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全解説ミャンマー経済

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全解説ミャンマー経済
リサーチ TODAY
2013 年 2 月 25 日
「全解説ミャンマー経済」
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
「ミャンマーと日本の時差は2時間半だが、ミャンマーに着いたら時計の針を50年前に戻してくださ
い。」これは我々の同僚が地場の経営者から聞いた話である。みずほ総合研究所ではミャンマーに関す
る綿密な現地調査を積み重ね、その成果を盛り込む形で『全解説ミャンマー経済』と題する書籍を今年2
月に発表した。タイトルが示す通りミャンマー経済に関する全面的な解説を行ったもので、類書は存在し
ないだろう。下記の図表はそのなかで示した一人当たりの名目GDPの推移である1。ミャンマーはインドシ
ナ半島の諸国と比べても出遅れた状態が続いた。本日は、当該書籍をベースにして今日なぜ、世界がミ
ャンマーに注目するかを考えることにする。
■図表:ミャンマー近隣諸国の一人当たりの名目GDP推移
(ドル)
1400
ミ ャンマー
ベトナム
ラオス
カンボジア
1200
1000
800
600
400
200
0
1990
95
2000
05
06
07
08
09
10
11
(年)
(資料)IMF
かつて、インドシナ半島の経済優等国だったミャンマーは、1988年の政変で成立した軍事政権に対す
る欧米の経済制裁や国内のインフラ不足を背景に工業化が遅れ、周辺の経済発展が急速に進むなか
で最貧国に転落していた。一方、2011年に成立した文民政権テイン・セイン政権は、停滞打破のための
政治改革に着手し、経済改革にも注力している。その結果、欧米は民主化を評価し、すでに経済制裁を
緩和している。日本もインフラ整備の円借款再開に道筋をつけ、経済改革を後押しするに至っている。
今回、ミャンマーに脚光が集まった最大の要因は、米国の姿勢転換にあるといっても過言ではない。
1
『全解説ミャンマー経済~実力とリスクを見抜く~』(みずほ総合研究所編著 日本経済新聞出版社 2013 年 2 月)
1
リサーチTODAY
2013 年 2 月 25 日
同書では、その背景として次の4点を挙げる。すなわち、①そもそも、制裁を実施する理由になった「民主
化支援」において、制裁外交の行き詰まりの意識、②オバマ大統領が謳う2つの外交政策の転換、すな
わち、関与外交と核不拡散への思い入れ、③中国の台頭を視野に入れたアジア太平洋シフト、④米経
済界の関心の高まりにある。このような環境下、中国とインドというアジアの二大国の間に位置するという
地政学的背景も含めたミャンマーへの関心が急に高まったと考えられる。
約50年間にわたり経済発展が止まってしまったミャンマーを世界経済のなかに置いてみると、あくまで
も微弱で目立たない国であり、国際連合の分類では途上国のなかでも最も開発が遅れた国、「後発開発
途上国」とされる。後発開発途上国とは経済発展の遅れに止まらず、政府の統治レベルが低い国との位
置づけである。下記のリストは先の分類上の49カ国であるが、アフリカを中心に内戦状態の国も多い。現
段階ではミャンマーは目立たない国であるとしても、下記に挙げた後発開発途上国のなかにあってはトッ
プクラスの潜在力を有する国と我々は位置づけている。しかも、最も成長率の高いアジアに位置し、中国
からの分散のなかで労働集約型製造業の立地に有利な条件を有している。
■図表:後発開発途上国リスト
アジア(14カ国)
ミャンマー
アフガニスタン
バングラデシュ
ブータン
カンボジア
アフリカ(34カ国)
アンゴラ
ベナン
ブルキナファソ
ブルンジ
中央アフリカ
チャド
コモロ
コンゴ民主共和国
ジブチ
赤道ギニア
エリトリア
エチオピア
中南米(1カ国)
ハイチ
キリバス
ラオス
ネパール
サモア
ソロモン諸島
東ティモール
ツバル
バヌアツ
イエメン
ガンビア
ギニア
ギニアビサウ
レソト
リベリア
マダガスカル
マラウィ
マリ
モーリタニア
モザンビーク
ニジェール
ルワンダ
サントメ・プリンシペ
セネガル
シエラレオネ
ソマリア
南スーダン
スーダン
トーゴ
ウガンダ
タンザニア
ザンビア
(資料)国連開発政策委員会
今日、アジアを巡る環境は、従来の中国集中の企業進出から、中国等における賃金上昇や政治リスクも
含めた「リスク分散」の観点から進出先多様化をはかる環境にある。斯かる観点から見て、時間を要する面
はあるものの、ミャンマーはその分散先の候補として大いに期待されている。しかも、米国が経済制裁解除
に向けた動きを早めていることを転機に欧米や中国、韓国企業がミャンマーへの進出を急いでいる。いま
や、世界情勢は市場を確保すべく有効な関係構築を急ぐ陣取り合戦「新重商主義」の状況にある。
我々は、本書でミャンマーの成長性を取り込むための日本の2つの課題、「日本がミャンマーに向き合
う課題」は、①ミャンマーの投資環境を改善すべく粘り強く働きかけること、②ミャンマーの民主化を後押
しすることであるとした。ミャンマーと日本は歴史的にも極めて良好な関係を有してきただけに、両国がウ
ィン・ウィンの関係を構築することで日本とアジアの共栄につながることを強く期待したい。
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