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イベント事業の再分類と事業効果に与える影響要因に関する分析 菅原 法城

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イベント事業の再分類と事業効果に与える影響要因に関する分析 菅原 法城
イベント事業の再分類と事業効果に与える影響要因に関する分析
菅原 法城
日本イベント学会や日本イベント産業振興会が提
1. 研究の背景と目的
現在日本では、年間で 2 万件以上のイベントが行
唱する 7 つないし 8 つのイベント分類があり、博覧
われているといわれている。そしてその市場規模は
会、フェスティバル、見本市・展示会、会議イベン
約 2.4
ト、文化イベント、スポーツイベント、販促イベン
兆円と推計されており 1)
、小国の国家予算並
ト、(コンベンションイベント)、の 8 つである 1)。
みの巨大市場となっている。また個々のイベントを
見ても、数百万から数千万単位の事業費で行われて
しかしこの分類はあくまで辞書的な意味合いの分
いるものがほとんどであり、一度に多額の資金の動
類であり、事業効果を考える上では効果的とはいえ
く市場となっている。しかしその内情は、イベント
ない。例として、同じ「スポーツイベント」に分類
に関しては専門的な知識を有さないいわば素人の運
される「地区の運動会」と「オリンピック」はその
営者によるものがほとんどであり、所謂 “勘”や
集客数や経済効果、
主催組織など多くの面で異なる。
“経験”によって運営がなされているというのが現状
一方で、
「スポーツイベント」に分類される「オリン
である。また、その効果に関しても十分な議論がな
ピック」と「博覧会イベント」に分類される “愛・
されているとは考えづらく、
「事業効果のメカニズム」
地球博” のような「大型の博覧会」は、その集客圏
はブラックボックス化してしまっていると言わざる
や集客数、大規模なインフラ整備を伴う点など非常
を得ない。
に類似しているといえる。他にも多くの矛盾例が既
本研究では、このブラックボックス化した「事業
存分類には見られる。このようなことから既存のイ
効果のメカニズム」に対して数理統計的なメスを入
ベント分類では「事業効果」を考える上で不十分で
れその構造を明らかにし、効果を拡大するためには
あり、再分類の必要性があると考える。
どのような方策が有効かを考察する。
3-2 数量化Ⅲ類によるイベントの分類
現在行われているイベントに 1960 年以降の主な
イベントを加え、全体の比率がおおよそ現行の 8 分
2.本研究の流れ
数量化Ⅲ類を用いてイベントを再分類を行い、命
類の比率となるように 100 のイベントをランダムに
名し、その中でもっとも分析が必要であると考えら
抽出した。表 1 に示す 36 項目を用いて個々のイベ
れるイベントの種類を明確化する。対象イベントに
ントを評価し、数量化Ⅲ類を用いてイベントの分類
対して実施したアンケートに基づき、コンジョイン
を行った。
ト分析、SEM による分析を行い、それぞれ「参加者
数量化Ⅲ類の場合、高い寄与率が得られづらく、
が求める要因」
、
「イベント主催者が潜在的に考える
寄与率の大きい 2 軸を用いてサンプルをプロットす
成功のメカニズム」を明らかにする。2 つの分析結
るのが一般的である。よって本研究でも第一軸を x
果を基に事業効果拡大に関する考察を多面的に行い、
軸、第二軸を y 軸としてプロットを行った。なお、
有効なイベント計画の提言を行う。
寄与率は第一軸が 0.22、第二軸が 0.11 となった。軸
の意味としては各カテゴリーのウエイトから、第一
3. イベントの分類
軸が「経済規模や参加者数、集客圏の広さ」を表し、
3-1 分類の再定義の必要性
第二軸が「継続年や会場特性、主催組織」などを表
一言にイベントといえども、その種類や内容は多
していると判断された。
種多様であり、
「事業効果のメカニズム」も当然異な
結果的に図 1 に示すような 5 つに分類が、軸の意
ってくると考える。よってある程度分類をし、類似
