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No.43 - 日本機械学会

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No.43 - 日本機械学会
 日本機械学会 生産加工・工作機械部門ニュースレター ISSN 1340 − 6728
February 2013
突破力
43
No.
部門功績賞
部門功績賞を受賞して
この度は日本機械学会生産加工・工作機械部門の部門功績
賞を頂き誠にありがとうございました.
私は 2011 年 4 月から 2012 年 3 月までの一年間,部門長を
務めさせていただきました.この一年間は中国が世界一の工
作機械生産国としてその地位を磐石にする中で業界を取り巻
く環境は大きく変化しました.そのような時期にこの大役に
任ぜられたことに感謝したく存じます.
さて,日本に目を移しますと 2011 年の工作機械受注総額
は 1 兆 3,261 億円となり,過去最高であった 2007 年には及ば
ないものの高水準で推移しました.しかし,新興国における
機械需要の増加を背景として外需比率が約 70%にまで上昇す
るなどその向け先は大きく変化しております.
このような変化の一方で、時を同じくして日本では ガラ
パゴス化現象 という言葉をたびたび耳にするようになりま
トピックス
部門功績賞
○部門功績賞を受賞して
部門研究業績賞
○ 2012 年 研究業績賞を受賞して
部門技術業績賞
○受賞に寄せて 加工技術の研究開発 20 余年
技術レポート
○ポイントオートフォーカス式による三次元表面性
状測定
○ナット冷却ボールねじの開発
部門講演会・講習会報告
○第 9 回生産加工・工作機械部門講演会報告
○ものづくり最前線
○「International Monozukuri (Manufacturing
Education Seminar between Switzerland and
Japan」報告
部門からのお知らせ
○ LEM21 開催案内
THK 株式会社 相談役
白井 武樹
した.この現象は国内に相応の市場があった日本企業が国内
仕様の製品開発に注力した結果,国際的な競争力を失い,さ
らには国内市場が縮小に転じた一部の産業では絶滅のおそれ
すら出てきたことが,丁度ガラパゴス諸島の生物によく似て
いることからネーミングされました.
そのような中,日本機械学会の生産加工・工作機械部門と
しては何としてでも日本の機械産業のガラパゴス化現象を防
ぎ引き続き世界の機械産業をリードしていく重責を担ってい
ると考えております.
そのためには,世界の潮流に目を向けることが大切です.
機械需要を牽引する最終製品は従来に加え,スマートフォン・
タブレット PC など多様化が進んでおります.さらに新興国
が経済成長する中で,その需要の拡大が想定されます.した
がいまして加工技術,加工機械には高い品質を維持しながら
も,アウトプットを増加させるために多機能化というニーズ
が益々高まることでしょう.一方で地球環境を考えた場合に
は,切削油剤,潤滑油,CO2 排出量の削減という大きな課題
があります.さらに加工素材も多様化する中で,難削材の加
工というテーマに対して様々な分野での研究も引き続き求め
られています.
このような世界の潮流を捉え世界の機械産業を先導すべく
学会の国際活動として隔年開催している LEM21 においては
海外からの論文と参加者を増やし,この会が生産加工と工作
機械に関する情報をグローバルに入手・活用する活発な場に
なることを心より期待申し上げます.
最後になりますが,改めましてこの度の受賞に感謝申し上
げますとともに日本機械学会の益々のご発展を祈念しまして
ご挨拶に代えさせていただきます.
部門企画行事の最新情報は
(http:// www.jsme.or.jp/mmt/kouen/index.html)をご覧下さい。
─1─
部門研究業績賞
2012 年 研究業績賞を受賞して
この度は,生産加工・工作機械部門の研究業績賞という,
身に余る賞を頂き,大変光栄に存じます.そしてまた,
「熱
変形抑制を中心とした工作機械の高精度化」に対する貢献と
いうことで,ご評価頂けたこと,大変嬉しく,心より感謝申
し上げます.
工作機械の要素技術の研究に本格的に取り組み始めました
のは,5 年間お世話になりました(株)大隈鐵工所(現オーク
マ
(株)
)を 1978 年に退職致し,大学に戻ってからですので,
今年で 34 年間にわたり,工作機械要素技術関連の研究を行っ
てきたことになります.大学院修士課程時代から数えると,
工作機械には 40 年以上,関わり合っていることになります.
