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外国語(英語)教員研修実態調査に基づく LSP 教員養成・研修システム

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外国語(英語)教員研修実態調査に基づく LSP 教員養成・研修システム
外国語(英語)教員研修実態調査に基づく
LSP 教員養成・研修システム開発
Development of the LSP teacher education system based on a Survey
on the Foreign Languages (English) Teacher Education in Japan
平成 17 ∼ 19 年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究 (C))研究(課題番号 17520395)
研究成果報告書
Report of Current Research Supported by Grant-in-Aid for Scientific Research in 2005-2007 (No. 17520395)
研究代表者 笹島茂(埼玉医科大学)
平成 20 年(2008 年) 3 月
はしがき
本研究は、本研究代表者である笹島茂がこれまでにかかわった二つの文部科学省科学研究費補助
金研究を基盤としている。
・平成 12 ∼ 15 年度文部科学省科学研究費補助金研究(基盤研究 (B))
『現職英語教員の教育研修
の実態と将来像に関する総合的研究』(研究代表者石田雅近)
・平成 13 ∼ 14 年度文部科学省科学研究費補助金研究(基盤研究 (C))
『大学等の専門英語教育の
実態調査を背景とした実践的 ESP 指導法の開発』
(研究代表者笹島茂)
この二つの研究は、一方が中学校と高等学校の英語教員を扱い、もう一方が大学における分野に
特化した英語 (ESP) 指導法を扱った。その研究過程で日本の英語教員の養成や研修システムの課
題がある程度見えてきた。本研究はその一つの側面であり、かつ、異なる視点からの外国語教員
の養成・研修システムの提案を試みるものである。
本研究の表題で使った「LSP」は、Languages for Specific Purposes(特定あるいは明確な目的
のための英語)の頭字語である。LSP は「ある特定の専門分野や仕事にかかわるディスコース
コミュニティの言語使用の特徴やニーズに焦点をあてた言語」で、主に成人や目標言語の基礎的
な能力を有している学習者を対象とした言語教育と考えられている。本研究は、そのような考え
方を基盤として、英語教育だけではなく広く外国語教育という視点から、その教員養成・研修の
あり方、特に、システムの開発を目標とした。理由は、日本における外国語教員の養成・研修が
中等教育に特化して実施され、外国語教育あるいは言語教育という視点が明確に打ち出されてこ
なかった経緯があげられる。つまり、日本では外国語教員の専門性という概念が明確に確立され
ていないのではないか。たとえば、「私は英語の先生です」はあいまいである。中学校や高等学
校の教員免許、あるいは、TESOL などの資格が考えられるが、実際は、
「英語ができる」とい
う観点、英語能力テスト(英検、TOEFL、TOEIC など)の成績、学位、留学経験などで判断さ
れる傾向があり、「教えること (teaching)」に対する基準が明確ではない。
本研究は、このような現状を調査し、ニーズを把握することにより、LSP 教員の養成・研修シ
ステムの開発を試みた。しかし、調査した期間も規模も限定されており、更なる調査が必要であ
る。本報告書は一つのステップにしか過ぎないが、今後このような視点から議論が高まることを
期待するものである。特に、第3章で提案している LSP 教員養成研修スタンダード、LSP 教員
養成研修カリキュラムの提言はプロトタイプであり、検証すべき課題も多い。多くの批判や助言
が当然必要であろう。関心を持っていただければ幸いと考えている。
本研究の実施にあたっては、ヨーロッパ、アジア、日本における英語教員研修指導者から多くの
助言をいただいた。また、英国と日本の中等教育における外国語教員の方々から多大なる協力を
していただいた。すべての方々に感謝の意を表したい。
平成 20 年 (2008 年 ) 3 月
研究代表者 笹島茂
i
研究組織
研究代表者 笹島茂(埼玉医科大学)
研究分担者 寺内一(高千穂大学)
研究協力者 Richard Johnstone (the University of Striling, Scotland)
交付決定額(配分額)(金額単位:千円)
直接経費
平成 17 年度 120 万円
平成 18 年度 110 万円
平成 19 年度 90 万円 間接経費 平成 19 年度 27 万円
総計 347 万円
ii
研究発表
(1)
学会誌等
笹島茂 2006 「Collaborative EFL Teacher Education in East Asia」
『大塚フォーラム』. 第
24号 . 大塚英語教育研究会 . リーベル出版 .44-51.
笹島茂 2007 「Language teacher cognition に注目̶外国語(英語)教員研修における教師認
知研究の動向とその意義 『英語教育』8 月号、第 56 巻 第 5 号 . 大修館書店 . 65-67.
(2)
口頭発表等
笹島茂 2007「 LSP 教員研修に関する意識」第 46 回大学英語教育学会全国大会
笹島茂 2007 「日本とスコットランドの外国語教員の養成と研修」日本教育学会第 66 回大会
SASAJIMA, Shigeru. 2007. EFL Teachers’ Awareness of ESP in Teacher Education in
Japan. 41st International Annual IATEFL Conference and Exhibition Aberdeen Exhibition and
Conference Centre, Aberdeen, UK 18-22 April 2007
笹島茂 , 寺内一 2006「英国 (UK) の外国語教員研修に見られる LSP と CLIL の要素」 第 45 回大
学英語教育学会全国大会
iii
目 次
はしがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ i
研究組織・研究経費・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ii
研究発表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・iii
本研究の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・vii
1章 外国語(英語)教員研修実態調査に基づく LSP 教員養成・研修システム開発: 研究計画と基礎調査 笹島 茂・寺内一・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2章 英国(スコットランドとイングランド)の外国語教員と日本の英語教員の教員養成や 研修に対する意識
笹島 茂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
3章 LSP 教員養成・研修システムの開発に向けて
笹島 茂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
4章 LSP 教員養成・研修システム試案
笹島 茂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
5章 LSP 教員養成・研修システムの周辺
笹島 茂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
5.1. 香港英語教員の養成と研修
5.2. オーストラリア(ビクトリア州)の外国語教員の養成と研修
5.3. フィンランドの外国語教員養成と研修
5.4. IATEFL 大会報告
5.5. リチャード・ジョンストン名誉教授講演資料
5.5.1. ‘An early start: costs and benefits of teaching additional languages on a large scale in preprimary and primary school education’
5.5.2. ‘Policy developments affecting languages in Scotland, the United Kingdom and Europe’
5.6. 15th European Symposium on Language for Special Purposes 報告
寺内 一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100
6章 EFL Teachers’ Awareness of ESP in Teacher Education in Japan
SASAJIMA, Shigeru・・・・・・・・・・・・・・・ 101
v
本研究の概要
本研究は、欧米等ではほぼ定着している LSP (Languages for Specific Purposes)(明確あるいは
特定目的のための言語)教育の理念と方法 (Howard & Brown, 1997; Dudley-Evans & St. John,
1998 など ) をわが国の外国語(主に英語)教員養成と研修に導入するための先進的なシステム
を構築しようと意図するものである。
主に次の4つの観点にもとづく質的研究の実施
1)英国(イングランドとスコットランド)の教員研修に関する実態調査等を、文献、インタ
ビュー、観察等の質的調査を通じて実施し、その特徴を明らかにしようと意図した。
2)アンケート調査による外国語教員の意識調査を英国と日本で行い、日本の中等教育の英語教
員の養成や研修に対する意識の特徴を明らかにしようと意図した。
3)それと同時に 各地で工夫されている教員研修の実態調査を、文献、インタビュー、授業観察
等により明らかにしようと意図した。
4)さらに、アンケート等の調査結果をもとに、LSP 及び CLIL に注目し、その実態とニーズに
関して質的調査を進めた。
アンケート調査によって明らかになった日本の中学校英語教員の意識
• 実用的な英語力指導の重要性を認識
• 「外国語の知識と技能」と「授業の知識と技能」の両方が必要
• 教育全般の活動を重視
• 現職研修に至る過程や内容に関しての要望
• ESP、仕事などに関連した指導よりも基礎基本の重視
• CLIL に対する低い関心
• 研修内容に LSP (ESP) 導入の意欲
• 中等教育の教育者としての強い意識
• 外国語教員の専門性は「外国語の知識と技能」と「授業の知識と技能」から構成
• 外国語指導に関連する研修機会の増加
• 約半数が他教科の教員との違いを意識
• 様々な学習者や分野に対応した外国語教員養成と研修の必要性に共通理解
調査に基づく LSP 教員養成・研修システム試案の提言
• LSP 教員養成・研修システムの理念:
LSP (Languages for Specific Purposes) 教員とは、学習者の求める外国語ニーズを基盤として、
学習者のために明確な目標を設定して、学習計画を作成し、学習の場面、活動、教材などを選択
し、学習の機会を与え、支援し、診断し、評価できる教員である。主に、専門分野や仕事に特化
vii
した外国語指導に携わるが、必ずしも高等教育や成人教育に限ることなく、場合によっては初等
中等教育においても対応できる資質を要する。たとえば、スポーツや芸術活動などに必要な言語
能力、数学や理科等の教科内容の理解に必要な言語能力、海外生活に必要な言語能力など。LSP
教員の養成と研修は、上記の LSP 教員を育成し、その専門性を高めるために実施されるプログ
ラムである。
• LSP 教員養成・研修システムの目標
LSP 教員の養成と研修の目標は、中学校や高等学校の英語教員養成や研修の現行システムにか
かわる人的資源と施設・設備を利用して、知識と技能を共有し、様々な分野や仕事に必要な外国
語指導者を育成し支援することにある。
• LSP 教員養成・研修システムのスタンダード
上記の理念と目標のもとに、LSP 教員としてのスタンダードを下記のように設定する。ここで
言うスタンダードとは、「養成や研修で修得する専門的知識や技能の基準のことで、養成や研修
の各段階や場面において、LSP 教員として資質を身につけているかの目安」とする。
スタンダード 1:外国語の知識と技能
スタンダード 2:外国語授業運営の知識と技能
スタンダード 3:学習者の外国語学習目標の明確化
スタンダード 4:学習者の外国語学習ニーズに沿ったカリキュラム設計と評価
スタンダード 5:学習者の学習履歴の把握と学習方法の支援
スタンダード 6:学習段階、科目内容、分野、仕事などのディスコースコミュニティの理解
スタンダード 7:教育目標、学校文化の理解と外国語教育の専門性
スタンダード 8:外国語使用のジャンル(場面や社会文化など)に対する理解
スタンダード 9:初等教育から高等教育まで系統的外国語教育理解
スタンダード 10:評価測定方法に関する知識と技能
この LSP 教員養成・研修システムのスタンダードを目安として、それぞれに具体的な知識と技
能に関する内容や活動を含んだモジュールを設定し、
スタンダードを満たしているかを評価する。
さらに、総合的な資質の向上を目指した学習指導実習(従来の教育実習と異なり、授業指導の知
識や技能に焦点をあてた内容)を設けた。
今後の研究
本研究が提案した LSP 教員養成・研修のモデルは、現行の日本の中等教員養成と研修のシステ
ムを基盤とする。ここで提案したシステムが機能するかどうかは今後の検証にかかっている。本
研究の提案するモデルの推進に向けてさらに検証と改善を実施する予定である。
viii
1 章
外国語(英語)教員研修実態調査に基づく LSP 教員養成・研修シス
テム開発:研究計画と基礎調査
笹島 茂
寺内 一
1.1.
研究の背景
日本における英語教員システムの原型は明治時代にはほぼ完成した。それも中等教育の教員養成
の中で確立したと言える。つまり、今日の英文学と英語学という学問分野の発展に寄り添うよう
に英語教員の養成が進められてきたと言っても過言ではない
(高梨・大村 , 1975; 伊村 , 2003 など)。
明治期に発展した欧米の知識と技能の吸収という観点からの英語への注目は、江戸末期に始まり
今日までその影響を残している。明治後半に急速に進んだ英語教育の大衆化にともない、岡倉由
三郎が定義した「英語教育」(1911) という用語によって、岡倉自身が必ずしもそう望んだわけで
はないが、英語教育の主たる目標は実用よりも教養を重んじる傾向に向かった。さらに、英語教
育の拡大とともに英語教員養成においても実態として「変則」指導法(外国人講師などによる英
語で指導する「正則」の授業に対して使われ、今日の文法訳読方式に通ずる購読形式の授業形態
のこと)が主流とならざるを得なかった。しかし、いわゆる「正則」は、パーマーに受け継がれ、
福原麟太郎などとの実用と教養の議論と重なり、今日のコミュニケーション重視の英語教育に至
るまで、底流においては共通した課題を抱え、脈々と今日までつながりを持って生きている。
このような英語教育をめぐる教員養成や研修の基本的な図式は、
戦後英語教育がさらに大衆化し、
合衆国の影響を大きく受けるようになっても、
その後、
学校教育の「荒れ」と言われる時代になっ
ても、根本的にあまり変わっていないのである。つまり、英語教員の養成課程においては、教職
科目(教育学や教育心理学など)と英語の教科科目(英語学や英文学など)を履修することが中
心となり、「英語を実際に教える」ことに関連する教科教育や教育実習はその間にある中途半端
な存在となった。教育学、教育心理、教育課程、教育法規などの科目から構成される教職科目は、
教育学などを専門とする教師集団が指導に携わり、
英語学、
英文学、
異文化理解、
コミュニケーショ
ンなど英語にかかわる教科科目は、英語を専門とする教師集団が携わってきた。この狭間で、授
業で英語をどのように指導するかに関連する英語科教科教育が指導されてきた。これは英語教育
を専門とする教師が担当することになるが、この科目にかかわる指導者の専門性には問題がある
ことが指摘されている(浅羽・広野・豊田 , 2000)
。さらに、教育実習は、教職科目であり、教
職の実際を総合的に実習することが本来の趣旨であるが、英語教科指導力の養成が当然大きな目
的となり、学校現場の指導は教科が中心となっている。つまり、評価の観点はあいまいなままで
あり、教職科目と教科科目の関連性は弱いと言わざるをえない。この点は重要な問題であるにも
かかわらず、あまり議論されないまま今日に至っている。学校の教師を育成するという教師教育
と、英語教員を育成するという英語教育とが、ある距離を持って併存しているのである(佐藤 ,
1
1997)。しかも、互いにあまり干渉しないのである。では、現在の大学における教員養成はどの
ような教師を養成しているのであろうか。
その他の外国語教育や外国語教員養成、あるいは、商業英語、工業英語教育やその教員養成は、
中等教育における教師教育とは異なる分野で発展した。フランス語やドイツ語などは、英語と同
様に、フランス文学やドイツ文学あるいは言語学という観点で発達したが、中等教育の教員養成
とは結びつかなかった。商業英語や工業英語も実用の観点から発展したのであって、これも中等
教育とは結びつくことはなかったのである(笹島 , 2006)
。このような実態が示す通り、日本で
は長い間多言語に対応する外国語教育という概念は希薄であった。英語という言語が自然と外国
語を総称するようになっているのである。このことは、学習指導要領の記述によく表れている。
学習指導要領では、「外国語」という言葉を用いて、英語の指導要領を記述しているのである。
そして、「その他の外国語については,英語の目標及び内容等に準じて行うものとする。
」と結ん
でいる。
外国語を英語に限る方針は依然として変わらないが、明確な英語教育の方針を打ち出したのが
「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」(2003) である。これにより、中等教育及び高
等教育における英語教員の資質向上に対する要求が高まり、現在、改善の方向を模索し、様々
な方策が実施されている。中学校や高等学校における英語教員に対する集中研修、SELHi (Super
English Language High School) 構想などが例としてあげられる。しかし、この行動計画が目指し
ている内容は、現行の英語教育システムや教員養成システムを超えるものではない。
「英語が使
える日本人」のその先にあるものが何かが明確であり、設定された英語力も目標値が単に英検な
どの現行の一般的な英語能力試験のレベル設定であり、授業の改善が、英語教員が英語力をつけ
て「英語で教える」という単純な発想に基づいている。英語教員が英語で授業をすることで本当
に英語教育が変わるのかは疑問である。また、学習指導要領の内容や教員養成・研修が現行のま
まで、免許更新制や教職大学院の設置で英語教員の質が向上するだろうか。本研究ではそのこと
を考慮して外国語教員の養成や研修を異なる視点から調査研究することとした。
1.2.
研究目的
このような英語教員を取り巻く状況を踏まえて、本研究では、さらに、欧米等ではほぼ定着して
いる LSP (Languages for Specific Purposes)(明確あるいは特定目的のための言語)教育の理念と方
法(Howard & Brown, 1997; Dudley-Evans & St. John, 1998 など)を、わが国の外国語(主に英語)
教員養成と研修に導入するための先進的なシステムを構築しようと意図するものである。
本研究の目的設定にあたっては、平成 12 ∼ 15 年度科学研究費補助金研究(基盤研究 (B))
『現職
英語教員の教育研修の実態と将来像に関する総合的研究』
(研究代表者:石田雅近)における研
究成果と平成 13 ∼ 14 年度科学研究費補助金研究(基盤研究 (C))
『大学等の専門英語教育の実態
調査を背景とした実践的 ESP 指導法の開発』
(研究代表者:笹島茂)の二つの調査研究成果が基
盤となっている。この二つの研究は、一方が中学校と高等学校の英語教員を扱い、もう一方が大
学における分野に特化した英語 (ESP) 指導法を扱った。その過程で英語教員の養成や研修システ
ムの欠陥部分がいくつか見えてきた。さらに、英語教育だけではなく外国語教育という視点が欠
2
落していることも分かってきた。そのような先行研究の土台の上に本研究はスタートしたのである。
1.3. 研究の目標
本研究の遂行にあたっては、平成 17 年度より3年間の期間内に次の5つの目標を大まかに設定
した。
1)教員研修に関する実態調査等の先行研究を整理
2)諸外国で工夫されている教員研修の実態調査
3)LSP の理論と実践にかかわるアプローチの実態調査
4)日本の外国語教育の改善に向けた外国語教員養成と研修のシステムの研究
5)その開発の可能性の探求
この目標設定に則り各年度ごとに次のように調査研究を計画実施した。
1.3.1. 17 年度の目標と調査
上記の目標を達成するために、17 年度は、日本における中等教育の外国語(英語)教員養成と
研修に関して、資料収集、アンケート及び聞き取り調査等を実施した。同時に、ヨーロッパ及び
アジアにおける外国語教員養成と研修に関して実地調査を中心にデータを収集した。その際の調
査の観点は主に次の3点である。
• 大学教育学部教員養成課程の英語教科教育内容の実態と LSP 教員研修への応用
• ヨーロッパ各国の外国語教員養成と研修の実態と LSP 理念の関連性
• アジアの英語教員養成及び研修内容の実態と課題
この調査の観点をもとに次の点に留意して資料整理及び分析を実施した。
• 大学教育学部外国語(英語)教員養成課程カリキュラム調査
• 大学における外国語学部の目的及びカリキュラム調査
• 大学以外の教育機関における外国語(英語)教員の資格と研修内容の実態
• 中等教育と高等教育における外国語(英語)教員研修の実態
• ヨーロッパ(主に英国)における LSP の歴史と現状とアジアにおける ESP の現状の比較
• ヨーロッパ(主に英国)における外国語教員養成と研修のカリキュラム調査と事例研究
• 日本(アジア)とヨーロッパの外国語教員研修比較
1.3.2. 18 年度の目標と調査
18 年度は、17 年度の資料収集、アンケート及び聞き取り調査等の結果のまとめと分析を実施した。
同時に、ヨーロッパ及びアジアにおける外国語教員養成と研修の実地調査を引き続き行った。そ
の際の調査の観点は次の3点である。
3
• 大学教育学部教員養成課程の英語教科教育内容の実態と LSP 教員研修への応用
• ヨーロッパ各国の外国語教員養成と研修の実態と LSP 理念の関連性
• アジアの英語教員養成及び研修内容の実態と課題
これをもとに次の点に留意して資料整理及び分析をした。
• 大学教育学部外国語(英語)教員養成及び教育実習の実態
• 大学での教科教育の実態
• 大学以外の教育機関における外国語(英語)教員の資格と研修内容の実態
• 中等教育と高等教育における外国語(英語)教員研修の実態
• ヨーロッパ(主に英国)における LSP(ESP)の現状
• ヨーロッパ(主に英国)における外国語教員養成と研修の観察及び事例研究
• アジア(香港)とヨーロッパとオーストラリアの外国語教員研修比較
1.3.3. 19 年度の目標と調査
それまでの調査から、比較調査対象地域を英国(主にスコットランド)の外国語教員養成と研修
にしぼった。理由は、英国の中でもイングランドの教員養成や研修が複雑であること、ウェール
ズ、北アイルランドなどそれぞれが異なる教育システムを持っていることなどがあげられる。そ
の点スコットランドは比較的把握しやすい。さらに、英国全体の言語教育政策として、実態は別
としても、外国語の目標を明確にしている点にある (The National Languages Strategy, 2002)。教員
の養成と研修も、育成のシステムとしてはプラグマティックであり、日本の教員養成と研修のシ
ステムとはかなり異なるが、その相違が逆に日本の教員養成と研修システムの課題を浮き彫りに
すると考えたからである。
調査は、スターリング大学にある Scottish CILT (The Scottish Centre for Information on Language
Teaching and Research) の協力を得て、
アンケート調査を実施した(詳細は II で述べる)
。アンケー
トだけでは現状を把握するのは困難であるので、外国語教育に携わる専門家や教員と面接するこ
とで様々な情報を得た。
1.4. 研究の方法
主に次の4つの観点から質的研究を進めた。本研究の最終的な目標が LSP 教員の養成・研修シ
ステムの開発のプロトタイプを提示することにあるので、量的な研究よりも質的にアプローチす
ることが肝要であり、量的なアプローチは検証段階で求められると考えたからである。
1)英国(イングランドとスコットランド)の教員研修に関する実態調査等を、文献、インタ
ビュー、観察等の質的調査を通じて実施し、その特徴を明らかにしようと意図した。
2)アンケート調査による外国語教員の意識調査を英国と日本で行い、日本の中等教育の英語教
員の養成や研修に対する意識の特徴を明らかにしようと意図した。
4
3)それと同時に 各地で工夫されている教員研修の実態を、文献、インタビュー、授業観察等に
より明らかにしようと意図した。
4)さらに、アンケート等の調査結果をもとに、LSP 及び CLIL に注目し、その実態とニーズに
関して質的調査を進めた。
1.5. 研究の結果
上記の4つの観点から調査研究を実施した。アンケート調査結果については次章で詳しく論じる
が、その他の質的調査結果に関してここに概要をまとめておく。
1.5.1. LSP 研究の動向
ヨ ー ロ ッ パ に お け る LSP (Languages for Specific/Special Purposes) の 考 え に は、ESP (English for
Specific/Special Purposes) に始まる歴史がある(寺内 , 2002)
。ヨーロッパにおける LSP の研究
大会は 1977 年を第1回として2年に1度テーマに沿って開催されている。国際応用言語学会
(AILA)が協賛している背景の通り、応用言語学、ESP の理論的背景のもとに、英語を含めた言
語全体の問題を社会言語学的な観点から取り扱う領域として存在するようになっている。LSP の
基本的な理念は、さまざまな言語がある特定の目的のために、特定のプロフェッショナル・ディ
スコース・コミュニティー ( 専門家集団 ) を形成し、その中で言語がどのように機能し、さらに
新たな知識をどのようにして作り上げていくのかということにある ( 野口 , 2002)。言語をとりま
く環境は自国語との関連を含めてその扱いは少しずつ異なり、近年のヨーロッパでは、ヨーロッ
パの統合という政策的な課題と相まって、専門分野間の語句の定義、言語間の翻訳、その背景に
あるそれぞれの文化など、言語を媒介とする様々な問題を扱う重要なアプローチとなっている。
1.5.2. Vocational Languages の展開
LSP は、成人の言語及び言語教育を対象としている。この考えは、イングランドやスコットラ
ンドでも英語を母語としない人々の増加とともに、ESL (English as a Second Language) あるいは
EAL (English as an Additional Language) として必要なアプローチとなっている。また、ある特定
の目的のためにある特定の集団で使われる言語としては、地域言語 (community language) という
括られ方で、中国語、アラビア語、パンジャビ語などの言語教育にも注意が払われるようになっ
ている。ビジネス、医療、工学、教育などの明確な目的のためにこれらの言語及び言語教育を
無視できなくなっているのである。また、Vocational Languages という考え方がイングランドや
スコットランドで使われている。これは Vocational language learning (Vocationally oriented language
learning (VOLL)) の考えから生まれた (Sewell, 2004)。この言語能力の特徴は次のように表されて
いる。
コミュニケーション能力 + 異文化間能力 + 特定目的の言語能力
具体的には、プレゼンテーション、ミーティング、電話の応対、客への応対などの実践的な
外国語能力の育成に力点を置いた指導である。このような外国語教育政策は継続教育 (further
5
education) などに反映されているが、英国全体の一貫した外国語教育の考え方の一部をなすもの
である。
1.5.3. CLIL の発展
このような専門分野や仕事に関連する外国語指導とある面で共通の基盤を持つ CLIL (Content and
Language Integrated Learning) というアプローチがある。CLIL は 1990 年代頃からヨーロッパで広
まってきた考え方である。簡単に言えば、
「目標言語で教科科目を教える」という指導法である
が、このようなアプローチは bilingualism, immersion などに共通した考えに基づき、1970 代ある
いはそれ以前から実施されてきた。CLIL の理念は、bilingualism, immersion が「言語によって (by
language)」
「言語を用いて、言語を通して (with
、つまり、言語に指導の主体を置くのに対して、
and through language)」という方法を重視し、あくまで内容 (content) と対等に言語を扱うという
点に特徴がある。
背景には CEFR (Common European Framework of References for Languages) があり、
plurilingualism(複言語主義)を基盤としている。CLIL 推進の目的は4つある。
1)国際社会でよりよい仕事を持って活躍するという社会経済的な目的
2)他の文化に対する耐性と尊重という社会文化的な目的
3)効果的で実用的な目的で言語技能を伸長するという言語技能目的
4)異なる手段による教科の知識と学習能力の向上という教育目的
CLIL は、このような目的のもと、ヨーロッパの言語政策と言語教育政策の枠組の中で、ヨーロッ
パにおける初等中等教育で英語を中心に徐々に浸透しつつある (CLIL at School in Europe, 2006)。
1.5.4. LSP と CLIL
LSP と CLIL には言語指導における理念と方法論に関して共通する点がいくつかある。大きな特
徴は次の点に集約される。
1)明確な目的を持った言語指導
2)仕事や実用面などのニーズの把握
3)ジャンルの存在(より実際の場面、本物らしい内容教材の利用)
4)学習者中心のコミュニケーションの尊重
Vocational languages の理念もほぼこの4点に集約される。さらに、この4点は本研究の目的であ
る LSP 教員養成・研修システム開発の理念と共通する考え方である。このような考えが日本の
言語教育事情にどの程度浸透可能なのか、あるいは、ヨーロッパなどとどのように異なっている
のかを知ることは重要と認識し、それに関する調査を実施することとした。
6
1.5.5. 英国(イングランドとスコットランド)の LSP と CLIL 教員研修に関する実態
調査
1.5.5.1. 英国 (UK) の外国語教育政策の背景
英国 (UK) と言っても、周知の通り、イングランドとウェールズ、スコットランド、北アイルラ
ンドはそれぞれ教育行政面で独立した政策を持ち、独自の教育を実施している。言語教育政策に
おいても、異なる地域、文化、社会を背景として、互いに連携しながらも、独自性を打ち出して
いる。教員養成や研修においても制度面からしてやや異なっている。資格認定、養成システム、
要件、採用システムなどにおいてもそれぞれが特徴を持って行われている。外国語教育政策にお
いては一様に盛んであるとは言い難い内容であるが、欧州評議会 (Council of Europe) などが打ち
