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商店街の活性化 ~SC から地元消費者を取り戻すための政策的提言~
商店街の活性化 ~SC から地元消費者を取り戻すための政策的提言~ 総合政策学部 政策科学科 事例研究Ⅱ丹沢ゼミ 03W1106010L 土屋玲子 要約 シャッター街と呼ばれるまで衰退している商店街だが、今後の高齢化社会には必要では ないだろうかという問題意識から,商店街が生き残るための方法を商店街という組織の視 点に立って提案するのが本論文の趣旨である. 事例として長野県佐久市の商店街を取り上げ,理論的枠組みをいくつか用いながら商店 街衰退の一つの要因である SC と比較,分析する.その分析から商店街が SC から消費者を 取り戻すための政策的提言を行なう. キーワード 商店街,SC,クラスター戦略(ダイヤモンドモデル),取引費用 目次 序論 1. 商店街の定義 2. 問題意識 3. 論文の構成 I. 商店街とショッピングセンター 1. 商店街とは 2. 商店街の現状 3. ショッピングセンターとは II. 理論的枠組 1. クラスター戦略 2. 取引費用 3. 外部性 III. 事例~長野県佐久市~ 1. 佐久市の概要 2. 佐久市の商業の変化 (1) 商店街のダイヤモンドモデル (2) SC のダイヤモンドモデル (3) 商店街と SC の比較 (4) 取引費用と外部性を用いた比較 IV. 結論 政策的提言 1. 共同配達 2. 徒弟制度 序論 1. 商店街の定義 この論文では商店街とは自然発生的に商店が集まったものを指し,都市計画などで計画 的に整備されたものを含まない. 2. 問題意識 私が商店街の活性化を研究テーマに選んだのは,実家がある長野県佐久市の商店街が衰 退していると感じたことがきっかけだ.実家に帰るたび,商店街の空き店舗が増え,買い 物客の姿もまばらになっていると感じる.全国的にも「シャッター街」と呼ばれるように商 店街の衰退が問題になっている.生き残るために様々な取り組みをしている商店街も多く あり,いくつかは成功を収めているようだ.佐久市の商店街も例外ではなく,衰退してい る現状をなんとかしようと取り組んでいる.しかし,スーパーマーケットやショッピング センター(以下 SC という),量販店などの大型店に太刀打ちできていないのが現状である. 佐久市の商業は私が暮らしていた 20 年ほどで目まぐるしく変わり,より多くの商品をよ いより品質でより安く手にすることができるようになった.大型店出店のおかげで市民の 生活はより豊かになった.一方,大型店の相次ぐ出店の影響で市内の商店街では空き店舗 が目立つようになった.また,小さな店だけでなく商店街の中にある比較的大きな商業施 設も大型店に顧客を奪われ,撤退を余儀なくされた.今まで商業施設の集客力に頼ってい たところがある商店街からはますます消費者が離れていっている.しかし,このまま商店 街がなくなってしまっていいのだろうか.今後人口の減少,高齢化を迎える日本で,その 傾向が都会より顕著に現れる地方からいつ大型店が撤退してしまうか分からない.もし, 商店街が消え,大型店が撤退してしまったら,住民が買い物をする場がなくなってしまう. 将来,地方住民とって商店街は買い物の場として重要不可欠なものになるのではないだ ろうか.そこで,今後商店街が小売業の競争の中で勝ち残る方法,特に SC に奪われた顧客 獲得のための方法を提案したい. 3. 論文の構成 第一章では商店街と SC の現状を述べ,第二章で事例と政策的提言を根拠付ける理論的枠 組みであるダイヤモンドモデルと取引費用,外部性について説明する.第三章で長野県佐 久市の商店街の事例と SC を理論的枠組みに当てはめ分析する.第四章で,第三章で分析し た結果から商店街が生き残るための政策的提言をおこなう. I. 商店街と SC 1. 商店街とは 商店街はその取り扱っている商品や買い物客によって下記のように近隣型商店街,地域 型商店街,広域型商店街,超広域型商店街の四つに分類される. 近隣型商店街 最寄品中心.地元主婦が日用品を徒歩,自転車などで日常性の買い物をす る. 地域型商店街 最寄品店及び買回り品が混在.近隣型よりもやや広い範囲から徒歩,自転 車,バス等で来街. 広域型商店街 百貨店,量販店等を含む大型店があり,最寄品店よりも買回り品店が多い. 超広域型商店街 百貨店,量販店等を含む大型店があり,有名専門店,高級専門店を中心に 構成され,遠距離から来街者が買い物をする. ∗ 最寄り品:食品や雑貨など,比較的どこでも購入できる商品.価格が安いことが指向される. ∗ 買回り品:いくつかの店舗を訪れて比較して購入するような商品.衣料品や家電製品など. 経済産業省中小企業省「H15 年度商店街実態調査」 小さい店では売り場面積が限られ,品揃えも限定される.