あろう。また、この時、年齢、性、身長、体脂肪率などの基礎調査のほか、体調 を調べる指標を併用すべきであろう。こうした調査の後、他の指標を用いた詳細 な調査を行うことが効率的であると思われた。 また、より厳密な議論を行うには、安静から運動時、臥位から立位、睡眠時から覚 醒時などに伴う交感神経活動上昇とストレスとを分離する必要もあろう。 その際には、 測定時の姿勢、カロリー消費量、交感神経活動に良く反映される心拍数などを含めた 解釈も必要と思われる。 謝辞 本調査については、信州大学医学部能勢博教授、 信州大学教育学部寺沢宏次助教授、 諏訪東京理科大学篠原菊紀助教授、 航空医学研究センター三浦靖彦研究指導部長から、 大変貴重なご意見をいただいた。また、篠原先生には調査実施時の監督などもお引き 受けいただいた。調査フィールドについては、東京都交通局、全日本空輸株式会社か ― 24 ― 特 集 :交通サービス改善の多角的分析 らご協力いただいた。また、アミラーゼ活性測定については、測定手法を開発されて いる富山大学山口昌樹助教授、ヤマハ発動機株式会社、ニプロ株式会社にご協力いた だいた。心より感謝の意を表したい。 参考文献 社団法人日本旅行業協会「旅と健康」に関する調査プロジェクト(2001) 「旅の健康学的調査事業報告書」 社団法人日本旅行業協会(2001)「JATA ニュースレリース」 橋本邦衛、小木和孝、白井薫、深野重次郎、遠藤敏夫、相沢欽司、大原潔、杉山一郎、松坂良一、太田克 巳、上原政四郎、池田守利、齋藤良夫、細谷実、碓井孝道(1966) 通勤電車及びバスの車内混雑度と通 勤の疲労について、鉄道労働科学、19、33-58、日本国有鉄道鉄道労働科学研究所 遠藤敏夫(1969) 通勤電車の車内混雑度と通勤の疲労、労働の科学、24、4-7 遠藤敏夫(1990) 長時間通勤と疲労、労働の科学、45、16-20 Masaki YAMAGUCHI, Masashi KANEMARU, Takahiro KANEMORI, Yasufumi MIZUNO(2003) Flow-injection-type Biosensor System for Salivary Amylase Activity、Biosensors & Bioelectronics、 Vol.18、No. 5-6、835-840 山口昌樹、金森貴裕、金丸正史、水野康文、吉田博(2001) 唾液アミラーゼ活性はストレス推定の指標にな り得るか、医用電子と生体工学、Vol.39、No.3、234-239 山口昌樹、高井規安(2002) 唾液アミラーゼ活性によるストレスモニタ、Bio Industry、 Vol.19、No.10、 20-25 高井規安、山口昌樹(2002) 子供の唾液で何がわかる?、小児歯科臨床、Vol.7、No.4、 34-40 Patrick D. Skosnik, Robert T. Chatterton Jr., Tara Swisher, Sohee Park(2000) Modulation of attentional inhibition by norepinephrine and cortisol after psychological stress、 International Journal of Psychophysiology、Vol.36、59-68 ― 25 ― 調査研究論文 行政規制の実効性確保のための「間接行政強制」について ∼仏独主要都市実務運用実態調査の概要報告∼ 総括主任研究官 西津 政信 概 要 1.平成 14 年 3 月の第 1 次現地調査(ドイツ・マクデブルク)に続き、同年 12 月に、 仏独の主要都市(パリ、ベルリン、ミュンヘン)において、 「間接行政強制制度」の実 務運用実態に関する現地調査を実施した。 2.パリ市においては、違反建築取締りのため、年間平均約 200 件のアストラント(罰 金強制:astreinte)が違反是正命令に付随して戒告されるが、賦課にまで至るものは 殆どない。わが国の代執行に当たる職権執行に移行するものは約 10 件である。強制 徴収以前の段階での目的達成(自主是正実現)率は約 95%である。 3.違反屋外広告物の取締りについては、フランス全土で 99 年に約 1 万件強のアスト ラントの戒告がなされ、うち自主是正につながったものは約 4,200 件で、目的達成率 は約 40%である。パリ市では、98 年に約 450 件の戒告がなされ、その殆どが自主是 正された。 4.ミュンヘン市においては、違反建築や違反屋外広告物の取締りのため、年間平均で 2,000∼3,000 件の強制金(Zwangsgeld)が違反是正命令に付随して戒告され、うち賦課 決定にまで至るものが年間約 350 件、 強制徴収にまで至るものは年間約 10 件である。 強制徴収以前の段階での目的達成率は約 99%である。 5.以上のとおり、前掲の仏独の主要都市においては、間接行政強制制度が、行政規制 の実効性確保のため、積極的に活用され成果を挙げている。 はじめに 平成 14 年 3 月の第 1 次現地調査(ドイツのマクデブルクを対象。その概要は、PRI Review 第 4 号に掲載)に続き、同年 12 月にドイツ及びフランスの主要都市の中央・地 方政府を対象として両国の間接行政強制制度の実務運用実態等に関する第 2 次の海外現 地調査を実施した。今回訪問した機関は、訪問順に、①パリ市都市計画局、②設備・運 輸・住宅・観光・海洋省、③エコロジー・持続的開発省(以上パリ)、④シャルロッテ ンブルク・ヴィルマースドルフ行政区都市整備・測量局、⑤連邦交通・建設・住宅省(以 上ベルリン)、⑥ミュンヘン市都市計画建築監督局、⑦バイエルン州内務省最上級建設 行政庁(以上ミュンヘン)である。 本稿では、上述の海外現地調査において収集した制度運用実績情報の概要を報告する。 ― 26 ― 調査研究論文 1.フランスにおけるアストラントの実務運用 (1)アストラントの概要 アストラント(罰金強制:astreinte)は、19 世紀初めに、判例によって民事上の強 制執行手段として創出され、その後実定法の根拠が与えられて活用されているものであ るが、それにとどまらず、今日では個別の行政規制法において行政上の強制手段として 制度化され、積極的に活用されている。 なお、フランスにおいては、行政強制の根拠法はすべて個別法である。この点、後述 のように行政強制一般法である連邦及び州の行政執行法をもつドイツと異なる。 (2)都市計画法典に基づく建築規制:パリ市の実績 都市計画法典に基づく建築規制に関するアストラントの手続とパリ市(人口約 964 万 人)の実績は、図1のとおりである。 パリ市の担当者からのヒアリングによれば、同市では年間でおよそ 10,000 件の建築 許可申請がなされるが、そのうち約 10%が違反事例である。このうち、約 20%は意図的 な違反であり、これら年間約 200 件の事案について是正命令とアストラントの戒告がな される。戒告がなされた事例の殆どが自主是正されており、実務レベルでも効果的な違 反是正手段であると評価されている。アストラントの戒告は、市(又は一定の環境保護 団体)からの違反是正の訴えを受けて、裁判所が、その裁量的判断に基づき、是正の履 行期限とアストラントの金額を定めて行う。 都市計画法典上のアストラント の手続と実績( 建築規制) 1年 申立 (市町村等) 職権執行 履行期間 経過 殆どなし 約200件 目的達成率 ≒95% 約10件 (年間平均) 図1 ― 27 ― (市町村等) 過去1件のみ アストラントの精算・強制徴収 75 ︵アストラントの額引き上げ︶ ∼( ユーロ/日 ) アストラント賦課 履行期間 経過 & アストラント期限付き戒告 パリ市実績 違反行為是正命令 指導不奏功・市町村等の訴え 申立 (→裁判所) 調査研究論文 最近のアストラントの著名な適用事例としては、次のようなケースがある。すなわち、 2000 年のミレニアムを記念してコンコルド広場に大観覧車(図2:高さ 60m、敷地面 積 460m²)が設置されたが、臨時設置の期限(当初 1 年間+その後 1 年間延長=2 年間) の満了後、市側が撤去を求めて法的争訟となった。パリ市は、建築規制以外の規制違反 を含む複合的な違反を構成するものとして事案を司法強制手続に持ち込んだ。パリ大審 裁判所は、複数の関係規制法に基づく上限額を合算した枠内で、かつ、観覧車の営業に よる経済的収益も勘案して、1 日当たりの売上額を上回る日額 15,000 ユーロのアストラ ントを課す旨の戒告を行った。その結果、当該観覧車は自主的に撤去された。 なお、都市計画法典 L.480-7 条 3 項によれば、アストラントの戒告による義務履行期 間の経過後さらに 1 年間不履行の状態が続いた場合には、検察官の申立てに基づく裁判 所の決定によりアストラント額を引き上げることができるが、実際にこの引き上げがな された事例は過去に 1 件あったのみである。 また、わが国の代執行に相当する、都市計画法典 L.480-9 条 1 項による職権執行 (exécution d'office)は、緊急に除却等が必要な場合に限定されて発動されており、その 適用実績はパリ市で年間約 10 件程度である。 パリ・コンコルド広場に設置された観覧車 1万5千ユーロ/日のアストラントで 撤去 出典:LES CAHIERS DE LA LIGUE URBAINE ET RURALE, 1er trimestre 2002・Nº 154 図2 ― 28 ― 調査研究論文 (3) 環境法典に基づく屋外広告物規制:パリ市及び全国の実績 環境法典に基づく屋外広告物規制のためのアストラントの手続と全国及びパリ市の実 績は、図3のとおりである。 ユーロ/日︶ 83 目的達成率 約40% 全国実績 (1999) パリ市実績 (1998) 10,637件 (但し,大型広告板のみ) 約450件 アストラントの精算・強制徴収 ︵約 賦課事前通告 48時間 アストラント賦課開始 2週間 パリ市運用 & アストラントの事前戒告 違反行為是正命令 ︿すべて行政機関による﹀ 環境法典上のアストラントの手続 と実績( 屋外広告物規制) うち、自主是正: 4,205件 殆どなし 図3 パリ市においては、違反に対してはまず行政指導で解決を図るが、相手方が従わない 場合はアストラントを含めた制裁手続に移行する。商店の店頭看板(enseigne)や誘導看 板(préenseigne)については、そもそも広告主が規制制度や制裁手段の存在自体を知らな いため違反を放置し、その結果、アストラントの戒告付き是正命令の対象となることが 多い。公式統計はないが、パリ市の担当者によれば 98 年には年間で約 450 件の店頭看 板や誘導看板につきアストラントの戒告付き命令がなされるが、その殆どが自主是正さ れているとのことである。事前手続としての聴聞などは法的には義務づけられていない が、文書提出のかたちで任意に行うこともあり、このような事前手続の保障は今後の課 題であるとされている。 一般にアストラントは、その期限と金額が裁量で決められる立法例では裁判官の決定 が必要とされているが、違反屋外広告物についてはその期限と金額が一律に法定されて おり、図3のとおり行政機関のみで賦課しうる。パリ市の実務担当者は、このアストラ ントについて違反看板類の自主的撤去等につながる威嚇効果が大きいと評価している。 