当初は,ボルト結合部と研削加工関連の研究を行っており
ましたが,少しずつ研究対象を工作機械要素技術へとシフト
し,結合部,ツーリング,工作機械の性能評価法,そしてそ
れらの応用として熱変形抑制や振動抑制関連の研究と,幅広
くというよりは,食い散らかすように,取り組んできたよう
に思います.そして,それらに同時に取り組んできましたの
で,皆様からは私の専門がはっきり見えず,
「工作機械の高
精度化」とくくって頂いたものと感じております.ご推薦を
頂きました皆様には,色々とお気遣を頂いたような気が致し,
恐縮しております.
このように,多くのテーマに同時に取り組めたのも,歴代
の学生諸君の頑張りと講座(現在は研究室制に改組)の歴代
の有能な研究スタッフのお蔭であり,本賞は,講座・研究室
の長年の研究活動が評価され,頂くことができた賞であると
思っております.先ずは,これまで,一緒に研究に取り組ん
上智大学理工学部
清水 伸二
できました研究室の皆様に,この場をお借りして,改めて感
謝を申し上げたいと思います.また,これら研究の実施に当
たり,ご支援を頂きました,関連企業,財団,日本工作機械
工業会の皆様,そして,学会を中心とした素晴らしい研究仲
間の皆様に感謝を申し上げます.
工作機械要素関連の研究には,そのための特別な研究設備
が必要で,また時間も掛かることから,研究者が減ってきて
おり,心配しているところです.このような状況を少しでも
改善し,今後とも生産加工・工作機械分野が発展していくよ
うに,微力ながら貢献できたらと考えております.そのため
の第一歩として,特に若手の研究者の皆様と連携して取り組
めるプロジェクト実施の機会が持てたらと考えております.
何かチャレンジされたいテーマがあれば,お手伝いさせて頂
きたく思いますので,お気軽にお声をお掛けいただければと
思います.
末筆ながら,生産加工・工作機械部門のますますのご発展
を祈念申し上げます.
部門技術業績賞
受賞に寄せて 加工技術の研究開発 20 余年
このたびは,生産加工・工作機械部門技術業績賞をいただ
き,まことに光栄に存じます.また,これまでいろいろな面
でご指導,ご協力,ご支援いただいた皆様に,この場をお借
りして厚く御礼申し上げます.
入社してから 20 数年経ちますが,そのほとんどは研削加
工技術の開発に従事してきました.入社当時は日本が円高不
況を乗り越えて,高景気の波に乗り,製品を低コストで大量
生産する技術が求められており,その方策として当時最先端
技術であった砥石周速度を従来の2倍以上とする超高速円筒
研削盤や,極圧添加剤を含有した高潤滑クーラントによる研
削加工技術などの開発に携わってきました.それらの結果を
高生産性,低コスト,高精度化技術として学会等で発表して
きましたが,今振り返ると加工する製品だけを重視した開発
だったように思います.
しかし 1990 年代後半には世界規模での環境意識の高まり
から,製造現場でも加工精度,生産性,コストだけでなく,
人・環境にやさしい工作機械と加工技術が求められるように
なり,その方策のひとつとして,クーラント使用量の削減に
取り組んできました.最初はドライ研削を目指して,冷風研
削技術の開発を進めてきましたが,製造現場で使用するには
株式会社ジェイテクト
研究開発本部
先端プロセス研究部
吉見 隆行
課題点も多く,その後,微量潤滑油を供給するセミドライ研
削技術を経て,現在の少流量クーラント供給技術で実用化に
至りました.
本技術は「何故研削盤は多量のクーラントを供給しなけれ
ばならないのか」という原点に立ち返ったものであり,砥石
連れ回り空気流を側面方向からのエアーで遮断するという方
式は,まさに“コロンブスの卵”的な発想だったように思い
ます.解析,実験を積み重ねて効果を検証し,研削点が上下
に大きく変動するクランクシャフトピン研削盤では,単に
クーラント供給量を削減するだけでなく,従来クーラントが
到達しにくかった下方部への供給率を向上させることがで
─2─
No.43 February 2013
き,実機に展開しています.
ここに辿り着いたのは,超高速円筒研削盤を始めとした一
連の研究で得られた成果と経験の賜物であり,これまで研削
加工技術の研究を続けてきた先輩諸氏に敬意を表すると共
に,このような研究開発環境を与えていただいたことに深く
感謝を申し上げます.
