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高等植物及び食品中の D-アミノ酸とその代謝関連酵素

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高等植物及び食品中の D-アミノ酸とその代謝関連酵素
〔生化学 第8
0巻 第 4 号,pp.3
0
0―3
0
7,2
0
0
8〕
!!!!
特集:D-アミノ酸制御システムのニューバイオロジー:
Frontier Science in Amino Acid and Protein Research
!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
高等植物及び食品中の D-アミノ酸とその代謝関連酵素
老
川
典
夫
地球上で最も多い生物である植物に D-アミノ酸が存在していることは案外知られてい
ない.植物に D-アミノ酸が存在することは今から約5
0年前に既に確認されている.裸子
植物,被子植物,単子葉植物,双子葉植物,C3 植物,C4 植物,CAM(crassulacean acid metabolism)植物などの分類学的特性に関わらず,D-アミノ酸は植物に普遍的に存在してい
る.このことは D-アミノ酸が果たして重要な生理的役割を植物中で担っていることを意
味するのだろうか,それとも環境から単に取り込まれた D-アミノ酸が植物に広く存在し
ているだけなのだろうか.最近 D-Ala と D-Ser について植物中でその生成または分解を担
うと考えられる酵素の存在が明らかになった.このことは植物が D-アミノ酸を合目的に
代謝していることを示していると考えられ,その生理的機能の解明が期待される.
1. は
じ
め
6)
また D-Ala 及び D-Ala-D-Ala が牧草(Phalaris tuberose L.)
に
7)
や野生種のイネ(Oryza australiensis Domin)
中に存在す
高等植物中の L-アミノ酸に含まれる窒素原子は,すべ
ることが報告されている.また D-α-アミノ-n-酪酸が結合
てアンモニアに由来する.アンモニア中の窒素原子は,グ
態で9種のマメ科植物8)に存在していることや様々な遊離
ルタミンシンターゼ及びグルタミン酸シンターゼによって
型 D-アミノ酸がタバコの葉の細胞9)中に存在していること
まずグルタミン酸に取り込まれ,他のアミノ酸へ転移す
が報告されている.その後高等植物の D-アミノ酸に関す
る .この反応は一般にアミノトランスフェラーゼによっ
る研究の多くは,特定の D-アミノ酸を植物に与えた場合
て触媒される.これらのアミノ酸の生合成経路は光学特異
の代謝や取り込み機構の解明に焦点が当てられた.
1)
的であり,このことは高等植物中に多量の L-アミノ酸が
効率の良いガス(GC)及び液体(LC)クロマトグラフィー
存在することからも理解できる.ところが D-アミノ酸も
(HPLC)による D-及び L-アミノ酸の高感度分析法の開発
高等植物中に存在することが知られている.注目すべきこ
は,植物中の D-アミノ酸の研究に大きな進展をもたらし
とに1
9
6
0年代に,単子葉及び双子葉植物に共通の D-Trp
た10).これらの分析方法では,野菜や果物中に存在する D-
の N -マロニル化について既に報告されている2,3).1
9
7
0年
アミノ酸を L-アミノ酸に対する存在比約0.
5―3% で検出
以降,D-Ala,D-Asp,D-Glu が遊離及び結合態でエンドウ
することが可能である11).その結果,リンゴ,パイナップ
マメ(Pisum sativum)の芽生え4),オオムギ(Hordeum vul-
ル,スイカ,パパイア,マンゴー,ココナッツミルク,コ
gare L.)種子,ホップ(Humulus luplus L.)の花 中に,
5)
関西大学化学生命工学部生命・生物工学科(〒5
6
4―8
6
8
0
大阪府吹田市山手町3―3―3
5)
Occurrence of D-amino acids in higher plants and foods, and
the enzymes related to their metabolism
Tadao Oikawa(Department of Life Science and Biotechnology, Faculty of Chemistry, Materials and Bioengineering,
Kansai University, 3―3―3
5 Yamate-Cho, Suita-Shi, OsakaFu,5
6
4―8
6
8
0, Japan)
コアなど様々な野菜,果物,食品中に D-アミノ酸が存在
することが明らかにされた12,13).またこれらの D-及び L-ア
ミノ酸の高感度分析法の開発は,酵素反応の結果生成する
微量の D-アミノ酸の検出をも可能にし,アルファルファ
の芽生えの無細胞抽出液中に L-Ala から D-Ala,D-Ala から
L-Ala
を生成するアラニンラセマーゼの存在が初めて明ら
かにされた14).
そこで本総説では,高等植物及び食品中の D-アミノ酸
Gingoaceae 科(イチョウ)
,Taxodiaceae 科(メタセコ
イア)
,Pinaceae 科(トウヒ)ファミリー中に含まれ
る遊離型 D-アミノ酸の研究を行っている.イチョウ
やメタセコイアは「生きた化石」として知られ,進化
的に非常に古い裸子植物に分類される.また遊離型 D アミノ酸は,Arecaceae 科(ココナッツ)
,Bromeliacea
(リンゴ)などの双子葉植物ファミリーにも含まれて
%D
いる.一方代謝経路の違いに基づき植物を分類した場
metabolism 植物:サボテンなど気温が低下して水分を
失う心配の少ない夜間に気孔を開いて二酸化炭素を吸
収して貯蔵しておき,昼間は気孔を開かずに光合成を
行うことができる植物)中にも含まれている.このよ
うに D-アミノ酸は,植物に普遍的に存在しており,
植物は進化の早い段階から遊離型及び結合態の D-ア
ミノ酸を含有していると考えられる.