本制度の全国的な適用実績については、フランス環境省及び環境保護団体の共同調査1 によれば、99 年(一部 98 年分を含む)に 10,637 件の違反広告板(publicité:ビルボ 1 LES CAHIERS DE LA LIGUE URBAINE ET RURALE, 1er trimestre 2002・N° 154, p.8 ― 29 ― 調査研究論文 ード)について是正命令に伴うアストラントの事前戒告がなされ、そのうち 4,205 件が 自主的是正により解決した(残りの 6,432 件は処罰等のための訴訟手続に移行した。 )。 なお、職権執行の違反広告板に対する適用実績は、99 年で 764 件である。 (4) 実効性の観点からのアストラント上限額の評価 前述の二つの立法例では、アストラントの日額あるいはその上限が、75 ユーロ(= 500FF≒9,700 円)をベースとして決められている。これについては経済的収益を企図 して期間を限って設置される大規模違反物件に関しては、実効性に欠ける面があるので はないかと言われている。 すなわち、都市計画法典に基づく建築規制のアストラントについては、1 日当たりの 上限額が 75 ユーロと低額であるため、特に、前述の観覧車や後述のイベント開催時に 掲出される大型の広告板のように、そもそも設置者が比較的短期間に限って営業収益や 広告効果を挙げることを意図して設置する違反物件などについては、命令不履行期間分 のアストラントを支払ってもなお利益が残るのであれば、命令に従って撤去するよりも むしろ違反状態を続けたままアストラントを支払うことを選択し、その結果行政機関が その設置期間中に職権執行を実施しなければ、事実上、違反行為が罷り通ってしまうケ ースも十分想定される。この点については、前述のパリ市の観覧車の事例にも見られる ように、アストラントの額を効果的に自主是正を促しうる額とするために、公物の不法 占用などとの複合的な違反と捉えて合算によりアストラントの額を高額のものとする など、個別の法制度の限界をカバーする工夫がなされている。 また、環境法典に基づく屋外広告物に係るアストラントの額については物価スライド 制がとられており、79 年の制度創設当初の時点では 1 日当たり 500FF であったが、02 年 12 月現在では、83.10 ユーロ(=545FF≒1 万円)である。しかし、この額について は、中小商店主などに対してはかなりの威嚇効果があるが、大企業にとっては、大型広 告板の使用に伴うコストとみなせる程度のものに過ぎず、相対的に効果が薄いと評価さ れている。実際、98 年のサッカー・ワールドカップのフランス大会では、本制度がある にも拘わらず、大企業によって大量の違反広告板が掲出された。 2.ドイツにおける強制金制度の実務運用:マクデブルク市、ミュンヘン市、ベルリン 市シャルロッテンブルク・ヴィルマースドルフ行政区の実績 (1) ドイツの強制金制度の概要 ドイツの強制金(Zwangsgeld)制度の手続の流れとマクデブルク市2及びミュンヘン市3 の実績は、図4のとおりである。 2 平成 14 年 3 月に第 1 次現地調査を行ったザクセン・アンハルト州の州都。人口約 23 万人。 3 バイエルン州の州都。人口約 126 万人。 ― 30 ― 調査研究論文 ドイツの強制金の手続と実績 ※: バイエル ン州なし 年間約50件 年間約350件 強制金強制徴収 強制金賦課決定 年間2,000∼3,000件 履行期間 経過 年間約200件 [期限付き再戒告︵金額増可︶] 履行期間 経過 期限付き強制金戒告 違反行為是正命令 相手方の聴聞 ︿すべて行政機関による﹀ マクデブルク 市の実績 (2001) ミュンヘン市 の実績 (2001) & ※ 目的達成率 ≒95∼97% 年間約10件 年間約70件 図4 強制金の根拠法は、連邦と州の行政執行法(但し、州法は州ごとに法律名が異なる。 ) である。強制金の対象義務は、作為義務、受忍義務及び不作為義務である。 このうち代替的作為義務については、連邦の行政執行法では、代執行を実施しがたい 場合(untunlich)や義務者が代執行費用を負担する資力のない場合に強制金を適用でき ると定められている。ベルリン行政裁判所においては、極めて大規模な広告横断幕やい わゆる「巨大電光広告施設」(Mega-Light-Werbanlagen)についてはこの強制金を適用 できる「代執行を実施しがたい場合」に当たるという法的判断が下されている。これに 対し、バイエルン州法では、代替的作為義務に関する強制金の適用について制限はなく、 逆に、代執行について、強制金が奏功しないと認められるときに限り許容されると規定 している。 強制金と代執行の適用関係については、以上のようにバイエルン州法は連邦法とは異 なる立法例となっている。両法ともに、個別の行政強制手段は、目的達成のために適正 なものでなければならず、相手方への影響を最小限にとどめるものでなければならない と規定しているが(相当性の原則又は比例原則) 、バイエルン州法の規定ぶりとこれに 基づく運用は、まず比較的穏やかな強制金を適用して違反の自主是正を促し、それが奏 功しない場合にはより強力な代執行を適用するという考え方によるものである。私は、 このような適用順序は、異なる行政強制手段の適用関係として、前述の基本原則により 適合すると言えるのではないかと考える。 強制金の手続については、まず、期限付きの違反行為是正命令に付加して、法定の下 限額と上限額の範囲内で一回ごとに額を決めて強制金の戒告が行われる。期限までに是 正されない場合は、強制金の賦課決定が行われる(ただし、バイエルン州法では、強制 ― 31 ― 調査研究論文 金の戒告処分は履行期限の到来とともに満期の到来した支払命令となるとされており、 改めて賦課決定を行う必要はない。 ) 。強制金の戒告及び賦課決定は、是正されるまで反 覆して行うことができ、また新たな戒告を行う際に強制金の額を前回の戒告の額より増 額することができる。 州法における強制金に関する規定ぶりは様々である。ベルリン市は都市(市)である とともに州でもある、いわゆる都市州であるが、ベルリン市における強制金の根拠規定 となっているベルリン行政手続法は、強制金の上限額を 50,000 ユーロとしているほか は連邦の行政執行法を適用する旨を規定している。従って、代替的作為義務の強制につ いては、代執行の適用を原則とし、代執行が実施困難な場合に限って強制金の適用を許 容する。しかしながら、後述のベルリン市シャルロッテンブルク・ヴィルマースドルフ 行政区の実務担当者からは、立法論的要望として、事案に応じて両制度を並列的に選択 できることとする方が望ましいという意見があった。 また、連邦法及び多くの州法で,強制金を補完する義務履行確保手段として,代償強 制拘留制度(Ersatzzwangshaft)が設けられている。これは、相手方の強制金の支払能力 の欠如が確実なときなど、強制金が徴収されえないときに、行政機関の申立てに基づく 行政裁判所の決定により、連邦法及び州法が定める上限及び下限の範囲内で定める期間、 義務者を強制的に拘留するものである。 さらに、行政規制に関する個別法で罰金(Bußgeld)が定められている。例えば、バイエ ルン州法であるバイエルン建築法 89 条では、同法の違反行為について、最高 50 万ユー ロ(≒6,500 万円)の罰金が科されることとされている。この罰金は、行政機関のみで 科すことができるため、強制金を補完する効果的な制裁手段となっている。 (2) 強制金の戒告額の算定基準 ミュンヘン市においては、強制金の額に関する明文の算定基準はない。しかし、実務 上、例えば建築物である違反物件の撤去を命ずるケースでは、強制金の額は当該建築物 の違反部分の床面積とその存する土地の価格をベースに算定され、また、違反屋外広告 物については、当該広告物の月当たりの広告収益額に違法掲出期間の月数を乗じて算定 されている。 また、バイエルン州においては 94 年の州法改正前は、強制金の上限額は 10,000DM とされ、その限度内において、強制金の額が 2,000DM を超える場合には経済的利益の 1.5 倍までの額の設定を許容していた(バイエルン行政送達・行政執行法 31 条 2 項) 。1 倍を超える額を課すことについて考慮すべき要素としては、違反行為による経済的利益 のほかに、義務者の支払能力、相手方の示す反抗の強さ、目的とされる違反行為是正の 重要性その他が考慮されるべきものとされるが、制裁的な観点は考慮されてはならない とされていた4。 94 年の同条項の改正により、強制金の額は改定された上限額(50,000 ユーロ)に厳 格に拘束されることなく、経済的利益に相当する額がこの 50,000 ユーロを超えるとき 4 Klein(1994) p.48 ― 32 ― 調査研究論文 は,強制金の額はその経済的利益の額に達していなければならないと明確に法文に規定 された。この改正後の規定における強制金額算定の考え方については、改正前と同様、 経済的利益及び義務者にとって違反行為の持つ意義が重要な基準となるとされている5。 しかしながら、行政庁による経済的利益の具体的な算定内容については、理由中に明記 する必要はないとされている6。 この 94 年改正を契機として、強制金と罰金の性格上の区別がさらに明確に意識され るようになり、その結果、違反行為が意図的なものかどうかといった行為の悪質性や非 難の程度、処分の相手方の収入などはむしろ前述の罰金の算定基準とされるという実務 運用がなされている。 (3) 強制金の適用実績 ①ミュンヘン市 ミュンヘン市での強制金の適用実績は、公式統計はないが、建築許可違反や屋外広 告物の違反などについて、年間平均で 2,000∼3,000 件程度である。そのうち、期限 徒過によって強制金の戒告が支払命令としての効力を発生するに至るのは 10∼20% (件数としては、2001 年で 350 件、2002 年(11 月末まで)で 354 件)であり、さ らに、強制徴収に至るのは多くともこのうちの約 20%程度とのことである。他方、強 制金の戒告が支払命令としての効力を発生するに至らなかった 80∼90%は,期限まで に自主是正されており、強制金の戒告の威嚇効果、すなわち違反是正効果は大きい。 このように、ミュンヘン市においては、建築及び屋外広告物の規制行政の分野での 主要な行政強制手段は強制金であり、強制金制度は都市計画建築監督局の所管行政分 野の違反取締りにおいて不可欠の役割を果たしている。また、これを補完する制裁手 段としての罰金は、2001 年には 486 件の適用実績がある。これに対し、代執行 (Ersatzvornahme)の実施例は極めて少なく、適用実績のない年が多い。 ミュンヘン市では、前述の州法の規定のとおり、代替的作為義務については、行政 強制手段として第一次的に強制金を適用し、相手方がそれでも応じない場合に第二次 的に代執行によるとする実務運用がなされていることが確認された。 代償強制拘留制度は、その執行において行政庁の重大な決断、時間及び労力を要す るため、ミュンヘン市においても実績は皆無に近い。 ②ベルリン市シャルロッテンブルク・ヴィルマースドルフ行政区 ベルリン市のシャルロッテンブルク・ヴィルマースドルフ行政区(人口 31.8 万人= ベルリン全体(339 万人)の約 9.4%)では、建築規制や屋外広告物規制の原則的な行 政強制手段は、前述のとおり代執行である。