そして他店との差別化や個性を 出すができず,自店独自での顧客吸収は困難である.そこで商店街は小さい店が集まるこ とでメリットを享受している.そのメリットはワンストップ・ショッピング機能と品質の 向上である.ワンストップ・ショッピング機能とは一箇所で買い物を済ませることができ ることである.商店街は様々な業種・業態を揃えることで客を集めることができる.また, 消費者は商店街の中の店を比較しながら買い物ができるので,店は品質の向上に努めるよ うになる. 2. 商店街の現状 商店街は現在「シャッター街」と呼ばれるほど衰退している.経済産業省中小企業庁が 平成 15 年度に行なった商店街実態調査によると,空き店舗率は 7.31%(表 1)であり,商店 街が持っていたワンストップ・ショッピング機能が低下していることがわかる.また,繁 栄している商店街が 2.3%,停滞または衰退している商店街は 96.6%であり(表 2),過去 3 年間の来街者数が減っていると感じている店主は 68.7%いる(図 1).また,商店街が抱える 問題として,魅力ある個店が少ないことと経営者の高齢化,後継者難を挙げる者が多かっ た(図 2). 表 1 表 2 繁栄している 空き店舗率(%) H7 年度 H7 年度 6.87 H12 年度 8.53 H12 年 H15 年度 7.31 度 出所:経済産業省中小企業省「H15 年度商 店街実態調査」 H15 年 度 停滞している 衰退している 無回答 2.7 43.6 51.1 2.6 2.2 52.8 38.6 6.3 2.3 53.4 43.2 1.2 出所:経済産業省中小企業省「H15 年度商店街実態調査」 図 1 来街者数 6.1 0% 21.1 20% 68.7 40% 増えて いる 変わらない 減って いる 無回答 4.1 60% 80% 100% 出所:経済産業省中小企業省「H15 年度商店街実態調査」 図 2 商店街が抱えている問題点 大規模店との競合 駐車場の不足 店舗の老朽化,陳腐化 核となる店舗がない 商店街活動への商業者の参加意識が薄い 魅力のある店舗が少ない 経営者の高齢化等による後継者難 0 10 20 30 40 (%) 50 60 70 80 出所:経済産業省中小企業省「H15 年度商店街実態調査」 商店街が衰退したのにはそれを取り巻く環境が変化したことが要因となっている.まず, モータリゼーションによって駐車場を完備した商業集積が消費者にとって便利になった. また,大規模小売店舗立地法(新大店法)が 2000 年に施行され,大型店出店の規制が緩和さ れた.その結果,大手量販店やホームセンターが地方郊外に積極的に出店しだした.更に 消費者ニーズが多様になり,企業は新しい価値を創造,提案する必要が出てきた.この環 境変化の中で,商店街は衰退し,その一方で,郊外型SC(以下SCとする)が大きく成長して きた. 3. SC とは SCとは, 「ディベロッパーと呼ばれる一つの経営体が中心になって計画,開発した建物に キーテナントといわれる大型小売店(通常は大型スーパー,百貨店)とテナントと呼ばれるバ ラエティにとんだ小売専門店,飲食店,サービス業が入り,地域の生活者に多種多様な商 品,サービスを提供する商業施設」 1 で駐車場を備えるものをいう.キーテナントが入って いるSCの代表的なものとして玉川高島屋SC,専門店だけのSCとしてラフォーレやパルコ がある.また,ショッピングセンターの次の条件を備えていなければいけない. • 小売業の店舗面積は,1,500 ㎡以上であること. • キーテナントを除くテナントのうち,小売店舗が 10 店舗以上含まれていること. • キーテナントがある場合,その面積がショッピングセンター面積の 80%程度を超えないこ と.但し,その他テナントのうち小売業の店舗面積が 1,500 ㎡以上である場合には,この 限りではない. • テナント会(商店会)があり,広告宣伝,共同催事等の共同活動を行っていること. 2005 年現在の SC 数は 2,704 店あり,うち 1,377 店が郊外地域に出店している.同年の SC の売上高は 267,298 億円で,小売業総売り上げの 20.6%を占めている.(図 3 参照) 図 3 小売業の売上高とシェア 小売業の売上高とシェア 億円 300,000 25 % 250,000 20 SC総売上高 200,000 15 百貨店総売上高 スーパー総売上高 150,000 SC総売上高 シェア(%) 10 100,000 5 50,000 0 20 05 20 04 20 02 19 99 19 97 19 94 19 91 19 88 19 85 19 82 0 19 79 スーパー総売上高 シェア (%) 百貨店総売上高 シェア(%) 出所:日本ショッピングセンター協会 HP より作成 SC の強みはディベロッパーによる強力なリーダーシップである.