リンゴ
合,D-アミノ酸は,C3 植物のみならず C4 植物(牧草
やトウモロコシなど)や CAM 植物(crassulacean acid
L体
D体
µmol/l µmol/l
イア)
,Cucubritaceae 科(スイカ)
,Fabaceae 科(マメ)
,
Passifloraceae 科(パッションフルーツ)
,Rosaceae 科
L体
D体
µmol/l µmol/l
taceae 科(ヒラウチワサボテン)
,Caricaceae 科(パパ
アミノ酸
aceae 科(マンゴー)
,Brassicaceae 科(カラシナ)
,Cac-
パイナップル
植物ファミリーや,Aceraceae 科(カエデ)
,Anacardi-
%D
科(パイナップル)
,Poaceae 科(牧草)などの単子葉
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文献1
2)から引用
れていた.さらに H. Brückner らは,裸子植物である
n.d.:検出限界以下
はココナッツミルクとパイナップルにのみ含ま
%D
に含まれており, D-Lys は数種の植物に, また D-Val,
D-Leu
L体
D体
µmol/l µmol/l
ことに遊離型の D-Asp,D-Glu,D-Ala はすべての植物
パパイア
(8.
3%)
,D-Ala(1
5.
5%)が含まれていた.興味深い
スイカ
園 の 土 に は,D-Asp(8.
5%)
,D-Glu(7.
1%)
,D-Ser
表1 果物中の D-アミノ酸の定量的解析
(1.
5%)が含まれており,またこの樹の周囲の果樹
L体
D体
µmol/l µmol/l
%D
が 検 出 さ れ た.こ の リ ン ゴ の 樹 の 葉 に は,D-Asp
(7.
9% ), D-Glu (3.
1% ), D-Ser (1
1.
7% ), D-Ala
0.
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デリ シ ャ ス 種)果 汁 中 に は,D-Asp(0.
4%)
,D-Asn
(0.
7%)
,D-Glu(0.
5%)
,D-Ser(1.
7%)
,D-Ala(2.
7%)
8.
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4.
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る相対含有率(%D)を示す12).リンゴ(ゴールデン
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の定量結果と D-アミノ酸の総アミノ酸含有量に対す
0.
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るいは植物1kg あたりの遊離型 D-または L-アミノ酸
3.
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―
マンゴー
が用いられる15).表1に H. Brückner らによる果汁あ
L体
D体
µmol/l µmol/l
%D
酸をキラル誘導体化後,逆相カラムを用いた HPLC
3
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チル-L-システインを用いて試料中の D-及び L-アミノ
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アルデヒドと N -イソブチリル-L-システインや N -アセ
3.
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植物中の D-アミノ酸の定量には,一般に o-フタル
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2. 植物中の D-アミノ酸の定量的解析と分布
Asp
Glu
Asn
Ser
Gln
Thr
Gly
His
Ala
Arg
Tyr
Val
Met
Trp
Phe
Ile
Leu
Lys
究成果や最近の知見に基づき考察する.
%D
アミノ酸との関係について,これまでのわれわれの研
L体
D体
µmol/l µmol/l
パッションフルーツ
とその代謝関連酵素について紹介し,高等植物と D-
0.
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8年 4 月〕
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〔生化学 第8
0巻 第 4 号
3. 高等植物における D-アミノ酸の起源
D-Ala-D-Ala
が野生種及び栽培種のイネ(Oryza)中に7),1-
[
(N -γ-L-グルタミル)アミノ]
-D-プロリンがアマ(亜麻)の
高等植物に多種多様な D-アミノ酸が存在することが明
種子(Linum utisatissimum)中に22)それぞれ含まれている
らかにされると,次にこれらの D-アミノ酸がどのように
ことが報告されている.さらにテトラペプチドである L-
して植物体内で生合成されるのかということに研究対象は
Val-γ-L-Glu-D-Arg-Gly がヤクヨウニンジン中で検出されて
移行する.そこで植物 D-アミノ酸の生合成に関する様々
いる23).このような高等植物中で遊離型及び結合態の D-ア
な先駆的な基礎的研究が1
9
7
0年代以降行われてきた.小
ミノ酸の生成は,D-アミノ酸に作用する特異な酵素によっ
川らは,植物アミノ酸ラセマーゼがある種のマメ科植物
て触媒されると考えられるが,その酵素科学的特性の詳細
(Pisum sativum)の芽生え中に存在し,L-アミノ酸から D-
は明らかになっていない.また高等植物中の D-アミノ酸
アミノ酸を生成することを明らかにした8).さらに D-アミ
の生成には別の経路も考えられている.たとえば結合態
ノ酸アミノトランスフェラーゼが同芽生え中に存在するこ
D-アミノ酸が脱アセチル化やペプチド結合の切断によって
とを明らかにし,本酵素によって種々の D-アミノ酸のア
遊離し蓄積したり,L-アミノ酸や反応性の高いカルボニル
ミノ基がピルビン酸または2-ケトグルタル酸に転移され,
化合物の非酵素的反応の結果 D-アミノ酸が生成したりす
D-アラニンと D-グルタミン酸が生成することを確認して
るとも考えられる24).さらに外生的な D-アミノ酸が高等植
いる (表2)
.真鍋は,イネの浮遊培養細胞に D-アラニ
物に取り込まれ蓄積することも考えられる.ダイズ,サヤ
ンを添加すると,細胞中で D-Asp と D-Glu に変換されるこ
インゲン,アルファルファなど,共生根瘤菌である Rhizo-
とを見出している7).植物への D-アミノ酸の投与実験か
bium sp.や Bradyrhizobium sp.と密接な関わりのある植物の
1
6)
ら,N -マロニル化はすべての D-アミノ酸に共通であり,
場合,これらの微生物が生産した遊離型及び結合態 D-ア
一方 γ-L-グルタミル化は D-アラニンに特異的であることが
ミノ酸から生成した D-アミノ酸を根から吸収することも
明らかとなっている17).1
9
6
0年代にリンゴ(ゴールデンデ
考えられる.一般に微生物には遊離及びペプチドグリカン
リシャス)から N -マロニル-D-Trp が単離されたと報告さ
などの結合態 D-アミノ酸が豊富に存在しており25,26),また
れているが3),植物の内生的な N -マロニル-Trp の立体構造
担子菌類の菌糸と高等植物の根との共生体(菌根)も良く
については最近再び議論が必要であると考えられてい
知られている.植物は D-アミノ酸を容易に取り込むこと
る
ができるので,植物中の D-アミノ酸を解析する場合微生
.また結合態 D-アミノ酸では,γ-L-Glu-D-Ala がエン
1
8,
1
9)
ドウマメ,レンズマメ(Lens culinaris)
中に20,21),D-Ala-Gly,
物や環境に由来する D-アミノ酸の植物体内への移行につ
いても考慮する必要がある10).先に述べたように,リンゴ
表2 エンドウマメ(Pisum sativum)中のアミノトランスフェ
ラーゼ活性による D-アラニン及び D-グルタミン酸の生
成
アミノ基供与体
D-Glu
D-Ala
D-α-アミノ酪酸
D-Asp
D-Tyr
D-Met
D-Phe
D-Lys
D-Leu
D-Val
L-Ala
L-Glu
L-Asp
アミノ基受容体
ピルビン酸
2-ケトグルタール酸
生成した D-Ala 量
(mµmol)
生成した D-Glu 量
(mµmol)
6
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0
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0
0.
