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「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践

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「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
論文
KIT
Progress№23
№23
KIT
Progress
「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
Designing and Implementing of Serious Game for Learning the History of
Nonoichi-City
山岸芳夫
Yoshio YAMAGISHI
近年、教育、医療、危機管理や都市計画などの社会問題に対し、ゲームの概念を取
り入れて解決を図る「シリアスゲーム」が注目を集めている。2013 年 10 月 5 日に、
野々市市情報交流館カメリアにて行われた
「カメリアまつり」
の一環として、本学 COC
まちづくり再生プロジェクトに所属する CirKit プロジェクトのメンバーにより、野々
市市内の小学生を主な対象にした「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」が開催され
た。結果的に、前年まで行われていた QR コードラリーに比べ、来場者のイベント参
加率が 2%増加したことが分かった。本稿ではその内容を詳細に紹介し、プロジェク
ト成果と参加学生に対する教育効果について考察を行う。
キーワード:プロジェクト型教育、地域教育、シリアスゲーム
Recently, a "Serious Game", which aims to solve some social problems
like education, health care, emergency management and city planning
by introducing the concept of a game, attracts much attention. On
October 5 2013, we conducted a serious game for the learning of the
history of Nonoichi-city. The main target of the game was elementary
school students of Nonoichi-city who visited "Camellia Festival", which
was held on that day at "Camellia", a central community center of the
Nonoichi-city. Eventually, the number of the event participants per total
number of the visitors of "Camellia Festival" was successfully increased
by 2% compared to "QR code rally", which was held in 2012. In this
article we describe our serious game in detail, and investigate the result
and its educational effects for the project member students.
Keywords: Project-based Learning, Regional Education, Serious Game
1. はじめに
最初に、本研究の背景となっている「まちづくり再生プロジェクト」および「CirKit プロジェクト」
について説明する。
1.1 まちづくり再生プロジェクト
「まちづくり再生プロジェクト」は、本学の平成 26 年度 COC 地域志向教育研究プロジェクト推進事
業に採択された取り組みの一つであり、既存のプロジェクト活動である建築系の RDA (Re-Design
Apartment) プロジェクトと情報系の CirKit プロジェクトが手を組み、野々市市が推進する市民参画事
業の推進に基づいて、学生と市民や企業が協同するまちづくり再生に取り組むものである。教員は3名
(内建築系2名、情報系1名)で、参加学生は大学院生も含めて総勢 125 名ほどである。従来 RDA プロ
ジェクトでは本学指定アパートのリノベーションを行っており、
「まちづくり再生プロジェクト」では、
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さらに地域の不動産に広く注目し、老朽化した建物のリノベーションの際の構造的な安全性、耐震性能
の確保を検討する。CirKit プロジェクトは次節にて詳しく説明するが、従来 ICT を用いて地域店舗の活
性化に取り組んでいるプロジェクトであり、
「まちづくり再生プロジェクト」では、地域の店舗と地域コ