出している方針「母語と他のヨーロッパ2言語」というスローガンを掲げている。実態は別とし
て推進しようと努力はしているのである。この方針は、
外国語学習の機会をより低学年化し、
様々
な外国語を学ぶ機会と権利を尊重する政策に表れている (Languages for All: Languages for Life,
2002; Citizens of a Multilingual World, 2001)。
ここではヨーロッパあるいは英国全体すべてを網羅することはせず、イングランド及びスコット
ランドを中心に取り上げる。本研究の調査目的が、日本とは異なる言語教育環境での外国語教員
研修システムの理解にあるからである。なぜイングランドであり、スコットランドであるかとい
う明確な理由はないが、本研究の理論的背景となる ESP 理論の発祥となる国であり、英語とい
う言語を一つのビジネスとしている国であり、本研究の研究者がこれまでかかわってきた研究
フィールドがそこにあったということが一因である。また、教員養成に関して日本と異なるシス
テムを持ち、実践的な教員養成を目的としていることが理由にあげられる。さらに、イングラン
ドとスコットランドは同様の環境にありながらも、対照的な教員養成システムを実践している点
が調査対象として選んだ理由となる。
そこで、まず本研究の背景となる英国の言語教育政策、教員養成システム、言語(外国語)教育
及び教員養成システム等について調査した概要を報告する。その次に LSP や CLIL などの考えに
つながる Languages Work について報告する。LSP は、専門家集団の言語であり、多くは成人の
言語教育と考えられる傾向がある。イングランドでもスコットランドでも自国の外国語教育では
LSP について取り上げることはあまりないが、その理念は至る所に反映されている。Languages
at work、Vocational languages などの言語教育政策が一例である。また、CLIL に関しては、新し
い言語教育の流れとして紹介されつつあるが、実施にあたっては依然として実験的な取り組みと
位置づけられる。
1.5.5.2. イングランドとスコットランドの外国語教育政策
英国の言語(外国語)教育政策は一様ではない。イングランドは、Languages for All(すべての
学習者に言語を)というスローガンを掲げ、いくつかの言語教育政策(The National Languages
Strategy)を推進している。スコットランドはイングランドの政策に同調しながらも、学校教育
7
カリキュラムの充実の面から、A Curriculum for Excellence(卓越のためのカリキュラム)を柱と
して、小学校からの外国語教育をイングランドに先駆けて実施している。2007 年の調査では、
イングランドの小学校での外国語教育の実施は 70% に留まっている (DCSF: National Curriculum
Assessments at Key Stage 2 in England, 2007)。イングランドもスコットランドも外国語の履修につ
いては「学習者の権利 (entitlement)」という用語を使っている。つまり、外国語は必修科目では
なく、学習者に与えられる権利として設定されている。教育行政に関しては、イングランドでは
DfES (Department for Education and Skills)(2007 年から DCSF(Department for Innovation, Universities
and Skills と 組 織 変 更 ) が the National Languages Strategy を 推 進 し、National Curriculum に 加
え、Languages Ladder を設定し、言語教育を推進している。スコットランドでは Education and
Training の下部組織である LTS (Learning and Teaching Scotland) がカリキュラムの運営管理をし
ている。その中で the National Guidelines において言語教育カリキュラムを設定し初等中等教
育におけるガイドラインを示している。外国語に関しては、MFLE (Modern Foreign Languages
Environment) というネットワークが外国語教育を支援している。
イングランドとスコットランドは初等中等教育においてはまったく異なる教育システムの中で、
異なる外国語、地域言語、継承言語を学ぶ機会を提供している。しかし、ある面では共通する要
素は当然ある。たとえば、ヨーロッパ言語としては、フランス語やドイツ語が多くの学校で教え
られてきた。近年では、スペイン語がドイツ語と同じ程度に指導されるようになってきている。
早期外国語教育は奨励されているが、実態としては、外国語はそれほど重要な科目ではなく、学
習者の意欲は低く、動機付けや自律学習の奨励に関心が向き、ケンブリッジ ESOL と OCR との
共同で Asset languages という外国語能力テストも開発され、学習者の学習にある程度ゆだねる方
針が打ち出されている。イングランドでは外国語の履修が 2004 年より Key stage 4 において選択
科目 (entitlement) となり、批判もあるが、それとともに Key stage 2 において外国語の履修を推進
している。スコットランドでは外国語は小学校から実態としては必修科目である。双方とも外国
語学習の動機付けや ICT を利用した外国語学習の機会の提供に力を注いでいる。イングランド
と比べるとスコットランドは人口も規模も小さい。教育政策にはその影響がある。要するに、ス
コットランドの教育はイングランドよりはシンプルできめ細かいと言えるだろう。
さらに、
スコッ
トランドでは継承言語としてのスコットランド・ゲール語 (Scottish Gaelic) とスコットランド語
(Scots) の教育を推進している点に、スコットランドの言語学習に対するこだわりがある。
1.5.5.3. イングランドとスコットランドの外国語教員研修システム
教員養成システムにおいては基本的によく似ている。大学学部としての教員養成プログラムもあ
るが、大学卒業後の1年間の教員養成を中心としている。イングランドでは PGCE (Postgraduate
Certificate in Education)、スコットランドでは PGDE (Professional Graduate Diploma in Education) と
してプログラムが組まれている。どちらも、内容に関しては教えることに特化した知識と技能を
理論と実践の両面から教育している。ヨーロッパの地理的な特徴から目標言語の知識や技能に関
する内容はプログラムの中にはほとんどない。それはすでに存在することを前提として養成は開
始されているのである。教員としての資格要件は、設定されたスタンダードを基準として教員養
成の指導者が主に判断にあたる。
8
イングランドでは Professional Standards for Teachers に基準が示され、それに沿って養成や研
修の内容が設定される。教員の養成や採用などに中心的に関わっている機関は TDA (Teacher
and Development Agency for Schools) である。教員の職能レベルを、qualified teacher status、core
standards for main scale teachers who have successfully completed their induction、post-threshold
teachers on the upper pay scale、excellent teachers、advanced skills teachers (ASTs) というように設定
し、スタンダードがそれに連動している。それに対してスコットランドでは GTCS (the General
Teaching Council for Scotland) が教員の養成や研修に携わっている。資格要件は、養成、新採用
などの各段階においてそれぞれ、the Standards for Initial Teacher Education, the Standards for Full
Registration という基準を設定し、それに基づいた教師教育が実施されている。
イングランドもスコットランドも教員養成は ITT/ITE (initial teacher training/education) と呼ばれて
いる。基本的には雇用につながる養成形態であり、日本のように免許は与えるが雇用には結びつ
かないシステムとは異なる。具体的に公立学校の外国語教員の養成から採用に至る経緯に関連す
る事柄を表にして比較すると次のようになる。
表1 日本、イングランド、スコットランドの外国語教員養成と採用比較
教員養成機関
教員養成コース
日本
イングランド スコットランド
大学
大学
大学
大学4年教員養成課程/
多 様( 大 学 4 年 / PGCE
大 学 4 年 / PGDE、 外 国
必要な単位の取得。
/雇用ベース他)、外国籍
籍であっても可。
であっても可。
養成内容
大学での授業(教職科目、 PGCE の場合、1年のコー
PGCE の 場 合、 1 年 の コ
教科科目)
、学校での教育
スの内半分は学校での実
ースの内半分は学校での
実習(3週間程度)
。英語
習となる。内容は実践的
実習となる。内容は実践
能力の到達度の明確な要
な指導内容に関わる。そ
的 な 指 導 内 容 に 関 わ る。
件は示されていない。教
の他のコースは多様であ
その他4年生の場合と並
科 の 知 識 だ け で は な く、 るが、スタンダードを満
行 (concurrent) コースがあ
人間力などの教育力が重
た す こ と が 要 件 と な る。 る。外国語能力はコース
視される。
外国語能力はコース開始
開始の要件。ある期間の
の要件。
目標言語地域での経験が
求められる。
養成の位置づけ
採用(雇用)
免許状取得のため。免許
QTS (Quality Teacher Status)
SFR (Standard for Full
更新制が導入予定。
と し て 認 定 さ れ GTCE に
Registration) 認 定 で GTCS
登録。
に登録。
各地域の教育委員会等で
QTS として登録後、各地
SFR を 満 た し て GTCS に
の採用試験により採用。
域 (Local Authorities) や 学
校の募集に応募。面接等
登 録 後、 各 地 域 (Local
Authorities) や学校の募集
を経て採用。
に応募。面接等を経て採
用。
9
初任者の位置づ
1年間の初任者研修(条
け
件付採用)
。英語授業指導
養 成 (ITT) 修 了 後 新 し く
教 員 資 格 を 得 て (newly
だけではなく、生徒指導、 qualified teacher) 、 1 年 間
養成 (ITE) 修了後新しく
教員資格を得て (newly
qualified teacher) 、1年間
学級経営などの研修内容
の導入期間 (induction year)
の仮採用期間 (probation)
ガイドラインに沿って実
を 経 て、QTS (Qualified
Teacher Status) を取得。外
後 SFR として認定。外国
国語授業の指導が主であ
が、学校職務全般をスタ
るが、学校職務全般をス
ンダードに沿って評価。
施される。
語授業の指導が主である
タンダードに沿って評価。
求められる知識
学力、人間性、生きる力
や技能
など、英語の知識と技能
教師としての職性
(attributes)、知識と理
知識と理解 (professional
knowledge and understanding)、技能と能力
教育力などが求められる
解 (knowledge and understanding)、技能 (skills) など
が、明確な要件として示
が、スタンダードに示さ
abilities)、価値観や社会
だけではなく、人間力や
されているわけではない。 れている。
(professional skills and
とのかかわり (professional
values and personal commitment) などがスタンダ
ードに示されている。
カリキュラムな
学習指導要領にそって指
National Curriculum によっ
National Guidelines に よ っ
ど指導内容
定の教科書があり、教科
て指導内容が示されてい
書内容が指導内容を規定
て規定され、GCSE (General
Certificate of Secondary
するが、大学入試などの
Education)(中等教育修了
また、中等教育修了試験
影響により指導内容が変
試験)などにより指導内
として Standard Grade(標
化する。
容が規定される。授業展
準テスト)が一つの基準
開、教材は各教員の裁量
となる。授業展開、教材
によるところが大きい。
は各教員の裁量によると
るが、法的な拘束はない。
ころが大きい。
表に示される通り、イングランドとスコットランドの外国語教員を取り巻く養成、採用、仕事
の環境は微妙に異なる。総じて言えることは、教員の養成や研修においての要件が日本よりもイ
ングランドとスコットランドの方が明確であるということである。外国語教員は、目標言語の
指導にかかわる知識や技能を身につけることが大切であり、それが基準となる。つまり、養成が
Initial Teacher Training/Education と言われるように、教員になることを前提として、実務を中心と
して教育が行われるのである。このような教員養成システムのほうが、それぞれの国の教育政策
や教員の地位や待遇などに左右されるが、日本の教員養成と採用の開放システムよりも世界的に
見て一般的である。
イングランドでもスコットランドでも、初等中等教育に関しては日本と同様に教員養成システ
ムがあり、資格要件もしっかりしている。さらに、教育評価などに関しても、イングランドには
Ofsted (the Office for Standards in Education, Children’s Services and Skills)(教育、子供のサービスと
(教
技能における監査機構)、スコットランドには HMIE(Her Majesty’s Inspectorate of Education)
育監査局)があり、相当の予算をかけて実施されている。このような教育評価査察機関には賛否
両論あるが、教育を支援するという観点を基本に実施されている。学校評価、教員評価、教員養
成機関の評価などが行われ、教育水準の向上を図っているのである。その点がよく誤解されてい
10
るが、Ofsted や HMIE の活動の主たる目的は学習者の学習の検証である点を忘れてはならないの
である。教員の評価だけを目的としているわけではない。
• We (Ofsted) inspect and regulate: to achieve excellence in the care of children and young people, and in
education and skills for learners of all ages.(私たちは、子供と若者のケアやあらゆる年齢の学習
者の教育と技能において優秀さを達成することを目的に、査察と規制をする。)(http://www.
ofsted.gov.uk/)
• HMIE’s core objective is to promote sustainable improvements in standards, quality and achievements
for all learners in a Scottish education system which is inclusive.(HMIE の目的は、包括的なスコ
ットランドの教育システムの中で、学習者すべてのスタンダード、質、達成に持続的な改善
を推進することである。(http://www.hmie.gov.uk/)
1.5.5.4. CILT の役割
その他言語教育の面で、忘れてはならない組織が、CILT (the National Centre for Languages)(イ
ン グ ラ ン ド 国 立 言 語 セ ン タ ー) と Scottish CILT (the Scottish Centre for Information on Language
Teaching and Research)(スコットランド言語教育研究情報センター)である。CILT は CILT UK
とも呼ばれ、英国(UK)全体の外国語教育に関するセンターとしての役割も果たしている。
CILT は早期外国語教育から成人までの外国語教育の様々なカリキュラムの提案、資料の提供、
調査研究などのプロジェクトを行い、教員や学習者の支援をしている(Scottish CILT では継承
言語も含む)。また、CILT は、ヨーロッパ評議会 (Council of Europe) の研究調査を担当している
ECML (European Centre for Modern Languages)(ヨーロッパ言語センター)との連携を図り、イン
グランドの言語教育政策である the National Languages Strategy(外国語学習を推進する戦略)を
広めるために Comenius(学習ネットワーク)や Regional Language Networks(言語技能やサービ
スを仕事とつなげるためのネットワーク)などを利用し、言語学習を推進・支援している。また、
外国語教員の研修の運営支援を、イングランド、英国、ヨーロッパとの連携の観点から、実施し
ている。Scottish CILT は、CILT より規模は小さいが、スコットランドの言語教育センターとして、
CILT と協力関係を保ち、1) 言語情報提供、2) 言語の学習と使用の推進、3) 言語教員や専門家支
援のためのリサーチなどを、スコットランド独自の言語教育事情を考慮して活動している。基本
的に両者の方針は共通している。
CILT の方針は次の二つである。もちろんイングランドの方針と強く関連する。
• Maximising the contribution of languages and intercultural competence to education ( 言語と異文化間
能力を教育に最大限に生かすこと )
• Maximising the contribution of languages and intercultural competence to economic life and lifelong
learning ( 言語と異文化間能力を経済活動と生涯学習に最大限に生かすこと )
CILT は、DCSF から資金を得て、その方針を実行する組織である。当然イングランドの政策を
執行する役割がある。DCSF(当時は DfES)は Languages for All: Languages for Life (2002) の中で
次のように述べている。
11
Our vision is clear—we must provide an opportunity for early language learning to harness children’s
learning potential and enthusiasm; we must provide high quality teaching and learning opportunities to
equip our young people with the skills they need to access opportunities in the world of travel and work;
we must provide opportunities for lifelong language learning; we must recognise language skills as central
to breaking down barriers both within this country and between our nation and others. (p.4)
この方針はイングランドの初等中等教育に限るわけではない。つまり、National Curriculum とは
異なる枠組を提供している。すべての人が生涯学習としてある言語を学習することを奨励する
という、CEFR の方針である「2ヨーロッパ言語+母語」に従うものである。多少複雑である
がその言語到達度レベル設定を比較したものをまとめたものが次の表である。NQF (the National
Qualifications Framework) は、CILT が 作 成 し た The National Language Standards (2005)1 に 基 づ く
レベル設定であり、雇用など社会に通じる学習資格レベルにつながる。この表が示す指標は必
ずしも現実に則っているとは言えないが、GCSE(中等教育修了段階)の目標を CEFR の B1 に
設定している点が、イングランド及びスコットランドの外国語教育に対する考え方を表してい
ると考えられる。CEFR の B1 (threshold) の全般的能力スケール (common reference levels global
表 2 The Languages Ladder ‒ Steps for Success
(http://www.dfes.gov.uk/languages/DSP_languagesladder.cfm)
NQF
NC Levels
General Qualifications
Languages Ladder
CEF (approx) (Common
(the National ( 学 力 到 達 度 レ ベ ル、 stages( 言 語 梯 子、 European Framework)( ヨ
C u r r i c u l u m 卒 業 や 大 学 進 学 と 関 言語戦略に基づくレ ーロッパ言語共通参照枠)
levels)( 学 校 連)
ベル)
教育課程レ
ベル)
Entry Level
1-3
Entry 1 - 3
Breakthrough: 1-3
A1 (A2)
Level 1
4-6
Foundation GCSE
Preliminary: 4-6
A2 (B1)
Level 2
7 - EP
Higher GCSE
Intermediate: 7-9
B1
AS/A/AEA
Advanced: 10-12
B2
Level 4
Proficiency: 13
C1
Level 5
Mastery: 14
C2
Level 3
1
The National Language Standards (2005) は仕事に関連した言語能力の指標である。その利用は次のように説
明されている。
The Standards are designed to be used in various ways—the main ones are outlined below.
Employers can use them to diagnose what language skills employees have, to identify what skills are needed to achieve
business objectives and to recruit multilingual staff. Trainers can use them to benchmark skills levels and devise
training programmes. Learners can use them to assess their own levels of skill and set targets for their own progression.
Awarding bodies use them as the basis for National/Scottish Vocational Qualification (N/SVQ) language units and the
framework for calibrating vocationally-related qualifications (VRQs).
12
scale) のディスクリプター(能力の記述)は、
「Can understand the main points of clear standard input
on familiar matters regularly encountered in work, school, leisure, etc. Can deal with most situations likely
to arise whilst travelling in an area where the language is spoken. Can produce simple connected text on
topics which are familiar or of personal interest. Can describe experiences and events, dreams, hopes and
ambitions and briefly give reasons and explanations for opinions and plans.」となっていて、仕事、学校、
娯楽の3点を柱として外国語教育を推進していることがよく分かる。
表 3 共通参照レベル:全般的能力スケール(吉島茂/大橋理枝他訳『外国語の学習、教授、評価のためのヨー
ロッパ共通参照枠』( 朝日出版社 ) を参考に著者試訳)
Proficient user
C2
聞いたり、読んだりしたほぼすべてのことを容易に理解することがで
きる。話したり書いたりする様々なことから得た情報をまとめ、一貫
して、論じ、説明などができる。自然に、流暢かつ正確に自己表現が
でき、かなり複雑な状況でも、細部の微妙な意味の違いを区別できる。
C1
いろいろな種類の高度な内容のかなり長い文章を理解することができ、
含意を把握できる。明らかに言葉に詰まるということなく、流暢に、
自然に自己表現ができる。社会生活や、学習や、専門分野の目的に応
じて、
柔軟に効果的に言葉が使える。複雑な話題について分かりやすい、
構成がしっかりした、詳細な文章を作成できる。その際、文章構成表現、
接続表現、結束表現などのきちんとした使用が認められる。
B2
自分の専門分野のかなり専門的な議論も含めて、具体的、抽象的な話
題にかかわらず複雑な文章の主題や要点などを理解できる。母語話者
と互いに緊張することなく普段と同じように流暢かつ自然にやりとり
ができる。かなり広汎な話題について分かりやすい詳細な文章を作成
でき、さまざまな選択の利益不利益を考えながら、話題となっている
ことに対して考えを説明できる。
B1
仕事、学校、娯楽などでふつうに遭遇する身近なことに関する明確で
標準的な内容の要点は理解できる。対象となる言葉が話されている地
域を旅行しているときにありそうなたいていの状況に対処することが
できる。身近で個人的にも関心のある話題に関する平易に構成された
文章を作成できる。経験、出来事、夢、希望、野心を述べ、簡単に意
見や計画を説明し、理由が言える。
A2
(かなり基本的な個人や家族の情報、買い物、地域、雇用など)周辺の
ことに関連する文やよく使われる表現が理解できる。身近で毎日する
事柄の単純で直接的な情報交換を必要とする簡単で決まりきった作業
においてはコミュニケーションができる。自分の生い立ち、身の回り
の状況や事柄などをすぐに必要となる場面で簡単な言葉で説明できる。
A1
具体的なニーズを満たすことを目的としてよく使われる日常的な表現
やかなり基本的な言い回しを理解し、使うことができる。自分や他人
の紹介ができて、住んでいる所とか、知っている人とか、持ち物など
の身近なことについて質問をしたり、答えたりできる。相手がゆっくり、
はっきりと話して、いつでも助けてくれるならば、簡単なやりとりが
できる。
(能力の高い
言語使用者)
Independent
user ( 自 立 し
た言語使用
者)
Basic user(基
礎的な言語使
用者)
こ れ に 対 し て、The National Language Standards (2005) の General Framework( 一 般 的 枠 組 ) の
Level 2 の能力の記述は次のようになっている。
13
You can understand and use routine vocabulary and standard sentence structures and can recognise some
less familiar elements. You can deal with everyday work tasks, e.g.: arrange travel, accommodation;
understand routine product specifications; write standard letters, e.g. orders.
「日常の決まった語彙や標準的な文構造を理解し使用することができて、多少馴染みのない表現
も分かる。日常の仕事は処理できる」などの記述は、相互に参照していることがよく分かる。こ
のように見てくると、イングランドを中心として、CILT などの言語情報や教育を推進する組織
などを通じて、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドという英国という連合には、一貫
した言語教育政策が存在することが分かってくる。さらに、それは英国に限らずヨーロッパ全体
を通じて共通する言語政策であり、言語教育政策であることも見えてくるのである。
1. 5. 5. 5. Languages Work に見られる LSP の理念
本研究の前提とした一つの理念は LSP である。しかし、これまで見てきたように英国において
は LSP という理念は、仕事、学校、娯楽などの概念を中心として語られていることがよく分か
る。つまり、ある特定の分野に特化した言語あるいは言語教育は、多くの専門分野が英語を中心
としているために、あえて取り上げる必要性が英国にはほとんど見られないわけである。どち
らかと言えば、仕事 (vocational languages) や学習内容 (CLIL) に焦点を当てている。そのことがよ
く分かるプロジェクトが Languages Work である。その目的は「仕事やさらにその先を考えて言
語の価値に気づいてもらうため (to raise awareness of the true value of languages in the workplace and
beyond)」であり、CILT を中心として進められているプロジェクである。その3つのメッセージ
はイングランドが打ち出している言語政策を反映している。
1) A little language can make a lot of difference
2) English is not enough
3) Languages improve the quality of your life
(Languages Work http://www.languageswork.org.uk/)
このプロジェクトでは、言語(外国語)が将来の仕事 (career) と密接に結びついている点を強調
している。基本的には、学習者とその保護者、教師、仕事のアドバイザーなどに言語学習の奨励
と学習するための素材を支援している。
Languages Work はイングランドを起点としたプログラムであるが、スコットランドにもその
影響 がある。スコットランドもほぼ同様の考えを持って、外国語教育を推進している。2006
年 3 月 に エ デ ィ ン バ ラ 王 立 協 会 (the Royal Society of Edinburgh (RSE)) が 主 催 し た 大 会 報 告、
LANGUAGES IN SCOTLAND—What’s the problem? (2006) でも次のように述べている。
Those of our speakers, predominantly Scottish-born, who use other languages successfully, both at
work and in their daily life, are not all university graduates, far less modern languages graduates.