技術レポート
ポイントオートフォーカス式による三次元表面性状測定
三鷹光器(株) 開発室長
三浦 勝弘
1.はじめに
加工部品の小型化 / 高精度化が進む昨今,表面性状(Surface
texture)を評価するパラメータは輪郭曲線方式(2D)から,
より明確な表面状態が評価できる三次元(3D)の需要が増
しています.そのような背景の中,三次元表面性状の規格化
が ISO(国際標準化機構)/TC213 のグループにより進めら
れており弊社は国内対策委員として規格化の制定に参加して
きました.2010 年 2 月に三次元表面性状の測定法と評価パ
ラメータが ISO 25178-*** にて規格化され,三次元粗さのパラ
メータが徐々に世界に普及していっています.日本でも 2012
年から JIS 原案作成委員会にてこれらのパラメータの JIS 化
を進めており,2013 年度中には第一版が出版される予定で
す.ここでは弊社が中心となって提案している三次元表面性
状測定法(Point autofocus profiling : ISO 25178-605)を用い
た測定事例と三次元表面性状パラメータについて解説いたし
ます.
表1) 三次元表面性状パラメータ
2.
三次元表面性状評価パラメータ(ISO 25178-2)
3D のパラメータは場
(field parameter)
と臨界点
(頂点,
谷底,
稜線)を基準とした特徴パラメータ(feature parameter)に
大別されます.表 1)に3D パラメータの内容を示します.
振幅パラメータは 2D の粗さパラメータの頭文字 R を S
(Surface)に置き換え,同種のパラメータが用意されていて,
それらに加え機能パラメータや複合パラメータなど多くのパ
ラメータが用意されています.これらは表面性状をより定量
的・定性的に評価するために有効な手段です.
3.ポイントオートフォーカス式の測定原理と特長
図1)は本測定原理を用いた「非接触表面性状測定装置
(PF-60)」です.本装置は Z 軸の高さ測定用のレーザオート
フォーカス(AF)顕微鏡とスキャニング用高精度 XY ステー
ジにより構成されます.図2)において顕微鏡鏡筒部に組み
込まれたレーザ光は対物レンズを通り測定ワークに結像し,
ワーク表面に反射して再び対物レンズを通り AF センサ上に
結像します.この図はフォーカス時のレーザ光路を示してい
て,レーザスポットは AF センサ中心に結像しています.ディ
フォーカス時にはスポットの位置が左右に変化し,AF セン
サはスポットの位置変位をリアルタイムに検出し,常にセン
サ中心にスポットが来るように AF 軸機構部を用いて AF 顕
微鏡を位置決めします.自動 XY ステージでワークを移動さ
せ,フォーカスした各点の XYZ 座標値を取り込み断面 / 三
次元の形状測定を行います.この測定法は測定表面の色・反
射率の影響を受けることなくあらゆるワークを広範囲 / 高精
図 1 非接触表面性状測定装置 PF- 60
─3─
度に測定することが可能です.
本方式は以下の特長を持ちます.
・ワーク表面の色反射率に左右されない高精度測定
反射率 0.5%以上あれば計測可能
・広範囲 / 高分解能測定
測定範囲:XYZ=60x60x10mm
表示分解能:XY=0.1μm,Z=0.01μm
・急斜面の測定ができる
最大測定可能傾斜角度= 80° ( 散乱光がある場合 )
・粗さ測定において触針式とのデータの相関性がある
・内蔵の CCD カメラで測定箇所が観察できる
・スキャン AF 測定にて高速な形状測定ができる
て 0.5μm と高い分解能が得られています.触針式の粗さ測
定機の最小スタイラス半径は 2μm であるため 4 倍の平面分
解能が得られることになります.
オートフォーカス(Z 軸)の測定再現性は σ = 0.03μm
以下を達成しています.また XY 平面の測定分解能はレーザ
スポット半径に依存し,100 倍対物レンズ(NA=0.8)におい
4.測定事例
ここでは非接触表面性状測定装置(PF-60)を用いてリニ
アレールのボール軌道面を測定した結果を示します.
測定条件
○対物レンズ:100 倍 ( レーザスポット径= φ1μm)
○測定範囲:XY=1000x1000μm
○測定ピッチ:XY=2x2μm
○測定モード:スキャン (1mm/s)
図 3)に測定時の様子を図 4)に測定結果を示します.リ
ニアレールのボール軌道面は R 形状にツルーイングした研削
砥石にて加工します.形状はゴシックアーク溝になっており,
図4)はボールが接触する付近の R 溝形状で X 軸方向(奥
行き)に研削砥石の加工痕が観察できます.このデータから
R=1.4mm の円筒形状を除去した鳥瞰図を図5)に示します.