ミュニティの繋がりについて ICT を活用してより強固な繋がりへと転換させ地域活性化を実践する役割
を果たす。本稿では、後者の CirKit プロジェクトが 2013 年 10 月に行った、
「野々市の歴史を学ぶシリ
アスゲーム」に注目し紹介する。
1.2 CirKit プロジェクト
CirKit プロジェクト(http://www.cirkit.jp)は 2006 年より開始された、大学周辺の地域活性化、お
「CirKit」は、大学を中
よび地域住民と本学学生との交流促進を目的とする教育プロジェクトである 1)。
心にした地域の輪(circle)と、本学の略称 KIT(Kanazawa Inst. Tech.)を合わせ、さらに地域と大学を
結ぶ「回路」(circuit)という意味合いも含めた造語である。従来 CirKit プロジェクトでは、野々市町
内の協力加盟店の情報を発信する Web サイトの管理運営を行う「CirKit」という仮想の会社組織を設定
し、メンバーの学生たちはその社員、という位置づけで様々な活動を行っている。野々市情報交流館カ
メリア(http://camellia.nono1.jp/)と連携した取り組みも多く、カメリアが 2010 年より毎年 9 月もし
くは 10 月に開催している「カメリアまつり」にも毎年のように参加している。本稿で取り上げるのは、
2013 年 10 月 5 日のカメリアまつりにて CirKit プロジェクトが行った取り組みである。なお、CirKit
プロジェクトは、2013 年 4 月に、仮想ではなく実際に「株式会社 CirKit」を立ち上げ、学生自身が経営
に携わる本学初の学生ベンチャー企業に移行しているが、CirKit プロジェクトそのものが消滅したわけ
ではなく、非営利の場合は「CirKit プロジェクト」として活動することが多い。本稿で取り上げた活動
も非営利であり、地域住民に地域の歴史を楽しく学んでもらう、というのが趣旨のため「まちづくり再
生プロジェクト」の目的にも合致しており、本プロジェクトの一環として取り組むこととなった。
2. シリアスゲームの概要
本章では本研究のベースとなっているシリアスゲームの定義、現状および実例を概括する。
2.1 シリアスゲームとは
「シリアスゲーム」は 1987 年に Abt がその著書「Serious Game」2)で最初に提唱した概念である。そ
の意味するところは様々だが、藤本によれば、シリアスゲームの最も一般的な定義は「教育をはじめと
する社会の諸領域の問題解決のために利用されるデジタルゲーム」とされている 3)。シリアスゲームが
注目を集め始めたのは 2000 年代であるが、ゲームの教育への応用、という切り口では、従前よりエデュ
テインメント(Edutainment)という概念が存在する。これは Education(教育)と Entertainment(エン
ターテインメント)を合わせた造語であり、PC の普及が始まった 1970 年代中頃から徐々に知られるよ
うになった。一般的に学習者のモチベーションが高ければ高いほど学習効果も高くなることは明らかで
あり、モチベーションを高めるには、それだけ学習者の興味を惹きつける必要がある。ゲームを始めと
するエンターテインメントはそもそも人の興味を惹くように作られているものであり、それを教育に応
用すれば学習効果の向上が期待できる。エデュテインメントおよびシリアスゲームはこのような考え方
に基づいているが、エデュテインメントは当初モチベーションの持続が難しい幼児向けの教材が多かっ
たことから、現在エデュテインメントという言葉には、どうしても幼児向けの稚拙なもの、というニュ
アンスがついて回るようになってしまっている。シリアスゲームはエデュテインメントに比べるとゲー
ム性が高く、対象となる分野やユーザーも広範にわたっている。
もう一つの類似概念として、ゲーミフィケーション(Gamification)が挙げられる。これは Game(ゲー
ム)と Modification(修正)を合わせた造語で、井上によればその定義は「ゲームの考え方やデザイン・
メカニクスなどの要素を、ゲーム以外の社会的な活動やサービスに利用するもの」とされている 4)。2011
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年に IT アドバイザリ企業の最大手である米ガートナー社が、ゲーミフィケーションをハイプ・サイクル
(技術の成熟度、採用度を表す図)における流行期にあるとして以来、注目を集めるようになった 5)。
ゲーム化によって人々の興味を引く、というゲーミフィケーションの目的は、エデュテインメント、シ
リアスゲームとも共通しているが、井上はシリアスゲームとの違いについて「シリアスゲームは社会の
さまざまな問題をゲームの中に持ち込むことだが、ゲーミフィケーションはゲームを社会のさまざまな
場所に持ち込むこと」と述べている 4)。シリアスゲームがその名の通りゲームであることが必要である
のに対し、ゲーミフィケーションはゲームの要素が取り入れられていれば必ずしもゲームである必要は
ないのである。とは言え、これら三者の間に明確な違いは存在せず、シリアスゲームの意味でゲーミフ
ィケーションが用いられることも多い。