What they showed was an enthusiasm for languages as an added dimension to their relations with and
understanding of other people, as well as a realisation that dealing with other people in their own language
is commercially and professionally rewarding and sometimes essential. The notion that we do not need to
know other languages because everyone else can speak English impoverishes our young people. (p.1)
14
「… 他の人に彼等の言語で対応することがビジネスでも専門分野でも役立ち、ときに大切である
という認識である。だれもが英語を話すという理由で、私たちが他の言語を話す必要がないとい
う考えは、私たちの子供達の世代を豊かにしないということになる」という観点には共通するも
のがある。スコットランドでは Languages at Work という表現を用いているが、外国語学習の必
要性を認識している点においては、英国という地域全体と考えて差し支えないであろう。
1.6. まとめ
イングランドとスコットランドは独自の言語政策と教育政策を持ち、互いにゆるやかに連携しな
がらも、共通の言語教育政策の方向性を示していることは確かである。初等中等教育における言
語教育にとどまることなく生涯学習の一貫としての言語教育ととらえ、様々な場面において言語
を学ぶ機会を提供し、奨励している。もちろん「現実はそうではない」という批判はあろうが、
推進している点はまちがいないだろう。大切な視点は、その方向性が仕事や経済などと強く関係
している点である。単に、「コミュニケーションを図る」とか「教養を豊かにする」という内容
ではない。明らかに世俗的であり、プラグマティックで明確な目標を持っている。外国語教員の
養成と研修においてもその姿勢は生かされている。さらに、学校のカリキュラムはその言語教育
政策と連動しているのである。日本のように学習指導要領が唯一の英語学習のガイドラインであ
るということはない。
この点が、日本の外国語教員研修を思考する場合に常に抜け落ちてしまう重要な点である。つま
り、日本の場合、往々にして外国語教育及び外国語教員研修の問題が、英語教育や英語教員研修
の問題、あるいは、中等教育の問題に限られて議論されてしまうことが多い。さらに、学習指導
要領という枠組の中での教員養成や研修の問題となってしまうのである。日本は、英国で示され
るような言語政策や言語教育政策の視点が不十分なのである。2003 年に文科省が示した「
『英語
が使える日本人』の育成のための行動計画」は、根底には学習指導要領があり、その枠組を越え
てはいない。英語教員養成に関して言えば、
「教員の英語力の向上と英語を使って授業をする」
という内容にとどまっている。英語教員の養成と研修にもう少し異なる観点があってもしかるべ
きであるが、そうではない。英語だけで本当によいのかどうか、あるいは、英語教育の目標の明
確化をする必要はないのかどうか。教員養成や研修のシステムや内容を変えることなく、単に、
英語力や中高教員としての指導力の向上や免許の更新制の導入などで改善が図れるのかどうか。
本研究の目的は、そのような伝統的な外国語教員研修システムについて LSP という視点から考
察し、システム開発のための提案を試みるものである。次章では、英国(スコットランドとイン
グランド)の外国語教員と日本の英語教員の教員養成や研修に対する意識調査結果と考察を述べ、
それをもとに、LSP 教員養成・研修システム試案を提示する。
15
関連文献
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16
(関連ウェッブサイト)
CILT (the National Centre for Languages)
http://www.cilt.org.uk/
Council of Europe
http://www.coe.int/
ECML(European Centre for Modern Languages)
http://www.ecml.at/
GTCS (the General Teaching Council for Scotland)
http://www.gtcs.org.uk/Home/home.asp
HMIE(Her Majesty’s Inspectorate of Education)
http://www.hmie.gov.uk/
LANGUAGES IN SCOTLAND—What’s the problem? (2006)
http://www.royalsoced.org.uk/events/reports/2005-2006/languages_in_scotland.pdf
Languages Ladder
http://www.teachernet.gov.uk/languagesladder/
LTS (Learning and Teaching Scotland)
http://www.ltscotland.org.uk/
MFLE (Modern Foreign Languages Environment)
http://www.ltscotland.org.uk/mfle/
Ofsted (the Office for Standards in Education, Children’s Services and Skills)
http://www.ofsted.gov.uk/
National Curriculum
http://www.curriculumonline.gov.uk/Default.htm
Scottish CILT (the Scottish Centre for Information on Language Teaching and Research)
http://www.scilt.stir.ac.uk/
TDA (Teacher and Development Agency for Schools)
http://www.tda.gov.uk/
17
2 章
英国(スコットランドとイングランド)の外国語教員と日本の英語教
員の教員養成や研修に対する意識
笹島 茂
2.1. 意識調査の趣旨
1章で概観した英国(イングランドとスコットランド)の外国語教育の枠組とその目標は、政策
や制度面のことであり、実際に教員自身がどう考えているかは実際には分からない。いずれもシ
ステムとして構築されているだけであり、
実態は定かではないのである。おそらく大方の人が
「イ
ギリス人は外国語が不得手であり、外国語などを習う必要はない」と考えるだろう。近年の初等
教育から継続教育や高等教育に至る外国語教育政策と実態は必ずしもそのような通説を裏付ける
ものではないようだ。それに対して日本は英語教育に百年以上もの歴史を費やしてきた。戦後に
至っては、英語教育は必修科目としてほぼすべての中学生が学んできている。しかし、近年の東
アジアにおける英語教育熱とは一線を画して、混沌とした英語教育の状態が小学校教育で続いて
いる。それだけはなく、中学校や高等学校で進む様々な英語教育に対する学力向上の方針がどこ
に向いているのかも判然としない。英語教員が、指導法に関して私塾や予備校の講師の研修を受
けたり、集中研修として英会話の研修を受けたり、指導力や人間力の育成として民間企業等に研
修に出されたりと、様々な要求をされるようになった。最近では、教職大学院の制度や免許更新
制なども導入されるようになっている。このような外国語教員を取り巻く環境は、英国と日本で
はまったく異なるし、比較も意味のないことという批判もあろう。しかし、英国の言語教育政策
と外国語教員養成と研修を概観することで、外国語教育の目標や理念が大きく異なるシステムを
比較することとそこに携わる教員の意識を比較することが、本研究の目的を追求する上で重要だ
と考えるに至り、調査を実施した。
本研究では、欧米等ではほぼ定着している LSP (Languages for Specific Purposes)(特定あるいは明
確な目的のための英語)教育の理念と方法を、わが国の外国語(主に英語)教員養成と研修に先
進的なシステムを構築しようと意図している。しかし、LSP だけではなく、Vocational Languages
や CLIL というアプローチにも関連する必要があるということが確認された。そこで、本研究の
目的に合わせて次の3つの領域の質問を設定した。
1) 外国語(英語)教員の養成及び研修に関してどのようなシステムが最も望ましいか。
2) 外国語(英語)教員は、小学校、中学校、高等学校での、
「仕事に役立つ外国語」、
「LSP(確
な目的のための外国語)」、「外国語で行う数学や理科などの授業 (CLIL)」についてどう考え
るか。
3) 外国語(英語)教員の専門性とは何か。
18
意図は、環境の異なる外国語教員が、その環境、その養成研修システムをどう考え、LSP などに
ついてどのように意識し、専門性というものをどう感じているのかなどの調査にある。
2.2. 意識調査の背景
回答結果を提示する前に、調査対象としての外国語教員の養成と研修について補足しておく。本
調査では、いずれも公立の初等中等教育の資格を有する外国語教員を対象とした。日本では大
学を卒業し教員免許状を所有し、教員採用試験を受験し、公務員として採用されている英語教
員であり、定期的な現職研修を受けている教員を対象とした。英国では資格を得るにはいくつ
かのルートがあり、イングランドとスコットランドはシステムが異なる。多くは、学部修了者
を対象とした1年間の Postgraduate Certificate in Education (PGCE) ( イングランド ) か Professional
Graduate Diploma in Education (PGDE)( スコットランド ) の養成期間を経て、あるいは、大学での
教育学部などを経て、新資格教員(NQT: new qualified teacher)となり、1年間の導入期間 (induction/
probation) の後、資格教員 (QT: qualified teacher) となり、
さらに、
各学校あるいは各地方教育局 (LEA:
local education authority) に応募し、採用に至り、教師として働いている教員を対象とした。
現職研修に関しては、英国の場合、資格を得る研修と時間単位をノルマとした研修があるが、内
容は各教員に任せられている。外国語授業に関連した内容としては、指導における動機付け、教
材、ICT など日々の授業関連が多い。基本的にこれらの研修は、単に授業力を向上したり、授
業のアイディアを得るなどだけではなく、昇格や給与と連動する内容となり、評価される種類の
ものである。日本の場合は、義務としての研修(初任者、5年次、10 年次など)と希望研修に
大きく分かれるが、昇格や給与と直結する内容はない。
実際の外国語授業に関しては、日本と英国では、勤務形態、仕事内容、カリキュラム、授業内容
などが大きく異なる。典型的な例で言えば、日本は、40 人程度の生徒に文科省検定済教科書を
使用し、教師と生徒の対面式で黒板やテープ (CD) レコーダーなどを利用して英語指導をする。
教師が各クラスを移動し、基本的には文法や語彙や発音などに焦点をあて、英語の知識理解に活
動の重点を置く。生徒は教師の話を聞き、教師の質問に答え、ノートを取り、辞書を引くなどの
活動をし、定期的なテストを受け、評価される。生徒が英語学習する上での最大の動機づけは、
高校や大学入試となる。
英国でも進学とかかわる統一テスト(GCSE, A レベル、Standard Grade など)が大きな影響力を
持つ。しかし、学習者に履修する外国語を選ぶ権利はあるが、どの外国語を学ぶかは学校のカリ
キュラムにより制限される。典型的な授業形態では、20 人前後の生徒が、個々の教師の教室に
移動し、ホワイトボード、据え置き教材(ポスター、テープレコーダーなど)を利用しながら学
ぶ。机の並びは様々であるが、基本的に教師が主導である。教員の活動としては、母語の使用、
宿題のチェック、背景の説明、生徒ひとり一人の学習チェックが主となる。生徒とのやりとりは
基本的に IRF (initial-response-feedback)(教師の発問に生徒が答え、教師がコメントする)に基づ
く。日本と同様、動機付け、文法説明、発音、語彙などに焦点が当たり、生徒の活動は、質問に
答え、ペア活動をし、問題などを解き、ノートを取るなどである。辞書は授業中ほとんど使わな
い(使う必要がない)。
19
外国語教員の勤務状況については、教員という職全体に言えることだが、多忙感が特徴となって
いる。しかし、1日の授業時間数や対応生徒数などや勤務時間などの数値で比較することは危険
である。教員の職務条件や形態が異なるからである。たとえば、日本では、公的な職務形態にお
いては授業時数や仕事内容は厳しいものではない。労働条件としては、朝 8 時 30 頃に来て、打
ち合わせ、学級での出席や連絡、その後担当の授業が数時間あり、昼食指導、掃除指導、帰りの
出席と連絡があり、その後部活動の指導や会議があり、5時頃には勤務終了となる。残業などは
教職調整手当などで補填されている。土曜日、日曜日は休日である。有給休暇もある程度保証さ
れている。しかし、これは実態を反映していない。英国でも担任制度はあるが、日本のように学
校活動の中心となる学級担任システムではなく、原則、出席や連絡に限られ、それほど負担とな
るものではない。授業時数も勤務形態に応じて教員により異なる。かなりの授業数をこなす教員
もいるが、他の職務(生徒指導など)を担当する教員は授業時数は少なくなっている。教員の朝
の打ち合わせもないし、部活動指導もない。授業などの仕事が済めば、帰宅してよい。もちろん、
土曜日、日曜日は休みである。彼等が忙しいと感じる要因は、宿題のチェックやテストの採点や
授業準備である。あるいは、自身の評価につながる研修などである。
表面的な比較では実態は把握しにくい。日本の場合は、非公式な部分での仕事が多忙感の要因と
なることが多いからだ。たとえば、学級指導としての様々な行事や集団への対応、あるいは、個々
の生徒への対応であり、放課後や休日に行われる部活動指導が要因としてあげられる。学校の長
期休業期間での教員の職務も近年大きく異なってきている。日本では、原則学校へ出勤し、生徒
への指導や会議などを行う傾向になっている。英国では、生徒のいない学校に来て勤務すること
はないし、給与も年間ベースで支払われるので、長期休業期間中は無休ということではない。長
期休業中は研修などの時間に当てることも当然できる。外国語教員の多くは指導言語が使われて
いる地域への旅行あるいは研修に出かけることも多い。最近では、1カ国語では採用が難しいな
どの事情もあり、2、3カ国語の指導ができるように研修をしたり、資格を取るためにコースを
受講している外国語教員も多い。
2.3. 意識調査の目的と質問項目
上記の内容をより明確に把握するために記述式のアンケート調査を実施した。調査目的は、LSP
教員養成・研修システムの開発のための基礎データの収集である。日本の中等教育での英語教育
にかかわる教員が英語を教えることに関してどのような考え方をしているかを、下記の3点に焦
点を当てて、把握しようとした。より明確に理解するために、英国(イングランドとスコットラ
ンド)の外国語教員を比較の対象とした。理由は1章において説明した通りである。
1) 外国語(英語)教員の養成から研修に至るシステム
2) 外国語(英語)教員の専門性
3) 外国語(英語)教員の職能の枠組み
20
具体的な質問項目は下記の 12 項目である。いずれも、選択回答と記述回答欄を設けた。また、
可能であれば記名もお願いした。※日本での調査では、外国語は英語となっているが、英国の調
査では、modern foreign languages (MFL)(現代外国語)としている。
セクション I. 外国語(英語)教員の養成及び研修に関してどのようなシステムが最も望ましいか。
1. 望ましい授業をするためには、1)実用的な英語力(実際に英語で仕事ができる力)と、2) 教養
的な英語力(英文学や英語学などの知識)のどちらがより必要でしょうか。どうしてそう考えますか。
2. 教員として、1)英語の知識と技能(運用力)と、2)授業の知識と技能(教授力)のどちらがより
必要でしょうか。どうしてそう考えますか。
3. 教員にとって、1)英語を教えることと、2)学級経営等の教育活動全般を通して生徒を教育するこ
とと、どちらがより重要でしょうか。どうしてそう考えますか。
4. 現在の教員養成と研修システムは英語教員にとって効果的だと思いますか。効果的だと思わない項目
、その理由を説明してください。すべて効果的だと思う人はその理由を
に⃝をつけて(複数回答可)
述べてください。
セクション II. 外国語(英語)教員は、小学校、中学校、高等学校での、
「仕事に役立つ英語」、
「ESP(明
確な目的のための英語)
」
、
「英語で行う数学や理科などの授業 (CLIL)」についてどう考えるでしょうか。
5. ビジネスや工業技術などの「仕事に役立つ英語」、「ESP(明確な目的のための英語)」が求められる
ようになってきています。小学校、中学校、高等学校で英語を教える際に、「英語教員は仕事に役立
つ英語」
、
「ESP」を意識したほうがよいでしょうか。どうしてそう考えますか。
6.「英語で行う数学や理科などの授業 (CLIL)」がヨーロッパの多くの国で行われるようになっています。
よい授業方法だと考えますか。どうしてそう考えますか。
7.「仕事に役立つ英語」
「ESP(明確な目的のための英語)」、
「英語で行う数学や理科などの授業 (CLIL)」
、
に関するコースの中で、教員養成や教員研修に取り入れられるほうがよいと考えるものに⃝をつけて
ください(複数回答可)
。どうしてそう考えますか。すべて必要ないと思う人はその理由を述べてく
ださい。
8. 英語教員には、小学校から社会人までの様々な学習者に英語を教えられる資格が与えられるほうが
よいと考えますか。どうしてそう考えますか。
セクション III. 外国語(英語)教員の専門性とは何でしょうか。
9. プロの英語教員とは、
英語の知識と技能(英語運用力)と教授の知識と技能を適切に備えている人(英
語授業力)という意味でしょうか。そうだとすると、どうしてそう考えますか。そうでないとすると、
どのような人がプロの英語教員と考えますか。
10. 現状より英語指導に密接に関連した教員養成や研修の機会が与えられるほうがよいと考えますか。
どうしてそう考えますか。
11. 英語教員の専門的な養成と研修は、授業の指導や運営において、他の教科の教員とは異なる面があ
ると考えますか。どうしてそう考えますか。
12. 英語教員の養成や研修は、英語教員にとって、小学校から社会人まで、あるいは、様々な分野の英
語を指導できるように配慮されるほうがよいと考えますか。どうしてそう考えますか。
21
2.4. 意識調査の対象とサンプリング
調査目的に応じてある程度意識を持っている外国語教員からの回答が必要であることから、合目
的的サンプリング (purposive sampling) を採用した。しかし、作為的に標本を抽出することは危険
である。その点に配慮して次のようにある程度実効性のある方法で対象者を抽出した。
・日本での調査対象者:ある地域の中学校教員の集中研修に参加した英語教員 160 名
・英国での調査対象者:ある地域の初等中等教育における外国語教員(44 名)とインターネット
55 名 (※英国では、現職教員研修など
等で呼びかけた初等中等教育の外国語教員(11 名)
は初等中等において共通して行われているケースが多いので、初等中等教育を特に区別しな
かった。)
英国が 55 名と少ない理由は、直接あるいはEメールなどで依頼してから回答をお願いする必要
があったからである。つまり、不特定多数ではなくある程度意識のある教員からの回答を集めよ
うと意図した。しかし、アンケート形式が記述式であり、回答に賛同してくれた人が少なかった。
日本でのデータ収集も同様に試みたが、なかなか収集できなかった。そこで、ある研修会で主催
者の方を通じて依頼してデータを収集した。そのためデータ収集に関しては次の問題点があるこ
とをあらかじめ述べておく。
データ収集にかかわる主な問題点:
・データ収集数、方法などが日本と英国では必ずしも同じではない点
・アンケート時期や回収数が異なる点
・質問内容が背景や翻訳の問題から誤解を与えた可能性がある点
このようにいくつかの統計上問題があるが、日々の指導や研修にかかわる LSP などに関する意
識を調査する目的はある程度達成できると考えた。理由は、データの利用方法が LSP 教員養成・
研修システムの開発にあるからである。そこで、データをすべて利用し、より高い妥当性を図る
ために手順を明確にして、量的分析に質的分析を加えて解釈することとした。以下、結果と考察
を質問ごとに記述する。
22
2.5. 結果と考察
2.5.1. 養成や研修で目指す外国語力とは?
1. 望ましい授業をするためには、1)実用的な英語力(実際に英語で仕事ができる力)と、2)
教養的な英語力(英文学や英語学などの知識)のどちらがより必要でしょうか。どうしてそ
う考えますか。Which do teachers need more, practical or academic language skills in order to teach
students in the classroom? Why? (The meaning of the term ‘practical’ includes daily conversational
language skills and the term ‘academic’ includes school or subject-related language skills.)
実用的な
外国語力
日本
英国
教養的な
外国語力
どちらとも
計
人数
110
25
19
154
%
71.4%
16.2%
12.3%
100%
人数
25
3
26
54
%
46.3%
5.6%
48.1%
100%
この質問に関しては、回答者は二つの視点を持っていることが記述回答から分かる。一つは外国
語能力に関する視点である。質問に対して、教師の外国語力と生徒の外国語力という二つの視点
から回答された。
(日)どちらも必要だと考えますが、実用的な英語運用能力がより必要であると考えます。自分の
意見、考えをしっかりと伝える必要があるから、それにともなう基礎学力、知識は必然的に
必要になる。
(日)生徒たちにコミュニケーション活動をさせるためには生きた英語力が必要であるから。
(英) Both are important, although for the majority of our pupils, practical skills will be more useful, particularly in the early stages of language learning.
(英) Teachers need to have the practical skills to develop the language within the framework and time scale
available academically.
23
もう一つは文化社会的な問題から回答に微妙なニュアンスの違いが生じた。つまり、訳語を「実
用= practical、教養= academic」としたが、この訳語では微妙なニュアンスが異なり、回答にも
それが反映された。結果的に、回答者によって、教師の外国語力に言及していたり生徒の外国語
力に言及していたりとばらつきがあり、また、実用と教養の理解のしかたにも違いが出てしまっ
た。しかし、そのような問題にもかかわらず、日本も英国もどちらも「実用的な外国語力」の必
要性を認識している点は明らかである。特に、日本の英語教員は 70%強がそのように考えてい
る点は記述にもよく表れていた。
(日)現在、最も求められている能力であるから。
しかし、その実用的な英語能力を育成することにおいて、何をどのように指導するか、何をどの
時点で重視するかという点になると意見が分かれている。
(日)中学生のレベルではまず使える英語を学ぶことが必要です。それを身につけた上で教養的な
英語を上級学校で身につけていけばよいと思います。まずは身近な英語に慣れ親しみ使うこ
とが大切です。
(日)短い授業時間では表面的な会話よりも基礎をしっかりと身につけさせたい。
(英) Teachers need to have the practical skills to develop the language within the framework and time scale
available academically.
■ 分かったこと
日本の中学校英語教員 (71.4%) は、英国の初等中等教育の外国語教員 (46.3%) よりも、実用的な
英語力指導の重要性を認識している。しかし、学習者のニーズや彼等を取り巻く現実を考えた
場合、
「実用的な外国語力」の意味の理解が双方の教員において微妙に異なる。特に、教養の意味、
academic の意味、動機づけ、学校教育の役割などを考慮すると、単純な比較はむずかしい。総じて、
実用も教養(学習)もどちらも必要だと考えている傾向が強いことが記述から推測される。
次の記述には他の質問項目にもかかわるが、日英で共通した教員の考えがよく表れている。
(日)語学の知識、運用する英語力、両方が必要です。
(英) We need them all. Life-skills. Teaching is so much more than just a ‘subject’—we’re teaching lifeskills.
24
2.5.2. 養成や研修で目指すのは外国語の運用力か教授力か?
2. 教員として、1)英語の知識と技能(運用力)と、2)授業の知識と技能(教授力)のどち
らがより必要でしょうか。どうしてそう考えますか。Which do teachers need more, 1) the target
language knowledge and skills (proficiency) or 2) teaching knowledge and skills (pedagogy)? Why?
外国語の知識 授業の知識と
と技能
技能
(運用力)
(教授力)
日本
英国
どちらとも
計
人数
23
101
31
155
%
14.8%
65.2%
20%
100%
人数
8
19
27
54
%
14.8%
35.2%
50%
100%
日本でも英国でも、「単に外国語の知識や技能があっても授業はできない」という考え方が調査
結果によく表れている(「授業の知識と技能」+「どちらとも」を併せると 85.2%)
。つまり、授
業にかかわる知識や技能が外国語教員の専門性の形成の大きな要素であることを示唆する結果と
なっている。
(日)どんなに上手に話せたとしても、その教え方が生徒に合っていなければ、生徒の力の向上は
望めないと思うから。
(日)どちらもなくてはいけないと思う。自分の運用力が高くても生徒に身につかないと意味がな
い。運用力もないと、教授できないと思う。
(英) Good knowledge is not enough if you cannot teach it properly.
(英) You cannot get over information, engage interest + maintain progression without teaching skills.
外国語力と教授力の両方が必要だと考えている点は、上記の記述回答にもよく表れているが、日
本と英国の教員の回答傾向に微妙な違いがある。日本の英語教員の 65.2%が「授業の知識と技能」
を選んでいるのに対して、英国の外国語教員は 50%が「どちらとも」を選び、記述回答でも両
方重要としている。しかし、記述回答をよく見てみると、次のような図式が明らかになる。
25
外国語教員の専門性の構成
その他の知識と技能、経験など
・・・・・・第3要因
外国語の授業の知識と技能
・・・・・・第2要因
外国語の知識と技能
・・・・・・第1要因(基盤)
(日)子供達に英語を通して人間関係づくりを醸成したり授業を経営する必要があり、勉強のやる
気や方法を伝えたいから。
(日)教授力は現場で覚えていくものだから、運用力を持っていた方が幅がひろがった教師になれ
ると思う。
(日)わかる授業をしなければ、子供たちはついてこない。
(英) Both, it is the balance that is important. Teachers need knowledge, skills and enthusiasm.
(英) Many teaching skills and much teacher knowledge is developed in the classroom and with experience.
この質問の意図は、外国語教員の養成や研修において、日本の養成や研修システムが実際の外国
語指導に関する知識や技能に十分な時間を割いていない現実を把握することにあった。現行の英
国の外国語教員養成と研修のシステムでは、養成段階前に言語能力が備わっていることが基本的
な前提となっており、学校や授業の実際的な知識と技能の育成に焦点を当てている。結果的に、
システムの違いによる日本と英国の教員の意識の差があるかどうかは明確には分からなかった。
しかし、日本の英語教員が「授業の知識や技能」をより重要と考えている点に、日本の中学校英
語教員の現実のニーズが予想できる。
(日)運用力は限られていても大丈夫。教授力は高いものがあればあるほどよい。
(日)英語の知識と技能であればネイティブの教員免許を持っている人の方が良い。
(英) By the time teachers enter the profession, the target language proficiency would largely be in place.
While these skills need to be constantly refreshed, the already competent linguist will need more
concentration on pedagogy. This is essential in initial training but should also be the focus of ongoing professional development throughout the teacher’s career.
■ 分かったこと
日本の中学校英語教員 (65.2%) が「授業の知識と技能」が重要と回答したが、英国の初等中等教
育の外国語教員と同様に、「外国語の知識と技能」と「授業の知識と技能」の両方が必要だと基
本的には考えていることが分かった。しかし、日本の場合、「英語の知識や技能」が必ずしも英
語教師としての専門性を構築する必要十分条件とはならない実態があることが予想される。
(日)英語が話せても人間性に魅力がなかったり、技をもっていないと子どもがついてこないから。
(日)授業は成り立つことが1番だからです。
(英) To have a successful and happy class you need to be fluent in the target language but you must also be
able to pass on your knowledge in a variety of ways.
26
2.5.3. 教員養成や研修が目指す外国語教員とは?
3. 教員にとって、1)英語を教えることと、2)学級経営等の教育活動全般を通して生徒を
教育することと、どちらがより重要でしょうか。どうしてそう考えますか。Which is more
important for teachers, 1) teaching a language as a subject or 2) educating or supporting learners in the
whole school curriculum? Why?
外国語を教えること 教育活動全般
日本
英国
どちらとも
計
人数
28
90
33
151
%
18.5%
59.6%
21.9%
100%
人数
17
23
12
52
%
32.7%
44.2%
23.1%
100%
日本と英国では、学校文化が異なるため一概に比較できないが、日本の英語教員の多数 ( 約
60% ) が学校での教育活動全般を重要と考えている点に特徴がある。しかし、これは英国の教員
が学校の教育活動全般を軽視しているという意味ではない。
(日)教育の目的を考えれば答えは明確です。
(日)教科を越えて「人」を育てていかないといけない。
(英) Role of teacher is no longer simply teaching subject - in today’s society - teacher must be sympathetic
to needs of pupils.
(英) Again, both ‘teaching’ is a far broader concept than just imparting a specific subject.
教育の目的を考えると上記のような回答が出てくるのは当然と考えられるが、日本と英国では学
校教育の役割に関して微妙に異なる考え方、伝統、文化があることが分かる。英国では、基本的
に教科としての外国語を指導すること (32.7%) が外国語教員の職務であり、その延長上に教育が
あると考えられている。教育は将来必要となる知識や技能を身につけることだということが次の
記述から理解できる。
27
(英) On starting teaching, I expect many teachers will consider 1(teaching languages) to be more important. The more experience you get, the more likely you are going to realise that you are teaching
children rather than a subject.
(英) The days of narrow subject specialisms are now well in the past. We need to look at ways of linking
with other subjects and delivering more core skills alongside subject knowledge.
(英) At the moment and for the foreseeable future, teaching and learning will take place in a curriculum
that is subject based. That said, learners should be made aware of the transferable skills which
language learning promotes. There are also many opportunities for cross-curricular collaboration,
both in primary and secondary schools, in which language can provide the focus.
しかし、日本の英語教員の考えはそれとは微妙に異なるのである。
(日)生徒指導の上に教科教育が成り立っていると思う。
(日)生徒を育成するには授業以外のことの方が多く、信頼関係を築くことが大切である。
(日)教育活動全般を通して生徒を教育して授業が成り立つことが多いと思うから。
(日)教科担当 or 学級担任に優劣はつけられない。
(日)英語そのもの以外に(文化、歴史、考え方等)必要なものがあるように、日本人として社会
人としてちゃんとわかっていくことが必要である。
このような考え方が日本の学校現場では比較的常識となっている傾向があるようだ。しかし、授
業活動が最も大切だとする考え方も当然ある。つまり、教員現場の中に次の二つの考え方が反駁
している可能性がある。
(日)私たちは「英語」という教科で採用されています。
(日)プロの教師である前に、一人の教育者でなければならない。
教科指導も学校での全般的な教育活動もどちらも重要だという根本的な考え方がある。
その上に、
どのようなアプローチが重視されるか、あるいは、どのような信念で指導にあたるかという様々
な変数がある。それによって個々の教員の意識が微妙に変わるようである。
■ 分かったこと
日本の英語教員も英国の外国語教員も、単に教科指導だけをすることが教員の仕事ではなく、
教育全般の活動を重視していることが分かった。しかし、そのアプローチは、英国の外国語教
員があくまで授業活動を中心として外国語の知識や技能の育成に主眼を置いているのに対して、
日本の英語教員の場合は、人間形成、生徒理解、生徒指導、コミュニケーション能力など、複
雑な教育目標変数が強く影響を与えている可能性があることが分かった。
(日)新任の時は授業をしっかりやれることがまず始めのことだったが、20 年もすぎると授業以
外の仕事 ( 学校全体の運営に関わること ) が増え、その方に重点がきている。
(英) teaching a language as a subject should be seen as one way of supporting learners in the whole curriculum therefore they are as important as each other.
28
2.5.4. 養成と研修の目指すシステムは?
4. 現在の教員養成と研修システムは英語教員にとって効果的だと思いますか。効果的だと思
わない項目に⃝をつけて(複数回答可)、その理由を説明してください。すべて効果的だと
思う人はその理由を述べてください。Do you think the current teacher education programs are
effective for teachers in your country? Please choose ineffective ones. And why? If you think they are
all effective, please let me know why.
日本
英国
教養
初任者
研修
その他
計
人数
15
19
18
17
69
%
21.7%
27.5%
26.1%
24.7%
100%
人数
5
2
7
9
23
%
21.7%
8.7%
30.4%
39.2%
100%
この質問項目では、あえて効果的ではないと思われる研修をあげてもらった。複数回答なの
で、パーセントにはあまり意味がないかもしれない。それでも初任者研修に関する意識が、日本
(27.5%: 19 人 ) と英国 (8.7%:2 人 ) では大きく異なっている。初任者研修はその位置づけが異なる
ので単純に比較するのは危険である。英国ではあくまでも正式な教員としての資格の前段階の研
修であり養成の最終段階 (probation, induction) である。その後に正式に GTCE(イングランド),
GTCS(スコットランド)などに登録し、教員としてスタートする。しかし、日本では、初任者
研修は公務員として採用後に行われる研修である。
その内容はある程度の枠組は示されているが、
評価基準は明確ではない。つまり、内容は各教育委員会や学校にまかされているのである。こ
のようなシステム上の違いを考慮して記述回答を見ても、初任者研修に対する不満が日本では多
かった。
(日)実習が少なすぎるのではと思う。
(日)英語の研修は少ししかなかった。もっと初任研で学びたかった。
(日)大学を卒業するといきなり教室の前に立つわけで、教育実習をはじめ実際の授業法などを勉
強する機会が多いほうがいい。
29
(英) I am currently a probationer and feel the benefit of group and individual meeting with a mentor and
my PT. Encourages constant reflection on practice.
(英) All effective— good quality training with a local support.
(英) CPD (Continuing Professional Development) is now a largely privatised function. It is usually limited
to short one day coursed.
英国での研修に対する意識はそれほど悪くはなく、
不満の意見も少ない。それに対して日本では、
近年改善されつつあるが、自由度が低いなどの不満が見られた。また、研修内容に対する受け止
め方が人によってかなり異なっていて、研修システムや内容についても現状のニーズに合ってい
ない面があるようだ。
(日)あまりにも研修の回数が多すぎて、自校がおろそかになる面がある。
(日)教科指導の研修が少ない(5 回)と思いました。
(日)私が受けてきた研修は、その年数に応じてどれも適切かつ有効な研修でした。
(日)どの研修にも勉強になることはあります。ただ、現場とのギャップを感じることも多々あり
ます。
(日)大学でうけた教員養成では現場に対応できない。
(日)もう少し考えたものをしてもいいと思う。出張をすると授業に支障がでる(人数が少なくて
授業交換できない)。
(英) Ineffective because there’s too little of it and much of it is far too expensive. The Chartered Teacher
Modules, for example, about 600 pounds each.
( 英 ) Problem with funding — lots of good courses and training days, but school won’t allow us to go
because of cost.
