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韓国 新たな鉄道改革の動き
研究員の視点 〔研究員の視点〕 韓国 新たな鉄道改革の動き 競争政策導入をめぐって 運輸調査局 主任研究員 奥田恵子 ※本記事は、『交通新聞』に執筆したものを転載いたしました 韓国では、旧鉄道庁における累積赤字の増 水準の引き下げなど利用者サービスの向上を 加と経営状況の悪化を解消するべく、2005 目的とする、高速鉄道における競争政策の導 年に鉄道改革が行われ、現在、韓国鉄道公社 入を発表した。 (以下、鉄道公社) が高速鉄道及び在来線の列 車運行を 1 社で担っている。しかし、2015 「首都圏高速鉄道」における競争政策の概要 年には民間事業者が高速鉄道に新規参入し、 韓国の高速鉄道ネットワークは、京釜線 鉄道公社と「軌道上の競争」を繰り広げるこ (ソウル~天安牙山~大田~東大邱~新慶州~釜山 とが現実味を帯びてきた。 間 418.7 キロ) と、湖南線(五松~益山~光州 一度は頓挫したかのように思われていた競 ~木浦間 230.9 キロ) とから構成されている。 争政策の導入だが、新政権の幕開けに向け 高速鉄道は 2004 年の開業以来、利用者が て、国土海洋部(日本の国土交通省に相当) が 毎年 10%以上ずつ増加し、週末には満席状 再び動き出した。韓国が目指す鉄道の競争政 況が続いているので、ボトルネック解消のた 策とは、はたしてどのようなものなのだろう めに大田、大邱における都心区間の改良工事 か。 や、光州~木浦間の専用線の建設工事が進め られている。しかし、それでも輸送需要に追 韓国における鉄道改革と競争政策導入の狙い いつけないことが予測されている。 韓国では、2005 年 1 月に鉄道改革が実 そこで、国土海洋部は、さらなる線路容量 施され、インフラ部分については行政機関で の拡大のために、「首都圏高速鉄道」の新線 ある韓国鉄道施設公団(以下、施設公団)、輸 建設計画(水西[ソウル市南部の江南地域に位置] 送部分については公営企業である韓国鉄道公 ~平澤間 61.1 キロで地下を走行)を進めている。 社が担当することとなった。 今回、政府は、この新線運営に民間事業者を 改革当初、鉄道公社は数年以内に単年度黒 参入させることを狙っている。 字へ転換することが期待されていた。しか この政府計画が実現すれば、韓国の高速鉄 し、依然として累積赤字は増加の一途をた 道は、水西を出発した新規事業者と、ソウル どっており、加えて、事故や車両トラブルが あるいは龍山を出発した鉄道公社が、平澤で 絶えない状況が続いている。 既存路線に合流し、釜山方面と木浦方面のそ そ こ で、2012 年 1 月、 国 土 海 洋 部 は、 れぞれの終着駅まで、同一軌道上でサービス 鉄道公社の経営効率化や補助金の削減、料金 を競うこととなる。 研究員の視点 図 韓国高速鉄道ネットワーク 水西 京釜高速鉄道 釜山 建設中 鉄道公社運行区間 民間事業者運行区間 列車のダイヤは、国土海洋部が、線路使用 鉄道公社は、この計画に対し、民間事業者 料の支払い予定額や安全性、運賃水準、顧客 にドル箱路線である高速鉄道のみを担当さ 満足度等のサービス水準等を基準として、両 せ、ローカル線も多く抱える鉄道公社と同じ 社に対するダイヤの割当比率を算定する。こ 条件下で競争させるのは不公平であること れを、交通政策や輸送需要に応じて見積もっ や、事業者間の過当競争は安全性の低下につ た総運行本数に掛け合わせることにより、両 ながる危険性があることなどを理由として反 者の配分が決定される。 対の姿勢を貫いていた。 具体的なダイヤ調整については、事業者間 ところが、2013 年 1 月、国土海洋部は、 の協議を原則としているが、協議が合意に至 これまで鉄道公社に与えられていたダイヤ設 らなかった場合、一定の基準の下で施設公団 定の権利を剥奪し、併せて、運行管理の権限 が調整を行い、最終的には、「線路配分審議 も施設公団へ移管させる方針を固めた。国土 委員会」による審議を経て、国土海洋部長官 海洋部は、この政策について、「インフラ部 の認可を受ける流れとなっている。 門に運行管理の権限を持たせて列車運行の安 研究員の視点 全性を強化するため」であると述べている れは、国民が危惧する民間事業者による運賃 が、国民の多くは、競争導入政策を政府主導 値上げへの対応でもある。 で進めるための強制手段ではないかと解釈し ている。 今後の展望 朴槿恵新政府は、7 大指針の中で「公営企 事業者選定の概要 業の合理化」を掲げており、新政権発足後に 現 在 の と こ ろ、 民 間 事 業 者 の 公 募 ス ケ おいても、同事業が加速化することが予想さ ジュールは遅れているが、国土海洋部の発表 れる。しかし、すでに欧州の鉄道改革の経験 によると、2013 年上半期には事業者の選定 が示しているように、旅客鉄道輸送における を行い、2015 年 1 月から新規事業者の運 同一軌道上の競争は、異常時における事業者 行開始を見込んでいる。 間の責任所在の明確化やダイヤ復旧への緊急 新規事業者は、入札制度によって決定さ 対応が難しいなど、運営事業者とインフラ管 れ、運営期間は 15 年と定められている。こ 理者との調整コストの増大が実証されてい れは、首都圏高速鉄道の運営は莫大な収益を る。 生み出すことが予想されており、民間企業の また、欧州の近年の報告書によると、特に 参入計画発表後に、国民から財閥系大企業へ 列車本数が多い区間においては、非効率性が の利益供与を狙ったものではないかとの批判 高くなることが指摘されている。さらに、今 の声が挙がった経緯を踏まえ、1 社による長 回のように民間事業者と公社とが競争になる 期独占を防ぐための策でもある。 場合、中立・公平性の視点からダイヤ配分の また、新規事業者には、鉄道公社とサービ あり方が非常に難しく、協議の難航が予想さ ス水準を競わせるためにいくつかの条件が課 れる。 せられている。韓国交通研究院の資料による これらの状況を勘案すると、韓国が選択し と、例えば、運賃については、運行開始時に た競争政策は、利用者の利便性増大というよ は現行の高速鉄道の 90% の水準(現在、ソウ りも、鉄道公社の再改革という韓国独特の政 ル~釜山間の運賃[平日]は大人 53,300 ウォン= 策的色彩が滲み出ており、健全な鉄道市場の 1 円を 0.09 ウォンで日本円換算すると約 4,780 円) 発展につながるか否かは不明であると言えよ を上限に設定することが要求されている。こ う。