このため、強制金の適用実績は戒告ベー スで年間 10 件程度にとどまる。 これに対し、代替的作為義務についての原則的な強制手段である代執行の適用実績 は、強制金の 4∼5 倍の件数に上っているとのことである。 5 Bayerisches Gesetz- und Verordnungsblatt Nr.8/1994, p.239 6 Regierung von Oberbayern(2001) p.7 ― 33 ― 調査研究論文 強制金戒告事例については、その戒告処分を不服として行政訴訟が提起されること も多いが、殆どのケースで行政側が勝訴して違反は自主是正されている。このため、 強制金の強制徴収に至るケースは極めて希である。 なお、代償強制拘留の実績は、担当者の知る範囲では皆無に近いとのことである。 同担当者は、代償強制拘留制度が存在し、強制金の戒告において代償強制拘留に関す る警告を併せて行いうることが、義務を履行させるための威嚇力を確保する上で必要 であると評価している。 (4) 強制金の具体的適用事例 以下に、強制金の具体的適用事例を紹介する。違反建築物に関しては、マクデブルク 市の事例 2 件及びミュンヘン市の事例 1 件、大規模違反屋外広告物に関しては、ベルリ ン市シャルロッテンブルク・ヴィルマースドルフ行政区の事例 1 件であるが、いずれの 事例も、最終的には自主是正がなされ、行政目的を達成している。 (マクデブルク市) ○事例 1:①二棟の建物の階段空間に排煙設備を設けること、及び②建築完了後に実況 見分を受けて検査証明書類一式を提出することを内容とする是正命令に関する事例;① につき 5,000DM(当初戒告分)→6,000DM(再戒告分) 、②につき 2,000DM(当初戒 告分)→2,500DM(再戒告分)の強制金を課す旨の戒告がなされた。 ○事例 2:建築許可を得ないで設置された建築資材保管用のテント式倉庫の撤去命令に 関する事例;6 週間以内に撤去しないと、10,000DM の強制金を課す旨の戒告がなされ た。 (ミュンヘン市) ○事例 3:①隣地との境界付近に無許可で建築された丸太小屋の撤去、②前庭に設けら れた駐車場の廃止及び囲いの撤去、③建物の営業利用の中止の 3 点を命ずる命令に関す る事例; 1 月内に履行しない場合は、それぞれ①500 ユーロ、②500 ユーロ、③2,000 ユーロの強制金を課す旨の戒告がなされた。 (ベルリン市シャルロッテンブルク・ヴィルマースドルフ行政区) ○事例 4:エルンスト・ロイター広場に面するビルの正面ファサードの仮囲いに設置さ れた巨大広告ポスター(図5:高さ約 70m、面積約 3,000 ㎡)の撤去命令に関する事例; 6 日以内に撤去しない場合は、20,000 ユーロの強制金を課す旨の戒告がなされた。 ― 34 ― 調査研究論文 ベルリン市の巨大屋外広告物 ( 写真:ベルリン市シャルロッテンブルク・ヴィルマースドルフ行政区提供) 2万ユーロの強制金で自主撤去 図5 おわりに 以上のとおり、二次にわたる現地調査によって、フランスのパリ市、ドイツのミュン ヘン市やマクデブルク市においては、 「間接行政強制制度」としてのアストラントや強 制金が、建築規制や屋外広告物規制に係る違反行為の自主的是正を促すために積極的に 活用されており、かなり高水準の違反是正効果を挙げていることが確認された。 〈脚注引用参考文献〉 ・ Klein, B. (1994) Verwaltungsvollstreckung in Bayern, Richard Boorberg Verlag …… ・ Regierung von Oberbayern (2001), Verwaltungsvollstreckunsgrecht:Ausbildung der Rechtsreferendare ― 35 ― 調査研究論文 米国 California 州における環境施策 前研究調整官 概 桐山 孝晴 要 広大な国土と豊富な資源を有する米国においては、環境問題に対する関心は高くないと 思われがちであるが、人口の密度、集積度の高い California 州では、人々の環境への関心 は高く、California 環境保全法(CEQA)のような先進的な施策も実施されている。CEQA は、公共および民間の開発計画に対して環境影響の検討を義務づけており、影響が大きい と考えられる場合には、さらに環境影響報告書の作成を義務づけている。 そして、これらに関する情報は広く公開され、市民も巻き込んだ活発な議論が行われてい るのである。 また、San Francisco 大都市圏である San Francisco 湾岸地域においては、高い人口集 積と経済力を背景に、依然として人口増加が続いていることから、環境への関心は特に高 い。当地域では、多くの自治体にまたがる広域計画を作成する広域行政機関が組織されて おり、そこで、環境を強く意識した地域計画が作成されている。 筆者らは、米国 California 州を訪れ、これらの環境施策について調査する機会を得たの で、その内容について報告する。 はじめに 生活水準が向上するにつれて、より快適な生活環境を求めるニーズが高まる一方で、環 境の有限性も認識されるようになってきている。このような状況の中で、環境施策に対す る国民の関心は高まり、その重要性が増している。我が国では、従来から、地域の環境改 善のための施策が数多く実施されているところであるが、近年は、温室効果ガスの排出削 減を義務づける京都議定書を踏まえた、地球環境対策にも力が入れられている。 一方、広大な国土と豊富な資源を有する米国においては、大型の家電製品や自動車に象 徴されるエネルギー多消費型の社会が形成されており、京都議定書の枠組みから脱退した ことをみても、一般に、環境問題に対する関心は高くないと思われがちである。 ところが、人口の密度、集積度の高い California 州では、人々の環境への関心は高く、 California 環境保全法のような先進的な施策も実施されている。また、San Francisco 大 都市圏である San Francisco 湾岸地域においては、高い人口集積と経済力を背景に、依然 として人口増加が続いていることから、環境への関心は特に高く、環境を強く意識した地 域計画が広域行政機関によって作成されている。 筆者らは、米国 California 州を訪れ、これらの環境施策について調査する機会を得たの で、その内容について報告する。訪問した相手先機関は、以下のとおりである。 [California 州政府] ・ 州 知 事 計 画 研 究 事 務 所 ( OPR : Office of Governor Gray Davis Planning and Research) [San Francisco 湾岸地域] ・湾岸地域政府間協議会(ABAG:Association of Bay Area Governments) ・大都市圏輸送委員会(MTC:Metropolitan Transportation Commission) ― 36 ― 調査研究論文 1.カリフォルニア環境保全法 (1)概要 カ リ フ ォ ル ニ ア 環 境 保 全 法 ( CEQA: California Environmental Quality Act は 、 California 州における土地利用開発を環境面から審査するための法律である。CEQA は、 公的機関が関与する開発計画に対して、環境影響の検討を義務づけるとともに、その情報 を広く公開するところに特徴があり、それに基づいて市民を巻き込んだ活発な議論が行わ れている。 米国では、1960 年代に環境への関心が急速に高まり、1969 年には連邦法である国家環 境政策法(NEPA:National Environmental Policy Act)が制定された。CEQA は、NEPA を踏まえて翌 1970 年に制定されたもので、両者には共通する内容が多いが、CEQA には 環境影響を緩和する内容も含まれているのが特徴である。 CEQA の目的とするところは、以下のとおりである。 ・意志決定者や市民に、提案された開発行為の環境に対する考えられる重要な影響に関す る情報を提供する。 ・環境の損失を防ぐまたは緩和させる方法を明らかにする。 ・実施可能な代替案や緩和策の実施を求めることによって、環境の損失を防ぐ。 ・環境へ重大な影響がある事業を認可した理由を、市民に対して明らかにする。 ・事業の審査にあたって、機関間の調整を促進する。 ・計画プロセスに市民参加を高める。 (2)CEQAのプロセス CEQA のプロセスは、適用審査、初期調査、環境影響報告書の 3 段階から構成される。 ①適用審査 CEQA の対象となるのは、何らかの形で公的機関が関与する土地利用開発である。この 中には、公的機関が策定する総合計画、公共事業の他、公的機関が補助金や認可等の形で 関与する民間の事業も含まれる。小規模事業等、環境への影響が少ないと考えられる開発 等、CEQA の適用を免除する規定もあり、これに該当すればそれ以上のプロセスは必要と されない。 ②初期調査 CEQA の対象となった事業に対しては、初期調査(Initial Study)を実施する。 CEQA ガイドラインに示されている初期調査の項目(大項目)には、農業資源、生物資 源等、資源に関するものから、大気質、水質、騒音等、環境負荷に関するもの、土地利用、 人口、交通、美観等、社会的なものまで、多彩な内容が含まれている。これらの大項目の 下には、更に細かい検討項目が示されており、それぞれについて「影響大の可能性」、「緩 和策により影響小」、「影響小」、「影響なし」というように評価し、チェックリストを作成 する。 初期調査の結果、環境への影響が大きいと認められなかった事業に対しては、審査不要 宣言(Negative Declaration)が発せられ、CEQA プロセスは終了する。 ― 37 ― 調査研究論文 ③環境影響報告書 環 境 へ の 影 響 が 大 き い と 考 え ら れ る 事 業 に つ い て は 、 環 境 影 響 報 告 書 ( EIR : Environmental Impact Report)を作成する。ここでは、交通、大気質、騒音等の項目に ついてはモデルを用いた定量的な評価が、美観等については定性的な評価が行われるのが 一般的である。 CEQA は、EIR の作成にあたっての方法論まで示しているわけではなく、必ずしも技術 的完璧性を要求してはいない。CEQA が EIR に求めているのは、情報公開に対する誠実な 努力である。 EIR によって、環境への影響が大きいことが明らかになった場合、その事業を認可する ためには、公的機関は、影響の緩和策を示すか、または、認可の理由を明らかにしなけれ ばならない。環境への影響が大きい事業であっても、事業の必要性や経済的便益等を理由 として、認可されることもある。 (3)OPRの役割 州 知 事 計 画 研 究 事 務 所 ( OPR : Office of Governor Gray Davis Planning and Research)は、1970 年に設置された州知事直属の政策研究機関であり、土地利用から環 境保全、州政府内の省庁間の調整等、幅広い業務を担当している。