記述に見られた英国での研修に対する不満は財政的な面のみである。養成も初任者の段階も近年
かなり改善されており効果的であるとの意見が多い。現職研修の内容も民営化され内容的にも魅
力あるものが増えている。問題はそれに対する財政的な支援というわけである。それに対して日
本の場合は、財政的な不満は少なく、研修を受けられる時間的保証に関する不満が目立つ。
■ 分かったこと
英国教員では養成から現職研修に至る過程や内容に関しては比較的不満が少ないのに対して、
日本ではその点に関する不満が多く、システム上の課題があることが分かった。現状の仕事に
適切に対応していない養成や初任者研修の内容と評価、現職研修の内容と実施方法などに関し
て再検討する必要があるだろう。特に、初任者研修については、教員が最も望んでいる教科指
導に関する内容が不十分であり、かつ、うまく機能していない可能性があることを調査は指摘
している。
(日)できれば海外に行って文化の違いなどに触れながら体験を通して身につけられるチャンスが
あるといいです。
(英) More on job training is better before gaining full accreditation.
30
2.5.5. LSP などに対する意識は?
5. ビジネスや工業技術などの「仕事に役立つ英語」、「ESP(明確な目的のための英語)」が求
められるようになってきています。小学校、中学校、高等学校で英語を教える際に、「英語
教員は仕事に役立つ英語」、「ESP」を意識したほうがよいでしょうか。どうしてそう考えま
す か。Vocational languages or LSP are getting popular in adult education, such as in business or in
technologies. Should modern (foreign) languages teachers be aware of vocational languages or LSP
when teaching the target language even in primary or secondary education? Why?
LSP など必要 LSP など不必要
日本
英国
どちらとも
計
人数
40
41
71
152
%
26.3%
27%
46.7%
100%
人数
37
5
8
50
%
74%
10%
16%
100%
LSP(分野や仕事に役立つ外国語指導、日本では ESP)の定義づけが困難で、意図した通りの回
答が得られなかった可能性がある。LSP を「明確な目的のための外国語」と定義し、それと関連
して「仕事に役立つ外国語 (vocational languages)」も併せて尋ねた。この尋ね方は日本の英語教
員に多少の混乱を与えたかもしれない。結果として、日本と英国では意識が相当に異なって表れ
た。英国の外国語教員の 74% が LSP などのアプローチに好意的である回答を示したのに対して、
日本ではわずか 26.3% だった。根本的な理由は、外国語学習のニーズとカリキュラム目標の違い
にあるが、それだけではない可能性がある。
(日)現状で考えるとなかなかそこまで手がまわらない。週 3 日の授業になって、基礎基本を固め
るので精一杯という気がする。
(日)そこまでやる時間がないし生徒も必要性を感じていない。
(日)中学校の段階では、生徒自身が将来の職業について考えていないので仕事を意識した英語を
教えるにはモチベーションがないので難しいと思う。
(日)中学校でビジネス英語は分かりづらい。難しすぎる。
(英) Students need to be able to use Languages practically and often can’t cope or want to cope with
GCSE, A-level, etc.
31
(英) Gives a purpose to learning — work / pleasure.
(英) The ‘global’ aspect of modern economies and the world of work, and looking to the future.
もちろん異なる意見もある。日本でも LSP などの意識をすることに賛成もあれば、英国でも基
礎基本の充実を図る点を重視する意見もある。
(日)「英語が話せる日本人」が求められているわけであるし、将来的にも各企業当然として英語
が話せる人材を要求しているから。
(日)これからますます必要になるから。
(英) Teacher would be unable to target all the different requirements of different LSPs.
(英) Not really necessary at primary + secondary. Time does not permit this initiative.
英国では、外国語学習の目標はすでに述べた通り日本よりも明確である。日本の学習指導要領は
「実践的なコミュニケーション能力」「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」の育成
を謳っているが、どのような場面かは特定していない。さらに、
「仕事」
「専門分野」という目標
は義務教育には適さないという意識があるようだ。この点が、ヨーロッパの言語政策の影響化に
ある英国と大きく異なる意識を生み出しているのかもしれない。
(日)コミュニケーションが先ず先にくるべき。私達は企業人を育成しているのではない。
(日)社員を教育するのではないので目的が違う。
(英) World of work is the destination of our pupils.
(英) Many students may decide to further develop their language skills when they leave school but it is
important for teachers to be made aware of this as what the students learn in the classroom affects
their future decisions.
■ 分かったこと
英国での外国語教育では、学習者の将来に関係する学習や仕事などを意識したアプローチに多
くの外国語教員が賛成している (74%)。それに対して、日本では、ESP、仕事などに関連した指
導よりも基礎基本を重視した内容などを尊重すべきだ、余裕がないなど意見が定まっていない。
背景は複雑であるが、その理由の一つには、LSP (ESP) や「仕事で英語が使える」などのアプロ
ーチが高度な学習段階での目標であるとされ、中等教育教育では議論がほとんどないことがあ
ると考えられる。
(日)「わからない」と答えた方がよいと思うほど情況を理解していませんがグローバル化が進む
中で出てきた問題なのでしょう。
(英) Can provide contexts for teaching scenarios. Offer awareness of the wider world.
32
2.5.6. CLIL に対する意識は?
6. 「英語で行う数学や理科などの授業 (CLIL)」がヨーロッパの多くの国で行われるようになっ
ています。よい授業方法だと考えますか。どうしてそう考えますか。CLIL has been conducted
in many primary and secondary schools in Europe. Do you think it is an appropriate method in your
country? Why?
CLIL は効果的
日本
英国
CLIL は効果的でない
どちらとも
計
人数
36
44
74
154
%
23.4%
28.6%
48.1%
100%
人数
31
5
9
45
%
68.9%
11.1%
20%
100%
CLIL に関しても LSP などの意識とほぼ同様の回答傾向を示した。英国の外国語教員の 68.9% が
効果的と考えているのに対して、日本の英語教員はわずか 23.4% が効果的と考えている。英国で
も CLIL を実際に導入している学校は少ないが、ヨーロッパで提言され次第に普及しつつある教
科と言語の両方に焦点を当てたこのアプローチは、次第に浸透しているようである。しかし、実
際に授業に応用するかは別の話となる。
(日)海外ではいいと思うが、今の日本では無理。
(日)基本ができないまま語学も数学も中途半端になる恐れがあるから。
(日)ヨーロッパと日本では、英語学習の環境が大きく違うから。
(英) People will have more motivation if the study is limited to specific needs: e.g. vocational professional.
(英) I feel that CLIL in schools has made an impact on students attitudes + values which builds up skills
they will most likely use in the future.
(英) we can learn from other countries.
上記の記述が示すように日本と英国では CLIL に対する理解が逆である。日本の英語教員は負担
と考える傾向があり、英国の外国語教員は肯定的に受けとめている。しかし、現実に導入するか
33
どうかには言及していない。実際は次の意見に集約されるように、日本でも英国でも同様に現実
味がなく消極的な意識があるのではないかと考えられる。
(日)効果があるって NHK で言っていた。
(日)勉強ぎらいが増えそう(私はやってみたい(うけてみたいけど))。
(日)いろいろな機会で英語にふれるのはよいと思います。
(英) I support the idea but think it would take a long time to integrate properly into the UK curriculum.
(英) Impossible to deliver effectively in the current arrangements for education.
英国では研修の機会等を通じて、CLIL の情報が少しずつ浸透しているが、日本ではほとんど話
題にならないという背景がある。つまり、バイリンガリズムやイマージョンなどの方法とほぼ同
様に考えており、CLIL の基本理念がまだ浸透していないのである。CLIL の目的は、1)国際社
会でよりよい仕事を持って活躍するという社会経済的な目的、2)他の文化に対する耐性と尊重
という社会文化的な目的、3)効果的で実用的な目的で言語技能を伸長するという言語技能目的、
4)異なる手段による教科の知識と学習能力の向上、という4点である。英国と日本の回答傾向
の差の一因は、言語教育政策上の問題が大きく、このアンケートでは当然そのような説明が十分
ではなかったのである。
■ 分かったこと
CLIL についても、英国と日本では教員の意識に大きな違いがあることが分かった(英国の外
国語教員 68.9%、日本の英語教員 23.4% が CLIL を効果的と考える)。理由は LSP などの背景と
ほぼ同様と考えられる。しかし、CLIL を実際に導入するかどうかを考えると、英国でも日本
でも同様に困難な面が予想されることが記述からある程度明らかになった。日本の英語教員が
CLIL に後ろ向きな回答をした背景には、言語教育政策的な影響が大きいと考えられる。
(日)ALT は英語だけという認識でない方がよい。教科は技能や数値的なもの(ex. 美術や数学、
理科など)がよいと思う。
(日)一部の学校では可能であり、よい面も多くあるかもしれない。しかし、生徒の実態に応じた
授業方法が大切であると思う。
(英) more learning takes place.
34
2.5.7. LSP などや CLIL は教員研修に必要か?
7. 「仕事に役立つ英語」、「ESP(明確な目的のための英語)」、「英語で行う数学や理科などの
授業 (CLIL)」に関するコースの中で、教員養成や教員研修に取り入れられるほうがよいと
考えるものに⃝をつけてください(複数回答可)。どうしてそう考えますか。すべて必要な
いと思う人はその理由を述べてください。Should vocational languages, LSP or CLIL courses be
provided in modern (foreign) language teacher education programmes? Please select the item(s) which
should be provided. Why?
仕事に役立つ英語
日本
英国
LSP
CLIL
複合的に必要
計
人数
29
51
7
35
122
%
23.8%
41.8%
5.7%
28.7%
100%
人数
10
2
12
15
39
%
25.6%
5.1%
30.8%
38.4%
100%
複数回答が可能であるので正確には把握できないが、複数選んだ回答は「複合的に必要」にまと
めた。パーセントはある程度傾向を示していると考える。このグラフが示すように、研修に取り
入れた方がよい内容は、LSP(日本 41.8%; 51 人 : 英国 6.1%; 2 人)と CLIL(日本 5.7%; 7 人 : 英
国 30.8%; 12 人)において、日本と英国では大きく異なった。
(日)仕事のみならず目的が明確化されていた方が学ぶ方の意欲が高まると思われるから。
(日)目的がはっきりしていることは大切だし、研修を受ける方々も同じ方が学びやすい。
(日)明確に、簡潔に英語を使えるのが、中学校の英語教諭に求められていると思うから。
(英) This would be a wonderful way to ensure the pupil leaves school with and the language as well as
learning all other subjects. This has been successful with French, Irish + Scottish + Welsh.
(英) if motivated + interested, children will learn.
(英) Any languages in any way must be good for students’ future.
記述を分析してみると、日本の英語教員は LSP (ESP) を「明確な目的のための英語」と捉えて選
んだと考えられる。その背景には現在の中学校英語教育の目的設定がやや不明確という点にある
35
ようだ。仕事や教科などと具体的に英語教育が結びつくという考えには賛成できないが、目的設
定が明確になることはよいと考える傾向がある。英国の外国語教員の場合は、CLIL だけではな
く複合的な指導が必要だとして「仕事に役立つ外国語」も選んでいるが、LSP にはあまり関心が
ない。背景には、LSP は成人のための外国語教育あるいは ESP という認識が強くあり、その理
念は「仕事に役立つ外国語 (vocational languages)」に含まれ、専門分野において必要である場合
は個人のレベルに還元されるということらしい。
(日)アメリカの大学で受けた講義では、英語力のみならず授業の内容(化学等)に関することも
学べたので為になっていると感じたから。
(日)料理の英語など、興味・関心に応じて取り入れると「面白い」授業になる。
(英) If languages are related to work, there is a likelihood of learners being more motivated to study them.
(英) I am already doing it. There is a demand for it and should help tourism and business.
上記のような前向きな記述があった。日本でも英国でもこのような考え方は共通に見られる。し
かし、日本の英語教員の養成や研修では、ここで取り上げた LSP や CLIL に関する知識を得られ
る機会が十分に与えられていない可能性があるので、状況が異なり単純に比較することはむずか
しい。
■ 分かったこと
日本の英語教員が研修に積極的に導入してほしいと考えているのは LSP (ESP) であり、英国の
外国語教員が CLIL や「仕事に役立つ外国語」に関心を持っている傾向と異なることが分かった。
その背景は複雑であるが、共通している点は学習者の意欲や動機づけと大いに関係があること
が示唆される。しかし、日本の教育現場はより複雑な様相を呈している可能性がある。
(日)教師としての基本的な資質や能力を鍛える方が中学校の教員としては重要である。
(日)教員養成では他の面の方が重要。
36
2.5.8. 小学校から社会人まで外国語指導できる資格は必要か?
8. 英語教員には、小学校から社会人までの様々な学習者に英語を教えられる資格が与えられるほ
うがよいと考えますか。どうしてそう考えますか。Do you think that modern (foreign) languages
teachers should be entitled to teach the target language(s) to any levels, from primary to adults? Why?
様々な学習者への 中等教育での
指導資格
指導資格
日本
英国
どちらとも
計
人数
47
43
60
150
%
31.3%
28.7%
40%
100%
人数
32
4
13
49
%
65.3%
8.2%
26.5%
100%
英国の外国語教員は、様々な学習者に外国語を指導できる資格に積極的な回答をした (65.3%)。
それに対して日本の英語教員の回答は、様々な学習者への指導資格 (31.3%) と中学校で専門的に
英語指導 (28.7%) とに分かれた。また、
「どちらとも」の回答が 40% となり、全体的に様々な学
習者に英語を教える資格に対して不安に感じていたり、明確な考えがなかったり、あるいは、
「中
学校の教員」という意識の方が強い結果となっている。英国の教員にも中等教育という段階を優
先する傾向はもちろんあるが、様々な学習者に教える機会や資格はあってもよいと考えている人
が多い。
(日)ある意味スペシャリストを作った方が良いように思います。
(日)学校教員としての仕事は英語を教えることだけではない。学級経営や部活など多岐に渡る。
英語を教えることだけに集中できないので指導法の研修ばかりできないと思う。生徒と一緒
にいることが大切だと思う。
(日)欲ばりすぎ。無理です。
(英) Most skills are transferable, but some additional age-related training required.
(英) No reason not to. Teachers in Scotland are suitably qualified.
37
(英) Yes, if the language taught corresponds to the teacher’s experience, but no if the teacher hasn’t had
any input about educating particular categories of learner.
このような記述から、日本の場合には、中学校の英語教員という専門性が強く意識されているこ
とが伺える。それぞれの年齢により学習者の学習行動や特性が異なるから、小学校は小学校の教
員が、中学校は中学校の教員が、高等学校は高等学校の教員が専門的に教えることがよいと考え
る傾向が強いことが記述にも表れている。しかし、英国ではそれとは異なる教員の考え方が回答
傾向に見られた。教員個人が教えられる能力や意志があれば、教えてかまわないという考えが強
い。
(日)教員は、教科指導以外にも生徒指導や進路指導なども行うのが仕事である。社会人に教える
資格はないと思う。教える対象者によって免許や資格は変わるのが普通だと思う。
(日)会話力だけが教育ではないから。
(英) Depends on their proficiency in the language + their teaching qualification.
■ 分かったこと
英国の外国語教員は、様々な学習者に外国語を指導することに対して日本の英語教員より積極
的に考えている (65.3%)。しかし、その背景には、中等教育の教育者としての専門性に対する意
識が日本では強いということが推測される。逆に言えば、中学校で英語を指導することは単に
英語を教えることだけではないという中学校英語教員としての専門性に関する強い意識がある。
しかし、回答の際に、現在の職場以外の別の場所で英語を教えることを強制されるのではない
かという誤解を与えた可能性も拭いきれない。
(日)教師はまず人格が大切なので。
(日)このままでは小学校の先生が教えることになるから。
(英) A foreign language opens up to many other areas of curriculum in teaching.
38
2.5.9 . プロフェッショナルとは?
9. プロの英語教員とは、英語の知識と技能(英語運用力)と教授の知識と技能を適切に備
えている人(英語授業力)という意味でしょうか。そうだとすると、どうしてそう考え
ますか。そうでないとすると、どのような人がプロの英語教員と考えますか。Does ‘a
professional language teacher’ mean a person who has appropriate language knowledge and skills
as well as teaching knowledge and skills? If you think so, why? If not, please let me know what
your definition is?
外国語力+授業力 それだけではない
日本
英国
どちらとも
計
人数
112
14
18
144
%
77.8%
9.7%
12.5%
100%
人数
46
1
4
51
%
90.2%
2%
7.8%
100%
プロの外国語教員とは外国語運用力と教授力の両者を備えた人であるということには、日本の中
学校英語教員 (77.8%) も英国の外国語教員 (90.2%) もほぼ同意している。微妙な違いは、日本の英
語教員の 9.7%(14 人 ) が「それだけではない」とした点である。
(日)「 教員 」 とついているのだから、授業以外の生徒指導 etc もできなければならないと思う。
(日)2 つの力プラス人間性と教育愛のある人が必要。
(日)それプラスパフォーマーとしての技能も必要。
(英) Any professional teacher has skills in both their specialty subject and teaching skills.
日本も英国もほとんどが外国語運用力と教授力は必要条件であるとしている。この点は外国語教
員の資質としてグローバルスタンダードであると認識されている。しかし、その他に必要として
いる要素として、生徒指導や人間性や教育という概念を日本の英語教員はより強く意識している。
このような視点は英国の教員にももちろんあるが、前面に出てくることは少ない。
(日)国際人としての資質も必要。
39
(英) to me, the term “professional” refers to the manner in which you work—so respecting other cultures,
educating sensibly and carefully.
回答の中には上記のようなごく限られた個人的な教育信条もあった。当然個人個人の考え方は異
なるが、人間性や生徒指導という回答は日本の英語教員に顕著な特徴として示された。
■ 分かったこと
外国語教員としての専門性は、1)外国語の知識と技能と2)授業の知識と技能によって
構成される。しかし、日本の教員には、特に生徒にかかわる要素である人間性や教育力や
生徒指導なども含まれる可能性がある。その傾向が日本だけの特徴かどうかは明確には分
からない。それらの原因が何によるものかは更なる検証が必要である。
(日)日本語で授業を行うなら、前者は不要かもしれないが、英語で授業を行ったり、ALT と授
業を行ったりするには両方が必要。また、生徒の信頼感も得られるでしょう。
(英) I feel that person must have a solid cultural experience of the places where the target language is
spoken.
2.5.10. 外国語指導に関連した研修の機会は必要か?
10. 現状より英語指導に密接に関連した教員養成や研修の機会が与えられるほうがよいと考え
ますか。どうしてそう考えますか。Do you think that more teacher education programmes closely
related to language teaching should be provided to modern (foreign) languages teachers? Why?
外国語指導関連研修 外国語指導関連研修
もっと必要
特に不要
日本
英国
40
どちらとも
計
人数
88
10
45
143
%
61.5%
7%
31.5%
100%
人数
36
4
5
45
%
80%
8.9%
11.1%
100%
英国の外国語教員が圧倒的に外国語指導関連の研修の機会を望んでいる (80%) のに対して、日本
の英語教員の回答は微妙である。61.5% の教員が外国語指導関連の研修の機会を望んでいるが、
31.5% の教員はどちらとも言えないという回答をしている。
(日)今はそのような研修がほとんどないから。
(日)自分の授業を何とかしようと考えている教員には機会があった方が良い。
(日)理論も大事だが、授業で実践できてはじめて効果のある研修だったと言えると思う。「明日
使える実践集」のようなものをやっていただけるとありがたいです。
(英) All knowledge / techniques needs to be constantly updated.
(英) You gain your expertise in languages first and then take on teacher training.
日本と英国の違いは、英国の外国語教員が外国語指導に関する新しい知識や技能を求めているの
に対して、日本の場合は、いわゆる「明日の授業のアイディア」を求める傾向がある。理念がど
うと言うよりは目の前の生徒をどうするかという考えの方が強い。しかし、その背景には授業に
向き合う時間が取れないという日本の教員の多忙感があるようだ。
(日)自主研修の補助。公的機関による海外研修の場を設定(現在でもあるがその人材では 1%に
もみたないので)。
(日)時間にゆとりがなくなる。研修が悪いわけではないが、それに専念させてもらえる環境をつ
くってほしい。
(日)目の前の生徒をどうするかは研修では得られない。
日本の英語教員の場合、研修希望はあるが、その研修内容が個々の教員のニーズと異なる傾向が
あり、「希望する研修に取り組めない」
「形式的な研修ならばできれば参加せずに学校に残って生
徒と向き合いたい」などの意識が読み取れる。おそらく、日本の英語教員の回答傾向は次のよう
に集約されるだろう。「英語指導に関する研修を受けたい。理由は指導に関する現状の知識や技
能に不安があるからだ。できれば英語指導に生かせる研修をしたい。しかし、現実には、教科に
だけ集中できないほど現場は複雑で多忙である。それならばむしろ現場で生徒と向き合いたい」
■ 分かったこと
外国語教員は外国語指導に関連する研修の機会を望んでいる。英国の外国語教員にとっては外
国語指導にかかわる研修は当然であり、疑問の余地がない。しかし、研修の内容に関しては、
日本の英語教員の意識は複雑で、英語力や授業に役立つアイディアなどを希望している場合が
多く、即効性を求める傾向が強い。さらに、英国の外国語教員と比較すると、海外研修などの
機会や研修の時間の保証に関する要望が目立った。
(日)実用英語を教えるには継続した学習がそれぞれのレベルによって必要であるが、現在あるも
のは一様であり、あまりためにならない場面もある。
(英) I don’t understand this question.
41
2.5.11. 他教科との違いがあるか?
11. 英語教員の専門的な養成と研修は、授業の指導や運営において、他の教科の教員とは異なる
面があると考えますか。どうしてそう考えますか。Do you think that the professional training of
modern (foreign) language teachers should be of a different nature to other subject teachers regarding
teaching and class management? Why?
他教科教員と 他教科教員と
異なる
同じ
日本
英国
どちらとも
計
人数
73
46
23
142
%
51.4%
32.4%
16.2%
100%
人数
16
28
7
51
%
31.4%
54.9%
13.7%
100%
日本の英語教員は他教科の教員と異なると回答した人が 51.4% と多かったが、反対に、英国の外
国語教員は他教科の教員と異ならないと回答した人が 54.9% となった。これにより意識に違いが
あると断言するのは危険であろう。個人の視点の違いによって変わるし、より精査しなければ実
態は分からない。
(日)「学校的なもの(規律等)」と「話しやすい雰囲気」とが両立しないことがある。
(日)AET との Team Teaching や授業が静かであるべきではないところで異なると思います。
(日)準備するものが多い。活動が多い。話す機会が多い。エネルギーが必要。1∼6校時すべて
授業が入っているので、本当にヘトヘトになります。
(日)各教科で努力すべきことは同じだと考える。
(英) classroom management skills are universal to all.
(英) All potential teachers should have same ‘background’ training.
(英) There is always the extra dimension of using 2 languages within your class — you are not working
solely in the pupils’ mother tongue as you are when teaching other subjects.
42
しかし、記述を分析すると、日本と英国ではその職務に対する微妙な考え方に違いがあることが
推測される。また、教育システムが異なり単純に比較することは問題である。たとえば、日本に
は外国語指導助手 (ALT: assistant language teacher) を活用したティームティーチングの制度がある。
これは他教科の教員にはないシステムである。また、英語圏での学習や生活が英語教員には必要
であるが、その経験が不足している教員もいる。
(日)少なくとも私自身は、実用的な技能の不足を感じながら仕事を続けているので、できればよ
り専門的な訓練が必要と感じます。
(日)他の教科のように一度作成した教材で指導できず、ALT との話しあいやスケジュール作り
などの雑務が多い。
(英) Live abroad—in country of the language being taught.
外国語が話されている国へのアクセスに関連して地理的文化的な問題などの違いにより異なる考
え方を示す面があるが、授業の目的や内容をどのように考えているかという根本的な問題もある。
しかし、海外での研修の機会や言語を使用する実用面でのトレーニングが不足している点は他教
科との教員研修との大きな違いとなっていることは無視できない。
■分かったこと
日本の英語教員の方が英国の外国語教員よりも他教科の教員との違いを感じている。その理由は、
ALT との授業、授業文化のちがい、言語活動、外国語を実際に使っている地域での経験などがあ
げられる。しかし、それらは個人による考え方の違いによる可能性がある。
(日)コミュニケーション活動などの活動も多いので、部屋を確立してほしい。また、道徳とは関
連していると思う。
(英) we can share a lot with other teachers but there should be special input to language teachers.
43
2.5.12. 養成や研修は様々な学習者や分野に対応した内容にすべきか?
12. 英語教員の養成や研修は、英語教員にとって、小学校から社会人まで、あるいは、様々な分
野の英語を指導できるように配慮されるほうがよいと考えますか。どうしてそう考えますか。
Do you think that modern (foreign) languages teacher education should allow language teachers to be
able to teach at any educational levels and any specific fields, e.g. business? Why?
様々な学習者に 中等教育に
対応した研修
特化した研修
日本
英国
どちらとも
計
人数
47
45
48
140
%
33.6%
32.1%
34.3%
100%
人数
14
14
19
47
%
29.8%
29.8%
40.4%
100%
本研究の核心に迫る問いだったが、回答は日本も英国も同様の傾向を示し、
意見が分かれた。様々
な学習者や分野に対応した外国語教員養成と研修に賛成の人は、日本で 33.6%、英国で 29.8% と
なった。それに対して、初等や中等教育に特化した外国語教員の養成と研修に賛成した人は、日
本が 32.1%、英国が 29.8% となった。回答が分かれた一つの理由は質問の意図が理解されにくかっ
たと考えられる。基本的には個人の問題となるわけであり、人それぞれで考え方が異なるのは当
然である。そのことは記述回答からある程度把握できた。
(日)個人的にそう(様々な学習者や分野に対応した英語教員)なりたい。
(日)習熟段階は異なるので全てをカバーする研修は不可能。
(日)少なくとも小、中の連帯の必要性から小中高までは指導を出来るようにしてほしいと思いま
す。大学、社会人に必要とされる能力により専門性が高くなると思います。
(日)学ぶ側の条件や状況がもう少し整っていないと ( 動機や環境など ) 難しいかもしれません。
ただ、様々な社会のニーズに応えられる教員の養成は必要だと思います。
(英) Business is … highly specialised, requiring the relevant ‘jargon’.
(英) Historically, languages have been taught on an academic, literary direction. Teachers need to be taught
how to teach skills for work and need to know them themselves.
(英) You require knowledge in that field also so to be truly professional you should acquire some qualification in that field (eg. Business).
44
日本の教員養成や採用の特徴は、教科指導だけではなく、中学校や高等学校の教育活動全般に対
する適性が重要という点にある。英国の教員養成や採用にもその観点はあるが、英国の中等教育
の教員養成や採用は基本的に教科指導が主である。そうでない場合はその枠(たとえば生徒指導
など)での採用となり、役割分担がされている。英国での外国語教員は、実際には日本の英語教
員よりは授業に特化して仕事をすることが可能である。しかし、日本の雇用形態はそれとは異な
るのである。また、もう一つ考慮すべき重要な点は外国語のニーズの問題である。英国での外国
語教育のニーズは日本の英語教育と比べれば格段に低いのである。その点を考慮して、この問い
を考える必要がある。つまり、日本の英語教員の回答の多くは中学校教員という前提があり、英
国の外国語教員の場合は個人の能力が前提とされているのである。
(日)専門的な分野までというと英語科教員はオールマイティ(どの教科にも精通という意味)で
なくてはならず、それは不可能。
(日)今の現場に役立つことをしたい。
(日)研修では中学なら中学にターゲットをしぼっておこなった方がよいと思います。「これは授
業で使えるな」という即戦力となるものを情報交換するのが 1 番有効だと思います。
(英) Why not? Good fluency + teaching knowledge (teachers can easily learn additional vocab in new area
if nec.).
(英) That should depend on the individualized teacher interests.
(英) Depends on teacher proficiency.