このような観点から、本研究は、主な対象が地域の小学生であり、ストーリー仕立てのゲームで野々
市の歴史を楽しみながら学ぶという内容から、ややエデュテインメントよりのシリアスゲーム、という
位置づけになると考えられる。
2.2 シリアスゲームの実例
シリアスゲームの代表的な成功例とされているのが、"America's Army"
(http://www.americasarmy.com/)である。これはアメリカ陸軍によって制作された無料のオンライン
FPS(First Person Shooting:一人称シューティング)ゲームで、本来は新兵の募集および訓練内容の宣伝
を目的に作られたのだが、ゲームとしての完成度が非常に高く、人気を誇っている。"America's Army"
は画面の中の仮想世界で繰り広げられる純粋なデジタルゲームだが、
現実世界の中で IT を併用したゲー
ムが行われる場合もあり、それらは ARG(Alternative Reality Game:代替現実ゲーム)と呼ばれている。
慶応義塾大学経済学部、アサツー・ディー・ケイ、メディアファクトリー、大日本印刷らによって 2009
年に行われた"RYOMA the Secret Story" (http://www19.atwiki.jp/ryomathesecretstory/pages/1.html)
は、日本初の本格的な ARG である。このゲームでは現実と虚構が入り混じり、プレイヤーがインターネ
ット上の SNS や掲示板で議論しながら協力して謎を解いていく。その過程でプレイヤーは実際に史跡を
訪ね、幕末の歴史について学んでいく。
地域振興にシリアスゲームを導入した例としては、北海道江別市の"BRICK STORY"
(http://sherry.do-johodai.ac.jp/bs/) がある。これは北海道情報大学 江別観光学習シリアスゲーム
プロジェクトが作成した Web ベースのノベルゲームであり、ストーリーが展開していくに従って、キャ
ラクターが江別市内の名所、観光地を訪れ、そこがどのような場所なのかを紹介していく。ゲームプロ
グラムは Javascript 言語で書かれていて、PC やスマートフォンのブラウザで動作し GPS との連携も可
能で、実際にこのゲームで紹介されている場所へ行き、位置情報を有効にしたスマートフォンでゲーム
をプレイすると、そこのストーリーが展開する LBS (Location Based Services:位置情報サービス)の機
能も備えている。ただ、このシリアスゲームはシナリオが各キャラクターとも基本的に一本道で、選択
肢によってストーリーが分岐する ADV(アドベンチャー)的な要素がないためゲーム性が高いとは言え
ない(ただし市販のノベルゲームも往々にして一本道シナリオであり、ゲームというよりはグラフィッ
クが付いた小説という表現が正しいものも数多く存在する)
。
内容も地域学習というよりは観光地紹介の
意味合いが強く、どちらかと言えばコンテンツツーリズム、いわゆる「萌えおこし」の文脈に近いもの
と考えられる 6)。
本研究で開催されたシリアスゲームは、ARG の要素を取り入れつつ、IT と紙ベースのスタンプカード
を併用し、チェックポイントを巡るクイズラリーの形式で野々市地域の歴史を学ぶものである。
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「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
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3. 野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム
本章では 2013 年 10 月 5 日の「カメリアまつり」にて行われた「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」
の内容について紹介する。
3.1 先行事例
これまでに CirKit プロジェクトは QR コードを使ったラリー運営システムを開発し、
2010~2011 年に、
建築系のプロジェクトである月見光路やかなざわ燈涼会などで QR コードラリーを開催している 7)。これ
は、月見光路や燈涼会のあかりオブジェの近くに QR コードを表示したチェックポイントを置き、参加者
は携帯電話のカメラで QR コードを撮影、
表示された URL にアクセスすることでチェックポイントをクリ
アする、というイベントである。月見光路期間中の QR コードラリー参加者数は、2010 年は総勢 694 名
だったが、2011 年は天候不順のため 434 名であった。
「カメリアまつり」でも 2010-2012 年に QR コードラリーを行っているが、ここで問題となったのは、
主な参加者となる小中学生が県の条例(いしかわ子ども総合条例)で携
帯電話の所持を制限されていることであった。そのため、我々はチェッ
クポイント側に携帯電話を持ったスタッフを置き、参加者は1枚毎に異
なる QR コードが書かれたタグ(図 1)を持ってチェックポイントに赴き、
そこでスタッフに QR コードを撮影してもらってスタッフが表示された