明確なコンセプトを持 っているので多くのテナントが集まっていても経営理念が共有できる.また,計画的に業 種・業態が決められているので,その配置は合理的である.これによりワンストップ・シ ョッピンング機能が得られる.SC 内で消費者が留まって買い物ができるので,SC は客単 価のアップが見込める. II. 理論的枠組 この章では事例と政策的提言に用いるクラスター戦略と取引費用,外部性について説明 する. 1. クラスター戦略 クラスターとは「ぶどうの房,似たもの同士」を意味するが,ポーターは「特定分野の競争 における突出した成功が,一つの場所に十分に集積されている状態」 2 と定義し,地理的条件 が競争優位の源泉となると述べている.クラスターでは競争と協力の両方が存在する.ラ イバル同士,顧客獲得,維持しようと競争し,一方で関連支援産業や各種機関を巻き込ん で垂直的な協力関係も見られる.クラスターは生産性の向上やイノベーション,新規事業 の形成に大きな影響を与える.さらにクラスターのおかげで,その地域に属する企業と機 関は実際よりも大きな事業規模,他社との正式な提携をした場合に得られるメリットが得 られる.クラスターを構成する要因は,要素条件,戦略・競争の状況,需要状況,関連・ 支援産業の四つであり,これらをまとめてダイヤモンドと呼ぶ. 戦略・競争状況 要素条件 • 生産要素 • 投資や品質改善 需要状況 促す地域状況 • 地元企業の競争 • 高度で 要求の 高い ↓ 地元顧客 • 生産要素の質 • 地元の需要が突出 • 生産要素の専門化 関連・支援産業 • 有能なサプライヤー • クラスターの存在 出所:『ハーバード・ビジネス』84 ページ 地理的条件に基づく競争優位をダイヤモンドの形でまとめると,上の図のようなダイナ ミックなシステムができあがる.四つある側面のうち一つの部分が生産性に及ぼす効果は, 他の部分の状態に大きく影響する.競争状況が生産性向上を刺激するのは,戦略・競争状 況と需要状況が整っていなければいけない.同様に要素条件が十分であっても,企業が投 資し,サプライヤーによってイノベーションに基づく戦略が支えられなければ,生産性の 向上にはつながらない.どこか一つに深刻な弱点があれば生産性向上には限りができてし まうのである.それぞれの要因について下記で詳しく説明する. 要素条件 競争のための基本的経営資源である生産要素には,土地,労働力,資本,物理インフラ, 商業・経営インフラなどがある.品質の高い経営資源,専門的な経営資源は地理的競争優 位をもたらす.個々の業界のニーズに合ったスキルの集積や規制などがこれにあたる.ま た,用地コストの高さや材料の乏しさといった劣位がイノベーションを生み出し,競争優 位に繋がる場合もある. 「専門性の高い経営資源の蓄積,それを創り出し再生していく機関が存在すれば,体外 的な競争優位となり,またその地域の資産となる.」3 この地域の資産は多くの企業や地方自 治体による投資の積み重ねによって築かれる. 戦略・競争の状況 「規制や社会規範,インセンティブなどの状況が,特定の産業にふさわしい形での持続 的投資を育むようなものであれば,生産性を競ううえで有利に働く.」4 投資環境に影響する ものには,税制やマクロ経済,政治情勢などの他に企業独自のルールも含まれる. 地域でのライバル関係の厳しさもある地域の地理的条件の競争状況に大きく関わる.同 じ地域にいることでインプット・コストや国内市場へのアクセスは対等なので,他の面で 競争することになる.地域にライバルがいることで,互いの業績を比較でき,急速な改善 をする刺激になる.しかし,地域の投資環境が貧弱であれば,対立が値引き合戦となって しまうので,地域に投資を支える環境があることが重要である. 需要状況 需要状況はその地域の市場の性質によるものである.その要因は,「知識があって要求の 高い顧客がいること,あるいは他の市場でも需要のある特殊な製品に対して,通常よりも 強い需要をもつ顧客がいることである.」5 このような顧客は企業に対して高品質の製品を要 求し,変化する顧客ニーズを示してくれる.その結果,企業はイノベーションを維持し, さらに新しい分野へ進出しようという刺激を受けることができる. 「地域の需要がもたらす競争優位を支えているの,遠隔地からは利用しにくい情報やイ ンセンティブである.その地域の顧客なら実態がとらえやすく,コミュニケーションも容 易であり,協力関係を築くチャンスもある.」 6 関連産業・支援産業 有能なサプライヤーや関連産業の存在が地理的条件の競争優位につながる.関連産業・ 支援産業が近くに必要なのは,経営資源ではなく効率や知識を入手するためであり,イノ ベーションが容易になるからである. 