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第4章「供給と費用」

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第4章「供給と費用」
35
第4章
供給と費用
4.1 企業の供給行動の「合理性」
経済学がとらえる消費者の需要行動と企業の供給行動は本質的なところで似ている。消費者の目的が総効用
の最大化であるのに対し、これに対し企業の目的は利潤の最大化 profit maximization である。消費者は財の
追加単位がもたらす限界効用が価格を上回る限り購入を追加した。企業の場合にもそれとほとんど相似な行動
原則が現れる。消費者と同様、経済学では企業についても合理的行動を想定している1 。
4.2 機会費用—費用とは何か
需要は必ず犠牲を伴っていた (3.2 節参照)。たとえばケーキ屋で買ったケーキを食べておいしさを味わう
ためには、その価格を支払わなければならなかった。一般に価値のあるものを手に入れるために必要となる
犠牲を費用と呼ぶ。たとえば家具メーカーが商品である机 1 脚を生産するには、材料である木材やそれを加
工するための機器と動力や水、塗料、そして何よりも労働、とさまざまな生産要素 factors of production の
投入が必要であり2 、それらを確保するために支払いをせねばならない。これらはすべて費用を構成する。そ
してこの企業が商品である机を市場に供給したとき費用を超える収入が得られるなら、差引プラスの利潤
(利潤 = 収入 − 費用) が得られることになり、企業にとって実際にこの商品を生産することが合理的である。
つまり企業にとって「費用」とは、
「収入」と比較することにより、それが利潤を生み出すかどうか、つまり生
産・販売することが合理的であるかどうかの判断基準を提供する、重要な概念なのである。
もっとも場合によっては価値あるものを手に入れるのにいったい何が犠牲 (費用) になっているのかがあまり
明確に見えないこともある。しかし企業にせよ個人にせよ、価値を実際に手に入れようとするなら、何が費用
であるかを正確に把握した上で、その行動が本当に合理的なのかどうかを判断する必要がある。以下ではその
ような場合にも適用できる費用の考え方を説明する。
企業行動を含めて一般に経済行動は選択行動であると考えることができる3 。選択行動とはいくつかの可能
な選択肢の中からひとつ選ぶことであると同時に、実際に一つの選択肢を選んでしまえばその他の選択肢を選
1
現実の企業が常に利潤最大化を追求し続ける、というわけではない。時には経営者が企業の目的を離れた背任行為をするというこ
ともあり得るし、そうでなくとも利潤の機会をみすみす逃してしまうことはよくあることである。しかし、市場競争は企業に対し
て利潤を追求するように一種の強制力として働く。それは利潤追求を怠れば、競争によって市場から排除されてしまうからである。
その意味で経済学では企業を「理想化」された利潤追求主体として取り扱う。
2 ここで「生産要素」と呼ぶものは、第 1 章の「経済の基本問題」で強調した「限られた資源」の資源 resources と同じものを指す。
3 たとえば企業は、製品のパソコンをどんな機能を持つものにするか、デザインはどうするか、どこの部品を使うか、などといった
選択に迫られるし、またその製品をどれだけ生産すべきか、そのためにはどのような設備を整えるか、どのような原材料を購入し、
どのような労働者をどれだけ雇うか、などあらゆる場面で選択せざるを得ない。
第 4 章 供給と費用
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ぶ機会が失われる、ということでもある。そのような考えに基づき経済学では「費用」の正確な意味を次のよ
うに定義する。さまざまな価値をもつ選択肢の中からひとつを選べば、他の選択肢が持つ価値を手に入れる機
会が失われる。その犠牲となった価値 (とくにそのなかの最大の価値) がその選択の費用である。このような考
え方を強調するとき、費用を機会費用 opportunity cost と呼ぶ。図 4.1 で A、B、C · · · という選択肢のなかか
A を選択
A(の選択) の費用
A の価値
A
B
C
選択集合
図 4.1
ら、A を選択したとする。それにより失われる最大の価値が B であるなら、A を選択することの機会費用は B
の価値である4 。
得られる価値とその機会費用を比較して、得られる価値のほうが大きければその選択は合理的である。これ
が経済学で大変重要なのは、企業や個人が合理的に行動しようとする限り、その経済行動に影響するのは機会
費用の意味での費用であるからである。またこの考え方を強調するのは、この機会費用の概念と常識的な費用
の概念がしばしば異なることがあるからである。
機会費用の考え方はすでに前章で出てきている。ケーキ屋で 400 円のケーキを購入した消費者は、ケーキを
手に入れる代わりに、この 400 円で買える他の財貨サービスを失った。これがケーキ購入の機会費用である。
ケーキを購入するかどうかは一見ケーキというひとつの財だけの問題のように見えるが、財の購入はつねに複
数の財の間の選択の問題であり、背後にいつも機会費用の問題がある5 。例を挙げてみよう。
• 企業が生産能力を拡張するために新しい機械の導入などの設備投資をおこなうとき、そのための資金た
とえば 1,000 万円を何とか調達しなければならない。もしもその資金を銀行から借りたら、その資金は
利子を付けて返さなくてはならない。この場合その利子が資金調達の費用 (「資本コスト」と呼ぶ) であ
る。しかし、企業がその資金を銀行から借りるまでもなく、自分の持っている資金 (自己資金) から出す
としよう。自己資金であれば利子は支払う必要がない、したがって自己資金の場合の資金調達費用はゼ
ロである。これが常識的な費用の考え方の陥る誤りである。これを機会費用の考え方で正しく説明すれ
ば次のようになる。自己資金 1,000 万円はもしも設備投資 (機械の購入) に使わなければ、たとえば銀行
に預金しておくことによって相応の利子を稼げたはずである。設備投資に使うことによってその利子を
稼ぐ機会を失っているのだから、やはり (その失われた) 利子が費用であると考えなくてはならない。
• 机を生産する家具メーカーは、生産のために必要な材料、労働、エネルギーその他さまざまなものに出
費がある。これらを単純に生産に伴う支出という意味でで費用として理解しても間違いではないが、次
4
A の選択により犠牲になるのは B と C であっても、A を選択しないとき B と C を同時に選択できるわけではないのだから、A
の機会費用は B + C ではない。
5 人によっては、明示的に貨幣の支出となる費用 (monetary cost) と貨幣支出という形に直接には現れてこないそれ以外の費用を区別
し、後者を機会費用と呼ぶことがある。しかしここでは、すべての費用を機会費用の概念に統括して議論する。
第 4 章 供給と費用
のように考えれば、機会費用の枠組みで理解できる。たとえば、労働を 1 日雇えばそれに対して賃金を
支払わなければならない。その賃金支払いに使われる資金は、賃金支払いに使わなければ企業にとって
価値ある何か他のものを購入するのに使うことができたという意味で、失われた機会 (機会費用) になっ
ている。そして企業は賃金という費用と労働者の雇用が生み出す企業にとっての価値とを比較して労働