URL にアクセスすることでクリアする、というモードを新たに実装した。
チェックポイントはカメリアの敷地内の数カ所に設置し、クリアしたチ
ェックポイントの数に応じて、
ゴールにて当たる景品のランクが変わる、
というものになっている。2012 年の QR コードラリーは 200 名弱の参加
図 1 QR コードタグ
者があり、好評を得ていたのだが、カメリアまつり終了後の反省会の中
で、ただチェックポイントを巡るだけではエンターテインメント性に乏しく、また何らかの学習の要素
を含めてはどうか、という提案があったため、2013 年のカメリアまつりでは、単なるラリーではなくゲ
ーム性を高め、なおかつ学習の要素を入れたシリアスゲームを行うこととなった。
3.2 テーマの設定
カメリアまつりでシリアスゲームを行うにあたり、まず何をテーマに選ぶか検討を行った。CirKit プ
ロジェクトそのものが本来、野々市市の地域活性化を目標にしてきたこともあり、地域をテーマに選ぶ
のは自然な流れであった。最終的には、主な参加者と予想される小学生が学校の社会科で学ぶ、地域の
歴史がテーマとして選ばれた。
3.3 ストーリーの構築
次に決めなくてはならないものはストーリーであった。ボードゲームや一部の単純なアクションゲー
ムなどを除けば、一般的にゲームにはシナリオが不可欠であり、今回のシリアスゲームでもシナリオの
骨子となるストーリーを考える必要があった。結果的に、テーマが歴史ということから、リーダーの学
生が発案した「悪者が野々市の過去の歴史に介入し、現在を自分に都合のいい世界に変えようとしてい
る。参加者のミッションはそれを防いで野々市の歴史を守ることである」という、タイムパラドックス
SF を取り入れたアイデアが採用された。一部には「小学生にはタイムパラドックスの概念は難しいので
はないか」という意見もあったが、筒井康隆が 40 年前の時点で既に「SF の浸透と拡散」を指摘してい
るように、現在は「ドラえもん」
、
「ドラゴンボール」
(セル編)
、
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や
「ターミネーター」など、子供向けを含めてタイムパラドックスを扱うエンターテインメント作品が溢
れかえっており、
メインのターゲットとなる小学生の中学年以上であれば、
その概念は十分理解できる、
と判断した。なお、この悪者キャラクターには、一時期 CirKit プロジェクトのマスコットキャラクター
として使われていた「さきっぽ」を流用することとなった。さらに、子どもたちに人気のキャラクター
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である、野々市市の公式ゆるキャラ「のっティ」を絡め、最終的には「悪の『さきっぽ』が手下の 5 匹
のモンスターを使って野々市の過去を変え、のっティの立場を乗っ取ろうとしている。のっティと野々
市の歴史を守ろう!」というコンセプトに固まった。
3.4 ゲームデザインと実装
続いて具体的なゲームデザインを行った。従来の QR コードラリー同様、カメリア館内の5箇所にチェ
ックポイントを設置することになったため、それぞれに異なるサブテーマとミッションを設定した。サ
ブテーマは野々市市の「産業」
(キウイフルーツ)
、
「重要文化財」
(喜多家、御経塚遺跡)
、
「行事」
(じょ
んからまつり)
、
「人物」
(富樫氏)
、
「学校」
(野々市の小学校)の5項目で、それぞれの項目の過去に「さ
きっぽ」の手下のモンスターがいて何がしかの悪事を働いていることになっている。チェックポイント
に訪れた参加者に、それぞれの項目の由来や歴史を A1 サイズのパネル(図 2)で学んでもらい、それにち
なんだクイズに正解することでモンスターに勝利しミッションクリアとなる。パネルを見ながら回答し
てもよいため、クイズ自体の難易度は非常に低い。
図 2 作成したパネル
クイズ参加者にはゲームスタート時に、受付を行っている CirKit ブースでスタンプカード(図 3)が渡
され、カメリア館内にある 5 箇所のチェックポイントを探しまわり、そこでクイズに回答する。その結
果、正解時は◯、不正解時は×のスタンプがチェックポイントに常駐している CirKit メンバーのスタ
ッフによって押される。5つのミッションが全て◯の場合は、ゴールの受付でハッピーエンドのストー
リーシール(図 4)がスタンプカード裏面の右側に貼られ、そうでない場合はノーマルエンドのストーリ
ーシール(図 5)が貼られる。
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「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
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裏
表
図 3 作成したスタンプカード
全てのモンスターを追い払ったことで野々市の街は、元通りに直りました。
「くそー。野々市にはこんな勇気のある子どもたちがいるなんて」
さきっぽは野々市にワルさすることをもう諦めました。
がんばって歴史を答えた「あなた」のおかげでさきっぽの作戦は失敗に終わ
りました。