近くに有能なサプライヤーがいれば取引コストも減らせ,遠隔地の業者との面倒なやり 取りもなくなる.関連分野に実力がある地域の企業が存在すれば,補完的な機能が得やす く,効率が向上する.サプライヤーや関連産業から得られるメリットは,効率向上という もの以上にイノベーションやダイナミズムという点にある.企業の近隣に関連・支援産業 の企業があれば,情報の流れが速くなるし,共同開発の取り組みの容易になる.アウトソ ーシングもしやすくなり,新製品導入のスピードや柔軟性も増す.また,サプライヤーの 技術的な取り組みがイノベーションを加速させる. 相互に関連する産業からなり,サプライヤーや関連分野の企業がその一部を構成してい るクラスターは,集団としての資産である.クラスターは企業が効率よく知識やスキル, 経営資源を収集しやすい環境を生み出し,イノベーションのスピードが上がる. 2. 取引費用 取引費用とは取引を実行するのに伴う費用であり,交渉や契約の作成と実行にかかる費 用が含まれる.取引費用はアームズ・レングス取引の際に発生する. (1) 完備契約と不完備契約 アームズ・レングス取引は契約法に基づき,契約は取引を当事者の機会主義的行動から守 るものである.しかし,契約がどんな状況でも有効なわけではない.なぜなら実在する契 約はすべて不完備契約だからである.完備契約が起こりうるすべての事象を予測してそれ ぞれの場合の当事者の権利と義務を取り決めているのに対して,不完備契約はそれらを規 定していない. 完備契約を結べない理由は,合理性の限界,行為を特定して測定することの難しさ,情 報の非対称性である. • 合理性の限界(または限定された合理性) 合理性の限界とは,複雑な問題や情報を処理し理解するには人間の能力が限られている ということである. • 行為を特定して測定することの困難さ 契約上の履行が複雑な場合,各当事者の権利と義務をすべて明文化するのは難しく,そ のため契約の文言は曖昧である.契約の解釈が幅広くなり,何を持って契約が履行された か測定するのは難しい. • 情報の非対称性 契約に関わる全当事者がすべての情報に均一にはアクセスできない.一方の当事者が他 方の当事者が知らない情報を持っているとしても,情報を持っている当事者はそれを相手 に正確に伝えるとは限らない. 契約法が整備されていれば,不完備契約のもとで起こりうる機会主義的な行動を抑制で きるかもしれない.しかし,完全にそれを消滅させることはできないので,不完備契約に は必ず取引費用がかかる.関係特殊資産(「特定の取引を行なうために投資した資産」 7 )を伴 う取引は取引費用を増加させる. 3. 外部性 外部性とは,ある経済主体の行動が他の経済主体に影響を及ぼすことをいい,その影響 による効用が減少すれば負の外部効果,効用が増加すれば正の外部効果という.負の外部 効果の場合,発生する社会的費用の合計は行為者の私的費用よりも高く,行為者が得られ る効用が私的費用を上回っていれば,その行為者が行動をやめるインセンティブはない. この例として,公害が挙げられる.環境汚染をしている企業の総費用は生産費用と環境汚 染の費用を足したものであるが,企業は生産費用のみを考え生産するので,その生産は非 効率的なものとなる.企業が手にする追加的な私的利益はそれを上回る公共の犠牲によっ てまかなわれている.それに対して,正の外部効果は社会的な効用が私的な効用以上であ る場合に存在する.例えば,ある研究開発がそれを行なった人や企業以外にも利益を与え る場合である.しかし,これは知的財産権がきちんと保護されていないと,研究へのイン センティブが損なわれてしまう. III. 1. 事例~長野県佐久市~ 佐久市の概要 佐久市は長野県の東に位置する人口約 10 万人に市である.北に浅間山,南に八ヶ岳に囲 まれ,中央には千曲川が流れている.高乾冷涼で日照時間が長い気候を生かした農業,水 産業が盛んで,特産物にはりんご,桃などの果物,鮎や佐久鯉がある.また,電機や機械 といったハイテク産業も盛んで,いくつかの工業団地が作られている.商業では,以前, 市内にある 3 つの商店街が中心であった.しかし,現在では大型量販店や SC が市民の買い 物の場となっていて,全国の商店街と同様に市内の商店街はどこも衰退気味である. 2. 商業の変化 市内には,岩村田,中込,野沢のそれぞれの地域に商店街が存在している.各商店街の 中には以前,商業ビルがあり,最寄品と買回り品が混在する近隣型商店街だった.現在は それら商業ビルが撤退し,最寄品中心の近隣型商店街である.佐久市の商業が大きく変わ ったのは基幹交通網が発達してからである.1995 年に上信越自動車道佐久 IC が開通,1997 年に北陸新幹線が開通,佐久平駅が開業すると,その周辺に大型店が出店,新たな商業集 積が進んだ.