OPR は、CEQA に関 連した業務として、ガイドラインの作成、クリアリングハウスの運営、CEQA を実施する 公的機関の教育・訓練等を行っている。 CEQA ガイドラインは、CEQA を実施するための手引き書であり、必ず従うべき法律と CEQA の考え方の解説とが記述されている。当ガイドラインは、2 年に 1 回以上見直すこ とが求められている。 クリアリングハウスは、CEQA に関連する環境文書の流通拠点である。クリアリングハ ウスに送られた EIR は、それぞれの分野の専門家へ送られて審査を受けるとともに、ウェ ブ上に公開されて一般市民からもアクセス可能となる。専門家や市民からは EIR に関する 意見が提出されるとともに、その意見には文書で回答する義務があり、クリアリングハウ スを通じて環境問題に関して活発な議論が行われる。 (4)CEQAの課題 これまで述べてきたように、CEQA は環境評価の方法論や基準を示すものではなく、公 的機関に環境の重要さを念頭に置いて決定させることを目的としている。従って、CEQA には開発事業に関する手続きが規定されているわけではなく、それは各機関の現存する通 常の手続き(計画策定、事業実施、認可等)として実施される。 CEQA によって、開発事業の環境影響に関する検討が行われるようになり、また、その 情報が広く公開されることで市民の関心も高まり、環境問題に関する議論も活発に行われ るようになった。しかし、紛争が発生した場合、それを解決するには、最終的には裁判に 持ち込まれることになる。 このため、事業者は EIR の作成にたいへんな労力を注ぎ、多くの時間や費用を要してい るという課題がある。 こ の 課 題 へ の 対 応 策 と し て 、 California 認 可 能 率 化 法 ( PSA : California Permit Streamlining Act)が策定された。CEQA には手続きの時間管理の概念がなく、いたずら に時間を要することがあったが、PSA によって CEQA 手続きの期限が定められ、事業者 ― 38 ― 調査研究論文 にとっては先の見通しがつけやすくなった。また、CEQA 手続きに関心がある事業者に情 報と支援を提供するための、認可支援事務所(Office of Permit Assistance)も設立され、 手続きの効率化が図られている。 2.San Francisco 湾岸地域における 環境施策 (1)地域の概要 San Francisco 大都市圏である San Francisco 湾岸地域は、California 州 中部太平洋側に位置する 9 つのカウン ティで構成されている。 当地域には 3 つの中心都市がある。 San Francisco (市とカウンティが 一体。人口 79 万人)は、 SanFrancisco 湾入口の半島先端に位置し、地域の歴 史的中心であるとともに、今でも金融、 文化、 観光等の中心である。 Marin カウンティ との間は、Golden Gate Bridge で結ばれている。Oakland(人 口 41 万人)は、 San Francisco から Bay Bridge を挟んだ対岸 Alameda カウンティにある湾岸都市であり、地 域の地理的中心で ABAG、 MTC 等の 図 San Francisco 湾岸地域 (http://www.abag.ca.gov/overview/abotbayarea.htlm より) 広域行政機関が立地している。 Santa Clara カウンティの San Jose(人口 92 万人)は、ハイテク産業が集積するシリコンバレ ーの中心であることから、近年、経済的重要性が増している。 当地域は、約 700 万人の人口集積(今後も増加し続ける見込み)を持つとともに、San Francisco 湾に代表される豊かな自然、高い経済力と教育水準を背景として、市民の環境 に対する関心は特に高い。当地域では、多くの自治体にまたがる広域計画を作成する広域 行政機関が組織されており、そこで、地域計画が作成されている。 (2)ABAG 湾岸地域政府間協議会(ABAG:Association of Bay Area Governments)は、1961 年 に設立された広域行政機関であり、現在、上記の 9 つのカウンティおよびその中にある 100 市(地域全体で 101 市のうち、1 市のみ不参加)が参加している。 米国では、自治意識が強いことから小規模な自治体が多いが、大都市圏では自治体の枠 を超えた広域的な計画作成が必要であり、広域行政機関が組織されている。当地域では、 湾岸地域大気質管理区、San Francisco 湾保全開発委員会、大都市圏輸送委員会(MTC) 等、多くの単一目的の機関も組織されているが、ABAG は、地方自治体の共同体として、 人口フレームや土地利用等の基礎的な計画および地域総合計画の作成を行うとともに、自 治体間の調整を行うことを任務としている。また、当地域の代表として、州政府や連邦政 ― 39 ― 調査研究論文 府との折衝を行うことも重要な役割であり、上位政府から計画作成を委託されたり、上位 政府に補助金を要求したりしている。 ABAG には、参加自治体の代表者で構成される総会の下に、実務を執り行う事務局が設 置されている。事務局には、経済、都市計画、コンピュータ等の専門家である 75 名のス タッフがいるが、彼らは参加自治体からの出向者ではなく、ABAG での採用者である。こ のため、ABAG は参加自治体からは独立した立場にあり、特定の自治体の利害にとらわれ ることなく、計画作成が行われる。 以下では、ABAG が作成した、環境を強く意識した地域計画のいくつかを紹介する。 ①San Francisco Bay Trail San Francisco Bay Trail は、湾岸を一周する総延長 400 マイルの多目的の道(散歩道、 自転車道)である。現在は、約半分が供用されているが、完成した暁には 7 つの有料橋、 9 つのカウンティ、47 の都市、130 以上の公園をつなぐことになる。 ABAG では、計画を作成するとともに、州政府から補助金を受け取り、それを地方自治 体へ配分している(建設工事は、地方自治体が発注することになる)。 San Francisco 湾岸地域は、自然の豊かさで知られるところであり、このため、ABAG は Bay Trail の利用が野生生物にどのような影響を与えるかについての調査も行っている。 ②持続可能な発展のための湾岸地域連合 持 続 可 能 な 発 展 の た め の 湾 岸 地 域 連 合 ( Bay Area Alliance for Sustainable Development)は、湾岸地域の環境、経済、社会的公平を現在、将来の世代にわたって高 めることを目的として、1997 年に設立された。実行委員会には、地方自治体を代表する ABAG の他、都市居住計画(社会的公平を代表)、太平洋ガス・電気会社(経済を代表)、 湾岸地域評議会(企業を代表)、Sierra クラブ(環境を代表)が参加している。 設立の背景としては、湾岸地域が豊かな経済、美しい環境資源に恵まれた魅力的な地域 でありながら、多くの人口増加地域と同様、近年、交通混雑、長距離通勤、オープンスペ ースの不足、住宅価格の高騰、大気や水質の汚染、富の分配の不公平等の問題に直面して おり、それを統合的に解決することが求められていることがある。 湾岸地域連合では、観点である環境(environment)、経済(economy)、社会的公平 (equity)のいずれも e を頭文字とすることから、e-vision として目標を掲げている。そ こでは、湾岸地域を、1)自然環境が豊かで、健康で、安全な地域、2)経済が力強く、国際 競争力がある地域、3)全ての市民が環境質と経済の便益享受に均等な機会を持つ地域、に すると謳われている。 湾岸地域連合が作成した行動計画の素案は、1999 年に ABAG 総会で発表され、さらに 2001 年には市民審査も実施された。 ③賢明な成長戦略 賢明な成長戦略(Smart Growth Strategy)とは、湾岸地域の今後 20 年間の成長のあ り方(シナリオ)を示すものである。当プロジェクトには、ABAG、大都市圏輸送委員会 (MTC)、湾岸地域大気質管理区、San Francisco 湾保全開発委員会、地域水質管理委員 会の 5 つの機関が参加するとともに、持続可能な発展のための湾岸地域連合とも連携して いる。 湾岸地域では、今後 20 年間で 100 万人の人口増加が予想されており、今のまま成長を 続けると、着実に交通混雑は増加し、住宅供給や質は深刻化し、オープンスペースや農地 ― 40 ― 調査研究論文 は都市的土地利用に変わり、社会的経済的不公平は増加することが懸念されている。この ような問題に対処し、快適な住宅の供給、長距離通勤の減少、環境質の向上、全ての住民 の生活質の向上を図るための成長のシナリオが模索されている。 (3)MTC 大都市圏輸送委員会(MTC:Metropolitan Transportation Commission)は、1970 年 に設立された、湾岸地域における輸送の計画、調整、資金調達を行う機関であり、大量輸 送機関、道路、空港、港湾、鉄道、自転車・歩行者道の整備に関する総合的な計画を作成 している。 MTC と ABAG は、同じ建物(Metro Center)に入居していることからもわかるように、 たいへんつながりが深い。両者を一体化する構想もあったそうだが、MTC は交通専門の 機関として存続し、今に至っている。 MTC では、交通需要の推計にあたって、我が国でも用いられてる 4 段階推計法のモデ ル(トリップ発生、分布、交通機関選択、経路選択)を使用しているが、その入力データ となる人口、雇用、土地利用等は、ABAG のモデルにより算出される。これまでは、この 土地利用モデルと交通需要モデルは独立して扱われていたが、最近では、これを統合して、 交通量から土地利用へフィードバックするモデルの開発が行われている。 この背景には、道路建設と環境負荷の関係に関する議論がある。すなわち、従来の MTC モデルは、 「交通容量増大→混雑解消→走行速度向上→排出ガス削減」という考え方である のに対し、環境保護団体からは、 「道路建設により発生する誘発交通が考慮されていない。」 との意見が出されていた。それに応えるために、上記のような統合モデルが必要とされる ようになったのである。 おわりに 米国 California 州を訪れ、州政府および San Francisco 湾岸地域における環境施策に関 する調査を行った。短期間の調査のため、施策の実効性までは十分に把握することはでき なかったが、情報公開の徹底や広域行政機関による地域計画作成等の理念は、我が国でも 参考になると考えられる。また、環境施策の中でも、環境のことだけを考えるのではなく、 経済や社会的公平の観点をも重視するところが印象に残った。 今回の調査にあたっては、訪問相手先機関の責任者の方に、快くヒアリングに応じてい ただいた。また、在 San Francisco 日本国総領事館の田村副領事には相手先機関のアポイ ントメントの取得を、(財)計量計画研究所の森田・小島両氏には収集した資料の整理等を していただいた。ここに記して、これらの方々に感謝申し上げる。 