者を雇用するかどうかを決めるのである。
それでは企業にとって賃金を支払って労働を雇ったことの価値とは何だろうか。それはその労働者が
働いて生み出す追加生産物の価値である6 。つまり追加労働の生み出す価値がその機会費用を上回る限
りで労働を雇用するのであり、この上回った部分が利潤となるのである。企業にとっては、1 日の労働
の雇用が生み出す生産物の価値と、その 1 日の賃金支払い額を他に回して得られるものの価値を選ぶ
か、という選択になっている。(図 4.1 の A、B に何が対応するか確認せよ。)
4.3 サンクコスト (埋没費用)—機会費用と歴史的費用の違い
機会費用という考え方に基づいて費用をとらえると、人々や企業の経済行動の首尾一貫した理解が可能にな
る。ただし、場合によってはこの経済学的な機会費用と実際に支出した金額 (会計学的な費用) が一致しない場
合が出てくる。これは入門的な経済学の講義の範囲を超えるかもしれないが、経済学的な考え方を理解するに
は良い問題なので、例に基づいて説明しよう。
たとえばあるソフトウェアハウスが人手に掛ける支出なども含めて 6,000 円掛けて、あるソフトウェア
を仕入れてきたとする。このソフトウェアは 10,000 円で販売する予定だった。つまり単位あたり 4,000 円
(= 10, 000 円 − 6, 000 円) の利益が得られるはずだった。ところが何かの市場の変化があって、突然このソフト
ウェアが市価 5,000 円でしか売れなくなったとしよう。
このソフトウェアハウスは棚に置かれたこのソフトウェアを 5,000 円で販売するだろうか。もしも返品が効
かないとすると、このソフトウェアは販売するしかなく、実際この店は 5,000 円で販売するだろう。見通しを
誤ったとはいえ、いまとなってはこの 5,000 円での販売は合理的であるはずである。なぜなら、販売しないで
収入がゼロであるよりは、5,000 円で販売した方が好ましいからである。
さてこの店の棚におかれたソフトウェアの費用は何だろうか。ここで、もしも仕入れのための支出額 6,000
円を「費用」であると考えてしまうと、販売した場合の収入 5,000 円から費用 6,000 円を差し引いて利益はマ
イナス 1,000 円 (損失) となり、販売するのは合理的ではない、販売すべきではない、ということになろう。
しかしこれを機会費用で考えて見よう。いまこの店の直面する選択肢は次の二つしかない。
1. このソフトを 5,000 円で顧客に売る。
2. 売らずに処分してしまう (収入 = 0 円)。
機会費用の考え方からすれば、費用とは選択されなかった選択肢が持つ価値である。もしもこのソフトを 5,000
円で販売する方を選択するとすれば、失ったもう一つの選択肢は「売らずに処分してしまう」ことであり、そ
の価値はゼロである。したがって機会費用はゼロであるということになる。5,000 円で売れば、収入が 5,000
円であり (機会) 費用がゼロであって、差し引き利益は 5,000 円でプラスであるため、この店は 5,000 円で売る
ことが合理的なのである。
もちろん仕入れの段階から通算すれば、確かに損失 1,000 円を計上する。しかし経済学的に重要なのはいま
この段階で店がどのように選択行動を決定するかである。その意味で店の棚に置かれたソフトウェアの費用は
6
これは正確には「労働の限界生産物」の価値と呼ばれるものである。労働の「限界生産物」については章末の補論を参照せよ。
37
第 4 章 供給と費用
38
ゼロであると考えるのが正しい7 。
仕入れ等に掛けた支払額 6,000 円は、いまの時点から見れば、すでに確定してしまった過去のことであり、
もはや取り戻すことはできない。この意味で支払額 6,000 円はサンクコスト sunk cost (埋没費用) あるいは歴
史的費用 historical cost という。 サンクコストは、今この時点で店がこのソフトウェアを販売するかどうかの
決定にはもはや関わりのない、歴史的過去に属することなのである。
この店は 6,000 円掛けて仕入れたソフトウェアを 5,000 円で販売し、結果的には確かに 1,000 円の損失を計
上する。したがって会計学的な意味で結果としての利益に反映してくるのはサンクコストである。しかし、店
がその時々の段階でどのような方針 (選択行動) をとるのかを考えるときには、機会費用で考えるのが正しい8 。
4.4 企業の供給曲線
次に、一般的な企業の供給行動について考えよう。企業がある財、たとえば木製机を生産するものとしよう。
この机を作るためには、木板その他さまざまな原材料を必要とする。そしてそれらを加工して最終的に机に仕
上げるまでに何段階もの工程があり、それぞれ労働力をはじめ、機械工具、接着剤、塗料、電力、水、そして
工場設備等、さまざまなものの投入が必要である。また机を生産する方法も多様である。たとえば、機械類は
極力避け、簡単な工具を使って可能な限り人力 (労働力) に頼るやり方で生産する方法もあれば、極力機械化を
推し進め可能な限り工程の自動化を実現した方法などさまざまな方法があろう。企業は机の品質も考慮しなが
ら、これらの多くの生産方法の中から、利潤を最大にする方法を判断し選択する。机の企画、品質が決まれば、
費用をもっとも小さくできる生産方法を選択して生産するはずである。
価格
供給量
P
供給曲線
S
0
供給量
図 4.2
いまこの机の市場には多くの企業があり、互いに顧客を求めて競争しているから、この種類の机の価格は市
場で与えられ、この企業 (個別企業) にはその価格を上げたり下げたりする力がないものと想定しよう。これは
この机の市場について「競争市場」を仮定する、という意味である9 。この場合、この企業の机の供給曲線が机
の価格と企業の供給量の関係として、図 4.2 のように通常右上がりの曲線で表される。供給曲線が右上がりで
あるということは、価格が高くなるほど供給量が増加するということを意味している。価格が上昇すれば「利
7
ソフトウェアを仕入れるかどうかを判断している段階では、もちろん 6,000 円が機会費用だった。
「正しい」というのは、企業が「合理的な」決定をするのなら、そのように考えるはずだ、ということである。しかし、現実には企
業はしばしば合理的でない決定もおこなっているだろう。この点については脚注1 を参照のこと。
9 「競争市場」については詳しくは次章を参照のこと。
8
第 4 章 供給と費用
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益が大きくなる」から企業は生産量を増やす、といえば、これは直感的にはわかりやすそうである。しかしこ
れはもう少し精密な議論を必要とする (4.5 節)。
図 4.2 は個別企業の供給曲線であるが、競争市場では同じ種類の机を生産する企業が他にいくつもあるから、
それらの企業も同様の右上がりの供給曲線を持つだろう。(ただし、必ずしも全く同一の供給曲線というわけで
はない。) 市場全体の机の供給量は個々の企業の供給量の合計になるから、個別企業の供給曲線が右上がりの
曲線で表されるなら、市場全体の供給曲線も右上がりの曲線で表されるはずである10 。
4.5 供給曲線と限界費用
■供給曲線は限界費用を表す 図 4.3 の供給曲線がこの机を生産する企業の供給曲線であるとしよう。図で示
されるようにこの企業はこの机の市場価格が 8,000 円の場合は 400 脚供給するし、10,000 円になれば 500 脚供