味、含まれるイベントの内容から妥当であると判断
した系統のものをグループ化する必要がある。
した。右から順に「インフラ整備抱き合わせ型超
17
表 1 分類に用いた項目
イ
整 ン
備 フ
ラ
開
催
期
間
来
客
数
なし
地区内
仮設構造物程度
市町村内
あり
1日
2~7日
都道府県内
全国
海外(国内含む)
7日以上
100~1000
1000~1000000
若年
客
層
1000000以上
屋外施設
会
場
集
客
圏
道路
屋内施設
組
織
図 1 数量化Ⅲ類によるイベントの分類
高齢
専門人・選手
経
済
規
模
行政関連
主
催
一般
ほぼなし
中規模
広域圏に影響
単発
営利企業
継
続
10年未満
宗教団体
年
10年~60年
専属運営組織
そ
の
行政色あり
学術機関
他
食品PRあり
町内会(青年会等)
60年以上
大規模イベント」
「都市活性化型大型イベント」
、
「広
、
考える有効性が大きいと考えられることから、
「多種
域集客性準大規模イベント」
、
「多種混在中規模イベ
混在中規模イベント」を対象とする。さらに対象に
ント」
、
「町内会企画型小規模イベント」と命名した。
具体性を持たせるため細分化し、その中でもっとも
「インフラ整備抱き合わせ型超大規模イベント」と
含まれるイベント数の多いグループである「地域活
は、地下鉄や大型道路の整備を伴うような国家を挙
性化型お祭りイベント」という集団に対して分析を
げたい大型イベントである。オリンピックや大規
行っていく。
「地域活性化型お祭りイベント」とは、
模博覧会などが分類された。
「都市活性化型大型イベ
主に、自治体や JA、商工会、漁業組合、などによっ
ント」とは広域的な地域の活性化を念頭にした大規
て主宰される公益性の高い、まちおこしを念頭にし
模な地方イベントである。
1980 年~2000 年前半にか
たイベントである。
けて各地で流行した地方博覧会や “札幌夏祭り” な
4-2 対象イベントに対する基礎調査
ど都市を挙げた大規模でかつ実施期間の長いイベン
本研究では対象イベントに対して基本事項を問う
トがここに分類された。
「広域集客性準大規模イベン
アンケートを実施した。事業費に関する質問項目を
ト」とは、ある程度人口の多い都市において、数十
設けたが、その集計結果のヒストグラムを図 2 に示
万~数百万の観客の規模で行われる大規模イベント
す。総事業費の平均はおおよそ 700 万程度であるこ
である。 “祇園祭” のような大規模な伝統的祭りや
とが明らかになった。また、事業主体に対して「今
人口の多い都市での短期大型イベントなどが分類さ
以上に事業効果を増やしてみたいか」という質問に
れた。
「多種混在中規模イベント」とは、参加者数が
対しては 94%、
「参加者を増やしたいか」という質
数千から数十万程度の様々な目的を持ったイベント
問に対しては 84%が YES と回答しており、事業効
の集合である。集客圏は市町村内もしくはその近郊
果拡大は対象イベントの主催者によって強く求めら
程度で、広域的な経済効果を生むほどのスケールで
れているということが明らかになった。また「学術
はないものが該当する。
「町内会企画型小規模イベン
機関の提案する効率化策を用いてみたいか」という
ト」とは町内会とその身内もしくはその近郊程度の
質問に対しては 74%が YES と回答しており、本研
集客圏で行われる小規模なイベントである。小規模
究の結果を利用してくれるイベントは十分にあると
な神社の奉納祭や地域の納涼祭などが分類された。
考えられる。参加者を増やしたい年齢層に関して設
問を設けたところ、67%が若年層、28%が中年層、
4. 本研究で対象とするイベント
5%が高齢層と回答し、若い世代の参加者を拡大した
4-1 対象とするイベント
いという主催者意識が明らかになった。
事業効果のメカニズムが曖昧であり、効果拡大を
18
強く結びついていると考えられる。
「過去の経験によ
る影響」はその世代特有の傾向であり、同一世代で
は継承されるが、他世代が同じ年齢に達しても同様
の傾向は示さないと考えられる。10 代や 60 歳以上