質問の意図は、日本には中等教育における英語教員養成システムしか公的にはないことに対する
意識を調査することにあった。同様に、英国には初等中等教育に対する外国語教員養成システム
はあるが、継続教育 (further education) や高等教育 (higher education) には公的な資格は必要がない。
そのような現状を踏まえて、様々な観点から外国語教員を育成する必要があるのではないかとい
うのが本研究の一つの目標である。記述の中には関連する意見がいくつか見られた。外国語教員
養成や研修の多様化は決して無駄ではないということが示唆される。
(日)「中学校の」英語、「高校の」英語のようにはじめから規定されるべきものでなく、広範にわ
たる知識が必要だから。
(日)系統的に指導できる人も必要だと思う(全英語教員を対象としない)。
(英) Study should certainly be about opening doors, not closing them, but prospective teachers need to be
aware of the implications of teaching within their eventual workplace.
■ 分かったこと
様々な学習者や分野に対応した外国語教員養成と研修の必要性に対する考えは、日本でも英国
でも同様に個々人の考え方による(賛成は日本で 33.6%、英国で 29.8%)。その意味することは、
初等中等教育などに特化した外国語教員養成・研修システムが当然ということであり、様々な
学習者や分野に対応した外国語教員養成と研修にまで考えが及ばないということである。しか
し、この調査から、その可能性と必要性については確かな共通理解があることが予想された。
(日)それぞれのレベルに対応できるだけの力があれば良いと思う。
(英)You need a high level of language skills for high levels, and you need higher level of teaching skills at
45
a lower level, where language knowledge can be more ‘rudimentary.’
2.5.13. 調査のまとめ
日本の中学校英語教員 160 名に対する意識調査が日本のすべての英語教員の意識を反映するわけ
ではないが、英国の外国語教員との比較から、本研究の目的である LSP 教員研修の開発の基礎
資料として重要な意味を持つ結果が得られた。
2.5.13.1.
外国語(英語)教員の養成から研修に至るシステムについて
この点については調査から次の点が課題として明らかになった。
1)日本の中学校英語教員は「実用的な英語力」指導の重要性を認識しているが、
「実用的な外
国語力」の意味が実用も教養(学習)もどちらも含み、あいまいな点が見られる。
2)日本の中学校英語教員は「外国語の知識と技能」と「授業の知識と技能」の両方が必要だが、
英語の知識や技能が必要十分条件ではなく別の要素があると考えている。
3)日本の中学校英語教員は、人間形成、生徒理解、生徒指導、コミュニケーション能力など、
複雑な教育目標を強く意識している。
4)日本の英語教員養成や研修制度にはシステム上の問題があることが分かった。特に、初任者
研修については、教員が最も望んでいる教科指導に関する内容が不十分であり、かつ、うま
く機能していない可能性がある。
現行の外国語(英語)教員養成は、各大学を通じて単位を取得することによって資格が与えられ
る。養成段階での学校での授業実習はごくわずかな時間しか配当されていない。さらに、教職に
関する科目(中等教育に関する教育学などの理論や教育心理学などの学習者理解など、あるいは、
教育現場理解という観点から学習指導、生徒指導、進路指導などの問題理解など)が優先されて
いる。また、教科に関する科目では、依然として英語学や英文学、異文化理解、コミュニケーショ
ン、英語会話などが課せられている。しかし、
「実用」あるいは「実践的コミュニケーション能力」
という観点、ひいては、「仕事に役立つ」
「明確な目標を持った」
「ある分野に特化した」などに
関するアプローチはほとんどない。あえて言えば、授業の表面的な指導技能、文法項目の指導方
法、活動のしかたなど、ともすると内容をともなわない(
「実践的コミュニケーション能力の育成」
と称した無意味な英語のやりとりなど)
、目的がやや不明瞭な英語授業や活動に焦点を当てた教
員養成や研修内容に終始している可能性がある。さらには、英語教員が英語の授業指導に集中で
きない環境が、英語教員の専門的技能の習熟をより複雑な状況に陥らせることにより、学習者の
本来の目標である将来のための実践的な英語力の向上を阻害している可能性も否定できないので
ある。
46
2.5.13.2. 外国語(英語)教員の専門性
この点については調査から次の点が課題として明らかになった。
1)日本では、ESP や将来の仕事や学習、専門に関連した英語指導よりも基礎基本を重視した内
容などを尊重すべきという意見が強いことが分かった。原因の一つには、LSP (ESP) などが
高度な学習段階でのアプローチであり、中等教育の教員養成や研修ではほとんど扱われてい
ないことがある。
2)CLIL についてもほとんど関心が示されていないことが分かった。理由は LSP などの背景と
ほぼ同様に養成や研修においてほとんど触れられていないことがあげられる。
3)日本の英語教員は、本調査で提示したいくつかのアプローチの中で比較すると、LSP (ESP)
に関心を持っていることが分かった。学習者の意欲や動機づけと大いに関係があることが示
唆される。
4)日本の英語教員は中等教育の教育者としての専門性に対する意識が強いことが推測された。
逆に言えば、中学校で英語を指導することには単に英語を教えることだけではない可能性を
示唆している。
外国語(英語)教員の専門性とは何かということには議論がある。
「中学校や高等学校の教員は
塾の教員ではなく、単に勉強だけを教えているわけではない」という意見があるが、ではその専
門性とは何かという問いにきちんと答えることは意外にむずかしいだろう。それでは、外国語教
員ではなく中学校教師や高等学校教師という専門性は何だろうか。これも正確に答えることはむ
ずかしい。しかし、英語を教える教員が英語教員であることは自明なので、やはり英語をうまく
指導できる人が英語教員としての専門性に長けていると考えるのが自然ではないかというのが本
研究のスタンスである。学習者というのは、目的が明確ではなく動機づけがなされなければ、勉
強はしないだろう。「英語を何のために学ぶのか」は古くて新しい問題だが、
「∼のために英語を
勉強する」というのは自然である。現状では「∼」には「テストや入試」が圧倒的にあてはまる
のではないだろうか。しかし、韓国のフィギアスケートの選手であるキム・ヨナが、
「フィギア
スケートをしていく上で英語は必要だと考えて英語を勉強している」とテレビのインタビューで
言っていた。これに応えるのは英語教員の役割だと考える。
中学校の教員は多忙である。多忙である理由は複雑だ。英語指導でもシラバスや指導案の作成、
教材の作成、課題やテストのチェック、授業活動のアイディアなどで日々忙しいと聞く。さらに
拍車をかけるのが学級経営であり、学校行事や部活動指導である。しかし、学習指導なくしては
教育は成り立たないことは明らかなので、学習指導の工夫は欠かせない。それは1時間の授業を
展開することの工夫というよりも、もう少し長期的な実践と関係する。そのことを考えると、い
かに学校活動の様々な面があったとしても、英語教員の専門性は英語指導にあることは間違いな
い。その意味から英語教員としての専門性を明確にする必要があるのではないか。その専門性は
より多面的であってもよいはずである。
47
2.5.13.3. 外国語(英語)教員の職能の枠組み
この点については調査から次の点が課題として明らかになった。
1)外国語教員としての専門性は、外国語の知識と技能と授業の知識と技能によって構成されて
いるという認識が定着していることが分かった。課題は、特に生徒にかかわる要素である人
間性や教育力や生徒指導などをどのように位置づけるかにある。
2)外国語教員は外国語指導に関連する研修の機会を望んでいることが分かった。研修の内容に
関しては、日本の英語教員の意識は複雑で、英語力や授業に役立つアイディアなどを希望し
ている場合が多く、即効性を求める傾向が強い。さらに、英国の外国語教員と比較すると、
海外研修などの機会や研修の時間の保証に関する要望が目立った。
3)日本では、他教科の教員との違いを感じている英語教員が英国より多い ( 約 50%) ことが分かっ
た。その理由は、ALT との授業、授業文化のちがい、言語活動、外国語を実際に使ってい
る地域での経験などがあげられる。
4)様々な学習者や分野に対応した外国語教員養成と研修(賛成は日本で 33.6%、英国で 29.8%)
に対しては様々な考え方があることが分かった。
外国語(英語)教員の専門性にはある程度のグローバルスタンダードがあると考えてよい。しかし、
そのスタンダードを中等教育の英語教員のスタンダードとすることには問題があるようだ。特に、
日本の中学校の英語教員は複雑な仕事環境にあり、様々な直近の課題に対応することが要求され
ている。その要求の一つが、生徒にかかわる教師像ともいうべき多様な社会的文化的要求である。
この「生徒を育てる」という前提は、どの国の教育においても教育の根幹をなす理念であるが、
日本の場合は、英国と比べるとどこまでかかわるかという目標や境界が不明確で、個々の教員の
信念や学校の文化という実態がよく分からない要因により規定されている可能性がある。
教員研修に対しては、英語教員の多くが英語指導にかかわる研修内容を強く希望している。しか
し、その研修の内容については即効性のある授業のアイディアや意見交換というものが多く、外
国語教員の専門的な職能を高めるという方向性とは異なる面があるように考えられる。つまり、
経験を積み重ねていくと、主任、教頭、校長という職能の範疇に入り、教科指導に関しての専門
性が尊重されにくい環境がある。その点からすると、外国語(英語)教員の職能の枠組みは、必
ずしも医師や弁護士のような職能とは異なる専門性を有していることが推測される。さらに、日
本の中等教育における英語教員の半数が他教科とは異なる意識を英語指導に感じている。この背
景には英語教員の職能の枠組が不明確であり、個々の教員が異なる基準によって自己の職能を規
定している可能性がある。
事実、日本の教員の養成課程は英語教員に関する明確な基準や最低限必要な資格要件を設定して
いない。たとえば、英語運用力、海外での英語使用経験、授業にかかわる知識や技能、生徒指導
にかかわる資質など、英国のようにスタンダードを示していない。単位の修得をもって教員免許
を発行している。教員免許状の種類は能力や資質というよりも学習歴によって規定され、その職
能に対する適性は明確ではない。そのような免許制度に対する信頼性の危惧から教員免許更新制
48
が開始されるが、更新の要件は決して英語指導に特化しているわけではなく、小学校、中学校、
高等学校の各教育段階における教育活動全体にかかわる漠然とした内容となっているようだ。複
雑な職能という地盤が不安定な所に、補強のために棒を1本入れた程度と考えると、更新制がど
のような位置づけとなるのか分かりやすいのではないだろうか。
2.5.13.4. まとめ
日本の外国語(英語)教員の職能の枠組の不明確さは教員養成と研修のシステムと教員の専門性
と密接にかかわっている。そもそも日本に外国語(英語)教員という専門的職能集団が存在する
かという根本的な課題が立ち上がる。小学校教員という職能集団、中学校教員という職能集団は
義務教育という枠組によってある程度規定されているが、高等学校教員や大学などの高等教育機
関の職能集団は、教科や分野の職能集団的色彩が強くなる。外国語教員という職能集団は、それ
ぞれの外国語によって区分され、かつ、本研究で扱っている中等教育の英語教員集団とは全く異
なる職能集団である。英語教育という枠組も、中等教育を中心とした英語教育とそれ以外の実用
を中心とした英語教育(商業英語、工業英語など)は、まったく異なる職能集団として発展した。
さらには、日本語を母語とした英語教員と英語を母語あるいは第2言語としたネイティブスピー
カーと呼ばれる英語教員の職能集団はやはり異なる。
このような状況と、本研究において実施した中等教育の英語教員の意識調査と、それとはまった
く異なる英国の初等中等教育の外国語教員の意識調査の結果から、日本の英語教員を取り巻く複
雑な環境と、養成や研修のシステム、専門性、職能などに関するビリーフの特徴との関係性や問
題点がいくつか明らかになった。このことが、本研究の目的である LSP 教員研修の開発を考え
る上で多いに参考となった。
49
3 章
LSP 教員養成・研修システムの開発に向けて
笹島 茂
3.1. LSP
LSP を考える上で基盤となる重要な理念は、日本においては ESP の理念と考えてよい。そこで、
まず日本の言語教育を考える上で主要な ESP の定義を確認しておく。
Absolute Characteristics
1. ESP is defined to meet specific needs of the learners.
2. ESP makes use of underlying methodology and activities of the discipline it serves.
3. ESP is centered on the language appropriate to these activities in terms of grammar, lexis, register, study
skills, discourse and genre.
(Dudley-Evans & St. John. 1998)
ESP (English for Specific Purposes) とは、学問的背景や職業などの固有のニーズを持つことに
より区別され同質性が認められ、その専門領域において職業上の目的を達成するために形成され
る集団である『ディスコース・コミュニティ』の内外において、明確かつ具体的な目的をもって
英語を使用するために行なわれる言語研究、およびその言語教育である。
(寺内 , 2000)
English for Specific Purposes (ESP) is a multidisciplinary approach that offers promising possibilities for
an EFL educational environment. ESP is often mistaken as simply being the drilling of technical terms and
grammatical structures for science and technology majors or the teaching of business English. ESP actually
can offer a viable approach for enabling tertiary-level or adult language learners to efficiently acquire
a sufficient level of mastery in the communicative forms of language required for their professional or
occupational needs. When presented as an approach to observing and classifying such linguistic needs, ESP
can also help equip students with the tools necessary to continue their linguistic development outside the
classroom.(Noguchi, 2004)
(※下線はいずれも筆者による。
)
上記の三つの定義を総合すると、現在の日本における ESP の研究と実践の基本的な考えが理解
されると考える。言い換えると、
「学習者のニーズを満たし、
分野に特化した方法や活動に準拠し、
その活動に適切な言語を研究し指導する」となる。そのような英語教育のアプローチを ESP と
呼んでいる。ESP の主な学習対象者は、ふつう成人であり、高等教育段階の英語教育とされて
いる。さらに、明確な目的を持って、関連するディスコースコミュニティの言語的ニーズを把握
する能力とともに専門的職業的分野に必要なコミュニケーション能力を習得するということが、
50
ESP の特徴である。しかし、Dudley-Evans & St. John (1998) は、ESP の可能性や多様性につい
て次のようにも言及している。
Variable Characteristics
1. ESP may be related to or designed for specific disciplines.
2. ESP may use, in specific teaching situations, a different methodology from that of General English.
3. ESP is likely to be designed for adult learners, either at a tertiary level institution or in a professional
work situation. It could, however, be for learners at secondary school level.
4. ESP is generally designed for intermediate or advanced students.
5. Most ESP courses assume some basic knowledge of the language systems.
(※下線は筆者による。
)
この言及は ESP の定義をあいまいにする可能性があるが、様々な英語教育を考えた場合、現実
的な考え方だろう。ESP は特定分野と関連し、そのために設計されるのであり、分野の活動や
方法に必ずしも一致する必要はない。アプローチとして多様な可能性がありえる。また、いわゆ
る「一般英語 (General English)」(この定義もあいまいであるが)とは異なる指導法を使用する
と述べている。異なる指導法を用いるのは特定の指導場面であり、そうではない場面では同じ指
導法に根ざし、言語システムに関しての基本は同じことを前提としているわけである。さらに、
中等教育においても ESP アプローチはありえるとしている。ESP の理念は、中等教育の英語教
育としても存在すると考えられるのである。
ESP 及び LSP を定義する考え方の基盤はほとんど言語や知識などの内容に関してであり、指導
方法などに関してはあまり言及がない。指導法に関しては基本的には外国語指導法一般と変わる
点はないからである。特徴的な点は、教師と生徒の関係性が普通の外国語授業とは異なるとして
いる (Howard and Brown, 1997)。つまり、分野や仕事の内容について教師は十分な知識がない
からである。この点に関連して、Dudley-Evans (1997 in Howard, R & Brown G.: 61) は次のよう
に述べている。
The methodology may be different, but the implication for LSP teachers is not so much that they need to
learn a wholly different technique for teaching, but rather that they need to be flexible in their teaching, and
prepared to take risks. To suggest that a totally new approach to teaching in LSP is needed is surely wrong
and certainly intimidating to many teachers embarking on some LSP teaching. The main abilities required
in the specific teaching situations just described is a willingness to listen, to think on one’s feet and an
enjoyment of reacting quickly to problems as they emerge. In a sense LSP teachers need to have the skills
and sense of adventure of the jazz musician improvising around a melody or a chord sequence.
要するに、LSP 教員は、予想できない状況に応じて臨機応変に指導内容や手順を変えて対応し
ていく感覚と技能が必要であるというわけである。しかし、これはあらゆる外国語教員にあては
まる基本的な資質であり、必ずしも LSP の特徴とは言えない ( 笹島 , 2002)。
51
3.2. 日本の外国語教員養成における LSP
笹島 (2002) は、現行の中等教育英語教員養成課程における問題点を2点指摘している。
1)英語教員養成課程の学生が適切な英語力を身につけていない。
2)英語教員養成課程と免許と採用が機能的に働いていない。
この背景には様々な要因があるが、一つの原因は養成課程と中等教育学校との関係にかかわるシ
ステム的な問題である。もう一つは、初等教育や高等教育における公的な外国語教員養成システ
ムが存在しないということである。つまり、日本での外国語教員養成システムは、中学校や高等
学校の教員免許状制度の上に成り立っているものであり、外国語教員という専門的な職能集団を
育成しているわけではない。そのような状況にもかかわらず、中学校や高等学校での外国語(英
語)教員免許状を有している人は相当数に上るわけであるが、実際に教壇に立つ人は限られた数
である。さらに、中学校や高等学校に相当しない学校であれば、
特別に資格が必要なわけではなく、
採用者の判断にまかせられる。つまり、日本における教員免許状は外国語指導可能かどうかとい
う資格というよりは中等教育において必要な資格ということになる。現行の中等教育外国語(英
語)教員養成課程の問題点は、結局すべての外国語教員の養成や研修の問題点に共通する内容を
含んでいるのである。
その点を踏まえて、笹島 (2002) は、大学での英語教員養成課程に ESP 的視点を取り入れる提案
をしている。その理由として次の2点を指摘している。
1)教員養成学部を卒業しても英語教員になれない
2)多くの専門分野で必要とされている英語力を養成する指導者が少ない
実際に、各大学などの専門分野にかかわるいわゆる ESP 教員は、理論や相当の訓練もなく独自
のトレーニングと工夫で対応しているのが現状である。特に言語教育に共通する初歩的な英語指
導の基本の知識と技能のある人が必ずしも教えているわけではなく、分野の専門家で英語に堪能
であったり、英語に関するなんらかの研究経験があったりすることで指導する機会を与えられた
人が指導に携わっているのが現状である。もちろんそれらの指導に携わっている人に英語を指導
する資格がないという趣旨のことを述べているのではなく、ある程度英語指導の基本的な知識や
技能を身につけた人材をもっと利用してはどうかという趣旨である。その面から、大学などの養
成課程である程度英語指導の知識と技能を身につけた人材は生かされるべきだと考える。さらに
は、英語教員として経験の豊富な研修指導に長けた専門的知識も生かされるべきだと考える。現
時点ではそのような人材の交流や有効的な利用がなされていないようだ。たとえば、英語教育の
経験が他の外国語指導に生かされていない、あるいは、中学校や高等学校での英語教員の指導が、
社会人に対する英語指導に生かされていない、などである。
しかし、実は、大学英語教員養成課程も、外国語教育という観点からは効果的に機能しているか
どうかは疑わしい面がある。英語の専門科目として指定されているのは、
「英語コミュニケーショ
52
ン」、「英語学」、「英米文学」、「異文化理解」の4科目であり、その他は特に規定がない。英語指
導法に関する単位数は十分とは言えず、教育実習も3週間程度と短い。大学の教員養成課程は、
いわゆる「学級崩壊」「学校の荒れ」「指導力不足教員」
「不登校」などの教育問題の対応へとシ
フトし、教員の教育力や人間力などの力量不足が課題となり、教職専門大学院の新設や免許更新
制の導入の方向へと向いた。しかし、この方向性は、初等中等教育の教員としての力量の向上で
あり、外国語(英語)という教科の力量の向上だけを目的としているわけではない。つまり、本
研究の目標である LSP 教員という視点は皆無であり、外国語教員の専門性を高めるという視点
も弱いのである。
日本における教員養成の根本的な考え方の背景には、江戸時代の寺子屋や藩校における教育、明
治以来の師範学校の教師像などの歴史的な経緯からの影響がある。一言で言ってしまえば、
「先達」
「先生」という言葉である。つまり、「その分野である程度専門的な知識や技能があれば教員とし
て機能する」という考え方である。この考え方は根強くあり、
「各分野の優れた知識経験や技能
をもっている社会人」に対する特別免許状制度はその延長上にある。このようなケースでは特に
教員養成課程の単位を修得する必要はない。さらに、実際に大学で教員養成に携わっている指導
者の中にも「実践的な指導知識や技能は採用後に現場で培うものだ」と言い切る人もいる。養成
課程はその素地として理論や基礎的な知識や技能を指導する場という意味であろう。実際に養成
課程でのトレーニングに関しては不十分であるという意見は多い。近年の英国などの養成課程の
アプローチとは根本的に異なる。
何年にもわたって構築されてきた社会的文化的システムを改革することは相当に困難である。ま
た、現行のシステムのすべてが悪いとも言えない。日本の教育は世界的にもその効率性で現在で
も評価されている。PISA の調査においては日本の学力の評価は下がり気味であるが、初等中等
教育における教育の機会均等という面からは依然として水準を高く維持している。その教育を支
えている伝統的な教員養成と研修はある面ではよく機能しているのである。そのような基盤を維
持し、そのシステムを効果的に活用し、日本における外国語教員養成と研修のシステムの弱点を
補強していくことが大切であろう。その点において最も効率的なアプローチが、本研究の調査か
らも明らかになった「仕事や分野に特化し、内容を重視した」LSP 的視点を生かした外国語教
員の養成と研修であると考える。次章では、本研究での調査結果を踏まえて具体的な LSP 教員
養成・研修システムの枠組を示すことにする。
3.3. LSP 教員養成・研修システム
こうして提案される LSP 教員研修養成・研修は、世界的に認知されている LSP とは多少異なる
理念のもとに構築されるかもしれない。理由はすでに述べた通り日本の現状を基盤とした新しい
外国語教員養成・研修システムを提案しようと意図するからである。次章では、その理念、目標、
スタンダードを示し、具体的なモジュールの例を提言することで、枠組を提示したい。
53
関連文献
Dudley-Evans & St. John. 1998. Developments in ESP: A multi-disciplinary approach. Cambridge: Cambridge
University Press.
寺内一、笹島茂、神前陽子『ESP の理論と実践』東京:
寺内一 , 2000 深山晶子(編)、野口ジュディー、
三修社
Noguchi, J. 2004. ‘English for Specific Purposes: Exploring Concepts for EFL Environments.’ in TUJ’s
Distinguished Lecturer Series. Tokyo.
Howard, R & Brown G. (eds.) 1997. Teacher Education for LSP. Clevedon, UK: Multilingual Matters.