給する。この図の B あるいは M に位置する 400 脚めの机 1 脚について考えてみよう。この 1 脚の机は、価格
が 8,000 円を下回っている限り生産されない。そして価格が 8,000 円以上になってはじめて生産され供給され
るようになる。8,000 円はこの 1 脚の机が生産されるかされないかの境界になる価格である。ある財が供給さ
れるようになる最低価格を供給価格 supply price と呼ぶが、この 400 脚目の机の供給価格は 8,000 円である。
400 脚目の机 1 脚の生産は価格が 8,000 円になって初めて不利益が出なくなるという意味である。同様に 500
脚めの机の供給価格は 10,000 円である。
企業の目的は利潤の最大化である。したがって、この 400 脚めの机は、この企業の利潤に寄与する限りで生
産されるはずである。
利潤 = 収入 − 費用
という関係から、この 400 脚目の机 1 脚がもたらす利益はそれを市場で販売したときの収入 (つまり価格) と
その 1 脚を生産するために必要になる費用の差額である。したがってその机の生産が損失から利益に転ずる境
界の価格 8,000 円では、この価格と費用が等しかったことを意味することになる。つまりこの 400 脚目の机 1
脚を生産する費用が 8,000 円であった。同じく 500 脚目の机を生産するための費用は 10,000 円であった。
価格 (円)
机の供給
供給曲線 (限界費用曲線)
G
C
F
10000
H
E
8000
B
A
0
M
400
N
500
生産量
図 4.3
10
同様の合成の問題として、消費者個人の需要曲線がどのように市場の需要曲線に合成されるかは図 3.2 で説明した。個別企業の供
給曲線がどのように市場全体の供給曲線に合成されるかは、(あらためて図示はしないが) これと本質的には全く同じと考えてよい。
すなわち、個別企業の供給曲線の供給量を「横に」足していくのである。
第 4 章 供給と費用
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正確に言うと、供給曲線上の各点の高さ、すなわち供給価格は、その点が示す 1 脚の机を追加生産するとき
に要する追加費用を表している。500 脚めの机を示す図の E の高さ 10,000 円は、これまで 499 脚の机を生産
しているが、そこから更に 1 脚机を追加生産するときに要する追加費用を表している。このような 1 単位の追
加生産に要する追加費用を限界費用 marginal cost と呼ぶ。正確に述べると、限界費用とは生産量を追加的に
1 単位増加させるときに要する総費用の増加分をさしている11 12 。
一般に、生産量の増加とともに限界費用は (少なくともある生産量の水準を超えると) 増加する傾向がある。
なぜ限界費用は増加するか。これは基本的には、生産の拡大とともに固定設備 (fixed equipment) 等の (一部の)
固定的生産要素の制約が効いてくるからである13 。たとえば机の生産であれば、一定の工場規模や機械設備の
もとでも、木材などの原材料、労働、電力などの投入を増やせば、生産を増加させることができる。しかし工場
設備の規模を一定にしたままだと、労働などを増やしても、次第に工場は手狭になり、機械の使用も混雑現象
を起こして、生産の効率は低下してくる。それが追加生産にかかる費用を増加させることになるのである。市
場に供給される 500 脚の机の品質は全て同じであっても、生産量が 400 脚のときに比べて生産効率が低下する
のである14 。生産量の増加とともに限界費用が増加するというこの一般的性質を限界費用逓増の法則と呼ぶ15 。
こうして、供給曲線の高さは限界費用を示すものであり、価格線 (10,000 円) と供給曲線の交点 E まで生産・
供給が行われる (500 脚) ということは、その 500 脚という生産量 (の直前) までは価格が限界費用を上回って
利益が生み出され、最後の 500 脚目で価格と限界費用が一致したということを示している。
■限界費用曲線が供給曲線になる 次は、逆に (右上がりの) 限界費用曲線が与えられれば、それが供給曲線に
なることを説明しよう。
この企業の机の生産量とその限界費用の関係をあらためて図にすると、図 4.3 の曲線 AG で表されるものと
しよう。ここでは曲線 AG はいまは、価格に対して供給量を横幅で示した供給曲線としてではなく、各生産単
位を追加生産するのに要する限界費用を高さで表した限界費用曲線として定義されている。そしてこの限界費
用曲線が曲線 AG のように逓増的であるとする。このときこの限界費用曲線 AG が机の供給曲線になることを
説明しよう。
企業の目的は
利潤 = 総収入 − 総費用
(4.1)
の最大化である。ここで机の生産を 1 脚増加させると、企業の総収入も総費用も変化し、その結果利潤も変化
する。そして机の生産を 1 脚増加させたとき、総収入増加は価格に等しく、総費用の増加は限界費用に等しい。
そこで (4.1) 式を机を 1 脚追加生産したときの変化の式に直せば、総利潤の変化 (これを限界利潤と呼ぶ) が次
のように表される。
限界利潤 = 価格 − 限界費用.
11
12
13
14
15
(4.2)
限界費用は総費用の増加分というのが正確な表現であって、たとえば 500 脚の机の 1 脚あたり平均生産費用ではないし、500 脚目
の 1 脚の生産費用でさえない。たとえば、生産量が増加するにつれ、全体の生産効率が低下するのであれば、その全体の生産効率
の低下の費用への影響が 500 脚目の追加 1 脚の限界費用に集中して現れるからである。
限界費用の定義と前章の限界効用の定義の類似性に注意せよ。限界効用と同様に、数学的に表現すれば、限界費用は総費用を生産
量で微分したものに等しい。
後で見るように、固定的生産要素あるいは固定的投入物とは「短期的に」投入量を変化させることがむずかしいような生産要素を
指し、工場や機械などの資本設備や土地などが代表的なものである。
しかし固定的要素を含めてすべての生産要素を比例的に増加させれば、生産量も比例的に増加すると考えるのが自然であろう。こ
れを「規模に関して収穫一定 constant returns to scale」と呼ぶ。だから限界費用逓増の法則が現れるのは、工場設備の規模など、あ
る種の固定的要素は短期的には動かすことができないという条件が生み出すものである。また、一部の固定的要素を一定水準に固
定した短期に現れる限界費用逓増の性質を、生産量の側から見て「収穫逓減 diminishing returns」と呼ぶこともある。
これは前章で述べた消費量の増加とともに限界効用が低下するという限界効用逓減の法則とパラレルな関係にあり、需要の理論で
限界効用逓減の法則が果たす役割と同じ役割を供給の理論で果たすものである。
第 4 章 供給と費用
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価格 > 限界費用 であるときには、1 脚追加生産することによって、プラスの限界利潤 (利潤の追加) が得られ
る。そうであれば企業としてはこの 1 脚を実際に追加生産した方が良い。逆に 価格 < 限界費用 となるときに
は、追加生産は価格以上の支出増加 (限界費用) をもたらすことになり、かえって利潤を減らしてしまう。(限
界利潤がマイナスとなる。) このような追加生産は止めた方がよい。
この机の市場価格が図 4.3 の FH の高さ、すなわち 10,000 円であるとし、机の限界費用が曲線 AG の高さで