少し歴史は変わってしまいましたが、野々市の街はほとんどもとに戻りました。
「くそー、何者かにじゃまされたせいでうまくいかなかった」
さきっぽは作戦が失敗して悔しそうです。
「今度は違う作戦で野々市をめちゃくちゃにしてのっティを悲しませてやる
ぞ」
そうさきっぽは言い残して、去って行きました。
「やったぁ。いつもの野々市だ。
」
野々市の街がもとに戻ってのっティは大喜びです。
歴史を答えた「あなた」のおかげでさきっぽの作戦は失敗に終わりました。
「助けてくれてありがとう。野々市が大変なことになったらまた助けてね。
」
「助けてくれてありがとう。野々市が大変なことになったらまた助けてね。
」
これからも野々市のことをよく知って、いつでものっティを助けられるよう
にしてあげようね。
これからも野々市のことをよく知って、いつでものっティを助けられるように
してあげようね。
終わり
終わり
図 4 ハッピーエンドのストーリー
図 5 ノーマルエンドのストーリー
スタンプカード自体は極めてアナログなシステムだが、
参加者が記念に持ち帰れるものを用意したい、
というメンバーの意向から、今回はあえて紙ベースのスタンプカードを使用した。しかし各チェックポ
イントのクイズに関しては IT を利用している。今回はタッチパネルを備えたノート PC (Panasonic
ToughBook CF-29/CF-18)と、タッチ操作可能なディスプレイ(IO-DATA LCD-AD221FB-T)を用いて、
Javascript で作成されたプログラムをブラウザに表示し、参加者に画面のボタンを押させることでクイ
ズの回答が行えるようにした(図 6)。参加者が回答した瞬間に正解か不正解かが判定されて表示される。
スタッフはそれに応じて正解もしくは不正解のスタンプを参加者のカードに押すことになる。毎年参加
者数は 200 名を超えないことから、スタンプカードは 210 枚作成した。ゴールはスタート地点と同一の
CirKit ブースであり、全てのミッションを終えた参加者はゴールでストーリーの結末のシールがスタン
プカードに貼られ、その後抽選により景品が与えられる。当日はボランティア団体であるカメリア・パ
ルの会とカメリアから、どんぐり玩具やのっティグッズなど、合計 210 個の景品の提供を受けた。当日
のチェックポイントと CirKit ブースの配置を図 7 に示す。
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「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
不
正
解
図 6 チェックポイントにおけるクイズシステムの画面フローの一例
3.5 当日の運営
当日は合計 14 名の CirKit メンバーが運営に携わった。カメリアまつりは 17 時より開始され、21 時
で終了となる。今回のシリアスゲームもこの 4 時間ずっと行われていた。結果的にはトータル約 270 名
の参加者があり、急遽スタンプカードや景品を増産しなければならなかった。これはカメリアまつり全
体の来場者が増加(2012 年:約 800 名→2013 年:約 1000 名)したことにもよるが、2012 年の QR コー
ドラリーの参加者数が約 200 名だったことを考えると、イベント参加率(イベント参加者数/全来場者
数)は 25%から 27%と増加している。今回のイベントが単なるラリーではなくシリアスゲームとしてゲー
ム性をより高めたことが参加者増加の一因と考えられる。当日の模様を図 8 に示す。
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「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
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→チェックポイント
→CirKit ブース(受付、景品交換)
図 7 当日のチェックポイントとブースの配置
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CirKit ブース
チェックポイントの一例
図 8 当日の模様 (http://camellia.nono1.jp/2013/10/camelliafes-report/より許可を得て転載)
終了後のメンバーによる反省会では以下の様な意見が挙げられた。
表 1 終了後のメンバーの意見
良かった点
問題点

参加者が楽しんでいた。

イベント当日まで時間がなかった。

メンバーが上手く働いてくれた。

仕事が上手く振り分けられなかった。

クイズとスタンプラリーを合わせたものでわかり

内容が少し難しかった。
やすかった。

IT を上手く絡められなかった。

シフトがきつかった。

問題が少なかった。

ルビをしっかりと振る

ポスターの印刷をしっかり最終チェックをする
3.6 教育効果の検証
CirKit メンバーの学生に対する今回のシリアスゲームの教育効果を調査するために、カメリアまつり
終了後、今回のシリアスゲームの運営に携わった学生に対し、以下のアンケートを行った。
質問1:あなたはカメリアまつりのシリアスゲームでどのような役割を担いましたか?