笹島茂 2002「英語教員養成課程に ESP 的視点を望む」『大塚フォーラム』大塚英語教育研究会 81-86
54
4 章
LSP 教員養成・研修システム試案
笹島 茂
4.1. 理 念
LSP (Languages for Specific Purposes) 教員とは、学習者の求める外国語ニーズを基盤として、
学習者のために明確な目標を設定して、学習計画を作成し、学習の場面、活動、教材などを選択
し、学習の機会を与え、支援し、診断し、評価できる教員である。主に、専門分野や仕事に特化
した外国語指導に携わるが、必ずしも高等教育や成人教育に限ることなく、場合によっては初等
中等教育においても対応できる資質を要する。たとえば、スポーツや芸術活動などに必要な言語
能力、数学や理科等の教科内容の理解に必要な言語能力、海外生活に必要な言語能力など。LSP
教員の養成と研修は、上記の LSP 教員を育成し、その専門性を高めるために実施されるプログ
ラムである。
4.2. 目 標
LSP 教員の養成と研修の目標は、中学校や高等学校の英語教員養成や研修の現行システムにか
かわる人的資源と施設・設備を利用して、知識と技能を持った、様々な分野や仕事に必要な外国
語指導者を育成し支援することにある。
4.3. スタンダード
上記の理念と目標のもとに、LSP 教員としてのスタンダードを下記のように設定する。ここで
言うスタンダードとは、「養成や研修で修得する専門的知識や技能の基準のことで、養成や研修
の各段階や場面において、LSP 教員として資質を身につけているかの目安」とする。
スタンダード 1:外国語の知識と技能
スタンダード 2:外国語授業運営の知識と技能
スタンダード 3:学習者の外国語学習目標の明確化
スタンダード 4:学習者の外国語学習ニーズに沿ったカリキュラム設計と評価
スタンダード 5:学習者の学習履歴の把握と学習方法の支援
スタンダード 6:学習段階、科目内容、分野、仕事などのディスコースコミュニティの理解
スタンダード 7:教育目標、学校文化の理解と外国語教育の専門性
スタンダード 8:外国語使用のジャンル(場面や社会文化など)に対する理解
スタンダード 9:初等教育から高等教育まで系統的外国語教育理解
スタンダード 10:評価測定方法に関する知識と技能
55
スタンダード1:外国語の知識と技能
外国語に関する必要な知識と技能は外国語指導の基本である。LSP 教員の場合も基本的な言語
にかかわる知識(語彙、文法構造、表現、発音など)や技能(聞く、話す、読む、書く)は当
然必須となる。しかし、ただ単に言語の知識や技能に習熟することよりも、指導に生かせる言
語の知識や技能でなければならない。
1. 1. LSP 教員は、養成に入る段階で CEFR レベル設定の B12 程度に達しているものとする。望
ましくは研修等を通じて C13 までは到達するものとする。
1. 2. LSP 教員は、言語知識に関して、文法構造を理解し説明ができ、専門分野や特定の地域の
表現を除いて、一般的な話題は理解できる。さらに必要に応じて、特定の分野に対する語
彙や表現などにも対応できる。
1. 3. LSP 教員は、言語技能に関して、完全ではないがほぼコミュニケーションが可能であり、
一般的な場面や話題であれば準備などを通じてほぼ対応できる。さらに必要に応じて、特
定の分野の語彙や表現などにも対応できる。
1. 4. LSP 教員は、言語知識や技能に付随する社会文化に関する知識や技能、具体的には言語が
使用される社会文化一般について理解し、コミュニケーションがふつうに可能である。さ
らに必要に応じて、特定の分野の社会文化的ルールに対応できる。
スタンダード2:外国語授業運営の知識と技能
外国語授業運営に必要な知識と技能は外国語の知識と技能の次に重要な基本である。外国語授
業は単に外国語の知識と技能の説明や理解ではなく、言語活動を通じて言語が使えるように導
くことが肝要である。そのためには、発音、文字、文型、慣用表現、コミュニケーション活動、
指導言語、指導手順、ルール、生徒理解、評価、反省など、学習者の発達段階及びニーズを把握し、
授業を効果的に運営できる必要がある。
2. 1. 言語を教える場合、「提示、理解、練習、応用」などの基本的な活動の理解が重要となる。
LSP 教員は、そのような基本的な言語指導の理論と実践を理解し、応用できる。さらに
必要に応じて、特定の分野に必要な基本的な活動も効果的に設定できる。
2 B1(Independent User: 自立した言語使用者 ) 「仕事、学校、娯楽などでふつうに遭遇する身近なことに
関する明確で標準的な内容の要点は理解できる。対象となる言葉が話されている地域を旅行しているときに
ありそうなたいていの状況に対処することができる。身近で個人的にも関心のある話題に関する平易に構成
された文章を作成できる。経験、出来事、夢、希望、野心を述べ、簡単に意見や計画を説明し、理由が言える」
3 C1(Proficient user: 能力の高い言語使用者 )「いろいろな種類の高度な内容のかなり長い文章を理解する
ことができ、含意を把握できる。明らかに言葉に詰まるということなく、流暢に、自然に自己表現ができる。
社会生活や、学習や、専門分野の目的に応じて、柔軟に効果的に言葉が使える。複雑な話題について分かり
やすい、構成がしっかりした、詳細な文章を作成できる。その際、文章構成表現、接続表現、結束表現など
のきちんとした使用が認められる」
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2. 2. LSP 教員は、言語活動を活性化するための様々なタスクを理解し、それをコーディネー
トできる。また、その活動のねらいをよく理解し、適切に学習者にフィードバックできる。
さらに必要に応じて、特定の分野の場面や話題におけるタスクも効果的に設定できる。
2. 3. LSP 教員は、言語活動の間に、発音や文法や表現などの言語的情報やコミュニケーショ
ンなどの社会文化的情報を把握して、学習者に対して適切に指導できる。さらに必要に応
じて、特定の分野においても同様の言語情報を適切に指導でき、専門的な内容に関しては
学習者の支援を受けて対応できる。
2. 4. LSP 教員は、学習者の発達段階に応じた指導に対する理解があり、また、学習者の言語レ
ベルを把握し、学習者のニーズに応じた授業運営ができる。さらに必要に応じて、特定の分
野にかかわる場面や話題においては、言語材料を精選し、ねらいを明確にして指導ができる。
スタンダード3:学習者の外国語学習目標の明確化
学習において目標設定は最も重要である。外国語学習においても、単にコミュニケーションの
ためではなく、科目内容、研究、仕事、娯楽などの明確な目標を学習者に設定させることが、
学習の成否にかかわる基本となる。LSP 教員はつねに目標設定に心がけ、その学習目標にそっ
た言語材料や活動を考える。
3. 1. 言語指導において目標の明確化とその達成の評価は基本である。LSP 教員は、学習者の学
習目標の設定を支援し、授業における活動を学習者の明確な目標設定に関連させることが
できる。
3. 2. 科目などの内容の理解を目標とする場合には、LSP 教員は、科目の話題を提供し、語彙や
その科目学習の場面などに焦点をあてて、言語活動を展開できる。
3. 3. 研究や専門分野の理解を目標とする場合には、LSP 教員は、研究や専門分野の言語的な課
題や分析に焦点を当てながら、分野の話題やジャンルを扱いながら言語活動を展開できる。
3. 4. 仕事の理解を目標とする場合には、LSP 教員は、実際の仕事に必要な教材を利用したり、
場面を想定して、語彙や表現の理解などに焦点をあて、言語活動を展開できる。
3. 5. その他娯楽や観光やコミュニケーションなどを目標とする場合にも、LSP 教員は、なんら
かの明確な学習目標を設定し、言語活動を展開できる。
3. 6. 明確な目標を設定するだけではなく、LSP 教員は、必ずその設定した目標が達成されたか
どうかを評価できる。
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スタンダード4:学習者の外国語学習ニーズに沿ったカリキュラム設計と評価
学習者の外国語学習ニーズは外国語学習の初期段階から重要である。早期に外国語を学び始め
るとすれば、そこには将来に対する学習や仕事の広がりというニーズがあり、テストがあれば、
そのテストで必要な点数を取ることにより、その次のステップにつながるというニーズがある。
LSP 教員は、そのような外国語学習のニーズに沿ったカリキュラム設計ができて、その評価が
できる必要がある。
4. 1. 早期外国語教育において、LSP 教員は、子供の身体的心理的発達特性についての支援や協
力を専門の教員から得ながら、適切な言語材料と言語活動を提供することにより、学習者
の言語習得や学習を支援できる。
4. 2. 初等外国語教育において、LSP 教員は、児童の心理的発達特性についての支援や協力を専
門の教育から得ながら、児童の外国語学習の動機づけに特に配慮して、適切な言語材料と
言語活動を提供することにより、学習者の学習を支援できる。
4. 3. 中等外国語教育において、LSP 教員は、生徒の外国語学習に対するニーズを把握し、動機
づけに配慮して、言語知識、言語技能、学習方法などの基礎を指導しながら、適切な言語
材料、言語活動、場面などを提供し、適切に評価し、学習を支援できる。
4. 4. 高等外国語教育において、LSP 教員は、学習者の外国語学習に対する明確なニーズを把握
し、自律学習を支援できる。また、適切に言語知識を提供し、言語活動などをする機会を
促進し、さらに必要に応じて、学習者の専門分野や仕事に特化した外国語教育の場面を専
門分野の教員や学習者とともに設定できる。
4. 5. その他の外国語教育において、LSP 教員は、個々の学習者のニーズに応じて、必要な言語
知識や言語技能を精選して提供し、学習者の自律学習を支援する。その際、教科書教材の
選定と学習方法や助言などが適切にできる。
4. 6. LSP 教員は、上記の様々な学習者のニーズに対応したカリキュラム設計ができ、それぞれ
の学習者に対応した指導ができる。必要に応じて各学習段階の教育の専門家及び分野や仕
事の専門家などと協力できる。
スタンダード5:学習者の学習履歴の把握と学習方法の支援
学習者の学習履歴の把握は、LSP 教員にとって重要である。学習者は言語学習に関して一律の
意欲や適性を有していないことが多い。言語学習に際して、言語学習能力や適性、その他の知
識などを総合的に判断し、適切な学習方法を支援する必要がある。
5. 1. LSP 教員は、学習者の学習履歴に配慮する。言語学習履歴だけではなく、母語による様々
な知識や経験についても把握し、適切な学習計画を示すことができる。
5. 2. LSP 教員は、学習者の将来の活動分野に役立つ外国語教育をする。外国語という言語だけを指
導することが目的ではなく、その分野で必要な言語の知識と技能である点に常に留意できる。
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5. 3. 初等教育において外国語指導をする場合、LSP 教員は、子供の興味関心に注意を払い、特
に外国語学習に適性があり、動機づけがなされている子供に対しては適切な学習計画を指
導できる。
5. 4. 中等教育において外国語指導をする場合、LSP 教員は、特に生徒の学習履歴に注意を払い、
外国語学習に困難を感じている生徒に適切な助言をし、外国語学習の意義を指導できる。
5. 5. 高等教育において外国語指導をする場合、継続している外国語の指導であれば学習履歴を
正確に把握し、欠けている知識や技能を補強し、能力をより伸長するための機会を提供し、
自律学習を支援できる。さらに必要に応じて、特定分野の外国語の知識や技能の学習を支
援できる。
スタンダード6:学習段階、科目内容、分野、仕事などのディスコースコミュニティの理解
学習者は学習段階に応じて学習者同士のディスコースコミュニティの中で生活している。外国
語学習をする場合には、そのディスコースコミュニティにおいてどのように外国語が使用され
るかは重要となる。適切な外国語使用のディスコースコミュニティに学習者が触れることがで
きない場合には、LSP 教員は、その内容、分野、仕事などのディスコースコミュニティの理解
に必要な要素を提供する。
6. 1. 初等中等教育においては学習者が一様になることが多い。LSP 教員は、その点を踏まえて、科
目内容、分野、仕事などの疑似ディスコースコミュニティを言語活動の場として提供できる。
6. 2. 初等中等教育において、LSP 教員は、必要に応じて、特定のディスコースコミュニティに
関連したオーセンティックな活動や教材を提供できる。
6. 3. 高等教育及び成人教育において、LSP 教員は、分野や仕事に関連したディスコースコミュ
ニティを専門家や学習者との共同において提供できる。
6. 4. 様々なディスコースコミュニティは、学習段階に応じて変化する。ある場面では言語にシ
フトし、ある場面では内容にシフトする。LSP 教員はこれらを適宜調整することができる。
スタンダード7:学校教育目標や学校文化の理解と外国語教育の専門性
外国語教育は学校教育目標や学校文化を基盤として存在する。現在の日本では英語教育が中心
であり、それは社会のニーズでもある。LSP 教員は、それらの学校教育目標を理解し、また学
習者が育まれている学校文化を理解して、外国語教育の専門性を維持する必要がある。初等中
等教育の教員であればその職を優先し、なおかつ、LSP 教員として力量を発揮する。
7. 1. 初等中等教育には学習指導要領に則った教育目標がある。LSP 教員は、学習指導要領を理
解し、外国語教育目標を踏まえて、外国語指導を計画し実践することができる。
7. 2. LSP 教員は、小学校から高等学校までのそれぞれの学校文化に関して必要に応じて理解を示
し、高等教育機関等ではその社会文化伝統を基盤として外国語教育を実践することができる。
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7. 3. 外国語教育の専門性は分野や仕事などの明確な目的をもって実践されることにある。LSP
教員は、外国語教育に関連する知的訓練や異文化理解などの効果を理解し、その面につい
ても考慮することができる。
7. 4. LSP 教員の特徴は柔軟性にある。LSP 教員は、様々な学校文化に対応できる柔軟性をもって、
学習者の明確な学習目標を達成するために、外国語教育の専門性を維持することができる。
スタンダード8:外国語使用のジャンル(場面や社会文化など)に対する理解
LSP 教員にとって、指導する外国語が使用されるジャンル(場面や社会文化など)の理解は必
須である。養成以前あるいは養成段階において外国語が使用される地域での生活経験は最も重
要である。また、単に生活経験だけではなく、特定の分野での学習や仕事経験はその後の資質
向上に必要である。LSP 教員は、随時その専門性の維持のために様々な外国語使用体験を研修
すべきである。
8. 1. LSP 教員は、養成段階以前に、外国語が使用される地域での生活経験を有する必要がある。
短期の留学でも、ボランティアでも、最低2ヶ月程度の期間コミュニケーション活動等を
経験する。
8. 2. LSP 教員は、外国語使用において言語文化的な関心のみならず、社会や仕事などにも関心
をもって、外国語学習を続け、指導においてもその知識や経験を効果的に活用できる。
8. 3. LSP 教員は、ある特定の分野や仕事とのかかわりがあれば、その知識や経験を指導におい
ても有効に活用し、言語とのかかわりや困難などへの対処のストラテジーを指導できる。
8. 4. LSP 教員は、指導に従事しながらも、外国語使用体験の機会を定期的に与えられる必要が
ある。それは指導法の研修ではなく実際に外国語が話される地域での目的をもった特定の
分野や仕事体験であり、LSP 教員はそれを有効に活用できる。
スタンダード9:初等教育から高等教育まで系統的外国語教育理解
学習者は初等教育から高等教育まで系統的に教育を受けている。LSP 教員は、どの段階を指導
する上でも、学習者がどのような教育を受けているかを理解しておく必要がある。現行ではた
いていの学習者は中等教育で英語を学んでいる。その目標は「実践的コミュニケーション能力」
である。高等教育等で外国語指導する LSP 教員はその点を理解しておく必要がある。
9. 1. 外国語指導は系統的に学習される必要がある。LSP 教員は、学習者が小学校から社会人ま
で外国語学習を自主管理できるよう支援することができる。
9. 2. どの学習者も同じように外国語能力を発達させるわけではない。また、意欲も異なるし、
必要な外国語も変わる。LSP 教員は、そのような学習者のポートフォリオ作成の支援を
することができる。
9. 3. LSP 教員は、学習者が作成するポートフォリオを参考に、その学習者個人にとって最適な
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外国語学習を援助することができる。
9. 4. 高等教育以上で高度な専門的知識を要する学習段階においては、LSP 教員は様々な役割を
して、専門分野にかかわる学習の支援をし、必要な教材や学習方法を提示することができ
る。そのために系統的な外国語教育全般を理解しておく必要がある。
スタンダード 10:評価測定方法に関する知識と技能
言語学習の評価測定は、学習の各段階において適切に行われる必要がある。また、何をどう評
価測定しているかを適切に理解する必要がある。LSP 教員は、言語の知識や技能だけではなく、
時に応じて、内容や分野の知識や技能の評価測定も行うことがある。それらの評価測定の目的
は言語学習の明確な目標達成のための形成的評価が基本である。
10. 1. 言語学習の評価測定は、学習の各段階で適切に行われ、利用される。LSP 教員は、その目
的と方法を理解し効果的に活用できる。
10. 2. LSP 教員は、語彙や文法構造などの言語知識の理解を評価測定する方法と、4技能などの
言語技能を評価測定する方法を適切に利用できる。
10. 3. LSP 教員は、言語知識や技能が科目内容、専門分野、仕事、娯楽など内容に関係する場合
には、その効果的な評価測定もできる。
10. 4. LSP 教員は、外国語学習者の学習の進歩や学習者の弱点を理解するために形成的評価測定を
行い、指導内容や方法を調整する。さらに、学習者がどの段階にあるかを把握するための到
達度評価測定の方法を理解することができる。必要に応じて、専門分野や仕事など特定分野
のジャンル分析(言語がある分野や領域でどのように使用されているかの分析)ができる。
4.4. 養成と研修内容
LSP 教員の養成には、現行の各大学に位置づけられている中等教育の教員免許状取得システム
である教員養成課程を基本的に利用する。
その際に先に示したスタンダードを認定の要件とする。
それぞれのスタンダードに関連する科目の例は下記に示す通りである。研修においても、同様の
観点から資質向上を図る。
スタンダード1:外国語の知識と技能
科目例:リーディングなど英語の技能向上を目標とした科目、プレゼンテーション、コミュニ
ケーションなどの科目、TOEIC などの資格科目、海外留学などの経験、英語学、英文学、教育学、
哲学、人文学、ビジネス、科学技術、芸術、法律などの専門科目の英語学習経験
要件のポイント:CEFR の B1 相当(養成開始段階)、C1 相当(養成修了段階)
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スタンダード2:外国語授業運営の知識と技能
科目例:教育法規、学校教育理論と実践、学習者心理、学習と発達などの教育学一般
外国語指導理論、外国語指導技術、外国語評価方法、学校での実地訓練
要件のポイント:授業実践 30 時間以上の訓練と資格要件に関する評価
スタンダード3:学習者の外国語学習目標の明確化
科目例:LSP 理論と実践、様々な分野や内容を目標とした授業
要件のポイント:目標設定と授業設計
スタンダード4:学習者の外国語学習ニーズに沿ったカリキュラム設計と評価
科目例:カリキュラム、シラバス開発、ニーズ分析
要件のポイント:カリキュラム、シラバス設計
スタンダード5:学習者の学習履歴の把握と学習方法の支援
科目例:学習者理解、自律学習、学習スタイル、学習ストラテジー、ポートフォリオの作成
要件のポイント:学習者履歴の把握と適切な支援方法
スタンダード6:学習段階、科目内容、分野、仕事などのディスコースコミュニティの理解
科目例:ジャンル分析、各専門分野や仕事の外国語使用調査
要件のポイント:ディスコースコミュニティの分析と理解
スタンダード7:教育目標、学校文化の理解と外国語教育の専門性
科目例:臨床教育学、教育行政、学校経営、学校文化、教育課程、学習指導要領
要件のポイント:外国語教育の専門性
スタンダード8:外国語使用のジャンル(場面や社会文化など)に対する理解
科目例:社会言語学、ジャンル分析、言語文化
要件のポイント:様々な分野や内容に関連する外国語使用状況の把握方法
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スタンダード9:初等教育から高等教育まで系統的外国語教育理解
科目例:早期外国語教育、小学校、中学校、高等学校外国語教育、大学外国語教育、社会人外
国語教育
要件のポイント:系統的外国語教育の課題と現状
スタンダード10:評価測定方法に関する知識と技能
科目例:テストと評価、テスト作成、ポートフォリオ評価
要件のポイント:テストの意味と機能
4.5. LSP 教員養成と研修システムのカリキュラムと構成図
LSP 教員は、大学での初等中等教育の教員養成で外国語科目の免許状を取得する課程に学ぶ人
のみならず、現行の大学の各専門科目を学ぶ人や各専門分野で実務経験がある人なども対象者と
する。そのため、LSP 教員養成と研修システムのカリキュラムは科目履修という考え方ではなく、
資格要件を満たしているかどうかが重要となる。また、LSP 教員は多様なニーズに応えうる資
質が必要であるが、どのような分野、内容、レベルなどが得意であるかという適性は当然重要と
なる。そのために次のような融通性の高いモデルカリキュラムを基本とする。
次のようにそれぞれのスタンダードに合わせてモジュールを設定し、履修者はそれぞれのモ
ジュールを修了することで資格要件を満たすこととする。
モジュール1:外国語の知識と技能
様々な科目、分野、仕事などについて、自分でジャンルを設定し、それに関連した言語知識と
技能を学習する。発音、語彙、文法構造、表現、テキストなどの言語的特徴を調査し、分析して、
まとめる。関連するジャンルは少なくとも3種類(例:数学、経営学、ビジネス)。発表はすべ
て当該言語で行う。
外国語能力基準:開始段階 B1、修了段階 C1 相当。
モジュール2:外国語授業運営の知識と技能
実際に授業を行いながら指導技術を向上する。具体的には、マイクロティーチング、授業観察、
自己分析、指導案、教材などの作成を通じて、実践的な授業運営の知識と技能を向上する。ど
のような学習者を対象とするかは、各自で設定し、文献、事例、授業観察などを通じて調査する。
その調査を踏まえて実際に模擬授業をする。その過程から必要な授業運営の知識と技能をまと
める。
評価基準:指導計画、教材研究、模擬授業などを総合的に評価。
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モジュール3:学習者の外国語学習目標の明確化
LSP の理念は「特定あるいは明確な目的のための」言語とその教育にある。ある科目、分野、
仕事を設定して、その学習ニーズを把握し、どのような目標設定をし、その達成のためにどの
ような方法を取るか、また何を教材として使うか、などを研究する。たとえば、小学校で算数
を英語で教えるといった授業の場合、学習ニーズは「ある買い物をする場合の計算をともだち
に説明する」、学習目標は「値段の言い方、計算のプロセスの説明のしかた」「質問や答えの言
い方」など、方法は、「実際に買い物の場面を設定し、やりとりをする」、教材は「電卓」など。
評価基準:目標を明確にした指導案の作成。
モジュール4:学習者の外国語学習ニーズに沿ったカリキュラム設計と評価
学習者を対象として外国語学習ニーズを把握し、カリキュラム開発ができることは LSP 教員に
とって重要な資質である。この場合のカリキュラムは融通性のある内容でなければならないが、
目標は明確に定める必要がある。医学の分野であれば、「細胞生物関連の講義が当該外国語で聞
いてメモが取れる」という明確な目標を設定することにより、語彙や内容知識、聞き取りのポ
イントなどのシラバスを作成できる。その場合の評価のポイントを的確に設定し、評価に応じて、
次に進むステップを考える資質が必要である。
評価基準:学習者のニーズを反映したカリキュラムの設計と適切な評価。
モジュール5:学習者の学習履歴の把握と学習方法の支援
学習者の学習履歴は、外国語を学ぶ動機、意欲、将来の希望、学習、職業などとの関連におい
て把握することが大切である。外国語を学ぶことが本人の意志と関係のない場合でも、学習履
歴からその必要性などを学習履歴と関連させ、援助をすることもまた重要である。その点を踏
まえて、学習履歴の何が大切で、どのように把握するのかを実践的に調査研究する。その際に
学習履歴を把握した後に、どのような学習支援方法を指導することが適切なのかも研究する。
評価基準:学習者履歴の効果的な把握方法と学習方法の理解
モジュール6:学習段階、科目内容、分野、仕事などのディスコースコミュニティの理解
言語が使用されるディスコースコミュニティの理解は、LSP において重要な概念である。その
点から、各学習段階、科目内容、分野、仕事などで外国語が関連するディスコースコミュニテ
ィの理解をどのように調査するかは工夫を要する。ある内容、分野、仕事を設定し、そのディ
スコースコミュニティの特徴を分析して、まとめる。
評価基準:ディスコースコミュニティの調査方法と調査結果。
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モジュール7:教育目標、学校文化の理解と外国語教育の専門性
学校には教育目標がある。各教科はその教育目標を前提として指導される。そこには学校文化
が存在し、外国語が使われる文化と対立することも多々ある。LSP 教員はそのことをよく理解
している必要がある。外国語教育に携わり、学習者の目標を実現させるという前提と、学校教
育の教育目標や文化との共存を図るために、どのような工夫をする必要があるかを調査研究す
る。
評価基準:関連する学校教育目標や文化の理解と外国語教育の専門性の理解
モジュール8:外国語使用のジャンル(場面や社会文化など)に対する理解
外国語使用のジャンル(場面や社会文化など)は多様であり、すべてを把握することは困難で
ある。この場合の理解はプロダクトではなくプロセスとしての理解である。つまり、いくつか
のジャンルを設定して、そのジャンルにおける言語使用と場面や文化などを分析する方法を理
解することを通して、どのように目標となる言語を効果的に指導するかを考える。
評価基準:ジャンル分析の方法の理解
モジュール9:初等教育から高等教育まで系統的外国語教育理解
初等教育から高等教育までを詳細に理解することは困難であるが、系統的に学習がどのような
外国語教育政策の中で行われているのかを把握しておくことは重要である。学習指導要領によ
れば、中学校からほぼすべての人が英語を学ぶ。しかし、実は、小学校ではかなり多様な英語
教育が行われつつある。その系統性がどのようになっているのかを調査し理解することが必要
である。
評価基準:外国語教育の系統性の理解
モジュール10:評価測定方法に関する知識と技能
何のためにテストをするかを理論と実践の面から考察する。実際にテストを作成し、そのテス
トが何を測定しているのか、何が測定されていないのかを考える。形成的評価とは何か、ポー
トフォリオ評価とは何かなどを実践面から調査する。量的評価と質的評価について具体的な事
例を考察し、効果的な評価測定のあり方を考える。
評価基準:学習者の目標到達度設定と形成的評価の理解
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学習指導実習
実習教育機関:
上記の各モジュールと並行して、次のカテゴリーの教育機関で実習を行う。
・ 小学校、中学校、高等学校など初等中等教育機関(一般的な外国語学習)
・ 小学校、中学校、高等学校など初等中等教育機関(科目や仕事などの内容と連動した外国語
学習)
・ ある特定の分野や仕事に関連した高等教育機関及び社会人教育
期間:
上記のそれぞれの教育機関で不定期に2ヶ月程度
内容:
上記のモジュールで学習する内容を総合的に実習する。目的は、授業実践の知識と技能と教材
準備や評価、学習者理解などを実際に経験することから省察 (reflection) し、最終的に、実践記
録と報告書をまとめる。
指導及び評価:
受け入れ機関での指導者は、助言者あるいは支援者として、指導の様子を観察させたり、実際
に授業をする機会を与え、意見交換をし、互いの資質の向上に役立てる。指導の記録を作成し、
定期的に報告する。養成の場合も研修の場合も、最終的な評価者が実習生と面接することにより、
判断する。学習指導実習中は、評価者による少なくとも3回の授業観察がある。
評価:合否で判断する。否の場合は、その理由を明確に実習者に提示し、さらに実習を続ける
か中断するか判断して、その後の対応を支援する。
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LSP 教員の資格と更新
LSP 教員は、現行の教員養成と研修において育成されてきた人材を活用することと、日本の外
国語教育に携わる人材を生かすことを前提としている。また、今日混沌とした外国語教育と外
国語教員養成と研修システムに柱を作ることを目的としている。その点を踏まえて、LSP 教員
の資格とその活用について触れておく。
資格は社会的に認知されなければ意味がないことは言うまでもないが、この試案を基盤として
研修を実施することで、実際に効果的な授業を実施できるようになることが重要である。つまり、
外国語教員の専門性を高めることを目的として資格(LSP 教員として研修を修了したことの証
明)を設けるものである。その趣旨から、漠然とした証明書では信頼性がないので、対象言語
と具体的な担当分野や学習対象者を付帯事項として記載する。
資格例1: LSP 教員認定証 英語 担当分野(小学校一般、中学校数学、高校・大学・社会人コンピュータ初歩)
資格例2: LSP 教員認定証 英語 担当分野(中学校、高校・大学・社会人一般、医療系)
資格例3: LSP 教員認定証 中国語 担当分野(小学校一般、中学校一般、高校・大学・社会人文学及び文化)
資格例4: LSP 教員認定証 イタリア語 担当分野(高校・大学・社会人料理)
資格例5: LSP 教員認定証 アラビア語 担当分野(小学校、中学校、高校一般、大学・社会人ビジネス)
さらに、どのような履歴、資格、経験があるのかをポートフォリオとしてまとめておく。
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5 章
LSP 教員養成・研修システムの周辺
笹島 茂
本調査研究の目的を達成するために、多くのフィールドワーク調査を実施した。また、研究発表
も行った。それらの調査は間接的に本研究の知見となり、有用な示唆を与えた。ここでは、それ
らの調査をまとめた研究ノート、論考、発表資料を掲載しておく。さらに、本研究の協力者とし
て多くの示唆を与え、また協力していただいたリチャード・ジョンストン名誉教授(スターリン
グ大学・スコットランド)の講演資料もここに掲載しておく。
5.1. 香港英語教員の養成と研修
香港は、香港教育学院を中心として言語教員の養成と研修について質の向上を図っている。また、
その他の大学においてもコースを設置し、ディプロマ、修士、博士などのプログラムを現職の教
員や教職に就く人を対象に提供している。本研究では、英国の外国語教員の養成と研修に焦点を
あてて調査したが、香港にも注目した。その理由は、香港の言語教育環境と言語教員の質の向上
と維持におけるテストの導入 (LPAT: The Language Proficiency Assessment for Teacher) と実施であ
る。まず、言語事情に関しては、1997 年の返還以来、政治状況が一変し、中国普通語(北京語)
の普及が言語政策として重要課題となった。また、経済的な事情から英語のニーズがさらに加速
し、この2種類の言語と広東語との三言語の教育が初等中等教育の重要な課題となった。その面
から教員の質の向上が政策として一挙に推進された。特に、英語教育においては教員の質に対す
る懸念があり、テストの導入に踏み切った。2004 年から英語教員になろうとするすべての人は
5段階でレベル3以上を取得することが要求されるようになった。テスト内容では、言語の知識
と技能(4技能のテスト)と実際の授業での言語使用が評価される。このテストに関連する様々
な研修コースが各大学で設置されている。このような方針に象徴されるように、香港の英語教員
の養成と研修は、言語の知識と技能に集中している。
このような状況を把握するために、実際に現地調査を実施し、香港教育学院、香港大学、香港中
文大学、香港バプティスト大学を訪問した。いずれもゆるやかな連携をもって養成や研修を実施
している。目的は明確で、「学校の教育活動全体を司る教員を育てる」というよりは「教科・科
目の知識と技能と効果的な指導法を身につける」ことが重視されている。香港教育学院が教員養
成と研修の中心である。英語に関して言えば、学士、修士、博士という課程を設けて、教員の学
歴資格の向上に努めている。さらに、近年では英語圏での留学をコースの中に取り入れている。
教職科目も当然提供されているが、教科である英語指導が中心的課題となっている。養成でも現
職教員の研修でも、研修の中心は、英語の知識と技能であり、また、実際に授業でどのように指
導するかという指導力である。卒業生や修了者は、ほぼ全員教職につき、初等中等教育で教員と
して活躍する。
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実際に、香港大学で二つの教員研修の授業を見させてもらった。双方とも資格につながる授業で、
現職の教員や英語を教える仕事に携わる資格を得るために参加している。内容的には TESOL な
どのカリキュラムに則った授業で、英語指導にかかわる指導法や英語圏社会や文化の理解につな
がるものである。ここにも、LPAT の影響が大きく、指導につながる英語力の向上が教員研修で
も主流となっている。一つの授業はいわゆるディプロマ取得の授業である。内容は英文学の授業
であるが、すべて英語で行われ、英語で内容などを議論する授業である。受講者は英語を日常的
に使う機会が多いようで、英語でのコミュニケーションはごく自然である。講師も中国人であり、
母語はおそらく皆広東語である。数人の受講生(現職教員)に「日々の英語活動のアイディアを
共有できる場が必要ではないですか」と尋ねてみた。日本ではふつうに教員研修で最も望まれる
内容であるが、彼等は特に関心を示さなかった。また、修士コースの授業を参観した。これは英
語指導法の授業で、リサーチ方法についての演習であった。講師は英語母語話者であり、内容は
香港に特化した内容ではない。ということは、香港大学で提供されているプログラムの多くが、
香港の英語教育のローカルな問題解決につながる対処療法的な課題を扱うのではなく、TESOL
などのカリキュラムに準拠しているという可能性が高いということになる。受講生の何人かに尋
ねてみると、やはり自分のキャリアを上げるためにコースを取っているということである。
このことから、香港の多くの大学では英語教員の資質を向上するコースが提供されるようになっ
ているが、目的は、あくまで英語力と指導力の向上にあり、英語教員としての専門職を高めるた
めにあるということが分かる。これは明らかに日本の教職の専門職大学院の目的である教員とし
ての専門職の資質向上とは異なる。この点が、本研究のテーマである LSP 教員養成と研修の開
発に重要な示唆を与えている。つまり、言語教員の資質向上のポイントは、指導する言語の知識
と技能及びその言語を指導する知識と技能にあるということである。香港の教員養成と研修はそ
のことにほぼ特化していると言ってよい。さらに、香港の英語及び普通語を中心とした言語教育
は分野や仕事に強く関連している。このことは、香港の大学における LSP(ビジネス英語、ビジ
ネス中国語、医学英語、法律英語など)科目の充実につながっているのである。
5.2. オーストラリア(ビクトリア州)の外国語教員の養成と研修
オーストラリアは州によって教育政策が異なるので一概に言えないが、多言語多文化環境を尊重
した言語政策や言語教育政策を打ち出しているという点が基本にある。オーストラリアの言語教
育は、LOTE (Languages Other Than English)(英語以外の言語)と呼ばれている。中国語、フラン
ス語、ドイツ語、ギリシャ語、インドネシア語、イタリア語、日本語、韓国語、スペイン語を対
象としているが、その他に地域言語などを含む。基本的には、国際社会に対応できる言語と文化
の理解を目的としているが、次の一節にある通り、将来の学習や分野や仕事も視野に入れている。
Learning a language is recommended for its contribution to the overall education of students, particularly
in the areas of communication, intercultural understanding and literacy. It provides a foundation for later
language learning and supports educational, career and life pathways. (Department of Education, 2008: 5)
さらに、移民の多いオーストラリアでは第2言語としての英語も重要である。その点から言語
教員の養成と研修はその両面から提供されている。オーストラリアの教員養成と研修は英国とよ
69
く似たシステムであり、スタンダードに基づいている。大学で、この LOTE と ESL にかかわる
授業を参観した。LOTE 指導法のクラスには様々な外国語教員志望者が集まり、英語を通して指
導法に関して学んでいた。英語を母語としている人や、英語を第2言語、外国語としている人が
20 人ほど集まり、指導法の理論と実践を学ぶ授業である。指導言語は英語で行われ、様々な外
国語志望の人がいるので、外国語一般を指導するという内容であった。授業内容よりも、日本語
からラテン語まで多様な言語教員志望者がいっしょに活動していることに学ぶべき点がある。対
象外国語が広いので仕方がないのかもしれないが、日本では経験しにくい。また、次に参観した
ESL の指導法関連のクラスでも、インドネシア、中国、台湾などから来ている人とオーストラ
リアの人がいっしょに学んでいた。EIL (English as an International Language) の重要性をさかんに
強調していた担当教員の言葉が印象に残る。批判もあろうが、英語は確かに他の言語との架け橋
のような役割をする立場になっているのは事実である。
両方とも言語指導にかかわる理論的な内容の授業であるが、外国語の知識や技能に焦点を当てる
ことはほとんどなく、香港大学で参観した授業や日本における指導法関連の授業と内容面でほぼ
同じであった。授業参加者は、すでに実際に教えている人もいるし、養成の人もいた。香港と異
なる点は、香港が香港の教員養成や研修に特化しているのに対して、オーストラリアの大学にお
ける教員養成・研修では、オーストラリアと他の国の両方の言語教員を対象としている点である。
つまり、初等中等教育に特化しているわけではなく、言語指導の方法などを教えている。もちろ
ん、オーストラリアの初等中等教育に関する授業は別にあり、また、学習者理解に関する授業も
ある。言語学や文学もある。それぞれがあるスタンダードに則ってプログラムが成り立っている
わけである。
オーストラリアの LOTE や ESL の教員養成や研修は、本研究が目指す LSP 教員養成と研修シス
テムとはあまり関係ないが、上記で述べた通り、英語だけではなくいくつかの外国語を想定した
コースあるいは初等中等教育に限らない言語教員養成や研修があり得ることを示唆している点で
貴重である。さらに、オーストラリアでも香港でもイマージョン (immersion) プログラムの研究
と実践が注目を集めている。多言語多文化に対応する教育を実践してきたオーストラリアで、ス
タンダードに基づく教員養成を実践し、なおかつ、多様な言語教員養成や研修の場を提供してい
る。日本が英語だけに集中し、さらに、中等教育だけの英語教員の養成と研修に特化しているこ
とは将来に対する言語教育政策の展望が欠けていると言っても言い過ぎとはならないだろう。
5.3. フィンランドの外国語教員養成と研修
フィンランドの外国語教員の養成と研修の特徴はその資質を保証している点にある。養成は大学
において行われ、5年の期間を設定し、修士の学位を必要要件としている。さらに、教育職は社
会的に認知され、養成に入る段階でのスクリーニングのハードルが高く設定されている。大学で
の養成カリキュラムは日本の養成課程と基本的には同様の考え方から構成され、教職専門科目は
重視されている。3年間で 180 単位、その後2年間で 120 単位を取得することで教員資格が得ら