表されているとすると、この限界費用曲線の AE までの範囲は価格線 FH よりも下にあるから、この範囲、す
なわち 1 脚目から 500 脚目までは、その机を生産することによって利潤が増加しつづける。500 脚を上回る
EG の机の生産は、その限界費用が価格を上回るため、かえって利潤を減少させていく。
こうして価格が 10,000 円のときには 500 脚目で利潤は最大化し、その結果この企業は実際に 500 脚生産す
るのである。価格が 8,000 円のときには 400 脚の生産が最大利潤をもたらし、400 脚の机の生産がおこなわれ
ることも確認できる。
企業は与えられた市場価格の下で利潤が最大になるような生産量を生産する。上記の議論で明らかなよう
に、利潤を最大にする最適な生産量では、生産する最後の 1 単位 (限界単位) について
価格 = 限界費用
(4.3)
という関係が成り立っている16 。図 4.3 でいえば、価格が水平線 FH で与えられると、それと限界費用曲線 AG
の交点 E に生産量・供給量が決定する、ということであり、限界費用曲線が供給曲線となるということである。
4.6 費用の種類と生産者余剰
机を生産する企業は、価格が 10,000 円である場合 500 脚生産した。このときの売上高 (総収入) は、価格 × 販
売量 = 10, 000 円 × 500 = 5, 000, 000 円 である。図 4.4 ではこれは FONE の面積として表される。他方で、
生産にかかる費用の合計 (総費用) はどのように表されるだろうか。
机の供給
価格 (円)
G
生産者余剰
F
C
E
H
10000
8000
供給曲線
B
可変費用 (限界費用の合計)
A
0
M
400
N
500
生産量
図 4.4
16
消費者の需要の議論における 価格 = 限界効用 という関係との類似に注意せよ。この類似は偶然ではなく、本質的な類似である。
第 4 章 供給と費用
42
一般に生産活動には、原材料・中間財・燃料・電力・労働力などのように、生産量とともに投入量を変化させ
る可変的投入物 variable inputs と、土地・資本設備 (工場・機械類) などのように生産体制を整えるためにまず
必要で、しかも短期的には固定されていて簡単には動かせない固定的投入物 fixed inputs の両方が必要になる。
前節で述べた限界費用は、机の生産を追加するごとに追加される費用に対応していたから、可変的投入物に
かかる費用であることがわかる。この企業は、最初の 1 脚から 500 脚まで机の生産を増加させるごとに、限界
費用曲線 AE の高さに表される追加的費用 (限界費用) がかかった。そうするとこの企業の机 500 脚の生産にか
かる各限界費用の合計は、AONE の面積に等しく、これを可変費用 variable costs と呼ぶ。(つまり限界費用
は総費用の変化分であると同時に、可変費用の変化分でもある。)
しかし机の生産にかかる費用にはそれに加えて固定的投入物にかかる費用がある。この固定的投入物にかか
る費用は、固定費用 fixed costs と呼ばれる。固定費用は (定義上) 短期的には生産量にかかわらず固定してお
り変化しない17 。
そうすると生産にかかる費用の合計 (総費用) は、
総費用 = 可変費用(AONE)+ 固定費用
と表されることになる。(図上に固定費用の大きさはあらわされていない。) そこで企業の総利潤は
利潤 =総収入 (FONE) − 可変費用 (AONE) + 固定費用 = FAE − 固定費用
(4.4)
となる。これが生産者 (企業) の利得 (利潤) であり、生産者余剰 producer’s surplus と呼ぶ 18 。
以上の 1 企業の供給曲線の議論は、全く同様に市場全体の供給曲線についても妥当する。次の図 4.5 は米市
場全体の供給曲線を表わすものとしよう。すなわち、米 1kg が 300 円のときの市場全体での米の供給量は 700
万トン、400 円ならば 1,000 万トン、といった具合である。このとき曲線 AG の各点の高さはその 1kg を生産
する米作農家の限界費用を表している。価格の高さが FH で表される (400 円) とすれば総生産量は E 点に決ま
り、また斜線部分 FAE の面積 (から固定費用を差し引いた大きさ) が生産者余剰で、これは米を生産し市場
に販売する米作農家全体の利益の合計を表している。
ここでも価格機構は優れた機能を発揮している。米作農家には生産効率の高い農家もあれば低い農家もあ
る。供給曲線上 AE のどこかに位置する農家は、400 円/kg 以下の低い (限界) 費用で米作が可能な生産性の高
い効率的な農家であり、供給曲線上 EG に位置する農家は、400 円/kg 以上の (限界) 費用がかかる生産性の低
い非効率的な農家である。自由な市場で米 1kg 当たり 400 円の価格が成立するということは、価格機構が 400
円/kg を境にして効率的な農家と非効率的な農家を選別し、効率的な農家にのみ米作を行わせるという役割を
果たしているのである。
土地や労働は稀少な資源である。たとえば米 1kg を生産するのに 500 円の (限界) 費用がかかる点 I に位置
するような農家であれば、400 円の米の生産のために土地や労働を投入することは非効率であり、(機会費用の
考え方によれば) その土地や労働を、米の生産以外の用途に使うことによって、より高い生産力をあげること
ができることを価格機構は知らせ勧めているのである。実際、機会費用の考え方からすれば、この農家にとっ
ての 500 円の費用とは、その土地や労働を他の用途に向ければ得られたはずの価値なのであるから、そのよ
うな価値を持つ土地や労働を 1kg 400 円の米の生産に投入することは確かに非効率で、自分にとっても社会に
とっても好ましくないのである。
17
たとえば土地にかかる地代、資金調達にかかる利子支払額などを含むが、これらが変化しないというわけではない。ただ、短期的
な生産量の変動に応じて変化することはない、という意味である。
18 固定費用は、その生産規模での生産が続く限りは、生産量の水準に関係なく必要で生産量の決定 (選択) には影響しない。その意味
でサンクコストの性質を持つ。そのため生産者余剰を斜線部分 FAE の面積と同一視して、固定費用の問題を無視することも多い。
第 4 章 供給と費用
43
価格 (1kg 当り)
米の供給曲線
500
G
I
C
F
E
H
400
300
B
A
0
M
700
N
1000
供給量 (万トン)
図 4.5
また逆に点 B に位置するような農家は 1kg あたり 400 円の米を 300 円の (限界) 費用で生産している。この
300 円の費用とは、この農家が 1kg の米の生産に投入した労働や土地などの資源の価値を表しているから、こ
の農家は 300 円の価値の資源を消費することによって 400 円というより大きな価値を生み出していることにな
る。ここでの 300 円とか 400 円の価値とは、第 2 章の議論に基づけば、それが社会の人々 (消費者) の生活を
豊かにするのに貢献する大きさを表しているから、300 円の価値を犠牲にして 400 円の価値を生み出したので
あれば、確かにこの農家は人々の生活を豊かにするのに差引き 100 円分の貢献をしていることになる。つまり
この農家にとっての 1kg 100 円の利益は、この農家の生産活動が社会の人々の豊かな生活を生み出すのに貢献
した度合いを示しているのである19 。
