Comments
Description
Transcript
モグラの目とトマス・ブラウン
モ グ ラ の 目 と トマ ス ・ブ ラ ウ ン 俗信 の蔓延 と論破 山根 正弘 はじめ に この 世 は 人 間 に とっ て隠 され た 意 味 に満 ちた 暗 号 文 で 、た だ 解 読 を待 って い た 。 モ グ ラ この よ うな次 第 で、 蝿 は人 生 の短 さを、 土 螢 は聖 霊 の光 を思 い 起 こ させ 、 土 竜 は誤 っ て 道 を見 失 った 盲 目の カ トリ ック教 徒 を象 徴 し、 毛 虫 は キ リス ト復 活 の 表 象 で あ っ た。(キ ー ス ・トマ ス 『人 間 と自然界 』64頁)D モ グ ラは 人 間 と同 じ哺 乳 類 で身 近 な小 動 物 で あ りなが ら、 意 外 にそ の姿 や 生 態 な どは知 られ て い な い。日本 に は、哺 乳 類[綱]食 虫 目(Insectivora)モ グ ラ科(Talpidae) の うち、 四 属 七 種 の モ グ ラが 棲 息 し、 比 較 的 よ く目に す るの が 、 ア ズ マ モ グ ラや コ ウベ モ グ ラで あ る。 しか し、 これ か ら掘 り起 こす モ グ ラは、 同 じモ グ ラ科 で あ るが 、 属 ・種 の 異 な る イギ リス を含 め 広 くヨー ロ ッパ に棲 息 す る ヨー ロ ッパ モ グ ラ(Talpa europaea)で あ る。 円筒 形 の 身体 で、 ビ ロー ドの よう な ダー ク グ レイ の 毛 で 全 身 覆 わ れ て い る。 ピ ンクの とが った 鼻 と退 化 した 目、 耳 も外 か らは判 別 で きな い。 短 い 四肢 と短 い尻 尾 。 大 きな前 足 に は鈎 爪 が あ りシ ョベ ル の役 割 を果 た す 。 夜 行 性 で 、 地 下 に坑 道 を張 り巡 らせ る。 縄 張 りを持 ち、 繁 殖 期 以 外 は単 独 で 暮 らす 。 冬 眠 は し な い。 主 食 は ミ ミズ で、 昆 虫 や そ の幼 虫 な ど も食 らう。 植 物 の根 や 野 菜 も食 す る と い う。 以 上 が これ か ら登 場 す るモ グ ラの プ ロ フ ィー ル で あ るが 、 こ こで 論 じる テ,___ 一131一 マ は、 盲 目との形 容 辞 を付 され るモ グ ラの 目、 及 び そ の俗 信 で あ る。 1博 物誌 と俗 信の蔓 延 同 じ ヨ ー ロ ッ パ モ グ ラ 属 の 異 種 に メ ク ラ(盲 (地 中 海)モ グ ラ(Talpacaeca)も 目)モ グ ラ の 俗 称 を持 つ チ チ ュ ウ カ イ 存 在 す る が 、 ブ リ テ ン島 に棲 息 す る ヨー ロ ッパ モ グ ラ に は 極 め て 小 さ な 眼 が あ る 。 ビ ロ ー ドの 毛 で 覆 わ れ て い る た め 、 外 か らで は 判 りづ ら い 。18世 1730-1793)は 紀 イ ギ リス の 作 家 オ リ ヴ ァ ー ・ゴ ー ル ドス ミ ス(OliverGoldsmith,C. 、 「も し も[モ グ ラ の]眼 が も っ と大 き か っ た ら 、 土 が 落 ち て き て 中 に 入 り、 い つ も 傷 を 受 け や す か っ た ろ う」(『動 物 誌 』 第3巻 だ が 、 古 代 動 物 学 の 権 威 ア リ ス トテ レ ス(Aristotle)が 第16章)と 述 べ て い る2)。 観 察 したモ グ ラはチ チ ュ ウ カ イ モ グ ラ で 、 眼 は 薄 皮 で 覆 わ れ て い て 盲 目で あ っ た 。 さて 、 人 間以 外 の動 物 も、 殻 皮 類 、 そ の他 の 不 完 全 な もの を 除 き、す べ て の類 に眼 が あ り、 胎 生 動 物 な ら、 モ グ ラ以 外 はす べ て そ うで あ る。 モ グ ラは あ る意 味 で は 眼 が あ る ともい える し、 まった くな い ともい え る。 なぜ な ら、 まっ た く見 え な い し、 外 か らは っ き り見 え る よ うな 眼 は な い か らで、 皮 膚 を は ぎ取 っ てみ る と、 が ん らい 体 表 の、 眼 の ため に備 え られ た場 所 あ るい は 領 域 に、 眼 の領 域 と黒 目 とが あ って 、 あ た か も眼 が 発 生 の 途 中 で 退 化 し、 そ の 上 を皮 膚 が 被 っ た もの の ようで あ る。(『動 物 誌 』第1巻 第9章)3) 古 代 ロ ー マ の 博 物 学 の 大 家 プ リ ニ ウ ス(Pliny)の 『 博 物 誌 』(NaturalHistory)で も、 モ グ ラ の 眼 に 関 し て 、 そ の 典 拠 は ア リ ス トテ レ ス で あ る 。 薄 皮 を 剥 が す と 、 眼 に 似 た も の が あ る が 、 視 る 力 は な い と し て い る(11巻140節)4)。 だ が 、 中 世 の ス コ ラ 学 者 ア ル ベ ル ト ゥ ス ・マ グ ヌ ス(AlbertusMagnus,11931280)に な る と、 事 情 は微 妙 に 違 っ て くる 。 彼 は懐 疑 的 な 態 度 で 、 モ グ ラ の 眼 を つ ぶ さに観 察 す る。 一132一 TALPA(Mole)isasmallanimalthatbelongstotheclassofrodentsandis sometimescalledthe`earth-mouse'or`blindmouse'...Inplaceofeyesit hastinybarespots『bereftofhair.Itfeedsongrubs,butIhavealsowatchedit eatingfrogsandtoads...Themolealsoconsumesearthworms;ifit becomeshungryenough,itnibblesontherootsofplants,especiallylegumes. (ManandtheBeasts,XX,143)5) (モ グ ラ は 蓄 歯 類 に 属 す る 小 動 物 で 、 時 に 「地 鼠 」と か 「盲 目 鼠 」 と 呼 ば れ る 。[中 略]眼 の 箇 所 に は 、 毛 を 取 り除 く と 毛 の 生 え て い な い 小 さ な 点 が あ る 。 昆 虫 の 幼 虫 を 常 食 と す る が 、 蛙 や 慕 を 食 べ る の を 見 た こ と が あ る 。[中 略]モ グ ラ は、 ま た ミ ミ ズ を 食 べ る が 、 腹 ぺ こ に な る と 植 物 、 特 に 豆 科 の 根 を 瑠 る 。) 