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第 4 章 マーケティング強化と産業クラスター化
第4章 マーケティング強化と産業クラスター化 1.はじめに 「ものづくり」においてマーケティングは必須である。大企業は一般にマーケティング 部門を有しているが、中小企業は必ずしも十分なマーケティング組織を有していない。し たがって、中小企業における「ものづくり」は大企業に比べてハンディがある。このハン ディを克服する方途として、地域における産業のクラスター化がある。ここでは、マーケ ティングと産業クラスターの関係を整理し、十勝における産業クラスター化によるマーケ ティング強化について検討する。 2.マーケティングの概念 P.コトラーによると、「マーケティングとは、交換過程を通して、ニーズ(必要性)と ウォンツ(欲求)を満たすことを意図する人間の活動である」と定義している。ここで、 「ニ ーズとは、人間の生活上必要なある充足状況が奪われている状態」をいい、 「ウォンツとは、 そのニーズを満たす(特定の)ものが欲しいという欲望」である。マーケティングでは、 ニーズは創造できない。ウォンツを創造し、ニーズを充足させる活動である。このニーズ やウォンツを満たすものが製品である。したがって、マーケティングでは、当然のことな がら製品が重要な位置を与えられる。 今日、プロダクト・ライフサイクルは短くなってきているといわれる。多くの新製品が 開発され、その多くはメジャーな商品とはならずにそのライフサイクルを終えている。こ のような状況下、新製品開発を行わない企業は、その企業の収益を生み出している製品の ライフサイクルが終焉するとともに、市場から撤退をすることになる。新製品開発は特別 な場合を除き必ずリスクを伴っており、失敗するとそのコストを支払わなければならない。 したがって、今日の企業は、新製品の開発のリスクをとらずに既存の製品のみに依存して 操業を続けても、ライバル企業との競争による製品のライフサイクルの終焉により市場か ら撤退するか、ライバル企業との競争を優位に進めるために、新製品開発のリスクを取り ながら、果敢に新製品を開発していくのかのいずれの選択をしなければならない状況に置 かれているのである。 製品開発はマーケティング・マネジメントの考え方にしたがって行われる必要がある。 マーケティング・マネジメント・プロセスは、マーケティング機会分析 市場の調査と選定 立案 ⇒ ⇒ マーケティング戦略の立案 ⇒ ⇒ ターゲット マーケティング・プログラムの マーケティング活動の組織化、実行そしてコントロール、からなっている。た だ、新たな製造方法や新たな技術の導入で新製品を開発しても、その新製品が成功する可 47 能性は低い。マーケティングのプログラムを立案するためには、マーケティング・ミック スの考え方が有効である。マーケティング・ミックスは、製品(product)、価格(price)、 販売チャネル(place)、広告・販売促進活動(promotion)の4つの P からなる要素で構成 され、それぞれの要素について、他の要素との関連も考慮して立案していかなければなら ない。 十勝の食品企業はそのほとんどが中小企業である。大企業でマーケティング部門を組織 内に構成していない企業はないと思われるが、中小企業がマーケティング部門を組織化し ているケースはほとんど稀であろう。今日の技術革新や情報化社会においては、企業の業 績を維持する場合においても新製品の開発は重要であり、マーケティング・マネジメント のもとで新製品開発がなされることが望ましい。時代が緩やかに進んでいた時代は、限ら れた地域において、一つの製造技術によって企業を維持することができたが、マーケット の急速なグローバル化や技術革新、消費者の嗜好の変化など、マーケットの変化の早い今 日においては、マーケティング・マネジメントが非常に重要となってきており、このこと は、中小企業においても例外ではなくなってきているのである。ところが、中小企業は、 その企業規模の特性から、マーケティング部門を独自に組織内に持つことは非常に難しい。 このマーケティング機能を中小企業が企業規模を超えてどのように構築するかが、地域の 中小企業にとって非常に重要な課題となっているのである。その課題を解決する一つの展 開方法として次に述べる「産業クラスター」がある。 3.産業クラスター (1)産業クラスターの概念 産業クラスターは、相互に関連し合う一定の産業群において、地理的に近接する企業群、 大学・研究機関、産業支援機関、ネットワーク組織、技術移転機関・産学連携仲介機関、 専門家群といった行動主体が、それぞれの地域が有している魅力を誘因として集まったも のと定義される。キーとなる概念は、産業集積であり、組織間関係であり、イノベーショ ン・システムである。M.E.ポーターは『国の競争優位』において「産業集積」を「産業ク ラスター」と呼んでいるが、彼が唱える産業クラスターの成果の最終目標は、「生産性の向 上」、「新規事業の創出」、「イノベーションの創出」としている。産業がただ集まっている 状態を「産業クラスター」と呼ぶ意味はなく、産業の集積により、集積効果が生まれ、他 地域との競争優位な状態にあるとき、その産業集積を「産業クラスター」と呼ぶべきであ ろう。 産業クラスター形成の効果を整理すると以下のようになる。 ①外部経済効果 z 輸送・通信コストの低減、規模の経済性の実現によるコスト削減効果。 