におけるイスとテーブルに対する需要の大きさや、
30 代に対する影響の小ささは時間的余裕が原因の
「年齢による影響」と考えられる。20 代に対する
YOSAKOI の影響の強さは、YOSAKOI ソーランが
20 年前の札幌で確立されて以来爆発的に広まる過
程の中で育った
「過去の経験による影響」
といえる。
図 2 対象イベントの事業費ヒストグラム
5. コンジョイント分析
一方で、札幌という「地域による影響」とも言える。
「参加者がイベントに対して求める要因」を明らか
同様に性別、就労環境に関しては属性間で顕著な傾
にするためコンジョイント分析を実施した。アンケ
向の違いがみられた。
表 2 コンジョイント分析の結果
ートは紅葉シーズンに合わせて北大構内で、すべて
知名度
対面形式で実施した。
全体 216 の有効回答が得られ、
全体
10代
それぞれの属性に関しても分析するのに十分な数を
20代
得た。
その結果に基づきコンジョイント分析を行い、
30代
年
齢
40代
50代
全体や各属性(年齢、性別、イベントの参加傾向、
60代
就労環境、車環境)ごとに、満足度に対する各要因
性
別
(知名度、ステージ、花火、特産品販売、イスとテ
傾参
向加
ーブル、YOSAKOI パフォーマンス)の影響度を算
男性
女性
イベントによく参加
あまり参加しない
学生
環就
境労
働いている
働いていない
出した。結果を表 2 に示す。それぞれに関する考察
車
環
境
を以下に記述する。また、結果には①過去の経験に
車有り
同居家族が所持
車なし(免許なし)
0.375
0.143
0.382
0.518
0.222
0.386
0.378
0.291
0.319
0.318
0.293
0.275
0.374
0.220
0.381
0.365
0.237
花火
ステージ
1.751
1.823
1.758
1.903
1.718
1.580
1.613
1.662
1.822
1.777
1.716
1.769
1.757
1.624
1.776
1.707
1.758
1.255
1.312
1.064
1.413
1.362
1.232
1.166
1.299
1.169
1.199
1.261
1.140
1.301
1.386
1.311
1.272
1.168
特産品販売
イスとテーブル
1.555
1.379
1.234
1.703
1.502
1.774
1.551
1.279
1.610
1.394
1.519
1.284
1.532
1.949
1.616
1.382
1.425
YOSAKOI
1.071
1.275
0.961
0.482
1.058
0.851
1.488
1.029
1.086
1.025
1.095
1.149
0.789
1.551
0.971
0.923
1.179
1.258
1.121
1.398
1.137
1.048
1.272
1.188
1.429
1.033
1.255
1.178
1.223
1.278
0.996
1.163
1.307
1.190
よる影響、②年齢による影響、③地域による影響、
6. SEM による分析
の 3 つの要因が影響していると推測した。
事業主体へ諸情報を問うアンケートを実施し 123
1)全体の結果に関して
2012 年度の国勢調査に基づく人口構成比率(年齢)
の有効回答を得た。それに基づいた SEM モデルを
でランダム抽出した 101 のサンプルの結果を全体の
図 3 に示す。事前計画(0.73)、有名人の招待(0.51)の
結果とした。結果としては花火の実施の影響が最も
2 つが「effect」に及ぼす影響が特に大きいのが特徴
大きく、次いで特産品販売、YOSAKOI パフォーマ
である。()内の数字は「effect」への影響の合計値を
ンスとなった。一方で知名度の影響は極めて小さい
表す。続いて、広報活動、交通特性、事前準備、会
という結果が得られた。
「知名度」より具体的な「中
場設備と続く。Q の具体的な内容は表 3 に表す。花
身」
を重視するという参加者意識が明らかになった。
火、
特産品販売、
YOSAKOI に関しては極めて