現 代 の 生 物 学 的 な分 類 か らす る と、..類 は誤 りだ が 、 当 時 は メ ク ラネ ズ ミ(mole rat)と の混 同 が 見 られ た の で あ ろ う。 しか し、 動 物 学 の 権 威 に逆 らっ て、 薄 皮 を剥 が さず とも毛 を 除 け た だ け で 眼 の 存 在 を報 告 して い る点 は、 進 歩 とい え る。 自分 の 目で 検 証 して いれ ば、 ア リス トテ レス と別 種 の モ グ ラを観 察 した の だ か ら、 当 然 と い えば 当然 で あ る。 だ が 、 そ の一 方 で 、 ア ル ベ ル トゥス はモ グ ラの 生 き血 が 禿 の特 効 薬 で あ る との俗 信 を挙 げ て い る点 は、 中 世 的 な類 比 的 思 考 に 支 配 され て い た証 左 で あ ろ う。 と こ ろ が 、 イ ギ リス ・ル ネサ ンス期 の エ ドワ ー ド ・トプ セ ル(EdwardTopsell, 1572--1625)に な る と、0旦 進 み か け た 自然 観 察 力 が 衰 退 した 印象 を受 け る。 トプ セ ルが 『 動 物誌 』(丁加H∼3'or∫εqfFo配r8-Foo'ε4Bε α∫'8,1607)に 掲 載 した モ グ ラの 図 版 に は、確 か に毛 で覆 わ れ て い な い小 さな 眼 が あ り、 開 い て い る。 そ れ に もか か わ らず 、 ア リス トテ レスの テキ ス トを傍 らに置 きなが ら、 多 少 の脚 色 を して 綴 った と 思 われ る文 章 が 続 く。 Thesebeasts[moleslareallblindandwanteies,andthereforecamethe prouerbeTalpacaciorTuphtoterosaspalacos,blinderthenaMole;tosignifie, amanwithoutalliudgment,wit,orfore-sight:foritismostelegantlyapplyed 一133一 totheminde.Yetifanymanlookeearnestlyvpontheplaceswheretheeies shouldgrow,heshallperceiuealittlepassage,drawingvpthemembranceor littleskinnewhichisblack,andtherefore{Aristotlesaith)oftheminthis nnannerprobably. AllkindsofMoleswanttheirsight,becausetheyhauenottheireiesopen andllakedasotherbeasts,butifamanpullvptheskinneoftheirbrowes abouttheplaceoftheireies,whichisthickeandshawdoweththeirsight,he shalperceiueintheminwardcoueredeies,fortheyhauetheblackcircle,and apple,whichiscontainedtherein,andanotherpartofthewhitecircleor ski皿e,butnotapparentlyeminent;neitherindeedecanthey,becausenatureat thetimeofgenerationishindered,forfromthebrainestherebelongtothe eiestwostrongneruypassages,whichareendedatthevpperteeth,and thereforetheirnaturebeinghindered,itleauethanimperfectworkofsight behindher. YetthereisinthisBeastaplainandbaldpiaceoftheskinwheretheeies shouldstand,hauingoutwardlyalittleblackspotlikeaMilletorPoppey-seed, fastenedtoaNerueinwardly,bypressingit,therefollowethabtackhumoror moystness,andbydissectionofaMoiegreatwithyoung,itisapparent(as hathbeeneprooued}thattheyoungonesbeforebirthhaueeies,butafterbirth, Iivingcontinuallyinthedarkearthwithoutlight,theyceasetogrowtoany perfection;forindeedetheyneedethemnot,becausebeingoutoftheearth theycannotliueaboueanhouroxtwo.{Topsell,499}6} (モ グ ラ は 全 く 目 が 見 え ず 、 ま た 眼 も な い 、 そ れ 故 「モ グ ラ よ り 目 が 見 え な い 」 と い う 諺 が 生 ま れ た 。 そ の 意 味 す る と こ ろ は 、 全 く判 断 力 や 知 能 、 そ し て 先 見 の な い 人 物 で あ る 。 見 事 に 精 神 の 働 き に転 用 され て い る 。 け れ ど、 も し 、 本 来 眼 が あ る べ き と こ ろ を しげ し げ と眺 め て み る と、 黒 くな っ て い る 皮 膚 の 一 部 や 薄 皮 を 剥 が す こ と に よ り、 小 さ な 管 が 認 め ら れ る 、 そ れ 故 ア リ ス トテ レ ス は 眼 に つ い て お そ ら く こ の よ う に 述 べ て い る の で あ ろ う。 あ ら ゆ る 種 類 の モ グ ラ に 134 は視 力 が ない 、 なぜ な ら他 の 動 物 と違 っ て、 毛 で 覆 わ れ て い ない 開 い た 眼 が な い か らだ 。 しか し、 眼 の あ た りの額 の 皮 膚 を剥 が せ ば、 そ の 皮 膚 は厚 く目を覆 って い るが 、 そ の 内 部 に皮 膚 で 覆 わ れ た眼 が 認 め られ る。 とい うの も、 黒 目 と 瞳 孔 が あ るの で 。[中 略]け れ ど、 モ グ ラ には 、 眼 が 本 来 あ るべ きと ころ に平 ら で毛 の 生 えて い な い箇 所 が あ り、外 側 で は黍 や芥 子 粒 ほ どの小 さ な黒 点 であ る が 、内側 で は神 経 で 繋 が って い て 、圧 力 をか け る と黒 い体 液 が 流 れ 出 る。