形状除去することにより粗さとうねり成分を抽出することが
でき,Y 方向に砥石のツルーイング誤差による R 形状誤差と
X 方向(研削方向)に砥石の目つまりや機械の振動による発
生する 1μm 程度の加工むら(ビビリ)があることが解ります.
図 6)は一部を拡大した3D 鳥瞰図で研削加工表面の状態を
視覚的に解りやすく捉えることができます.
図 2 測定原理
図 4 リニアレールボール軌道面
図 5 形状除去後のリニアレールボール軌道面
図 3 リニアガイド測定
─4─
No.43 February 2013
表2)三次元表面性状パラメータ演算結果 ( 評価範囲:1 x 1mm)
図 6 研削面 3D 拡大表示
タグラフです.これは縦軸を高さ,横軸を負荷面積率とした
表面の材料体積と空間部の容積を示しています.負荷面積率
の 10%以下が山部,10 ∼ 80%がコア部,80%以上が谷部と
定義されていて,このグラフから山部の高さは 0.7μm,コア
部の厚さが 1.2μm,谷部の深さが 1μm であることが解りま
す.Vmp が小さく Vmc が大きな値を取るほど高剛性な表面
であり,Vvc,Vvv が大きい場合は流体保持能力(油だめ)が
大きいことを示しています.
図 7 体積パラメータグラフ
このようにして得られたデータに対して三次元パラメータ
を算出し定量的な評価を行います.多くのパラメータから研
削表面に関係したパラメータを表2)に示します.振幅
(高さ)
パラメータは測定全範囲(1x1mm)での演算結果のため Sz
が大きめに出ています.またスキューネス値が負の場合は表
面が深く細かい谷で構成されていることを示し,正の場合は
平面上に多くのピークがある表面を意味します.結果は負の
値を示しているため表面が多くの谷で構成されていると言え
ます.また機能パラメータの体積パラメータ(Vxx)は表面
の負荷特性(剛性)や油だめ等の定量評価に有効です.これ
らの数値を解りやすく表示したものが図7)の体積パラメー
5.まとめ
加工部品の小型化・高精度化の要求が高まるにつれて非接
触での三次元表面性状評価の需要が増してきています.以前
は「非接触測定は測定ワークの表面状態によりデータがばら
つくため信頼性がない・・・.
」と言われていましたが,近
年では装置の開発が進み,データの信頼性も向上しています
ので,幅広い分野で使われるようになってきました.これら
を有効に活用することで今まで視覚的,感覚的に頼っていた
曖昧な表面を定量的に把握することが可能になり,高精度な
加工技術の取得と量産化のための品質管理,また,これまで
より耐摩耗・耐久性の優れた材料などの開発が可能となりま
す.
加工・計測・評価の3拍子が揃ってはじめて技術は進歩し
ていき,その計測には非接触三次元表面性状測定が不可欠な
時代が既に来ていると考えられます.
技術レポート
ナット冷却ボールねじの開発
日本精工株式会社
直動技術センター BS 技術部 水口 淳二
当社は工作機械用ボールねじの発熱対策として,1980 年代
より中空軸ボールねじを商品化してきました.近年,エネル
ギー産業や航空機産業向けの大型工作機械が増えてきており
ますが,これらに用いられる大型で長尺のボールねじを中空
化する場合,コストや製作リードタイムの増加が問題となっ
てきています.
そこで中空軸ボールねじに代わる発熱対策として,ナット
冷却ボールねじを開発しましたので,以下に紹介します.
【特 長】
1.予圧トルク変化を考慮した内部設計
ボールねじのナットを冷却すると,軸とナットに温度差
が生じます.ナットは軸よりも外側に位置するため,こ
─5─
図 1 ナット冷却ボールねじ
図 3 非冷却時の温度分布
図 2 ナット冷却ボールねじの冷却効果
図 4 ナット冷却時の温度分布
の温度差によってナットは径方向への熱変形(収縮)し,
これにより予圧荷重が増大することが懸念されます.し
かしながら,ナットは軸方向にもある程度の長さを持つ
ため,上記径方向への熱変形と同時に軸方向への熱変形
も生じます.そこで予圧方式を,軸方向への熱変形時に
予圧荷重が低下する,引張方向の 2 点接触予圧としまし
た.これにより径方向への収縮による予圧増大を相殺し
ますので,ナットを冷却しても予圧荷重が変動しにくい
仕様となっています.