z 社会資本整備の進展 48 ②イノベーションの連鎖 z 企業、大学、研究機関、産業支援機関、地方自治体等が集まり、研究開発、設計・ デザイン、創業、新事業開拓、経営革新等といったイノベーションを実現していく。 z コア分野の連携、非コア分野のアウトソーシング ③地域ブランド化 z 地域の知名度、認知度の向上 z 企業、人材、投資の求心力向上 このような効果によって、その地域に形成された産業クラスターが競争優位のポジション を確立し、地域経済が発展することになる。 産業クラスターの典型的な形成プロセスを示すと以下のようになる。 ①ステップ1 z 地域特性、産業資源の分析 z 技術・事業シーズの抽出 z 市場分析 z 産業クラスターのターゲット、目標の絞込み、目標を達成するための戦略、シナリ オ作成。 ②ステップ2 z 産業クラスター計画を中核的に推進する機関の設立・整備 z 企業、大学、研究機関、産業支援機関、行政機関等から構成される「顔の見えるネ ットワーク」の形成 ③ステップ3 z 産学連携、産産・異業種連携による「新たな融合」を行うことによって、新産業の 創出、ベンチャーの創出、第2創業の実現を生み出す。 z クラスターの外延的拡大 ④ステップ4 z 発展した産業クラスターが集積効果、イノベーション効果、地域ブランド効果を表 すことによって、内発と誘致の両輪で一層集積が進行する。 しかし、産業クラスターを事業によって進める場合は、①、②のステップを事業を推進す ることによって進めることになるが、自然発生的に形成される産業クラスターは、その形 成されるきっかけは多様である。その産業クラスター形成のきっかけを的確につかみ、産 業クラスターを形成することが重要である。その場合、地域において産業クラスター形成 を支援する主体が形成されていることが望ましい。 (2)産業クラスターと競争優位 産業クラスターの競争優位を評価するツールとして、M.E.ポーターはダイヤモンド・モ デルを提示した。ダイヤモンド・モデルは、「要素条件」、 「需要条件」 、「関連産業・支援産 49 業」、「企業戦略・構造・競合関係」の 4 つの要素で定義されている。その要素条件につい て、「食料産業クラスター」を想定した〔6〕に基づいて整理する。 ①要素条件 原料となる農畜水産物、大学や公設試験場などが有している技術シーズ、食品製造業者 が所有している技術・人材、インフラストラクチャーと産業活動を推進する上での環境条 件・地理的条件、食や食習慣に係る風土、歴史、文化など、地域における潜在的なポテン シャル等が、具体的な要素条件と考えられる。 z 原料の利活用と確保 食料産業におけるクラスター形成では、原料は重要な要素条件となる。例えば、カ リフォルニアにおけるワインクラスターでは、ワインの原料であるぶどうの品質や量 的確保は重要な要素条件となっている。 z 技術シーズの利活用 産業クラスターの形成で最も重要な要素がこの技術シーズの利活用であると考えら れる。地域の食品産業を構成する企業は中小・零細企業が多く、技術的優位を持つた めの技術開発は容易ではない。しかし、何らかの取組みによって産業クラスターの形 成の要素として技術シーズの利活用が成立すると、そのクラスターの技術的競争優位 が形成され、その技術的優位のもとクラスターの維持・発展が図られることになる。 z その他の要素条件 地域ブランドのように、地域の風土、歴史、食文化などの有形・無形の地域資源が、 クラスターの要素となる可能性がある。 ②需要条件 当然ではあるが、需要条件が成立しなければ、産業クラスターは形成されない。しかし、 現在、需要が薄い分野においても、ある新商品が開発されることによってその分野の需要 が顕在化する。つまり潜在的需要の存在である。それは技術革新の度合いによっても異な り、革新的な技術であれば需要条件が満たされるわけではなく、革新的技術の普及や一般 化の度合いによって需要の大きさは大きく左右される。アメリカのシリコンバレーは産業 クラスターの事例としてよく取り上げられるが、IT クラスターは、当初から IT 化社会が存 在していたわけではなく、当初の需要条件は希薄であった。コンピュータのソフト需要も、 コンピュータのハード側の技術革新に規定されており、コンピュータの処理能力や性能を 高める部品が高価なときには、高性能のソフトはその性能を発揮できず、需要は非常に限 定的となる。 また、消費者ニーズが多様化し、食の安全・安心や信頼確保、鮮度保持・品質確保、健 康志向・食品機能、素材・ブランド・価値など、多様なニーズを想定することによって、 需要条件を確保する可能性が高まる。 ③関連産業・支援産業 食料産業クラスターを想定すると、フードシステムを構成する主体やそのシステムを支 50 える主体が関連産業や支援産業となりうる。例えば、チーズクラスターを想定するならば、 観光産業やワイン産業などが関連産業や支援産業となる。これら関連産業や支援産業との 連携をクラスター内において効率的かつ効果的に進めることができる体制が整えられてい ることが、産業クラスターを競争優位に導く重要な要素であり、クラスター内のコーディ ネーターの存在は非常に重要であると認識されている。また、会計・法律事務所や金融機 関なども関連産業や支援産業の構成員となる。 ④企業戦略・構造・競合関係 産業クラスター内における競争関係の存在も重要な要素条件となっている。産業クラス ターは、ともすると異業種の連携、産学官の連携、農商工連携という、連携に焦点が当て られる。