そ して、 子 を孕 ん だ 母 モ グ ラを解 剖 す れ ば、 モ グ ラは胎 児 の と きに は眼 が あ っ た が 、 生 まれ た あ と常 に光 の な い 地 下 の 闇 の 中 で 暮 らす うち に 眼 が 完 成 しな い こ とは、 [立 証 済 み で]明 白で あ る、 とい うの は、 実 際 、 モ グ ラ は地 上 に 出 れ ば 一 、 二 時 間 も生 き られず 、 眼 を必 要 と しない の で 。) トプ セ ル は、 「モ グ ラ につ い て 」("OftheMoleorWant")の 冒i頭で 、 従 来 よ りモ グ ラが 欝 歯 類 に分 類 され る こ とに異 議 を唱 え る。 そ の 理 由 は、 欝 歯 類 の属 性 で あ る 湾 曲 した 二 本 の 長 い前 歯 が モ グ ラに見 られ な い か らで あ る とい う。 理 に適 った 主 張 で あ る。 しか し、 図 版 と相 違 す る古 典 的 な眼 の 記 述 を挙 げ 、 自己 矛 盾 を露 呈 す る。 そ の 上 、 胎 児 モ グ ラの 眼 につ い て 、 実 際 の発 生 とは全 く逆 の 説 明 をす る。 ヨー ロ ッ パ モ グ ラは、 ア リス トテ レス の観 察 した モ グ ラ とは 違 い、 生 まれ た て の 頃 は盲 目で しば ら くす る と眼 が 開 く。 これ らの 点 か らす る と、 トプ セ ルは イギ リス ・ル ネ サ ンス 期 か ら芽 生 え始 め る科 学 的 な 態 度 と、古 典 の 権 威 に服 従 す る態 度 とが 同 居 した 人 物 と考 え られ る。 ちな み に、 イギ リス 理 神 論 の 父 と称 され る チ ャー ベ リー 卿 エ ドワー ド ・ハ ー バ ー ト(EdwardHerbert,c.1582-1648)は 、『 真 理 につ い て』(DeVeritate,1624)で 、 Men,then,whoisananimalofcomplicatedstructure,isendowedwith numerousfaculties.Themoleisanundergroundcreatureandaccordinglycan dowithoutsight.Zoophytescandowithoutotherexternalsensesexceptthe senseoftouch.(Ch.5)7) (し か る に 、人 間 は 複 雑 な 構 造 の 動 物 で あ る が 、数 多 く の 能 力 が 賦 与 さ れ て い る 。 一135一 モ グ ラ は 地 下 の 生 き 物 で あ り、 し た が っ て 視 力 が な くて も よ い 。 植 虫 類 は 触 覚 を 除 き 他 の 外 的 感 覚 が な くて も よ い) と述 べ て い る 。 真 実 と 誤 謬 と を 弁 別 す る 定 理 の 確 立 に 努 め た エ ド ワ ー ド ・ハ ー バ ー トで あ っ た が 、 モ グ ラ の 眼 に つ い て は 一 般 的 な 概 念 を 払 拭 で き て い な か っ た の だ ろ うか 。 だ が 、 地 下 生 活 に 適 応 し 目が 退 化 し た モ グ ラ が 、 人 間 の も の を 見 る 能 力 と較 べ て 、 「盲 目」 と い う 形 容 辞 が 付 さ れ る の は 、 無 理 か ら ぬ こ と で あ ろ う 。 モ グ ラ が 盲 目 で あ る と い う 俗 信 は 、 先 の トプ セ ル の 引 用 に 見 ら れ る よ う に 、 た や す く精 神 の 闇 に 転 嫁 され る 。 16世 紀 前 半 の 思 想 界 の 巨 人 エ ラ ス ム ス(Erasmus,c.1466-1536)は Adages,1500)で 、『 格 言 集 』(The 「モ グ ラ の よ う に 盲 目 」("Talpacaecior:Ashlindasamole")を 取 り上 げ 、 「こ の 格 言 は 、 視 力 の 極 め て 乏 し い 人 や 判 断 力 の な い 人 の こ と を 指 す 。 と い う の も 、 も し こ の 比 喩 表 現 が 精 神 に 転 用 さ れ た ら 、 さ ら に 面 白 く な る か ら 」(1.iii.55) と コ メ ン ト し て い る8)。 同 様 に シ ェ イ ク ス ピ ア(WilliamShakespeare,1564-1616) も 『 冬 物 語 』(TheWinter'sTale,1611)で 、 物 事 に 明 らか で な い 者 、 愚 か 者 を 指 し て モ グ ラ と 呼 ん で い る("thesetwomoles,theseblindones,"IViv837)9)。 モ グ ラ の 眼 は 詩 の 世 界 で は 、 な に や ら怪 し げ な 存 在 で あ っ た 。 ロ バ ー ト ・ヘ リ ッ ク(RobertHerrick,1591-1674)の 収 め られ た 妖 精 詩 三 部 作 の0つ 詩 集 『ヘ ス ペ リ デ ィ ー ズ 』(Hesperides,1648)に 「オ ベ 「 ロ ン の 饗 宴 」("OberonsFeast,"c.1626)で は、 茸 の テ ー ブ ル の 上 に 動 物 ・植 物 界 か ら様 々 な 珍 味 が 並 べ ら れ る 。 例 え ば 、 動 物 で は 、 ネ ズ ミの 髭 、 ハ サ ミ ム シ の 薫 製 、 イ モ リ の 煮 込 み 腿 肉 な ど で あ る が 、 当 時 の 俗 信 で は そ の 存 在 が 危 ぶ ま れ て い た モ グ ラ の 眼 も 含 ま れ る(44行)10}。 こ れ ら妖 精 王 オ ベ ロ ン の た め に 用 意 さ れ る 珍 味 は 、 ま る で シ ェ イ ク ス ピ ア の 『マ ク ベ ス 』(Macbeth, 1606)に 登 場 す る 魔 女 が 大 釜 に 放 り込 む 毒 入 り臓 物 の 如 くで あ る 。 そ う い え ば 、 そ の 奇 妙 な 食 材 の 中 に は 、 沼 に 棲 む 蛇 の 切 り身 や トカ ゲ の 脚 の 他 、 イ モ リ の 眼 が あ っ た(4幕1場14)11)。 モ グ ラ の 眼 も、 な に か 魔 術 や 妖 術 を 連 想 させ る ア イ テ ム で あ っ たか 。 