0
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0
反応液(3ml)組成は次の通り:アミノ基供与体(4
0µmol)
,ア
ミノ基受容体(4
0mmol)
,Tris 緩衝液(pH8.
3,3
0
0µmol)
,PLP
(2
0mmol)
,酵素液(0.
0
0
2U)
.反応は3
7℃ で3
0分間行った.
生成したアミノ酸はアミノ酸分析計で定量した.
文献1
6)から引用.
の葉や果実中に含まれている D-アミノ酸とその木が育て
られた土壌中の D-アミノ酸の種類は良く一致している.
4. アルファルファ(Medicago sativa L.)の
アラニンラセマーゼ
上記のように高等植物中には多種多様な D-アミノ酸が
存在しているが,その生合成に関与する酵素の分子レベル
での研究はほとんど進展していない.そこでわれわれはま
ずこれまで様々な D-アミノ酸が検出されている植物芽生
えに着目した.アルファルファ,ダイコン(Raphanus sativus)
,ブロッコリー(Brassica oleracea var. italica)の種子
を発芽させ,無細胞抽出液中のアラニンラセマーゼ活性を
測定した14).酵素活性は HPLC 及び D-アミノ酸オキシダー
ゼを用い,酵素反応の結果生成する D-,
L-アラニンを定量
し測定した.その結果,アルファルファ,ダイコン,ブ
ロッコリーの芽生えの無細胞抽出液中にそれぞれ1.
4
2×
1
0―5,7.
6
7×1
0―6,1.
0
6×1
0―5kat/kg のアラニンラセマーゼ
活性が検出された.最も活性の高いアルファルファのアラ
ニンラセマーゼ(Ms-AlaR)についてさらに酵素科学的性
質を検討した.Ms-AlaR はアルファルファの芽生えを2
0
mM D-または L-Ala と0.
5%(W/V)D-グルコースを含む誘
3
0
3
2
0
0
8年 4 月〕
導液に浸漬すると誘導され,活性は1,
5
0
0倍に増加した.
s/kg であった.また D-及び L-アラニンに対する Vmax/Km 値
この点は植物由来のアラニンラセマーゼの特色である.ア
は そ れ ぞ れ3
6.
7,3
6.
7mol/s/kg/M で あ り,Keq は 約1と
ルファルファ芽生えを誘導液に浸漬する時間と Ms-AlaR
なる.したがっ て Ms-AlaR は Briggs と Haldane に よ っ て
活性の関係を検討したところ,Ms-AlaR 活性は誘導開始8
示されたラセミ化反応の理論を満たし27),アミノ酸ラセ
時間後までに顕著に増加し,1
2時間後に最大となり,そ
マーゼであることが実証された.
の後徐々に減少した(図1)
.しかしピリドキシンや他の
一般にアミノ酸ラセマーゼはAピリドキサール5′
-リン
ビタミン B6 誘導体の添加では, Ms-AlaR は誘導されない.
酸(PLP)依存型とBPLP-非依存型に大別される.既報の
またアルファルファ芽生えの無細胞抽出液を分画遠心分離
アラニンラセマーゼはすべて前者の PLP 依存型である28).
したところ,Ms-AlaR 活性は1,
0
0
0―5,
0
0
0g の沈殿画分に
Ms-AlaR はヒドロキシルアミン(阻害率:9
7%)
,フェニ
検出され,約9
5% の活性が1
0,
0
0
0g の沈殿画分に検出さ
ルヒドラジン(5
9%)
,アミノオキシ酢酸(1
0
0%)
,水素
れた.このことは Ms-AlaR が何らかの細胞器官に局在し
化ホウ素ナトリウム(9
7%)などの PLP-酵素阻害剤(1mM)
ていることを示唆している.さらにわれわれは,アルファ
で阻害された.Ms-AlaR は1mM ヒドロキシルアミンに対
ルファ芽生えの無細胞抽出液から Ether-Toyopearl,Phenyl-
して1
8時間透析すると完全に失活し,3
0µM PLP を含む
Toyopearl,DEAE-Toyoperl カラムクロマトグラフィーで
緩衝液に対して透析すると約5
5% の活性が回復する.
Ms-AlaR を高純度に精製し精製酵素標品を用いて酵素科学
Ms-AlaR を,PLP を含まない緩衝液に対して透析すると約
的性質を検討した.D-及び L-アラニンのラセミ化は酵素量
9
5% の活性が消失するが,これを,PLP を含む緩衝液に
及び反応時間の増加に伴って増加した.また D-及び L-ア
対して透析すると約8
0% の活性が回復する(表3)
.した
ラニンを基質とした場合の酵素反応の経時的変化は対称性
がって PLP は Ms-AlaR に緩く結合しており,アポ酵素は
を示し,典型的なラセマーゼ反応の様相を呈した(図2)
.
ホロ酵素より不安定であることがわかる.
Ms-AlaR はアラニンに特異的であり,アスパラギン酸,グ
アルファルファ芽生え中に存在する D-アラニンや Ms-
ルタミン酸,セリン,アルギニンには全く作用しない.D-
AlaR はアルファルファ芽生えの生育や代謝に関与すると
及び L-アラニンに対する見かけの Km 及び Vmax 値はそれぞ
考えられるが,不分明のままである.Ms-AlaR は酵素科学
れ1
2.