2.高い冷却能力
ナットはねじ軸に比べ長手寸法が短いので,冷却液が発
熱部と接し熱交換が行なわれる部分の長さも短くなり,
冷却能力が中空軸ボールねじよりも劣る可能性がありま
す.これを解決するために,以下の設計をナット冷却ボー
ルねじに盛込みました.
①複数の貫通穴をナットに設け,トータルの冷却長さを確保
する.(図 1)
②貫通穴径を中空軸ボールねじよりも小径化し,貫通穴を直
列でつなぐことで,冷却液の流速が上がりやすい構造とす
る.
これらの設計により,従来の中空軸ボールねじと同等の冷
却能力を確保しました.(図 2)
また,中空軸ボールねじでは発熱部であるナット駆動範囲
を冷却するので,短ストローク運転時には熱交換部分が短く
なり,トータルの冷却能力が減少してしまいます.これに対
しナット冷却では発熱部であるナット内に冷却液が還流して
いますので,ナットの駆動パターンによって冷却能力が変化
するということはありません.このため,短ストロークの連
続駆動が繰り返されるような場合には,特にナット冷却が適
していると考えられます.
さらに,ナットは通常ワークを搭載するテーブル部へ取り
付けられているので,ボールねじからテーブルへ伝わる熱を
遮断する効果も確認しています.(図 3,図 4)
3.取扱性の向上
ナット冷却ボールねじにはナット内に冷却流路を設けてお
りますが,外径寸法は従来品と同等としています.このため,
ハウジングの設計変更をすることなく,ボールねじを機台に
取付けることができます.また,冷却を実施する場合フラン
ジ部に設けた給排口に配管するだけで冷却が可能となりま
す.中空軸ボールねじに必要な摺動シールや回転継手などが
不要で,使いやすい設計となっています.
─6─
No.43 February 2013
部門講演会報告
第 9 回生産加工・工作機械部門講演会報告
現地実行委員長(秋田県立大学 教授)
呉 勇波
第 9 回産加工・工作機械部門講演会は,初めての東北地方
開催となった秋田県立大学本荘キャンパスで開催された.そ
の概要を以下のように報告する.
日時:2012 年 10 月 26 日(見学会)
,27 日(土)
,28 日(日)
場所:秋田県立大学本荘キャンパス(秋田県由利本荘市)
参加者数:326 名(企業フォーラムパネル展示会のみの参加
者を含む)
講演件数:149 件
その他:見学会,特別講演 2 件,企業フォーラムパネル展示
会と我が社技術発表会
実行委員長:光石 衛(部門長)
副実行委員長:渋川哲郎(三井精機工業)
,
白瀬敬一(神戸大学)
現地実行委員長:呉 勇波(秋田県立大学)
副現地実行委員長:谷内宏行(秋田県立大学)
その他:幹事 4 名,実行委員 70 名
オーガナイズドセッション:
OS1 最新工作機械,OS2 最新機械要素技術,OS3 工具・ツー
リング,OS4 生産システムと CAD・CAM,OS5 加工計測・
評価,OS6 切削加工,OS7 研削・砥粒加工,OS8 電気加工,
OS9 レーザ応用加工,OS10 研磨技術,OS11 超精密加工,
OS12 ナノ加工と表面機能,OS13 環境適応型加工,OS14 先
端材料・難削材の加工
東日本大震災の影響が長引き,また超円高などによる経済
的低迷が依然続いている中の今回の開催であったが,セッ
ションオーガナイザーの努力のお陰で,従来並みの 149 件の
講演が行われた.また特別行事として以下の 3 件が行われた.
(1)見学会
粉末成形用・プラスチック成形用金型や成形プレス機の開
発・製造に取り組んでいる小林工業株式会社と創業 1902 年
という老舗の酒蔵で全国新酒鑑評会での平成に入ってからの
金賞受賞回数が秋田県第 1 位の実績を誇る株式会社齋彌酒造
店で見学会が行われた.参加者は 11 名であった.