一136一 Hブ ラウンと俗信の論破 「偉 大 な 両=棲 類 」("greatAmphibium")と 称 さ れ る17世 ラ ウ ン(SirThomasBrowne,1605-1682)の 1658)、 紀 イ ギ リス の 医 師 トマ ス ・ブ 『 壷 葬 論 』(Hydriotaphia,Urne-Buriall, ノ リ ッ ジ 近 傍 の 古 邑 ウ ォ ル シ ン ガ ム の 耕 地 で40か ら50の 壺 が 発 掘 され た こ とを 契 機 に 、 火 葬 や 土 葬 、 生 死 に 関 わ る 問 題 を 論 じた 随 筆 に 、 モ グ ラが 顔 を 覗 か せ て い る。 ButiteratelyaffectingthepourtraitsofEnoch,Lazarus,Jonas,andtheVison ofEZechiel,ashopefulldraughts,andhintingimageryoftheResurrection; whichisthelifeofthegrave,andsweetensourhabitaionsintheLandof MolesandPismires.(Chapter3)12) (し か し[墓 所 に 相 応 し い 図 像 と し て]好 ん で 繰 返 し描 か れ る の は 、 エ ノ ク、 ラ ザ ル ス 、 ヨ ナ の 肖像 や 、 未 来 の 希 望 を 表 す エ ゼ キ エ ル の 幻 、 お よ び 復 活 を 示 唆 イ メリ ジ す る形 象 で あ って 、 これ こそ 墓 の 生 で あ り、 モ グ ラや 蟻 の地 にお け るわ れ わ れ の 滞 在 を甘 美 な らしめ る もの で あ る。) 博 物 学 に精 通 して い た ブ ラウ ンは、 モ グ ラの 眼 に関心 を寄 せ るが 、 同 じ17世 紀 で も初 頭 に活 躍 した トプ セ ル と事 情 は少 し違 う。1646年 見 』[俗 信 論](PseudodoxiaEpidemica,1658)の に初 版 が 世 に 出 た 『伝 染 性 謬 第3巻 は、 二 十 数 種 類 の動 物 、 例 え ば馬 や 象 、 カメ レオ ン、 鯨 とい った 現 実 の 動 物 か ら、 不 死 鳥 や グ リフ ィ ンな ど想 像 上 に至 る まで 、 動 物 に まつ わ る伝 承 や 俗 信 を検 証 して い る。 そ の 第18章("Of Moles,orMolls")は モ グ ラ、特 にそ の 目に 関す る もの だ 。 モ グ ラが 盲 目で あ り眼 が な い とい う俗 信 につ い て 、あれ これ と想 い をめ ぐらす 。俗 世 間で 言 わ れ てい る ように、 本 当 に モ グ ラ は盲 目な の か 。 そ れ と も、 眼 は あ る に は あ るが 節 穴 に す ぎ ない の か 。 眼 もな け れ ば もの も見 え な い の か 、 そ れ と も眼 が あ りものが 見 え る の か と、 順 に こ れ らの 説 を検 討 して い く。 ブ ラウ ンの 結 論 と して は、 多 少 の 限定 条 件 付 きで 最 後 の 説 を採 る。 つ ま り、 モ グ ラに は 眼 が あ るが 不 完 全 な し ろ もの で 、 か す か な視 力 しか 一137一 な い とい うの が 、彼 の行 き着 い た推 論 の 結 果 で あ った 。 そ の 理 由 は、 ...thatthey[moleslhaveeyesintheirheadismanifestuntoany,thatwants themnotinhisown,andarediscoverable,notonelyinoldones,butaswe haveobsexvedinyongandnakedconceptions,takenoutofthebellyofthe dam...separatingtheselittleOrbes,andincludingtheminmagnifying glasses,weediscernednomorethanAristotlementions...ablackhumour, noranymoreiftheybeebroken:thatthereforetheyhaveeyeswemustof necessitieaffirm,buttheybecomparativelyincompleteweeneednottodenie. (III,18)13) (モ グ ラ の 頭 に 眼 が あ る こ と は 、 頭 に 眼 が あ る 人 に は 明 白 で あ り 、 外 か ら 眼 が 認 め ら れ る の は 、 老 若 モ グ ラ だ け で は な く、 母 モ グ ラ の 腹 か ら 取 り出 し 毛 が 生 え そ ろ わ な い 胎 児 に お い て も 同 じ で あ る 。[中 略]こ れ ら小 さ な 眼 球 を 摘 出 し拡 大 鏡 を 当 て れ ば 、 ア リ ス トテ レ ス の 言 う 黒 目 だ け が 認 め ら れ た 。 だ が 、 も し そ の 眼 球 が壊 れ て い れ ば 、 そ れ 以 上 認 め られ な いの だが 。 そ れ故 、 必 然 の結 果 と し て 、 モ グ ラ に は 眼 が あ る と 断 言 す る が 、 比 較 的 不 完 全 で あ る こ と も 否 め な い 。) ブ ラ ウ ンは この 後 、 モ グ ラ に完 全 で な い に して も眼 が あ る の な ら、 そ の 機 能 もす こ しは あ る はず 、 つ ま り視 る力 が あ るか らこそ 眼 が 備 わ っ て い る の で は な い か と、 目的 論 に基 づ い て推 論 をす る。 次 に、 生 け 捕 りに した モ グ ラの行 動 をつ ぶ さに観 察 す る。 彼 らは物 を避 け て走 るが 、 テー ブ ル の 上 か ら無 造 作 に落 ちた りす る の を 目の 当 た りに して 、 モ グ ラ に は 物 を は っ き りと見 極 め る力 が な い こ とを経 験 的 に 識 る。 そ こ で 最 終 的 に、 物 体 の 色 ・形 を識 別 で き る能 力 は な い が 、 お そ ら く光 を 認 め るだ け の 視 力 は備 わ っ て い て、 完 全 に盲 目 と言 うこ とは で きな い、 と結 論 付 け る。 当 時 とし て は、 目か ら鱗 な らぬ 薄 皮 が 一 枚 剥 が れ る瞬 間 で あ っ た 。 た だ 、 ブ ラ ウ ンは鷲 の優 れ た視 力 と較 べ る と、 我 ら人 間 の 目も盲 目とい え る の と同 じで、 俗 信 で モ グ ラ が そ の形 容 辞 を付 され て もや む を得 ない 、 と して い る14)。 当 時 の文 学 作 品 で は、 モ グ ラに は 「盲 目」とい う枕 詞 が 付 され るの が 一 般 で あ り、 一一13$ 俗 信 で は 盲 目 が 定 説 に な っ て い た 。 