0×1
0―3M,0.
4
4mol/s/kg と2
9.
6×1
0―3M,1.
0
2mol/
的性質が明らかにされた最初の植物アミノ酸ラセマーゼで
ある.
5. イネのセリンラセマーゼ
1
9
9
1年,農林水産省は国家プロジェクトとしてイネゲ
ノムの計画的な解析を開始した.1
9
9
7年までのプロジェ
図1 アルファルファ(Medicago sativa L.)の芽生え中
のアラニンラセマーゼの誘導
約8
0
0g のアルファルファの芽生えを5倍容の誘導用溶
液(2
0mM L-アラニン,0.
5%(W/V)D-グルコース,2
mM リン酸カリウム,2mM MgSO4,2mM CaCl2,5
0mM
FeSO4,7
0mM H3BO4,1
4mM MnCl2,1
0mM NaCl,1mM
ZnSO4,
0.
5mM CuSO4,0.
2mM NaMoO4,0.
2mM CoCl2,
1
0
0mg/ml アンピシリン,pH6.
5)に室温で2
4時間浸漬
した.芽生えのサンプリングは4時間ごとに行い,その
際 誘 導 液 を 交 換 し た.芽 生 え を1mM DTT,1mM
EDTA,2
0mM PLP,1
0mM PMSF,1mg/ml ロイペプチ
ン,0.
5mg/ml ペプスタチンを含む1
0
0mM リン酸カリ
ウム緩衝液(pH7.
2)に懸濁後,超音波破砕し超遠心後
の上清のアラニンラセマーゼ活性を測定した.
図2 アルファルファ(Medicago sativa L.)の芽生え中のアラニン
ラセマーゼによる D-アラニンと L-アラニンのラセミ化
反応液組成は次の通り:1
0
0mM CHES(pH9.
0)
,5
0mM D-または Lアラニン,3
0mM PLP,酵素液.反応温度:3
7℃.
3
0
4
〔生化学 第8
0巻 第 4 号
表3 アルファルファ(Medicago sativa L.)のアラニンラセマー
ゼ活性に及ぼす PLP の影響
透
析
(1回目)
実施せず
−ヒドロキシルアミン
−ヒドロキシルアミン
+ヒロドキシルアミン
+ヒロドキシルアミン
透
析
比 活 性
(2回目) (kat/kg)
実施せず
−PLP
+PLP
−PLP
+PLP
0.
2
7
8
0.
0
1
4
5
0.
2
4
2
0
0.
1
5
4
結合態 D-アミノ酸が存在することが古くから知られてい
る.そこでわれわれはイネゲノムに着目し,本ゲノム中に
相対活性
(%)
セリンラセマーゼ/デヒドラターゼ(Os-SerR)のホモログ
1
0
0
5
8
7
0
5
5
4
6.
7,4
2.
2% の 相 同 性 を 示 し た.ま た Os-SerR は 大 腸
酵素溶液は,2,
5
0
0倍(体積比)の1mM DTT,1mM EDTA を
含む1
0
0mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.
2)
(緩衝液 A)に対
して,あるいはこの緩衝液 A に5
0mM ヒドロキシルアミンを
添加した緩衝液に対して4℃ で1
8時間透析した(透析(1回
目)
.さらに透析(2回目)では,透析(1回目)の酵素液を,
緩衝液 A または緩衝液 A に3
0µM PLP を添加した緩衝液に対
して1
2時間透析した.
クトの第1期には,遺伝子地図や物理地図の作成が中心に
が存在することを見出した.Os-SerR はヒト30),マウス31)
の セ リ ン ラ セ マ ー ゼ(SerR)と 一 次 構 造 上 そ れ ぞ れ
菌32),サルモネラ菌33)のスレオニンデヒドラターゼと一次
構造上それぞれ3
3.
9,3
3.
3% の相同性を示した(図3)
.
まず Os-SerR をコードする遺伝子(Os-serr)を大腸菌で
大量発現した.Os-SerR の精製酵素標品は,ゲル濾過で分
子 量8
7,
0
0
0,SDS-PAGE で 分 子 量4
0.
9
0
0と し て 挙 動 し
た.したがって Os-SerR はホモダイマー構造を有している
ことが明らかになった.Os-SerR の四次構造はシロイヌナ
ズナ34),マウス30)の SerR と一致した.Os-SerR の基質特異
性を検討したところ,本酵素は Ser のラセミ化反応を特異
行われた.19
9
8年以降日本の主導で結成された国際イネ
的に触媒した.また Os-SerR は動物型セリンラセマーゼ同
ゲノム塩基配列解析プロジェクト(IRGSP)により塩基配
様 Ser デヒドラターゼ活性をも触媒した.本酵素の Ser ラ
列の解読が行われ,2
0
0
4年1
2月にはイネゲノムの完全解
セマーゼ,Ser デヒドラターゼ活性の最適反応温度は共に
読が成し遂げられた29).上記のようにイネには D-Ala や1-
3
5℃ であった.さらに各種金属イオンなどの Os-SerR の
[(N -γ-L-グルタミル)
アミノ]
-D-プロリンなどの遊離及び
Ser ラセマーゼ,Ser デヒドラターゼ活性に及ぼす影響を
図3 イネ(Oryza sativa L.)のセリンラセマーゼと既報のセリンラセマーゼ及びスレオニンデヒドラターゼの一次構造の比較
●:PLP 結合 Lys 残基(推定)
,○:Mg2+結合に関与するアミノ酸残基(推定)
Arabidopsisi thaliana_SerR(Accession No. BAE7
2
0
6
7)
; Shizosaccharomyces pombe_SerR(Accession No. 1V7
1_A)
; Mus Musclus
(Accession No. NP_0
3
8
7
8
9)
; Homo Sapiens_SerR(Accession No. NP_0
6
8
7
6
6)
; Shizosaccharomyces typhimurium_TDH(Accession
No. AAL2
2
1
1
7)
.