参考文献 ABAG(2002)「Budget and Work Program(Fiscal Year2002-2003)」 牧田義輝(1996)「アメリカ大都市圏の行政システム」勁草書房 William Fulton(1991)「カリフォルニアのまちづくり」技報堂出版(花木啓介、藤井康幸訳) 参考 URT http://www.opr.ca.gov/ http://ceres.ca.go.gov/ceqa/index.html http://www.abag.ca.gov/ http://mtc.ca.gov/ ― 41 ― 調査研究論文 イギリス政府における行政改革の現況 主任研究官 研 究 官 頼 あゆみ 諸岡 昌浩 概要 (1) 「歳出レビュー(Spending Review:SR)」体系とは、ブレア政権が、国民へ の説明責任を果たし、効果的・効率的な行政運営を行うことを目的として導入し た、予算・業績マネジメントの重要なツールである。本稿では、イギリス政府に おける行政改革の現況について、この SR 体系に焦点をあて、各省庁の予算・業 務との関係等を中心に整理した。 (2) イギリスの行政運営は政治主導色が強く、ブレア政権の予算・業績マネジメン ト改革も、政治の影響を強く受けてきた。その改革の中で誕生したのが、3 ヵ年 にわたる歳出の枠組である SR である。SR 体系では、各省庁に複数年度の予算が 保証され、事務事業が安定的に実施可能となる等のメリットが生じた。その反面、 各省庁は業績達成目標の達成を厳しく求められるようになった。 (3) 最新の動きとしては、2001 年の総選挙後に、行政改革の推進役となる組織とし て、Prime Minister’s Delivery Unit (PMDU)が設立された。また、SR 体系の 1 つである「行政サービス協約(Public Service Agreements:PSAs)」の業績達成 目標がアウトプット指標からアウトカム指標へと移行し、指標の数も整理される など、SR 体系はなお変化を続けている。 (4) イギリスにおける行政改革の現況を見ると、試行錯誤を繰り返しながら、ツー ルを改良し活用していることがわかる。SR、PSAs の大きな役割は、①施策の優 先順位の明確化、②施策の効果的・効率的な実施、③国民に対する政策の実施状 況の公表の 3 点にある。 1.イギリスの議会、内閣及び各省庁の関係 「歳出レビュー(Spending Review:SR)」体系は、政治主導の行政改革が進めら れる中で生み出された制度的枠組であることが特徴である。SR 体系を中心とした行政 改革の現況を理解するためには、まず、イギリスの議会、内閣及び各省庁の関係につ いて認識しておく必要がある。 (1)議院内閣制 イギリスの議院内閣制の下では、多数の与党議員が省庁の主要なポストを占め、政 治主導の行政運営を行っている。 大臣の数は伝統的に多く(100 名前後)、①Secretary of State(閣僚大臣:閣議に出 席できる)と②Minister of State(閣外大臣:閣議に出席できない)の 2 種類に大別 される。①は重要省庁のトップとして、②はそれ以外の省庁のトップまたは①の補佐 役としての役割を果たしている。そして、これらの大臣は、政権党が総選挙で公約と して掲げた施策を実行するために、中央省庁内でリーダーシップを発揮している。 ― 42 ― 調査研究論文 (2)組閣と省庁の再編 イギリスの国土交通行政関連の省庁については、ブレア政権になって以来、組閣に 伴う再編が相次いで行われた。イギリスでは、 「組閣=大臣の所掌分野の変更=省庁の 再編」という関係で省庁の再編が行われることが珍しくない。すなわち、省庁の再編 は政治上の必要によって行われることが多く、政治家から省庁の幹部への相談が再編 数日前までなかったという例もあったようである。 以下、ブレア政権発足後の国土交通関係の省庁の再編の主要なものについて、その 背景等を含め紹介する。 ①環境交通地域省の誕生(1997 年 6 月) 1997 年 5 月の総選挙で労働党が大勝し、ブレア政権が発足すると、翌 6 月、交通・ 環境・都市計画等の政策を一体的に実施するため、環境省と交通省が合併し、環境 交通地域省(Department of Environment, Transport and the Regions:DETR) が誕生した。 この再編は、表向きは、行政上の観点から行われたとされているが、現実には、 政治の論理が強く働いた結果というのが一般的な見方である。つまり、ブレア首相 が、ジョン・プレスコット副首相を手厚く処遇するために副首相兼務で環境省と交 通省を担当させ、その結果、両省庁を合併したということである。 この DETR は、交通・環境・都市計画等、広範囲にわたる政策を所掌する巨大な 省であった。 ②交通地方地域省及び環境食料農村省の誕生(2001 年 6 月) 2001 年 6 月の総選挙で労働党が勝利し、第 2 次ブレア政権が発足すると、農村地 域問題を扱う省の設置という選挙公約に基づき、DETR 及び農漁業食料省(Ministry of Agriculture, Fisheries and Food:MAFF)が廃止され、新たに交通地方地域省 (Department for Transport, Local Government and the Regions:DTLR、大臣は バイヤーズ)及び環境食料農村省(Department for Environment, Food and Rural Affairs:DEFRA、大臣はベケット)が設置された。 この省庁再編も、第 2 次ブレア政権の組閣により、バイヤーズ、ベケット両大臣 が担当することになった事務に合わせて省庁の所掌事務の組替えが行われたことに 起因している。 ③副首相府及び交通省の誕生(2002 年 5 月) 2002 年 5 月、ロンドン近郊で鉄道の脱線事故が発生し、担当大臣であるバイヤー ズが辞任した。これを受け、内閣改造及び省庁再編が行われ、DTLR が廃止される とともに、副首相府(Office of the Deputy Prime Minister:ODPM、大臣はプレ スコット副首相)及び交通省(Department for Transport:DfT、大臣はダーリン グ)が設置された。具体的には、ODPM は、住宅、都市、土地利用計画、地域政策 等を所掌し、一方、DfT は、もっぱら交通分野を所掌することとなった。 (3)財務省と各省庁の関係 イギリスの財務省は伝統的に大きな力を有している。これは、多くの場合、与党で 2、 ― 43 ― 調査研究論文 3 番目に有力な政治家が財務大臣の地位に就いていることが背景にある。 このため、以下に述べる予算・財政マネジメント改革においても、財務大臣が強力 なイニシアティブを発揮している。 2.ブレア政権における行政改革 (1)「政府の現代化(Modernising Government)」 ブレア政権は、サッチャー及びメージャーの保守党政権時代に推進された市場原理 の追求が行き過ぎたという認識の下、市場原理だけでは達成できない政府の役割を重 視し、社会資本、教育の充実等に取り組んでいる。1999 年に発表された「政府の現代 化」(Modernising Government)」白書では、政策形成過程の改革、利用者重視の公 的サービス、公的サービスの品質向上等の考え方が示されている。 (2)CSR の導入 こうした取組の一環として、予算・財政マネジメントに関しても改革を開始し、1998 年、「包括的歳出レビュー(Comprehensive Spending Review:CSR)」を導入した。 CSR は、政府の目標と各省庁の 3 ヵ年の歳出計画の大枠を定めるものであり、この CSR の体系の中には、①「公共支出計画(New Public Spending Plans) 1」、②「行 政 サ ー ビ ス 協 約 ( Public Service Agreements : PSAs )」、 ③ 「 省 庁 別 投 資 戦 略 (Departmental Investment Strategies:DISs)」等が含まれている。 ①「公共支出計画」は CSR の中核であり、今後 3 ヵ年の歳出の上限を決定するもの、 ②PSAs は各省庁の目的、目標及びこれら各省庁の目的や目標の実現に寄与する主要な 業績達成目標を定めたもの、③DISs は、PSAs で定められた各省庁の業績達成目標等 を達成するために、効率よく資本投資・資産管理を行っていくための戦略を定めたも のである。 (3)CSR からSR へ その後、CSR を引継ぐ形で、「歳出レビュー(Spending Review:SR)」が 2000 年 及び 2002 年の 2 度にわたり策定された。 (以下、それぞれ 2000SR、2002SR という。) 2000SR 及び 2002SR は、1998CSR と比べ、その枠組は大きくは変わらないものの、 その策定の考え方は大きく転換された。この転換の内容は、財務省が各省庁に示した ガイドラインによると、①達成目標と達成手段を区別し達成目標に純化したこと、② より簡潔で、より戦略的で、より近づきやすい目標の設定に努めたこと、③「政府の 現代化」と公務員改革を統合したことの 3 点である。この結果、PSAs に掲げられた 業績達成目標の数が、CSR 体系において 600 以上 2だったのに対し、2000SR 体系では 約 160、2002SR 体系では約 130 となり、大幅に減少している。 その他、CSR からの大きな変更点としては、①アウトカム指標の重視、②説明責任 の明確化、③PSAs の枠組の細分化である。業績達成目標が整理されたことに伴い、従 来 PSAs の枠組の中で定めていた目標の達成方法や業績測定方法については、①「サ ービス提供合意(Service Delivery Agreements:SDAs)」や②「技術的合意(Technical 1 2 財務省(2001) p.52 国土交通省(2001) p.104 ― 44 ― 調査研究論文 Agreement:TA)」等の文書で定めることとなった。①SDAs は PSAs で定めた目標を 達成するために行う具体的な活動内容を規定する文書、②TA は業績の測定方法の詳細 を定めた文書である。 (4)SR 導入の効果 これら SR(以下、CSR を含めて SR と総称する。)体系の導入と更なる改善により、 中長期的な予算編成、効率的な予算配分、省庁への一定の裁量の付与、責任所在の明 確化、行政活動の透明性の向上及びアカウンタビリティの強化等が図られてきた。 3.SR、PSAs と各省庁予算との関係3 上述の予算・財政マネジメント改革の大きなポイントの一つは、予算編成の仕組が 大きく変化したことである。 SR は、財務省が 2 年毎に策定する今後 3 ヵ年にわたる歳出の枠組であり、その導入 に伴い、毎年の年次予算編成手続は残っているものの、以下に述べるように、SR の策 定が実質的な予算編成となった。すなわち、各省庁の予算の大枠は、SR の中の 3 ヵ年 の「公共支出計画」として決定されるようになった。 (1)複数年度予算 SR の導入により、実質的に、複数年度にわたる予算が編成されるようになった。 1993 年度からメージャー保守党政権下で実施されてきたコントロール・トータル制 度も SR 同様 3 ヵ年単位の予算の枠組をとってはいたが、毎年改訂されるものであっ て、結局、毎年予算を編成し直すものであった。 