そ れ は 、 ベ イ コ ン(FrancisBacon,1561-1626) が 『学 問 の 進 歩 』(TheAdvancementofLearning,1605)で 述 べ て い る よ う に 、 「自 然 に 関 す る 虚 説 は 、 一 度 ひ ろ ま る と、 一 つ に は 民 衆 が 吟 味 を 怠 り、 昔 か ら の も の が 権 威 を 持 っ て い る た め に 、 一 つ に は 、 そ の よ うな 説 が 比 喩 と し て 、 ま た こ とば の あ や と し て 用 い ら れ る た め に 、 決 し て 論 破 さ れ る こ と が な い か ら」(第2巻1・3)で あ る と 思 わ れ る15)。 ま た 、 そ れ は お そ ら く、 民 衆 レ ベ ル で は 、 ブ ラ ウ ン 自 身 が 『 伝 染 性 謬 見 』 の 第1巻 第3章 で 考 察 し て い る よ うに 、 ThusuntothemapieceofRhetorickisasufficientargumentofLogick,an ApologueofAEsop,beyondaSyllogismeinBarbara;parablesthen propositions,andproverbsmorepowerfullthendemonstxations.(1,3) (修 辞 学 の 一 断 片 が 論 理 学 の 十 分 な 議 論 と 同 等 で あ り 、 イ ソ ッ プ の 寓 話 が 格 式 覚 え 歌 の 三 段 論 法 よ り 高 級 で 、 讐 え 話 が 命 題 よ り優 れ 、 諺 が 論 証 よ り 説 得 力 が あ る か ら) で あ り、 人 間 の 精 神 の 基 本 構 造 に 係 わ りが あ る 。 つ ま り、 人 は 論 理 よ り も 具 体 的 な 讐 え 話 に 説 得 さ れ る 傾 向 に あ る。 イ ギ リ ス ・エ リ ザ ベ ス 朝 の 詩 人 の 王 ス ペ ン サ ー(EdmundSpenser,c.1552-1599) の処女作 『 羊 飼 の 暦 』(TheShepheardsCalender,1579>に は 、E・Kの 名 で 記 され た 推 薦 文 、 い わ ゆ る 「ハ ー ヴ ェ イ へ の 手 紙 」 が 付 さ れ て い る が 、 そ の 中 で 審 美 眼 の な い 輩 が モ グ ラ に 喩 え ら椰 楡 さ れ る 。 OthersomenotsowelseeneintheEnglishtongeasperhapsinother languages,iftheyhappentohereanoldewordalbeitverynaturalland significant,cryeoutstreightway,thatwespeaknoEnglish,butgibbrish,or rathersuch,asinoldtimeEvandersmotherspake.Whosefirstshameis,that theyarenotashamed,intheirownmothertongestraungerstobecountedand alienes.Thesecondshamenolessethenfirst,thatwhatsotheyunderstand 一139一 not,theystreightwaydeemetobese皿celesse,andnotataltobeunderstode. MuchliketotheMoleinAEsopesfable,thatbeingblyndherselfe,wouldin nowisebeperswaded,thatanybeastcouldsee.(``DedicatoryEpistle")且6) (お そ ら く他 国 語 ほ ど に は 英 語 に 通 暁 し て い な い 別 の 人 々 は 、 た ま た ま 古 い 言 葉 を 聞 く と 、 そ れ が ご く 自 然 で 意 味 深 い も の で あ っ て も 、 す ぐ に 英 語 で は な く、 わ け の わ か らぬ 言 葉 を 話 し て い る と か 、 あ る い は 古 典 時 代 の 言 葉 で あ る とか い っ て 批 判 を す る 。 そ の よ うな 連 中 の 恥 ず べ き最 初 の 点 は 、 母 国 語 に お い て は よ そ 者 や 異 邦 人 と 考 え ら れ て も 恥 ず か し く な い こ と で あ り、 二 番 目 の 点 は 、 最 初 の点 に何』 ら劣 らず 恥 ず か し い が 、 自分 た ち が 分 か ら な い も の が 、 す ぐ に 無 意 味 で 全 く理 解 で き な い も の と 即 断 す る こ と で あ る 。 こ の よ う な 輩 は イ ソ ッ プ 寓 話 に 登 場 す る モ グ ラ と全 く同 じ で 、 自分 は 目 が 見 え な い も の だ か ら、 動 物 に 物 を 見 る 目 が あ る の だ と 、 ど の よ う に 言 葉 を 尽 く し て も 説 得 す る こ と が で き な い 。) イ タ リ ア ・ル ネ サ ンス 期 ダ ン テ(Dante)の 132Dは 『神 曲』(TheDivineComedy,1307- 、 ラテ ン語 で は な く、 い わ ゆ る卑 俗 語 の イ タリア語 で 記 され た 。 母 語 に対 す る強 い愛 着 の 表 れ で あ った 。 同 様 に、 エ リザ ベ ス 朝 時 代 、 海 外 貿 易 の振 興 と経 済 の 発 展 に ともな い、 母 語 で あ る英 語 に対 す る誇 りが 高 まる。 ラテ ン語 に頼 らず とも、 国 語 で 高 尚 な テ ー マ を 論 じる こ とが で きる との 機 運 の 中、E・Kは 、『 羊 飼 の 暦 』で 古 風 な言 葉 遣 い を用 い る意 図 を説 明 す る とともに、 古 語 の 使 用 を批 判 す る輩 の機 先 を見 事 に制 す る。 そ れ は また 、 人 文 主 義 者 の ラ テ ン語 を範 とす る レ トリ ックの押 し 付 け に対 す る反 発 で もあ っ た。 引 用 でE・Kが イ ソ ップ(風)と 称 した 寓 話 は 、実 在 の ものか 、 それ とも創 作 か は定 か で は な い 且7)。 た だ、イソ ップ寓 話 の起 源 は古 く、古 代 ギ リ シャで あ る。イギ リス で も、中 世 以 来 、 人 間 の様 々 な仕 草 や 行 動 を風 刺 した動 物 寓 話 は盛 ん で あ る。 