この連携は産業クラスターにおいて非常に重要な用件であるが、これだけでは産 業クラスターを形成したことにはならない。産業クラスターが競争優位を維持発展させる ためには産業クラスター内に、競争関係にある企業群の存在が必須である。この企業群に よる競争が、新たな技術革新のニーズの源であり、その利活用を生み出す。そしてその技 術水準の高度化がその産業クラスターの競争優位を確保する。したがって、産業クラスタ ーには同じような商品をつくる企業が集積し、コアとなる技術を共有しつつも、利活用の 仕方の違いなどによって絶えず競争条件のもとにあり、企業戦略をもたない企業は、その 競争に対応できず、産業クラスターから退出することになる。 (3)産業クラスターにおける大学、公的研究機関の役割 産業クラスターの要素条件において、技術シーズの利活用は、その産業クラスターが競 争優位を形成する上で非常に重要な条件と考えられる。地域の技術シーズを生み出し、保 有している機関として大学や公的研究機関が想定される。そして、このような技術シーズ の創造・保有にとどまらず、これら研究機関が産業クラスターのコーディネーターの機能 を担っている場合も見受けられる。 海外の産業クラスターにおける大学、公的研究機関の役割をタイプ分けすると、次のよ うな3つに分けられる(〔7〕 )。 ① 大学が中心となって新産業創造に必要な多角的な機能を整備するタイプ。 ② 地域の大学群が自治体と協力して都市型テクノロジー・パークを建設し、大学の知的 リソース(教官や学生)を活用して技術開発から経営者教育、マーケティング・サポ ートを行うことで新しい企業群を生み出しているタイプ。 ③ 大学の生み出した革新的テクノロジーを核として、国際競争力のあるビジネスが多数 展開されるタイプ。 ③のタイプは大学の革新的なテクノロジーに依存して形成される産業クラスターである が、①のタイプは大学が多様な機能を担うタイプ、②のタイプは、産業クラスターの形成 において技術的側面だけではない多様な機能を担うが、自治体等他の組織と連携し、その 役割を果たすタイプである。帯広市と姉妹都市提携を結んでいるアメリカのマディソン市 51 のリサーチ・パークは②のタイプといえる。 オウルの奇跡として有名なフィンランドの IT 産業クラスターを例に挙げるまでもなく、 著名な産業クラスターでは、大学が非常に重要な役割を担っているケースが多くみられる。 アメリカの産業クラスターにおける大学の機能を整理すると、以下のようになる(〔7〕 )。 ①高度な研究 ②優秀な研究者、学生の誘引 ③民間企業への技術の移転 ④企業家の育成・支援 ⑤サイエンス・パーク ⑥新産業創造のインフラの母体 国の違いによって大学や試験研究機関に違いがみられることから、アメリカの大学の機 能を日本の大学に求めることは容易なことではない。しかし、一方で、産業クラスター形 成においては、アメリカの大学が持つ機能を大なり小なり備えることが求められている。 産業クラスターの競争優位の源泉をどこに持つのかによって産業クラスターを構成する主 体の役割は異なってくるが、技術的に優位なポジションを得るためには、地域の中小企業 では困難な技術の研究開発を大学や試験研究機関が推進ないし支援することが重要である ことが、これまでいろいろな地域に形成されてきた産業クラスターを検討してみると明ら かになってくる。わが国の大学は、帯広畜産大学における地域共同研究センターの設置の 例をみるまでもなく、大学のもつ研究能力や技術シーズを地域に還元する対応を推進して きている。しかし、産業クラスターにおいて大学の機能を発揮するという面では、歴史も 浅いことも含めてまだまだ不十分であるといわざるを得ない。今後、さらなる組織的な対 応が期待される。 4.食料産業クラスター (1)「食料産業クラスター」とは わが国では、平成 17 年 3 月に閣議決定された『食料・農業・農村基本計画』において、 「食料産業クラスター」の形成が農業と食品産業との連携の促進の一つに位置づけられた。 農業と食品産業との連携の促進が重要であり、その方途として「食料産業クラスター」の 形成を推進しようというのである。したがって、この「食料産業クラスター」の概念は、 これまでみてきた「産業クラスター」の持つ概念とは少なからず異なっていることに留意 する必要がある。 「食料産業クラスター」形成を推進するために、協議会を各地に設立し、加工適性に優 れた品種や新たな加工技術の開発・導入、地域食材を活用した新商品の開発等の取組みを 推進するとされる。この「食料産業クラスター協議会」の役割は、①クラスター形成のた めの出会いの場を設定する、②物づくりの事業化、地域ブランドの育成とされ、平成 17 年 52 図 1 農業・食品産業・関連産業その他異業種も含めた連携構築のイメージ 出所:社団法人食品需給研究センターのホームページより 53 図 2 食料産業クラスター協議会による新製品開発の状況 出所:社団法人食品需給研究センターのホームページより 54 度より 5 ヵ年で国内に 45 ヶ所の設置を目標としている。この設置目標は、平成 17 年度「食 料自給率向上に向けた行動計画(食料自給率向上協議会)」において掲げられており、「食 料産業クラスター」の形成が、食料自給率向上の方途の一助と捉えられていることがわか る。「食料産業クラスター協議会」には、連携を推進するプランナーとして「コーディネー ター」を配置している。このコーディネーターは、生産者や食品企業を含む異業種の円滑 な連携体制を構築し、促進するための取りまとめ役で、食料産業クラスターの中心的役割 を担っている。