今では,市内の小売店舗面積に対する大型店店舗面積は 73.7%を占めている. その結果が商業ビルの売却,商店街の衰退に大きく影響している. 1999 年 4 月 15 日,当時の信州ジャスコがイオン佐久平 SC を開業した.現在はイオン SC 事業部が管理,経営を行なっており,北陸新幹線・JR 小海線佐久平駅前に位置してい る.佐久平 SC は 2000 台の駐車スペース,売り場面積は約 4 万 7 百㎡を持ち,総合スーパ ーのジャスコが核テナントとなり,テナント数は約 70 ある.ジャスコは衣食住に関わる品 物を広く取り揃えていて,PB であるトップバリューも充実している.消費者にいつ来ても 安い価格だと感じてもらえるように「エブリデー・ロープライス」を掲げている.テナン トには全国展開している企業の他,地元の有力企業も入っている.雑貨や洋服,本屋など の他,飲食店,ゲームセンターもあり,買い物をする以外にも消費者を楽しませる要素が 揃っている.ジャスコには総合スーパーとしての集客力が十分あり,さらに多くのテナン トが存在するので,ワンストップ・ショッピング機能がより高められ,より多くの消費者 を取り込んでいる.また,イオンは小売業で蓄積したノウハウ,経験をマーチャンダイジ ング力,マーケティング力 ,市場分析力そして提案力に繋げ SC づくりに活かしている. テナントに対しても営業力や人材育成のサポートをしている. 3. ダイヤモンドモデルを用いた分析 (1) 商店街のダイヤモンドモデル 競争状況 コンビニ・スーパー・SC 要素条件 量販店・商店街 • 労働力(店主,家 族,パート,アル バイト) • 資金(補助金,金 需要状況 地域住民 融機関) • 個店の仕入先 • まちづくり 3 法 市の条例 • インフラ 関連・支援産業 • 特産品(果物,魚など) • 観光 競争状況 市内には昔から 3 つの商店街が存在している.また,新幹線や高速道路の近くに大型店 が集中,新たな集積が誕生し,商業集積同士,店同士の競争が激しくなっている.一方, 岩村田,野沢,中込のそれぞれの商店街は協調関係を築いている.佐久商工会議所が中心 となって,まちづくりに取り組んでいる.空き店舗を利用したチャレンジショップや市民 が参加できる市場,観光地化を目指した取り組みなど,それぞれの商店街で様々な試みが なされている. 需要状況 商店街に買い物に来る客の多くは地域住民で,その交通手段は徒歩か自転車である. 要素条件 要素条件として挙げられるのは,インフラ,労働力,仕入先,規制である.道路の整備 状況は悪くないが,商店街の利用客の多くは徒歩や自転車を利用するのでそれほど大きな 要因にはならない.店の働き手となるのは店主,パート,アルバイトであるが,家族経営 が多く,最も大きな労働力は家族と考えられる.資金として地元の金融機関と行政の補助 金が挙げられる.商工業活性化事業,商店街活性化事業などを対象にした佐久市商工業振 興事業補助金や商店街が駐車場を設ける際にも補助金が出る. まちづくり 3 法と市の規制も要素条件の要因になる.まちづくり 3 法とは都市計画法, 中心市街地活性化法,大規模小売店舗立地法の 3 つの法律の総称である.2005 年 5 月に改 正された都市計画法では床面積 1 万㎡を超える大規模集客施設の郊外への出店を大幅に規 制している.同じく改正された中心市街地活性化法では,都市機能の集約と中心市街地の 再生に意欲的な自治体を支援することにしている.これら法律の目的は大型店の郊外への 出店を規制し,市街地の商店街の衰退を食い止めることである.しかし,これは今後郊外 出店しようとする大型店が対象で,既存の大型店には影響を与えない.また,佐久市でも 出店をする際,建物や看板の高さ,外装の色などに制限を与えている. 関連・支援産業 関連・支援産業には特産・観光業がある.りんご,桃,プルーンなどの果物,酒,鯉が 特産物である.特に鯉は佐久鯉として有名で,鯉の養殖業者や水田で鯉を飼育する農家が いる.また,佐久市は全国の市の中でも男女とも平均寿命が長い市で,それを観光にも活 かしている.市は「健康長寿都市」を宣言し,健康で長生きし(ぴんぴん),楽に大往生(こ ろり)出来たらという「ピンピン,コロリ」をスローガンにしている.野沢商店街ではこの スローガンをヒントに自ら観光名所を作ろうと,2003 年にぴんころ地蔵を建立した.関連 グッズも開発され,酒や箸,座布団など今では約 25 点が販売されている.バスツアーに組 み込まれるなど,ぴんころ地蔵のお参り客は増えている.また,内山峡やコスモス街道, 長野牧場,神社・仏閣,旧中込中学校などの観光名所がある. (2) SC のダイヤモンドモデル 競争状況 コンビニ・スーパー・ 量販店・ドラッグストア 要素条件 • 労働力(正社員, パート,アルバイ 需要状況 ト) • 地域住民 • 資金(金融機関) • 近隣市町村 • 仕入先 民 • まちづくり 3 法 • 市の条例 • インフラ 関連・支援産業 物流 競争状況 SC を取り巻く競争状況も商店街と同様厳しいものである.