チ ョー サ ー(Geoffrey Chaucer,c.1345-1400)は12世 Renart)を 紀 後 半 フ ラ ンス で成 立 した 『狐 物 語 』(LeRomande 範 に、 『カ ン タベ リー 物 語 』(CanterburyTales,1387-1400)の 「尼 僧 付 の 僧 の物 語 」で 、狡 猜 な狐 が 逆 に雄 鶏 に騙 され る話 を語 り、 新 た な息 吹 を吹 き込 んだ 。 イギ リス で ま とま った 形 の イ ソ ップ 寓 話 を紹 介 した の は修 道 僧 ジ ョ ン ・リ ドゲ イ ト 一140一 (JohnLydgate,c.1370-1451}で 、韻文訳 『イ ソ ッ プ 寓 話 』(lsopesFabules)の 最後 に 教 訓 を 付 し た 。 イ ギ リ ス で 最 初 の 印 刷 業 者 ウ ィ リ ア ム ・キ ャ ク ス ト ン(William Caxton,c.1421-1491)は 、 フ ラ マ ン 語(中 ofReynarttheFox,1481)を 期 オ ラ ン ダ 語)か ら『 狐 物 語 』(TheHistarye 訳 す だ け で は な く、 イ ソ ッ プ 寓 話 の 翻 訳 も 手 掛 け た 。 ま た 、 チ ョ...._.サ ー の 影 響 を 多 分 に 受 け た ス コ ッ トラ ン ドの 詩 人 ロ バ ー ト ・ヘ ン リ ス ン (RobertHenryson,c.1425-c.1506)の 翻 案 『ブ リ ギ ア 人 イ ソ ッ プ の 寓 話 集 』(Th8 MorahFabillisofEsopethe、Phrygian,c.1480)で は 、 狐 と雄 鶏 の 寓 話 が 繰 り返 し 述 べ ら れ る だ け で は な く 、 当 時 の 世 相 や 歴 史 的 な 事 件 が 鋭 く 反 映 さ れ る18)。 エ リ ザ ベ ス 朝 に な っ て も 、 ス ペ ン サ ー 自 身 『バ バ ー ド ば あ さ ん の 話 』(Prosopopoia,Mother H必 加 ハ 鷹 距 」8,1591)で 、 動 物 寓 話 の 手 法 を用 い 廷 臣 の 愚 行 を 風 刺 し た 。 狡 猜 な 狐 ほ ど寓 話 の 主 題 に な る こ とは な い が 、 モ グ ラ は 端 役 と し て 登 場 す る。 例 え ば 、 ヘ ン リ ス ン で は 、 百 獣 の 王 ラ イ オ ン が 召 集 す る 会 議 に 「自 然 の 女 神 が 視 力 を 授 け な か っ た の で 、 モ グ ラ は 小 猿(マ ー モ セ ッ ト)に 手 を 引 か れ て や っ て 来 た 」("TheMarmisset theMowdewartcouthleith,/BecausethatNaturedenyithadhirsicht..."[ll. 915-16))19)と あ る 。 だ が 、 「ハ ー ヴ ェ イ へ の 手 紙 」 に 見 ら れ る よ う に 、 モ グ ラ の 目 に ま つ わ る 寓 話 の 威 力 は 依 然 と し て 強 く、 比 喩 表 現 を 用 い て の 説 得 に は 抗 い が た い も のが あ る。 17世 紀 も 終 わ り に 近 づ い た1697年 の 『農 耕 詩 』(Georgics)の 、 ドラ イ デ ン に よ っ て ウ ェ ル ギ リ ウ ス(Virgil) 英 訳 が 出 版 さ れ る が 、 そ こ で も モ グ ラ は 盲 目 と い う形 容 詞 が 付 さ れ る("...theblindlaboriousMole,/1nwindingMazesworksherhidden Hole."[1,266-67])20)。 そ の よ うな 時 代 状 況 の 中 に あ っ て 、 ブ ラ ウ ン は 、 自分 の 目で 観 察 し頭 で 推 論 し、 理 性 に 適 っ た 結 論 を 導 き だ そ う と試 み た の で あ っ た 。 ブ ラ ウ ン は1662年 に 創 設 さ れ る 王 立 協 会 の 初 期 会 員 の 一 人 ジ ョ ン ・イ ー ヴ リ ン(JohnEvelyne, 1620-1706)と 親 交 が あ っ た 。 ま た 彼 の 息 子 エ ド ワ ー ド ・ブ ラ ウ ンが1667年 にそ の 会 員 に 選 ば れ る な ど 、 い わ ゆ る 新 し い 哲 学 ・科 学 の 波 は 、 ブ ラ ウ ン に 確 実 に 押 し 寄 せ て い た 。 な お 、 イ ー ヴ リ ン 自 身 は 日 記 で 、[ア イ ル ラ ン ド総 督]オ ー モ ン ド公[ジ イ ム ズ ・バ トラ ー]か ら ア イ ル ラ ン ドに は モ グ ラ は い な い と 聞 い た 、と 記 し て い る(1661 年11月15日 付)21)。 ブ ラ ウ ン が 動 物 に ま つ わ る 俗 信 を 検 証 し 訂 正 に 努 め て か ら 約100 一141一 ェ 年 後 、 ギ ル バ ー ト ・ホ ワ イ ト(GilbertWhite,1720-1793)は イ ギ リス 南 部 ハ ン プ シ ャ ー の 片 田 舎 セ ル ボ ー ン村 で 牧 師 を 勤 め る か た わ ら、 自然 観 察 の 成 果 を 知 人 の 博 物 学 者 トマ ス ・ペ ナ ン トな ど に 書 き 送 っ た 。 そ の 結 果 で き あ が っ た 『セ ル ボ ー ン の 博 物 誌 』(TheNaturalHistoryandAntiquitiesofSelborne,1789)に は、 モ グ ラは 三 度 登 場 す る が 、 い ず れ も 盲 目 の 「も 」 の 字 も 付 さ れ る こ と は な い(第1部 部 第48信 第40信 、 第2 及 び61信)22)。 むすび 古 代 ギ リシャ、 ア リス トテ レス は地 中海 モ グ ラ を観 察 し、 眼 が あ るべ き箇 所 の皮 を 剥 ぎ、小 さな黒 点 の存 在 を確 認 す る。 だ が 、視 る力 が な く盲 目 と報 告 す る。 これ は 一 般 民 衆 の認 識 と も合 致 して い て 、 広 く俗 信 と して受 け入 れ や す い もの で あ った 。 古 代 ロー マ の プ リニ ウス も、 ア リス トテ レス を権 威 と して追 随 した 。 中 世 の ス コラ学 者 アル ベ ル トゥス は、 ヨー ロ ッパ モ グ ラ を見 て ア リス トテ レス の テ キ ス トに疑 義 を差 し挟 み 、毛 を除 けた だ け で黒 点 が 確 認 で きると記 した 。