平成 20 年 2 月現在で 49 の協議会が設立され、目標は達成されている。 図1には農業・食品産業・関連産業その他異業種も含めた連携構築のイメージを、また、 図2には食料産業クラスター協議会による新製品開発の状況を示した。 (2)「食料産業クラスター」の推進事例 1)北海道 北海道の食料産業クラスターの協議会事業推進体制は図3のとおりである。 研究者・研究機関(大学、公設試験場など) 技術開発 支援 チーフコーディネーター コーディネーター 北海道食料産業クラスター協議会((社)北海道食品産業協議会内) 食料産業クラスター ・推進企画運営委員会 ・コーディネーター 事務局 事業総合検討委員会 地域食品開発専門委員会 技術力強化人材育成専門委員会 各個別開発部会 各個別実施部会 研修会・ セミナー など 商品開発 支援 チーフコーディネーター コーディネーター ≪会員企業≫ (株)グリーンズ北見、(株)日生バイオ、(有)山下館、(有)植物育種研究所、(有)ダオ、日本缶詰(株)、 (有)十勝しんむら牧場、(財)北海道銀行中小企業人材育成基金など 資料)〔6〕より 図3 北海道食料産業クラスター協議会事業推進体制 55 北海道における「食料産業クラスター」の推進事業による成果品の例を表1に示した。 北海道における食料産業クラスターの M.E.ポーターのダイヤモンド・モデルに基づく4条 件の〔6〕による評価は次のとおりである。 ①要素条件 北海道には原料は豊富に有るが、一方で農産物は生鮮品として農協系統による一元集 荷体制が敷かれているため、企業独自による大量のロット確保は難しい。したがって、 農協系統との連携が問題克服の糸口である。また、農畜産物や水産物などの廃棄品など 未利用資源の活用の可能性もかなり高いと考えられる。この未利用資源の利活用につい ては、技術開発等と密接に関連する。 表1 北海道における食料産業クラスター事業による成果品 開発製品 製品の概要 北見産玉葱のエキス搾り汁残渣物 機能性レトルトカレー、オニ を有効利用し、機能性を活かした健 オンスープ、濃縮ソテー 康志向型の食品類。 廃鶏の解体時に9割近く処理する内 廃鶏の内臓を有効利用した 臓類を有効利用し、麹発酵によるア 調味料 ミノ酸調味液を開発。 高機能鶏卵(メシマコブ卵)の開発 特殊鶏卵使用のプリンや と、加工食品としてのプリンやシュー シュークリーム クリームの開発。 廃鶏を有効利用し、鶏冠からヒアル 鶏冠由来のヒアルロン酸製 ロン酸成分を抽出した健康食品の 品 開発。 冷凍フレーバープリン 道産高機能性玉葱使用の 機能性食品 道産亜麻種子油とサプリメ ント 高機能性鶏卵使用の加工 品 道産亜麻の実入りパン コラーゲン入りハーブクッ キー、チョコレート、キャン ディ、アイスクリーム 課題または販売状況 生産ロットがあわないため生 (株)グリーンズ北見 産量とコストが課題。 売り上げが増加している。 (有)中央食鶏 好評販売中。 ヒアルロン酸コラーゲンは OEMで他企業へ納品、一部 はサプリメントへ。 道産の牛乳、卵、砂糖を使用した冷 他企業の後発商品に押され 凍プリンを開発。 販売休止中。 高機能性玉葱「さらさらレッド」を利 用しペースト、パウダー化してクッ キー、ケーキなどの菓子類を開発。 またピクルスやコロッケなども開発。 n-3系脂肪酸などが豊富で生活習 慣病予防に効果的な食用油とサプ リメントの開発。 開発した企業 (株)日生バイオ (有)山下館 ピクルスは加工単価が高く伸 び悩み。健康食品は大手企 (有)植物育種研究所 業との契約が成立しつつあ る。 5人より臨床データを取ったが 思ったほどの効能が得られず 再度試験研究を進める。 亜麻種子油残渣物を餌とした鶏の 高機能性鶏卵を使用。 サプリメントは事業化されれ (株)日生バイオ ば、副産物の残差が発生し、 それを利用したパンが作られ 亜麻種子油残渣物と亜麻種子を練 る。原料確保が課題。 り込んだパンの開発。 鮭皮由来のコラーゲン、ラフィノー デパートやスーパーより引き ス、白樺茶葉、レモンマートルなどを 合いが多く生産が追いつかな (有)ダオ 使用したオリジナルの加工品開発。 い。 十勝産野菜使用のニョッキ 十勝産野菜の利用。 地元スーパーで販売中。 北見産玉葱使用の飲料系 オニオンエキス、オニオン ファイバーとその加工食品 オニオンファイバーは3~4社 へ試食品発送。エキスは販売 (株)グリーンズ北見 中。 設備投資と人員増が必要とさ れることから販路拡大が困 (有)十勝しんむら牧場 難。自社店舗のみの販売。 飲料系「ボイルオニオンエキス」、 「オニオンファイバー(粉末)」による 加工品。 自社開発の乳酸菌と鮭皮由来のコ コラーゲン入りフローンズ ラーゲンを使用した無添加のフロー ヨーグルト ンズヨーグルト。 出所:北海道食料産業クラスター協議会業務報告書より作成。 資料)〔6〕より 56 日本缶詰(株) 技術シーズは、大学の研究施設や、公設の試験場や研究所が数多く存在しており、研 究者や技術者も多数存在している。民間レベルでも、産学連携を通じて開発力や技術力 を蓄積してきた企業や研究開発企業も多くみられる。 ②需要条件 消費者ニーズの多様化、高級化、健康志向への変化を踏まえた対応がみられる。 ③関連産業・支援産業 連携の枠組みが多いことが指摘されている。ただし、支援のミスマッチにより、十分 な支援が受けられずに、製品開発のプロジェクトが頓挫するケースも見られる。