れる。トレーニングと言うよりは「教育とは何か」という問いから始まる教育哲学が重視される
面がある。日本とのちがいは、養成期間の長さと、教職の実務に対する考え方が養成のカリキュ
ラムにどの程度反映されているかということと、教員の自律 (teacher autonomy) にある。必要な
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単位数のうち 60 単位は各科目の分野、仕事などの関連、また、授業の実際の運営方法にかかわっ
ている。教職員や教職で学ぶ学生との組織も充実し、教員の専門性や裁量はかなり尊重されてい
ると言われている。日本には教職員組合組織が文部省と対立してきたという歴史があるが、現在
のフィンランドにはそのような関係はないようである。
外国語教育に関して言えば、教員の言語能力は総じて高い。多くは英語教員であるが、これは大
学入学前の英語教育に一因がある。言語教育は CEFR に準拠した到達度レベルが明確に設定され、
B1 あるいは B2 程度までの能力が、大学入学の際に要求されるようである。外国語教員には指
導に関してかなりの裁量が設定されている理由の一つは、日本のように学習指導要領を基盤とし
た指導内容に関する細かい基準を設定せずに、この到達基準にそって指導するからである。教科
書内容も日本と比較すると量がある。教員の評価はかなり重視され、信頼もされている。教員養
成や研修では、このような教育に対する目的やアプローチを育成し、教員自身が考えることを重
視しているように見える。外国語教員にとっては学習者が外国語の設定された到達度に達するた
めにどう指導するかが明確な指導課題となる。
CEFR に基づく ELP (European
フィンランドは、CLIL に関する実践を先進的に推進している。また、
Language Portfolio) を積極的に取り入れている。双方とも、ヨーロッパの言語、文化、教育、仕
事などに深くかかわり、ヨーロッパに共通のスタンダードに基づいて推進している言語教育プロ
ジェクトである。このプロジェクト推進にあたって重要な役割をしているのが教員であり、教員
研修などにその内容が盛り込まれている。多くの面でつねに中心的な役割を果たしその原動力と
なっているのは教員なのである。フィンランドの教員養成は、いわゆる教職科目を大切にしてい
るが、目的は明確である。それは優秀な教員を育成することであり、担当する教育環境で自律し
て教育できる人材を育てることである。教職科目もその点に集約される。特に重視されるのが教
員の教育に関する実践的な知識と探求する力である。教育学、教育心理学などで扱われる理論的
な内容も当然実践とのかかわりで扱われる。このような臨床教育の観点が重要となり、教員の自
立へとつながっていると予想される。これは、CLIL や ELP の導入においても外国語教員が備え
るべき重要な資質となっている。
外国語教育に関しては、class teacher と呼ばれる初等教育を担当する教員、subject teacher と呼ば
れる中等教育を担当する教員が英語指導などにかかわる。英語は小学校3年生相当からふつう教
えられるが、教材や活動の詳細は教員の指導方針次第である。CLIL や ELP をどのように取り入
れるかは教員の責務である。また、必要な研修も教員次第となるが、教員はその力量を備えてお
く必要がある。当然自己研鑽が望まれるわけである。フィンランドの教員養成や研修に LSP 的
な視点が特に強くあるわけではないが、このような「自立した教員 (independent teacher)」の養成
や研修は考慮すべき点である。中等教育で外国語を指導する教員は、CEFR をもとに設定された
レベル設定を基準に指導することが求められる。教科書はあるが、必ずしも教科書にそって指導
するわけではなく、ガイドラインにそって指導するのである。教員は学習者の評価に大きな責任
を持ち、その評価は尊重される。職業学校などではその分野や仕事にも関連させて指導をする必
要も出てくる。教員はそれに対応できる専門職なのである。
71
5.4. IATEFL 大会報告
IAFTEFL は英国の英語教員を中心とする国際的組織である。毎年英国で大会を開いている。外
国語教育の中心が英語にあるので、このような大会は本研究にも大きな影響を与える内容を提供
する。本研究の途中経過の発表もあり、参加した。参加報告をここに掲載しておく
41st International Annual IATEFL Conference and Exhibition
Aberdeen Exhibition and Conference Centre, Aberdeen, UK 18-22 April 2007
2007 年の大会は、スコットランドのアバーディーンで4月 18 日(水)から 22 日(日)までの
5日間行われた。18 日は Pre-Conference Events (PCE) と Associates’ Day が催された。大会は、参
加総数が 1,600 人あまりとなる盛大なものであった。大会のプログラムのタイトルに Exhibition
(展
示)という語が入っている通り、各出版社や教材業者の展示にも大きなスペースを取っているの
が印象に残った。
大会の概要は下記の通りである。
4月 18 日(水)Pre-Conference Events (PCE), Associates’ Day
4月 19 日(木)第1日目 8:30 ∼ 18:40
Plenary Session Guy Cook
4月 20 日(金)第 2 日目 8:30 ∼ 18:40
Plenary Session Agnes Enyedi
4月 21 日(土)第 3 日目 8:30 ∼ 18:40
Plenary Session Mike Sharwood Smith
4月 22 日(日)第4日目 8:30 ∼ 13:30
Plenary Session Maggie Farrar
この間に、様々な Talk, Workshop、Symposium があった。これらの内容は、British Council の協
力により、Aberdeen Online としてウェッブサイトで知ることができるようになっていた。また、
poster presentation では、今回 online でも公開するなど online 機能を相当に活用する方向性を示し
ている点が特徴となっているようだが、実態は定かではない。ここでは、今大会中に限られた範
囲で関わった内容を報告することにする。
Associates’ Day について
9時から開催され5時まで熱心に様々な議題が話し合われた。各国の TA (Teachers’ Association)
が集まり、グループでまず自己紹介などが行われ、なごやかな雰囲気で始まった。会長の Tessa
Woodward、Assoicates 担当の Sara Hannam の挨拶があり、この大会で新しく会長となる Marion
Williams が紹介された。私のグループには、オランダ、韓国、カナダ、アゼルバイジャンの代表
の人がいた。議題は下記の通りである。
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10.00-10.30 The Articles’ Bank—Using and Expanding the Resource The Associates’ Page in “Voices” —
Sara Hannam
10.30-10.45 Introducing the TA Resource Book—Ana Falcao
10.45-11.30 Reaching More TA Members: How Can Technology Help?—Gavin Dudeney
11.30-11.45 Information available on Wider Membership Scheme—Glenda Smart
11.45-12.30 Accessing Funding for Teachers’ Associations—Sara Hannam, Silvija Andernovics
1.15- 1.45 Introduction to New Voices Editor and changes in “Voices”—Marion Williams, Alison
Schwetlick
1.45- 2.30 TAs and SIGs—Organizing Joint Events/Working Together—Sara Hannam, Sandie Mourao,
Colin MacKenzie & other SIG Reps
2.30- 3.15 Regional Cooperation / Utilising the Regional Speakers’ List Silvija Andernovics, Sara
Hannam
3.30- 4.00 TAs and IATEFL—Increasing membership together—Adrian Tennant
4.00- 4.45 Success Stories—Sara Hannam, Silvija Andernovics
4.45- 5.00 Review of the Day—Action Plan for 2007-8—Sara Hannam
主な話題は、IATEFL が様々な活動などの記事をウェッブに掲載し、共有しようとする Articles’
Bank を推進していること、学会運営の費用をどのように集めているか、Voices という雑誌の内
容に関する提案、各 IATEFL との連携のあり方やスピーカーなどのリストの共有、メンバーの加
入などについて議論があった。さいごに、参加者からの成功例の報告などがあり、盛りだくさん
の内容だった。
個人的に興味を持って参加した発表等について
初日の Plenary Session の Guy Cook 氏が、‘Unmarked improvement: values, facts, and first languages’
というタイトルで、言語教育の発達を、4つの基準 (scientific, pedagogical, utilitarian, politic) から
考察し、翻訳や第1言語の効用などについて論じた。昔からの議論の蒸し返しのような印象を受
けたが、言語教育が果たす役割を再考する意味ではおもしろい提案だった。初日から活況であり、
その他にも多くの発表があったことは言うまでもないが、紙面の都合と個人の興味の限界からす
べてを報告することは不可能である。以下は、教員研修と教員の認知に関連した内容に興味を持っ
ていたので、その観点からいくつか印象に残った発表を報告する。
Ester Nagy 氏の ‘Teacher cognition in vocabulary teaching: a case study’ の発表を聞いた。語彙指導に
関して教員がどう考えているかを事例研究から考察した。語彙指導に関する理論と実践を背景と
して、辞書、文脈などをどのように扱うかについて教師のビリーフなどを調査した内容で、調査
方法としておもしろいと思った。
Arthur McKeown 氏の ‘How teachers of other languages are doing their job’ という発表では、現在最も
注目を浴びている ICT の活用が他の外国語教育で盛んであり、有効である点を強調した内容だっ
た。特に、学ぶチャンスの少ない言語の学習に効果的である点を強調していた点が印象的だった。
73
Andy Kirkpatrick 氏の ‘Variation and intelligibility in World Englishes: implications for ELT’ では、様々
な英語の実態が紹介され、英語教育はそれにどのように対処していく必要があるのかが論じられ
た。
Akiko Nambu 氏の ‘Teachers’perceptions and team-teaching in upper secondary schools in Japan’ は、日
本の英語教員がもっと海外などでの研修の機会を持つことの必要性をティーム・ティーチングの
調査などから提言した。
Simon Borg 氏の ‘An international perspective on English language teachers’ conceptions of research’ は、
様々な国で英語を教えている教員のリサーチに関する意識を調査した。教員がリサーチをするこ
との重要性を指摘する例は多いが、実際にどのような状況にあり、どのように考えているかを丹
念に調査した内容で貴重な調査報告だった。
Martina Elicker 氏と Ulla Fuerstenberg 氏の ‘Observation and research in basic teacher training’ は、授
業観察を教員研修で効果的に実施しているという内容で、いまさらながら研究授業などの実践的
な研修の効用を痛感した。
Erika Hepple 氏
の ‘Challenging TEFL trainees’ professional beliefs: unexpected encounters in
international practicum’ は、香港の英語教員の研修内容として、オーストラリアの小学校で中国の
文化を実際に教えてみるという異文化体験を盛り込んだ実践を報告した。
CLIL symposium では、ヨーロッパで CLIL (Content and Language Integrated Learning) がどのよう
に実践されているかの事例が具体的に報告された。CEFR と関連しながら、CLIL が普及してい
ることが予想された。来年の大会では、CLIL は最も注目されるのではないかと感じた。
また、Language Learner Psychology symposium では、学習者の心理研究の動向が報告された。こ
のシンポジウムは次期会長である Marion Williams 氏がコーディネーターだった。定量的な調査
では分かりにくい面があるので、益々学習者心理の研究は進行するのではないかと考えられた。
Cizuyo Kojima 氏はこのシンポジウムで、日本人の英語学習者の成功者の事例を報告していた。
日本人が英国に来てどのような心理で英語学習に対処しているかを具体的に報告していて興味深
かった。
大会のさいごの plenary session では、Maggie Farrar 氏が ‘Dealers in hope’ というタイトルで熱の
こもった話をした。教育における学校のリーダーシップの意味とその必要性を論じた内容で、イ
ングランドの教育の現状と今後の動向に対する志向を多少理解できた。
笹島個人の発表について
Poster session に参加した。魅力の一つは、大会後半年にわたって IATEFL の HP に掲載してくれ
るという点である。また、内容が日本の英語教師調査に関するもので興味のある人しか聞いて
74
くれないと思ったからだ。発表タイトルは ‘EFL Teachers’ Awareness of ESP in Teacher Education in
Japan’ である。掲示の場所は、業者展示と同じ場所で、コーヒーなどの飲める比較的よい場所だっ
た。気軽に興味ある人と話ができ、いままでと違い大会の目玉とすると勧められたのだが、結局、
多くの大会と同様であった。しかし、結果的に、個人的にはかなり多くの人とコミュニケーショ
ンをかわすことができたことはよかった。
口頭発表だと運が悪いと聞いてくれる人も少なく、
がっ
かりすることも多いからだ。その点、意外に興味を持っていただき、よい情報交換ができた。発
表の趣旨は、日本の中学校英語教員の ESP 等に関する意識を教員研修の観点から調査したもの
である。結論として、ESP 等の意識は薄く、ヨーロッパ等で実践されている実践的な外国語教
育及び教員研修の内容がもっと日本の教員研修に導入されるべきという提言をしている。
大会全般に関すること
IATEFL の大会は以前から参加したいと思っていた。予想通り興味深い内容が多く、実践的な指
導や教員研修などに興味を持つものとしては満足のゆく結果だった。最も貴重だった点は、参加
者との交流である。英語教育あるいは実践的な言語教育に携わる人ばかりだったので、だれとで
も話が弾んだ。英語を母語とする人、英語を母語としない人など、それぞれがそれぞれの立場で
英語教育の現状を、指導のあり方、教材のあり方、研修のあり方など、実り多い交流ができた。
発表の中には、自分のビリーフだけを話している人もいたり、理念的なことを話題とするよく
分からないワークショップもあったが、総じておもしろかった。特に目立った内容は、やはり、
ICT など科学技術の発達とその活用だろう。ほとんど日本の英語教育の事情とちがいはないが、
一つ日本の事情と大きく異なる点は電子辞書関連だろう。辞書に対する関心はコーパスの発展に
ともない高いはずだが、売り出していたのは書籍の辞典だった。これは不思議なことだった。
大会を通じて最も考えさせられたことは、
「お金」のことだ。Associates’Day でも一つの大きなト
ピックだった。人を集めるのも、大会会場を借りるのも、よりよい研究を進めるのも、有益な情
報交換をするのも、すべての根本に「お金」の問題がある。会員の会費だけでよい大会を開催す
ることはむずかしい時代になった。その点、本大会の後ろ盾となる公的な機関や企業の力が、そ
こに携わる人の力を支えていると実感した。大会のさいごで講演した Maggie Farrar 氏が熱く語っ
ていた ‘leadership’ という言葉が妙に心に残っている。教育におけるリーダーシップはいつのと
きもキーワードだが、それを支えるシステムがないかぎり効果は期待できない。
閉会後、会場の近くにある Thomas Glover House に立ち寄った。明治維新で多くの志士の援助に
貢献し、三菱の創始者の一人でもあり、あの麒麟ビールのマークを考案し、長崎のグラバー邸
で有名な「スコットランドのさむらい (Scottish Samurai)」の Thomas Glover が暮らした家である。
その日の訪問者は私一人だったが、丁寧に説明してくれた。伊藤博文、森有礼、井上馨などがそ
の家を訪れ、宿泊している。彼らのような明治のリーダーを育てるにも、それなりの後援者とお
金が必要だったのだろう。当時、こんな田舎(と言っては失礼だが)のスコットランドのアバー
ディーンで彼らは何を見て何を話しただろうかと考えながら、アバーディーンを後にした。
75
5.5.
リチャード・ジョンストン名誉教授講演資料
本研究の研究協力者であるスコットランド・スターリング大学教育学部リチャード・ジョンスト
ン名誉教授を招聘し、二度の講演をお願いした。講演は、早期外国語教育とヨーロッパの外国語
教育に関連する話であり、本研究の目的と密接に関連した内容である。二つの講演の発表スライ
ドを掲載しておく。
5.5.1. ‘An early start: costs and benefits of teaching additional languages on a
large scale in pre-primary and primary school education’
日時:9 月 28 日(金)4 時∼ 5 時 30 分 場所:早稲田大学
要旨:
Possibly the largest-scale policy-development across the world affecting languages at school concerns
the introduction of the learning of an additional language by young children in pre-primary and primary
school education. After a number of attempts in the 1960s and 70s which met with varied success, ELL
(early language learning) receded in importance in the remainder of the 1970s and throughout much of
the 1980s, but achieved a major renaissance from the early 1990s onwards, with strong support from both
the Council of Europe and the European Commission. The talk will address the following questions: Are
young children more suited than older children to learning an additional language at school? Does the early
learning of an additional language pose a threat to a child’s first language, or does it enhance this? Under
what conditions is ELL most likely to flourish? What sorts of training and professional support do ELL
teachers need? What models of ELL have been introduced and what can research tell us thus far about the
effectiveness and outcomes of these models?
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5.5.2.
‘Policy developments affecting languages in Scotland, the United
Kingdom and Europe’
日時:9 月 29 日(金)16 時 40 分∼ 17 時 40 分
場所:成蹊大学
要旨:
The two major transnational structures influencing languages in Education across Europe are the European
Commission (EC) and the Council of Europe. Both have exercised an enormously positive influence on
language teaching, but at the same time it is important to be prepared constructively to ask questions. In this
spirit three major areas of policy development will be discussed: The EC’s Action Plan for Languages; the
Council of Europe’s Framework and Portfolio; and the Council of Europe’s series of collaborative reports
on languages in particular countries/regions. Consideration will be given to identifying ways in which
these transnational structures have made a positive and distinctive contribution to the implementation of
languages policies in particular member states. These issues will be discussed in relation to major social
developments affecting Europe, e.g. globalisation; enlargement of the European Union; large-scale inmigration of different ethnic-linguistic communities; and localisation. They will also be discussed with
reference to two sharply contrasting sociolinguistic contexts: first, Scotland, the remainder of the UK and
the Republic of Ireland, where English is by far the dominant language and where there are consequent
problems of motivation for learning other languages; and second, the rest of Europe where societal
motivation for learning English as additional language can be so high as to have a negative effect on the
learning of additional languages other than English.
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5.6. 15th European Symposium on Language for Special Purposes 報告
寺内 一
The XVIth European Symposium on Language for Special Purposes was held at the University of Hamburg
(Germany) from August 27 to 31, 2007. The main theme of the conference was “Specialised Language in
Global Communication.” Papers were presented and colloquia were held on the following themes:
Linguistic features of specialized discourse
Textual and genre analysis of specialized discourse
Multilingualism
Global LSP communication
Cultural aspects of specialized communication
Cognitive aspects of specialized languages
Pedagogical aspects of LSP
The translation of specialized languages
LSP and multimedia communication
Terminology and terminography
Diachronic perspectives on LSP
Keynote speeches were presented by Prof. Dr. Dr. h.c. Juliane House, University of Hamburg, Germany
on “The role of English as a Lingua franca in multilingual and cross-cultural communication”; Prof. Dr.
Benjamin K Tsou, City University of Hong Kong, China on Bilingual English-Chinese parallel texts
and homothematic corpora”; Prof. Anne de Roeck, Open University, London, UK on Dataset profiling:
Exploring data sensitivity in corpus linguistics”; and Robert C. Kahlert, Cycorp Inc., USA on “Formal
languages for special purposes: Vague notions and expert opinions”.
The main organisers of the conference were Walther v. Hahn, Cristina Vertan and Prof. em. Dr. Dieter
Möhn of the University of Hamburg, Natural Language Systems Division. The Co-opted Scientific
Committee was composed of Prof. Dr. Christer Laurén, Prof. Dr. Angelika Redder, Prof. Dr. Margaret
Rogers and Prof. Dr. Heribert Picht.
More than 90 research papers were presented and more than 50 presentations were given in eight colloquia
organised on different themes, such as “Communication and language policies in the global marketplace,”
“New voices in terminology and future research directions,” and “LSP and the young researcher.” There
were sessions held in German, French, Italian and Spanish. The conference attracted about 170 participants
from about 20 countries from Europe, the Middle East, Asia, Africa, Australia and America. The largest
contingent was from Italy, followed by Denmark and then Germany.
The next biennial conference will be held in Aarhus, Denmark in 2009 and the following one in Perm,
Russia in 2011.
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6 章
EFL Teachers’ Awareness of ESP in Teacher Education
in Japan
SASAJIMA, Shigeru
(2007 年に開催された IATEFL での発表をもとに加筆した論考)
6.1. Introduction
English for Specific or Special Purposes (ESP) is popular in English Language Teaching (ELT) in many
countries. Also in teaching languages other than English, languages are closely related to career or content.
In Europe, LSP (Languages for Specific or Special Purposes), vocational languages and CLIL (Content and
Language Integrated Learning) have been recommended on the basis of the CEFR. In Japan as well, ESP
has attracted a number of applied linguists or English teachers in higher education, but I am afraid that EFL
teachers at secondary school in Japan would not be very much interested in ESP, vocational languages and
CLIL. Therefore I have conducted the questionnaire survey regarding their awareness of ESP in teacher
education in order to identify better teacher education programs, ideas relating to ESP, vocational languages
and CLIL, and EFL teacher professionalism relating to ESP among EFL teachers in Japan.
6.1.1 Vague aims for EFL teaching
Freeman and Johnson (1998) proposed a view of the knowledge base of language teaching that is rooted
in what teachers actually do in classrooms. However, there still have little empirical evidence to support
or evaluate the traditional components of teacher education programs and little understanding of how
teachers cultivate necessary knowledge for teaching in fact. Secondary-school EFL teachers in Japan may
have some difficulties in maintaining their teacher beliefs and cultivating their teacher knowledge. That is
because they have no clear standards of what to do in their English classrooms. In other words, there are
vague or different beliefs or thoughts about what to teach and how to teach English.
The national curriculum, which is called the Course of Study in Japan, regulates the syllabuses of foreign
languages (English) subjects in each grade, but does not demonstrate the goal-settings specifically. The
Course of Study (1998) provided by the MEXT (the Ministry of Education in Japan) presents the overall
objectives of foreign languages as follows:
To develop students’ basic practical communication abilities such as listening and speaking, deepening the
understanding of language and culture, and fostering a positive attitude toward communication through
101
foreign languages.
It has not described the goal-settings so that the Action Plan to cultivate ‘Japanese with English ability’ has
been proposed in 2003 to show some goals: e.g. ‘On graduating from junior high school and senior high
school, graduates can communicate in English’; ‘On graduating from university, graduates can use English
in their work.’ However, such goal-settings do not seem to be based on clear standards or benchmarks. The
MEXT does not show any specific processes to achieve them clearly.
6.1.2. Current EFL teacher education and standards
In terms of EFL teachers’ goal-setting, it says that ‘Almost all English teachers will acquire English skills
(STEP pre-first level, TOEFL 550, TOEIC 730 or over) and the teaching ability to be able to conduct
classes to cultivate communication abilities through the repetition of activities making use of English.’
Although it is still not clear what kind of English skills and teaching ability EFL teachers have to attain,
the intensive EFL teacher education programmes have been provided to all EFL teachers since 2003. The
results seem to be diversified due to each programme content and it is doubtful whether or not they can
satisfy many EFL teachers’ needs regarding their school activities and professional development.
EFL teachers have no clear standards for teaching English and school activities. In other words, they have
a number of standards, which have come from previous learning knowledge and traditional educational
philosophy.
6.1.3. EFL teachers’ views on knowledge-based teacher education
Teachers should develop their professional knowledge. Teacher education is thus a very important concept
for effective teaching. Especially the knowledge base can be necessary for reflective teaching. Stones (1994)
presents three important elements for reflection: 1) practical experience, 2) a meaningful knowledge base,
and 3) interaction with other human beings. Teachers should keep learning to have sufficient knowledge
and skills, but EFL teachers are considered to have different beliefs and knowledge because of no clear
standards or purposes regarding what to teach in their English classrooms.