3
0
5
2
0
0
8年 4 月〕
検討したところ,Os-SerR の Ser ラセマーゼ活性は Mg2+,
されている.このようなゲノム情報に基づく植物 D-アミ
Ca2+によって活性化され Cu2+,Zn2+,ATP によって阻害さ
ノ酸代謝関連酵素の研究は,シロイヌナズナ34)などにおい
れた.これは動物型 Ser ラセマーゼと良く一致する.また
ても行われている.
Os-SerR の Ser デヒドラターゼ活性は Fe2+,Al3+,ATP に
6. 食品中の D-アミノ酸
よって活性化され,Cu2+,Zn2+,Mg2+,Ca2+によって阻害
された.動物型 Ser ラセマーゼの場合,Mg2+,Ca2+存在下
上記のように植物中にはさまざまな D-アミノ酸が含ま
では Ser デヒドラターゼ活性は活性化されると報告されて
れており,植物(野菜,果物,穀物など)を原料とする食
お り35),Os-SerR の Ser デ ヒ ド ラ タ ー ゼ 活 性 に 及 ぼ す
品中にも当然 D-アミノ酸が含まれている.しかし食品中
Mg ,Ca の影響は動物型 Ser ラセマーゼの場合と正反対
の D-アミノ酸は必ずしも原料に由来するとは限らず,製
である.この点は Os-SerR の大きな特色と言えよう.しか
造工程における加熱による L-アミノ酸の D-アミノ酸への
し Mg2+と ATP 共存下では,Os-SerR の Ser ラセマーゼ,
転換(この過程はしばしばラセミ化とよばれるが,厳密に
Ser デヒドラターゼ活性は共に阻害された.そこで Os-
は D-アミノ酸と L-アミノ酸が等量生成する場合がラセミ
SerR の Ser ラセマーゼ,Ser デヒドラターゼ活性に及ぼす
化であり正しくない)や用いられる様々な微生物によって
Mg と ATP の影響を検討するため,Mg ,ATP,Mg と
生産される場合,原料の微生物による汚染などに起因する
ATP 存在下で基質として L-Ser を用い反応速度論的解析を
場合などがある.たとえばビールでは,オオムギ,コム
2+
2+
2+
2+
2+
行った.Mg または ATP 存在下では,Os-SerR の Ser ラセ
ギ,トウモロコシ,コメ,アワなどが発酵可能な糖源とし
マーゼ活性の kcat に大きな変化はないが L-Ser に対する Km
て 用 い ら れ る.上 面 発 酵 で は Saccharomyces cerevisiae
は大きく減少し,その結果触媒効率(kcat/Km)は上昇した.
Hansen38),下面発酵では Saccharomyces carlsbergensis Han-
また Mg と ATP 共存在下では,L-Ser に対する Km ととも
sen39)などが用いられアルコール発酵が行われる.地ビー
2+
2+
に kcat も減少しその結果 kcat/Km には大きな変化はみられな
ルの場合,Saccharomyces 以外に様々な野生の酵母や乳酸
かった(表4)
.一方,Os-SerR の Ser デヒドラターゼ活性
菌が用いられる.たとえばベルギーのランビック(自然発
は,Mg または Mg 及び ATP 存在下では,kcat,Km,kcat/
酵)ビールの場合,Brettanomyces lambicus40),Brettanomy-
Km はいずれも減少したが,ATP 存在下では,kcat は著しく
ces bruxellensis41)などの野生酵母に,主と し て Pedicoccus
増加し L-Ser に対する Km は増加し,その結果 kcat/Km は増
属の乳酸菌を混合して用いる42).ドイツのベルリナーヴァ
加した(表4)
.これらの結果から,Mg は基質 L-Ser に対
イスビールの刺激的な酸味は Lactobacillus delbrueckii43)を
する Km を減少させ Os-SerR の Ser ラセマーゼ活性を上昇
用いる乳酸発酵によるものである.またビールの製造工程
2+
2+
2+
させるとともに基質 L-Ser に対する kcat を減少させること
ではモルトの熱処理も行われる.Brückner らはドイツ及び
により Ser デヒドラターゼ活性を減少させると考えられ
ベルギー産の代表的なビール及びビール原料の D-アミノ
る.玄 米 中 に は Ca2+(約1
0
0ppm)よ り も Mg2+(約1
3
0
0
酸の定量的解析を行っている44)(表5)
.D-Ala,D-Pro,D-
ppm)の方がより高濃度で含まれていることが報告されて
Asp,D-Glu はいずれのビールにも含まれていた.D-Lys は
おり ,また酵母 Schizosaccharomyces pombe のセリンラセ
ベルリナーヴァイスビールに,D-Tyr は木苺のランビック
マーゼ37)の立体構造解析の結果明らかにされた Mg2+結合
ビールとババリアンヴァイスビールにのみ含まれていた.
3
6)
2+
モチーフが本酵素にも存在していることなどから,Mg
ビールに含まれる D-,
L-アミノ酸の割合は,ビールの原料
は Os-SerR の二つの酵素反応を制御している可能性が示唆
と製造に用いられる微生物の種類に大きく依存していた.
表4 イネ(Oryza sativa L.)のセリンラセマーゼのキネティックパラメーター
ラセマーゼ活性
Mg2+,ATP なし
+Mg2+
+ATP
+Mg2++ATP
デヒドラターゼ活性
Mg2+なし
+Mg2+
+ATP
+Mg2++ATP
+Mg2+及び ATP の濃度は共に1mM.
Kcat(S―1)
L-Ser
3.
6×1
0―1
3.
1×1
0―1
3.
2×1
0―1
2.
0×1
0―1
Kcat(S―1)
6.
1×1
0―1
3.
6×1
0―1
1.
9
4.
2×1
0―1
に対する Km(mM)
1
8.
0
1
0.
0
1
3.
0
9.
3
0
L-Ser
に対する Km(mM)
2
7.
7
1
8.
4
5
6.
3
5
8.
2
kcat/Km(S―1・mM―1)
2.
0×1
0―2
3.