情報の 共有化や連携の枠組みの構築により、企業への支援のミスマッチを回避するシステムが 求められている。 ④企業戦略・構造・競合関係 企業の意向として可能な限り地場産を用いるという戦略をもっている。一方、商品開 発は、コア企業のみにとどまり、他の企業との連携や成果の利用がまだ十分ではないこ とが指摘されている。 食料産業クラスター形成の最終的な目標は、産学官の連携によりその地域特有の新たな 製品を開発するだけではなく、他地域と比べて競争優位を形成することである。他地域に 対して競争優位に立つためには、一つは原料の差別化であり、二つ目には加工された商品 の差別化である。もちろん販売レベルでの差別化も重要であるが、差別化の源泉は製品の 差別化である。原料レベルでの差別化は、気候条件等自然条件を変えることは容易ではな いことから、品種改良や栽培技術等の研究開発がその源泉である。また、商品レベルでの 差別化には多くの技術開発等の研究が必要とされる。北海道の例では、道立食品加工セン ターによる植物性乳酸菌「HOKKAIDO 株」を利用した高機能性ヨーグルト風乳製品の開 発が注目される。この植物性乳酸菌は大手飼料メーカーにおいて子牛の代用乳として商品 化もされており、この菌を利用した商品展開が期待されている。クラスターで生まれた技 術的優位性により商品の優位性が生まれ、この技術開発の展開とそこから生み出される競 争優位にある多様な商品展開こそが産業クラスターの望ましい姿であることから、植物性 乳酸菌の更なる展開と更なる商品開発の行方がどうなるのか非常に興味深い。 2)山形県 山形県における食料産業クラスターの取組みを示したものが表2である。 山形県における食料産業クラスターの M.E.ポーターのダイヤモンド・モデルに基づく 4 条件の〔6〕による評価は次のとおりである。 ①要素条件 原料調達では、果樹産地であることから「ラ・フランス」、「さくらんぼ」、「すもも」 など、山形県の特産品の規格外品などの未利用資源の活用によるクラスター形成に特徴 がある。この未利用資源の活用において、日東ベストのパウダー化技術、山形大学教授 57 の機能性に関する研究成果、山形県工業技術センターのラ・フランスの方向保持技術を 利用して「ラ・フランスパウダー」が商品化されている。原料と技術シーズのマッチン グの例である。このパウダー化技術は原料調達の面での課題があるようであるが「さく らんぼパウダー」にも生かされている。また、ラ・フランスパウダーは、県内の菓子の 原料にも使用されており、更なる展開がどのようになるのか注目されるところである。 もし、この商品化が日東ベストだけの展開であれば、産学官連携に留まり、産業クラス ターの目標レベルに至っているとはいえない。 表2 山形県における食料産業クラスターの取組み(平成18年度) クラスター名 コア機関 ラ・フランスパウダークラスター 商 品 ラ・フランスパウダー さくらんぼパウダー 原料確保、コスト面で課題。未完成。 冷凍米沢牛カレー 全国で販売レトルト化を検討。 すももワイン 県内で販売。 すももジャム 山形県、福島県で販売。 すももシャーベット 山形県、福島県で販売。 すももゼリー 開発途中で断念。 秘伝豆炊き込みご飯の素 山形県で販売。廉価版の秘伝豆ごは んの素を全国のスーパーで販売。 月山筍の冷凍焼たけのこ 原料確保で課題。商品化はしたが、 テスト販売のみ。 日東ベスト(株) さくらんぼパウダークラスター 米沢牛カレークラスター すももクラスター 伝統食品クラスター (株)米沢食肉公社 備 考 山形県内の菓子店でラ・フランスパウ ダーを使った菓子が販売されている。 (株)武田庄二商店 (株)ミクロ 無臭大豆のチーズ豆乳クラス (株)セゾンファクトリー ター 無臭大豆のチーズ豆乳デザート 原料確保で課題。開発継続。 自然薯そばクラスター 自然薯蕎麦 鈴木製麺(株) 技術面で課題。開発継続。 資料:ヒアリング調査結果より作成 注:クラスターの名称は、コア企業より頂いた資料のものを優先した。 資料)〔6〕より ②需要条件 高級志向の消費者を想定しているケースや、消費者を限定したケースが多いと指摘さ れている。商品開発において、「どこで、誰に売るのか」が明確ではないことが指摘され ており、マーケティング機能をどこが担い、計画していくのかが課題になっていること がうかがわれる。 ③関連産業・支援産業 やまがた食産業クラスター協議会を中心に食料産業クラスター事業が推進されており、 クラスター協議会の対応の早さや情報提供の的確さが商品開発の成功に大きな役割を果 たしているという評価である。 58 やまがた食産業クラスター協議会は平成 18 年 2 月 8 日に設立され、平成 19 年 6 月時 点では会員数は個人企業、団体含めて 165 社となっている。山形県農林水産部は、この 協議会以前にも、以下の取組みを推進していた。 ¾ 食産業の振興 ¾ 生産の振興 ¾ 農産加工、直売所による経営力強化 ¾ 地産地消の推進 クラスター協議会設置を契機に、クラスター協議会と山形県と連携して、これらの取組 みをさらに推進することが可能となったとされる。やまがた食産業クラスター協議会の 事業推進体制を図4に示した。 