(2)特別講演
特別講演では,「 グローバル化と人材養成 −国際教養大学
の挑戦− 」,および 「 東北地区の航空宇宙産業の現状と将来
−広域連携による産業育成の挑戦− 」 と題して,それぞれ国
際教養大学長の中嶋嶺雄氏(図 1),および東北航空宇宙産業
研究会長の中西大和氏(図 2)よりご講演いただいた.それ
ぞれ大変興味ある話題で,多数の聴講者の出席をいただいた.
(3)企業フォーラムパネル展示会と我が社の技術発表会
部門講演会の新たな企画として企業フォーラムパネル展示
会と我が社の技術発表会を開催し,東北企業を主とした 31
社のパネル・製品サンプル展示(図 3)が行われた.会場には,
非常に多くの方々にお集まりいただき,活発な意見交換や技
術交流が行われた.そして,出展していただいた企業の中か
ら「我が社の技術発表会」にも参加していただき,非常に大
勢の聴衆が集まる中で 7 社より我が社の技術を PR していた
だいた(図 4).
図 1 特別講演:中嶋嶺雄氏
図 3 企業フォーラムパネル展示会
図 2 特別講演:中西大和氏
図 4 我が社の技術発表会
─7─
部門講習会報告
ものづくり最前線
大阪府立大学工業高等専門学校
田代 徹也
11 月 10 日(土)に大学,高専で主に機械工学を学ぶ学生
向けに「ものづくり最前線」と題した講演会を行った.各分
野の日本を代表する企業の中で「ものづくり」の最前線で活
躍されている先輩たちに,その仕事振りを熱く語っていただ
き,製品の裏に隠れた先輩たちの苦労やそれを成し遂げたと
きの喜び,仕事に対する誇りを知ることにより,学生が将来
を身近に感じられるようにし,学習や研究を行う上での動機
付けを得るため,また,進路選択にも役立てることを趣旨と
している. 講演会への参加は無料であり,毎年多数の学生
が聴講している.
今回も,様々な分野の企業からお話していただいた.産業
界において注目されている技術的な内容も含みながら今後の
技術の進む方向もお話しいただくなど,非常に興味深い内容
の講演であった.
近隣の大学生や高専生が参加し,参加者数は 21 名であっ
た.各講演後は活発な質疑応答もあり,講師の方からは丁寧
にお答えいただくなど,アットホームな雰囲気であった.講
演会に対する学生からの反応も良く,非常に充実した講演会
となった.
以下に講演者および講演内容の概要を紹介する.
(1)環境にやさしい材料加工:
(株)森精機製作所 電装・制御本部 藤嶋 誠
森精機製作所は工作機械メーカーで,NC 旋盤やマシニン
グセンタ等様々な種類の NC 工作機化を開発・製造している.
環境に優しい加工をテーマに,環境に配慮すべき事項や,そ
の解決策,技術的工夫等について解説する.
(2)電気自動車,ハイブリッド自動車用リチウムイオン電
池の開発 :
(株)GS ユアサ 研究開発センター 奥山 良一
地球温暖化,オイルピーク問題を背景として,電気自動車,
ハイブリッド自動車を始めとした自動車の電動化が加速して
いる.この電動化のキーデバイスとなるのがリチウムイオン
電池であり,ここ数年で大きく進化しつつある.本講演では,
リチウムイオン電池の原理・材料・構造・製造方法といった
基本技術から,リチウムイオン電池の現状性能とその課題,
さらには次世代リチウムイオン電池開発に関する方向性に関
して総括的に解説する.
(3)超高層建築用鋼材の製造技術:
新日鐵住金(株)建材事業部 堺製鐵所 松田 勝也
超高層建築に使用される代表的な鋼材の一つに H 形鋼があ
る.H 形鋼は主に柱と梁に使用されるが,柱には主に垂直荷
重がかかるため,座屈強度の高い極厚断面が求められる.ま
た,梁には曲げ荷重がかかるため,断面効率の高い形状が求
められる.さらに,デザイン面で豊富なサイズバリエー
ションも必要である.このような要求性能を満たし,かつ
高効率に製造するための世界に類を見ない当社の独自技術を
紹介する.
(4)クリーンディーゼル開発最前線:
マツダ(株)パワートレイン開発本部 神埼 淳
世界的規模での環境問題への関心の高まりから,CO2 排
出量の少ないディーゼルエンジンが注目されているが,厳し
い排出ガス規制強化に伴う後処理装置のコストアップや,燃
費悪化が課題である.これに対し,マツダは CX-5 で高価な
排ガス後処理なしで規制をクリアし,従来よりも20%の燃
費改善と,圧倒的な加速性能の両立を実現した.これらを可
能とした,独自の低圧縮比技術を中心に,SKYACTIV-D の
ディーゼルエンジン技術について紹介する.