1×1
0―2
2.
5×1
0―2
2.
2×1
0―2
kcat/Km(S―1・mM―1)
2.
2×1
0―2
1.
9×1
0―2
3.
4×1
0―2
7.
0×1
0―3
2.
6
―
―
―
―
0.
3
―
―
―
9.
7
―
3.
2
4.
8
―
―
―
6.
7
n.d.
―
n.d.
n.d.
2.
0
n.d.
n.d.
―
7.
3
n.d.
3.
4
5.
9
n.d.
n.d.
n.d.
2
5
0.
0
1
8
8.
0
1
4
5.
5
1
5.
5
4
4.
5
6
6
2.
5
3
8.
9
8
4.
8
1
9
3.
6
6
8.
3
2
1.
1
1
0
1.
9
1
1
6.
5
7
1.
3
1
0.
2
5
2.
4
そして乳酸菌による瓶内二次発酵が行われる点が特徴であ
る.このビール中の例外的に高い D-Pro は微生物のラセ
マーゼによって生産されたものであると考えられる.ベル
3.
0
―
―
―
―
0.
2
―
―
―
8.
5
―
1.
4
6.
2
3.
0
―
―
ギー産のランビックビールにも多量の D-アミノ酸が含ま
れているが,これらの D-アミノ酸も製造工程で添加され
2.
6
n.d.
―
n.d.
n.d.
0.
8
n.d.
n.d.
―
3.
1
n.d.
1.
2
4.
6
1.
7
n.d.
n.d.
るさまざまな果物の種類によって大きく変化する.した
がってビールに含まれる D-アミノ酸含量を測定すること
により,ビールの品質や製品の均一性を確認することがで
きる.同様にオレンジジュースの場合,高品質な製品には
L-アミノ酸しか含まれていないが劣化した製品には D-アミ
3.
2
―
―
―
―
0.
4
―
―
―
1
3.
5
―
7.
5
5.
7
―
―
―
ノ酸の添加や様々な果物が混合された粗悪品中にも D-ア
ミノ酸が含まれており,オレンジジュースに含まれる D-
2.
4
n.d.
―
n.d.
n.d.
1.
5
n.d.
n.d.
―
4.
3
n.d.
1.
5
2.
5
n.d.
n.d.
n.d.
アミノ酸含量を測定することにより,オレンジジュースの
品質や製品の均一性を確認することができる.
7
2.
1
2
2.
6
5
8.
2
9.
2
9.
0
3
8
1.
7
4
1.
1
1
9.
9
3
0.
6
2
7.
6
5.
4
1
8.
5
4
1.
0
2
0.
9
7.
1
1
9.
9
このように D-アミノ酸は食品中に,特に発酵食品中に
多量に含まれているが,通常食事として摂取される食品中
に含まれる D-アミノ酸は,腎臓などに存在している D-ア
1.
5
―
―
―
―
0.
3
―
―
―
8.
3
―
―
3.
1
―
―
―
ミノ酸オキシダーゼによって2-オキソ酸に変換されさら
に代謝分解された後,最終的には尿中に排泄されるので,
4.
2
n.d.
―
n.d.
n.d.
1.
7
n.d.
n.d.
―
3.
9
n.d.
n.d.
3.
1
n.d.
n.d.
n.d.
人体に悪影響を及ぼす心配は全くない46).むしろ今後さま
ざまな D-アミノ酸の生理的機能が解明されれば,D-アミ
ノ酸を多量に含む食品は健康増進機能などを有する可能性
も考えられる.
7. お
わ
り
に
植物中に D-アミノ酸が存在することが発見されて以来
約5
0年の年月が経っているが,いまだその明確な生理的
機能は明らかになっていない.植物及び食品中の D-アミ
ノ酸の生理的機能の解明は筆者の研究の柱の一つであり,
文献4
4)から引用
今後も精力的に研究を展開していきたいと考えている.
謝辞
当研究室における植物及び食品中の D-アミノ酸の研究
は,平成1
1年,筆者が筆者の大学院時代の恩師であり当
時関西大学の教授であった左右田健次先生(京都大学名誉
教授)とともに小川正先生(現:関西福祉科学大学教授)
n.d.:検出限界以下
1
7.
3
―
―
―
―
0.
7
―
―
―
1.
6
―
―
5.
7
6.
4
―
―
2
2.
5
n.d.
―
n.d.
n.d.
5
1.
9
n.d.
n.d.
―
5.
2
n.d.
1.
3
6.
6
n.d.
n.d.
1.
3
Ala
Val
Gly
Thr
Ile
Pro
Ser
Leu
GABA
Asp
Met
Phe
Glu
Tyr
Orn
Lys
5
2.
2
3
0.
9
4
7.
8
1
3.
3
2
2.
9
1
9
4.
3
1
2.
0
4
5.
2
7
7.
0
3
0.
1
9.
7
3
9.
3
5
3.
9
5.
7
6.
5
3
1.
6
3
0.
1
―
―
―
―
2
1.
1
―
―
―
1
4.
7
―
3.
2
1
0.
9
―
―
4.
0
6
1.
2
4
4.
5
2
9.
6
2
0.
2
2
4.
7
9
1.
7
2
2.
1
4
1.
6
2
8.
1
6
2
2.
2
1
3.
6
2
7.
2
3
6.
4
1
4.
6
3.
1
8.
6
1
0.
9
n.d.
―
n.d.
n.d.
0.
6
n.d.
n.d.
―
1
0.
3
n.d.
n.d.
2.
2
1.
0
n.d.
n.d.
2
7
3.
5
1
2
8.
3
9
9.
6
9.
3
3
5.
6
6
2
3.
7
3
0.
2
6
0.
7
1
2
3.
5
4
3.
3
1
4.
4
7
5.
7
9
6.
1
7
0.
0
6.
1
8
5.