「effect」
2)各属性毎の結果に関して
への効果が小さくなりモデルから除いた。
各年齢ごとの結果に関して、30 代、40 代、50 代、
60 代における特産品販売の影響の大きさは、1980
7. 事業効果拡大に関する考察
年~2000 前半にかけて盛んに行われた地方博を訪れ
1)花火
た「過去の経験による影響」と推測される。地方博
コンジョイント分析の結果より集客に関しては極
は地域 PR を念頭にしたものがほとんどで、地域を
めて大きな影響があると考えられる。
しかし SEM の
代表する食材や工芸品の販売が盛んに行われた。こ
結果より、事業主体の意識としては「effect」に繋が
のようなことから特産品販売は地方博のイメージに
っていない。これは費用対効果が悪いことが原因
19
表 3 各観測変数
図 3 主催者が潜在的に考える事業効果のメカニズム
Q1
Q2
Q3
Q4
Q5
Q6
Q7
Q8
Q9
Q10
Q11
Q12
Q13
Q14
Q15
Q16
Q17
Q18
Q19
Q20
Q21
有名人の招待
バスでのアクセス性
自家用車でのアクセス性
鉄道でのアクセス性
広報費用
広報圏
Webサイトの整備
ポスター整備
近隣住民周知
事前計画
過去の事業の見直し
準備期間
準備人員数
準備作業量
スタッフ数
ステージの整備
会場広さ
イスとテーブルの設置
投資効果
集客
目的達成
と考えられる。今回対象にしたイベントにおいて花
今回用いた要因の中で最も効果に繋がり易いと判
火を実施するには 300~400 万程度が相場といわれて
断された。具体的には「過去の主催事業の見直し」
おり、総事業費が 700 万程度の対象イベントには負
と「見直しに基づいた綿密な計画の策定」が重要で
担が大きい。その負担に対する Benefit が十分でない
ある。一見あたり前の結果に思えるが、今回用いた
ことが原因と考えられる。
要因はどれの比較的効果に繋がる可能性が高いと考
2)特産品販売、YOSAKOI
えられるものばかりであり、その中でもっとも有効
と判断されている。
特産品販売は 30 代以上、YOSAKOI は 20 代に対
して一定の集客効果はあるが、総合的な効果には繋
8. 提言とまとめ
がりにくい。
具体的な企画としては、
①有名人の招待、
②花火、
3)有名人の招待
総合的な効果に大きく繋がり、極めて有効である
③特産品販売、の順で有効である。しかしもっとも
と考えられる。具体的な企画としてはもっとも有効
大切なことは、
「過去に開催したイベントを十分に見
である。費用対効果が極めてよいと考えられる。
直すこと」と「見直しに基づいて綿密な計画を事前
4)広報活動
に練ること」である。①~③のような企画を安直に
実施するのではなく、それが本当に主催するイベン
集客には繋がりにくいものの、総合的な効果とし
ては一定程度得られる。よってある程度行う必要が
トにマッチしているのかを十分に検討すべきである。
あるが、過度に行う必要はないといえる。
「Do」ではなく、事前の「Think」の部分がもっと
5)交通特性
も効果に繋がるといえる。準備に入る前に、
「計画」
影響が小さい。会場が都市部であっても交通機能
過程に対し、十分に資金や時間、人員を費やすこと
の十分でない山間部であっても同程度の効果が得ら
がもっとも大切である。また現在行われているイベ
れると考えられる。他地域からの集客を考える場合
ントの基本情報が把握できれば、本研究の結果を用
はシャトルバスの整備などが必要。
いた「イベントの診断」も可能である。
6)会場設備
参考文献
会場の設備は効果にほとんど影響しない。
7)事前準備
1)国内イベント市場規模推計(日本イベント産業振興協会)
単独では効果に繋がりにくい。”綿密な計画”に基
2)高岡耕子、阪田和哉、永井護「インパクト分析~『とちぎ
づいて行われることで効果に繋がる。
ファームフェスタ 2005』をケーススタディーとして」土木計
8)事前計画
画学会研究・論文 No.24,pp371-379,2007.
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