総会 (会員数:165社/平成19年6月現在) 会長 監事 企画運営会議 副会長 (構成団体) ○山形県中小企業団体中央会 ○山形県産業技術振興機構 ○山形県農業協同組合連合会山形県庄内本部 ○山形県工業技術センター ○山形県食品産業協議会 ○山形県農林水産部 ○山形県企業振興公社 ○山形県農業担い手支援センター ○全国農業協同組合連合会山形県本部 ○山形県農業総合研究センター ○山形県商工労働観光部 地域における 食ビジネス 推進母体 地域との 連携 コーディネーター等 <事務局体制> 事務局長 事務局次長 山形県食品産業協議会 山形県中小企業団体中央会 山形県農林水産部 農政企画課 生産技術課 農業総合研究センター 山形県商工労働観光部 産業政策課 工業振興課 工業技術センター 観光振興課 資料)〔6〕より 図4 やまがた食産業クラスター協議会の事業推進体制 3)石川県 石川県における食料産業クラスターに関連した商品開発の事例を示したものが表3であ る。 石川県の食料産業クラスター事業の成果を評価すると、①「中島菜クラスター」では、 平成9年に7生産者であったが平成 19 年には 70 生産者にまで増加し、中島菜を使った漬 物や菜飯などといった加工食品の生産が伸びている、②「ライス・コスメティッククラス 59 ター」では、化粧品が 7 年間で 0.45 億円から 2.4 億円に売上を伸ばし、米発酵技術による 化粧品の可能性が拡大している、③「いしるクラスター」では、工業試験場の協力により いしるを大量生産しても安定した品質の魚醤油を供給できることになったことから、いし るの生産が 10 年で 10 倍になっている、など経済的効果が明確に確認できる。 表3 石川県における食品に関連した枠組み(平成19年度) クラスター名 コア機関 商 品 備 考 中島菜クラスター JA能登わかば 中島菜 パウダー化で用途展開。マスコミ活用 ライス・コスメティッククラスター (株)福光屋 化粧品 インターネット販売。海外企業群との技術提携 いしるクラスター ヤマサ商事 魚醤油(イワシ) 全国で販売 ぶどうクラスター (株)ぶどうの木 ぶどうジュース 多店舗展開。海外への進出 菓子クラスター (株)オハラ 菓子類 量販店へ販売 餅クラスター (株)六星 米加工品(餅) 直販店で販売。地元密着型展開 五郎島金時クラスター (有)かわに サツマイモペースト 菓子原料として販売 ライスブラン・クラスター 日本キヌカ(株) 床用ワックス 技術導入で商品化 アカモク・クラスター 石川県漁連 研究中(養殖技術) 原料確保が課題 源助大根クラスター (株)スギヨ 開発中(おでん) 品質安定化が課題 資料:ヒアリング調査結果より作成 注:クラスターの名称は取組みがイメージできるように記載した。 資料)〔6〕より 表4 i-BIRD 入居企業と研究課題 企業名 研究課題 (株)ハチバン 製造ラインの迅速測定法の確立 (株)ポーラスター 冷凍米飯の品質管理 (株)QUEST 加工食品の開発 (株)丸八製茶場 日本茶インストラクター養成 ヤマト醤油味噌(株) 発酵食品に関する検査、分析 佃食品(株) 胡桃の機能性研究、商品開発 (株)ぶった農産 農業経営評価システムの開発 アイル有限責任事業組合 食品の一般分析・菌数検査 (株)みつばちの詩工房 健康食品の機能性解明 (株)芝船小出 CD ラップを利用した菓子商品 資料)〔6〕より 60 また、石川県では、「いしかわ大学連携インキュベーター(i-BIRD)が平成 18 年に設立 されている。i-BIRDはライフケア、医療、環境、食品などの分野で、石川県、野々市町、 金沢大学、北陸先端科学大学院、金沢工業大学、石川県立大学らが一体となって保有する 技術シーズを使い、ベンチャー企業の創出を目的としている。i-BIRDの各部屋は 20~60m 2 程度の広さがあり、企業が行う研究内容に応じて、試作ラボ、ウエットラボ、ドライラボ などのような目的別ブースが用意され、入居した企業は、研究テーマ別に取り組むと同時 に、希望する大学の技術支援を受けることができ、資金面でも自治体(石川県、野々市町) からのサポートを受けることができる。また、基礎技術から応用技術はもちろん、商品化 や販路開拓などのマーケティングの支援も受けることができる仕組みとなっている。 i-BIRDの入居企業とその企業の研究課題を表4に示した。 i-BIRD が成果をあげる上で、大学と企業をコーディネートできる人材の重要性が指摘さ れている。つまり、研究の方向性と、最終成果物のイメージを共有できるようにマネージ メントするコーディネーターが必要であるということである。 4)宮崎県 宮崎県食料産業クラスター協議会は平成 18 年 2 月 27 日に設立された。宮崎県中小企業 団体中央会に設置されている食品産業協議会を母体とし、地域の食品製造業者、食品関連 の協同組合組織、宮崎県経済連、JA 関係機関が会員となり、宮崎県や地域の各自治体が連 表5 宮崎県の食料産業クラスターで開発された商品とその他関連商品 年度 H17 開発製品名 コア企業 日向夏、マンゴー使用のカップ 株式会社響 プリン・ゼリー* 連携相手先 商品の概要 原料調達(道の駅高岡、道の駅南郷、 特産日向夏とマンゴーの規格外 地域シルバー人材センター)、製造開発 品を有効利用し、それぞれカップ (ヤマエ食品工業)、支援指導(宮崎県 型プリンとゼリーを開発。 