17世 紀 の初 め 、トプセ ル が 『 動 物 誌 』を出 版 した ロ ン ドンで は、新 しい科 学 が 芽 生 え始 め た 頃 で あ ったが 、 ア リス ト テ レス の権 威 に圧 され て、 アル ベ ル トゥス と同 じヨー ロ ッパ モ グ ラを観 察 して い なが ら、 真 理 に至 る道 は閉 ざ され て い た。 図版 に 、 毛 で 覆 わ れ て い な い 開 い た 目を掲 げ る 一 方 で 、 モ グ ラの 目を 記 述 す る際 、 眼 が な く盲 目との 古 典 の 権 威 を踏 襲 した。 1660年 の 王 政 復 古 後 、 王 立 協 会 が 設 立 され科 学 の発 達 が さ らに推 進 され る と、 ブ ラ ウ ンは古 代 よ り蔓 延 す る迷 信 や 俗 信 を取 り上 げ 、 推 論 と実 験 を経 て論 破 に努 め た。 盲 目と考 え られ て い た モ グ ラは 日の下 に引 きず り出 され 、 醜 悪 だ が 愛 らしい体 躯 を晒 し、 もは や 暗 闇 の住 人 で は い られ な くな った。 つ ま り、眼 が あ るが 日の光 を感 じられ る弱 視 で 、完 全 に盲 目と言 い切 れ な い と結 論 付 け る。 しか し、俗 信 として 「盲 目のモ グ ラ」の威 力 は強 く、一 般 民 衆 の心 を惹 きつ け、論 破 され なが らも現 在 に至 って い る。 註 1)"Theworldwasacryptogramfullofhiddenmeaningsforman,butawaitingdecipherment... 一142一 ThemolesymbolizedtheblindPapist,unabletoseehiswayoutoferror."(KeithThomas, Manandthe〈 死 α碗rα'Wわr♂4'C乃 侃8加gA'漉 OxfordUniversityPress,1996]64);キ ) 2 ) 3 版 局1989年)86頁 ー ス ・トマ ス 『人 間 と 自 然 界 』 山 内 閥 監 訳(法 政 大 学 出 参 照 。 オ リ ヴ ァ ー ア リス 蜘 セ3加E〃g!伽41500-1500[1983;rpt.NewYork: ・ゴ ー ル トテ レ ス ドス ミス 『動 物 誌 』 第 三 巻 四 足 獣IH、 『動 物 誌 』 上 巻 、 島 崎 三 郎 訳(岩 玉 井 東 助 編 訳(原 波 文 庫1998年)40頁 書 房1994年)33頁 。 。Cf."Allotherkindsof animalshaveeyes,apartfromtheTestaceaandanyotherimperfectanimals;andallVivipara haveeyesexceptthemole,thoughonemightconsiderthatinawayithaseyes,yetnotinthe fullsense.Thefactisthatitcannotsee,andithasnoeyeswhichcanbedetectedexternally; butiftheskinisremovedwefindithastheplacefortheeyesandthe"black"partsoftheeye wheretheyshouldbe,andthepositionwhichisnaturallyprovidedexternallyforeyes,which suggeststhattheeyesgetstuntedintheprocessoffbrmationandthattheskingrowsover. {Aristotle,HistoriaAnimalium,Vol.lofBooks1--3,trans.A.L.Peck[Cambridge,Mass.: ) 4 HarvardUR1965]41) ``Offburfbotedcreaturesmoleshavenosight ,althoughtheypossessthesemblanceofeyesif onedrawoffthecoveringmembrane."(Pliny,NaturalHistory,Vol.30fBooks8-11,2nd ) 5 edn.,trans.H.Rackham[Cambridge,Mass.:HarvardURl983]519) AlbertusMagnus,ManandtheBeasts(DeaminalibusBooks22-26)trans,JamesJ.Scanlan ) 6 (Binghamton,N.Y.:Medieval&RenaissanceTexts&Studies,1987}1?9-80. EdwardTbpsell,TheHistorieq!Fo配r8-、FootedBeastes(London,1607;rpt.NewYork:Da ) 7 CapoPress,1973)499。 EdwardHerbert,DeVeritate,trans.MeyrickH.Carre(1936;rpt.London:Thoemms,1992) ) 8 123. "SuidasandDiogenianusrecordthis ,referringtopeoplewhosesightisexceptionallypoor,or whohavenojudgment,forthemetaphorwillbemorepleasingifitistransferredtothe mind."(Erasmus,CollectedWorksofErasmus,Vol.310:FAdagesIiltoMOO,trans. MargaretMannPhillips[Toronto:UniversityofTorontoPress,1982]281) 9) WilliamShakespeare,TheWinter'sTale,ed.J.H.P.PafFord{London:Methuen,1965). 10) RobertHerrick,The1)08'∫cα 押 吻 廊ofRohertHerrick,ed.L.C.Martin(1956;Oxford: ClarendonPress,corr.rpt.1968)120. 11) WilliamShakespeare,Macbeth,ed.KennethMiur(London:Methuen,19'79). 12) SirThorraasBrowne:TheMaj'OrWorks,ed.C.A.Patrides(London:Penguin,1977)290,(『 葬 論 』小 池 鉦 訳 、 澁 澤 龍 彦 文 学 館 第 三 巻 13) 壷 『脱 線 の 箱 』 所 収[筑 摩 書 房1991年]160頁 参 照) SirThoniasBYOwne'sPseudodoxiaEpidernica,ed.RobinRobbins(4xford:ClarendonPress, 1981)233. 