(5)非球面モールドレンズとその加工技術:
パナソニック㈱AVCネットワークス社 生産技術
センター 山田 晃久
パナソニックは民生の家電メーカーとして,家電を作り販
売しているが,「特徴ある商品を作る為に特徴ある部品から
作る」という考えから,その商品に使われる部品の多くを自
社で生産し,その部品や生産設備などを社外へも販売してい
ることは意外と知られていない.今回はその中で非常に精密
な加工が要求される非球面レンズのモノづくりを,精密機械
加工や精密成形といった生産技術を中心に紹介し,最後にグ
ローバルなモノづくりの中で日本メーカーの現状を述べる .
最後に:
会場には遠方からでもアクセスの良い大阪大学中之島セン
ターを利用した.同センターは「平成の適塾・懐徳堂」とし
て誰でも自由に参加できる新しい豊かな知的・人的交流の場
として 2004 年に設立された.今回の講演会では,企業の技
術者と学生との知的・人的交流ができ,まさにふさわしい会
場であった.
ご多忙な中ご講演いただきました講師の方々には改めて御
礼申し上げます.
─8─
会場の大阪大学中之島センター
No.43 February 2013
部門講習会報告
「International Monozukuri (Manufacturing) Education Seminar
between Switzerland and Japan」報告
京都大学工学研究科
松原 厚
本セミナーは,スイスの大学生(テクニカルカレッジを含
む)
,エンジニア,日本の大学生,高専学生,エンジニアが
交流する場を設けるという趣旨で 2012 年 11 月6日,京都大
学工学部吉田キャンパスにて開催された.スイスからの参
加 者 は,Swissmem(The Swiss Mechanical and Electrical
Engineering Industries)が企画した JIMTOF(日本工作機
械見本市)と工場見学を含む若手育成プログラムで来日し,
この間の交流活動の一つとして機械学会・生産加工工作機械
部門ならびに関西支部・設計製図教育研究懇話会のサポート
のもと実施した.スイスからの参加:Swissmem 関係者 4 名,
大学生 14 名,企業7名,日本からの参加:大学教員8名,
大学院生 12 名,大学生5名,高専学生4名,企業その他4
名でドイツからの参加(企業1名)もあった.
開催の趣旨説明後,Swissmem の Beat F. Brunner 氏より,
スイスの教育プログラムについて説明があった.スイスでは,
働きながらカレッジに通い技術体系を学ぶという dual シス
テムが採用されており,大きな教育成果をあげている.次に,
大阪府立大学工業専門学校の田代徹也教授より,スイスから
の参加者に対して,日本の高専システムについて説明と研究
室の紹介があった.スイスと日本のものづくり教育システム
には大きな違いがあり,お互いから活発な質問があった.京
都大学の機械系研究室と次世代のナノテクノロジー研究拠点
を見学後,スイスと日本学生で構成チームをつくり,「スイ
ス - 日本の交流プログラムアイデアを考える」という課題を
検討した.このミニプロジェクトでは,活発な議論があり,
「ロ
ボットを開発する」「音楽を演奏する」「インターネット上で
プロジェクトを行う」等,若者らしい柔軟なアイデアが多かっ
た.数時間であったが交流の密度は濃く,修了後も学生間で
お互いの情報を交換しあっている風景が多くみられた.
企画側としては,学生の交流意欲,コミュニケーション能力
が高いことに驚き,
交流とは何かを交換すること(exchange)
であることが理解できたように思う.来年ヨーロッパでの
EMO ショーへ日本の学生を参加させ,同時にスイス企業や
大学を訪問するという案を日本工作機械工業会が検討してお
り,この趣旨のセミナーが継続的に開催できればと考えてい
る.