食料産業クラスター協議会、宮崎県農 政水産部) H17 日向夏加工品群 (ドレッシング、100%ジュース、ピュー レ、麺つゆ・和風だし、焼肉の たれ、こしょう、はちみつ日向 夏ドリンク、ビール) 株式会社響 原料調達(道の駅高岡、道の駅南郷、 地域シルバー人材センター)、製造開発 (ヤマエ食品工業、すき特産、宮崎県農 協果汁)、支援指導(宮崎県食料産業ク ラスター協議会、宮崎県農政水産部) H18 ヘベ酢加工品群** (ドレッシング、100%ジュース、ジャ ム、焼肉のたれ、こしょう等) 株式会社響 原料調達(JA日向)、製造開発(ヤマエ 日向夏加工品群の開発経験をも 食品工業他)、支援指導(宮崎県農政 とに、日向地域の特産である「ヘ 水産部) ベ酢」を原料とした製品群を県の 支援で開発。 H18 ・空飛ぶ新玉ネギこんにゃく* ・玉ネギ酢*、玉ネギスープ* 大山食品株式 会社 原料提供(JA延岡)、支援指導(宮崎県 延岡市特産の空飛ぶ新玉ネギを 食料産業クラスター協議会、宮崎県JA 使用し、玉ネギの葉と玉入りのこ 食品開発研究所、宮崎県農政水産部) んにゃく、玉ネギの酢、玉ネギ スープを開発。 H18 ・干し大根ドレッシング* 道本食品株式 ・サラダ干し大根*、宮崎県産 会社 無添加たくわん*、浅漬けピー マン* 支援指導(宮崎県食料産業クラスター 協議会、宮崎県食品開発センター) 製造協力(ヤマエ食品工業) 特産日向夏を利用し、さまざまな 加工食品を開発、商品ラインナッ プを構築。クラスター事業をきっ かけに、支援費に依存していな い独自の開発を実施。 県産大根を使用し、天日で干し た「干し大根」を数ミリ単位に細 かく刻み、調味したドレッシング を開発。その他 *食料産業クラスター推進事業で開発。**宮崎県の支援で開発 大山食品株式会社では「空飛ぶ新玉ネギこんにゃく」、道本食品株式会社では「干し大根ドレッシング」を中心に取材を行った。 資料)〔6〕より 61 携している。運営は、雲海酒造株式会社の社長が会長となり、宮崎県中小企業団体中央会 商工支援課の主幹が事務局を行い事業を推進している。 宮崎県の要素条件については、農産物の主産地であることから、その特徴を生かしつつ、 中でも未利用資源の有効活用という素材の品質にこだわっている点に特徴がある。一方、 地域にすでに存在する技術シーズの利活用はほとんど行われず、技術シーズの所有者は、 地域でクラスターを展開する企業への技術的なアドバイスに留まっているとのことである。 技術連携によるイノベーションの創出といった観点は、まだまだ希薄であり、現状では先 端的とはいえない加工技術を用いたものづくり、販売促進に力点が置かれている。宮崎県 に既存する素材原料はブランドを持つものが多く、新商品の開発を行う中小食品企業とし ては、イノベーションを選択するよりも、地域の素材がもつブランド力に付加価値を見出 して商品をつくり、販売していく方法を選択していると考えられている。 需要条件は、原料が地域として認知されていることから、素材のブランドが確立してい る点を利用して需要を確保している状況である。連携する産業はフードチェーンの枠内に 留まっている。 5.十勝地域における産業クラスターの形成への展望とマーケティングの強化 (1)十勝の産業クラスターの現状 十勝には現在産業クラスターの研究会が 6 つある。設立年が一番古い研究会が「足寄産 業クラスター」で設立年が平成 10 年である。この他、「大樹産業クラスター研究会」、「清 水産業クラスター研究会」、「帯広産業クラスター研究会」、「音更産業クラスター研究会」、 「鹿追産業クラスター研究会」がある。事務局は、「鹿追産業クラスター」を除いて役場が 担っている。あくまでも研究会という形式で、新製品の開発や地域内の企業の連携構築の ための組織であり、具体的な産業クラスターが形成されているという状況ではないと思わ れる。この他、異業種交流を目的とした「テクノプラザ帯広」、食についての集まりである 「十勝の食を考える会」などがある。 産業クラスターは、これまで整理してきたように、産業集積が成果として現れる。した がって、十勝における産業クラスター形成の試みは、まだ十分な結果を見ているとはいえ ない。つまり、チーズ工房など、一部の業種で集積が目立つようになってきているものの、 他の地域に対して十分な競争優位を形成するメカニズムが集積に働くまでには至っていな いと考えられる。 (2)今後の十勝における産業クラスターの展開 まず、十勝の産業クラスターを形成する意義はどこにあるかを明確にしなければならな い。その意義は、十勝に他地域に対して競争優位な産業クラスターを形成することによっ て、クラスター化によってもたらされる効果を生み出し、クラスターを形成する企業の収 62 益を向上させるとともに、地域経済の活性化を図ることである。 まず、十勝で産業クラスターを形成するには、競争優位に立てる分野の要素条件と需要 条件を整理する必要があろう。具体的には、食品加工の分野で、乳製品、肉加工品、菓子、 豆加工品、馬鈴しょ加工品など、十勝の原料と関連した業種でのクラスター形成が考えら れる。 次に、クラスターにおける競争優位を生み出す重要な要素であるイノベーションの創造 についてである。原料において決定的に優位にある場合は、産業クラスターというよりも 特産地というものであり、さらにイノベーションによって競争優位を生み出し、それを維 持、発展させることができる。十勝においては、このイノベーションを生み出す機関が数 多く存在する。国立大学法人帯広畜産大学、北海道立食品加工技術センター、独立行政法 人北海道農業研究センター、北海道立十勝農業試験場、北海道立新得畜産試験場などであ る。これらの機関がイノベーションを生み出す中心的役割を担う必要がある。これまで、 これら研究機関は、産業クラスターに適応的な組織では必ずしもなかった。