...

途上国の開発事業における官民パートナーシップ(Public-Private

by user

on
Category: Documents
4

views

Report

Comments

Transcript

途上国の開発事業における官民パートナーシップ(Public-Private
独立行政法人国際協力機構 国際協力総合研修所 調査研究報告書
途上国の開発事業における官民パートナーシップ(Public-Private Partnership)
導入支援に関する基礎研究
途上国の開発事業における
官民パートナーシップ 導入支援に
関する基礎研究
報告書目次
Public-Private
Partnership
Public-Private
Partnership
第1章 PPP導入検討の必要性
第2章 開発における官民の役割の変遷
第3章 他援助機関によるPPP導入支援
2005年3月
総 研
J R
第4章 途上国におけるPPPプロジェクトの進展
第5章 PPP導入に向けた政策的課題と政府の役割
第6章 今後に向けて
04-71
性の観点からも、開発援助における民間参加が期待さ
開発事業にPPP導入はなぜ必要か?
れるようになってきています。
2000年9月、国連は途上国の貧困削減などの開発目
本基礎研究は、PPPに基づく民間参加が一般化しつ
標を具体的な数値で示したMDGs(ミレニアム開発目
つある世界の開発援助の動向を調査し、JICAの開発
標)を採択しました。従来から欧米の先進国は自国の
事業における民間セクターの関与の可能性について検
経験に基いて、途上国の開発事業においても民間セク
討することを目的として実施されました。本書はその
ターの資金やノウハウを導入することで事業の効果、
成果を業務上の参考資料としてまとめたものです。
効率性や持続性の向上を図ってきましたが、MDGsと
いう国際社会共通の目標が掲げられる中で、このよう
な官民連携の取り組みがますます活発化しています。
開発における官民の役割の変遷
ニュー・パブリック・マネジメントに基づいて英国
また、途上国側でも行政サービスの拡大を通じた貧困
や米国で行われた行財政改革では、政府がそれまで独
削減が遅々として進まない状況を民活導入により打開
占的に提供してきたインフラや教育・保健といった公
していきたいとの期待が高まっています。
共サービスにおいても、政策と実施の分離や競争原理
このような状況の中、官民パートナーシップ
の導入、成果に基づくマネジメントなどが重視され、
(Public-Private Partnership: PPP)が注目されてき
事業運営の効率性により優れている民間機関への事業
ています。行政の民間開放といった従来の民活導入と
の委託が目立つようになりました。このような動き
異なる点は、より望ましい公共サービスの実現のため
は、1990年代におけるNGO/NPOの台頭を背景に、社
に、官、民、受益者の3者が平等の立場で協働する形
会サービスの中でもいままで政府による提供が当然と
態であることです。
されてきた基礎教育やプライマリー・ヘルス・ケアに
わが国においても、ここ数年来は、厳しい財政事情
おいても浸透しつつあります。他方、インフラについ
による援助予算の減少から、援助の効率性が強く求め
ては、順調に伸びてきた民間投資が1997年をピークに
られており、またプロジェクトの維持管理や持続発展
減少傾向にあり、国際機関や先進国の公的援助機関
PPPとは
本書では、PPPを「より良い公共サー
PPPの分類と主な事業スキーム
ビスを実現するために官、民、受益者の3者が平等
の立場で協働する形態」と定義し、その対象分野は
1.新規の社会資本整備・公共サービスの提供
【民設民営】PFI/BOOT契約(BOT、BTO、BOO)
「インフラなどいわゆるハード分野から教育、医療保
健セクターなどのソフト分野まで多岐にわたる」と
しています。またPPPの形態については、一般には
インフラ建設などに見られるBOT方式、事業権契約
方式など民間の本格的な参画と受け止められていま
すが、本書では「PPPはその国の実情、事業の規模
やリスクに応じて、業務委託契約から事業権契約、
民営化まで様々な形態が考えられる」とPPPの形態
をより広くとらえています。
P
P
P
2.現在提供中の公共サービス
【公設民営】管理契約、リース契約、事業権
(コンセッション)契約
【民設公営】セール&リースバック
【民設民営】事業権契約(ROT、ROO)、民営化
3.公共サービスを支える行政内部の間接業務
【公設公営】業務委託契約(サービス契約、包括委託
契約を含む)
※既存サービスについて今後追加投資や改修・維持更新が発生する場合は、全て2.
に含まれる。
は、インフラ向け民間投資を再び活性化するために、
そこで考えられるPPPの形態について検討していま