しかし,SC が競合相手とし てみているのは電機量販店,コンビニ,ドラッグストア,スーパーである.SC は清掃活動 を行ったり,環境教育の場を提供したりするなどして地域社会の一員として取り組もうと いう姿勢がある.地元商店街とも協調関係を築きたいのではないだろうか. 需要状況 佐久市民が市内で買い物をする割合は 1997 年では 86.1%であったが, 2003 年には 93,8% になっている(表 3).さらに,表 4 から市の商圏人口は 2003 年に 25 万人を超え,県内で 4 番目に大きな商圏を築いていることがわかる.市民だけでなく近隣市町村民も市内で買い 物をしている.その顧客のほとんどは自動車に乗り駐車場完備の大型店,SC を訪れる. 表 3 地元滞留率(%) 表 4 商圏人口(人) 2003 2000 1997 2003 2000 1997 伊那市 96.0 96.0 95.1 長野市 686,712 707,777 675,091 長野市 95.9 96.1 94.4 松本市 533,137 543,406 539,032 松本市 93.8 94.5 93.1 上田市 260,491 261,450 282,607 佐久市 93.8 93.8 86.1 佐久市 254,756 246,108 212,259 上田市 93.4 93.3 93.7 諏訪市 211,245 234,510 151,879 長野県庁 HP 統計ページ 長野県庁 HP 統計ページ 要素条件 要素条件は商店街と同じく,労働力,資金,仕入先,規制である.労働力は正社員,パ ート,アルバイトである.地元住民を正社員として必ずしも雇用する必要はなく,パート, アルバイトとして雇える人材は主婦や学生など多くいる.資金は金融機関から得ている. SC は佐久平駅から近く,駐車場もあるため多くの客を集められる.規制に関しては先述し たまちづくり 3 法と市の規制があるが,法の改正は既に出店している大型店に大きな影響 はない. 関連支援産業 上信越道や北陸新幹線が整い中部横断道の整備と相まって佐久は高速交通網が集中する 流通の一大拠点となった.上信越自動車道の開通により,佐久インターチェンジ周辺は, 流通・物流の拠点となる「佐久流通業務団地」の形成が進んでいる.流通団地には流通業 者,仲卸・卸売業者などが入っている.さらに北陸新幹線・中部横断自動車道等の整備に より,佐久は首都圏と近畿圏,日本海と太平洋を結ぶ高速交通網の要衝として大きな発展 が期待されている. (3) 商店街と SC の比較 競争状況 商店街,SC ともに競争が厳しい状況であるが,その競合相手は少し違うように思う.商 業を取り巻く環境が変わり,衰退している商店街は SC を競争相手としてみているが,SC は商店街を含め,地元住民や商店主とうまくやっていきたいと考えていて,コンビニや量 販店を脅威と感じている. 需要状況 商店街の利用客は地元住民である.商圏が人口しているがこれは新幹線や高速道路周辺 の新たな商業集積が登場した影響であり,自動車を利用して市外からくる客の目的は SC や 量販店である.しかし,将来,人口の減少や高齢化の影響により商圏人口は減少するので はないだろうか. 要素条件 佐久市の生産年齢人口は 2004 年時点で約 4 万人 8 で,商店街,SCで必要なパート,アル バイトとして雇う人材は多くいる.また,SCは正社員全員を必ずしも現地で調達する必要 はないので,正社員となる人材を確保するのには困らない.商店街では店主となる人材は 限られていて,今ある商店の後継者や空き店舗のオーナーを探すのは困難である.しかし, 商店街が定期的に開催している市場の出店者にインセンティブを与えることで店主になっ てもらえる可能性がある. また,法律の改正や市の規制は商店街にとって有利に働いているが,既存の SC に不利な 状況をつくるものではない. 関連支援産業 観光や特産物はまちの魅力であり,それを活かし,取り入れているのは商店街である. SC は全国的に展開しているのでその地域の特性を活かすのは難しい.しかし,新幹線や高 速道路による物流の発展は商店街より SC に関わるし,SC により多くの恩恵をもたらして いる. 4. 外部性と取引費用 商店街と SC にはそれぞれ集積のメリット,すなわち外部性が存在する. 商店街と SC がともに持つ外部性には,共同で行なう宣伝・広告と顧客集客力,設備の共 有がある.宣伝・広告を共同でするということは,商店・テナントごとの宣伝広告に関わ る取引費用を減らすことができるということである.また,様々な業種・業態を配置して いるので,一店だけでは得られない顧客集客力を享受している.