基本的には、これが生産者余剰の、いいかえれば利潤の、社会的意味なのである20 。「企業の社会的責任」と
か「企業の社会的貢献」という言い方で、企業に利潤追求と異なる社会的活動を求める議論に対して、1970 年
に M. Friedman がこれを批判して、“The social responsibility of business is to increase its profits.” といったの
は、このような経済学の基本的な考え方に基づいたものであった。
4.7 供給の価格弾力性と機会費用∗
第 3 章には需要の価格弾力性という概念が出てきた。価格の変化に対して需要の反応がどれほど敏感か、と
いう指標であった。同じように供給曲線に関して供給の価格弾力性 price elasticity of supply が定義される。
すなわち、価格の変化率 (%) に対して供給量の変化率 (%) が大きいとき供給は価格に対して弾力的であるとい
19
正確にいうと、この米の価値 400 円というのは市場価格で評価して、という意味である。ただ実際はこの米を 400 円より高く評価
する消費者が購入しているから、生み出した社会的利益は 100 円よりも大きい、といっても間違っていない。しかし、限界原理に
したがって考えれば、米の市場価格 400 円を超える限界効用を持つ消費者はすでに皆米を購入しているから、ここでこの農家が若
干の米の生産を増減させたとき、影響を受ける消費者は 限界効用 = 価格 の関係を満たす (あるいはその近傍の) 消費者である。し
たがって米 1Kg の社会的価値は市場価格 400 円といった方がよい。
20 誤解を避けるために強調しておくと、これは「基本的に」であって、財の生産や消費の影響が (市場を経由せず) 直接第三者に及ぶ
場合には、話が少し違ってくる。たとえば、もしも企業が利潤を上げながら公害を発生させているとすると、つまり市場取引外で
社会に損害・負担を及ぼしているとすると、生産者余剰 (利潤) よりも社会的な純価値の創造の方が小さくなる。
第 4 章 供給と費用
い、価格の変化率 (%) に対して供給量の変化率 (%) が小さいとき供給は価格に対して非弾力的であるという。
おおざっぱに言えば、供給曲線の傾きが緩やかなとき弾力性は大きく、傾きが急なときには弾力性は小さい
(その逆ではないことに注意せよ)。弾力性の定義は変化率と変化率の比で表すから、その大きさが取引量や価
格の単位の取り方に依存しない、という利点がある21 。
さて 4.3 節の議論によると、小売店にとって既に仕入れてしまった商品は (返品できない限り) その機会費
用をゼロと考えなければならない、ということであった。一般に生産企業も、原材料や中間製品を仕入れ、こ
れをさまざまな設備や労働とともに生産過程に投入して製品を生み出し、商品として販売する。その際原則的
に原材料や中間製品は製品を生産する前に仕入れるから、(返品が効かない限り) これらを生産過程で使用する
段階では、機会費用はゼロであると考えなければならない。その意味は、市場で製品価格が下落して、その価
格が原材料や中間製品の仕入れ価格をカバーできないものになってしまっても、企業はむしろその原材料等を
使って生産をおこなうだろう、ということである22 。いいかえれば、とくに短期においては (ときに「超短期」
という言い方をする) 生産物の価格が下がっても企業の供給量は余り変化しないだろう。すなわち短期におい
ては供給の価格弾力性はきわめて小さい傾向がある。
しかし、やがて企業は新たに原材料等を仕入れることになるから、その段階でも製品価格が低水準で続くな
ら、原材料等の仕入れ価格も低い製品価格に見合ったものでなければ利潤を生み出せない。そこで企業は仕入
れ量と生産量を減らすなどの対応を取ることになる。つまり、超短期から短期へ、短期から中期へと時間が長
くなっていくほど、価格の変化に対して企業の供給行動は弾力的に変化することになる。
4.8 固定費用と「長期」
同じような考察は、固定投入物にも当てはまる。固定投入物は短期的には動かせないから、それにかかる費
用である固定費用も短期的には一定である。(固定費用は動かせないとなると、短期的には事実上サンクコスト
の意味を持ってくる。) しかし固定投入物も長期的には調整可能である。実際、たとえば企業の売り上げが伸
び、長期的に生産能力を拡大することが必要であると経営者が判断すれば、新しい機械を発注するなり、工場
を新たに建設することにより、生産能力を拡大することができる。つまり固定投入物も長期的には変化させる
ことが十分可能なのである。
実は経済学はその点に着目して「長期」と「短期」を区別する。一般に固定投入物の規模を調整するには時
間が掛かるものである。この固定投入物の調整に要する時間 (あるいはそれを超える時間) を経済学では長期
long-run と定義し、それより短い時間を短期と称する。現実の時間の観念からすると、短期や長期は互いに相
対的なものでしかないけれども、経済学では「長期」をこのように概念的に明確にすることによって、議論を
整理するのである23 。
とくに「長期」には企業規模も調整できることを意味するから、長期には企業が廃業 (市場からの退出) した
り逆に新たに企業を設立 (市場への新規参入) したりすることも可能であり、したがって産業規模も調整可能と
なる。(個別企業の調整より産業規模の調整に時間は掛かるだろうが。)
経済社会が利用可能な資源 (生産要素) の量に限りがある、というのが経済問題の出発点であるが、この限ら
れた資源を効率的に利用するためには、需要の変化や生産技術の変化などのさまざまな条件の変化に応じて、
21
ここで供給の価格弾力性を定義すると、価格の 1% の変化に対して供給量が ε% 変化する場合、供給の価格弾力性は ε である。
dS /S
PdS
と表わされる。
=
dP/P
S dP
しばらく我慢すればまた市場で製品価格が回復するだろうという予想が立つなら、そして原材料等の (ある程度長期の) 保管が効く
数学的に表記すれば、dx を x の (微小な) 変化分を表す記号とすれば、供給の価格弾力性は ε =
22
23
というなら、価格回復後の生産のためにとっておくこともできる。現実の企業の反応はかなり複雑だといわなければならない。
上で述べた「超短期」は「短期」よりもさらに短い時間をさす。
44
第 4 章 供給と費用
それぞれの産業に配分される資源の量も変化することが出来なければならない。企業規模や産業規模の調整が
出来ないのであれば、効率的な資源配分を継続的に実現することは難しい。しかし上のように「長期」を考え
れば、そのような産業規模の調整を通じて資源配分の継続的調整が可能になるのである24 。
別の言い方をすれば、これは限られた資源としての資本 (生産能力) が産業から産業へと移動することができ
るということであり、それによって需要の変化に対応して、経済全体の中でそれぞれの産業規模が「長期」的
に調整されていくことになる。この問題は次章で「完全競争」を議論する際にあらためて取り上げる。
4.9 自由な市場と創造的破壊
これまで述べたように、自由な市場の価格機構は生産者の中から相対的に効率的な生産者を供給者として選
び出し、限られた資源を有効に利用するのに重要な役割を果たしている。しかし、自由な価格メカニズムは長
い目で見ると、また別のさらに重要な役割を果たしてきた。すなわち自由な市場取引のもとで、はじめて新し
い生産物、新しい市場の創出が恒常化され、ダイナミックな経済発展がもたらされたのである。
