...

数多い分掌変更後の 実質的な変動を認める裁決や判決

by user

on
Category: Documents
2

views

Report

Comments

Transcript

数多い分掌変更後の 実質的な変動を認める裁決や判決
タックス ズーム イン
数多い分掌変更後の
実質的な変動を認める裁決や判決
─最新の京都地裁判決も重大な変動があったと認定─
いわゆる役員の分掌変更に伴う退職金支給をめぐる問題は、古くて常
に新しい問題でもある。その取扱いがスポットを浴びたのは平成18年2
月10日の京都地裁判決以降である。というのも、分掌変更に伴う役員退
職金の要件(法基通9-2-23)を形式的に満たしても損金算入が認め
られるわけではない旨の判決が言い渡されたからだ。課税当局はこの判
決以降、分掌変更後の報酬が激減(50%以下)しても、経営上主要な地
位を占めていると認められる者は除くと実質要件を加えてきたのであ
る。この取扱いの変更が実務に波紋を投げ掛け、それ以降、実務家の中
にいろいろ憶測を生む結果にもなった。
しかし、役員の分掌変更を巡って審査請求や訴訟にまで進んだ争いを
みると、意外に法人側の主張を是とするものが結構多い。調査時の調査
官の勇み足を窺わせるが、最近の事例では既報(6月21日号)のよう
に、学校法人側の主張が認められたまま一審で確定した事案もある。そ
こで今旬は、この学校法人の裁判例を再確認、改めて分掌変更に伴う役
員退職金を支給する際の実務への示唆を整理してみた。
1
2011.7.11
p01-05_責四_ズーム_h.indd
1
2011/07/05
13:39:47
1
平成18年の京都地裁判決を契機に、
分掌変更に伴う役員退職金の取扱いを変更
同族会社等では、代表者が引退、退職金を
れる一方、実務の現場では、分掌変更後の報
支給された後も、会長や相談役、監査役等と
酬が50%以下に激減した場合でも、実質的に
して会社に残るケースが多い。いわゆる分掌
法人の経営上主要な地位を占めていると認定
変更である。この役員の分掌変更に伴う退職
できる場合は、損金算入を否認するように
金の取扱いをめぐる税務トラブルは数多く、
なった。それまで、
分掌変更後、
報酬が2分の
古くて新しい問題でもある。
1以下に激減すれば、実質的に経営上主要な
分掌変更に伴う役員退職金の損金算入要件
地位を占めているか否かは問われなかっただ
については、旧法人税基本通達9-2-23
けに、実務家の間に波紋が広がったわけだ。
が①常勤役員が非常勤になったこと、②取締
京都地裁判決は、商業登記簿上、代表取締
役が監査役になったこと、③分掌変更等の後
役を辞任したことに伴う退職慰労金を未払費
における報酬が激減したこと(おおむね
用として損金経理したことが発端になったも
50%以上の減少)の3要件を掲げ、①と②
ので、代表取締役の辞任後も法人の重要な業
については実質的にその法人の経営上主要な
務を担当していることを考慮すると、報酬が
地位を占めていると認められる者を除く旨、
形式的に半額以下になったとしても、退職し
実質的な変更を求めていたものの、③につい
たと同様な事情があるとは認められず、法人
てはそのような具体的な記載がなかった。そ
税基本通達の要件を形式的に満たしたとして
のため、報酬を50%以下に設定、節税目的
も、無条件に役員退職金に該当するわけでは
に分掌変更を行う場合も指摘されたわけだ。
ないと判断した。退職慰労金を支払った事業
しかし、京都地裁平成18年2月10日判
年度には保険金等の雑収入があり、法人税額
決、大阪高裁平成18年10月25日判決さらに
が多額になることが予測されたことから、法
最高裁の上告不受理の事件を受けて、分掌変
人税額の増額を避けるために、退職という形
更時の取扱いを定めた通達が改正され、改正
をとって、退職慰労金の支払いをしたという
後の法人税基本通達9-2-32は、③の報
疑義も調査官には働いたようだ。
酬が激減した場合であっても①と②と同様
控訴審も同様の判断を示すとともに、
最高裁
に、法人の経営上主要な地位を占めている者
も上告不受理として事件が決着したことを受
は除かれる旨が明示された。
け、国税庁は平成19年3月13日付けで取扱い
この京都地裁判決は、調査
担当者のための重要判決情報
として税務職員に周知が図ら
p01-05_責四_ズーム_h.indd
図表-1 取扱変更の契機になった事件の推移
審 理 裁判所
事件番号
判決年月日
判決結果
第一審 京都地裁 H16年(行ウ)第34号 H18.02.10 棄却・納税者敗訴
控訴審 大阪高裁 H18年(行コ)第22号 H18.10.25 棄却・納税者敗訴
上告審 最 高 裁
H19.03.13 上告不受理・棄却
2011.7.11
2
2011/07/05
13:39:47
図表-2 分掌変更通達の改正前後の要件比較
(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
改正前(法基通9-2-23)
改正後(法基通9-2-32)
常勤役員が非常勤役員になったこと(常勤勤務していないもので
あっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその
同左
法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)
取締役が監査役になったこと(監査役でありながら実質的にそ
の法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びそ
同左
の法人の株主総会等で令71条1項5号に掲げる要件のすべてを
満たしている者を除く)
分掌変更等の後におけるその役員の給与が激減(おおむね50% 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変
以上の減少)したこと
更等の後においてもその法人の経営上主要な地
位を占めていると認められる者を除く。
)の給
与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと
*通達改正→平成19年3月13日
を見直し、
図表-2のように、
報酬が半分以下
に、
法人の経営上主要な地位を占めていると認
に激減した場合にも、他の二つの要件と同様
められる者を除く、旨を明記した。
2
調査では否認されても、
意外に多い!訴訟等で退職と同様の事実が認められるケース
この通達改正に伴い、実質的に退職したと
があるか否かの判断をめぐる判決の内容は、
同様の事実がある場合にのみ、退職金の損金
実務へのヒントを示唆している。
算入が認められることになったわけだが、退
事案の概要を見ると、コンピュータ関係の
職したと同様に地位の激変があったかどうか
専門学校の学校長・学院長だった者の辞任に
は実質的に判断すべきものである。しかし、
伴って支給した3億2,000万円の退職金に見
税務調査の際に地位の激変がなかったと認定
合う源泉所得税5,251万円余を納付したこと
され、損金算入を否定された事例でも、審査
が発端。これに対して原処分庁側が、学院長
請求、訴訟の段階で課税当局の主張が斥けら
の地位にあった者の退職の事実は認められな
れる場合が意外に多い。調査官の調査時の実
いと認定、給与所得に係る源泉所得税額と退
質的な判断、認定の欠如とも窺えるのだ。
職所得に係る源泉所得税額の差額について、
例えば、6月21日号で既報の京都地裁判決
源泉所得税の納税告知処分、不納付加算税の
は、専修学校の学院長がその地位を辞したこ
賦課決定処分を行ってきたという事案だ。
とに伴い退職金として支払われた3億2,000
これを受けて学校法人側が、納税告知処
万円余が、退職金になるのか役員への賞与に
分、
不納付加算税を納付した後、
辞任した学院
当たるのか否か、つまり役員の分掌変更に
長に支払った金員は退職所得に当たるとし
伴って支払われた退職金の損金算入の可否判
て、
原処分の取消しを求めて提訴したわけだ。
断が争われた事案である(平成23年4月14日
原処分庁側は、役員(理事長)の地位に変
判決、平成20年
(行ウ)第23、27号、確定)
。
動がない理由として、再定義後の学院長に就
学校法人であるが、退職したと同様の事実
任後も、①運営に関する重要事項に関しての
2011.7.11
p01-05_責四_ズーム_h.indd
3
2011/07/05
13:39:47
図表-3 理事会の決議の推移等
H15.11.29 理事会
H15.12.13 理事会
H15.12.20 理事会
H15.12末日
H16.01.01
H18.06.05
学院長辞任、権限・業務を後任に移譲、最高顧問就任を決議・承認
退職金支給を決定
学院長の地位の再定義→創立者に専属する象徴的な地位に変更
再定義後の職務→入学式・卒業式等の学校行事への参列、創立者の象徴的な役割に限定
学院長・学校長の地位からの引退
再定義後の学院長に就任
学校法人理事長の退任
職務を遂行するなど名実ともに理事長として
また、前理事長が土地・建物等の譲渡損失
の職務に従事していた、②対外的に理事長で
を抱えていたことも否認の背景にあったよう
あるとして学校法人を代表して行為をしてい
だ。
というのも、
土地等の譲渡損益通算規制措
た、さらに③校長の地位に留まっている、卒
置が翌年に予定されていた時の退職金の支給
業証書の授与をするとともに卒業証書に校長
で、損益通算狙いの退職金支給という見方も
名が記載されていたことなどを挙げて、従業
働いたようだ。退職所得を譲渡所得の金額の
員としての地位について退職と認めるに足り
計算上生じた損失の金額と損益通算すること
る変動がなかった──などと指摘した。
ができるギリギリの時期でもあったからだ。
3
労働条件等の重大な変動を認定、
退職所得の性質を有する給与に当たると判示
判決は、学院長を辞任した者のその後の職
れらの要件の要求するところに適合し、課税
務内容等を詳細にチェックした上で、辞任前
上「退職により一時に受ける給与」と同一に
の学院長の職務、再定義後の学院長としての
取り扱うことを相当とするものであることを
職務、校長としての職務、理事長としての職