これに対し、SR は、3 ヵ年の枠組は共通であるが、2 年毎に改訂されるものである。 つまり、前の SR の 3 ヵ年のうちの最後の 1 年が、次の SR の最初の 1 年と重なる仕 組となっている。その結果、予算編成は実質的に 2 年を単位として行われていること になった。 その他、コントロール・トータル制度と SR の相違点としては、SR の策定が PSAs による目標の設定とセットになったこと、予算の繰越しが認められるようになったこ と等が挙げられる。 (2)SR の策定プロセス わが国では単年度の予算編成を行っていることから、予算編成プロセスは、8 月の 概算要求基準決定から 12 月の政府予算案決定までの極めて短期間となっている。これ に対し、イギリスの実質的な予算編成である SR の中の 3 ヵ年にわたる「公共支出計 画」の策定は、3 月頃開始され、1 年以上の検討を経て、翌年 7 月の決定・公表に至る 長期間にわたっている。 策定スケジュールは大きく分けると、次の 4 段階である。①3 月∼8 月:編成方針の 決定、②8 月∼12 月:要求に対する査定、③12 月∼6 月:目標に基づく査定、④7 月: 「公共支出計画」の決定及び公表、が行われることとなっている 4。 3 4 財務省(2001)pp.51-60, p.67 イギリスの会計年度は 4 月∼3 月である。 ― 45 ― 調査研究論文 この段階のうち、③以降は、PSAs に掲げられた業績達成目標の達成状況も参考とし て、査定が行われている。ただし、予算と目標の関係は一様ではないことから、実務 においては、業績達成目標の達成状況と予算とを機械的にリンクさせることは難しい ようである。 (3)歳出項目の区分 SR において、歳出は、省庁別に「各年管理歳出(Annually Managed Expenditure: AME)」及び「省庁別歳出限度額(Departmental Expenditure Limit:DEL)」に区 分されており、それらの合計額は「歳出総額(Total Managed Expenditure:TME)」 と呼ばれる。TME は、AME や DEL に先立ち、財務省のイニシアティブで決定され る。AME は、社会保障費や EU 関係への支払費用等、外的要因から支出規模が決定さ れる経費である。 したがって、各省庁が SR の策定に当たって財務省と議論するのは、主に DEL につ いてである。DEL は、人件費等の経常運営費及び資本支出の歳出上限額である。 各省庁は、割り当てられた予算の範囲内で、年度をまたいだ流用や繰越しを一定の 範囲で行うことが可能となっている。各省庁は、SR 期間である 3 年間について SR で 定められた額の予算配分を受けることが保証されることから、従来の単年度ごとに予 算額が決められるやり方に比べ、予算の柔軟な執行が可能になった。その反面、各省 庁は、PSAs で設定した業績達成目標の達成を厳しく求められるようになった。 4.各省庁の業務とSR、PSAs との関係 各省庁の業務は、財政的には SR で担保される一方、実施面では、各省庁ごとのさ まざまな組織戦略プランに従って実施されている。例えば、DfT では 2000 年に策定さ れた「交通 10 年計画(Transport 2010:The 10 Year Plan)」、ODPM では、財務省 や PMDU が各省庁に対して策定を求める「デリバリープラン(Delivery Plan)」を重 視し、それに従って行政運営を行っているようである。(第 6 章参照) ところで、各省庁の業務と PSAs に掲げられた業績達成目標は完全にはリンクして いない。業績達成目標は、政権の重点施策に対応して設定されるため、各省庁が行う 施策全てについて業績達成目標が設定されているわけではない。例えば、2002 年に策 定された DfT に関する PSAs の場合、DfT の所掌分野のうち、鉄道分野の施策につい ては、その主な施策については業績達成目標が設定されているが、鉄道分野の全ての 施策について業績達成目標が設定されている訳ではなく、また、航空・船舶分野の施 策については、全く業績達成目標が設定されていない。 なお、業績達成目標の策定に関する方針は財務省が示し、業績達成目標そのものは、 各省庁が財務省との協議に基づいて案を策定することとなっている。方針が財務省で 決められることから、各省庁はどちらかといえば受身の立場であると言える。 5.各省庁と会計検査院(NAO)の関係 NAO は、各省庁の行政活動の監査、各省庁へのアドバイス・情報提供等の業務を行 っている。 PSAs 等の策定に関しても、各省庁の策定活動を支援する役割を果たしている。具体 ― 46 ― 調査研究論文 的には、各省庁が「技術的注釈(Technical Note:TN)」を策定する際の支援を行っ ている。TN とは、業績測定方法の詳細を定めた文書(2000SR 体系までは TA と呼ば れていたもの)である。 NAO は、TN の策定に際して開かれる「業績情報委員会(Performance Information Panel)」 (財務省、関係省庁、外部の専門家等がメンバー)にアドバイザーとして参加 しているが、委員会では、必ずしも NAO の意見が採用されるわけではなく、あくま でもアドバイザーの立場である。 その他、NAO は、「エージェンシー及び非省庁公的機関の業績報告に関する優良事 例を集めた報告書(Good Practice in Performance Reporting in Executive Agencies and Non-Departmental Public Bodies)」等をまとめ、各省庁に、業績報告に関する 優良事例のガイドラインを提供するといった業務も行っている。 6.最近の動き (1)Prime Minister’s Delivery Unit の設立 以上のような行政改革をより一層推進するため、2001 年 6 月、内閣府内に、「首相 直属サービス供給班(Prime Minister’s Delivery Unit:PMDU)」が設立された。教 育・医療・治安・交通分野といった優先順位の高い施策について、その進捗状況の監 視と政府のサービス提供能力を高めることを役割としている。 ①PMDU 設立の背景 PMDU は、2001 年の総選挙実施直後に設置された組織であるが、その設置に至 った背景としては、①教育・医療サービスに対する国民の不満の高まり、②犯罪率 上昇に示される治安の悪化に対する国民の不満の高まり、③交通渋滞の深刻化、鉄 道施設の老朽化、相次ぐ鉄道事故等を受けた交通分野の施策に対する国民の不満の 高まり、等があったことが考えられる。実際、2001 年総選挙では労働党が勝利した ものの、1997 年総選挙に比べると得票率が低く、国民の不満ははっきりと表れてい た。これに対して、労働党・ブレア政権は危機感を持ち、上述の施策等を政府の優 先施策とし、重点的に取組む姿勢を国民にアピールするために PMDU の設置に踏み 切ったと言われている。 ②PMDU の組織構成及び業務内容 PMDU は、公共部門や民間部門からの出向者及び専門家等で構成されており、約 40 人のチームで業務を行っている。 PMDU の公式 Web5及び PMDU のチーフアドバイザーであるマイケル・バーバー (Michael Barber)教授の下院における証言メモ6によると、業務内容の概要は次の 通りである。 ・ 各省庁が提供する行政サービスの評価と支援を行う。 ・ 各省庁の優先施策の進捗状況を、実績調査や「公的サービス及び支出関係閣僚会 http://www.cabinet-office.gov.uk/pmdu/index.htm http://www.parliament.the-stationery-office.co.uk/pa/cm200102/cmselect/cmpubadm/262/ 2071104.htm 5 6 ― 47 ― 調査研究論文 議(Ministerial Committee on Public Services and Public Expenditure:PSX7)」 における協議等のプロセスを経て、財務省と共に、首相と財務大臣に対して定期 的に報告する。なお、PSX に対しては年に 2 回報告する。 ・ 各省庁が行政サービスの提供にあたっての障害を克服することを助けるため、問 題解決の業務を行う。 ・ 革新的な開発プログラム及び関与を通じ、各省庁の能力向上を支援する。 ③「デリバリープラン」の策定 PMDU は、財務省と共同で、各省庁に「デリバリープラン」を策定するよう求め ている。 「デリバリープラン」は、いわば、各省庁が PSAs に掲げられた業績達成目 標を達成するための手段を示した、各省庁の内部用のプロジェクトマネジメントツ ールである。 その策定プロセスは、ODPM を例にとると次のようになる。 まず、ODPM の組織戦略資源局(Corporate Strategy and Resources Directorate) に 属 す る 組 織 業 務 ・ サ ー ビ ス 提 供 部 局 ( Corporate Business and Delivery Division:CBD)のアドバイスを受けながら、関連する政策分野のチームが原案を 作る。その後、その原案は、PMDU と財務省にそれぞれ 1 人ずついる ODPM 担当 の会計マネージャーがチェックし、原案へのコメントを非公式に ODPM に伝える。 また、ODPM の事務次官(Permanent Secretary)、PMDU のヘッド(前出のマ イケル・バーバー教授)、財務省の幹部(senior official)の三者が定期的に会談し、 「デリバリープラン」策定の進捗状況について議論する。 そのようなプロセスを経た後、ODPM 大臣(副首相)が「デリバリープラン」の 原案を承認すると、ODPM と PMDU・財務省との間で、文書の合意のための正式 な交渉が開始され、交渉の結果、最終的に合意したものが、ODPM の正式な「デリ バリープラン」となる。 なお、 「デリバリープラン」は、作成後もフォローが行われ、定期的に改訂される。 また、ODPM によれば、PMDU は年に 4 回、各省庁の「デリバリープラン」の進 捗状況について議論するための首相と副首相の会議を主催しているとのことである。 ④PMDU と各省庁との折衝窓口 ODPM の対 PMDU 窓口は、形式上、中央部局(Central Division)であるが、実 際には、PMDU の職員が個別に ODPM 担当者と連絡を取り合うこともあるようで ある。しかし、PMDU が発足して間もないこともあり、現在のところ、各省庁と PMDU との関わりは限定的のようである。 (2)業績達成目標の整理 第 2 章で述べたように、2002 年 PSAs に掲げられた業績達成目標の数は、1998 年 PSAs と比べ、大幅に減少している。また、それらの業績達成目標の中身をみると、従 来、アウトプット指標が重視されていたのに対し、アウトカム指標が重視されるよう になるなど、改訂の度により洗練されてきている。 7 国土交通省(2001)p.100 ― 48 ― 調査研究論文 この業績達成目標の整理について、DfT の担当者は、重点施策が明確化されること を評価しつつ、それらの施策に国民の注目が集まることから、業績達成に対するプレ ッシャーも増すと述べている。