設備について言えば,商 店街はアーケードや街灯など,SC のテナントは駐車場やトイレ,公共料金などを共有でき るので,一店一店が設備を整えるより取引費用が削減できる.しかし,これらの外部性は SC のほうがより大きいと思われる.なぜなら商店街と SC が同じ費用をかけて呼び込める 客の数は SC のほうが多いからである.また,商店街だけの外部性としては市や県からの補 助金がある.商店街として取り組む事業には多くの場合補助金が出る. IV. 政策的提言 前章の商店街と SC のダイヤモンドモデルの比較によって商店街のもつケイパビィティ と問題点がわかった.この章では商店街の問題点を解決するため,商店街組合という立場 から取引費用を節約する仕組みを政策的提言として示す. (1) 共同配達 商店街は地元住民にターゲットを絞るべきだろう.SC をはじめとする大型店の集積によ って大きな商圏を築いた佐久市だが,商店街を訪れる客は住民である.また,将来の人口 減少,高齢化社会を考えても徒歩で来街する客に目を向けたほうがよい.そこで SC から地 元消費者を呼び戻すための方法として,商店街による共同配達を提案する. 商店街の商店の中には,昔から配達を行なっている酒屋やクリーニング店,飲食店があ る.この昔からのネットワークを利用して共同配達をする.この共同配達によって取引費 用が節約できると考える. 今まで配達を行なってなかった商店が配達をしようとすると,まず配達業者を探す必要 になる.多くの業者と接触し,見積もりを取り,契約をしなければいけない.業者と契約 する際,商店は業者に対して最低取引量・額を保障する必要があるかもしれない.次に顧 客の開拓をしなければいけない.この場合,宣伝・広告をしなければいけないし,住民の もとに何度も足を運び契約をしてもらわないといけない.この様に,配達業者と顧客を探 す過程には多くの取引費用が発生する.さらに商店街という組織から見れば,すべての商 店が配達事業に取り組むとなるとより大きな取引費用が発生することになる.(図 4 参照) しかし,以前から配達を行なっている商店の持っているノウハウとネットワークを使い共 同配達を行なえば,それぞれの商店と商店街全体の取引費用が節約できる.(図 5 参照) 商店街の共同配達の仕組みは次のようなものである.以前から配達を行なっている酒屋, 弁当屋,飲食店などが手数料をもらい他の商店から配達業務を請け負う.これらの商店が 持っている顧客ネットワークを顧客開拓に利用でき,配達をするのと同時に御用聞きの役 目も果たせる.そうすることで商店街の潜在的な顧客を発掘できる.さらに,商店街のす べての商品を扱えるので,顧客に対して営業力を持つことができる.例えば,年末年始に は,おせち料理の材料や酒,お祝い事の席には欠かせない鯉をまとめて売ることができる. 図 4 それぞれの商店が配達事業に取り組んだ場合の取引 配達業者 配達業者 商店 B 商店 A 住民 住民 住民 配達業者 住民 住民 住民 住民 商店 C 住民 住民 住民 商店街 …… 住民 住民 新規顧客 図 5 共同配達した場合の取引 住民 住民 商店 A D 商店 C 住民 住民 既存の 商店 B 顧客ネットワーク 住民 商店 新規顧客 商店街 住民 (2) 徒弟制度 商店街の問題点は空き店舗と人材不足である.空き店舗をなくすためには店主となる人 材を育成・確保することが必要である.そのため,人材不足を解消するための方法を取引 費用の側面から考えたいと思う. 商店のほとんどは家族経営で,親から子へ商売が継がれていくことが多い.このような 世襲制では,継承者がいなければその店を閉めざるを得ない.このことから家族以外でも 跡を継がせることができる制度を商店街で作ればこの問題は解決できると考えた.しかし, 市内に出店したいという人がいたとしても実現させるのは困難である.店を出すには資金 とノウハウが必要である.資金を得るための方法として金融機関からの融資があるが,担 保が必要であり,契約するコストもかかる.また,商売をしていくための経験・ノウハウ を得るためには時間がかかる.この取引費用を減少させるための仕組みとして徒弟制度を 提案する. 徒弟制度とは中世ヨーロッパにおいて,親方・職人・徒弟の階層関係に基づいて技能教 育を行なった制度である.この関係を商店の店主と出店したいという人の間に導入する. この徒弟制度は,一つの商店の後継者ではなく商店街の人材を育てるものである.八百屋 を営みたいと思っている人にはもちろんは八百屋の店主が親方となるが,空き店舗に店を 出したい人にも業種・業態関係なく店主達が親方となって商売のノウハウを教える.例え 業種・業態が違っても商売のプロから指導してもらえることは,独自で学ぶより効率が良 い.各商店街では青空市や朝市を行なっているが,ここに出店している人は将来商店街の 人材となる可能性があり,出店者のスカウトもできる.