必要とすると解釈した。そこで、支給された
務を比較するとともに、体調、給与の変動、
金員が①から③の要件に適合し、
「退職により
退職金の算定根拠、金融機関への連帯保証
一時に受ける給与」
として
「これらの性質を有
等、借入金相殺の事実関係までを確認した。
する給与」
に当たるかどうかを検討している。
また、退職所得に当たるかどうかは、①退
その結果、退職と同視できる事情の有無
職すなわち勤務関係の終了という事実によっ
(退職所得要件①)に関しては、再定義後の
て初めて給付される、②従来の継続的な勤務
学院長の職務は教育の長として行う象徴的な
に対する報償ないしその間の労務の対価の一
業務に限定され、給与等の対価は支払われ
部の後払いの性質を有する、③一時金として
ず、従前の学院長の職務内容及び法的地位と
支払われる──要件を備えることが必要と指
はその性質を大きく異にしている。またセン
摘。しかし、所得税法30条1項の「これらの
ター長の職務も従来の学校長の職務とはその
性質を有する給与」は、形式的に①から③の
内容が大きく異なり、給与も従前の50%以
要件をすべて備えていなくても、実質的にこ
上減額されている上、雇用契約が嘱託職員雇
p01-05_責四_ズーム_h.indd
2011.7.11
4
2011/07/05
13:39:47
用契約になったことを考えれば、その法的地
なることはないとも指摘している。
)
。
位に重大な変動があったとも指摘。つまり、
さらに、一時金として支払われること(退
引退後の名誉職としての新たに設置された地
職所得要件③)についても、年金制度に基づ
位であり、従前の勤務関係の延長や内部異動
いて支払われたものでないことはもとより、
ではないという認定をしたわけだ。
理事会において総額が決定されたこと、年金
さらに、金融機関からの借入れの際に連帯
と同視できる程度に長期に及んでいたという
保証をしていたことも原処分庁が否認の理由
ことはできないことを併せて考慮すれば、一
の一つに掲げたが、これについても、金融機
時金として支払われることの要件を欠くもの
関側が連帯保証の解除に難色を示したためで
ではないとも判断した。
あり、不自然ではないと斥けている。
これら退職所得要件①~③の判断から、学
一方、従来の継続的な勤務に対する報償な
院長を辞任した者に支払われた金員は、所得
いしその間の労務の対価の一部の後払いの性
税法30条1項が定める退職所得の性質を有
質の有無
(退職所得要件②)
についても、退任
する給与に該当すると判示、原処分庁側の否
時までの学院長としての業績を考えれば、他
認理由をことごとく斥けている。
の従業員と異なる算出根拠によって退職金を
京都地裁の判決以降、退職の事実がないこ
特別に支給するのは不合理とまではいえず、
とを理由に否認される事例も増えているが、
全く根拠がなく支給額が算定されたとまでは
このように審査請求、訴訟に進むと、原処分
いえないとも指摘、従前の勤務に対する報償
庁側の否認理由がことごとく斥けられるケー
及び就労に対する対価の一部後払いとしての
スも多い。調査官の勇み足を指摘する声もあ
性質を失うものではないと認定した
(なお、
退
るが、通達の要件はあくまで例示。そのた
職金の支払いは退職所得と譲渡所得に係る損
め、役員としての地位の変動の激変を実質的
失との損益通算狙いだったとする原処分庁の
に判断する努力が調査官には求められる。も
主張についても、
損益通算という動機があった
ちろん、納税者側にも実質的な分掌変更が求
としても、
同時期の退職金の支給自体が違法と
められるのは当然だが。
図表-4 原処分庁が指摘する退職所得要件
退職所得要件① 退職の事実が存在しない
・役員(理事長)としての地位に変動がない
・従業員の地位について退職と認めるに足りる変動がない
退職所得要件② 従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質
・支給した金員が退職金規定に基づいていない
・支給理由が従来の勤務に基づくものでない
退職所得要件③ 一時金として支払われていない
・金員が前学院長の借入金の額を参考にしたことが推認され、借入金の返済に充てる必要があることを主たる要
因にした支給である
・退職を基因とするものでも、年金の形式で定期的・継続的に支給されるものは排除される
図表-5 退職により一時に受ける給与の性質の性格
最高裁昭和58年9月9日第二小法廷判決
定年延長又は退職金制度の採用等の合理的
な理由による退職金支給制度の実質的改変
により精算の必要があって支給されるもの
or
最高裁昭和58年12月6日第三小法廷判決
勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があっ
て、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前
の勤務関係の延長とは見られないなどの特別の事実関係がある
こと
2011.7.11
p01-05_責四_ズーム_h.indd
5
2011/07/05
13:39:47
Fly UP