There are three types of views of teacher knowledge: 1) cognitive views, 2) practical views, and 3)
pedagogic views (Hoyle and John 1995; John 2002). Wright (2005: 260) explains the three types of views
as follows:
1) cognitive views—teachers’ information-processing skills including decision-making models and
expert-novice studies; the contents of teachers’ thoughts and their cognitive processes, especially
decision-making
2) practical views—practical and personal knowledge to understand the complexities of interactive
teaching and thinking-in-action within teachers’ lives and personal experience
3) pedagogic views—pedagogical content knowledge (PCK) to uncover what teachers know and
102
understand about their subject, how this knowledge is translated into classroom activity and how it
influences children’s learning
EFL teachers in Japan are now working in different views of teacher knowledge and worried about their
teacher beliefs in changing social needs. Although the Japanese schooling system and effective classroom
teaching have been well evaluated so far, the knowledge base of EFL teachers should be renovated by
identifying what they are thinking, doing and reflecting.
6.1.4. ESP concepts in EFL teacher education
The fact is that most EFL teacher education programmes in Japan can lack the balance of theories and
practices of language teaching methodology. One of the reasons is the systematic problem of preservice
teacher education and recruitment. Preservice teacher education contents and social or school needs for
teachers are not always congruent, and the main work of EFL teachers in secondary education is not all
related to English teaching but whole-person education. The purposes of teaching English are actually
broad and vague in teaching in the classroom.
ESP is regarded as an approach to adult or mature learners. Dudley-Evans and St John (1998: 4-5) defines
the characteristics of ESP as follows:
1) ESP is defined to meet specific needs of the learner;
2) ESP makes use of the underlying methodology and activities of the discipline it serves;
3) ESP is centred on the language (grammar, lexis, register), skills, discourse and genres appropriate
to these activities;
4) ESP may be related to or designed for specific disciplines;
5) ESP may use, in specific teaching situations, a different methodology from that of general English;
6) ESP is likely to be designed for adult learners, either at a tertiary level institution or in a
professional work situation. It could, however, be for learners at secondary school level;
7) ESP is generally designed for intermediate or advanced students;
8) Most ESP courses assume some basic knowledge of the language system, but it can be used with
beginners.
In this research, the key point of ESP concepts is the needs analysis and the consideration of language
skills, discourse and genres appropriate to the activities of each discipline.
As for EFL teaching in Japan, ESP concepts, which I mean can include vocational languages and CLIL,
have been almost disregarded in secondary education as well as tertiary education, although ESP is getting
popular among English teachers at university these days. Therefore it is necessary to identify what EFL
teachers think about ESP concepts relating to teacher education.
103
6.2. Purpose
The purpose is to explore what secondary-school EFL teachers think about ESP concepts including
vocational languages and CLIL. Although ESP is related to English for users working at some special
or particular domain, such as academic, business, law, science and technology, and medicine, I use the
term ‘ESP concepts’ as a super-ordinate term relating to English relating to work and school. Thus,
vocational languages provided by CILT, the National Centre for Languages in the UK, and CLIL, which is
recommended in Europe, are included in ESP concepts in this research. I set the following four objectives
to conduct the questionnaire survey:
1) teacher education programmes;
2) English language learning needs;
3) pedagogical and language teaching goals; and
4) teacher professionalism.
Most teacher education programmes for secondary-school teachers do not have any ESP courses or
modules, and they tend to focus more on pedagogical contents or educational theories and practices, which
are not related to English language or English language teaching.
In order to identify these objectives, I had 12 questions concerning the following three domains:
1) Teacher education programs
2) Ideas relating to ESP, vocational languages or VOLL (vocational language learning) and CLIL
(content and language integrated learning)
3) Teacher professionalism relating to ESP
6.3. Subjects and sampling
Japan has a teacher licensure system for primary and secondary teachers. There are many people who
hold a teacher licensure because undergraduates can take that license when earning necessary credits. The
recruitment process is rather rigid and important to take a stable position as a public (state or maitained)
schoolteacher, and each local board of education applies teachers in different ways and different situations.
In order to clearly identify the relationship between EFL teachers’ awareness of teacher education and their
own teacher education programmes that they are now taking, I selected a particular local district and took a
purposive sampling. That is because I aim to understand what EFL teachers think about ESP concepts.
Thus I asked a local board of education to conduct a questionnaire survey and delivered questionnaire
sheets to 160 secondary-school EFL teachers. The questionnaire was considered to be a must item for them
so I fortunately collected 160 replies (one person did not answer any questions) with their agreement. All
EFL teachers are working for local lower secondary schools. Most of them are experienced schoolteachers
104
and are forced to participate in a summer intensive English training course, where they had to practice oral
English communication tasks and share English classroom teaching knowledge and skills for almost 10
days in total. The fact is that not all participants were willing to attend it.
The basic data of the subjects are summarized in Tables 1 to 6. In order to realize how they are working
during the intensive programme, I observed their activities in which one native speaking English instructor
taught English to approximately 20 EFL teachers and they had some oral communication skill tasks. The
main purpose seemed to be to improve their oral English skills not related to their teaching knowledge and
skills.
Table 1. School
Table 2. Gender
school
number
percent
number
percent
lower secondary
159
99.4
male
69
43.1
1
0.6
female
90
56.3
160
100
subtotal
159
99.4
1
0.6
160
100
defect
total
gender
defect
total
Table 3. Age
age
Table 4. Preservice teacher education
number
percent
21-30
34
21.3
Education/BD
12
7.5
31-40
40
25
Language/BD
129
80.6
41-50
60
37.5
Business/BD
5
3.1
Others
5
3.1
151
94.4
9
5.7
160
100
number
percent
preservice education
51-60
24
15
subtotal
158
98.8
subtotal
2
1.3
defect
160
100
total
defect
total
Table 5. Living abroad
Living abroad
over half a year
percent
Yes
18
11.3
No
138
86.3
subtotal
156
97.5
4
2.5
160
100
total
percent
Table 6. Teaching career
number
defect
number
Teaching career
1-3
24
15
4-6
11
6.9
7-10
12
7.5
11-15
29
18.1
16-20
10
6.3
21-
71
44.4
subtotal
157
98.1
defect
total
3
1.9
160
100
As shown in Table 1, all 159 subjects work for a lower secondary school where their students’ ages are
from 12 to 15. Table 4 shows their university majors because they can get a teacher certificate in any higher
education by earning required credits. EFL teachers in Japan do not require overseas experiences before or
during the preservice teacher education. The number of the teachers without living or studying abroad (86.3
%) may be surprising but traditionally or geographically normal.
The educational district or prefecture where the samples are extracted is in the urban areas in the Tokyo
105
metropolitan area. The 10-day intensive EFL teacher education programme was held in the summer school
holidays. The programme contains two main tasks: one is English skill training and the other is sharing
teaching ideas. It is a compulsory teacher education programme for all EFL teachers, which is regulated by
MEXT Action Plan (2003-2008).
6.4. Method and data analysis
I conducted the questionnaire survey with 12 questions (see Appendix). Each question has a multiplechoice part and a description part. As I intended to ask the follow-up questions, I asked the subjects to write
their names and contact email addresses. However, I promised the confidentiality. In the questionnaire I
have the following three sections:
A. What kind of teacher education systems or courses do EFL teachers need most?
B. What do EFL teachers think about vocational languages, ESP or CLIL in secondary education?
C. What is professionalism for EFL teachers?
Each section has four questions. In terms of the quantitative data, I basically present the raw data because
they can tell the fact well. The qualitative data, which were added by the subjects as the reasons or
complements, is analyzed in order to identify their awareness of teacher education.
6.5. Results and discussion
I will show the results and discuss regarding each section from a viewpoint of ESP concepts. As for the
section A, the point concerns EFL teacher education systems or courses. The section B is closely related
to ESP concepts and the section C deals with professionalism for EFL teachers. All the questions are not
always related to ESP concepts directly, but I intended to know their teacher beliefs or cognition regarding
ESP, so that each question can be all indirectly related to the purpose of this research.
6.5.1. Section A: Teacher education systems or courses
Question A-1: Which do teachers need more, practical or academic language skills in order to teach
students in the classroom? Why? (The meaning of the term ‘practical’ includes daily conversational
language skills and the term ‘academic’ includes school or subject-related language skills.)
Table 7. Practical or academic?
number
percent
practical
practical or academic language skills
110
68.8
academic
25
15.6
both or others
19
11.9
subtotal
154
96.3
6
3.8
160
100
defect
total
106
As Table 7 shows, most EFL teachers think that they need practical language skills more (68.8%). Many
of them add descriptive comments to show their own or social needs: e.g. ‘It’s social needs’; ‘I am not
confident of speaking English.’ However, when analyzing their descriptive data, the meaning of the terms,
‘practical’ and ‘academic,’ can be different among the subjects. It means that we should need to discuss in
details.
Question A-2: Which do teachers need more, 1) the target language knowledge and skills (proficiency) or 2)
teaching knowledge and skills (pedagogy)? Why?
Table 8. Proficiency or pedagogy?
proficiency or pedagogy
number
percent
proficiency
23
14.4
pedagogy
101
63.1
both
31
19.4
subtotal
155
96.9
5
3.1
160
100
defect
total
The results of Tables 7 and 8 seem to be interesting and somewhat hard to interpret. Many teachers selected
2) teaching knowledge and skills (63.1 %). One of the interpretations can be that many EFL teachers would
need practical English language knowledge and skills when teaching English in the classroom but would
not need such a high level of English proficiency outside the classroom. Another interpretation can be that
they would be worried about how they teach in class every day. In other words, they would need classroom
ideas because they had lacked such teacher education contents: e.g. ‘Teaching skills are indispensable.’
Question A-3: Which is more important for teachers, 1) teaching a language as a subject or 2) educating or
supporting learners in the whole school curriculum? Why?
Table 9. Subject teaching or educating?
number
percent
subject teaching
subject teaching or educating
28
17.5
educating
90
56.3
both
33
20.6
subtotal
151
94.4
9
5.6
160
100
defect
total
Many EFL teachers (56.3 %) think that educating or supporting their students is more important than
subject teaching, but their descriptive comments reflect that it is somewhat difficult to choose which is
important. However, this result may lead to their complicated schoolwork situation in Japan.
107
Question A-4: Do you think the current teacher education programs are effective for teachers in your
country? Please choose the ineffective ones.
Table 10. Ineffective teacher education
teacher education
number
percent
preservice/ITE
15
9.4
induction
19
11.9
CPD
18
11.3
preservice/ITE and induction and CPD
5
3.1
preservice/ITE and induction
1
0.6
induction and CPD
8
5
preservice/ITE and CPD
3
1.9
subtotal
69
43.1
defect
91
56.9
total
160
100
This question aims to identify whether or not teachers are satisfied with the current teacher education
programmes, but the results show that there are a few ineffective ones contrary to my expectations.
However, their comments seem to reveal their dissatisfaction against lack of practicality and effectiveness.
Perhaps many teachers may not be uninterested in the existing teacher education programmes.
In this section, all the questions are related to EFL teacher education systems or courses. In summary,
many EFL teachers tend to need more practical knowledge and skills which are closely related to everyday
English classrooms. The current teacher education system, including preservice or ITE at university, oneyear induction period after employment, and compulsory or voluntary CPD programmes, is not always
satisfactory among EFL teachers. One of the key points for the improvement of EFL teacher education
should be related to practicality. In other words, teaching knowledge and skills for students to attain
practical English communication ability should be provided in relation to education or their human
development. Regarding ESP concepts among EFL teachers, their interest goes to practical English
knowledge and skills more than academic ones, but it does not concern any specific future goals for their
students. It can mean that they are interested in the improvement of their English proficiency for teaching
and education. It will be clear for the next discussion.
108
6.5.2.Section B: Vocational languages, ESP or CLIL
Question B-5: Should EFL teachers be aware of vocational languages or ESP when teaching English even
in secondary education?
Table 11. Vocational languages / ESP
number
percent
Yes
vocational/LSP
40
25
No
41
25.6
Yes and no
71
44.4
subtotal
152
95
defect
total
8
5
160
100
The results do not show any tendency in terms of vocational languages and ESP. Among 40 teachers who
selected ‘practical language skills’ in Question A-1, 33 teachers answered yes to this question (82.50 %),
but 25 teachers who thought that educating is important also answered yes (62.5 %). Likewise, 44.4 %
of teachers answered yes and no. Teachers’ typical comments are also varied: e.g. ‘Students shouldn’t be
aware of career or work when studying English’; ‘We don’t have enough time to do so’; and ‘Students
should learn basic English useful in their daily life.’
Question B-6: CLIL has been conducted in many primary and secondary schools in Europe. Do you think
it is an appropriate method in your country?
Table 12. CLIL
CLIL
number
percent
yes
36
22.5
No
44
27.5
Yes and no
74
46.3
subtotal
154
96.3
6
3.8
160
100
defect
total
Teachers’ responses to this question are very similar to Question B-5. Many teachers are not concerned
about CLIL, thinking that it is not realistic or necessary for the current curriculum. Teachers’ descriptive
comments are: ‘I’m not sure of CLIL, but it would be difficult in Japan,’ or ‘Japan is different from
European countries.’
109
Question B-7: Should vocational languages, ESP or CLIL courses be provided in EFL teacher education
programmes? Please select the item(s) which should be provided.
Table 13. Teacher education programmes
TE Programmes
number
percent
Vocational languages
29
18.1
ESP
51
31.9
CLIL
7
4.4
Vocational languages, ESP and CLIL
7
4.4
Vocational languages and ESP
20
12.5
ESP and CLIL
4
2.5
Vocational languages and CLIL
4
2.5
subtotal
122
76.3
defect
38
23.8
total
160
100
In Japan, most preservice and in-service teacher education programmes for secondary-school teachers do
not include these courses. Except CLIL, which seems to be new to most EFL teachers in Japan, they show
their interest in vocational languages and ESP (Vocational languages 18.1 %; ESP 31.9 %; and Vocational
languages and ESP 12.5 %) in terms of their teacher education. Their outstanding comments are related to
their students’ needs: e.g. ‘Specific purposes are really important to students’; ‘It is necessary to know such
practical approaches’; and ‘It’s social needs.’
Question B-8: Do you think that EFL teachers should be entitled to teach the target language(s) to any
levels, from primary to adults?
Table 14. Coherent EFL teaching
primary to adults
Yes
number
percent
47
29.4
No
43
26.9
Yes and no
60
37.5
subtotal
150
93.8
defect
10
6.3
total
160
100
This question may not be appropriate for teachers. The answers are split into three and their reasons are
also different: e.g. ‘It is too broad, so I can’t cover all levels. Too hard.’ Each answer can be influenced by
their own standpoints or current work. Some thought of teaching English at primary school, and others
think about their own workload. Teachers for this entitlement seem to think that they want to teach different
learners, but those against it say that teachers should be specialists at one particular educational level.
In this section, I focused on ESP concepts relating to teacher education progarmmes and EFL teaching in
different domains. However, I have realized that many secondary-school EFL teachers are not familiar
with ESP concepts, such as vocational languages, ESP and CLIL. They seem to think that they are not
110
strongly related to their English classrooms. In other words, many EFL teachers tend to think that they
are schoolteachers first of all. Consequently, they are not aware of ESP concepts when teaching English
in class. Their main purpose to work at school cannot be exclusively related to teaching English, but they
might be committed to another purpose: their students’ whole-person development. Although the results
do not show any evidence, the fact is that there are three types of teachers: 1) working as secondary school
teachers (education); 2) concentrating on teaching English in secondary education (EGP); and 3) teaching
English to any kinds of learners (ESP/EGP).
6.5.3.
Section C: Professionalism for EFL teachers
Question C-9: Does ‘a professional language teacher’ mean a person who has appropriate language
knowledge and skills as well as teaching knowledge and skills?
Table 15. Professional EFL teacher
Appropriate proficiency and pedagogy
number
percent
Yes
112
70
No
14
8.8
Yes and no
18
11.3
sum
144
90
defect
16
10
total
160
100
Almost all EFL teachers agree with this question (Yes 70 %; Yes and no 11.3 %). It is certain that EFL
teachers should have appropriate teaching knowledge and skills as well as language knowledge and skills.
However, what is interesting is that teachers against this proposition (8.8 %) presents another important
factor as a professional language teacher. The factor is related to the ability to understand, manage and
educate their students.
Question C-10: Do you think that more teacher education programmes closely related to language teaching
should be provided to EFL teachers?
Table 16. EFL teacher education
focusing on language teaching
number
percent
Yes
88
55
No
10
6.3
Yes and no
45
28.1
subtotal
143
89.4
defect
17
10.6
total
160
100
The teacher education programme normally comprises not only language proficiency and pedagogy, but
also ICT, special education, student discipline, moral education, extra curricular activities, counseling,
health and sex education, and so on. Induction and in-service teacher education programmes include these
111
contents. EFL teachers do not always have sufficient teacher education programmes relating to language
teaching. The result show that many teachers (55 %) need more EFL teacher education programmes: e.g. ‘I
can’t afford to improve my knowledge. I need time to study for better English teaching!’; ‘I would like to
study abroad’; and ‘We are required to have better English proficiency, but I can’t.’
Question C-11: Do you think that the professional training of EFL teachers should be of a different nature
to other subject teachers regarding teaching and class management?
Table 17. Other subject teachers
number
percent
Yes
professional English teacher
73
45.6
No
46
28.7
Yes and no
23
14.4
sum
142
88.8
defect
18
11.3
total
160
100
This question has been frequently asked but it would be a good question to realize what each teacher
believes regarding teaching English. There are 73 teachers that answered yes to this question (45.6 %).
I read their comments and extracted four major factors: 1) providing communication activities in the
classroom; 2) working with assistant language teachers (ALT); 3) being a role model; and 4) focusing on
skill training. However, 28.7 % of teachers consider that all secondary-school teachers have no differences;
they think teachers have to cope with similar knowledge and skills and provide education. Consequently,
regarding teaching and classroom management especially, their professional training seems to be related to
secondary-school education exclusively, whether or not they need professional training for EFL teachers.
Question C-12: Do you think that EFL teacher education should allow EFL teachers to be able to teach at
any educational levels and any specific fields, e.g. business?
Table 18. ESP teacher education
ESP teacher education
number
percent
Yes
47
29.4
No
45
28.1
Yes and no
48
30
subtotal
140
87.5
defect
20
12.5
total
160
100
This question is related to the most concern of this questionnaire, but the results show that their answers
are clearly split in three (Yes 29.4 %; No 28.1 %; and Yes and no 30 %). It means that their awareness
of teacher education can be limited to a traditional or incumbent thought. However, the point is that
EFL teachers have not had any clear purposes or values to teach English to their students in secondary
education. The main clear purpose can be to help their students get good scores for the test at the university
entrance examination. Although teachers have the national curriculum, which is called ‘the Course of
112
Study’ in Japan, it does not show any attainment levels in terms of a subject, ‘foreign languages (English).’
In this section, I intended to explore EFL teachers’ professionalism. As the results clearly shows, language
knowledge and skills as well as teaching knowledge and skills are essential for EFL teachers. However,
each teacher seems to have a different awareness of professionalism. Most teachers feel the need for
more teacher education contents relating to language teaching, and many of them think EFL teaching
different from other subjects in terms of classroom activities and role models. In terms of the final question
regarding their potentiality to teach English in different education levels or different professional domains,
whose concepts are related to ESP, there are three types of EFL teacher education programmes: 1) the
teacher education programme including ESP theories and practices; 2) the teacher education programme
exclusively focusing on EGP (English for General Purposes) or teaching knowledge and skills related to
EFL in secondary education; and 3) the teacher education programme focusing on not only EFL teaching
knowledge and skills but also the whole-person development education, which is closely related to
students’ personality or social life. The fact is that many Japanese secondary-school EFL teachers tend to
commit themselves to each student intimately.
6.5.4.
Awareness of ESP concepts among EFL teachers
Consequently, I found that most secondary-school EFL teachers in Japan are not aware of ESP, vocational
languages and CLIL. In other words, they have not been provided enough knowledge about ESP concepts
through the process of teacher development from preservice, induction to in-service teacher education. In
order to clearly identify their awareness of ESP concepts in teacher education, I attempted the exploratory
factor analysis and then found three factors: 1) potential ESP teacher education (factor 1); 2) specialist EGP
or EFL teacher education (factor 2); and 3) the whole person development teacher education (factor 3) (see
Table 19). It means that EFL teachers in Japan are considered to have three distinctive thoughts regarding
teacher education:
Table 19. Rotated factor matrix
Items
Factor 1 Factor 2 Factor 3
8. Do you think that modern (foreign) languages teachers should be entitled to teach the
target language(s) to any levels, from primary to adults?
0.837
12. Do you think that modern (foreign) languages teacher education should allow language
teachers to be able to teach at any educational levels and any specific fields, e.g. business?
0.785
5. Should modern (foreign) languages teachers be aware of vocational languages or LSP
when teaching the target language even in primary or secondary education?
0.435
11. Do you think that the professional training of modern (foreign) language teachers should
be of a different nature to other subject teachers regarding teaching and class management?
0.765
9. Does 'a professional language teacher' mean a person who has appropriate language
knowledge and skills as well as teaching knowledge and skills?
0.706
10. Do you think that more teacher education programmes closely related to language teaching should be provided to modern (foreign) languages teachers?
0.37
0.59
2. Which do teachers need more, 1) the target language knowledge and skills (proficiency) or 2)
teaching knowledge and skills (pedagogy)?
0.752
3. Which is more important for teachers, 1) teaching a language as a subject or 2) educating
or supporting learners in the whole school curriculum?
0.592
1. Which do teachers need more, practical or academic language skills in order to teach
students in the classroom?
0.533
113
1) ESP concepts including vocational languages and CLIL should be programmed in teacher education
in order to enlarge their working fields as language teachers;
2) More professional or practical knowledge and skills in terms of EFL teaching in secondary
education should be enhanced in order for EFL teachers to be able to provide better classroom
teaching; and
3) Professional teacher education programmes, featuring human development, discipline, personality,
management, understanding students, counseling, etc., should be focused on, so that EFL teachers’
main work can be to develop their students’ personality or humanity as well as just to teach English
in the classroom.
6.5.5. Summary
One hundred sixty secondary-school EFL teachers in this survey are all working in one district and the
subject number is limited. The results cannot be generalized for all EFL teachers in Japan. However,
the point is that they can be less aware of language learning purposes in relation to their students’ future
career or work, and that their principles or values are varied and not based on the clear standards. For
example, although they feel more necessities for English language knowledge and skills as well as
teaching knowledge and skills, it is not clear what kind of teacher education programmes they really
need to have. This survey concerned EFL teachers’ awareness of ESP, vocational languages and CLIL
but the results showed different and complicated views among EFL teachers. More researches should be
necessary in order to realize what they think about their teacher education. Further researches can include
the comparison with EFL teachers in other countries or other language teachers, EFL teacher cognition
regarding teacher education, and the needs for EFL teachers in terms of teacher education programmes.
6.6. Conclusion
This research has concerned the following four objectives: 1) teacher education programmes; 2) English
language learning needs; 3) pedagogical and language teaching goals; and 4) teacher professionalism.
Consequently, the survey results suggest that the aims or goals of teacher education programmes in
Japan can be rather vague and complicated in spite of their short durations and less professional systems.
Moreover, English language learning needs for secondary school students are also complex because
educational purposes and English language teaching goals among schoolteachers are varied and not
standardized regardless of the regulations of the Course of Study. Therefore, it is difficult to identify what
secondary-school EFL teachers’ professionalism is. Even in terms of teaching English, there are a variety
of philosophies among EFL teachers. For example, they seem to have different interpretations of the term
‘practical communication ability’ which is the key word of the Course of Study provided by the MEXT
(Ministry of Education in Japan).
Finally, I would like to present four recommendations to the development of EFL teacher education
programmes for secondary-school teachers in Japan:
114
1) Practical EFL teacher education programmes should be provided to teachers: e.g. knowledge and
skills, classroom management and opportunities to use English;
2) The current EFL teacher education in Japan should focus more on ESP, vocational languages and
CLIL in addition to the traditional ‘whole-person development’ approach;
3) Teaching English should be strongly related to students’ future career; the concepts in ESP,
vocational languages or CLIL are useful and helpful to change EFL teacher beliefs; and
4) The standards (e.g. CEFR) should be introduced into ELT in Japan: EFL teachers can establish their
own professionalism.
Many current teacher education programmes tend to focus on theories and knowledge based on teaching
and learning psychology, literature, linguistics or applied linguistics (SLA), but they are not usually related
to school-based practices. Moreover, each EFL cannot afford to have sufficient time for his or her own
professional development as an EFL teacher. Now is the time to change the paradigm of EFL teacher
education in Japan so as for teachers to be able to be independent, have specific goals, and be aware of
more practical or flexible approaches to take for their students.
References
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Cambridge University Press.
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John, P. D. 2002. The Teacher Educator’s Experience: Case Studies of Practical Professional Knowledge.
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Wright, T. 2005. Classroom Management in Language Education. London: Palgrave Macmillan.
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MEXT Action Plan. 2003. http://www.mext.go.jp/english/topics/03072801.htm
115
Appendix: Questionnaire
Section I. What kind of teacher education systems or courses do EFL teachers need most?
1. Which do teachers need more, practical or academic language skills in order to teach students in the
classroom? Why? (The meaning of the term ‘practical’ includes daily conversational language skills
and the term ‘academic’ includes school or subject-related language skills.)
2. Which do teachers need more, 1) the target language knowledge and skills (proficiency) or 2) teaching
knowledge and skills (pedagogy)? Why?
3. Which is more important for teachers, 1) teaching a language as a subject or 2) educating or supporting
learners in the whole school curriculum? Why?
4. Do you think the current teacher education programs are effective for teachers in your country? Please
choose ineffective ones. And why? If you think they are all effective, please let me know why.
Section II. What do EFL teachers think about vocational languages, ESP or CLIL in primary and
secondary education? (ESP means English for Specific Purposes; CLIL means Content and
Language Integrated Learning: other subjects taught using the foreign language.)
5. Vocational languages or ESP are getting popular in adult education, such as in business or in
technologies. Should EFL teachers be aware of vocational languages or ESP when teaching English
even in primary or secondary education? Why?
6. CLIL has been conducted in many primary and secondary schools in Europe. Do you think it is an
appropriate method in your country? Why?
7. Should vocational languages, ESP or CLIL courses be provided in EFL teacher education programmes?
Please select the item(s) which should be provided. Why?
8. Do you think that EFL teachers should be entitled to teach the target language(s) to any levels, from
primary to adults? Why?
Section III. What is professionalism for EFL teachers?
9. Does ‘a professional language teacher’ mean a person who has appropriate language knowledge and
skills as well as teaching knowledge and skills? If you think so, why? If not, please let me know what
your definition is?
10. Do you think that more teacher education programmes closely related to language teaching should be
provided to EFL teachers? Why?
11. Do you think that the professional training of EFL teachers should be of a different nature to other
subject teachers regarding teaching and class management? Why?
12. Do you think that EFL teacher education should allow language teachers to be able to teach at any
educational levels and any specific fields, e.g. business? Why?
116
外国語(英語)教員研修実態調査に基づく
LSP 教員養成・研修システム開発
Development of the LSP teacher education system based on a Survey
on the Foreign Languages (English) Teacher Education in Japan
平成 17 ∼ 19 年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究 (C))研究(課題番号 17520395)研究成果報告書
Report of Current Research Supported by Grant-in-Aid for Scientific Research in 2005-2007 (No. 17520395)
平成 20 年(2008 年)
3 月 31 日 発 行
発行者 笹島 茂(埼玉医科大学)
〒 350-0495
埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷 38 埼玉医科大学
Tel 049-276-1867 [email protected]
制 作 櫻井事務所
〒 270-2241 千葉県松戸市松戸新田 52-1-406 Tel 047-365-5770
印 刷・製本 モリモト印刷株式会社 〒 162-0813 東京都新宿区東五軒町 3-19 Tel 03-3268-6301
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