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翌日に手付金を支払わせる住宅販売業者

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翌日に手付金を支払わせる住宅販売業者
相談現場に役立つ情報
相談情報部
現地見学の際に契約させ、
翌日に手付金を支払わせる住宅販売業者
見るだけのつもりで建売住宅のモデルハウスに行ったところ、
せ
住宅販売業者(業者)から急かされて十分に考える時間もない
まま契約し、翌日に手付金も支払ってしまった事例を紹介する。
むことにして帰宅した。住宅ローンの提携金融
機関や金利、毎月の支払額などについての説明
はなかった。
インターネットの住宅情報サイトで資料を請
求したところ、業者が自宅に来訪した。販売中
帰宅途中、よく考えずに契約したことを後悔
の建売住宅(以下、本物件)について説明を受
し、解約したいと思うようになった。翌日、業
け、週末に現地を見学した。
者から電話で手付金を入金するよう迫られ、
「い
業者から「交通アクセスがよく、子どもの教
ったん契約を白紙にしたい」と伝えたが、「契
育や医療の利便性が高い」
「早めに申し込まな
約を交わしているし、領収書も作成したので入
ければ他の人に押さえられてしまう」などと言
金してほしい」と言われ、やむなく入金した。
その後、
本物件の周辺環境について調べると、
われるうちに次第に焦ってしまい、とりあえず
申し込み、本物件を押さえた。その際、業者か
治安がよくないことなどが分かった。業者に解
ら「申込書に署名しても本物件は3 ~ 4日間し
約の意思を伝えたが、解約の場合は手付金放棄
か押さえられない。これを過ぎると申し込みは
になると言われた。手付金はもう返してもらえ
無効になる。契約はいつするか」と聞かれた。
ないだろうか。 (40歳代 男性 給与生活者)
平日は契約が困難なことや、業者から「本物件
はお得だ」などと言われたため、その場で契約
に踏み切った。その日に契約する気はなかった
ので印鑑を持っていなかったが、業者が印鑑を
相談を受けた国民生活センター(以下、当セ
購入してきた。重要事項の説明を受け、契約手
ンター)は、相談者から詳細な聴き取りを行っ
続きが終わったときには夜になっていた。業者
た。
から「今日中に手付金100万円を入金できない
相談者は、本物件の見学当日、購入を検討す
か」と言われたが、無理だと答え、翌日振り込
るのに必要な時間をまったく与えられない状態
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相談現場に役立つ情報
で、しかも業者が用意した印鑑を使って本物件
とが必要である」と回答した。
を申し込み、契約に至っていた。このことから、
その後、相談者から業者へ本件の経緯と返金
強引に契約に持ち込まれたものと思われた。ま
を求める文書を送付し、当センターから業者に
た、不動産売買契約書(以下、契約書)には手
その旨を連絡した。業者は、対応を社内で協議
付金の支払時期について「本契約締結時支払」
し回答するとのことだった。
と記載されており、手付金の支払日として契約
後日、業者より「社内協議の結果、手付金全
締結日と同じ日付が明記されていたが、実際の
額を返金する」と回答があった。当センターか
支払日は、その翌日だった。こうした場合には
ら返金に応じた理由を尋ねたところ、
「相談者の
そもそも契約が成立しているといえるのか、疑
申し出と本件担当者の認識について食い違う部
問であった。
分もあるが、お客様の気持ちを重視した」との
そこで、当センターで法律の専門家に確認し
ことだった。
たところ、「売買契約時に手付金を支払うこと
当センターから業者に対し、手付金を契約の
が契約書面上に記載されており、当事者間に合
翌日に支払わせる行為は宅建業法に定める禁止
意がある場合には、手付金を支払った時点で契
行為ととられかねないので、再発防止に努める
約が成立する。手付金を支払っていない場合は、
よう伝え、相談を終了した。
契約の不成立を主張することができる。
しかし、
相談者は、翌日に手付金を支払ってしまったた
め、本物件の契約は成立したと考えられる。業
者から『手付放棄による解除』を主張される可
不動産取引は複雑な過程を経る取引であり、
能性は否定できない」との見解であった。
契約に関する書面も多く交付される。また、高
一方、宅地建物取引業法(以下、宅建業法)
額な取引ということもあり、本来は契約までに
では、手付について「貸付けその他信用の供与」
候補となる土地や建物を十分に比較検討し、熟
をすることにより契約の締結を誘引する行為を
慮したうえで行う取引であると考えられる。
禁止している*。契約書には、手付金の支払日
しかし、本件は、業者のセールストークなど
として契約締結日が記されていたが、実際に手
により、消費者が購入を検討するのに必要な時
付金を支払ったのはその翌日だった。そこで、
間や住宅ローンなどの情報もないまま、強引に
これは契約翌日まで業者が相談者に対して手付
契約させられていた。
金を立て替えていた、と考えることができるの
さらに、手付金の支払日が事実と異なってお
ではないか、その場合、宅建業法で禁止されて
り、宅建業法に違反する取引であった可能性も
いる「信用の供与」に当たるのではないか、と
ある。
住宅という、購入には十分な検討や準備が必
所管官庁に問い合わせた。
要な高額商品を取り扱っていることを踏まえ、
所管官庁は、
「契約時に手付金を支払っても
らうのが契約の原則であるため、業者の行為は
業者には、勧誘や契約の方法を改善することが
好ましくない行為といえる。しかし、宅建業法
望まれる。
で禁止されているのは、信用の供与をするとし
* 宅建業法47条
宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相
手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
<中略>
3 手付けについて貸付けその他信用の供与をすることにより契
約の締結を誘引する行為
て『契約の締結を誘引する行為』であり、本件
がこれに該当するかどうかは、当事者双方から
の聴き取りなどによって状況を明らかにするこ
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