質問2:シリアスゲームへの取り組みはあなたのスキルを何がしか向上させたと思いますか?
(とてもそう思う、そう思う、普通、そう思わない、まったくそう思わない、の五択)
※質問2で「とてもそう思う」
「そう思う」と答えた学生に対して
質問3:具体的にどのようなスキルが向上したかを書いてください。
※質問2で「普通」
「そう思わない」
「まったくそう思わない」と答えた学生に対して
質問4:どのようなことをすれば自分のスキルが向上したと思いますか?
質問5:その他コメントがあったら書いてください。
このアンケートに対して5名の回答があり、結果は以下のようになった。なお、FM,IM はそれぞれ新、
旧カリキュラムのメディア情報学科、EP,IC はそれぞれ新、旧カリキュラムの情報工学科を指しており、
数字は学生の当時の学年を表している。
題目
「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
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表 2 アンケート結果
学生
FM1 男
FM1 男
EP1 女
IC4 男
IM4 男
質問1
チェックポイ
ント作成、当
日スタッフ
当日スタッフ
チェックポイ
ント作成、当
日スタッフ
チェックポイ
ント作成、当
日スタッフ
運営全般
質問2
そう思う
質問3
多層の人々と交流し
協力するスキル
普通
そう思う
質問5
cirkit の知名度を上げるのに
はこう言った活動を繰り返し
行うことが重要なのだと思う
当日以外の仕事をもらい、
普段関わることがない人と
接すれば自身のスキルも向
上したと思われる。
自分が、もっと積極的に参
加すれば良かったと思う
普通
そう思う
質問4
問題を作成するときな
どにその町の歴史な
どを学んだこと。
コミュニケーション能
力の向上
もともとサンプル数が少ないので統計的な正確性は期待できないが、チェックポイントで当日参加者
の相手をした学生は、自身のコミュニケーションスキルが上がったと考えているようである。また、ク
イズの作成のために野々市市の歴史を学んだことが、参加者のみならず学生の地域に対する理解を深め
た、と考えられる。なお今回のクイズプログラムを作成した学生に直接話を聞いたところでは、彼らは
それまでに作成した既存のクイズシステムを流用して開発を行ったため、今回のプログラム作成でスキ
ルが大きく向上したとは思えない、とのことだった。
4. まとめと今後の課題
本稿では 2013 年 10 月 5 日に行われたカメリアまつりでの「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」に
ついて紹介し、その成果について考察を行った。昨年度までの QR コードラリーに比べゲーム性が高くな
ったことが参加者数の大幅増加につながったと思われ、イベントとしては成功を修めたと言える。しか
し準備不足だった点は否めず、人員が少なかったために、参加者からフィードバックを得ることも行え
なかった。そのため、参加者に対する学習効果を調査することもできていない。クイズシステムにはク
リック数を記録することはできるが、正答/誤答数を記録する機能を実装しておらず、ゲーム終了後に
スタンプカードを参加者に渡してしまうため、参加者の正答率も記録することが出来なかった(ただし
主観では 90%以上の参加者が全問正答していたように見えた)
。これは大きな反省点であり、今後の大き
な課題となる。また、直後の反省会でも指摘があったが、IT の要素が少なく、ただクイズの正否判定に
のみ用いられていただけ、という点も改善の余地があると考えられる。各チェックポイントの問題は毎
回変わらず、チェックポイントが5個というのもやや少なめで物足りない、という参加者の声もあり、
問題やチェックポイントの数も今後検討する必要がある。ただしカメリアまつりに限って言えば、会場
のスケールを勘案するとチェックポイントを大幅に増やすのは困難であろう。また、エンディングの数
は今回はハッピーエンドとノーマルエンドの 2 種類しかないため、その分ゲーム性が損なわれている感
があるが、エンディングの数を増やすためにはシナリオがそれだけ必要になり、限られたリソースでは
なかなか実現が難しい。しかし、シリアスゲームには学習の側面が欠かせないため、やはりその学習の
達成度に応じた評価が参加者に対してなされるべきで、2 段階では不十分なのは明らかである。ゲーム
性を高める意味でも、今後検討すべき課題となろう。
シリアスゲームの企画、運営に参加した学生たちに対する教育効果について、まず、限られた期間と
リソースの中で実現可能で、なおかつ参加者が十分楽しめるゲームを企画、開発出来たことは特筆に値
する。これは従来の CirKit プロジェクト、そして株式会社 CirKit の実践的な活動の中で培われた企画・
題目