4
D体
mg/l
L体
mg/l
%D
D体
mg/l
L体
mgl/l
%D
L体
mg/l
D体
mg/l
L体
mg/l
D体
mg/l
%D
ペールエール
ピルスナー
木苺のランビックビール
ベルリナーヴァイスビール
定試料中では,ベルリナーヴァイスビールに最も D-アミ
ノ酸が多量に含まれていた.このビールは長期に熟成され
ノ酸が含まれていることが知られている45).また合成アミ
アミノ酸
表5 ビール中の D-アミノ酸の定量的解析
しかし D-アミノ酸の含有量には,原料(穀物,モルト,
ホップ)はほとんど影響しないことが明らかになった.測
8
3.
5
7
3.
2
5
1.
3
7.
9
2
6.
3
3
9
3.
8
1
5.
5
6
8.
4
8
3.
8
3
3.
2
1
1.
5
8
4.
7
7
0.
0
5
5.
4
5.
8
1
5.
5
L体
mg/l
D体
µmol/l
%D
L体
mg/l
D体
mg/l
%D
〔生化学 第8
0巻 第 4 号
%D
ババリアンヴァイスビール
ストロングビール
3
0
6
とアルファルファ芽生え中の D-Ala の定量的解析とアラニ
ンラセマーゼの共同研究を開始したことに端を発す
る47∼49).アルファルファのアラニンラセマーゼの研究は,
当時,関西大学の大学院生であった小野和利君が中心とな
り精力的に行われたものである.またイネのセリンラセ
マーゼの研究は,筆者が平成1
7年,関西大学の大学院生
3
0
7
2
0
0
8年 4 月〕
君とともに研究を開始し,現在も継続的に研究を行ってい
る50∼57).これらの研究遂行にご協力いただいた関係各位に
心から感謝申し上げます.
文
献
1)Singh, B.K.(ed.)
(1
9
9
9)Plant Amino Acids: Biochemistry and
Biotechnology. Marcel Dekker Inc, New York Basel.
2)Zenk, M.H. & Scherf, H.(1
9
6
3)Biochim. Biophys. Acta, 7
1,
7
3
7―7
3
8.
3)Zenk, M.H. & Scherf, H.(1
9
6
4)Planta,6
2,3
5
0―3
5
4.
4)Ogawa, T., Kimoto, M., & Sasaoka, K.(1
9
7
7)Agric. Biol.
Chem.,4
1,1
8
1
1―1
8
1
2.
5)Erbe, T. & Brückner, H.(2
0
0
0)J. Chromatogr. A, 8
8
1, 8
1―
9
1.
6)Frahn, J.L. & Illman, R.J.(1
9
7
5)Phytochemistry, 1
4, 1
4
6
4―
1
4
6
5.
7)Manabe, H.(1
9
8
5)Agric. Biol. Chem.,4
9,1
2
0
3―1
2
0
4.
8)Ogawa, T., Kawasaki, Y., & Sasaoka, K.(1
9
7
8)Phytochemistry,1
7,1
2
7
5―1
2
7
6.
9)Kullman, J.P., Chen, X., & Armstrong, D.W.(1
9
9
9)Chirality,
1
1,6
6
9―6
7
3.
1
0)Aldag, R.W., Young, J.L., & Yamamoto, M.(1
9
7
1)Phytochemistry,1
0,2
6
7―2
7
4.
1
1)Brückner, H. & Westhauser, T.(1
9
9
4)Chromatographia, 3
9,
4
1
9―4
2
6.
1
2)Brückner, H. & Westhauser, T.(2
0
0
3)Amino Acids, 2
4, 4
3―
5
5.
1
3)Pätzold, R. & Brückner, H.(2
0
0
6)Amino Acids,3
1,6
3―7
2.
1
4)Ono, K., Yanagida, K., Oikawa, T., Ogawa, T., & Soda, K.
(2
0
0
6)Phytochemistry,6
7,8
5
6―8
6
0.
1
5)Brückner, H., Langer, M., Lüpke, M., Westhauser, T., &
Godel, H.(1
9
9
5)J. Chromatogr. A,6
9
7,2
2
9―2
4
5.
1
6)Ogawa, T. & Fukuda, M. (1
9
7
3) Biochem. Biophys. Res.
Commun.,5
2,9
9
8―1
0
0
2.
1
7)Kawasaki, Y., Ogawa, T., & Sasaoka, K.(1
9
8
2)Agric. Biol.
Chem.,4
6,1―5.
1
8)Markova, T.A. & Gamburg, K.Z. (1
9
9
7) Plant. Sci., 1
2
2,
1
1
9―1
2
4.
1
9)Rekoslavskaya, N.I., Yurjeva, O.V., Salyaev, R.K., Mapelli, S.,
& Kopytina, T.V.(1
9
9
9)Bulg. J. Plant Physiol .,2
5,3
9―4
9.
2
0)Fukuda, M., Tokumura, A., & Ogawa, T.(1
9
7
3)Phytochemistry,1
2,2
5
9
3―2
5
9
5.
2
1)Rozan, P., Kuo, Y.H., & Lambein, F.(2
0
0
1)Amino Acids, 2
0,
3
1
9―3
2
4.
2
2)Klosterman, H.J., Lamoureux, G.L., & Parsons, J.L.(1
9
6
7)
Biochemistry,6,1
7
0―1
7
7.
2
3)Yagi, A., Ishizu, T., Okamura, N., Noguchi, S., & Itoh, H.
(1
9
9
5)Planta. Med .,6
2,1
1
5―1
1
8.
2
4)Brückner, H., Justus, J., & Kirschbaum, J.(2
0
0
1)Amino Acids,2
1,4
2
9―4
3
3.
2
5)Schleifer, K.H. & Kandler, O. (1
9
7
2) Bacteriol. Rev., 3
6,
4
0
7―4
7
7.
2
6)Brückner, H., Langer, M., & Lüpke, M.(1
9
9
3)Chirality, 5,
3
8
5―3
9
2.
2
7)Briggs, G.E. & Haldane, J.B.S.(1
9
2
5)Biochem. J ., 7
2, 2
4
8―
2
5
4.
2
8)Soda, K. & Esaki, N.(1
9
9
4)Pure Appl. Chem.,6
6,7
0
9―7
1
4.