また、ODPM の担当者は、業績達成目標の整理が行わ れても、TN に業績測定方法の詳細を規定するという極めて困難な作業があることから、 全体として策定業務が軽減されたということではないと述べている。 おわりに 以上、イギリス政府における行政改革の現況について、ブレア政権誕生以降の行政 改革の一環としての予算・業績マネジメントシステムの改革の現状、特に SR、PSAs の策定・運用時における課題、それらと各省庁の予算・業務との関係及び行政改革の 最新の動き等を整理した。 イギリス政府においては、常に、SR、PSAs の作成プロセスや主眼の置き方を変え ながら、試行錯誤を繰り返し、その体系を進化させている。例えば、2002PSAs にし ても、アウトカム目標の設定が中心になるなど、その作成コンセプトが大きく変化し ている。つまり、過去の SR、PSAs についての反省や課題が、次期の SR、PSAs にフ ィードバックされている。 また、イギリスでは、担当大臣が、各省庁の業績達成目標の達成に関して最終的な 責任を負うことになっているため、政治家が、策定プロセスに密接に関与し、重点項 目に焦点を当てつつ、政権党の公約を実現するべく、業績達成目標の策定にイニシア ティブを発揮している。 イギリスの SR、PSAs の大きな役割は、施策の優先順位の明確化、施策の効果的・ 効率的な実施、及び国民に対する政策の実施状況の公表の 3 点にあるといえる。わが 国で行政改革を進めていく際には、こうした点について理解した上で、実効が上がる よう制度の導入及び改良をしていくことが不可欠である。 ※ 本稿の執筆にあたり、森毅彦氏(前在連合王国日本大使館一等書記官)から多大 の御教示をいただいた。ここに心より感謝申し上げる次第である。 参考文献 建設省建設政策研究センター(2000)「PRC Note 第 24 号 建設政策における政策評価に関する研究 ―政策評価用語集―」 下條美智彦(1999)「イギリスの行政」早稲田大学出版部 鈴木敦・岡本裕豪・安岡義敏(2001)「国土交通政策研究第 7 号 NPM の展開及びアングロ・サクソ ン諸国における政策評価制度の最新状況に関する研究―最新 NPM 事情―」国土交通省国土交通政策研 究所 田中秀明・岩井正憲・岡橋準(2001) 「民間の経営理念や手法を導入した予算・財政のマネジメントの 改革 ―英国、NZ、豪州、カナダ、スウェーデン、オランダの経験―」財務省財務総合政策研究所 Referenced Website http://www.archive.official-documents.co.uk/document/cm48/4807/index.html http://www.cabinet-office.gov.uk/pmdu/index.htm http://www.dft.gov.uk/ http://www.hm-treasury.gov.uk/ http://www.nao.gov.uk/ http://www.odpm.gov.uk/ http://www.official-documents.co.uk/document/cm55/5570/5570-00.htm http://www.parliament.the-stationery-office.co.uk/pa/cm200102/cmselect/cmpubadm/262/2071104. htm http://www.parliament.uk/about_commons/about_commons.cfm ― 49 ― 産業の地域特化 1 地域特化とは 産業の分布が特定の地域に集積して いるのか、それとも、どの地域でもお しなべて立地しているのか、即ち、産 業の地域特化の状況とその変化の方向 は、我が国の都市・国土構造のあり方 を検討する上で重要な要素である。産 業の地域特化を計測する手法としては、 所得格差を測るために用いられるジニ 係数を応用した地域特化係数が活用さ れている1。例えば、都道府県別の地域 特化係数は、ある産業と全産業の平均 的な地域分布にどの程度乖離があるか、 その度合いを測るものである。 地域特化係数は、都道府県別産業別の就業者数等を用いて下記のBalassa係数を算出して昇順に並べ、 X軸に 分母の累積を、Y軸に分子の累積をプロットしたときの、45度線との間の三日月型の面積とX軸-Y軸-45度線が 形成する三角形の面積の比である。ある都道府県単独に偏在していれば1、平均的に分布していれば0となる。 Balassa係数 i j Qij / ∑ Q j = ∑ Qi / ∑∑ Q (i:都道府県 j:産業) Qij / ∑ Q j (0,1) Qij / ∑ Q j (0,1) (0,1) (0,1) ∑ Qi / ∑∑ Q ∑ Qi / ∑∑ Q 地域特化が相対的に低い産業 地域特化が相対的に高い産業 2 我が国における産業の地域特化の動向 事業所統計の就業者数を用い、1966 年から 2001 年にかけて、我が国における産業 の地域特化係数の動向を調べたところ、映画・ビデオ制作業、情報サービス・調査業 等、知識集約型の業種において地域特化係数の上昇が見られ、従来、地域特化傾向の 高かった精密機械器具製造業や電気機械器具製造業の地域特化係数が低下してきてい ることが判明した。知識創造による経済活性化の必要性が叫ばれるなか、その一翼を 担うと期待されるソフト産業が一定の地域に集積しつつあることがうかがえる2。 0.70 1966 1978 1991 2001 0.60 0.50 0.40 0.30 0.20 0.10 学術研究機関 情報サービス・ 調査業 映画・ ビデオ製作業 娯楽業 保険業 証券業,商品先物取引業 銀行・ 信託業 卸売業 電気通信業 精密機械器具製造業 輸送用機械器具製造業 電気機械器具製造業 一般機械器具製造業 金属製品製造業 学術研究機関 (総括主任研究官 情報サービス・調査業 映画・ビデオ製作業 娯楽業 保険業 証券業・商品先物取引業 銀行・信託業 卸売業 電気通信業 精密機械器具製造業 輸送用機械器具製造業 電気機械器具製造業 一般機械器具製造業 金属製品製造業 0.00 山口 勝弘) 1 地域特化係数(locational Gini coefficients)は、ポール・クルーグマンの”Geography and Trade”(1991)が初出。 2 地域特化係数の算定に当たっては、三菱総合研究所地域政策研究センター幕亮二研究員の協力を得た。 ― 50 ― 研究所の活動から 研究所の活動から 平成 15 年 2 月から平成 15 年 4 月までの間に、国土交通政策研究所では、以下のよう な活動を行っております。詳細については、それぞれの担当者または当研究所総務課に お問い合わせいただくか、当研究所ホームページをご覧下さい。 Ⅰ 研究会の開催 (1)次世代交通フォーラム 1)目 的 当研究所では「社会情勢の変化による交通・物流に与える影響に関する基本的 研究」を実施しているところである。当該分野に関して専門的な知見を有する学 識経験者や有識者等をメンバーとした「次世代交通フォーラム」を開催し、公共 交通の利用促進等に関するご意見を頂くことにより当該研究の質の向上を図るも のである。 2)開催状況 第 1 回∼第 4 回 PRI Review 第 3 号(2001 年秋季・冬季)を参照 第5回 PRI Review 第 4 号(2002 年春季)を参照 第6回 PRI Review 第 5 号(2002 年夏季)を参照 第7回 PRI Review 第 6 号(2002 年秋季)を参照 第8回 日 時:平成 15 年 3 月 6 日(木)15:00∼16:45 議 事: 「ユビキタス・ネットワーク社会と交通に関する論点整理」 3)担 当 総括主任研究官 山口 勝弘、研究調整官 山縣 延文、主任研究官 野澤 和行、 前研究官 押井 裕也、研究官 小池 剛史 (2)東アジア共通ICカード研究会 1)目 的 国土交通政策研究所では、情報管理部とともに、扇大臣の「改革への具体的取 組み」の一つとして、我が国を始め、東アジア地域において世界に先駆けて交通 分野への導入が進んでいる 非接触 IC カード技術を活用して、同地域において共 通に利用できる IC カードを導入する構想を推進しているところであるが、具体 的には、我が国における SUICA カード、シンガポールにおける IC カード、香港 における OCTOPUS カードの普及を踏まえ、これらで共通に利用できる交通系 IC カードの導入方策を検討するため、国内関係者よる「東アジア共通 IC カード 研究会」を発足させ、開催している。 2)メンバー(敬称略) 3)開催状況 第 1 回研究会 第 2 回研究会 第 3 回研究会 第 4 回研究会 第 5 回研究会 第 6 回研究会 4)担 当 PRI Review 第 7 号(2003 年冬季)を参照 PRI Review 第 7 号(2003 年冬季)を参照 日 議 場 日 議 場 時:平成 15 年 2 月 13 日(木)15:00∼17:00 事:「香港において伝えるべき事項について」等 所:中央合同庁舎第 3 号館 2 階特別会議室 時:平成 15 年 3 月 18 日(火)14:00∼16:00 事:「招へい事業について」 等 所:中央合同庁舎第 3 号館 4 階特別会議室 総括主任研究官 山口 勝弘、主任研究官 畑口 一樹 ― 51 ― 研究所の活動から (3)交通政策の健康学的評価に関する研究会 1)目 的 交通機関による移動は、混雑、渋滞、長時間搭乗等種々のストレスを生む。こ のため、渋滞・混雑の緩和や高速化はこれまでの交通政策の主要なテーマであっ た。そこで本研究においては、通勤混雑、交通渋滞、長時間搭乗等が具体的にど のような影響を人の心身に及ぼしているのか、交通システムの改善効果が健康的 にどのように評価されるのかを解明し、今後の政策形成に寄与することを目的と する。 2)メンバー(敬称略) 3)開催状況 第 1 回研究会 第 2 回研究会 4)担 当 PRI Review 第 6 号(2002 年秋季)を参照 PRI Review 第 6 号(2002 年秋季)を参照 日 時:平成 15 年 3 月 19 日(水)14:00∼16:00 議 事:「本年度の調査結果について」 等 総括主任研究官 山口 勝弘、研究官 後藤 進 (4)都市環境施策の社会的・経済的影響の定量評価に関する研究会 1)目 的 都市における環境負荷の削減のため、都市構造、交通、民生等の分野において 各種の都市環境施策が実施されているところであるが、その効果を明らかにする ために、施策効果の定量的な評価が求められている。そこで、本研究会において は、都市環境施策の効果について、環境負荷、生活の質(利便性、快適性等) 、経 済(所得、地価等)等の観点から、相互の関係も含めて多面的、総合的に評価す る手法を構築することを目的とする。 