資金に関しては,商店街組合から 資金を出し合うことも一つの方法だが,行政の力も必要である.今でも様々な補助がある が,商店街の人材育成のために商店街に出店する人に対して優遇政策を作るべきである. そうすることで店を持ちたいと思っている人に対する取引費用が削減され,商店街へ出店 するインセンティブを与えられる. V. 結論 小売業の激しい競争の中でも SC は成功を収めている.その SC との競争を余儀なくされ ている地方の商店街が生き残っていくためには SC と差別化されたビジネスモデルが必要 である.そのビジネスモデルとして,私は,前章で共同配達を提案した.より多くの消費 者を市内外から取り込むのではなく地元住民を消費者と捉え,その消費者に対してサービ スするものである.これにより SC から少しでも消費者を取り戻せるのではないかと考えた. しかし,配達を行なっている商店のノウハウを利用できるとしても,配達業に参入するこ とは新たな相手との競争にもなる.また,SC と商店街には様々な業種・業態を揃えること で存在している外部性があるが,これは空き店舗が存在する商店街より SC のほうが大きい. そこで商店街の空き店舗を減らす方法として徒弟制度を提案したが,これにも慣習や権利 の問題がある.政策的提言として提案したものにも多くの問題があるが,取引費用の側面 から考えると実現可能だと考えた. 競争環境が変化し,それに対応できない企業やビジネスモデルが市場から撤退すること は避けられないことである.現在,郊外への大型店出店は規制されているが,大手小売業 者はその変化に新たな小売形態で対応しようとしている.商店街は規制によって守られる だけでなく,環境変化に伴って自らのビジネスモデルも変化させるべきであろう.今回私 は,商店街という立場から提言を行なったが,商店街だけでなくそれぞれの商店がより魅 力的なものになり,将来多くの地元住民が商店街を訪れることを期待したい. 1 日本ショッピングセンターHP マイケル・E・ポーター著 沢崎冬日訳「クラスターが生むグローバル時代の競争優位」(『ハ ーバード・ビジネス』1999 年 3 月号)29 ページ 3 マイケル・E・ポーター著 沢崎冬日訳「地域の優位性の連携を活かすグローバル戦略」 84 ページ 4 マイケル・E・ポーター著 沢崎冬日訳「地域の優位性の連携を・・・」 84 ページ 5 マイケル・E・ポーター著 沢崎冬日訳「地域の優位性の連携を・・・」 85 ページ 6 マイケル・E・ポーター著 沢崎冬日訳「地域の優位性の連携を・・・」 85 ページ 7 デイビット・ベサンコ デイビット・ドラノブ マーク・シャンリー著 奥村昭博 大林 厚臣訳『戦略の経済学』159 ページ 8 長野県庁HP 統計情報 2 参考 【文献】 アーノルド・ピコー ヘルムート・ディートル エゴン・フランク著 丹沢安治他訳『新 制度派経済学による組織入門~市場・組織・組織間関係へのアプローチ~』白桃書房 1999 年 デイビット・ベサンコ デイビット・ドラノブ 厚臣訳『戦略の経済学』ダイヤモンド社 マーク・シャンリー著 奥村昭博 大林 2002 年 マイケル・E・ポーター著 沢崎冬日訳「クラスターが生むグローバル時代の競争優位」(『ハ ーバード・ビジネス』1999 年 3 月号) ダイヤモンド社 1999 年 マイケル・E・ポーター著 沢崎冬日訳「地域の優位性の連携を活かすグローバル戦略」(『ハ ーバード・ビジネス』1999 年 3 月号) ダイヤモンド社 S.ダウマ 1999 年 H.シェルーダー著 丹沢安治他訳『組織の経済学入門』文眞堂 【web site】 イオン佐久平ショッピングセンターHP http://www.aeon.jp/sc/sakudaira/ 経済産業省中小企業庁「H15 年度商店街実態調査」 http://www.meti.go.jp/press/0005225/0/040520h15syouten.pdf 長野県佐久市観光協会 HP http://www.city.saku.nagano.jp/kankou-k/ 長野県中小企業団体中央会 HP 組合の種類と事業 http://www.alps.or.jp/chuokai/coops/coops02.html 長野県庁 統計情報 http://www3.pref.nagano.jp/ 日本ショッピングセンター協会 佐久市役所 HP http://www.jcsc.or.jp/ http://www.city.saku.nagano.jp/ 信濃毎日新聞 1997 年 6 月 24 日記載記事 http://www.shinmai.co.jp//olympic/199706/97062406.htm 日本ショッピングセンター協会 http://www.jcsc.or.jp/ 1994 年