地方の公的機関向け融資やOBA(Output-Based Aid、
す。
成果に基づく補助金給付支援)概念に基づく支援など
を実施しています。
PPP導入に向けた政策的課題と政府の役割
民活インフラが1997年のピークから落ち込みを見
他援助機関によるPPP導入支援
せ、低迷している中、国際機関を中心にこれまでの民
国際機関や二国間援助機関では、各々異なる理念に
活インフラ案件の反省と今後の課題が整理されてきて
基づいて、官民パートナーシップ支援を行っていま
います。政府と民間事業者が契約に基づき貧困層に配
す。
慮した公共サービスの提供を実現するためには、PPP
例えば、世銀では、グループ諸機関間の連携を強化
事業の設計において、料金水準と体系の設定や、設計
し民間参入に向けて総力的なアプローチを試みていま
段階からの民間参加の促進、競争と規制枠組みの構
す。対象国での戦略セクターを決め、民間参入を前提
築、為替リスク問題への取り組み、透明性の高い業者
としたセクター改革の実施を途上国に助言したり、個
選定と契約プロセスの整備、政府の業績モニタリング
別プロジェクトについてはグループ全体で持つ保証機
能力強化、民間活用に対する政府の長期的なコミット
能なども利用して地方政府、実施機関に対して実施能
メントなど、これまでよりさらに現実的で、より精緻
力強化のための支援に取り組んでいます。英国は、イ
な対応が必要であると指摘されます。今後PPP導入が
ンフラ整備支援における民間資金の活用を前提とし
検討される新規公共事業においても、こうした点を念
て、その導入を図る金融ファシリティを他ドナーと協
頭に置いた上で、適切な官民の責任とリスクの分担、
力して構築しています。米国は、USAIDの保証機能
連携手法の選択が必要であるといえます。
を用いて現地金融資本の公共投資への導入を図ってい
今後に向けて
ます。また米国やドイツは、PPP支援スキームを活用
した自国民間セクターの海外活動の促進を重視してい
ます。
PPPの導入は途上国間でその進展度合いに大きな差
がありますが、PPP導入が進んでいない途上国におい
PPP導入を成功に導くためには、途上国政府のオー
ては民間事業者が活動を展開していけるような環境の
ナーシップを重視した援助機関と途上国政府との政策
整備が重要となります。また、事業へのPPP導入の際
対話が重要となってきます。また、途上国に進出した
は、当該事業単体での貧困層配慮よりも、むしろ当該
企業がその社会的責任を企業自身のイニシアチブによ
事業を含むセクター全体のプログラムが貧困層配慮型
って担うように仕向けていくための援助機関の取り組
(pro-poor)となるよう設計することが重要です。事
みも必要です。
途上国におけるPPPプロジェクトの進展
MDGsとのつながりが強いと思われる上水道、電力、
業者が民間企業である場合、適正なリスクを取った上
で収益機会を追求することがその行動論理となってお
り、適切な水準の受益者負担を織り込み、政府、民間
事業者、受益者の3者間にWin-Win-Winの関係が成立
情報通信の3セクターから先進的なPPP事業の事例を
することがPPP事業の持続可能性の達成につながると
取り上げ、PPP組成の成果を、サービスの拡大や質的
いえます。技術協力実施機関であるJICAは、金融的
向上の観点から評価しました。例えばチリの水道事業
な側面が強いPPP組成にあたっては、フルセットの支
の事例では、政府が家計調査に基づいて所得階層ごと
援を単独では提供できません。そこで、開発金融機関
の料金設定を行い、その料金の総額と別途水道会社が
など他機関との連携によりPPP導入を推進し、経験の
設定する事業運営に必要なコストとの差額を補助金と
蓄積を図ることが先決であるといえます。本報告書で
して水道会社に給付しており、民間事業者が補助金給
は、PPP導入にあたってJICAが支援可能な分野とし
付をインセンティブとして貧困層向けに給水サービス
て、①法制度、投資・事業環境の整備に関わる政府機
を提供するとともに、政府は受益者の料金負担能力
関の能力強化、②個別案件の実施に携わる政府機関の
(affordability)を重視して料金を決めるという、政府
能力強化を挙げ、開発調査や専門家派遣による支援と
と民がそれぞれの役割を担っていたことが成功の要因
その裏付けとなるセクター分析が必要であると指摘す
とされています。また、今後PPPの適用可能性のある
るとともに、それらを実施する際の留意事項について
分野として教育、保健、地球温暖化対策を取り上げ、
も考察しています。
本件に関するお問合せ先:JICA国際協力総合研修所 調査研究グループ事業戦略チーム、FAX:03(3269)2185 e-mail:[email protected]
※報告書はインターネット上からもダウンロードできます。http://www.jica.go.jp/
Fly UP