14) ル ネ サ ンス 期 ま で 、 紗 の 懸 か っ た モ グ ラ の 目 と対 極 を な す の は 、 眼 光 の 鋭 い オ オ ヤ マ ネ コ の 目 で あ っ た 。さ す が に ブ ラ ウ ン は 山 猫 と い わ ず 鷲 を 例 に 出 す 。18世 EssayonMan)の 「書 簡1」("Epistlel,"ll.211-12)で sightbetwixteachwidebetween,IThemole'sdimcurtain,andthelynx'sbeam..."(Poetical Works,ed.HerbertDavis[London=OxfordUP,19bb]247) 一143一 紀 に な っ て もポ ー プ は 『人 間 論 』(An 山 猫 の 慣 例 を 用 い る 。"Whatmodesof 15)フ ラ ン シ ス ・ベ イ コ ン[ベ ー コ ン]『 学 問 の 進 歩 』 服 部 英 次 郎 ・多 田 英 次 訳(岩 波 文 庫1983年)128 頁 。Cf.C.S.LewisTheDcscardedtmage(1964;Cambridge:CatnbridgeUP,1994)152.(C・S・ ル イ ス 『廃 棄 さ れ た 宇 宙 像 』 山 形 和 美 監 訳[入 16)ス 参 照) ペ ン サ ー の 引 用 は 、EdmundSpenser,PoeticalWorks,ed.J.C.SmithandE.DeSelincourt (London:OxfordUP,1912;1969)に 2000年)を 17)中 坂 書 房2003]222頁 よ る 。 邦 訳 は 、 『ス ペ ン サ ー 詩 集 』 福 田 昇 八 訳(筑 摩 書 房 参 照 した 。 務 哲 郎 訳 『イ ソ ッ プ 寓 話 集 』(岩 波 文 庫1999年)及 び 山 本 光 雄 訳 同 文 庫(1942年;1986年)に 同 趣 の 寓 話 は 見 つ け ら れ な か っ た 。 な お 、 トプ セ ル が 記 し た モ グ ラ の 目 に 関 す る イ ソ ッ プ の 名 を 冠 す る 寓 話 を 挙 げ て お く 。"EsopehathaprettyfableoftheAsse,Ape,andMole,eachonce complainingofothersnaturalwants:theAsse,thathehadnoHornes,andwastherefore unarmed:theApe,thathehadnotailIikeotherbeastesofhisstatureandquantity,and thereforeunhandsome;tobothwhichtheMolemakethaunswer,thattheymaywellbesilent, forthatshewantetheies,andsoinsinuateth,thattheywhichcomplaineshallfindby considerationandcomparisionoftheirownewantestoothers,thattheyarehappyandwant nothingwere-profitableforthem."{Topsell,TheHistorieofFoure-FooteclBeastes499) 18)鈴 木 畳 ・福 本 直 之 ・原 野 昇 訳 井 迫 夫 訳 、 下 巻(岩 2001年);ヘ 『狐 物 語 』(岩 波 文 庫2002年);チ 波 文 庫1995年)48-73頁;キ ョー サ ー 『カ ン タ ベ リ ー 物 語 』 桝 ャ ク ス ト ン 『き つ ね 物 語 』 木 村 建 夫 訳(南 ン リ ス ン 『イ ソ ッ プ 寓 話 集 』鍋 島 能 正 訳(弓 雲 堂 書 房1981年)59-84頁;TheMinor、Poems ofJohnLydgate,ed.HenryN.MacCracken(London:OxfordUP,1961}566-99;Subtyll HistoryesandFablesofEsope,trans.WilliamCaxton(1483;rpt.NewYbrk:DaCapoPress, 1972).な お 、 イ ソ ッ プ 寓 話 の 起 源 及 び そ の 変 遷 に つ い て は 、 中 務 哲 郎 『イ ソ ッ プ 寓 話 の 世 界 』(ち く ま 新 書1996年)、 小 堀 桂 一 郎 『イ ソ ッ プ 寓 話 そ の 伝 承 と 変 容 』(講i談 社 学 術 文 庫2001年)を 参 照 した。 19)RobertHenryson,TheMoralFa61esofAesop,ed,andtrans.GeorgeD.Gopen(NotreDame, Indiana:UniversityofNotreDame,1987)87. 20)JohnDryden,TheWorksofJohnDryden,Vol.50fTheWorksofVirgilinEnglish,1697,ed.W. FrostandV.A.Dearing(Berkeley:L7niversityofCaliforniaPress,19$7)164. 21)"IdinewiththeDukeofOrmond:hisGracetoldmetherewerenoルloulesinIreland,norany Ratts'tillate,&thatbutinoneCounty;butamistakethat5μ4θr∫wouldnotlivethere;onely notpoyson..."(JohnEvelyn,TheDiaryofJohnEvelyn,Voi.30fKalendarium,1650-1672, ed.E.S.deBeer[Oxford:ClarendonPress,1955]303) 22)ギ ル バ ー ト ・ホ ワ イ ト 「セ ル ボ ー ン 博 物 誌 』 上 ・下 巻 、 寿 岳 文 章 訳(岩 下214頁 、256頁 波 文 庫1949年)上178頁 、 。 [附 記]筆 者 はか つ て 「シェイク ス ピアの 戯 曲 に お け るモ グ ラの イ メー ジー トプ セル の 『 動 物 誌 』(1607) に 関 連 して一 」(英米 文 化 学 会 編 『 英 米 文 化 』第27号[1997年3月 ユ19-28頁)と 題 し て モ グ ラの 目 と 耳 を論 じた こ とが あ る。 引 用 に一 部 重 複 が 見 られ る が 、今 回 は博 物 誌 とブ ラウ ン とを中心 に、俗 信 の 伝 播 と打 破 を考 察 し、 前 掲 拙 論 の一 項 目を敷 宿 す る もの で あ る。 一144一