それは、応用 を必ずしも前提としない学術的研究とこれら研究成果の応用を図るための研究とのギャッ プが大きく、そのギャップを埋める研究組織体制が整えられていないことによるものであ る。これら研究機関が産業クラスターを生み出す適応的な組織として変化していくならば、 十勝において産業クラスター形成が大きく前進するものと考えられる。文部科学省の「都 市エリア産学官連携促進事業」により、イノベーションを推進し、その技術を活用してい くことなどが具体的な内容となる。 産業クラスター形成のモデル 競争優位を 形成する原料 学による競争優位の 進化 学による競争優位の 進化 地域の関連産業 (高い技術力) 図5 製品化 製品化 製品間、企業間 の競争 産業クラスター形成のモデル 63 競争優位の形成・ 地域ブランド形成 製品化 競争優位を 形成する シーズ・技術 生み出された技術シーズを十勝に存在する企業を中心に積極的に活用する仕組みも重要 となる。絶えず、産業サイドと研究サイドの交流が持たれ、産業サイドで生かされる技術 が生み出され、活用されていかなければならない。技術コーディネーターの役割が重要と なる。また、産業クラスターの中には、技術を理解し活用できる人材育成が必要不可欠で ある。現在、進行中の「十勝アグリバイオ産業創出のための人材育成」(科学技術振興調整 費地域再生人材創出拠点の形成)はその一つであり、事業の終了後も、何らかの形で人材 育成を継続していくことが必要である。 さらに、イノベーションをもとに新たな事業や製品作りを連鎖的に実際に進めるために は資金の調達が問題となる。資金調達には資本による調達と負債による調達がある。資本 による調達は株式の発行による調達を指し、負債による調達は金融機関からの借入れや社 債の発行などがある。十勝に立地する中小企業の資金調達を考える場合、多くは金融機関 からの借入れがその具体的な調達方法となろう。したがって、実際に産業クラスターを形 成、発展させていくためには地域の金融機関の役割が非常に重要となる。競争優位を形成 するための新たな技術の導入、利用に当っては、通常の事業と異なり高いリスクを伴うケ ースも想定される。高いリスクを避けては競争優位に立つことは難しい。しかし、闇雲に 高いリスクが想定される事業に融資をしていくことは金融機関の存続に係わる問題となる。 このことから、産業クラスターの形成においては、新たな事業や製品開発における融資の リスクを低減できる仕組みを内在させておくことが求められているのである。十勝におい ては、北海道経済産業局が、十勝地域における「地域密着型産学官・金融連携」モデルの 確立を促すため、平成 17-18 年の 2 年にわたって、「十勝地域振興計画策定調査」事業を 実施した成果として、「十勝事業化支援評価委員会」が 2007 年にすでに設立されており、 その下地は作られている。この委員会は、新たな事業や製品開発を支援評価することが目 的であるが、その特色として、新規事業等の評価過程でメンバーとして金融機関が参画し、 事業化しようとする、または新製品を企画しているマーケットの情報や技術情報を金融機 関が事前に把握、勉強し、融資に当って必要とされる情報の精度を上げ、リスクを低減す るとともに融資がスピーディに進めることが重要な目的となっている。地元の中小企業の 情報に精通する帯広信用金庫など地域金融機関の役割は非常に重要であることが理解され よう。特に、大企業だけではなく、中小企業をクラスター内に多数形成していくためには、 このような仕組みを機能させていくことが求められているのである。 (3)産業クラスターの展開とマーケティング強化 産業クラスター形成において技術開発、イノベーションが重要であることを述べたが、 この開発された技術はマーケティングの中で製品に生かされていく。産業クラスターを形 成する中小企業にとって、産業クラスターの中で開発された技術を製品化していくための マーケットの支援こそが非常に重要な要素となる。技術開発の時点からすでにマーケティ ングのステージは始まっている。しかし、このマーケティングの支援はそれほど簡単でな 64 い。マーケティング力を持つ企業は、独自のマーケティング戦略の中で技術開発の提言や 導入を図ることができるが、マーケティングの支援を受ける複数の中小企業は相互に競争 関係にあることが多い。したがって、最終的な製品化レベルまでのマーケティングの支援 は、非常にデリケートな問題を含んでいる場合が多い。個別企業の独自性を確保しつつ、 マーケティング支援をする仕組みが産業クラスター内に形成されることが、産業クラスタ ーの活力の維持・拡大に不可欠である。したがって、十勝の産業クラスター形成にあたっ ては、クラスターのマーケティング戦略に基づいた絶えざる技術開発の生成が可能な仕組 み作り、そして具体的に製品化が可能な金融面等での機動的な対応の仕組みづくりこそが 最も重要な課題と言えよう。 参考文献 〔1〕フィリップ コトラー『コトラーマーケティング・マネジメント』、プレジデント社 〔2〕中村剛治郎『基本ケースで学ぶ地域経済学』、有斐閣ブックス(2008) 〔3〕二神恭一・西川太一郎編著『産業クラスターと地域経済』、八千代出版(2005) 〔4〕斉藤修『食料産業クラスターと地域ブランド』農文協、(2007) 〔5〕産業クラスター研究会『産業クラスター研究会報告書』、(2005) 〔6〕社団法人食料需給研究センター『食料産業クラスターの波動 (2008) 〔7〕山崎朗『クラスター戦略』、有斐閣選書(2002) 65 -条件分析偏-』、