自由市場経済で企業の基本的な目的は利潤を獲得することである。利潤を追い求めるということは、まだ刈
り取られていない新たな利潤機会を発見し、また生み出そうという努力を必然的にともなう。競争相手の生産
者の知らない、新しいより効率的な生産技術の開発、競争相手の商品より一層魅力的な商品の開発、あるいは
競争上の優位性を生み出す新しい流通経路の開発、そういったさまざまな新機軸あるいは革新 innovation が実
現されることによって、新たに利潤が生み出されていく。
この点を強調したのは J. Shumpeter である。資本主義市場経済のもとでは、生産者は利潤を得るために常に
革新を追い求め、その (成功した) 革新を生み出した企業家には (ときには大きな) 創業者利潤がもたらされる。
同時にその革新は既存の生産方法や商品を打ち負かし、既存の生産者を縮小や撤退に追い込んでいく。他方で
その革新がもたらした利潤を見て、その革新の模倣者、追随者が現れ、その革新が広く市場全体に普及し、標
準となるに及んで、最初の企業家の創業者利潤は失われていく。しかしそのうちにまた新たな企業家の革新が
現れ、同じプロセスを繰り返すことになる。こうして次々と生まれる革新は、常に既存の経済システム・生産
システムを打ち崩しながら、新たなより効率的なシステムを生み出していく。これを Shumpeter は創造的破壊
creative destruction と呼び、これが資本主義経済のもとでの経済発展の推進力であると考えたのである。
この議論は前節までの議論と共通性はあるが、さらにダイナミックな視点を導入したものである点に注意す
べきである。前節までの議論では競争市場が、互いに競争する企業の中から、生産費の低い効率的な生産者を
選び出すことを強調した。しかし創造的破壊は、競争がその市場にそれまで存在しなかった新しい技術や新し
い販売経路などを生み出し、多かれ少なかれ既存の生産者のかなりの部分に打撃を与えつつ、長期的な経済発
展を生み出して行くことを述べたものである。
競争相手より少しでも優位に立とうという各企業の努力は、またたとえば自らの商品を少しでも洗練させ、
他の商品との差異を強調することによって製品差別化 product differentiation という現象ももたらした。今
日乗用車は極めて多くの車種が生産され、その結果多様なデザイン、多様な付加機能、多様な価格のもとで
多様な好みをもつ消費者に売られている。このような製品差別化は必ずしも生産費用を低下させるような技
術革新ではないことも多いし、余り実質的な意味のない差別化であることもしばしばである。しかしこれも
Shumpeter の言う革新の一部であり、多様な選択を可能にすることによって人々の生活を豊かにするのに貢献
している。(それが無駄だと考えるならば、逆にたとえばすべての衣服が同一の柄・デザインであった場合を想
24
企業の固定投入物の中心となる資本 (固定的資本設備) は使用するにつれ消耗し減価するが、その更新のために蓄積する資金 (減価
償却引当金) を、更新よりも新しい分野へ投下する資金として利用することによって、資本は既存の分野から新規産業分野に移動す
ることが出来る。(もちろん純然たる新規投資をして新規産業分野に進出することも多い。)
45
第 4 章 供給と費用
像してみよ。)
結局自由な市場競争のもとでの生産者の利潤追求が、常に新しい生産方法や新しい多様な商品を生み出し、
全体として経済を発展させる原動力となっているのである。この経済発展はダイナミックな運動であり、創造
的破壊という言葉が明らかに示すように、既存の経済秩序を打ち崩し、既得権益を打ち壊していくことによっ
てはじめて実現するものなのである。既存の経済秩序、既得権益自体を擁護することによって創造的破壊を阻
止することは、経済発展そのものを阻止することになる。
創造的破壊は、市場参加者とくに供給者が常に思わぬ条件の変化によって打撃を被る可能性があることを意
味する。この「思わぬ条件の変化」は必ずしも市場の競争相手から来るものとは限らない。これは需要者 (消
費者) の嗜好の変化からくるものかもしれないし、自然の変化 (天候不順など) がもたらすものかもしれない。
もうひとつ重要なのは政府の政策がもたらす経済環境の変化である。
経済社会にとって基本的に望ましいのは、できる限り多くの供給者および潜在的供給者に革新の機会が広く
提供され、その可能性が実現していくことであろう。それがより速やかな経済発展を実現し、さらに効率的な
資源配分を実現する道であるとすれば、さまざまな経済条件の変化あるいは変化の可能性を最大限 (既存のお
よび潜在的) 供給者に知らしめる工夫が必要になる。あるいは (既存のおよび潜在的) 供給者が努力をすれば、
そのような条件の変化や利潤機会の発生を知りうるような環境の整備が重要になる。
このような観点からとくに重要な問題が、政府の政策に関しての情報の開示であり、政府自体の透明性
transparency である。政策に関する情報の不透明性はそれを知りうるものに特権的地位を与え、(努力に依ら
ない) 不当な利益をもたらしてしまう。これは経済発展につながる工夫努力とは無関係に、情報を入手できる
特権的位置に報酬を与えることを意味しており、それによって経済発展につながる工夫努力へのインセンティ
ブを損なってしまう。
4.10 応用事例
■電話の規制緩和 我が国の電気通信産業は、1985 年 3 月までは国内電気通信サービスを電電公社 (現 NTT)
が、国際通信サービスを国際電電 (KDD) が独占的に供給するよう法律によって定められていた。しかし、85
年 4 月から電電公社の民営化とこの分野の新規参入を認める規制緩和が導入された。
この結果電話のサービスも大きく変わってきたことは周知の事実である。新たな業者が NTT よりもはるか
に安い料金で市場に参入し、NTT もそれに対抗するという形で料金を引き下げ、たとえば 1 年も経たないう
ちに東京大阪間の平日昼間の通話料金は 30% もやすくなった。またそれまで受話器は電電公社の所有にあり、
それが利用者に貸与される形であったのが、自由に販売できるようになって、無粋な黒電話のかわりに多様な
デザインの受話器が溢れるようになり、しかも全体として小型になった。この通信端末機器の販売自由化によ
り、さらにファクスなど多様な機器が販売され、競争を通じて安価になってきた。またその自由化の影響とし
て、最近年の携帯電話の爆発的な普及とそのサービスの多様化を挙げることができる。
この通信事業の自由化がもたらしたものは、価格の低下およびサービスの多様化と改善であり、市場競争が
産業の効率化と創造的破壊を通じた革新の創出を実現することの、良い例であると言える。
■スーダンの奴隷制度と「奴隷買戻し」運動 ある本の伝えるところによると、スーダンでは現在でも奴隷売
買がおこなわれているという25 。奴隷制度はスーダンで何世紀も続いた悪習だったが、イギリスの植民地支配
のもとで第 1 次大戦中に禁止され途絶えていた。このスーダンは 1956 年にイギリスから独立したが、内戦
25
Roger LeRoy Miller, Daniel K. Benjamin, and Douglass C. North, The Economics of Public Issues, 13th ed., Addison Wesley, 2002 よ
り。
46
第 4 章 供給と費用
をへて 1989 年にイスラム勢力 National Islamic Front (NIF) が政治的実権を握るとともにこの奴隷制度が復活