セミナーの様子
プロジェクトの様子
部門からのお知らせ
No.13-203
The 7th International Conference on Leading Edge Manufacturing in 21st Century (LEM21)
第 7 回 JSME 先端生産加工に関する国際会議
開催日 2013 年 11 月 7 日(木)∼ 8 日(金)
会 場 ホテル松島大観荘
(宮城県宮城郡松島町松島字犬田 10-76)
目 的 東日本大震災を契機として新たなエネルギー問題を
再考する動きが活性化しております.今後は今まで以上に太
陽光や太陽熱,水力,風力,地熱など再生可能エネルギーの
利用技術や,そのエネルギーを蓄える技術への関心が高まる
と考えられます.このようなエネルギー問題を解決するため
の「ものづくり」技術は何なのかを検討することが急務となっ
ております.また現在,日本では少子化超高齢化が加速して
おり,大量生産・大量消費対応型の「ものづくり」から様々
な価値観に対応する分散型の「ものづくり」への転換が求め
られています.
このような社会背景の下,この国際会議でものづくりに関
わる多分野の技術者,経営者,研究者が知恵を出し合って次
世代のものづくりが進むべき未来を議論することは重要であ
─9─
ると考えられます.
また,東日本大震災被災地である仙台地域で開催することに
より,復興状況をアピールしたいと考えておりますので,多
くの方々のご参加をお待ちしております.
トピックス
会議には,以下の先端的な技術分野が含まれます.
・切削加工,研削加工,研磨技術(工具・ツーリング,先
端材料・難削材の加工,高速加工など)
・物理・化学的加工(レーザ応用加工,EDM, 電子 / イ
オンビーム加工など)
・超精密加工・計測評価
・ナノ・マイクロ加工・計測評価
・環境適応型加工
・ラピッドプロトタイピング
・金型製造技術
・最新工作機械(複合加工,多軸加工),機械要素,加工
状態モニタリング
・超精密位置決め,制御技術
・マイクロマシン(MEMS)
・生産システム技術(CAD・CAM,デジタルエンジニア
リングなど)
・次世代生産システム(スケジューリング,CAPP, ライフ
サイクルエンジニアリングなど)
・その他,生産加工に関連する技術
公用語 英語
発表申込 下記アドレスからお申込みください.
http://www.scoop-japan.com/kaigi/lem21/
締切日
講演概要締切:2013 年 3 月 31 日
仮採択通知(概要 ):2013 年 4 月 30 日
原稿締切(Camera-ready)
:2013 年 5 月 31 日
採択通知(Camera-ready)
:2013 年 6 月 30 日
校了原稿締切:2013 年 7 月 31 日
参加登録・登録料
2013 年 7 月 31 日まで 50,000 円 / 人(正員)
,
55,000 円 / 人(会
員外)
2013 年 8 月 1 日以降 60,000 円 / 人
(正員)
,
65,000 円 / 人(会
員外)
この中には,プロシーディング代とバンケット費が含まれま
す.
また,2 件以上発表される場合には,2 件目以降,別途各
10,000 円が必要となります.
学生の場合,20 000 円 / 人(学生員)
,35,000 円 / 人(一般
学生)でプロシーディング代は含まれません.
なお追加のプロシーディング代は 10,000 円です.
問合せ
詳細は下記へお問い合わせください.
実行委員長
厨川常元
E-mail: [email protected]
東北大学大学院工学研究科機械システムデザイン工学専攻
(〒 980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-01)
幹事
吉原信人
E-mail: [email protected]
岩手大学工学部機械システム工学科
(〒 020-8551 岩手県盛岡市上田 4-3-5)
ホームページ
本 会 議 に 関 す る 情 報 は ホ ー ム ペ ー ジ(http://www.scoopjapan.com/kaigi/lem21/)をご覧ください.
編 集 後 記
生産加工・工作機械部門ニュースレター No.43 をお届け致します.今回の,技術レポートでは日本精工株式会社の水口様,三鷹光器の
三浦様より興味深い記事を頂きました.また,部門講演会・講習会の各種ご報告に加え,11 月開催の LEM21 のご案内なども頂いており
ますので,ぜひご一読下さい.
部門功績賞を受賞された白井様も書かれているように,製造分野において新興国の台頭とともに,日本は厳しい状況をむかえつつあり
ます.そのような中で本部門の果たす役割はますます重要であり,本ニュースレターも質の高い記事・情報をご提供することで少しでも
貢献できればと存じます.
委員長:國枝正典(東京大学),幹事:古本達明(金沢大学),委員 : 白石治幸(
(株)牧野フライス製作所),田中智久(東京工業大学)
Manufacturing&Machine Tool
No.43 春季号 2013 年 2 月 20 日発行
編 集 生産加工・工作機械部門・広報委員会
発 行 者 一般社団法人 日本機械学会 生産加工・工作機械部門
印刷製本 (株)春恒社
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