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「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
開発力が存分に発揮された結果といえる。また、パネルやクイズの制作過程で野々市市の様々な歴史を
学んだことが、参加メンバーの地域に対する理解をより深め、運営においてはチェックポイントや受付
で参加者の対応をすることによってコミュニケーションスキルが高まったと考えられ、全体を通してこ
の取り組みは、学生の実践的能力の涵養に対し非常に有意義であったと思われる。
我々は今後もこのようなシリアスゲームの取り組みを継続していきたいと考えているが、現状のクイ
ズシステムはブラウザ上で動くとはいえ、ほぼスタンドアローンのアプリケーションであり、サーバと
連携したり各種履歴を記録したりするような機能はない。そこで、ユーザーの識別を可能にし、それぞ
れの履歴を取ることが可能で、問題作成も簡単に行える、より汎用性を持たせたクイズシステムの開発
を現在行っている。IT を活用することで利便性が向上し、イベントの内容をさらに充実させることが目
的である。ただ、前述のとおり「いしかわ子ども総合条例」による小中学生の携帯電話所持の規制があ
ることや、終了後に参加者の手元に何がしか記念に残るものも必要と思われるため、かつての QR コード
ラリーのようにユーザーID に QR コードを用い、紙ベースのタグを持ち歩く方式が望ましいと考えられ
る。しかし、北陸新幹線の開通に伴い今後石川県を観光目的で訪れる人口が増加することが予想されて
おり、このシステムを観光情報の提供目的に使用する可能性も十分あり得る。その場合は LBS 的な展開
も視野に入れる必要があり、モバイル端末でさらに楽しめるような工夫が不可欠になると言える。2014
年に Google が位置情報を用いたゲーム”Ingress”(https://www.ingress.com/) を開始したこともあ
り、この分野に現在注目が集まりつつある。将来的にはこのシステムが、このようなイベント型シリア
スゲームの開催を簡単に行うための汎用的なプラットフォームに発展していければ幸いである。
謝辞
本稿の執筆にあたり、シリアスゲームの企画、開発、運営に参加した、坂井三四郎君をリーダーとす
る CirKit メンバーの学生たち、写真の転載およびカメリアまつりで協力していただいた、野々市情報交
流館カメリアの松田尚子氏とカメリア・パルの会の皆様、COC 事業で事務的なサポートをしていただい
た、竹内諭氏を始めとする金沢工業大学 産学連携推進室の皆様に深く感謝いたします。
参考文献
1) 山岸芳夫, 宮川哲也, 上野修平, 他. 地域 SNS を通して大学周辺の店舗活性化を目指す産官学プロ
ジェクト「CirKit」, 地域活性研究 1, 261-267, 2010.
2) Abt, Clark C. Serious games. University Press of America, 1987.
3) 藤本徹. シリアスゲーム, 東京電機大学出版局, 2007.
4) 井上明人.ゲーミフィケーション,NHK 出版,2012.
5) ガートナー.ガートナー、
「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2011 年」を発表 市場を変革する
可能性のあるテクノロジの成熟度を分析,
http://www.gartner.co.jp/press/html/pr20110907-01.html, Retrieved Mar. 26, 2015.
6) コンテンツツーリズム学会. コンテンツツーリズム入門,古今書院,2014.
7) Miyagawa Tetsuya, Yoshio Yamagishi, and Shun Mizuno. "Walk-rally support system using
two-dimensional codes and mobile phones." Interactive Learning Environments 21.2, pp.199-210,
2013.
[受理 平成 27 年 3 月 28 日]
題目
「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
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山岸芳夫
准教授・博士(理学)
情報フロンティア学部
情報フロンティア系 メディア情報学科
情報ネットワーク、教育工学、地域振興
題目
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「野々市の歴史を学ぶシリアスゲーム」の企画と実践
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