した。NIF は南部キリスト教部族の反乱を押さえつけるために、北部イスラム教部族 Baggara 族を武装させ、
Baggara 族はキリスト教部族の Dinka 族などを襲って捕まえ、その人々を奴隷商人を通じて奴隷として北部に
売りさばくという旧習を復活したのである。NIF を中核とする政府はこれに援助さえした。スーダン政府はこ
の事実を公には否定したが、やがていろいろな経路を通じてこの事実が世界にもれ始めた。
これに対してアメリカなどの先進国で気の毒な奴隷達を救い出そうという人道主義的運動が起こった。キリ
スト教会や学校を中心に、これらの人々は広く募金し、集めた資金でこの奴隷達を買い戻し、彼らに自由を与
えようとしたのである。このような運動は 1995 年ごろからかなりの規模でおこなわれたという。スーダンは
世界の最貧国のひとつであるから、当初売買される奴隷の価格も一人 15 ドルほどと安かった。そこで先進国
で集めた資金はかなりの規模の奴隷買い戻し資金となった。この「奴隷買戻し」運動による奴隷需要増大の結
果、奴隷価格は一人 50 ドルから 100 ドルに値上がりしたが、それでもこの運動はその豊富な資金で多くの奴
隷を一度に買い戻すことができた。
その結果、何が起こっただろうか。
「奴隷買戻し」運動の買い付けによって奴隷価格が急騰したため、スーダ
ン北部の奴隷所有者はまずは奴隷の購入を一部あきらめて減らさざるをえなくなり、さらには手持ちの奴隷の
売り戻しもおこなったという (どうしてか)。これはまさに「奴隷買戻し」運動のめざしたことでもあった。
しかし事はそれで終わらなかった。いままで Baggara 族の襲撃者達は襲って捕まえた Dinka 族の人々を 15
ドル程度で奴隷商人に売っていたのに、50 ドルから 100 ドルという高値で大量に奴隷を買い取ってくれる「奴
隷買戻し」運動というお得意さんが現れたのである。それ以来、襲撃者達はいっそう大きなグループをなして、
「奴隷買戻し」運動に売却するだけのために、襲
さらに熱心に Dinka 族の人々を襲うようになった。つまり、
われ奴隷にされる人々が増えてしまったのである。
この話は経済学的に容易に説明できる。
「奴隷買戻し」運動がもたらした奴隷の市場価格の上昇に対応し、右
上がりの供給曲線に沿って、奴隷の供給の増加が生じたのである。本章の供給の理論によれば、供給はその限
界費用が商品の価格に等しくなるまで行われる。価格が上がればより多くの限界費用を掛けても見合うように
なるために、供給は増加するのである。これは何も企業の「生産活動」だけの話ではない。奴隷襲撃は経済活
動ではないように見えるが、それを実行するには、武器の調達に費用がかかり、現地まで移動し奴隷を北部に
輸送するためにも費用がかかり、何よりも場合によっては反撃されて負傷したり命を落とすかもしれない危険
という「費用」がかかる。(費用は何も金銭的費用に限られない。機会費用の考え方を思い起こせ。) 奴隷襲撃
に伴う費用が奴隷襲撃の規模を制限していたのに、奴隷価格が上昇して負担可能な「費用」が増大したため、
奴隷襲撃の規模も拡大したのである。奴隷の襲撃という (人道にもとる) 行動も、経済的インセンティブに強く
支配されている。ここでも人々の善意とその結果はひどい対照をなしている。またこの話は、どのようなこと
でも自由な市場に任せてしまえばよい、というわけではないことも暗示している。
復習のための問題
1. 「機会費用」とは何か。
2. サンクコストとは何か。
3. 供給曲線とは何か。また供給曲線と関連させて供給価格について説明せよ。
4. 「限界費用」とは何か。「生産量を 1 単位追加した場合、その追加した 1 単位にかかる費用を限界費用
という。」この文章の誤りを指摘せよ。
5. 限界費用逓増の法則とはどのような主張か。またそれがなぜ成り立つといえるのだろうか。
6. 企業が利潤を最大化するとき、価格 = 限界費用 という関係が成り立つ理由を説明せよ。
47
第 4 章 供給と費用
7. 固定費用、可変費用とは何か。可変費用と限界費用の関係を説明せよ。
8. 生産者余剰とは何か。それは図の上ではどのように示されるか。
9. 「創造的破壊」という考え方を説明せよ。
10. 「製品差別化」とはどのような現象か。これが経済の基本問題を解決する上で、いいかえれば資源の効
率的配分を実現する上で、どのような役割を果たしているだろうか。
応用問題
1. 学生諸君が大学に入学することの機会費用は何だろうか。それは学費だけだろうか。
2. 「栄のような繁華街では地代や家賃が非常に高いから、何か商売をしようにもそれを上回るだけの売り
上げが見込めなくてはならず、事業の成功はむずかしい。その点からすると元々栄のような繁華街に土
地を持っている人は幸運だ。地代や家賃を払わなくてもよいだけその地域での事業をするための費用が
少なくてすむから。」この主張をコメントせよ。
3. 私は 1 年前に一株 5,000 円である企業の株を 100 株買った。ところが今やそれは値下がりして、一株
3,000 円になってしまった。今この株を売ってしまうと一株あたり 2,000 円の大きな損失が実現 realize
してしまう。そこで、私はこの株が 5,000 円に戻すまでは持っていようと考えた。この考え方は合理的
か。(1 年前に 5,000 円で株を買ったということが、この株について現時点でどのような方針 (売却する/
保有を続ける) をとるかの決定にとって意味があるか。)
4. スーパーなどでは、しばしば閉店間際に「出血大サービス」(仕入れ原価を割る安値で売る) と称して魚
などを安売りする。これはスーパーにとって合理的な販売といえるだろうか。
「機会費用」の考え方を
使って説明せよ。
5. 栄など大都市の都心は車の交通が多く、ガソリンスタンドにとって好条件の立地であるように見えるの
に、ガソリンスタンドはそれほど多くない。これはなぜだろうか。土地の利用の仕方の問題として機会
費用の考え方を使って説明せよ。
6. ある商品について通常の右上がりの供給曲線を持つ一企業を考えよう。この企業の商品の市場価格が上
昇すれば企業の利潤は必ず増大する。これを論証せよ。
7. 「企業の社会的責任」「企業の社会的貢献」という考え方について諸君の意見を述べよ。
補論: 生産要素に対する需要
ここで要素あるいは生産要素 factors of production と呼ぶのは、これまで資源 resources と呼んできたもの
と基本的に同じであり、具体的には企業が生産のために投入する労働や資本、土地やさらには原材料、エネル
ギーなど種々の投入物 inputs を指す。4.4 節で述べたように、企業がある財を生産するやり方は一般に数多く
ある。しかし基本的に企業はその中から利潤を最大にするような生産方法を選ぼうとする。それでは、企業が
そのように生産量を決定する背後で、個々の生産要素 (労働、資本設備、原材料、エネルギーなど) の投入量
(需要量) を企業はどのように決定するのだろうか。ここではこの問題を考えてみよう。
第 2 章では財に対する需要を「消費者の需要」として分析し、消費者は 限界効用 = 価格 が成立するような
水準に財の需要量を決定した。消費者は限られた予算を、ケーキやお米や衣類や交通費などさまざまな財貨
サービスに支出し、それらの支出の組み合わせが全体で総効用を最大にするようにした結果、各財について 限
界効用 = 価格 という関係が成立したのである。いまこれを、消費者は予算を使ってさまざまな財貨サービス
(投入物) を購入し、その組み合わせによって「総効用を生産」するが、その生産量 (総効用) を最大にするよう