2)メンバー(敬称略) 3)開催状況 第 1 回研究会 第 2 回研究会 第 3 回研究会 第 4 回研究会 4)担 当 PRI Review 第 6 号(2002 年秋季)を参照 PRI Review 第 6 号(2002 年秋季)を参照 PRI Review 第 7 号(2003 年冬季)を参照 日 時:平成 15 年 2 月 6 日(木)10:00∼12:00 議 事:「活動・生活の質モデルの構築についての検討」 等 場 所:国土交通政策研究所所内 日 時:平成 15 年 3 月 24 日(月)13:30∼16:30 議 事: 「シミュレーション結果および評価手法についての検討」等 場 所:国土交通政策研究所所内 総括主任研究官 西津 政信、研究調整官 瀬本 浩史、研究官 片岡 孝博 (5)経済成長と交通環境負荷に関する研究会 1)目 的 環境問題への意識が世界的に高まり、持続可能な発展が世界経済にとって重要 な課題となる中、OECD(経済協力開発機構)は、Decoupling environment from economic growth(経済成長と環境負荷の分離)方策に関する研究プロジェクト を発足させた。本研究は同プロジェクトの一環として、交通基盤整備、土地利用、 環境税等の交通・都市・環境施策が経済主体別の便益、経済成長及び CO2 排出等 の環境負荷に及ぼす影響について、分析・評価が可能な経済モデルを構築し、環 境負荷の少ない都市・国土構造のあり方に関するシミュレーション分析を行うこ とを目的とする。 2)メンバー(敬称略) PRI Review 第 6 号(2002 年秋季)を参照 ― 52 ― 研究所の活動から 3)開催状況 第 1 回研究会 第 2 回研究会 PRI Review 第 6 号(2002 年秋季)を参照 日 時:平成 15 年 2 月 12 日(水)15:00∼17:00 議 事: 「環境負荷低減モデルを構成するサブモデルについての検討」 等 場 所:中央合同庁舎第 3 号館 11 階共用会議室 日 時:平成 15 年 3 月 27 日(木)15:00∼18:00 議 事:「OECD 環境局 Decoupling Project 担当者との意見交換」 等 場 所:中央合同庁舎第 2 号館地下 2 階第 1∼3会議室 第 3 回研究会 4)担 当 総括主任研究官 山口 勝弘、研究官 小池 剛史 (6)マルチモーダルな静脈物流システムの構築に関する研究ワーキンググループ 1)目 的 各種法的措置等を契機として、循環型社会形成に向けた取組みが各分野で進め られていることを背景として、静脈物流需要の将来予測、廃棄物(循環資源)の リユース・リサイクル施設への効率的な物流システムの構築のあり方等について 検討することを目的とする。 2)メンバー(敬称略) PRI Review 第 4 号(2002 年春季)を参照 3)開催状況 第 1 回 WG 第 2 回 WG 第 3 回 WG 4)担 当 PRI Review 第 4 号(2002 年春季)を参照 PRI Review 第 5 号(2002 年夏季)を参照 日 時:平成 15 年 3 月 24 日(月)13:30∼16:00 議 事: 「産業廃棄物の委託中間処理アンケートの結果について」等 総括主任研究官 山口 勝弘、研究調整官 山縣 延文、研究官 高橋 一則 Ⅱ 講演会、政策課題勉強会の開催 1.講演会 「雇用創出と行政の役割」 講 師:樋口 美雄 慶應義塾大学商学部教授 日 時:平成 15 年 3 月 28 日(金)14:00∼16:00 場 所:中央合同庁舎第 2 号館 B2 階 講堂 2.政策課題勉強会 1)目 的 当研究所では国土交通政策立案者の知見拡大に資するため、国土交通省職員等 を対象に、本研究所職員(又は外部有識者)が幅広いテーマについて発表後、参 加者との間で質疑応答を行うことにより今後の国土交通行政のあり方を考えると ともに、国土交通政策の展開を行うための基礎的な知見の涵養に寄与することを 主な目的とした勉強会を開催している。 2)開催状況 第 1 回∼第 4 回 第 5 回∼第 8 回 第 9 回∼第 14 回 第 15 回∼第 18 回 第 19 回 PRI Review 第 4 号(2002 年春季)を参照 PRI Review 第 5 号(2002 年夏季)を参照 PRI Review 第 6 号(2002 年秋季)を参照 PRI Review 第 7 号(2003 年冬季)を参照 「交通システムにおけるインフラ部門のあり方 ∼英国における鉄道の事例∼」 発表者:(財)運輸調査局調査研究センター主任研究員 小役丸 幸子 日 時:平成 15 年 2 月 12 日(水)12:30∼14:00 場 所:中央合同庁舎第 3 号館 11 階共用会議室 ― 53 ― 研究所の活動から 第 20 回 「交通インフラの民営化について ∼契約理論からのアプローチ∼」 発表者:東京大学大学院経済学研究科・経済学部助教授 柳川 範之 日 時:平成 15 年 2 月 24 日(月)12:30∼14:00 場 所:中央合同庁舎第 3 号館 11 階共用会議室 第 21 回 「ICカード、携帯端末等を活用した都市交通のCRM戦略」 発表者:国土交通政策研究所 日 場 第 22 回 主任研究官 野澤 和行、 前研究官 押井 裕也 時:平成 15 年 3 月 10 日(月)12:30∼13:30 所:中央合同庁舎第 3 号館 11 階共用会議室 「行政規制の実効性確保のための『間接行政強制』について」 発表者:国土交通政策研究所 総括主任研究官 西津 政信 日 時:平成 15 年 3 月 26 日(水)12:30∼13:30 場 所:中央合同庁舎第 3 号館 11 階共用会議室 第 23 回 「政策評価の歩みと課題」 発表者:内閣府防災担当企画官(前政策統括官付政策評価企画官) 澁谷 和久 日 時:平成 15 年 4 月 9 日(水)12:30∼13:30 場 所:中央合同庁舎第 3 号館 11 階共用会議室 第 24 回 「日本から見た東アジア観光の動向」 発表者:国際観光振興会総務部調査役 平田 真幸 日 時:平成 15 年 4 月 23 日(水)12:30∼13:30 場 所:中央合同庁舎第 3 号館 11 階共用会議室 3)担 当 研究官 片岡 孝博、高橋 一則 Ⅲ 実証実験の実施 1.ポストペイ型 IC カードシステムの導入及び運賃の弾力化等に関する実証実験 1)目 的 日本で初めて、ポストペイ(事後精算)型 IC カードシステムを導入するとと もに、利用実績に応じた運賃の弾力化メニューを設け、その効果と課題等を明ら かにすることを目的とする。 2)実験概要 年 月 実証実験の概要 15 年 1 月 1 日、 ○札幌市営地下鉄 IC カードモニターのうち約 700 名のモニター(家族・法 3 月 31 日 人を含む)にポストペイ(事後精算)型 IC カードを配布し、利用実績に 応じた運賃の弾力化メニューを設け、利便性等に関する意識調査、地下鉄 の利用頻度の変化等について調査を実施。 ○日本で初めて交通系 IC カードの利用情報を Web 上で提供し、その利便性 等に関する意識調査等を実施。 3)担 当 主任研究官 樋口 洋一、主任研究官 野澤 和行、研究官 小池 剛史 2.PHS位置情報を活用した交通情報配信社会実験 1)目 的 当研究所では、 「e!プロジェクト」の一つである「e−エアポート構想の推進」の取り組み の一環として、 「次世代マルチモーダル交通情報基盤の研究開発」を進めており、今般、羽田 空港アクセスを対象にして、PHS 位置情報サービスを利用したリアルタイムな交通情報配信 を行い、以下について検討を行った。 ① 羽田空港アクセスにおけるリアルタイム位置情報取得状況 ② 羽田空港アクセスにおける交通情報メール配信の有用性 ― 54 ― 研究所の活動から 2)実験概要 年 月 実証実験の概要 15 年 2 月 15 日、 ○約 100 名(2 日間合計)のモニタに位置情報が取得できる PHS 端末を事 2 月 21 日 前に貸与し、出発地(自宅等)から羽田空港まで携帯の上、移動してもら (2 日間) い、位置情報をリアルタイムに取得するとともに、その位置情報及び時間 に応じた交通情報メールをモニター自身の携帯電話に配信した。 3)担 当 研究調整官 山縣 延文、前研究官 押井 裕也 Ⅳ 印刷物の発行等 国土交通政策研究第 13 号 「 政策効果の分析システムに関する研究」 ( ― 国内航空分野における規制緩和及び航空ネットワーク拡充に関する分析 ―) 2002 年 12 月 要) 国民本位での効率的な質の高い行政の推進、成果重視への転換、国民へのアカンウンタビ リティの遂行等を図っていくためには、行政部門において政策効果の分析を客観的に行うこ とが必要である。そこで本研究では、航空分野のケーススタディを通じ、各種政策を計量的 に評価・分析するためのモデルを構築し、汎用的な政策効果分析システムの確立に向けた一 助とすることを目的としている。 (概 国土交通政策研究第 14 号 「 環境負荷の少ない都市・ 国土構造に関する研究」 ( − 首都圏モデル −) 2002 年 12 月 要) 我が国が環境面で持続可能な発展を図るためには、我が国の人口の 25%以上、GDP の約 30%を占める首都圏の分析が不可欠である。首都圏は我が国の経済社会の発展を牽引する役 割が期待されているが、活力を引き出すための交通基盤整備や都市施策が CO2 排出量の増大 を招く結果となると、我が国として今後果たしていかなければならない地球温暖化防止の観 点からは逆行することとなり、環境面で持続可能な首都再生の実現が困難となる。このよう な観点から、交通・土地利用モデルを用い 2030 年までの首都圏における主要な交通基盤の 整備及び業務核都市の展開が CO2 排出量に及ぼす影響について調査した。 (概 国土交通政策研究第 15 号 「 リアル・ オプション・ アプローチと鉄道分野への適用可能性」 2002 年 12 月 (概 要) 不確実性を考慮した投資評価の手法のひとつとして、リアル・オプション・アプローチと 呼ばれるものがある。本報告書では、このアプローチの概要を紹介し、その上で、鉄道分野 に対してこのアプローチがどのように適用できるか、という問題について、仮想的なシナリ オを作成することで、検討を行った。 国土交通政策研究第 16 号 「 EU における都市政策の方向性とイタリア・ドイツにおける都市政策の展開」 2002 年 12 月 要) 21 世紀にふさわしい都市への再編が我が国の政策上の喫緊の課題となっている。一方、 EU 並びにイタリア及びドイツの二国においては、比較的早い時期から、それぞれの実情に 応じた様々な都市再生施策を行っている。従って、これらの都市が抱える課題とこれに対応 した都市再生施策についての調査を行い、我が国の都市政策立案への示唆を得ることとした。 (概 ― 55 ― 研究所の活動から 国土交通政策研究第 17 号 「 わが国における NPM 型行政改革の取組みと組織内部のマネジメント」 (概 2002 年 12 月 要) 本研究は、New Public Management のポイントである国民本位の行政に不可欠な組織内 部のマネジメントについて、民間部門で得られたマネジメントに係る知見を公共部門でどう 活用するかに注目し、政策の立案とその効果的・効率的な実行という切り口から整理したも のである。 ※ 当研究所ホームページは、以下の URL でご覧いただけます。 URL:http://www.mlit.go.jp/pri/index/index.htm ― 56 ― 本研究資料のうち、署名の入った記事または論文等は、 執筆者個人の見解としてとりまとめたものであります。 本研究資料が皆様の業務の参考となれば幸いです。