2
9)Kikuchi, S., Satoh, K., Nagata, T., Kawagashira, N., Doi, K.,
Kishimoto, N., Yazaki, J., Ishikawa, M., Yamada, H., Ooka,
H., Hotta, I., Kojima, K., Namiki, T., Ohneda, E., Yahagi, W.,
Suzuki, K., Li, C.J., Ohtsuki, K., Shishiki, T., Otomo, Y., et al.
(2
0
0
3)Science,3
0
1,3
7
6―3
7
9.
3
0)Wolosker, H., Blackshaw, S., & Snyder, S.H.(1
9
9
9)Proc.
Natl. Acad. Sci. USA,9
6,1
3
4
0
9―1
3
4
1
4.
3
1)Strísovský, K., Jirásková, J., Barinka, C., Majer, P., Rojas, C.,
Slusher, B.S., Konvalinka, J.(2
0
0
3)FEBS Lett.,5
3
5,4
4―4
8.
3
2)Feldman, D.A. & Datta, P.(1
9
7
5)Biochemistry, 1
4, 1
7
6
0―
1
7
6
7.
3
3)Simanshu, D.K., Savithri, H.S., & Murthy, M.R.(2
0
0
6)J. Biol.
Chem.,2
8
1,3
9
6
3
0―3
9
6
4
1.
3
4)Fujitani, Y., Nakajima, N., Ishihara, K., Oikawa, T., Ito, K., &
Sugimoto, M.(2
0
0
6)Phytochemistry,6
7,6
6
8―6
7
4.
3
5)Foltyn N.V., Bendikov, I., Miranda, J.D., Panizzutti, R., Dumin, E., Shleper, M., Li, P., Toney, M.D., Kartvelishvily, E., &
Wolosker, H.(2
0
0
5)J. Biol. Chem.,2
8
0,1
7
5
4―1
7
6
3.
3
6)Shindoh, K. & Yasui, A.(2
0
0
3)Food Science and Technology
Research,9,1
9
3―1
9
6.
3
7)宮原郁子,広津 建,三原久明,江崎信芳
(2
0
0
7)
構造生物
学
(倉光成紀,杉山政則編)
,pp.1
2
5―1
3
2,共立出版,東京.
3
8)Hansen, R., Pearson, S.Y., Brosnan, J.M., Meaden, P.G., &
Jamieson, D.J.(2
0
0
6)Appl. Microbiol. Biotechnol ., 7
2, 1
1
6―
1
2
5.
3
9)Wikwn, T. & Pfennig, N.(1
9
5
9)Antonie Van Leeuwenhoek,
2
5,1
9
3―2
2
9.
4
0)Kumara, H.M., De Cort, S., & Verachtert, H.(1
9
9
3)Appl. Environ. Microbiol .,5
9,2
3
5
2―2
3
5
8.
4
1)Yahara, G.A., Javier, M.A., Tulio, M.J., Javier, G.R., & Guadalupe, A.U.(2
0
0
7)Bioprocess Biosyst. Eng.,3
0,3
8
9―3
9
5.
4
2)Sawadogo-Lingani, H., Lei, V., Diawara, B., Nielsen, D.S.,
Mφller, P.L., Traoré, A.S., & Jakobsen, M.(2
0
0
7)J. Appl.
Microbiol .,1
0
3,7
6
5―7
7
7.
4
3)Mussatto, S.I., Fernandes, M., Dragone, G., Mancilha, I.M., &
Roberto, I.C.(2
0
0
7)Biotechnol. Lett.,2
9,1
9
7
3―1
9
7
6.
4
4)Erbe, T. & Brückner, H.(2
0
0
0)J. Chromatography A, 8
8
1,
8
1―9
1.
4
5)Simo , C., Barbas, C., & Cifuentes, A.(2
0
0
2)J. Agric. Food
Chem.,5
0,5
2
8
8―5
2
9
3.
4
6)Brückner, H., Haasmanm, S., & Friedrich, A.(1
9
9
4)Amino
Acids,6,2
0
5―2
1
1.
4
7)小野和利,老川典夫,小川 正,左右田健次(2
0
0
1)生化
学,7
3,9
0
0.
4
8)宮田智子,老川典夫,左右田健次(2
0
0
2)日本農芸化学会
2
0
0
2年度大会講演要旨集,p.3
6.
4
9)宮田智子,老川典夫,左右田健次(2
0
0
3)日本農芸化学会
2
0
0
3年度大会講演要旨集,p.2
5
8.
5
0)紙谷雄志,郷上佳孝,吉田雅博,左右田健次,老川典夫
(2
0
0
6)日本農芸化学会2
0
0
6年度大会講演要旨集,p.1
4
8.
5
1)伊 藤 克 佳,紙 谷 雄 志,郷 上 佳 孝,吉 田 雅 博,老 川 典 夫
(2
0
0
6)日本ビタミン学会第5
8回大会講演要旨,p.2
0
7.
5
2)郷上佳孝,伊藤克佳,老川典夫(2
0
0
6)第2
3回微量栄養
素研究会シンポジウム講演要旨集,p.1
1.
5
3)伊藤克佳,郷上佳孝,老川典夫(2
0
0
6)第2回 D-アミノ酸
研究会学術講演会要旨集,p.5
4.
5
4)郷上佳孝,老川典夫,小野和利,左右田健次(2
0
0
6)第2
回 D-アミノ酸研究会学術講演会要旨集,p.6
0.
5
5)伊藤克佳,郷上佳孝,岸本勝也,老川典夫(2
0
0
7)日本農
芸化学会2
0
0
7年度大会講演要旨集,p.2
1
3.
5
6)郷上佳孝,伊藤克佳,老川典夫(2
0
0
7)第2
4回微量栄養
素研究会シンポジウム講演要旨集,p.1
8.
5
7)郷上佳孝,伊藤克佳,松島由貴,老川典夫(2
0
0
7)第5
9
回日本生物工学会講演要旨集,p.6
3.
^
であった郷上佳孝君,伊藤克佳君,紙谷雄志君,吉田雅博
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