48
第 4 章 供給と費用
49
に各財貨サービスの需要量 (投入量) を決定する、と考えてみよう。そのように考えてみると、消費者の行動が
企業の行動と原則的に極めてよく似ていることが推測される。違いは消費者は「総効用」を最大にしようとす
るのに対し、企業は「利潤」を最大にしようとするだけである26 。これを念頭に置いて企業が投入物 inputs を
需要するとき、その需要量をどのように決めるかを分析してみよう。
より具体的に、ここでは労働を例にとって考えてみよう。企業はたとえば机を生産する上で、労働をどれだ
け雇用しようとするだろうか。実際は労働といってもそれは多種多様であるが、ここでは問題を簡単にするた
めに、労働は均質的であり、労働市場で均一的な賃金率 (単位労働時間あたりの賃金) が決まっているものとし
よう。(この意味は労働市場も競争的であると前提するのである。) そうすると問題は、労働市場で与えられる
賃金率に対して、この企業はどれだけの労働者を需要 (雇用) するだろうか、ということになる。
この問題をこれまでとは少し異なる観点から分析してみよう。先に論じたように、利潤を最大にする机の生
産量が決まったとすると、それに伴ってさまざまな生産要素—労働、機械、工場、原材料、エネルギー等—の
最適な組合せ (その生産量を最小の費用で実現する投入量の組合せ) も決まっているはずである。そこでいま労
働以外のすべての生産要素の量はそれぞれの最適な量に固定するとしよう。そのうえで、労働の投入量だけそ
の最適な雇用量の前後で動かしてみることを考える。そのとき最適な労働雇用量が「最適」であるためにはど
のような条件を満たしていなければならないだろうか。
先に見たように、企業の利潤は 利潤 = 総収入 − 総費用 である。この関係から (4.2) 式では机を 1 脚追加生
産したときの利潤の変化を、つまり生産量 1 単位の変化に対する利潤の変化を表現していた。しかしより一般
的には「何かの変化」に対して、利潤、総収入、総費用は
利潤の増加 = 総収入の増加 − 総費用の増加
という関係を保ちながら変化するはずである。(減少の場合はマイナスの増加と考える。) そしてこの「何かの
変化」に対して、
「労働の投入量の増加」を当てはめてみよう。
すなわち、その他の生産要素の投入量を一定にした上で、労働だけを増加させてみるのである。いま話を単
純化するためにその他の生産要素を機械設備などの「資本」と考えれば、資本を一定に維持した上で、労働だ
け投入量を 1 単位分 (たとえば 1 労働時間) だけ増加させてやるのである。そうすると、生産方法はこれまでと
少し異なる (少し労働集約的な) 方法になるだろうが、少なくとも労働の投入を増やしたのに対応して、生産物
(机) の生産量も何ほどか増加するはずである。この労働の投入量を 1 単位増加させたときの生産量の増加分を
労働の限界生産物 marginal product of labor と呼ぶ27 。
このとき利潤はどう変化するだろうか。生産量はいま述べた「労働の限界生産物」だけ増加するから、総収
入の増加はそれに価格をかけた金額、すなわち労働の限界生産物価値 marginal product value of labor であ
る。これは労働の追加が生み出した生産増加額 (総収入の増加分) である。他方で投入物は労働だけ 1 単位増加
させているから、総費用の増加は労働 1 単位に対する賃金支払い額、つまり賃金率に等しい。これは労働の追
加がもたらす費用の増加分である。(その他の生産要素の投入は変化させていないから、費用の増加はこの労働
費用の増加のみである。)
そこで労働の投入量を 1 単位増加させたときの利潤の変化は次のようになる28 。
利潤の増加 = 労働の限界生産物価値 − 賃金率.
26
(4.5)
その他の違いとしては、消費者には予算という制約があるが、企業にはそのような制約はないと考えて分析をする点がある。しか
しいまはそれについては気にしなくても良い。
27 「労働の限界生産力」とも呼ぶ。
28 この式が (4.2) 式と異なるのは、(4.2) 式が生産物 1 単位の増加が引き起こす変化に関する式であるのに対し、こちらは投入物のう
ち労働 (のみ) の 1 単位追加投入が引き起こす変化についての式であることである。
第 4 章 供給と費用
50
したがって労働の追加投入により 労働の限界生産物価値 > 賃金率 の時には利潤は増加し、労働の限界生産物
価値 < 賃金率 の時には逆に利潤は減少する。
さてそれでは労働の追加投入により、労働の限界生産物はどのように変化するだろうか。労働を増加させる
あいだ、資本は一定に保っているから、労働 1 単位あたりに組み合わせる資本の量は次第に減少することにな
る。労働者一人あたりの資本設備の装備が次第に貧しくなっていけば、労働者一人あたりの生産効率も次第に
低下していくだろう。全体で見れば資本が一定で労働が増えるのだから、生産量が増えていくことは間違いな
いが、労働の生産効率が次第に低下するために、生産物の増加量、すなわち労働の限界生産物は次第に減少し
ていく。これは労働に限らず、ひとつの生産要素の投入量だけを増加させていくと必ず現れる現象で、限界生
産力逓減の法則と呼ばれる。さて生産物の価格は市場で決められるからさしあたり一定である。そこで労働の
投入量の増加とともに、労働の限界生産物価値は低下していく、という結論が得られる。
労働の限界生産物価値 = 価格 × 労働の限界生産物
MPVL (Marginal Product Value of Labor)
賃金率
W
0
利潤増加
L
利潤減少
労働投入量
図 4.6
この関係を表したのが、図 4.6 である。労働の追加投入とともに労働の限界生産物価値は低下していく。図
の右下がりの曲線の高さで示されいるのがこの労働の限界生産物価値で、これは上に述べたように、労働の限
界生産物 (力) 逓減を反映している。この労働の限界生産物価値は企業の収入の増加分を表しているから、労働
増加がもたらす企業の限界収入 marginal revenue と呼んでも良い29 。
他方で企業が労働を追加雇用すれば、それに対応して賃金の支払いが生じる。それが図の水平線で描かれた
賃金率 (労働 1 単位あたりの賃金)W である。
労働雇用量が L より小さい間は、労働の追加投入がもたらす収入増加が費用の増加を上回っている。この
とき (4.5) 式から明らかなように、労働の追加投入は利潤の増加をもたらすことになる。したがってこの範囲
では企業は労働雇用を増加させ続ける。しかし雇用量が L を超えると、収入の増加は費用の増加を下回るこ
とになり、労働雇用量を増やすほど利潤が減少していくことになる。結局、企業の利潤を最大にする労働雇用
量は図の L で与えられ、いいかえれば L が (賃金率が W のときの) この企業の最適労働雇用量であり労働需
要 demand for labor である。つまり企業の労働需要量は 労働の限界生産物価値 = 賃金率 となる水準に決ま
る。これは、消費者の需要がその財の 限界効用 = 価格 となるところに決められたのと本質的に同じメカニズ
ムである。したがって、図の労働の限界生産物価値 (MPVL) 曲線が、企業の労働需要 demand for labor 曲線
になる。
29
ただし普通は限界収入という言葉は、生産量 1 単位追加した場合の収入増加を指すから、ここでの使い方とは少し異なる。
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